「終わらせますよ。貴女は長く生きすぎた」
周囲に撒き散らした粒子状のマグマを取り込みながら、春雨も今の黒幕に合わせた接近戦のスタイルに切り替える。
怒りが溢れたことにより手に入れた鉤爪を光らせ、犬耳電探と尻尾の基部も展開。怒りに燃える真紅の狂犬は、導く者となったことにより、全てを終わらせる純白の猛犬と化した。
「行くよ、海風。大丈夫だよね」
「勿論です。お任せください」
「うん、頼んだよ。それに、みんなもいるから!」
自棄になった黒幕の暴走は止まらない。近接攻撃に打って出たことにより、大鳳と古鷹が傷を負ったが、それでも心は折れていない。
しかし、大鳳は胴を袈裟斬りにされていたものの、致命傷は回避している。しかし、決して浅くない傷を受けており、このまま戦闘を続けるのは難しい。古鷹は右腕を包み込む艤装が完全に破壊されてしまったものの、尻尾の艤装は健在であるため、大鳳の側へと駆け寄り、すぐに守るための戦いに入る。
満身創痍とまでは行かないが、現状で戦闘に参加しづらいのは大鳳と江風。江風も黒幕を穴の底に突き落とす際に砲撃を受けてしまっているため、四肢に傷を負ってしまっていた。
だが、そんなことお構いなしに立ち上がり、手に持つ主砲を反転させ、逆手に持ちながら黒幕に突撃する。
「せっかくの格闘戦なンだからよぉ、江風にもやらせてくれよ!」
猪突猛進。それを体現するかのように飛び出した江風は、黒幕が主砲を向けた瞬間に逆手持ちの主砲を砲撃。勿論空気弾だが、その砲撃の勢いをそのまま自分に乗せて加速した。
そして、黒幕の砲撃と同時に、その拳を打ち込む。砲撃を自身の主砲でまともに受けることになるが、その分拳は振り抜けて、黒幕の顔面に叩き込まれた。血塗れの拳であっても、砲撃の衝撃も乗っている分、頭を爆散させるくらいの威力を誇っていた。
しかし、黒幕は泥人形。頭が失われても即座に再生される。核さえ無事ならば、その形状は自由自在。とはいえこれで、黒幕の核が頭に無いことはわかった。
「ンなろぉ、でもまだだぜ……っ」
江風が突撃したことには意味がある。自棄になっているということは、近くの者から攻撃するに決まっている。もう周囲もまともに見えていない。だからこそ、自分を囮にして仲間の攻撃へと繋ぐ。
顔面の修復と同時に、黒幕はもう片方の手に握る刀を江風に向けて振り上げた。今最も近い場所にいるため、そのまま斬られれば真っ二つになってしまう。
江風が自分の命を蔑ろにするわけが無かった。そこにはもう、春雨が来ていたのだから。
「江風、無茶しすぎ。でもありがとう。次に繋がる」
その振り上げた刀は、鉤爪でしっかりと受け止める。相当な強度と斬れ味を持つであろうそれですら、春雨の鉤爪を傷付けることは出来ない。泥とマグマは相反するモノ。マグマは泥を否定する。故に、ぶつかり合っても斬ることはおろか、ダメージにすらならない。
「悪ぃ、でもこれが江風に見えた光の道の終着点だ。春雨の姉貴、頼んだぜ」
「任せて。でもその前に!」
「離れろい!」
春雨と江風が同時に黒幕を蹴り飛ばす。それは黒幕の胸に直撃し、距離を取ることに成功。ただし、返しに砲撃を放たれており、春雨の蹴り出した脚が破壊されかける。
だがそこは義脚。破壊されかけてもすぐさま再展開して新品同様へと早変わり。この程度では消耗にもならない。
「あらあら大変、こっちに飛んできちゃった。だったら、ちゃあんと迎撃しなくちゃ、ね!」
続いて荒潮。蹴り飛ばされてきた黒幕に対して繰り出したのは、魚雷の投擲。勿論荒潮もこれをマスターしており、的確に黒幕の胴──核があるであろう場所を狙う。
これだけならば砲撃で撃ち落としてくるだろう。もしくは刀で斬り飛ばすかもしれない。だが荒潮はそれも許さない。
「ダメよ〜、それを壊すのは貴女じゃなく、わ・た・し」
魚雷を先制して自らの手で破壊することで、黒幕の測ったタイミングをズラす。そうすることで、再びターンが回ってくる。今度は海風が行動を起こしていた。
爆炎が目潰しとなったことで、黒幕は大きく刀を振り回してそれを振り払ったが、その時には黒幕の脚に海風の鎖が巻き付いていた。
「戻ってきなさい。貴女の相手はこちらにいます」
それを思い切り引っ張ることで、黒幕の勢いを逆に向ける。しかし、黒幕は何を思ったか海風の鎖が絡まる脚を
「荒潮さん!」
「大丈夫よ〜。予想、してたもの」
既に荒潮は跳んでいた。自ら起こした魚雷の爆発に自ら飛び込むように。
「こういう乱暴なことってよくないと思うのよね〜。でも、相手次第よね」
そして、武蔵直伝の強烈な蹴りが放たれた。江風の主砲を使った拳に勝るとも劣らない一撃は、再び黒幕の首を捥ぎ取る。
しかしそれは通用しないということは誰もがわかっていた。どうせまた先程と同じように再生する。核を破壊しない限り、あらゆる四肢が、頭さえも再生してしまうのが厄介極まりない。
ここでもお返しと言わんばかりに砲撃を放ってくるが、かなり強引に身体を捻ることでそれは回避。しかし、背中に負う基部には直撃してしまい、荒潮は機能不全に陥ってしまう。さらにはその破損によって背中に傷を負ってしまい、小さく顔を顰めた。
荒潮もこれによって戦列からは退場。その一撃は首を飛ばすもののただ再生を許すのみとなる。
見る者が見れば無駄と思える行為。しかし、荒潮に見えていた光の道はコレである。
「まだまだ! 春雨、あたしはここみたいだ」
「はい、お願いします白露姉さん!」
「荒潮から離れろ!」
このままだと荒潮が追撃されるだろうが、それは白露が許さない。海風よりも手慣れており、精度が高い鎖の一撃、捕縛を繰り出す。意識を荒潮に向けた瞬間には、白露の鎖が黒幕の胴に巻き付いていた。攻撃に意識を向けているせいで、防御すら疎かになっている。
脚のように胴を千切るわけにはいかないようで、その鎖を断ち切ろうと刀を振るう。しかし、その前に白露が一本釣りした。鎖が斬られたとしても、勢いだけはついているため、荒潮への追撃は無効にされて、白露の方へと引っ張られる。
それならばと白露に狙いを定めるが、白露は既に艤装を時雨の艤装に切り替えており、背部の大口径主砲を両手で構えていた。
「核があるの、胴体なんだよね。だったらコイツでぶち抜いてやる」
砲撃の威力は似たようなもの。黒幕の主砲がインチキみたいなものなのだが、白露もなかなかにインチキである。深海棲艦化によって火力が上がっている上に、大口径であるためにさらに火力が上がっている。もう戦艦と同じくらいだ。
「これで、終わり……っ」
それが2門あれば、黒幕の砲撃に対して、拮抗どころか上回ることが出来るだろう。
事実、黒幕の砲撃を呑み込むように白露の砲撃が放たれ、そのまま黒幕に襲い掛かる。
しかし、黒幕は何処までも往生際が悪かった。
攻撃こそが最大の防御。盾を形成してガードするのではなく、攻撃そのもので脅威を回避する。自らの勢いを止めずに白露へと接近。
「させませんよ」
だがそれに立ち塞がるのが春雨。鉤爪を光らせ、その斬撃を食い止める。むしろ、刀ごと持っていくつもりで振り払った。
その勢いを殺すことは出来なかったようだが、それを逆に利用して攻撃に転じてくる。身体を捻り、そのまま反動で刀を振るって春雨に襲いかかった。
「ヒトの妹に手ぇ出すんじゃないよ!」
当然、それを食い止めるのは最も春雨の近くにいた白露。刀を振るう腕に強引に掴みかかってその攻撃を止めた。また腕を千切られる可能性があったものの、破壊するのではなくただ止めるだけならば、余計なことをされずに止めることが出来る。
膂力は黒幕の方が上だが、白露が止めたことで進むのは止まらないのだが、最初の勢いが失われたことで、春雨は余裕を持って回避に成功。
しかし、黒幕に密着しているということは、その分危険になるということ。艤装を展開するように掴まれている腕から刃を展開したことで、白露の腹に深々と刺さってしまった。
「っぎ……っ!? んなことされても、あたしゃ放さないぞ……。アンタのおかげで、再生能力だけはピカイチなんでねぇ!」
しかし、白露は放さない。痛みを堪えながらも、黒幕を逃がさないと拘束を続ける。手には主砲を展開し、核を狙った。
案の定、白露はどうにもならないと考えたか、自ら拘束されている腕を斬り、同時に白露にも大きなダメージを与えた。両断されることはないものの、胴をバッサリ斬られてしまった。
だが、致命傷でなければ少し時間を使えば治る。だからこそ、白露は自分の身を削る。他の者ならかなり厳しい傷であっても、白露にとっては心が折れなければ擦り傷みたいなもの。
「次は、私ですね。次こそ春雨姉さんに繋ぎます」
腕を再構築している黒幕に対し、次は海風が突撃。海風にやれることは勿論、右腕を変形させての攻撃。そして、ここでやらねばならないことは、
砲撃を潜り抜け、滑り込むようにその脚を切断する。体勢を崩そうと繰り出したそれだが、崩れる前に脚が再生して踏み留まった。
「私も、ね」
そして春雨も海風と並び、逆側の脚も切り裂く。それすらも即座に再生し、2人に対して同時に反撃を繰り出したが、それはもう当たりもしない。
腕も脚も、もう再生している。ヒトのカタチはまた取り戻している。
しかし、明らかに違うところがあった。
「もう、終わりなんですよ。ここまで、何回再生した」
頭や腕、脚を千切り千切られ、その都度再生を繰り返して、ヒトのカタチを維持し続けてきた黒幕。そうしなければ戦えないからそうしていたのだろうが、春雨の、春雨達の狙いは再生の回数を稼ぐこと。
もう今の状態、命を削って戦っている黒幕は、泥の再生がほとんど間に合っていない。それなのに再生を繰り返した場合どうなるか。
「もう、泥は足りない。足りるはずがない。それだけ消耗したんだ。貴女にはもう、何もない」
核が見えるほどに、黒幕は
全員の力を合わせた攻撃が、黒幕を削り、削り、削り続けたことで、確実な終わりへと近づけた。
だから、これで終わり。
「本当に、本当に苦労させられましたよ」
ダンと聞こえるほどの踏み込みと同時に、春雨の鉤爪が黒幕の腕を斬り飛ばしていた。
もう追いつけない。消耗が激しすぎて、速さも出ない。
だが、反撃するだけの力は残っている。すぐさま腕を再生し、砲撃も斬撃も繰り出して、春雨を迎撃する。もう守りすら捨てて、春雨を殺すことに全ての力を使おうとする。
その腕ももうほとんど透けている状態。泥を何とか振り絞ってヒトのカタチをとっているだけ。主砲と刀に泥を注ぎ込み、出来る限りの最大の力で春雨を始末しようと動く。
その動きは、足りないながらも今までで一番の速さと力だった。
「姉さんに届かせるわけがないでしょう!」
海風の盾がそれを食い止める。しかし、黒幕が命を賭した最大級の火力は、海風の盾をも破壊してしまった。斬撃は届かなかったが、砲撃の衝撃はまともに喰らってしまい、海風に気を失いかけるほどのダメージを与える。
だが、これが海風に見えていた道。春雨を身を挺して守ることで、最後の一手が開かれる。
「姉さん……お願いします!」
「ありがとう、海風。
再生はもう、追いつかない。自身の砲撃のせいで片腕が失われ、斬撃のせいで片腕が逆に曲がる。もう耐えられない。構築する泥が、もう無い。
「みんなが、この時のために力を使ってくれた。だから、最後の一手を貰った。みんなのおかげ。本当にありがとう。これでおしまいにするから」
ここまで来たら、もう届いた。開かれた道を、ただ突き進むのみ。
「もう二度と、私達の前に現れないでください」
そして、春雨の鉤爪が、黒幕の核に深々と突き刺さった。