空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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新たな仲間

 真夜中に目を覚ましてしまった春雨だったが、仲間達の力でなんとか乗り切ることが出来た。ジェーナスの過去の話を聞きつつ、発作を我慢することなく起こしてしまってもいいと諭されたことで、随分と気が楽になった。

 そのおかげで、その後は朝までグッスリと眠ることが出来た。仲間達の温もりの中、悪夢も見ることなく、気持ちのいい朝を迎えることとなる。

 

「んん、おはよう、みんな」

 

 昨日の夜のことなど感じさせないくらいの、ゆるく朗らかな笑顔を見せる春雨。相変わらず薄雲とジェーナスに両サイドから抱きしめられた状態での目覚めであるため、身動きは取れないものの、とても幸せな朝になる。

 

「Good morning. あの後はグッスリだったみたいねハルサメ」

「うん、ジェーナスちゃんのおかげで心が楽になったんだ。だからか、本当に気持ちよく寝られたよ」

 

 モソモソと動き出して朝の準備に。まだ叢雲は寝惚け眼だったものの、春雨が元気そうにしているところを見て、少しは安心しているようだった。怒りは燻っていても、仲間思いは変わらない。

 

「今日はどうする?」

「まずはあの子がまだ居てくれてるか確認するわ。戦艦のヒトの見送りにも居てくれたんだから、きっと今でもあの場所にいるわよね!」

 

 ジェーナスが言っているのは勿論、昨日施設にやってきた駆逐イ級のことである。非常に人懐っこく、知性も高いあのイ級は、この施設にいることを選択したかどうかは、行ってみなくてはわからない。

 朝食までにはまだ時間があるため、今からまず施設の岸に行ってみることにした。ジェーナスがそうしたいと言うので、みんなが従うカタチ。叢雲は相変わらず小さく溜息を吐くものの、否定的な言葉を吐かない辺り、仲間に対しての信頼の気持ちはちゃんと持っている模様。

 

 

 

 

 岸に到着すると、昨日も見た黒い影がそこにあった。眠っているようにジッとしていたが、ジェーナスが近付いたことを察知したか、モゾモゾと動き出したかと思うと、来てくれたことを喜ぶように歯を鳴らす。

 

「わぁ、居てくれたわ! この子は施設の一員になってくれるのね!」

 

 大喜びのジェーナスは、その姿が目に入ったことで走り出し、その頭を撫で回す。イ級の方もジェーナスのそれに対して擦り寄るように頭を振る。

 まるで大型犬のような仕草なのだが、大きさが大きさだけに、これ以上乗り上げるとジェーナスが押し潰されてしまうだろう。それが考慮出来るところがさらに賢い。

 

「結局、その子はずっとここにいたみたいよ。ちゃんと眠っていたようだし」

 

 そう言いながらやってきたのは飛行場姫。朝イチの哨戒をしていたようだが、4人よりも先にイ級の姿を確認して、まだここにいるのかと少し驚いた後に哨戒をしていたようだ。

 そして今、しっかりと懐いている姿も確認出来たことで、このイ級はもう施設から離れる気が無いのだろうと理解する。ジェーナスに懐いているというより、()()()()()()()があって元いた場所には戻りたくないと考えているようなものなのかもしれない。

 こちらの言葉は通じても、あちらの言葉は無いため、その真意はどうしてもわからないのだが、ここにいたいと言うのなら置いてやるのがこの施設のやり方である。

 

「ねぇ、貴方はこの施設にいたい?」

 

 ジェーナスがイ級に聞く。言葉が通じるのだから、これに対しての回答を身体で表現してくれるはずと。

 すると、まるで頷くように身体を縦に振った。これはここにいる誰もが、イ級がジェーナスの質問に対して肯定したと言えるような仕草だった。

 

「いたいのね! 妹姫、もういいわよね、この子、ここに置いてあげても!」

「そうね、丸一日経ってもそこから動かなかったし、こちらの言葉を理解しているみたいだし」

 

 流石にここまでの駆逐イ級を見ることは初めてである飛行場姫は、このイ級ならもうふらりといなくなるようなことは無いだろうと思い、ジェーナスが望む施設の一員として迎え入れることを許可した。

 中間棲姫も同じことを言うだろう。ここまで長居しつつ、こちらの意思を汲み取ることが出来ているのなら、他の人型の者達と同じように扱っても問題ないと。

 

「でも、施設の中には入れられないわね。大きさとかでなく、自分で陸の上に上がってこれないでしょう」

 

 飛行場姫の言葉に、ほんの少し残念そうな雰囲気を出すイ級。出来ることなら施設の中でみんなと過ごしたいだろうが、イ級という特性上、こればっかりはどうにもならない。

 百歩譲って、施設の近場にイ級が入れるようなプールを作ってみるというのもあるのだが、そうしたら今度はここまで来ることが難しくなる。ならば、イ級にはこの施設の近海で伸び伸びと暮らしてもらった方がいいだろう。

 いわば、放牧のようなもの。時間がある時に施設の者達が岸に来ては世話をする。世話といっても、定期的な餌やりくらいで、基本は一緒に海の上を駆け回る程度なのだが。

 

「私達が毎日見に来るわ。それで、一緒に海を駆けましょ!」

 

 ジェーナスの言葉に、喜ぶように身体を振るわせる。何処か目元も微笑んでいるように見えた。

 

「あとは、やっぱり目印と名前よね。他のイ級と一緒にいることは無いと思うけど、何かないと間違えちゃいそうだもの。動きが違うから滅多なことでは間違えないけれど、念のため必要よね」

 

 もう完全にペットを飼う子供のような反応を見せている。イ級側もそうされることを望むように、ジェーナスをジッと見つめている。

 

「名前はさておき、目印はいるわね……鎮守府側には伝えてあるけど、そういうのはあるに越したことは無いわ」

「じゃあ、この子は鎮守府公認なのね! 間違って攻撃を受けるようなことはないわ!」

 

 ツルンとした額に頬擦りするジェーナスに、イ級も大喜びするように身体を揺する。

 

 身体全体を使った感情表現で、ジェーナスのみならず春雨達もイ級の考えていることが思った以上に理解出来た。それは深海棲艦となっているからとかではなく、イ級の表現力が妙に高いからである。

 それだけ賢いということに他ならないため、飛行場姫もこのイ級が何者かというのは興味が出ていた。今までにないタイプというのは間違いなく、特殊な生まれであることも間違いないだろう。

 

 それが施設に幸福を呼ぶか不幸を招くかは、今の段階ではまだわからない。しかし、知っておく必要はある。

 引き離すより、近くに置いておく方が、早い段階での判断が出来る。飛行場姫としては、そちらの方が優先度が高いと感じていた。

 

「ジェーナス、目印はなるべく白いモノにしてあげなさい。アタシ達も、あちらには白旗を振るところから始めてるから。わかってもらいやすいでしょう? それに、全身が黒いから、白の方が目立つわ」

「そうね、白がいいわね。でも……うーん、余ってるSheetsでも被らせようかしら。でも上手く縛れるかな」

 

 新しい仲間を迎え入れるにあたって、ジェーナスを筆頭に楽しそうに計画を立てている。イ級を着飾らせて施設オリジナルの別個体として認識出来るようにすることに躍起だ。

 

 その中でただ1人、叢雲だけは少し離れたところから客観的に物事を見ていた。子供の内の1人ではあるものの、怒りが燻っていることもあるので、心の底からイ級を信用することはしていない。どちらかといえば、飛行場姫と同じ視点に立っている。

 あのイ級には何かあるのは確かだ。普通に生まれたのなら、いくらこちらにいるのが姫級ばかりでも、あそこまで感情を露わにして懐くことはない。

 

「……妹姫、本当に信用していいわけ? 賢いし人懐っこいかもしれないけど、あれは獣よ。こっ酷く裏切られる可能性があるんじゃないの?」

 

 思っていたことが簡単に口に出来るのも、叢雲の特性かもしれない。素直に負の感情──今回は疑問を即座に表に出せるのは、燻っている怒りのおかげか。

 

「アンタの気持ちはわかるわ。アタシもまだ半信半疑だもの。でも、あそこまでのモノなんて見たことないでしょ。アレ、()()()()()()()()()みたいに見えない?」

 

 飛行場姫の突飛な発言に、叢雲は言葉を無くす。

 

 あのイ級の感情表現や懐き方は、中身が艦娘であると言われても、そうかもしれないと思えるくらいのモノである。それこそ、ここにいる元艦娘達と同じように、艦娘の思考能力を持ったままであの姿になっているのかもしれないと。

 

 叢雲もそうだし、春雨達もそうなのだが、感情が溢れ出して黒い繭となり、そこから孵ったことで深海棲艦化したモノ達は、その姿を艦娘の時と同様にしている。色合いやら艤装やらは艦娘の時から一転しているが、知っている者が見ればそれが元々どの艦娘だったかはすぐにわかるレベルに。

 しかし、()()()姿()()()()()()()()()()()()()というのなら、話は変わる。黒い繭を使っての変化かどうかはさておき、何かしらの作用で艦娘が()()()()()になったとしたら、賢く人懐っこいイ級というのが生まれてもギリギリ納得が行く。

 

「何よそれ。じゃあ、アレも私達と同じだっていうの?」

「可能性が無いとは言えないでしょ。勿論、今アタシが思いついたコレが絶対に正しいとは言わないわよ。普通の同胞(はらから)と同じように、自然発生したときに何かが入り込んだって可能性もあるわ。それに、突然変異の可能性だってある。何とでも言えるのよ。わからないんだから」

 

 考えられる可能性はいくらでも出てくるだろう。

 いい方向ならば、最後に言った突然変異。()()()()()()()とでも言える。もう少し頑張れば、ここの姉妹姫や先日旅に出た戦艦棲姫のように、穏健派の姫級になれたかもしれないが、そこまでギリギリ届かなかったせいで、思考は姫でも身体が獣という存在になってしまった。

 悪い方向ならいくらでも出てくる。最悪なのは、イ級が艦娘を()()()か何かをしたことで思考能力を取り込んだとかまであるのだ。流石にこれは飛行場姫も口には出さなかったが、わからないのだから仮説は好きなだけ立てられるということに他ならない。

 

「とにかく、あれだけ賢いのなら、施設で匿ってあげてもいいと、アタシは判断したってわけ。姿形は違っても、アレはアンタ達に近いくらいの思考能力を持っているように見えるわ。そりゃあ、ヒトほどの高度な計算能力とかは無いかもしれないけれど、単に獣と言ってのけるには無理があるでしょ」

「そうかもしれないけど……まぁ、私もこの施設の一員になったんだから、アンタや姉姫の指示に従うわ。でも、気に入らないことはバンバン言ってもいいのよね?」

「ええ。それがアンタの性質であることは理解してる。我慢せずに言えばいいわ。でも、それが罷り通るかどうかは保証しないけど」

 

 わかってる、と叢雲も鼻で笑い、盛り上がるジェーナス達の方に加わる。

 

「……でも、アレは本当に何者なのかしらね」

 

 飛行場姫もイ級の存在には強い疑問が出てきていた。だからといって、解剖して調べるとかなんて出来やしないし、そもそもそんなことは考えも及ばない。

 近くで見ていることが一番の調査になるだろう。生まれたであろう現場は戦艦棲姫や鎮守府が調べてくれるのだから、飛行場姫はイ級について調べてみることにした。

 

 

 

 

 名前はまだ決まっていないものの、イ級は正式に施設の一員となった。

 ジェーナスは友人としての付き合い方で。飛行場姫はその生まれの調査のため。いくつもの考えが入り交じっているものの、仲間としての認識は変わらない。

 




施設はイ級の正体調査に。でもそんなこと考えてるのは大人組だけですね。春雨達子供組は、単純に仲間が増えたことを喜ぶことに。
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