空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

74 / 506
心通わせる仲間

 ジェーナスによりミシェルと名付けられた駆逐イ級は、その存在にはまだ謎がありすぎるのだが、人懐っこさが普通ではないことが全員の目で確認されているため、このまま施設の一員として迎えられることとなった。

 主である中間棲姫と飛行場姫がそれを許したし、誰もそれを否定していないので満場一致の意思とも言える。叢雲も疑問は持っているものの、施設の主がそうすると決めたのだから、そうすればいいと容認。

 

「よーし、じゃあミシェルと一緒に漁をするわよ!」

 

 今日の作業は、春雨とジェーナスが飛行場姫と漁。薄雲は叢雲と農作業となっている。

 

 まずジェーナスがミシェルのご飯は自分で獲るのだと意気込んでいたため、漁のメンバーとして選出。その後は叢雲が漁より農作業の方が出来ることがわかっているため、中間棲姫からご指名。

 叢雲が不機嫌であることを察した薄雲も農作業に参加を表明。傍にいてあげることでケアをしようという考えのようだ。そして、春雨はそれならとジェーナスについていくことに。

 

「じゃあ、作業の前に。ヨナちゃん、お願いしていいかな」

「うん」

 

 ミシェルも漁に参加するのだが、その前に目印をつけることに。春雨が伊47に使い古しのシーツを渡すと、それを器用に腹回りに巻いてやった。

 伊47がそれなりに器用だったこともあって、腰に大きなリボンを巻いているようになったことで、普通の駆逐イ級とは違うことがより強調される。海中に入るとリボンは濡れてしまうものの、無いよりはマシだし、カタチが簡単には崩れないようにしている。

 

「似合ってるヨナ」

「だね。可愛くなったよ」

 

 ミシェルが嬉しそうに、だが何処か恥ずかしそうに身体を震わせる。ジェーナスも()()()()したミシェルを見て大喜びである。

 

「それじゃあ、ミシェルはヨナに教えてもらって、海の中での漁を覚えてちょうだい。私達は沖で釣るわよ」

「はーい、ミシェルとの共同作業ね!」

「いつも以上に釣れるように頑張ります」

 

 ミシェルも伊47と一緒に意気込んでいるような仕草をしながら海中に潜って行った。

 

「ヨナのことも少し心配だけれど、今はやってもらいましょ」

「心配……ですか?」

「あの子の()()()()()がミシェルとの作業することで発症しないかと思ってね」

 

 伊47の特性、幸せアレルギー。今までの漁では、仲間達と離れて単独で行動していたから耐えられていたが、今回からは海中でも仲間と共に作業をすることになる。それを幸せと感じた瞬間、伊47の体調は悪くなっていくだろう。

 相手がどんな姿形でも、ミシェルはもう施設の仲間だ。伊47も勿論そういう感情を持って接するつもりである。そうなると、近くなればなるほど酷い目に遭うことに他ならない。つまり、ミシェルがアレルギーのトリガーになってしまう可能性が充分あるということ。

 

「それだけMichelleのことを仲間と思ってくれているのは嬉しいけど、ヨナが苦しむのを見るのは辛いわね……複雑な気分」

「だね……。もし危ないと思ったら、すぐに助けてあげなくちゃ」

 

 実際は伊47も距離感をある程度考えて漁を進めている。自分の身体は自分が一番わかっているとはよく言ったもので、伊47は特にその辺りが敏感。危ないと思ったらすぐにその場を離れるようにしているのだから、自分に対しての危険察知能力は非常に高いと言える。

 姿が見えない上に海中ではすぐにどうにかすることは出来ないため、無理だけはしないでもらいたいと願いながら、沖の3人は釣りを続けた。

 

 幸いにも伊47が途中退場することはなく、体調を崩すということも無かったため、ミシェルとの漁はこれからも続けて行くことになる。

 そして釣果も絶好調。2人──1人と1体──の追い込み漁は、今まで以上の効率を叩き出し、倍とは言わないものの、普段よりも多く釣り上げることに成功したのだった。

 

 

 

 

 昼食を挟んで午後。いつもならフリーの時間だが、今回はまたジェーナスがミシェルのために動き出す。風呂とまではいかないが、身体を綺麗にするためにといろいろと準備していた。

 これにはいつもの4人組だけでなく、漁の時と同じく伊47や松竹姉妹も参加。ジェーナスだけでなく、子供組全員がミシェルとの付き合い方を知っておくいい機会である。

 

「大きめのタオルの他に、一応デッキブラシ用意したけど……大丈夫かな」

 

 道具を運んでいるものの、その道具が適切かがわからずに呟く春雨。ミシェルは装甲に包まれているような生命体であるわけで、その表面をどう綺麗にするかが迷いどころだった。

 単なる艤装なら、ここには無いが水圧洗浄機などを使ってそこそこ無理矢理に綺麗に仕立て上げていくのだが、ミシェルは生きているのだ。もしかしたら、デッキブラシで擦ったら痛みを感じるかもしれない。だからといってタオルだけだと完璧に綺麗になることはない。そもそも日がな一日海に浸かっているのだから、この洗浄だって気休めみたいなものだ。

 しかし、そこはやはりジェーナスが譲らなかった。いくら意味が無くても、やってやることに意味があると。今回は子供組全員が便乗してくれているからいいが、そうで無かったら1人ででも成し遂げていたらしい。

 

「Michelleに聞いてみましょ。どうしたら気持ちいいかとか」

 

 ゾロゾロと岸に向かうと、ミシェルが喜びを体現しながらお出迎え。今までは漁をしている沖とは逆方向の岸にいたのだが、今は漁をした方の岸。先程手伝ったことで、こちらに定住することにしたようである。

 本当ならもっと施設の近くにミシェルが泳げるくらいのスペースを作りたいところなのだが、それは島そのものの改造であるため、やるにしても時間がかかり、そもそもやることが難しい。

 

「海に洗剤垂れ流すわけにはいかねぇよな」

「そうね。だから真水を持ってきたわけだし」

 

 松竹姉妹は艤装まで展開して、大きな桶になみなみと注がれた真水を運んできている。洗浄なら洗剤まで使って汚れを落としてあげたいところだが、そんなことをしたら海が確実に汚れてしまうため、ミシェルには申し訳ないが『ただ拭くだけ』ということになった。落としづらい汚れがあるようなら、ちょっとだけ洗剤でゴシゴシ行くらしい。

 松と竹の艤装は、不思議なことに何故か()()()()()。そのおかげで重たい桶でも持ち上げられるし、真水も溢さずに運べている。艤装を使うのは適材適所と感じられる瞬間である。

 

「Hi, Michelle. 言ってた通り、身体を洗いに来たわ!」

 

 よろしくお願いしますとお辞儀するように身体を傾けた後、さぁどうぞと言わんばかりに身体をジェーナスに任せる。本当に感情表現豊かなイ級である。

 

「いろいろ持ってきたんだけど、何を使えばいい? タオルに、スポンジ、たわし、デッキブラシ、こんなところだけど」

 

 問い掛けると、ミシェルは少しだけ考えた後、デッキブラシとスポンジを指すように頭を向けた。

 装甲で包まれているところはデッキブラシでいいようだが、中には包まれていない柔らかい部分もあるため、そこはスポンジでお願いしたいということらしい。

 それなりに大きい駆逐イ級であるから、背中などを磨くとなると手が届かないこともあるだろう。その時は、身体を傾けたりやりやすい体勢をとってくれるようだ。

 

「Okay! それじゃあ、Michelleを洗っていくわ!」

 

 そのままだとやりにくいということで、わざわざ服を水着に替えて、ミシェルの洗浄を開始。ほとんど水遊びにも見えるが、むしろそれも目当てだったかのように、ジェーナスのみならず全員が水着に着替え、水で濡れることも気にせずに楽しみながらミシェルと交流していった。

 

「わ、思ったより汚れてる」

「これ、海に流れちゃってもいいのかな……」

「イ級の汚れは全部海由来なんだから、大丈夫よ!」

 

 デッキブラシでゴシゴシと磨くと、流していた真水もすぐさま黒ずんでいく。撫でている時はこんなに汚れていなかったのに、磨いてみるとここまでわかるとは思っていなかったようだ。あまり汚れていると、腰に巻き付けたシーツのリボンも汚れてしまうと、ジェーナスが力強く磨き上げていった。

 身体の表面にはどうしても海由来の汚れが付いてしまうようだ。それが油だったり人工的なものだったりしたら海に害があるかもしれないが、イ級の汚れは基本的には還元出来るもの。洗剤よりは安全であるため、そのまま流してしまうことに。実際、ミシェルの汚れが海に流れても、海が黒ずんでいくことは無かったため良しとした。

 

 磨かれているミシェルも、心地よさそうに身体を震わせる。装甲に感覚が通っているようには思えないのだが、それは気分的なものなのだろうか。清潔になっていくのは、例えイ級といえど気持ちの良いもののようである。

 

「……コイツの汚れ、あの()じゃないわよね」

 

 叢雲がボソリと呟く。黒い汚れと聞いて真っ先に思いついたのがそれだったようで、嫌な思い出が蘇ったようだった。

 ここにいる誰もが経験している、黒い泥。変化が終わってしまえば繭となり、処置をしたならばそれを全て取り込み直しているし、処置がされていないにしても全て海に溶け込んでいる。それが未だにこびりついていることなんてあるのだろうか。

 

「んー、多分違うと思うわ。あの泥ほど粘り気無いし、こんな簡単に落ちるものでも無いでしょ」

「まぁそうね。もがいてもへばりついてくるのがあの泥だものね。デッキブラシで引っ掻いたくらいで落ちてくれるなら、私達は今頃この姿になるまでもなく死んでるわ」

 

 とはいえ、ミシェルがあの泥によってこの姿になっている可能性が無いとは言えない。叢雲は飛行場姫から、あの中に艦娘が入っているかもしれないとも聞いているために、そういう疑問は拭えないでいる。

 実際、イ級という姿が()()()()()()()である可能性だって考えられるのだ。繭から孵化するのではなく、繭のまま深海棲艦として成立してしまっているという例外。むしろ、それが普通なのであって孵化すること自体が例外である可能性すら。

 考えれば考えるほどドツボにハマっていき、叢雲の場合は苛立ちが強くなってしまう。それは控えたいので、それ以上生態について考えるのをやめた。いくらここに薄雲がいるとしても、癇癪を起こすのはナンセンス。耐えられるうちは耐える。

 

「うんうん、磨けば磨くほど汚れが出てくるってわけじゃないわね!」

「真水も充分だったみたいだな。また汲んでくる必要があるんじゃねぇかってヒヤヒヤしてたぜ」

「いいじゃない。私達は自分の手で運んでくるわけじゃないんだから」

 

 水を流してもそれが黒ずまなくなったところで洗浄終了。意味がないかもしれないが、表面をタオルでサッと拭いてやったところ、ミシェルの身体の表面はキラキラと日の光を反射する程に綺麗になっていた。

 そこまで綺麗になれたことで、ミシェル自身も大喜びしているかのように全身を使ってそれを表現。最後はジェーナスに頬擦りする。

 

「あはは、Michelleも嬉しいみたいね! やってあげて正解だったわ!」

 

 そのあと、洗浄の邪魔になるために外されていたシーツのリボンを伊47が巻き直して、ミシェルの姿は洗浄前と同じになる。まだ巻いたばかりだったからか、シーツが汚れているようなこともなく、綺麗なまま。

 

「毎日じゃないけど、1日置きくらいでやってあげるわ。Michelle、それで良かったかしら」

 

 肯定するように身体を縦に振り、さらに身体を擦り付けた。ジェーナスには特に懐いているため、大型犬と戯れる子供のような光景に。

 

「漁のときもそうだったけど、ミシェルちゃん、この施設の一員としてはもう一人前だよ」

「そうなんだ。じゃあ、共存も出来るんだね」

 

 春雨と薄雲も、ジェーナスが楽しそうにしている姿を見てホッコリしていた。

 

 

 

 

 自己嫌悪の塊であるジェーナスの笑顔を引き出せるのは、心通わせる仲間の力のみ。ミシェルはそういう意味でも、ジェーナスからは切っても切れない存在になりつつある。

 




このメンバーの中で水着グラあるのって竹とヨナだけなんですよね。ヨナは潜水艦だから常時水着だけど、改でプライベート水着なんていうグラが増えてる。
春雨は多分姉達と同じの、白露型制服をモチーフにしたビキニスタイル。薄雲はなんだかんだでスク水。叢雲は競泳。ジェーナスはフリッフリ。松は竹とお揃いかなってイメージ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。