大怪我を負った戦艦棲姫が施設に運び込まれ、部屋に寝かされている間、それを運んできた艦娘達も現状どうするべきかを相談していた。
勿論だが、鎮守府とは通信出来るような状況ではあるため、待機している今のうちに提督に相談を始める。戦艦棲姫を運んでいる間にも既に一度連絡を入れているのだが、施設に到着したところで改めて。
『施設に運び込めたんだね。良かった』
「はい。今は中間棲姫に任せています。それを知る者に任せるのが一番だと思いますので」
説明をするのは調査隊隊長を任せられている海風。的確とは言えないかもしれないが、他の仲間達のサポートもあり、提督には施設の状況はちゃんと伝わっている様子。
そうしている内に、施設側からは松竹姉妹が艦娘側にやってきていた。戦艦棲姫に別状はなく、安静にしていれば深海棲艦特有の自己再生能力のおかげで回復は見込めていることを伝えると、通信先の提督も含めて心底ホッとした様子。
「アレだけの怪我が自己再生するとは、やっぱり深海棲艦は恐ろしいデース」
「いやぁ、今の俺らからしてみれば、高速修復材で無くなった腕とか脚が生えてくる方が恐ろしいぜ」
「ホントホント。昔は私達もそれを使ってたわけだけど、今考えるとね」
艦娘も深海棲艦も一長一短である。失ったモノが取り返せないのが深海棲艦だが、適切な処置が無ければ衰弱していくのが艦娘だ。どっちがいいとかは考えられない。
『松と竹だったかな。こちらから手伝えることはあるかい』
「うーん、今はちょっと無いですね。こちらで手を尽くせば、戦艦さんは大丈夫なので」
「話が聞けるのは目を覚ました後だから、今は撤収がいいんじゃねぇかな。まだ時間もあるしさ」
艦娘達には申し訳ないが、ここにいてもやることがない。一旦鎮守府に戻り、出直してもらった方が堅実である。
それに、施設は今から確実に忙しくなる。ここにいられても、追加で食事を作ってあげる余裕も無いし、やることがない状態で待機しているうちに鎮守府に帰ることが難しい時間帯になっても困る。
『そうだね。なら、調査隊は一度鎮守府に戻ってきてくれ。調査がまともに出来なかったとしても、戦艦棲姫を救えたのはいいことだ。施設も忙しいだろうし、その場を去ることも手伝いになるだろう』
「了解です。では、調査隊は一度帰投します」
踏み込みすぎるのもよろしくない。必要な時に手を貸し、不要な時には一歩引く。それが一番いい付き合い方だろう。
『松、竹、中間棲姫達によろしく伝えてくれるかい』
「はい、そう言っておきます。姉姫さんも喜んでくれると思いますよ」
「だな」
艦娘はこれで一旦施設を去る。施設が落ち着いたらまた通信で話を聞きつつ、次の調査隊派遣の話を進めていけばいい。
松竹姉妹が施設に戻り、艦娘達が撤収することを伝える頃には、戦艦棲姫への応急処置は完了。まずは安静にさせて、意識が戻ることを待つことに。今は面会謝絶という程ではないが、ゆっくり眠らせてあげるために部屋にはなるべく入らない方針となっていた。
そうするにあたって、戦艦棲姫の身体は綺麗にされており、必要最低限の清潔さを維持しているため、これ以上悪くなることはない。ここからは戦艦棲姫の回復力次第となる。
今は事が済んだので一旦ダイニングに集合。気分を落ち着けるためにお茶を飲みながら、今後のことについている者だけで相談する。
ここにいるのは駆逐艦6人全員と中間棲姫。大人組は軒並み欠席であり、伊47もミシェルと共に近海を見に行って戻ってきていない。
「夜中に起きてしまった時のことを考えたら、側で寝たりとかした方がいいでしょうか」
「うーん、そこまでする必要は無いと思うわぁ。戦艦ちゃんだって大人だものぉ」
戦艦棲姫の看病に張り切る春雨だったが、空回りしかけていたため、中間棲姫がやんわりと止めた。それで春雨が無理をしてしまっては意味がない。
艦娘の調査隊が撤収するというのを聞いて、今回は崩れることは無かった。一度経験している寂しさであるため多少は耐性が出来たか、今は戦艦棲姫のことで手一杯で寂しさを感じている余裕がないか。
「でも、置いておける夜食くらいは作っておいてあげた方がいいかもしれないわねぇ。春雨ちゃん、またおにぎりくらい作っておいてあげるのはどうかしらぁ」
「そう、ですね。そうします。旅に出る時に作ってあげたおにぎり、また作って置いておきます。きっと食べてくれますし」
空回りしそうな春雨を的確な指示で留めさせた中間棲姫だったが、今はそちらよりも心配していることがあった。現在、飛行場姫とリシュリューがついているコマンダン・テストである。
状況として死の可能性が遠のいたことを伝えてもらっているはずだが、それで止まってくれるかはその時次第。今のところ騒音らしきものが聞こえないし、施設の中の様子を把握出来るのだから酷いことになっていないことはわかる。
しかし、静かにしているだけで精神的にガタガタである可能性だってあるのだから、落ち着いてくれているかはどうしても気になる。
「ふぅ……なんとかなったわ」
などと考えているうちに、飛行場姫がコマンダン・テストの部屋からダイニングにやってくる。リシュリューはまだ部屋にいるとのこと。
「やっぱり危なかったわ。戦艦が
「そうよねぇ……でも、今は大丈夫なのよねぇ?」
「ええ、落ち着いてくれたわ。部屋は散らかっちゃってたけど、それは後から片付ければいいもの」
やはり、戦艦棲姫の命の危機に過剰反応を起こして、部屋の中で暴れたらしい。最初はリシュリューだけで止めようとしたものの、艤装まで出されかけたため、そこからは飛行場姫が力尽くで押さえ付け、何とか落ち着かせることに成功したとのこと。
リシュリューの艤装は室内では展開するには難がある。戦艦棲姫を運ぶのも入り口までで、そこからは中間棲姫や飛行場姫に任せなくてはいけないくらいに大きい。それ故に、室内で暴れられると自分の膂力しか使えなくなってしまう。
対するコマンダン・テストも、自分の背丈よりも長い尻尾型の艤装を持っているが、まだ室内で
「コマさんが……そんなに?」
「ええ。『執着』が溢れ出しているんだもの、しかも心が壊れた状態での生への執着よ。戦艦をやった相手を探して始末するまで、あの時のコマは止まりそうに無かったわよ」
死の原因を排除するために暴走するのが、コマンダン・テストの発作だ。今回の場合は、戦艦棲姫を死に追いやろうとした者を排除し、これ以上の悪化を防ぐという、何処か繋がらない思考に向かってしまう。これも心が壊れている証拠。
結果的に、戦艦棲姫が死なないということを言い聞かされ、怪我はしているものの命に別状はないことを理解出来たことで、発作は治まっている。いつおかしくなるかはわからないため、最も仲がいいリシュリューが側にいるが、ここから悪化することは今まで無かったため、ひとまずコマンダン・テストについてはここで終わり。
「戦艦ちゃんが目を覚ましたら、コマちゃんにも見てもらいましょうねぇ。ああなると少しの間は不安定になるし、それを改善するには戦艦ちゃんの元気な姿が必要だものぉ」
死の匂いがする者から、その匂いが取り払われれば、コマンダン・テストは真に落ち着くことが出来る。そのためにも、戦艦棲姫には早く回復してもらいたい。
それが無茶なのは誰もが承知の上であるが。
「とにかく、今は落ち着いて目を覚ますのを待つのが最善よぉ。あの子が目を覚ましてくれないと、先には進めないわぁ」
確かに、戦艦棲姫が目を覚まさなければ情報も手に入らないし、施設の者達が安心も出来ない。目を覚ましている状態で動けないのと、そもそも目を覚ましていないというのは雲泥の差だ。前者は生きていると実感出来るが、後者は生死が曖昧な状態。中間棲姫は大丈夫と言うが、このまま目を覚まさないなんてことすら考えてしまう。
「Okay, 今は待ちってことよね。ハルサメ、私達はおにぎり作りましょ!」
「うん、そうしよう。こんなに早くまた振る舞えるなんて思わなかったけど」
苦笑しながら、春雨はジェーナスと共に戦艦棲姫のために動き出す。そうしていないと落ち着けないというのもあるから。
一方、コマンダン・テストの部屋。そこでは肩で息をしているコマンダン・テストと、それを宥めるように撫でているリシュリューの姿があった。
戦艦棲姫の死の匂いに過敏に反応してしまった結果、部屋の中で暴れてしまい、大変なことになっている。この性質を理解しているおかげで壊れるような物は基本的には置かれていないのだが、それでも多少置いてあった小物が散乱してしまっている。後から片付ければいいだけなのだが、今の心境では片付けまで気が回らない。
「
「
飛行場姫から戦艦棲姫の命に別状はないことを聞けたことでここまで落ち着くことが出来たものの、まだまだ不安定。少しでも不安を感じたら、また暴れかねない。それを防ぐためにも、戦艦棲姫が目を覚ますまでは、リシュリューが隣にいてあげることで落ち着かせる。
やはり同郷の友人というのは気持ちとして楽になれるようで、さらにここでは遠征組という特に深い仲間だ。お互いを理解しているからこそ、この2人の絆はこんなことでは切れない。
「あのヒトは深く眠っているだけ。明日には目を覚ますらしいから、それまではRichelieuが側にいてあげる」
「
「気にするなって言ってるじゃない。貴女の
コマンダン・テストの発作は、勿論初めてではない。最初の頃は、ほんの少しの傷でも錯乱して暴れる程に不安定だった。他人でもそれなのに、自分ではさらにである。それが今はここまで落ち着けているのだから、充分に成長していると言えた。
「落ち着いたら掃除しましょう。Richelieuも手伝ってあげる。むしろ前より綺麗にしちゃおうかしら」
「そ、そんなに汚くしてません。そもそも、物を置かないようにしているのですから」
「ふふ、わかってる。貴女は自分自身のことをよくわかっているものね。最悪を回避するために、とても努力していることも、Richelieuは理解しているわ」
抱き寄せて、より強く撫でる。コマンダン・テストもこうされるととても落ち着くようで、素直に甘えるようにその豊満な胸に顔を埋めた。
発作を起こした後は途端に甘えん坊になると、リシュリューも苦笑する。それで落ち着けるならそれでいいと受け入れているところもあるが。
「次もRichelieuが落ち着かせてあげるから。今はゆっくり休みなさい。まだ不安定でしょう」
「……Oui. 休ませてもらいます。Richelieu……側にいてもらっても」
「
その言葉を聞き、コマンダン・テストが途端に頰を赤らめる。
「添い寝くらいで初々しいわねCommandant Teste……陸ではよくやってるじゃないの」
「そ、そうですけれど、そうですけれど」
「ふふ、別にもっと親密になってもいいのだけれど?」
そんなリシュリューを、痛みのないくらいの拳でポカポカ叩く姿は、とても可愛らしかった。
次に進むためには、ます戦艦棲姫が目を覚ますことが必要だ。ひとまずはその時まで、施設の者達は少し緊張しながらもその時を待つことになった。
コマンダン・テストとリシュリューは、それなりに親密な仲だったりします。遠征で2人きりになることが多いですからね。
支援絵をいただきました。ここに紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/93364875
MMDアイキャッチ風伊47。幸せアレルギーの彼女は、その手から全て零れ落ちてしまいます。掴みたくても掴めないのは辛いでしょう。