おやつ時に始まった、大本営所属の大将との対話。春雨達が見守る中、施設の長たる姉妹姫がその席につき、タブレット越しとはいえ2人目の人間と相対する。
大将は、今まで話してきた提督に負けず劣らず、ここにいる深海棲艦達のことを考えての言葉を紡いでいた。
まず、姉妹のことを人間の呼び名では呼ばない。中間棲姫、飛行場姫という呼び名は、あくまでも人類が考えた侵略者に対しての呼称。同一個体だからといって、一緒くたに考えることは違うとして、2人のことは施設側の呼び名である姉姫、妹姫を使う。
そこから、お互いに対等な立場であるということを念頭に置いた状態で、少しゆっくりとしたテンポで話を進めていく。
「貴女のことはどう呼べばいいのかしらぁ。彼は提督くんとだけ呼ばせてもらっているのだけれど」
『そうね……普段は大将とだけ呼ばれているの。一応私は
「そう、ならこちらもそう呼ばせてもらうわねぇ」
春雨には、中間棲姫と大将は雰囲気が近いもののように見えた。おっとりしているというか、似たような性格というか。見ている世界は違えど、平和を望んで手の届く範囲を守り続けているのは同じことだ。
そういう意味では、この2人は似た者同士と言えるのかもしれない。種族など関係なく、共通するモノがあるのなら、仲良くなれるはずだ。同族嫌悪というモノもあるが、この2人にそれは無いだろう。
「それじゃあ大将さん、何故貴女は私達とお近付きになりたいと?」
『私も彼と同じように、この世界を平和に導くために戦っているの。深海棲艦は平和を脅かす敵かもしれないけれど、貴女達はそんなことのないということは聞いているわ。それなら手を取り合える。その方がお互いにいいでしょう?
提督と同じような言葉だ。中間棲姫を騙そうとしてるわけでもなく、本心からの言葉。戦いたくないのは誰だって一緒である。
『私はもう随分と長く生きているのだけれど、この世界がとても平和だった頃をよく知っているの。私が生きている内に、その世界に戻ってもらいたい。ただそれだけ。そして、話を聞いている限り、貴女もその平和な世界を求めているのよね?』
「貴女ほど高尚なモノでは無いかもしれないけれどねぇ」
『それこそ、私は貴女に及ばないかもしれない。だけれど、目を向けている場所はきっと同じ場所よ』
穏やかな、とても穏やかな表情と声。しかし、その奥底には絶対に折れることのない芯があった。平和を取り戻すため、それを脅かすモノには容赦せず、共に歩めるモノとは手を取り合う。不可侵というのも考えられるだろうが、お互いに困っていることがあるのなら、それこそ協力するべきだ。
そして、この施設は後者、手を取り合える存在であると確信して、この話をしている。そうでなければ、佐々木という本来の名前を教えることもないだろうし、そもそも面と向かって対話なんてしない。
都合のいい仲間とか、そういうことは一切考えていない。施設に困ったことがあるのなら、全身全霊で助ける。こちらの困ったことがあったら、少しだけ手を貸してもらいたい。ただし、戦いに参加しろとは絶対に言わない。施設はあくまでも
大将は、それを静かに中間棲姫に伝えた。機嫌を伺っているような素振りも無い。
「大将さんが嘘偽りない言葉を言っているのは、聞いていてわかるわぁ。私達のことを本気で考えて、敵意も何もないことはとても伝わってきたわねぇ」
『ええ、それが隠しようのない本心だもの。少し悪い言い方をするのなら、私達は平和のためなら手段を選ばないの。だって、死ぬのは怖いもの』
命を張る必要のない手段を選択し続けると、大将は言う。話が通じる者ならば和睦を優先的に選択するし、そうでない者ならば戦いとなっても仕方ない。今までの深海棲艦は全てが後者だった。対話に応じることもなく、ただただ侵略を推し進めてくる者ばかり。それ故に、世界規模で異種族間の戦争となってしまっている。
しかし、ついに話がわかる者が現れてくれたのだ。大切にしたいと考えるのは必然だし、平和に繋がると考えるのも必然。協力してこの世界を平和に導きたい。
『だから、私は貴女とお近付きになりたいと願ったの。半分くらいはこの戦いで
中間棲姫のことを、深海棲艦として見ていない発言である。そもそも、この大将は種族の差など一切考えていない。
そんな考え方だから、本来同類であるブラック鎮守府の制圧を容赦なく実行出来るのかもしれない。それで心を痛めないわけではないのだが。
「なるほどねぇ。貴女の考え方には賛成だわぁ。同じ場所かどうかはわからないけれど、お互い平和を望んでいるのなら、協力しない理由はないかもしれないわねぇ」
『でしょう? お互いに、いい関係を築けると思うの。とはいえ、悩みが無いわけでは無いのだけれど』
しかし、大将は1つだけこの協力関係について悩みがあった。それは、中間棲姫達が自分達の行為についてどう思っているかだ。
平和を求める戦いをしているというが、その相手は中間棲姫達にとっては
『姉姫さん、私からも貴女に聞きたいことがあるのだけど、いいかしら』
「どうぞぉ」
『私達は平和のためなら、貴女達の同族と戦い、その命を奪っているわ。こちらも奪われているとはいえ、それについてどう考えているのかしら。貴方達がそれを気に入らないと思っていても、私達は命が大切だから、この戦いはしばらく終わりそうにないの』
つまり、こちらもやっていることは侵略者である深海棲艦と近しいのだと言っている。平和を求める者でなければ淘汰してしまうだなんて、本来許されていいものなのか。
やられたからやり返しているというようなものではあるが、中間棲姫からすれば心境は人間と変わらないかもしれない。それを慮って、先にどう考えているかを知りたかった。
対する中間棲姫は、とてもあっさりと自分の考え方を言ってのける。
「仕方ないことだと思うわぁ。人間さん達も、ただただやられるために生きているわけじゃないもの。そこは私達も割り切っているつもりよぉ」
自分が他の深海棲艦は根本的な何かが違うという考え方をしているのは一目瞭然だった。
いくら同族であろうと、侵略行為で人間の平和を脅かしているのだ。やり返されて然るべきであり、命のやり取りをしているのだから、それは仕方ないと。一方的に侵略が出来るわけないのだから、やられるのは因果応報であると。
「そういう意味では、私は冷たいのかもしれないわねぇ。同じ考え方を持つ
『そんなことないわ。貴女の考え方は人間と同じ。手が届く範囲の平和を望んでいるの。それは褒められこそすれ、罵られるべきことでは無いでしょう』
人間だってそうだ。それを深海棲艦の中で悪と言うかはわからないが、自分達と思想の違う者まで擁護しているような余裕なんてない。自分と同じ種族ならば全ての行為を肯定する、なんてことは無いのだ。
独自の善悪の基準はあれど、それは確実に死を望まない考え方だ。大将と中間棲姫は、そういうところで同じ場所を見ている。
『私は貴女の考え方を否定しません。人間ですら同じ人間を見捨てることがあるんだもの。
終始穏やかな表情で言ってのけた。そんな大将に、中間棲姫は少なからず敬意を感じた。
「この短い時間だけれど、貴女も信用してもいい人間さんであることは理解出来たわぁ。和睦協定を結びましょう」
『ええ、助かるわ。貴女とはいろいろとお話がしたいし、今は脅威に晒されていると聞いているから、私達もそれなら救いたいと思っているもの』
お互いの考え方を伝え合い、それを理解し合うことにより、大将との和睦を良しとすることが出来た。提督と同じように、大将も誠実な人間であることがわかったのは非常に大きい。
これにより、施設は2人目の協力者を得た。もしまた不可解な事件が起きたとき、調査を外注することが容易になる。
「それで、こんな言い方はアレだけれど、貴女達はまず何をしてくれるのかしらぁ」
『そのことなんだけれど、貴女のところに籍を置いている艦娘……元艦娘と言った方がいいのよね。叢雲のことについては決着をつけました』
近くで聞いている叢雲がピクリと反応する。
『私達の間では、それをブラック鎮守府と呼ぶのだけれど、艦娘を蔑ろにして利益だけを得ようとする不逞の輩は、厳重に罰することになったの。その発端となった者……叢雲にとっての提督は、
それで叢雲の心が晴れるわけではないのだが、悪を悪として裁いてくれたのは、叢雲としても嬉しかったりする。せいせいすると言った方がいいか。
「私が殺しに行きたかったわよ」
『叢雲、世の中にはね、
そんなことを笑みを浮かべながら言ってのける辺り、この大将も相当だなと、ここにいる誰もが思った。
「そう、ならいいわ。生まれたことを後悔するくらいに痛めつけてやって。アイツ、私以外にも被害者出してんでしょ」
『ええ……調査の結果として、叢雲以外にも何人もの艦娘が被害を受けてこの世を去っていた。それは決して許されないこと。然るべき処置をすることを約束しましょう。その姿を見せることは出来ないから貴女の気が晴れるかはわからないけれど』
「私は一生気が晴れない性質だから気にしなくていいわ。だから、一生後悔させてやってくれればいい。自殺もさせないでちょうだい」
『ええ、勿論』
ほんの少しだけ楽しそうに話した叢雲。壊れた心が加虐に向いてしまっているのは少し問題なのだが、自分の心を歪ませた張本人が罰を受けていることを喜ぶのは、もう仕方ないこととして全員が割り切った。怒りの炎で身を焼き続けるよりはマシかもしれない。
『それと、私からもこうやって直に話せるラインを作ったけれど、基本的には貴女と話をするのは彼ということになるわ。あちらはあちらで、貴女達……というより、本来自分の部下であった春雨に用があるみたいだし』
「そう、それなら良かった。彼にはいろいろお世話になっているもの」
大将との繋がりを作ったが、提督との繋がりはいつも通り。むしろ、今まで以上に親密になってくれても構わないとのこと。大本営のお墨付きとなったのは非常に大きく、堂々と深海棲艦との協力任務などもしていいと言われたようなもの。
これを喜ぶのはやはり春雨。今までは秘密裏というわけではないが、物凄く慎重に事を成していたが、大将公認となれば話は変わる。
『貴女達が望むかはわからないけれど、いざとなったら、貴女達が彼の鎮守府を訪問出来るタイミングも作れたらと思うわ』
「あらあらあら……それはまた魅力的な提案ねぇ。だけど、それがこの施設を危険に晒す可能性があるのなら、謹んでお断りさせてもらうわぁ」
『そこは貴女達に任せます。今は必要ではないことだもの。何かがあって、どうしても必要になった時には、それが出来るように工面するということで考えていてもらえると嬉しいわ』
それくらいにこの施設のことを優遇してくれるということだ。それは素直に喜んでおいた。
これだけ話して、大将の人間性がよくわかったのではないか。ただ仲良く出来るかどうかを基準にし、種族の差なんて全く感じさせない。
これを年の功と言うのなら、そうなのかもしれない。
これにて、大本営との関係も持った施設。平和に向かう一方、危険も近付いてきていそうです。
支援絵をいただきました。ここに紹介させていただきます。
【挿絵表示】
https://www.pixiv.net/artworks/93432499
MMDアイキャッチ風山風。憔悴していた海風に提供したビッグぬいぐるみを抱いていれば、山風だって穏やかになります。抱き枕にしやすいカタチしてる。