空っぽの姫と溢れた艦娘   作:緋寺

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大将の艦娘

 午後になり、少し時間が経った頃。鎮守府の提督からも連絡があり、こちらを出て向かっていると伝えられている。あと少ししたら到着するというのもあり、叢雲の電探を頼りつつも出迎えるために岸へと待機していた。

 参加メンバーはいつもの通り、姉妹姫と4人組。松竹姉妹や伊47は施設で待機。リシュリューとコマンダン・テストは、まだベッドから動くことが出来ない戦艦棲姫の看病に勤しんでいる。

 ミシェルもお出迎えに参加したいらしく、そちら側へと移動しており、ジェーナスが撫でながら待つことになった。鎮守府の面々は面識があるが、初めて来る者もいるわけで、ここに来た瞬間に駆逐イ級とも対面するという洗礼を受けることになる。

 

「別に施設の中で待っていればいいじゃない。近付いてきたら私がわかるんだから」

「まあまあ、いつも出迎えはしてるんだから、いいじゃないの。時間的にもそろそろだし、お日様の光を浴びなくちゃねぇ」

 

 叢雲のボヤきには、中間棲姫がすぐさま返す。日光を浴びるというのはさておき、今までに艦娘達がここに来た時は、その全てのタイミングで出迎えをしているのだから、これまで通りにしておくのがいいだろう。姉妹姫のみだった時もあったが、妹達が来るというのもあって春雨が率先して来たがっているというのもある。

 それでも叢雲がここに立っているということは、文句を言いつつもこうすることに肯定的であることを意味していた。大分丸くなったものである。

 

「前回よりは時間遅いですよね。やっぱり施設で泊まれるからかな」

「そうねぇ。でも、提督くんは追加メンバーは急だから野営でも問題ないって言っていたのよねぇ」

 

 大将直属の艦娘達は、当然ながら初対面。いきなり現れて施設の部屋を使わせてくれと言うほど図々しくないというのと、そもそも野営能力がかなり高いらしく、むしろ本人達がそれを望んだらしい。

 9割方は施設に迷惑をかけたくないからというのがあるが、残り1割は知らない場所での野営が楽しみであるという少し変わったことを言っているとのこと。今までにないタイプだったため、中間棲姫も少しだけ困惑していた。

 とはいえ、食事は一緒にするし、お風呂も貸してもらえるのならありがたいということなので、あくまでも部屋を割り当てなくてもいいという程度のようである。

 

「そんなこと話してたら、感知に入ったわよ。相変わらず群がってこっちに来てるわ」

 

 ここで、叢雲の電探に反応。今までと同じ方向から団体がこちらに来ているようだった。しかし、叢雲はその反応から表情がおかしくなってくる。

 

「叢雲ちゃん、どうかしたのかしらぁ」

「あ、いや、ちょっと驚いただけ。艦娘って10人だったわよね」

「ええ、そうよぉ。大将さんの艦娘が2人追加になったのよねぇ」

 

 人数を聞いてくるということは、予定していたよりも多くなっているのか少なくなっているのか。

 しかし、次の叢雲の言葉で春雨達どころか姉妹姫共々驚くことになった。

 

「……なんか()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 それから十数分。水平線に艦娘達が見え始めたが、その中央に目を疑うものがあった。叢雲が反応として感知した通り、クルーザーがあったのである。

 おそらく人間なら3人から4人は乗れるくらいの大きさであり、艤装を装備した戦艦──金剛や比叡よりも大きい。

 

「大発動艇よりも大きい……」

「というか形状がそもそも違うわよ。なんなのアレ。もしかして大将が直接来たとかいうわけじゃないわよね」

「そんなこと聞いてないし、大将さんは足を悪くしてるらしいから、陸ならまだしもこんな辺境に来るわけがないわぁ」

 

 姉妹姫すらも混乱している状況。飛行場姫が漁をするために施設に1つだけ存在している大発動艇とは似ても似つかないそれは、ぐんぐんとこちらに近付いてくる。

 ひとまず海風の姿を捉えたので、春雨が手を振ると、あちらも振り返してきた。江風や涼風も飛び上がるように反応し、山風も小さく反応している。

 

 その中の1人は、鎮守府でも見ていない艦娘だった。おそらくそれが、大将直属の艦娘。2人いるはずなのだが、それ以外に艦娘が見当たらないので、もう1人はあのクルーザーの中。

 

「あらあら、可愛いウサギさんが来たわ」

 

 その艦娘のことを中間棲姫は()()()と称した。そう言った理由はとてもわかりやすく、頭に着けているリボンが、ウサギの耳のようにピンと立っていたからだ。

 他の艦娘達と比べると随分と露出度が高い制服を着込んでいるようだが、飛行場姫や叢雲のおかげで全く気にならない。艦娘にもああいう感じの子がいるんだなぁとむしろ感心しているほどである。

 

 そして、クルーザーと共に艦娘達が岸に到着。隊長である海風が前に出て、中間棲姫と今回の件の話に入る。

 しかし、深海棲艦達はやってきたクルーザーに目を奪われていた。何なのだこれはとジロジロ見てしまっている。

 

「第二次調査隊、到着しました。先に今回からの新人……大将直属の艦娘の紹介をしなくてはいけませんね」

「ええ、お願いねぇ。ウサギちゃんと、クルーザーの中の子だとは思うのだけれど」

「ウサギ……ああ、なるほど。はい、そうですね。ではまずそちらから」

 

 声をかける前にピョンと海風の前に出てきたウサギと呼ばれている艦娘。その仕草はまさにそれなのだが、中間棲姫を目の前にしての第一声が、

 

「おうっ! ホントに深海棲艦! 敵じゃないんだよね?」

「ええ、勿論。私達は貴女達と仲良くするためにここにいるのだから、何も問題は無いわぁ」

 

 これである。自己紹介をと言われても、少しマイペース気味に中間棲姫をジロジロ見ていた。後ろに並ぶ飛行場姫や元艦娘達を見ても同じように目を丸くして、何処か楽しそうに眺めた。

 そしてすぐに自分のやるべきことを思い出し、改めて敬礼。マイペースではあるものの、中身はそれなりに真面目なようで、挨拶もキチンと正しく行なわれる。

 

「駆逐艦、島風です! 疾きこと、島風の如し! スピードなら誰にも負けません!」

 

 ウサギちゃんこと島風。駆逐艦の中では屈指の力を持つ者として名を馳せており、改二改装がされていないにもかかわらず、それに匹敵する程の性能を秘めているという艦娘である。

 自分でも言う通り、そのスピードは他の追随を許さず、ここにいる者達ではその背中を捉えることすら出来ないらしい。やけに露出度の高い制服も、極限まで空気抵抗を減らそうとした結果なのだとか。

 

「島風ちゃんねぇ。私はここでは姉姫と呼ばれているの。貴女もそう呼んでちょうだいねぇ」

「はーい、姉姫さん、よろしくお願いしまーす!」

「うんうん、元気でいいわねぇ。見ているだけで気分が昂揚するみたいよぉ」

 

 周りの空気を明るくするような眩しい笑顔と性格に、空気が弛緩するような感覚になる。

 

「アンタは自分からここに来たいって言ったの?」

 

 飛行場姫の質問は至極当然だった。大将が信頼しているとはいえ、相手は深海棲艦。艦娘全てを滅ぼそうとした叢雲のように、深海棲艦ならば殲滅しようと考える艦娘がいてもおかしくない。

 この施設は深海棲艦の巣窟だ。種族単位で殺したいほど憎んでいる可能性もあり、ここに来たのもそれを実行するためという可能性すらある。

 

「うん。だって友達が増えるんでしょ? 早く友達増やしたかったんだもん」

 

 純真無垢な瞳で、なんでそんなこと聞くのかと言わんばかりに飛行場姫を見つめ返した。その言葉に何の嘘偽りもない。

 ただただ友達が増やしたかった。たったそれだけの理由で、危険な任務にも飛び込んでくる。若干危険な思想な気がしないでもないが、敵意が全くないのは、誰の目から見ても明らかだった。あの叢雲からしてもだ。

 

「そういうことなら大歓迎よ。たびたび来てくれとは言えないけど、ここの子達と仲良くしてちょうだい」

「おうっ! もっちろん! また友達が増えるね!」

 

 無邪気に笑う島風に、全員ほっこりとしていた。

 

 島風がこうやって話している間に、クルーザーの中からゴソゴソと何者かが外に出ようとしていた。大きめなそれから出てきたのは、比較的小柄な少女。艤装を展開しているため一応は艦娘のようなのだが、それならば普通に海の上を航行してきたら良かったのにそれをしないのが不可解。

 このクルーザーをここに持ってきたいから、この手段を使ったと考えるのが妥当ではあるのだが、そうであったとしても艦娘だというのに()()()()()()()()()()()

 

「えぇと、貴女は」

「特務艦、宗谷です。姉姫様、お会い出来て光栄です」

 

 クルーザーから降りると、艦娘らしくちゃんと海上に立つことが出来ていた。艤装を装備しているのだから当然なのだが、現実にこうされないと艦娘だとも思えないくらいの雰囲気だった。

 

「貴女は随分と特殊なのねぇ」

「はい。私は艦娘としても武装が出来ない非戦闘艦なんです。ですが、今回は調査ということで、提督……大将から是非にと仰せつかった次第です。精一杯頑張りますね」

 

 特務艦という宗谷しか持たない艦種を引っ提げて、調査なら任せてほしいと前に出た。非戦闘員である代わりに、海域調査などは得意であると豪語出来るほど。

 

「宗谷姉ちゃん、本当に凄いんだよ! こういう任務だったら絶対必要なヒトだから! ()()()()だもんね!」

「い、いえいえ、そんな……私は精一杯頑張ってるだけで」

「謙遜よくなーい!」

 

 一緒に来た島風も太鼓判を押すほどである。今までに何度も調査任務を実施してきているらしいが、その全てに宗谷が関わっており、迅速かつ確実な情報収集をこなしたということらしい。

 島風は自分から挙手して調査任務に参加しているが、宗谷は大将直々の任命なのだから、別格なのがわかる。それほどまでに信用度が高いということだ。

 

「と、とにかく、今回の任務、よろしくお願いします。私も全力でやらせていただきます」

「ええ、ありがとうねぇ。それで、そのクルーザーはどうしてなのかしらぁ」

 

 興味を持ったのか、ミシェルがクルーザーをつんつんつついているようだが、これでこの施設に来ているだけあって、その硬さは艤装並みの特注仕様。

 しかし、これで攻撃出来るとかそういうものではないようだ。武装は1つも付いておらず、見た目だけなら人間が使っているそれとなんら変わらない。

 

「あ、これですね。これは私の居住区でして。長距離遠征もすることがありますから、この中は一通りの設備が入っています」

 

 なんと、中には寝泊まり出来る設備が取り揃えられているらしい。2人までなら余裕で入れて、野営以上に身体を休められる空間なんだとか。

 これがあれば、周囲に何もない海のど真ん中で休息を取ることすら可能であり、万が一敵を発見してしまったとしても、その強固な装甲である程度は耐えられるそうだ。実際にそうなったことは皆無らしいが。

 

「私と島風さんはここで寝泊りが出来ますので、お部屋の方は大丈夫です」

「そういうことでーす」

 

 元よりこれがあるからついてくることが出来たということのようだ。施設に迷惑をかけず、施設でやりたいことが出来るということで、この2人は別働隊としても動くことが出来る。

 

「あ、あと私達の提督……大将から、姉姫様に贈り物があるということで、それも運んできました。すぐに出しますね。島風さん、手伝ってもらっていいですか?」

「はーい、任せて任せて!」

 

 一通り挨拶をした後、またすぐにクルーザーの中に入っていく宗谷。何やら大将から施設のためにといろいろと持たされているらしい。

 それが、各種食物。必要かどうかはわからないがといいつつも、調味料各種や野菜、消耗品。そして、冷凍ではあるが肉である。

 

「あらまぁ、あの人にはお世話になっちゃうわねぇ」

「信頼の証だそうです。是非使ってほしいと」

「あとからこちらからも連絡した方がいいわねぇ。直接御礼を言わなくちゃ」

 

 中間棲姫もこれにはご満悦。つい最近友人になったばかりなのに、ここまで良くしてもらえるだなんて思ってもみなかった様子。

 

「あとは、前回と同じ調査隊一同です。今日から一晩と明日の調査任務、よろしくお願いします」

 

 海風が締めて、ここで自己紹介の時間は終わり。調査任務のための準備と、交流の時間へと移っていくことになった。

 

 

 

 

 調査隊に島風と宗谷が加わり、より活気付く。これだけの人材がいれば、調査も進んでいくだろう。

 




人懐っこく誰とでも仲良くなろうとする島風と、非戦闘艦ながら一生懸命頑張る宗谷。対称的な2人ですが、クルーザーの中で一緒に眠るくらいには仲がいいのです。


支援絵をいただきました。ここに紹介させていただきます。

【挿絵表示】

https://www.pixiv.net/artworks/93515977
MMDアイキャッチ風江風&涼風。ガタガタな海風と、心配し続ける山風を裏から支える燻銀。この2人の明るさが無ければ、二四駆は崩壊していたかもしれません。だから涼風の改二早う。
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