アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~ 作:朝陽晴空
1
市長邸前でのアスカとシンジの不毛な言い争いが収まった後、エステル達は遊撃士協会に運搬依頼の達成の報告をしに行った。アイナはマルガ鉱山の鉱員達から感謝の声が届いていると話した。突発的な事件に対応するのも遊撃士として大切な事だとも言った。
「まあ、エステルの場合は勝手に首を突っ込むけどね」
「ちょっと、人の事をお節介みたいに言わないでよ!」
「お人好しで野次馬根性丸出し、直情的性格だからね」
今度はエステルとヨシュアが言い争いを始めてしまい、アイナとアスカとシンジは苦笑した。言い争いが収まった後、アイナがカシウスの代理の最後の依頼について話し始める。
《リベール通信》の記者の取材協力をする、それが依頼の内容だった。魔獣が居る危険な場所にも行くので、護衛として遊撃士の助けが必要なのだと言う。記者とカメラマンの二人組は《居酒屋アーベント》で待っているらしい。
◆記者たちの案内◆
【依頼者】リベール通信社
【報 酬】2000 Mira
【制 限】直接依頼
居酒屋アーベントの前に到着したエステル達は、店の前でソワソワと探し物をしている婦人に気が付いた。店の床下をのぞき込んだり「アリルちゃ~ん!」と呼びかけている。
「もしかして、あのおばさん、迷子の子供を探しているのかも! 助けてあげなきゃ!」
「アンタねえ……」
あきれた表情のアスカが止める間もなくエステルは婦人の元へ駆け寄って行った。ヨシュアの言う通り、野次馬根性丸出しで、お節介な性格だとシンジは思うのだった。
「えーっ、探しているのは子猫?」
「そんな事だと思ったわよ。店の床下を探していたみたいだし」
その婦人、イーダの話を聞いたエステルは驚きの声を上げた。アスカはとっくにお見通しだったのか、あきれた顔でため息を付く。猫探しなど遊撃士のやる仕事じゃないとアスカは言ったが、乗り掛かった舟を降りる訳にも行かないと説得され、猫探しを正式な依頼として受ける事になった。
◆子猫の捜索◆
【依頼者】イーダ
【報 酬】500 Mira
【制 限】直接依頼
★昼寝をしている間に子猫が居なくなってしまったそうだ。
リベール通信の記者たちとの待ち合わせもあるため、そんなに時間は掛けられない。時計台の近くで猫を見かけたが、あっさりと逃げられてしまった。遊撃士協会の前でまた見つけるが逃げられる。パーゼル農園の時のように導力銃で威嚇射撃と言うわけにもいかない。
「待ちなさい!」
大声を上げて追いかけるアスカに怯えた子猫は礼拝堂に逃げ込んでしまった。しかし建物の中に逃げ込んだとあっては袋のネズミだ。勝ち誇った笑みを浮かべたアスカは礼拝堂の中へと踏み込んだ。
アスカの姿を見た子猫は階段を駆け上がり、二階のテラスへと逃げ込んだ。ひっ捕まえてやろうとにじり寄るアスカをシンジが引き留めた。
「アスカ、無理に追い詰めちゃダメだよ。猫が飛び降りて怪我でもしたら大変だよ」
「アリル、おいで。……おばさんの所へ帰ろう?」
アスカに代わって前に出たヨシュアが穏やかな笑顔で子猫に優しく呼びかけると、アリルは甘えた声を出し自分から近づいてヨシュアに抱きかかえられた。大人しくなった子猫を見て、エステル達はホッと息をもらした。
「おや、君達は遊撃士になったばかりのエステル君、ヨシュア君、アスカ君にシンジ君だね」
「日曜学校ではお世話になりました」
シンジは声を掛けて来たこの礼拝堂の神父、デバイン教区長に頭を下げた。アスカとシンジがこの世界に来てから二年間、一般常識を身に着けられたのはデバイン教区長の授業によるところが大きい。カシウスに次ぐ命の恩人として差支えなかった。エステルは最前列の席で爆睡していたが。
「教区長も遊撃士協会に依頼を出されていましたね」
「ええ、そうですが、あなた達には危険すぎるかもしれません」
ヨシュアの言葉にデバイン教区は心配する表情を見せた。
◆薬の材料採集◆
【依頼者】デバイン教区長
【報 酬】250 Mira
【制 限】7級以上
★街の南にあるミストヴァルトに自生している花、『ベアズクロー』を探しています。
「今のボク達のランクじゃ受けられない依頼だね」
ヨシュアが遊撃士手帳に書き留めていた依頼を見て、シンジはそう呟いた。しかしアスカは不敵な笑みを浮かべる。
「フフン、自分達で先にこなしてしまえばいいのよ。事後承諾ってヤツ?」
「ミストヴァルトは本当に危険な森です。無理をしてはいけませんよ」
デバイン教区長は心の底から心配するような表情でアスカに告げた。ミストヴァルトは新米遊撃士の鬼門とも呼ばれる場所で、シェラザードさえも駆け出し遊撃士の頃は傷だらけになって帰って来たのだとデバイン教区長は忠告した。
礼拝堂から出たエステル達は、子猫のアリルをイーダの元へと帰した。イーダはヨシュアに色っぽい視線を送ってヨシュアを困惑させたが、しばらくするとまたお昼寝をすると言って寝てしまった。付き合いきれない、と思った四人は、居酒屋アーベントの中へ入り、依頼主のリベール通信の記者とカメラマンに会う事にした。
2
アーベントでは無精ひげを生やした男性が退屈そうな顔でチビチビと酒を飲んでいた。街では見かけない顔とその雰囲気に、エステル達はこの男性こそがリベール通信の記者だと確信した。
「あの、あなたがリベール通信の記者さん?」
「あん? どうしてわかったんだ?」
エステルに声を掛けられた男性はけだるそうな表情で答えた。
「遊撃士協会から来ました!」
「待っていたぞ! それで、カシウス・ブライトはどこに居る?」
元気良くエステルが挨拶をすると、無精ひげの男性はパッと表情を輝かせた。そして周囲をきょろきょろと見回す。
「カシウスさんは急な用事が出来て、ロレントを離れる事になったんです」
「くーっ、マジかよ! 噂の遊撃士に突撃取材をかまそうと思ったのに」
シンジの言葉を聞いて無精ひげの男は悔しそうな顔をした。
「でもアタシ達が代わりを務めるから、安心しなさい!」
「はぁ? テメーらみたいなガキが遊撃士なのかよ」
堂々と胸を張って宣言したアスカに、無精ひげの男はあきれた顔で、ため息を吐き出した。
「ガキじゃないわよ! このスタイルの良さを見なさい! 全く失礼なオジサンね!」
怒ったアスカは服を引っ張って自分のボディラインを強調した。16歳になった自分はもう少女の域を脱しているはずだとアスカは自負していた。
「バカ野郎、オジサン呼ばわりするんじゃねえ、俺はまだ20代だ!」
アスカと無精ひげの男との言い争いが始まり、シンジ達は頭を抱える。依頼人とケンカをするなんて遊撃士失格だ。もしかして、依頼を取り下げられてしまうかもしれない。
「別の遊撃士を手配するとなると、またお時間を頂く事になりますよ」
「ちくしょう、締め切りもあるし、仕方ない……お前達に任せるか」
機転を利かせたヨシュアの提案に、無精ひげの男はため息を吐き出しながらそう呟いた。
「俺はナイアル・バーンズ、リベール通信の敏腕記者だ」
そう言ってナイアルは親指を立てたが、無精ひげにボサボサの髪、ヨレヨレの服から出るだらしなさはとても敏腕記者には思えない。しかし依頼人である事には変わりが無いので心の中でそう思っていてもなるべく表に出さないようにする。
依頼の内容は、翡翠の塔の屋上で写真を撮影すると言うものだった。翡翠の塔なら何度も足を運んでいる。油断さえしなければ達成できる依頼だった。
「そう言えば、もう一人カメラマンの方が同行するって聞きましたけど……」
ヨシュアの指摘通り、居酒屋にはナイアルの姿しか無く、カメラを持っている様にも見えなかった。ナイアルは面倒臭そうに頭をかいた。どうやら待っていたのは遊撃士だけでは無かったようだ。
「アイツ、カメラの修理にこの街のオーブメント工房に行っているはずだが……どれだけ時間が掛かってるんだ?」
「それなら、迎えに行った方が早いんじゃない?」
アスカの提案に、ナイアルは席から立ち上がって賛成の意を示した。五人はメルダース工房でカメラマンと合流してから翡翠の塔へ向かう事にした。
3
「お願いします、カメラを返してください、お願いします! 命より大切な物なんですぅ!」
エステル達がメルダース工房に入ると、涙声で懇願する女性の声が聞こえて来た。
ピンク色の髪を黄色いリボンで結わいた眼鏡をかけた女性は、成人女性ではあるがその振る舞いは幼い少女のように見えた。
「あ、ナイアル先輩、助けてください~」
メルダース工房の中にナイアルが入って来た事に気が付くと、そのピンク髪の女性はナイアルに泣きついた。困った表情のメルダース工房の技師フライディは泣きたいのはこっちだとエステル達に訴えていた。フライディの話によると、カメラの修理を頼まれて修理した後、修理代を請求したのだが、ピンク髪の女性は修理代を払うだけのお金を持っていなかった。結局、ナイアルがカメラの修理代を立て替えて支払う事になった。
「わたし、ドロシー・ハイアット。《リベール通信》に入ったばかりの新米カメラマンなの」
「へえ、あたし達も新米遊撃士なのよ!」
ドロシーが元気な笑顔で自己紹介をすると、エステルも嬉しそうな顔であいさつを返した。能天気な二人がそろってしまったと、ナイアルとアスカ達はため息を付いた。
「それじゃあ、翡翠の塔に向かって出発、おー!」
「おー!」
早速気が合ったエステルとドロシーは肩を組んで街を歩いていた。アスカはドロシーがぶら提げている導力カメラに興味を示していた。趣味の時間はオーブメント研究に費やしていたアスカは、オーブメント技師の道も歩み始めていた。
「ふ、ふーん、このポチ君が気になるんですか?」
ドロシーは自慢げに導力カメラをアスカに見せつけた。どうやらドロシーはカメラに名前を付けているようだ。カメラの修理代が高額だった事を考えると、最先端の技術が使われたカメラだろうとアスカは思った。どうして新米カメラマンのドロシーがそんな高価なカメラを持っているのか。
「こいつはとぼけているように見えて、すげえ写真を撮るんだ。だから編集長も一目置いてな。でもしょっちゅうカメラを壊しやがるから修理代がな……」
「ふうん……」
ナイアルがぼやくと、アスカは感心したように呟いた。まあ、鉱山で鉱員達を守りながら戦ったアタシ達なら二人の護衛の依頼なんて楽勝よね、とアスカは思っていたのだが……。
4
通い慣れたマルガ山道の魔獣相手の戦闘は楽勝かと思われたが、意外にエステル達は苦戦する事になった。その原因はドロシーである。ドロシーは魔獣の迫力ある写真を撮りたいがために、エステル達の護衛をくぐり抜けて魔獣に近寄ってしまうのだ。
「可愛い表情ですねー、はい、チーズ!」
強力なフラッシュが炊かれて魔獣の目を眩ませる。しかし別方向から魔獣がドロシーに近づくので油断はできない。ドロシーを守るために魔獣との間に割って入るとドロシーがまた前に出てしまうと言う悪循環になっていた。
なんとかエステル達はマルガ山道を進み、翡翠の塔の入口までたどり着いた。
「ほえー、高い塔ですね」
ドロシーが感心したように声を出した。アスカとシンジはこの程度の高さのビルに慣れているが、リベール王国の人達にとってはこのぐらいの高さでも凄いものなのかと思った。
「この翡翠の塔はリベール王国が出来るかなり前、古代ゼムリア文明の時代に作られたものらしい。他のボース、ルーアン、ツァイスにも似たような塔があってな、俺達はその歴史を伝えるための取材をするのさ」
「ふうん、そんな地道な記事も書いているんだ」
真剣な眼差しになったナイアルの言葉を聞いて、アスカはそんな事を呟いた。居酒屋で見た時はゴシップ記事を書いていそうな三流記者だったが、あのリベール通信の記事を本当に書いているのかもしれないとアスカは思い始めた。
「よーし、じゃあまず塔をローアングルから撮ってみろ」
ナイアルに指示をされたドロシーは笑顔で返事を返した。エステル達はドロシーがどのように建物の写真を撮るのか興味深々だった。まさか魔獣と同じようには行くまいと思っていた。
カメラを構えたドロシーからは気迫のようなものが感じられた。引き締まった顔でカメラのファインダー越しに被写体を見つめている。見守るアスカ達もその緊張感に唾を飲み込んだ。
「ZZZ……」
立ったまま寝息を立て始めたドロシーに、エステル達はズッコケた。怒ったナイアルがドロシーを叩き起こした。どうやらドロシーはエステル達の前で格好をつけていたようだった。
「おおーっ、良い顔してますね。セクシーですね、とってもキュートです!」
まるでモデルを撮影するかのようなドロシーの振る舞いに、エステル達はポカンと口を開けた。ナイアルによれば、ドロシーには景色の“表情”が見えるらしい。写真を撮る事に関しては天才だとナイアルは呟いた。
塔の外観を撮ったエステル達は塔の中へと入る。倒しても倒しても、どこから魔獣が湧いてくるのか。先日もこの塔の魔獣を蹴散らしたばかりなのに、塔の中は魔獣がそこかしこに出現していた。
塔の4階でアスカ達は立派な宝箱を発見した。2年前にアスカとシンジが塔の屋上からカシウスと一緒に脱出した時は、塔の内部を詳しく探検する余裕は無かったし、先日ルックとパットを助けたのは塔の2階だった。アスカ達は喜んで宝箱を開けたが、魔獣を召還する《アラーム》の罠が仕掛けられていた。
出現した三体の魔獣は、風の導力魔法・エアストライクを詠唱する強敵だった。強風で煽られたアスカのスカートがめくれ上がり、「見たわね、シンジ!」「アスカの縞パンなんか洗濯の度に見て……ぐほっ」的なやり取りでシンジが余計にダメージを受けたりした。
そんなこんなで珍道中を繰り広げながらも、エステル達は何とか翡翠の塔の屋上までたどり着いた。久しぶりに見る青空に、エステル達の心も開放的になる。
「うーん、光が眩しい!」
「ジメジメした空気からやっと解放されたわね」
エステルとアスカはそう言って伸びをした。ドロシーとナイアルの二人も眺望の素晴らしさに感動の声を上げた。ナイアルの目的は塔の頂上からの景色もあるが、主な目的は塔の頂上にある巨大なオーブメント仕掛けの装置のようだ。ナイアルの資料によると、古代ゼムリア時代の遺物らしい。使用目的は不明らしいが、アスカとシンジは自分達がこの世界に《召喚》された事と関係があると思った。
誰もが古代の装置の荘厳さに心を奪われている中、ヨシュアだけは警戒を強めた表情で、屋上を探っていた。不思議そうに首を捻るエステル達の前で、ヨシュアは大きな声で呼びかけた。
「隠れてないで、出て来てください。素直に出て来た方が身のためですよ!」
「す、すみません、今出て行きますから!」
屋上の物陰から姿を現したのは、青い髪の金縁の眼鏡をかけた男性だった。服装こそ質素なものだが、金縁の眼鏡と落ち着いた服装は清貧なものを感じさせる。
「持っているお金は全て出しますから、命だけはお助け下さい!」
怯えてペコペコと頭を下げる男性に、アスカはあきれた顔でため息を吐き出した。
「ちょっとオジサン、こんなカワイイ顔の盗賊が居ると思う?」
そう言ってアスカは身に着けている準遊撃士の紋章を指差した。その紋章を見た男性は、安心したように息を吐き出した。こんな所で何をしているのか問い質された男性は、考古学者のアルバと名乗った。アルバ教授は古代文明の研究をするため、この塔の屋上の装置を調べに来たのだと釈明した。
たった一人で翡翠の塔を抜けて屋上まで行くとはただ者ではないと驚くエステル達だったが、アルバ教授は魔獣から逃げる事には自信があると涼しい顔で話した。
「考古学者の先生なら、この塔の事については詳しいのかい?」
ナイアルがアルバ教授にそう尋ねると、人並み以上には、と前置きして、《セプト=テリオン》と言う古代人が女神エイドスから授かった、『七つの至宝』について話し始めた。
古代人はその至宝を使い、時空を支配する力を手に入れたのだと言う。さらに、生命の神秘を解き明かし、人間の遺伝子操作まで行うほどだったが、およそ1200年前、謎の災厄によって古代文明が滅びた時、《セプト=テリオン》も失われたらしい。
「それで、それがこの塔と何の関係があるって言うの?」
自分達が召喚された謎の正体に迫れるかもしれないと、アスカは前のめりにアルバ教授に尋ねた。アルバ教授は《セプト=テリオン》の一つがリベール王国にあると言う伝承を話した。その至宝の名前は『輝く輪』(オーリオール)。その伝承が真実ならば、この塔にも手がかりがあると考えたアルバ教授は調査に来たのだと話した。しかし、調査の結果は結局分からずじまいとの事だった。
「面白い話だったが、結局証拠の無い夢物語って事か」
ナイアルは落胆を隠さずに大きなため息を付いた。記事にするには材料が不足しているらしい。案外真面目に記事を書いているのだと、アスカは心の中で感心した。しかしナイアルは装置の謎が解けない事も想定していて、ドロシーに屋上からの写真を撮るように指示した。全てドロシーの感性に任せるらしい。
ナイアルの指示を聞いたドロシーは元気な笑顔になって塔の屋上のそこらじゅうを駆けまわり、写真を撮っていた。ドロシーが写真を撮っている間、エステル達は休憩する事にした。
「ほら、良い眺めよ」
「ボクは遠慮しておくよ」
「そう言えばアンタ、高所恐怖症の気があったっけ」
アスカは塔の屋上からの景色を楽しんでいたが、シンジは屋上の端には寄らず、真ん中から動こうとしなかった。エステルとヨシュアは並んで屋上から下を見下ろしていたが、エステルはヨシュアが青い顔をしている事に気が付いた。
「あれ、ヨシュアも高所恐怖症だったっけ?」
「いや、そうじゃないけど……屋上に出てから、ちょっと気分が悪くなってね」
笑顔を作って答えるヨシュアに、エステルは自分のおでこを突き出して、ヨシュアのおでこに当てた。その突飛な行動に、ヨシュアは辺りに響く驚きの声を上げた。
「ちょっと、エステル!?」
「うん、熱が少しあるかもしれないわね」
くっ付けていたおでこを離したエステルはそう呟く。ヨシュアの熱が上がったのはエステル、お前のせいだよ、とアスカを始め塔の屋上に居た全員が心の中でツッコミを入れた。
自分は休んでいるから、他の所を見て回って良いよと言われたエステル達はヨシュアから離れる事にした。アルバ教授がヨシュアの体調を気遣ってか、ヨシュアに声を掛けていた。
屋上でタバコを吸っているナイアルからも王国の情勢について話を聞いた。ボース地方では空賊による強盗事件が多発しているらしい。王都の王国軍にも、《情報部》と言う新しい独立部隊を作る話が持ち上がっているらしい。
再び装置を調べ始めたアルバ教授によると、この翡翠の塔以外にもリベール王国には三つの塔が存在しているらしい。ボース地方の《琥珀の塔》、ルーアン地方の《紺碧の塔》、ツァイス地方の《紅蓮の塔》と合せて《四輪の塔》と呼ばれている。この翡翠の塔以外にも、光の柱が降りて来た現象が見られたそうだ。となると、アスカとシンジ以外にこの世界に召喚された者が居る可能性は高くなった。しかしそれ以上の詳しい話はアルバ教授にも分からなかった。
「そうだ、みんな、写真を撮らない?」
思い付いたようにドロシーがそう提案した。リベール通信の表紙を飾っちゃうかもよ、とドロシーが言うと、エステル達は恥ずかしいと渋ったが、私的な写真で記事には使わない、後で写真を送ると説得すると、エステルとアスカが前でかがみ、その後ろにヨシュアとシンジが立ち、両端にアルバ教授とナイアルが映る集合写真が撮影されたのだった。
5
「いやぁ、本当に助かりました」
ロレントの街に戻ったアルバ教授はエステル達に礼を述べた。最初から遊撃士を雇えば良いのに、とアスカが言うと、アルバ教授は財布と相談してみる、と笑ってごまかして去って行った。ナイアルは原稿をまとめるため、ドロシーは撮った写真を現像するためにエステル達と別れた。
「父さんからの代理の依頼もこれで終わりね」
「色々勉強になった気がするよ」
エステルがホッと漏らした呟きに、シンジも同調した。エステルは塔の屋上で体調を崩したヨシュアの事を気遣ったが、すっかりヨシュアは調子が良くなったと言うのでそのまま遊撃士協会へと行く事にした。
「あら、四人とも」
遊撃士協会に戻ったエステル達はシェラザードと顔を合わせた。シェラザードもカシウスの代理で受けた依頼を全て終えたところだと言う。エステル達も依頼を終えた事を話すと、シェラザードはしごいた甲斐があったと笑みを浮かべた。
「でもこの程度で満足しちゃダメよ。もっともっと、頑張りなさい」
「もちろん、大陸一の遊撃士になってやるんだから!」
シェラザードの言葉に、アスカは胸を張ってそう答えた。アスカに妥協と言う言葉は似合わない、とシンジは思った。それにはエステルとヨシュアも同意するだろう。アイナはカシウス宛ての依頼が早く解決したことに感謝の意をシェラザードとエステル達に伝えた。
「これでしばらくはのんびり出来るんじゃないかしら」
「うーん、それはそれで退屈しそうね」
アイナの言葉に、エステルは面白く無さそうな顔でぼやいた。しかし魔獣退治や街の人々のお悩み解決など遊撃士がする事はいくらでもある。
「よぉーし、今夜は思いっきり飲むわよっ!」
依頼が一区切りついたシェラザードは満面の笑みでそう言い放った。そしてエステル達も付き合うように誘って来た。酔っぱらったシェラザードの相手をするのは嫌だとエステル達は渋い顔になる。シェラザードの酒癖の悪さはロレントでも有名だ。騒いで踊って、挙句の果てには脱ごうとする。アスカはシンジの教育に良くないと激怒していた。アイナもそのシェラザードの行動にはあきれていた。
「何だったら、シンジとヨシュアには大人の恋愛講座をしてあげてもいいのよ」
「こらっ、シンジ! 何をデレデレしているのよ!」
シェラザードに顔を迫られてドギマギするシンジの背中を、アスカは思い切り引っぱたいた。そんな雰囲気を吹き飛ばす緊迫した声が、遊撃士協会へと飛び込んで来た。
「た、大変だあ!」
声の主はクラウス市長だった。よっぽど慌てて来たらしく、肩で激しく息をしている。エステル達にシェラザードまでそろっている所を見ると、クラウス市長は渡りに船とばかりに声を掛ける。
「家が留守の時に、私が強盗に入ったらしいのだ!」
クラウス市長の告白とも言える発言に、遊撃士協会の空気は凍り付くのだった。
丁寧に原作をなぞっていますが、どうでしょうか。
次回かその次辺りででロレント地方編は終了となります。
キャラクターの魅力は伝わりましたでしょうか。
個人的にはエステルとヨシュアのペアだから物語が成立するのであって、アスカとシンジが入り込む隙が無いんじゃないかなとすごく悩んでおります。
でもドラクエは4人パーティだし、無理って事はないと思うのですが……。
空の軌跡の脇役キャラクター達に魅力を感じてくださる方がいるのなら、しんどくても今のペースで行こうと思います。でも正直どうなんだかわからないので、ご感想お待ちしております。