アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第十二話 琥珀の塔の不審者と囚われの女剣士

 

 オリビエと名乗った青年は、リュートを鳴らして涼やかな声で、

 

「君達に歌をプレゼントしよう。心の荒野を潤して、美しい花を咲かせられるような、そんな歌を……」

 

 そう言った。そして、『琥珀の愛』と曲名を宣言して歌を一曲披露した。エステル達も、モルガン将軍や兵士達も、あ然として曲を聞いていた。オリビエが歌い終わるまでの数分間、誰も声を立てず、身動き一つしなかった。静まり返ったハーケン門にはオリビエの奏でるリュートのメロディと歌声だけが響き渡った。

 

「みんな判ってくれたかい? 愛と平和が何よりも大切なもの、つまりラブ&ピース!」

 

 歌い終わったオリビエはそう言って自分の金髪をかき上げる。モルガン将軍は咳ばらいをすると「後は任せた、そいつらは放って置け」と言って兵舎の中へ戻って行った。逃げ出したい気持ちはエステル達も同じだった。

 

「フッ、どの国でも軍人が無粋なのは変わりないな。やはり、君達の方がボクの審美眼に合っているよ」

 

 そう言ってオリビエはエステル達の方を向くが、

 

「さあ、アタシ達もとっとと帰りましょ」

 

 アスカはオリビエの方を見向きもせず、エステル達を促してハーケン門を立ち去ろうとする。全員顔を見合わせて凍り付いたような作り笑いを浮かべ、ハーケン門を出て行った所で、オリビエは自分が放置された事に気が付いた。

 

「ちょっと君達、ま、待ちたまえ、いや、お願いだから待ってください!」

 

 オリビエは急ぎ足でエステル達を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 ボースの街まで息を切らしながら追い駆けて来たオリビエと、エステル達は喫茶店《キルシェ》でお茶を飲む事になった。

 

「君達、ひどいじゃないか。街道でもボクを無視して全力疾走だなんて」

「アンタ、意外と根性あるわね」

 

 ナンパな軟弱者だと思っていたアスカは、オリビエに対する認識を多少改めた。

 

「ハーケン門では、あたしも頭に血が上っていたから、あんたのおかげで冷静になれたわ。一応、お礼を言っておくわね」

 

 シェラザードもため息を付きながらだが、オリビエに好意的な視線を送った。

 

「じゃあ、そのお返しにボクと一日デートすると言うのはどうかな?」

「残念だけど、忙しいからそんな暇はないの」

 

 そうオリビエに素っ気なく答えるシェラザード。しかしアスカは、時間があればデートしてやってもいいかも? と言うシェラザードのオリビエを見る視線の変化に気が付いた。ボースの方角で運命の相手と出会うと言う彼女のタロット占いの結果が後押ししているのかもしれない。

 

「それなら、ヨシュア君はどうかな?」

「冗談は止めてください」

「いや、髪を伸ばせば結構イケるよ」

 

 顔を赤らめてそう言うオリビエに、ヨシュアはあきれ果てたようにため息を吐き出した。しかしシェラザードとアスカは、髪の毛を長く伸ばしたヨシュアを想像して、オリビエの言う事にも一理あるのではないかと思った。

 

「うーん、アスカ君とシンジ君の恋路を邪魔して、馬に蹴られるのは遠慮したいしなぁ」

 

 オリビエの言葉に、アスカとシンジはビクッと反応した。気の置けない家族として振舞っているが、傍から見ればそう思われるのか。そして、面白くないと頬を膨れさせていたのはエステルだった。

 

「どうして、あたしを誘わないのよ!」

「うーん、エステル君は素材としては申し分無いが……女性しての振る舞いをシェラザード君に学ぶべきだね」

 

 オリビエの言う通り、エステルは母親のレナ譲りの美貌を持っている。しかし中身は腕白少年に近い。スカートを履いているのに足を広げて座ってしまっている事からもそれが分る。パンツが見えないようにエステルにスパッツを履くように勧めているのはアスカの姉心からだった。

 

 

 

 

 ボースで観光をすると言うオリビエと別れたエステル達は遊撃士協会へと向かっていた。

 

「それにしても、オリビエって変な人だったね。エレボニア人ってみんなそうなのかな?」

「あ、あれを一般的なエレボニア人と思われるとショックだよ」

 

 エステルの呟きに、ヨシュアは慌てた様子で言った。

 

「何でアンタがショックを受けるのよ?」

 

 アスカがそんなヨシュアに不思議そうな顔で質問を投げ掛けた。ヨシュアは帝国には質実剛健を尊ぶ真面目な人達が多いと本で読んだ事があると説明した。それなら芸術家だから変人なのかとエステルが言うと、それは芸術家に失礼よ、とシェラザードが諫めた。

 

「モルガン将軍から情報を引き出せなかった事を、素直にルグラン爺さんに話すしかないわね」

 

 シェラザードは浮かない顔で深いため息をついた。自分の油断で、任務失敗となってしまったのは気が重い。その時、ふとシェラザードは自分の着ている服に違和感を感じた。すると自分の腰巻に手紙が挟まっている事に気が付いた。

 シェラザードが手紙を取り出すと、エステル達もその手紙の内容を確認しようとのぞき込む。その手紙には、軍による飛行船捜索の状況と、《カプア一家》が王家と通信社宛てに今回の事件の犯行声明と、行方不明になった定期飛行船の乗客の身代金要求を出した事が書かれていた。

 

「何よ、これ!?」

 

 手紙の内容を読んだアスカは驚きの声を上げた。それはエステル達がモルガン将軍から聞き出したかった情報そのものだった。シェラザードの服にこんな手紙をそっと忍ばせる事の出来る人物は、先ほど一緒にお茶を飲んだあの人物しかいない。

 

「ありがとう、あなた思ったよりもいい男じゃない」

 

 シェラザードはオリビエが立ち去った方向へ笑顔でそう呟いた。

 

 

 

 

 遊撃士協会でエステル達はルグラン老人に手紙から入手した情報を詳しく説明した。ルグラン老人はボース地方に潜伏する空賊《カプア一家》は、これまで小規模な強盗事件を起こしていたが、定期飛行船を乗っ取り、王家に身代金を要求するほど大胆不敵だとは思ってもみなかったと話した。

 エステル達もそのルグラン老人の意見に同意だった。ロレントでもジョゼット達は宝石強盗未遂事件を起こしていたが、定期飛行船誘拐を計画していたのならロレントまで出張って来る必要も無い。

 ルグラン老人はメイベル市長にも報告をした方が良いだろうとエステル達に話した。その助言に従ってエステル達が市長邸に向かうと、屋敷の前でメイドのリラ、そしてリベール通信の記者ナイアルとドロシーが話しているのが聞こえた。

 

「なあ、メイドのお嬢ちゃん。頼むから市長さんに会わせてくれよ」

「そうそう、ついでに写真もお願いします~」

 

 ナイアルとドロシーが頼み込んでも、リラはアポイントメントが無いと市長に会わせるわけにはいかないと拒否した。穏便に対処していたリラだったが、

 

「ナイアル先輩、ネタが無いなら美人市長さんのグラビアで誌面を飾ってしまえ~って言ってたじゃないですか」

 

 とドロシーがポロっと漏らすと、リラは心臓も凍らせるような冷たい視線で、

 

「お・か・え・り・く・だ・さ・い」

 

 とナイアルに言い放った。ナイアルはドロシーに「これ以上喋らないでくれ……」と話すと、肩を落としてすごすごと市長邸の前から立ち去る。「先輩、待ってくださーい」とドロシーもナイアルの後を追いかけて姿を消した。

 

「……あなた方は市長のお客様ですから、入って頂いて構いませんよ」

 

 リラはその様子を見ていたエステル達に声を掛けた。エステルは照れた表情をしながらリラに近づいた。

 

「あの……今の人達は?」

「お嬢様に近づく不届き者です。私の目が黒いうちは、指一本触れさせません」

 

 エステルの言葉にリラがそうキッパリと答えると、エステル達は顔を見合わせて苦笑した。屋敷に招き入れられたエステル達が二階にあるメイベル市長の部屋へ入ると、メイベル市長は机に積み上げられた書類に向かってうなり声を上げていた。

 

「あら、皆さん。戻ってらしたんですか?」

 

 メイベル市長は部屋に入って来たエステル達に気が付くと、顔を赤らめてそう話した。多忙なら出直すとヨシュアが言うと、メイベル市長は気にせずに入手した情報を報告して欲しいと促した。

 空賊団によるハイジャックと身代金の要求とは深刻な事態だ、とエステル達から話を聞いたメイベル市長は呟いた。エステル達がそれ以上の情報はつかめなかったと謝ると、事故でない事が分かっただけでも十分だ、とメイベル市長は礼を述べた。

 引き続き事件の調査をお願いできないかと言うメイベル市長の言葉に、エステル達は力強くうなずいた。

 

「アスカ、どうしたの?」

 

 エステルは考え込んだ表情になったアスカに不思議そうな顔で声を掛けた。

 

「あのカシウスのおっさんが、空賊ごときに遅れをとるとは思えないのよね」

「カシウスって、あのカシウス・ブライトでございまして!?」

 

 アスカの呟きを聞いたメイベル市長は、目を見開いてエステル達に尋ねた。エステルはうなずいて、カシウスが行方不明になった飛行船に乗っていたと話すと、メイベル市長は考え込むような表情で、「軍との交渉に使えるかも……」と呟いた。

 市長邸を出たエステル達は、市長邸の前で今後の活動方針について話し合った。

 

「ただ闇雲に飛行船や空賊団のアジトを探すだけでいいのなら、軍がとっくに見つけているはずだよね」

 

 エステルがそう意見を言うと、シェラザード達は目を丸くして驚いた表情になった。エステルは不思議そうな顔で四人の顔を見回す。

 

「エステル、成長したね……」

 

 ヨシュアは驚いたままの表情でそう呟いた。

 

「アンタの事だから、『しらみ潰しに探せばいーのよ』とでも言うと思っていたけど」

 

 アスカもうんうんと頷きながらそう言ってため息を吐き出す。

 

「まさかエステルからそんな言葉が聞けるなんて、お姉さん、感無量だわ……」

 

 シェラザードはハンカチを取り出して泣く仕草をした。シンジはさすがにそれはエステルがかわいそうだと、困った顔でアスカ達を見回していた。褒められた気がしないエステルはふてくされて頬を膨らませるのだった。

 

 

 

 

 ボースの街で情報収集をする事に決めたエステル達の耳に、気になる情報が飛び込んで来た。ボースの街の南にある《琥珀の塔》の屋上に光の柱が降り注いだのを目撃した町民がいたのだ。空賊団と関係はあるとは言い切れないが、アスカとシンジは琥珀の塔の調査に行きたいと強く主張した。自分達の知り合いがこの世界に“召喚”された可能性もあるからだ。

 エステル達はボースの街の南口からアンセル新道を通り、琥珀の塔の1階へと足を踏み入れた。すると塔の奥からボソボソと人の話す声が聞こえて来た。

 

「もしかしたら、ここがビンゴかもしれないわ」

 

 シェラザードは塔を調べてみる価値は十分にあると判断を下した。琥珀の塔に空賊が潜んでいるのか……それとも、光の柱と関係があるのか……。

 

 ◆琥珀の塔の不審者◆

 

 【依頼者】無し

 【報 酬】???? Mira

 【制 限】自己判断

 

 勝手に依頼を作って良いのかと心配するシンジに、シェラザードは他者からの依頼が無くても自己判断で仕事をする事もあると話した。それなら好きなだけBPを稼げる、とアスカはニヤリと笑ったが、事後承諾でも遊撃士協会が事件と認定しなければ依頼達成にならないと釘を刺した。BP稼ぎのために依頼をこなす遊撃士など、本末転倒もいい所である。

 琥珀の塔の魔獣との戦いでは、アスカの火属性の魔法が大活躍だった。ロレントでの活躍により準遊撃士7級に昇格したアスカは、『必殺1』と言う火のクオーツを入手していた。そのおかげで、火属性LV3のフレアアローまで使いこなせている。

 シンジもアスカに負けじと水属性LV3のアイシクルエッジを習得し、ティアラと言う中級回復魔法も使えるようになった。エステルとヨシュアは残ったクオーツを装備し、優秀なクオーツはアスカとシンジに譲っている。

 

「あっ、あの人……!」

 

 琥珀の塔の深部、5階の部屋で熱心に調査をしていたアルバ教授をエステルが見つけ、驚きの声を上げた。アルバ教授は部屋の中心にある大きなセプチウムの結晶に夢中になっていて周りの様子に気が付いていないようだ。そんなアルバ教授に、塔に住む魔獣達が襲い掛かる!

 エステル達はアルバ教授を助けるために魔獣達へと突撃をした。アスカのフレアアローが魔獣を焼き払い、シンジのティアラがアルバ教授が負った傷を癒した。武器の効きにくい敵だったが、エステル達も二人に負けじと残りの魔獣を倒すのだった。

 

「はあーっ、助かりました」

 

 腰を抜かしていたアルバ教授はエステル達にお礼を言った。エステル達はアルバ教授の無事な姿を見て緊張を解く。エステルはシェラザードに翡翠の塔でアルバ教授と知り合った事情を説明した。話し声がしたが、他に誰かいるのかと言うシェラザードの質問に、アルバ教授は調査中はつい自分の考えを口に出してしまうクセがあると照れくさそうに笑った。

 琥珀の塔に空賊達は居なかった。屋上の異変について何か知っているかとアルバ教授に尋ねると、調査はそこまで進んでいないと残念そうな顔で話した。エステル達は自分達の目で確かめようと屋上を調べたが、翡翠の塔と同じような装置があるだけで、何の手掛かりも見つけられなかった。仕方なくエステル達はアルバ教授をボースの街へと送り届けるため、琥珀の塔を出る事にした。

 

「いやあ、今回ばかりはダメかと思いました。研究費が出たので、お金は遊撃士協会に振り込んでおきますね」

 

 ボースの街に帰り着いたアルバ教授は改めてエステル達にお礼を言った。最初から遊撃士を雇いなさいよ、とアスカが言うと、アルバ教授は次回はそうします、と謝って去って行った。

 

 

 

 

 エステル達が琥珀の塔を去った直後、琥珀の塔の屋上には三人の人影があった。その内の二人は頭を覆うような黒い兜を被り、その素顔を見ることは出来ない。その二人は黒と白を基調とした服を着ていた。

 もう一人は白と赤を基調とした服を着た栗色の長い髪の少女だった。その少女は両腕に手錠を掛けられ、囚われの身である事を示している。その少女を捕えているのは両脇に立つ二人の黒兜の人物達だった。

 

「……どうやら気づかれてはいなかったようだな」

「見つかるか、ドッキドキだったわね、ロランス少尉」

 

二人の黒兜の人物のうち、紫がかった黒い長い髪を兜からのぞかせる方は女性、もう片方は男性のようだ。ロランス少尉と呼ばれた男性は、黒兜の中から女性兵士をにらみつけるように話す。

 

「馴れ馴れしくするな、サトミ軍曹。歳はお前の方が上かもしれないが、階級は俺の方が上だぞ」

「わっかりました、以後気を付けまーす」

 

 サトミ軍曹と呼ばれた女性兵士は、おどけて敬礼のポーズを取る。ロレンス少尉はこいつと行動していると余計に疲れる、とため息を吐き出した。上官の命令なのだから仕方が無い。

 そんな二人とは対照的な、絶望に満ちた暗い表情をしている囚われの栗色の髪の少女は、ポツリとつぶやいた。

 

「……助けて、キリト君……」

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