アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第十三話 大ピンチ? 捕まったアスカとエステル達!

 

 琥珀の塔の捜索が空振りに終わったエステル達は、ボースの街で再び情報収集をする事にした。すると居酒屋で飲んだくれているナイアルの姿を見つけた。

 

「ういっく、何だコンチクショーめ」

「うわっ、ベロンベロンに酔ってるわね」

 

 酒臭いナイアルを、アスカは不快そうに見つめてつぶやいた。酒は飲んでも飲まれるものではないとつぶやくシェラザードに、エステル達は冷や汗を浮かべた。酔っぱらったシェラザードは周囲を巻き込むクセがあるのだ。

 

「ナイアルさん、飲み過ぎは良くないですよ」

 

 冷たい水の入ったコップをナイアルに渡しながら、シンジは心配そうな顔でつぶやいた。水を飲み干したナイアルは痛む頭を押さえながら、エステル達の姿を認識するとぽかんと驚いた顔になった。

 

「新米遊撃士どもじゃないか……俺は知らないうちにロレントまで来ちまったのか?」

「寝ぼけないでよ、あたし達もボースに来たのよ」

 

 エステルが少しあきれた顔でそう言うと、ナイアルは胸に手を当てて分かりやすく安堵の息をもらした。そしてシェラザードの姿を見つけると、ハッキリと目を覚ましたように輝かせる。

 

「おい、あんたもしかして、『銀閃のシェラザード』か!?」

 

 自分の名前がリベール通信の記者にまで知られていると聞いたシェラザードは機嫌良さそうに笑みをこぼした。エステル達が飛行船失踪事件について調べているとナイアルに話すと、とっておきの情報があるとナイアルはニヤリと笑った。

 エステルがその情報を是非とも聞きたいと話すと、ナイアルはギブアンドテイクだろう? とほくそ笑んだ。

 

「事件に関する情報ならどんな些細な事でも構いません、今はどんな手掛かりでも良いから欲しいんです」

 

 シンジがすがるような目でそう言うと、ナイアルは「お、おう」と戸惑った表情で答えた。アスカはあのシンジの泣き落としには敵わないわね、と舌を巻いた。ナイアルが「情報は全部話してやるから!」と言うと、エステルとシェラザードとヨシュアは顔を見合わせて笑うのだった。

 ナイアルが提供する情報は二つあった。まず一つ目は、西の方にあるラヴェンヌ村での目撃情報。事件の夜、大きな飛行物体が村人に目撃されたらしい。しかし王国軍がラヴェンヌ村に赴いても、何の発見も無かったらしい。

期待していたエステル達から落胆の声が上がる。もう一つは、軍の『情報部』が動き始めている、と言う話だった。シェラザードも噂は聞いた事がある、と口にした。最近になって王国軍に結成されたばかりの情報収集・分析を行う部隊らしい。

 そのエリート組織をまとめるリシャール大佐は、かなり聡明な人物だと囁かれていて、今回の事件も彼らの手にかかれば直ぐに解決するのでは、と記者の間でも話されているとの事だ。

決定打に欠ける情報ではあったが、ナイアルから手掛かりを得たエステル達は、お返しに自分達の持っている情報を渡した。《カプア一家》の名前と飛行船ハイジャック事件の情報を得たナイアルは、このネタなら記事が書けると喜び勇んで居酒屋を出て行った。

 

 

 

 

 街で情報を集め終わったエステル達が遊撃士協会に立ち寄ると、掲示板に緊急の依頼が張り出されていた。

 

 ◆護衛の依頼◆

 

 【依頼者】ハルト

 【報 酬】1000 Mira

 【制 限】6級以上

 

 クローネ峠の関所まで護衛してくれる方を探しています。

 

 依頼者のハルトとは街の西口で待ち合わせた。西ボース街道を抜けたエステル達は難所と言われるクローネ山道へとたどり着いた。曲がりくねった山道は、数人が通れるほどの道幅しかない。行く手に立ち塞がる魔獣は全て倒して行かなければならなかった。

 峡谷を結ぶ吊り橋に差し掛かったエステルは、行く手で何かが動いた気がして歩みを止めた。すると、山の上から羊型の魔獣『ヒツジン』が四匹、転げ落ちて来てエステル達の前に立ち塞がった。

 魔獣達の待ち伏せだ! すると、ヨシュアの警戒する後方からもヒツジンが四匹迫って来た。吊り橋の上で魔獣達に挟まれる形になったエステル達。護衛の依頼主であるハルトはパニックに陥った。

 

「全力で正面突破よ、速攻!」

「そうね、戦力を分散させる方が危険だわ」

 

 アスカの意見にシェラザードも同意して、エステル達は正面のヒツジン四匹に向けて突撃した! ヒツジンはその羊のような外見に似合わず三段蹴りを食わせて来たが、アスカとエステルは棒術で強引に吊り橋の向こう岸までの道を切り開いた。

 ヒツジンは跳び回りながらお尻を叩いてエステル達を徴発する。これが返ってエステルとアスカの怒りに油を注ぐ結果になり、四匹のヒツジンは恐れをなして四散した。

 エステル達の後方に居たヒツジンも我先にと逃げ出し、周囲は静けさに包まれた。

 

「あれだけの魔獣に襲われて無事だったなんて信じられないよ……」

 

 依頼人のハルトは驚きと感心が入り混じったため息を吐き出した。遊撃士と言うのは強いんだね、とハルトが感想を述べると、エステルは照れくさそうに笑い、アスカは胸を張って澄まし顔になるのだった。

 

 ◆西ボース街道の手配魔獣◆

 

 【依頼者】遊撃士協会

 【報 酬】1200 Mira

 【制 限】6級以上

 

 西ボース街道に凶悪な魔獣【サンダークエイク】が出没中です。

 当支部所属遊撃士のすみやかなる退治を望みます。

 

 エステル達はボースへの帰り道、格上の手配魔獣退治に挑戦した。ヨシュアは土属性の魔法を強化し、シンジは魔獣の雷攻撃によってエステル達が負った傷をティア系の回復魔法で絶え間なく癒す。四人の戦闘能力は向上して来ている、とシェラザードは嬉しく思う反面、自分の元を離れる時を感じて寂しさも覚えるのだった。

 

 

 

 

 緊急の依頼をこなして遊撃士協会に報告したエステル達は、巨大な飛行物体の目撃証言のあったラヴェンヌ村へ行く事にした。王国軍が一度捜索した場所であるが、他に手掛かりも無く、ダメ元で行ってみる事にしたのだ。

ラヴェンヌ村に向かう山道で、エステル達は大きな剣を背負った赤毛に緑のバンダナを被った青年と出会った。

 

「シェラザードか。ボースで会うなんて珍しいな」

「あんたも、王都方面に居たと思ったけど?」

 

 赤毛の青年とシェラザードは知り合いの様だった。例の事件を調べに来たのかとシェラザードが尋ねると、いや、妹の墓参りにな、と赤毛の青年は答えた。

 

「まあ例の事件はお前に任せておけば大丈夫だろう」

 

 そう言い放った赤毛の青年に、シェラザードは眉間にしわを寄せてなじった。

 

「冷たい事言うのね。カシウス先生が捕まっているかもしれないってあんたもルグラン爺さんから聞いていないの?」

 

 そのシェラザードの言葉を聞いたアガットは腹を抱えて大きな笑い声を上げた。

 

「冗談キツイぜ。あのカシウス・ブライトが捕まるなんてよ!」

「あたしも冗談で済めばいいと思っているけど」

 

 シェラザードはそう言ってため息を付いた。エステル達はこの体格の良い長身の男は何者なのか気になっていた。正遊撃士の紋章を着けている事から、その身分は分る。赤毛の青年はエステル達に気が付くと、シェラザードに尋ねる。

 

「そのガキどもは何だ? 見たところ、見習いみたいだな」

 

 エステル達も準遊撃士の紋章を付けている。四人ともカシウスに指導を受けた自分の直弟子だとシェラザードが自慢げに話すと、赤毛の青年は驚いた顔でエステル達を見た後、値踏みするかのように真剣な眼差しで見回した。

 

「フン、見たところ四人でも半人前だな。本当におっさんの弟子かよ」

「あ、あんですってー!」

 

 バカにされたエステルは赤毛の青年に向かって怒って抗議の声を上げた。アスカは黙って静かな怒りを溜めた視線を赤毛の青年にぶつけた。

 

「彼女は正真正銘、カシウス・ブライトの娘ですよ。僕達三人は養子ですけど」

「そんなのどうだっていいさ」

 

 ヨシュアが穏やかな笑顔で言うと、赤毛の青年は興味が無さそうな感じで答えた。じゃあな、と素っ気なく手を後ろ手に振って赤毛の青年が立ち去ると、アスカはイラついたように足元の小石を蹴り上げた。

 

「何なのアイツ、ムカつくヤローね!」

「《重剣のアガット》、特定の支部に所属しないで活動を行う正遊撃士よ。彼の得物は魔獣を一刀両断にするほどの質量のある大剣。凄腕の剣士よ」

 

 シェラザードの解説を聞いても、アスカは腹の虫が収まらない様だ。シンジが不思議そうな顔をしてシェラザードに尋ねる。

 

「なんか、カシウスさんの知り合いみたいでしたけど」

「彼は過去に色々あってね……先生に対しては突っ張るのよ」

 

 困った顔でシェラザードはそう言った。エステルとアスカはそんな失礼な奴の事なんてどうでもいい、と先を急ぐ様に言うのだった。

 

 

 

 

 ラヴェンヌ村に着いたエステル達は、大きな飛行物体を目撃した村人に詳しい話を聞く事にした。いきなり話を聞いて回るのではなく、村長に話を通してからの方が良いと言うシェラザードの意見で、まずエステル達は村長の家を訪ねる事にした。

 エステル達が村長に遊撃士だと名乗ると、村長はアガットの仲間なのかと尋ねた。

 

「確かに彼とは同僚であるけど、一緒に行動はしていないわ。顔見知り程度ね」

 

 シェラザードがそう答えると、村長は悲しそうな顔で「あいつは相変わらず独りで居るのか……」とつぶやいた。そして村長はエステル達にこの村に何の用で来たのか尋ねた。

 定期船消失事件の調査で、大きな飛行物体の目撃情報がこの村であったので詳しい話を聞きに来たとヨシュアが言うと、目撃者はルゥイと言う村の男の子だと言う。事件の夜に怪しげな影を見たらしいが、子供の言う事だ、信用は出来ない、と話した。

 その子供から話を聞きたいとエステルが話すと、村長は快諾した。しかしこの辺りを捜索するならば、村の奥にある山道に凶暴な魔獣が出るから注意した方が良いと話した。遊撃士協会に退治の依頼をしようかと考えていた所だと言う。

 

 ◆山道の魔獣捜索◆

 

 【依頼者】ライゼン村長

 【報 酬】1500 Mira

 【制 限】直接依頼

 

 エステル達は快く魔獣退治の依頼を引き受けた。その魔獣は山道で突然奇襲を仕掛けて来るのだと言う。村人が安心して暮らせるようにして欲しい、と村長に頼まれた。

 目撃者のルゥイ少年は村の桟橋で池の水面を眺めていた。エステル達が声を掛けると、胸に着けられた遊撃士の紋章を見て、アガット兄ちゃんと同じ遊撃士だ! と興奮して声を上げた。

 しかし君が見た大きな黒い影の事を聞きたいんだ、とヨシュアが言うと、ルゥイの表情は暗くなった。王国軍が捜索しても何も見つからなかったため、ルゥイ少年はきつく兵士に叱られたらしい。

 

「お姉ちゃん達は怒らないから、ねえ、聞かせて?」

 

 優しく明るく微笑みかけるエステルを見て、ルゥイ少年は安心したように話し始めた。ルゥイ少年は夜空を眺めて星を見るのが好きなのだと話した。そして事件のあった日の夜、夜空を二つの影が移動するのを見かけたのだと言う。

 

「えっ、空飛ぶ影って二つあったの?」

 

 驚いたアスカが口を挟んで質問すると、ルゥイ少年はうなずいて、大きい影と小さい影だったと話した。定期船と空賊艇と考えると道理が通る。ロレントのミストヴァルトの森でエステル達の前に現れた飛行艇は小型だったと、ヨシュアも意見を述べた。その二つの影は北の方へと飛んで行ったとルゥイ少年は話した。

 村から北の方角と言えば、村の奥のラヴェンヌ廃坑に続く山道だ。兵士達による捜索が行われたが、何も見つからなかったらしい。そう言って涙目になったルゥイ少年をエステルは優しく抱いた。

 

「お姉ちゃん達が、君はウソつきなんかじゃないって証明してあげるから、泣いちゃダメだぞ!」

 

 エステルがそう言うと、ルゥイ少年は泣き止んで、ぱあっと晴れやかな笑顔を見せた。これもエステルの人徳かな、とシェラザードとヨシュアは顔を見合わせて思うのだった。

 

 

 

 

 エステル達がラヴェンヌ山道に入ってからしばらくすると、道の前方から大きな土煙が舞い上がった! そしてクワガタの様な鋭い牙を持った大型魔獣が飛び跳ねながら近づいて来る、間違いない、こいつがライゼン村長が言っていた魔獣だとエステル達は確信した。

 堅くて武器攻撃が通じにくいと判断したアスカは魔法の詠唱に入るが、詠唱を察知した魔獣がアスカに跳びかかる!

 

「くっ!」

 

 アスカをかばって、背中に魔獣の攻撃を受けるシンジ。

 

「バカ、無理しちゃって……」

 

 優しい声でアスカはそう呟くと、シンジの作ってくれたチャンスを逃すまいとフレアアローを大型魔獣に叩き込む! 

 その後エステルが魔獣を抑えている間にヨシュアとシェラザードも魔法を叩き込み、大型魔獣は息絶えた。魔獣は自分達の足音を聞きつけて襲って来たらしいとシェラザードは推測した。村人達に被害が出る前で良かった、とエステル達は胸をなでおろすのだった。

 その後エステル達は山道をくまなく探すが、空賊の手掛かりらしきものが見つからないままラヴェンヌ廃坑の入口まで来てしまった。ラヴェンヌ廃坑の入口には鍵が掛けられており、錆び付いた鍵が開けられた形跡が無い。それは王国軍の調査が及んでいない事を意味していた。

 

「この中、メチャクチャ気にならない?」

「その気持ちは分るけど、鍵を壊して中に入ろうなんて思わない事だね」

 

 ヨシュアに先回りされ、エステルはぎくりとした。君の考える事はお見通しだよ、と言っているようだった。エステル達は山道の魔獣退治の報告も兼ねて、村長の所へ廃坑の入口の鍵を借りに戻る事にした。

 ライゼン村長はエステル達の報告に大いに喜び、廃坑の入口の鍵も快く貸してくれた。何か見つけたら報告します、と言ってエステル達はまた山道を通ってラヴェンヌ廃坑の入口まで戻った。

 エステルが廃坑の入口の南京錠に鍵を差し込むと、廃坑の入口の扉を縛っていた鎖は解けた。

 

「これで中に入れるわね」

「中には空賊が居るとは限らないけど、魔獣は必ずいるわ。気を引き締めて慎重に進みなさい」

 

 シェラザードは心が急ぐエステルに忠告をしながら、廃坑の中に足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 廃坑に住み着いた魔獣は堅いが、導力魔法には弱かった。アスカとシンジは手慣れた様子で導力魔法で魔獣を倒して行く。EPを無駄にしない威力の魔法の運用も出来るようになってきたようだ。

 そして廃坑の奥に進んだエステル達の前に眩しい陽の光が飛び込んで来た。どうやらこの開けた場所は空が見えるようだ。

 

「……みんな、静かにしなさい」

 

 シェラザードが注意を促す理由が、エステル達にも分かった。この光差す広場には、行方不明になった飛行船と空賊の飛行艇、そして空賊達の姿があった。

 

「お前達、運ぶのは食料品と貴重品を優先するんだ。急げ、連中が来るまで時間が無いぞ」

「合点承知の助!」

 

 空賊の男達に指示を出しているのはジョゼットの兄、キールだった。ここに定期飛行船があると言う事は、ルゥイ少年の話は本当だった事になる。どうやら空賊達は定期船の積み荷を自分達の飛行艇に運び込んでいるようだ。

 

「やれやれ、これで何往復目だ?」

 

 キールはウンザリした顔でため息を付いた。全く俺達の兄貴は人使いが荒いぜ、と独りごちる。

 

「まあこれで最後だ。後は帰ってゆっくりと……」

「そこまでよ!」

 

 エステルがそう叫んで、キール達の前に躍り出る。

 

「この世の悪を倒せと、この手が真っ赤に燃える! 正義を貫けと輝き叫ぶ!」

「バカっ!」

 

 調子に乗って名乗りを上げるエステルの頭を、アスカが叩いた。キールと空賊達はあ然とした顔でエステル達の顔を見つめた。

 

「お前達は、ジョゼットとやり合った連中だな!」

 

 冷静を取り戻したキールが剣を振り上げた。

 

「キールさん、どうしてこんなに早く奴らが来るんですかい?」

 

 空賊の男達は明らかに動揺していた。エステル達にはその空賊達の言葉の意味は解らなかったが、遊撃士として逮捕すると宣言した。

 

「お前達、相手は女子供だけだ! 奴らとは関係無い、やってしまえ!」

「イエッサー!」

 

 キールの言葉に鼓舞された空賊達もエステル達に向かって進撃し、会戦の火蓋は切って落とされた。固まって攻撃を加えようとする空賊達はシェラザードの導力魔法、エアリアルの良い的だ。空賊達はナイフを握っていた手を痛そうに押えて呻き声を上げた。

 

「なかなかやるな、ジョゼットを負かせただけの事はある」

「フン、大人しく降参して人質を解放しなさい!」

 

 アスカは導力魔法を詠唱しながらキール達に降伏を迫った。空賊達は膝を折って抵抗する力を失っていた。しかしアスカの言葉を聞いたキールは大きな笑い声を立てた。

 

「ハハハ、お前達は何も知らないらしいな!」

「あ、あんですってー!?」

 

 キールが煙幕弾を投げると、エステル達の視界が真っ白になった。

 

「しまった、煙幕!?」

 

 シェラザードの叫び声がする。そして煙が収まった頃、空賊達を乗せた飛行艇は飛び立って行った。

 

「あばよ、遊撃士諸君!」

 

 キールの勝ち誇った声が空に響き渡るのだった……。

 

 

 

 

「一度ならず、二度も犯人を取り逃がすなんて、こりゃあ、ランクダウンされても文句は言えないわね」

 

 飛行艇が消え去った方を見て、シェラザードは深いため息を付いた。

 

「えっ、遊撃士ランクって降格もあるの?」

 

 アスカが驚いて尋ねると、重苦しい表情をしたシェラザードは黙ってうなずいた。

 

「じゃあ今回はボク達の連帯責任だね」

 

 シンジが悲しそうな顔でつぶやくと、アスカは悔しそうに指を嚙んだ。シェラザード一人に責任を負わせられる話ではない。

 

「シェラ姉、あたし達は落ち込んでいるヒマなんかないわ、やれる事をやらなきゃ!」

 

 落ち込んだシェラザードの肩をそう言ってエステルが叩いた。

 

「ふふ、エステルに励まされるなんてね」

 

 元気を取り戻したシェラザードは早速飛行船の調査を開始しようと提案した。定期飛行船《リンデ号》の貨物室の中はガランとしていた。積み荷は空賊達が持ち去ったのだろう。運転席にも、客室にも、人の姿は見つからなかった。

 

「はぁーっ、やっぱり手掛かりは何もないか」

 

 船内の捜索を終えたエステルは、定期船の甲板でため息を付いた。

 

「そうとも言えないわ。ヤツラ、定期船の導力エンジンを抜き取っていたみたいだし」

 

 アスカは何か気が付いた様子だった。シェラザードも同じ考えだったらしく、ヨシュアと顔を見合わせる。そしてシンジに、なぜ定期船をここに置き去りにして小型飛空艇で荷物を運ぶような手間がかかる事をしたのか問い掛ける。

 

「えっ、ボクが答えるんですか?」

「そう、遊撃士は主体性を持って行動するのが大事よ」

 

 シェラザードはシンジが物事の判断を、アスカに頼っている部分があると考えた。協力関係と言えば聞こえが良いが、二人が別行動をとる事もこれから先あり得るのだ。シンジの自立を促すのもあたしの師匠としての最後の役目だ、とシェラザードは思った。

 

 ◆六択クイズ◆

 

 定期飛行船をこの場所に置いた理由は?

 

 積み荷の選別をするため

 人質を空賊艇に移すため

 導力エンジンを奪うため

 王国軍の捜索から逃れるため

 アジトが特殊な場所にあるため

 ラヴェンヌ村に協力者が居るため 

 

 ※遊撃士としての資質を試すクイズです。

  正解するとBPが多くもらえるので挑戦してみてください。

 

 

 

 

 シンジはアスカに助けを求めるような視線を送ったが、アスカは黙って首を横に振った。『自分で考え、自分で行動して生きて行くの』この言葉はアスカがエヴァンゲリオンのパイロットだった時もシンジに話していた。

 ヒントの一つでも貰えたら楽なのに、と思ったシンジだが、同時に他人に判断を委ねて楽をしようとしている自分にも気が付いた。シンジはシェラザードは質問をしたのは、正解するかどうかに重きを置いていない、自分で考えて結論を出す事が大事なんだと気が付いた。

 どうして空賊は定期飛行船を自分達のアジトに置かなかったのか、アジトに置けば積み荷の選別はゆっくりできるし、こうして遊撃士に見つかるリスクも無かったはずだ。もしかして、王国軍が廃坑を調べない事を、前もって分かっていたから?

 シンジの考えが正しければ、王国軍の内部に空賊の仲間が居る事になる。しかしシンジにはあのモルガン将軍が空賊に協力するような人物だとは思えなかった。するとこの考えは間違っているのか、とシンジは頭を切り替えた。

 

「アジトが飛行船が止められないような場所にあるからだと思います」

 

 シンジがそう言うと、シェラザードは「正解!」と言って嬉しそうに指を鳴らした。空賊のアジトは10~15アージュの小型の飛行艇のみ着陸できる特殊な場所にあるのではないかと、シェラザードは推論を話した。

 

「すると山岳や峡谷の様な複雑に入り組んだ場所が怪しいですね」

 

 ヨシュアの言葉にシェラザードはうなずいた。しかし、空からしか行けない歩いてたどり着けない場所にアジトがあってはお手上げである。王国軍なら警備飛行艇を所有しているが、自分達は持っていない。

 とりあえず遊撃士協会に戻り、ルグラン老人を交えて善後策を練るしかないと考えたエステル達は飛行船を出る事にした。しかし、飛行船を出たエステル達は驚きの声を上げて固まった。王国軍の兵士達が飛行船を出た自分達に銃剣を向けていたのだ。取り囲む王国軍の兵士は軽く数えただけで二十人は居る。

 

「空賊め、大人しく手を上げろ!」

 

 王国軍は自分達を空賊だと勘違いしているようだ。誤解を解こうと、エステルは遊撃士の紋章を王国軍に向かって突き出した。

 

「フン、遊撃士の紋章が身の潔白の証拠になるものか!」

 

 そう言って姿を現したのはモルガン将軍だった。どうしてモルガン将軍がここに現れたのか不思議でならないと言ったエステル達に答えるかの様に、モルガン将軍は調査が不十分と思われた各地の再調査を行っていた、と話した。

 

「お前達が空賊の仲間だとは、さすがに思わなかったがな」

「アタシ達は空賊の仲間なんかじゃないわよ!」

 

 モルガン将軍の言葉にアスカは猛烈に抗議した。

 

「それならば空賊どもはどこにいる?」

「あと一歩の所で逃げられてしまいました……」

 

 ヨシュアがモルガン将軍の質問にそう答えると、モルガン将軍は声を上げて笑い出した。棒を握るエステルの手の力が強まる。殴りかかりたいのを必死にこらえているのが分った。

 

「見苦しい言い訳だな。我々がやって来ることを、おぬしらが空賊に報せたのだろう」

 

 もうエステルの我慢も限界だった。持っていた棒をモルガン将軍に向かって突き付けてしまったため、エステル達は王国軍に現行犯逮捕されてしまうのだった……。

 

 

 

 

 王国軍の警備飛行艇でハーケン門へと連行されたエステル達は、男女別に分かれた牢屋に収監された。明日の朝、モルガン将軍により尋問が行われると兵士から聞かされたアスカは、絶望的な気持ちになった。

 罪人となってしまっては、遊撃士としての輝かしい未来も、そして何より……シンジと会う事が出来なくなってしまう。使徒に飲み込まれた自分を、命を懸けて助けようと追いかけてくれたシンジ。

 この二年間、いつも側に居て、同じ釜の飯を食う仲だったシンジとの別れが唐突に訪れる事になるとは、アスカにとって思ってもみなかった。もう少しシンジに優しくしてあげたら……自分の素直な気持ちを伝えてあげたら……二回目のキスをしてあげたら……とアスカの後悔は尽きず、自然と目から涙があふれて来た。

 

「アスカ、泣いているの?」

 

 エステルに聞かれたアスカは、たまらずエステルの胸に飛び込んだ。

 

「軍が空賊団を逮捕すれば、あたし達の疑いは晴れるわよ」

 

 シェラザードはそう言ってアスカを励まそうとしたが、アスカの涙は止まらない。

 

「そんなの無理よ……空賊団のヤツラが言っていた言葉の意味、シェラだって分ってるでしょう?」

「ええ、軍内部に空賊の仲間が居る」

 

 アスカの涙声に、シェラザードはため息を吐き出してそう答えた。

 

「そうだとしたら、軍に空賊団を捕まえるのは無理じゃない!」

 

 アスカを抱きかかえたままのエステルは、そう言って憤りをあらわにした。

 

「打つ手無しってところね……こんな時、先生ならどうするのかしら」

 

 シェラザードは深々とため息を付いた。そしてアスカのすすり泣く声が地下牢に響いていた。

 

 

 

10

 

 その頃、ヨシュアとシンジが収監された牢屋には先客が居た。このハーケン門で出会い、ボースの街で別れたオリビエである。オリビエは聞かれてもいないのに、自分が牢屋に入れられることになった顛末をペラペラと話し出した。

 そのオリビエの流れるような話し声は、隣の牢屋から漏れ聞こえてくるはずのアスカの嗚咽をシンジの耳に届くのを遮った。しかしそれがシンジにとって精神衛生上良かったのかもしれない。

 アスカの泣き声が聞こえていたら、シンジも正常な心理状態ではいられなかっただろう。自分が追い続けたアスカと離れる事は、シンジにとっても大きな不安になったからだ。

 オリビエの長い長い独壇場は、シンジとヨシュアにとって子守唄のようなものだった。疲れていた事もあり、まぶたが閉じていく。

 

「……これがボクがこの牢屋に閉じ込められる事になった悲劇的物語の一部始終さ、さあっ! 思う存分涙を流してくれたまえ!」

 

 オリビエが気が付くと、ヨシュアとシンジは寝息を立てており。隣からは誰かのすすり泣きが聞こえる妙な状況となった。

 

「……とりあえず、これでいいのかな? そっちは任せたよ、シェラザード君」

 

 オリビエはそう呟くと、自分も眠りに就くのだった。




 ◆六択クイズ◆ の答え

 定期飛行船をこの場所に置いた理由は?

 積み荷の選別をするため
 人質を空賊艇に移すため
 導力エンジンを奪うため
 王国軍の捜索から逃れるため
〇アジトが特殊な場所にあるため
 ラヴェンヌ村に協力者が居るため 
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