アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第十五話 水色の髪の少女と銀髪の少年

 

 エステル達は喜び勇んでヴァレリア湖畔を目指したが、行く手には手配魔獣が立ちはだかっていた。

 

 ◆アンセル新道の手配魔獣◆

 

 【依頼者】遊撃士協会

 【報 酬】1500 Mira

 【制 限】6級以上

 

 アンセル新道に凶暴な魔獣【アンバータートル】が出没中です。

 当支部所属遊撃士のすみやかなる退治を望みます。

 

 武器攻撃も火属性以外の魔法も効きにくい魔獣がなんと六匹。エステル達はウンザリとした顔になった。しかし、美味しい料理と釣りが待っている、と自分達を奮い立たせ、エステル達はアスカの火属性魔法ヒートウェイブの範囲内に魔獣達を引き付ける作戦を取り、魔獣を一掃した。

 

「ザッとこんなもんよ!」

 

 火属性の魔法を詠唱したアスカは得意げに胸を張った。

 

「アスカ、自分一人の手柄じゃないんだからね」

「分かってるわよ、あ、ありがと……」

 

 シンジにたしなめられたアスカはぎこちなくではあるが共に戦ったメンバーにお礼を言うのだった。

 ヴァレリア湖の北岸に建つ宿屋の名前は《川蝉亭》。二階建てのコテージを数軒合わせたような大き目の建物だ。湖に突き出した桟橋からは釣り人達が糸を垂らしている。

 

「雰囲気の良い所じゃない」

 

 エステルは静かな湖畔を見回してそうつぶやいた。

 

「あたしはこの宿に泊まった事があるけど、お酒は美味しいし、部屋も良かったわ」

「仕事が終わったら、泊ってもいい?」

 

 シェラザードがそう言うと、アスカは上目遣いで許可を求めた。どうやらこの宿が気に入ったようだ。

 

「さあ、早く事件を解決してバカンスを楽しもうじゃないか!」

「なにアンタが仕切ってるのよ!」

 

 髪をかき上げてオリビエが声高らかに宣言すると、アスカは怒った顔でツッコミを入れた。シェラザードがパンパンと手を叩く。

 

「とりあえず、怪しい集団の目撃者に話を聞きに行くわよ」

「はーい」

 

 エステルは釣りが出来ない事を名残惜しそうに返事をした。宿の主人に話を聞くと、クワノ老人の釣り仲間の名前はロイドと言い、《釣公師団》と言う組織の一員らしい。今も湖の桟橋で釣りをしていると聞いたエステル達は、湖の桟橋で真剣な表情で釣りをしている男性の姿を見つけた。

 

「あの、あなたがロイドさん?」

 

 エステルが話しかけても、男性は返事をしない。

 

「凄い集中力だね……」

 

 湖を泳ぐ魚に全集中をしている中年の男性に、ヨシュアは驚きの声を上げた。このままでは話が聞けない、と困った顔をするエステル達に、ここはアタシに任せて、とアスカが中年の男性の耳元に近づいた。

 

「アンタバカァ!?」

 

「うわっ!」

 

 驚いた中年の男性はエステル達の方を振り向いた。アスカの怒鳴り声はエステル達の鼓膜も直撃していた。反射的に手で耳を抑えていたヨシュアは手を外すと、中年の男性にあなたがロイドさんですか、と再度尋ねた。

 

「どうして私の名前を?」

「クワノさんから聞いたのよ、少し話を聞かせてもらっていいかしら?」

 

 不思議そうな顔で尋ねるロイドに、シェラザードはそう説明した。知人の名前が出た事で、ロイドは警戒心を解いて協力してくれる事になった。ロイドはおとといの夜、奇妙な集団を確かに見たと話した。

 もっと詳しく話を聞かせて欲しいと、続きを話す様に頼むと、ロイドはおとといの夜の事を順を追って話し始めた。ボートで夜釣りに行ったロイドは、魚釣りでクタクタになって宿に戻った。夜も更けて、宿のスタッフ達も全員寝ていた。

 そして借りていたボートを元の場所に戻して宿の中に入ろうとすると、奇妙な二人組が宿の裏口から街道の方へ出て行くのを見た。次の日、宿のスタッフに聞くと二人組の事は知らないと言われ、幽霊でも見たのかと背筋が凍る思いがしたのだと言う。

 

「幽霊、そんなのが出るの!?」

 

 ロイドの話を聞いたエステルは青い顔になって体を震わせた。その二人組は若い男女のカップルで、心中して湖に身を投げたのかもしれない……とロイドが話すと、エステルはさらに真っ青になって体を震わせた。

 

「相変わらず、幽霊話には弱いのね」

 

 シェラザードはそう言って苦笑した。ロイドは幽霊と言うのは冗談だが、その二人組が普通のカップルではないと話した。その男女は変わった服を着ていたらしい。身体のラインが判るような、全身タイツの様な真っ白な服と、真っ黒な服を着ていたと言うのだ。

 

「もしかして、プラグスーツ!?」

 

 アスカとシンジは顔を見合わせて叫んだ。

 

「あんた達の知り合いなの?」

 

 不思議そうな顔で尋ねるシェラザードに、アスカとシンジは自分と同じ世界から“召喚”されたに違いないと話した。エステルとヨシュアも、二年前にアスカとシンジが着ていた服の特徴と似ていると話した。

 そのカップルは二日後にまたここに来る、と誰かと話していたらしいとロイドは言った。おとといの二日後と言えば今日の事だ。その怪しい二人組は今夜現れるに違いない。

 空賊事件と関係があるとは言い切れないが、アスカとシンジにとっては放っては置けない情報だ。シェラザードも二人の気持ちを汲んで、今夜はここで宿をとる事に決めた。

 

「ありがとうございます、シェラさん!」

「まあ、空賊事件に関係ないとも言い切れないしね」

 

 嬉しそうな顔をしてお礼を言うシンジに、シェラザードは優しい笑みを浮かべてそう言った。話を終えたロイドはまた釣りに行くと言ってボートで湖の方へと消えて行った。エステル達は宿をとるために、宿の主人の所へと行く事にした。

 

 

 

 

 宿の予約を取ったエステル達は、夜にまで時間があるため、遊撃士の依頼をこなす事にした。ボースの遊撃士協会の掲示板を見ると、急ぎの依頼が張り出されていた。

 

 ◆ベアズクローの調査◆

 

 【依頼者】スペンス老人

 【報 酬】1000 Mira

 【制 限】6級以上

 

 ボース地方で『ベアズクロー』の生息地を探しています。

 

 エステル達はロレント地方のミストヴァルトでベアズクローを見つけている。ボース地方で同じように湿気の多い場所と言えば、

 

「霜降り峡谷よね、エステル?」

「霧降り峡谷だってば、しつこいなあ!」

 

 バカにして笑うアスカに、エステルは怒った顔で言い返す。霧降り峡谷には手配魔獣も居ると言う。BPを稼ぐには良い機会だった。

 霧降り峡谷はその名前の通り、10アージュ(この世界で言うセンチメートル)先も見通せない危険な場所だった。魔獣の奇襲はもちろん、意外なものを触ってしまう事もあるわけで……。

 

「アレ? なんだこの柔らかくて弾力のある物は……」

「それはアタシのお尻よ、バカシンジ!」

 

 アスカの裏拳がシンジのみぞおちに炸裂する。シンジはバランスを崩して谷へと落ちそうになったところをヨシュアに助けられた。アスカの照れ隠しは命取りになる。しかしエステル達は他にも危険なものがこの山には眠っている事を知る。

 

「おや、来客とは珍しいな」

 

 エステル達が霧降り峡谷を進んで行くと、一軒の山小屋があった。その小屋に住むウェムラーと言う男性は、休憩場所と食事を提供してくれると話した。しかしシンジは鍋で煮込まれている料理が、かつて自分の居た世界で見たものと同じ色と匂いを放っている事に気が付いた。

 

「アスカ、これって……」

「ミサトのカレーに匹敵しそうね」

 

 危険を察知したシンジとアスカは料理を口に入れなかったが、他の三人はHPを瀕死になるまでゴッソリと持って行かれた。《地獄極楽鍋(闇鍋)》。ウェムラーは嬉しそうにレシピをシンジに教えてくれた。食べずにレシピを習得出来て、本当に良かったと思うシンジだった。

 瀕死になったエステルとヨシュアとシェラザードは、シンジの魔法で何とか回復した。そしてエステル達の推測通り、ベアズクローは霧降り峡谷に自生していた。後は、手配魔獣を倒すだけだ。

 

 ◆霧降り峡谷の手配魔獣◆

 

 【依頼者】遊撃士協会

 【報 酬】2000 Mira

 【制 限】6級

 

 霧降り峡谷に凶暴な魔獣【マスタークリオン】が出没中です。

 当支部所属遊撃士のすみやかなる退治を望みます。

 

 霧降り峡谷に居た手配魔獣は、魔法を操る強敵だった。しかし、時属性のクオーツを重点的に装備して時属性をLV3に上げていたヨシュアは、アンチセプトと言う相手の魔法を封じる魔法を会得していた。

 魔法を封じられた魔獣は何もすることが出来ず、エステル達は苦も無く手配魔獣を退治するのだった。

 

 

 

 

 遊撃士協会に依頼の報告をしたエステル達は、川蝉亭で休憩をとる事にした。四人部屋にはエステル、アスカ、シンジ、ヨシュアの四人。二人部屋にはシェラザードとオリビエの二人。シェラザードは早速オリビエと酒場でお酒を嗜む(?)ようだ。

 

「ねえねえ、みんなで釣りしようよ!」

 

 険しい霧降り峡谷で魔獣退治をしたのに、エステルの体力は有り余っているようだ。アスカとシンジは体を休めると言って二人で部屋に残り、ヨシュアはテラスで読書をすると言った。

 

「ちぇっ、ヨシュアに振られちゃったな」

 

 エステルがつまらなそうな顔でそうつぶやくと、ヨシュアの身体がビクッと震えた。しかし、一緒に釣りをする気までにはならない様だ。ここから君の釣りの腕を見せてもらうよ、と微笑む。

 宿屋の主人に釣り竿を借りたエステルは、桟橋の先で釣りを始めた。

 

「よし、狙いは大物!」

 

 淡水魚の中で一番大きい魚はサモーナ。この湖で釣り上げる事が出来るか分からないが、エステルは挑戦してみる事にした。

 

 ◆釣り三択クイズ◆

 

 ※サモーナが釣れるかは完全に運です。27分の1の確率です。

 

 釣りのポイントはどうしよう?

 

 【西側にある桟橋周辺】

 【南側の日の照った水面】

 【東側の木陰が伸びている付近】

 

 仕掛けはどうしよう?

 

 【ルアー】

 【生き餌】

 【フライ】

 

 ポイントと仕掛けが決まったエステルは針を投げた。そして待つ事しばらくして、エステルは竿に手応えを感じた。

 

「ここからが肝心ね、どうやって釣り上げようかしら」

 

 【一気に引き抜く】

 【少し待ってから】

 【じっくり疲れさせてから】

 

「これでどう!?」

 

 エステルが竿を引っ張ると、見事に狙い通りサモーナを釣り上げた!

 自己最高記録の更新に、エステルは大はしゃぎで喜び、見ていたヨシュアからも拍手が起こる。

 

「フフン、ヒキの強さから、ただ者ではないと思ったのよね!」

 

 ヨシュアに向かって得意満面の笑みでピースサインをするエステルを、ヨシュアは眩しそうに見つめていた。

 

 

 

 

 エステルが釣りを楽しんでいた頃、部屋に残ったアスカとシンジは深刻な表情で、ロイドに目撃されたプラグスーツの二人組の事を話していた。片方の女性の方は自分達が良く知る綾波レイで間違いないだろう。もう片方の黒いプラグスーツを着た男性の正体が全く見当が付かない。それが二人の不安を大きくしていた。

 

「アスカは、ボク達の他にエヴァのパイロットが居るか知ってる?」

 

 不安そうな顔をしたシンジが尋ねると、アスカは苛立ったような表情で首を横に振った。

 

「アタシだって分かんないわよ。でも、初号機と弐号機が消えたのだから、新しいエヴァとパイロットが補充された可能性はあるわね」

 

 せっかくのバカンスなのに、二人の気持ちは沈んでいた。エヴァンゲリオンが無いのだから、パイロットだけでは何も出来ないはず……。

 

「こうなったら、今夜ファーストのやつをとっ捕まえてゲロさせてやるんだから!」

「綾波は別に犯罪者じゃないんだから、手荒な真似はしないでよ……」

 

 腕まくりをして鼻息を荒くするアスカに、シンジは深いため息を吐き出した。

 

「やる事が決まったのなら、もう部屋に閉じこもってウジウジしている場合じゃないわ。アタシ達も、休暇を満喫しましょう!」

「うん、そうだね」

 

 アスカの言葉にシンジも力強くうなずいて、部屋を出るのだった。

 

 

 

 

「大漁大漁。ねえねえ、ヨシュア、見て見て!」

 

 エステルが夢中になって10匹目の魚を釣り終わると、いつの間にか空は茜色に染まっていた。そしてテラスの椅子で座り、本を読みながらエステルの事を見守っていたヨシュアの姿が見えない。

 その代わり、テラスの椅子に座っていたのはアスカとシンジだった。しばらく前から湖を眺めながらエステルが釣りをしている所を見ていたらしい。

 

「ヨシュア、どこに行ったのか知らない?」

「さあ? 宿の中には居ないと思うけど」

 

 エステルに尋ねられたアスカはそう答えた。建物の中に居ないならばきっとヨシュアは外に居る。エステルは虫取りで鍛えた視力で周囲をくまなく見回す。かくれんぼの鬼では街の子供達の誰にも負けたことが無い。

 エステルはヨシュアが今朝ロイドが釣りをしていた西の桟橋に居るのを目敏く見つけた。ヨシュアは考え込むような表情で、空と同じオレンジ色に染まった水面を眺めていた。

 エステルは釣った魚を宿の主人に渡すと、ヨシュアの元へと近寄った。

 

「何か悩み事?」

「いや、別に悩んではいないけどね」

 

 エステルが声を掛けると、振り返ったヨシュアは笑顔で答えた。

 

「君の方こそ、釣りはお終い?」

「もう十分堪能しちゃったわ」

 

 ヨシュアの問い掛けに、エステルも満面の笑みで答えた。しかし次の瞬間エステルはヨシュアを真剣な表情で見つめると、責めるように尋ねた。

 

「また独りで何か抱え込もうとしていない? あたしには分かるんだってば」

 

 エステルに指摘されたヨシュアは、息を飲んで驚いた。そしてエステルは頬を膨れさせてヨシュアの目をじっと見つめる。

 

「ヨシュアだって、あたしが落ち込んだ時慰めてくれるでしょうに。……あたしじゃ頼りにならないかもしれないけど、こうして側に居てあげる事は出来るんだから」

 

 エステルの言葉を聞いたヨシュアはしばらくの間黙り込んでいた。そして考えを巡らせるような仕草をした後、

 

「…………ごめん…………」

 

と、ポツリとつぶやいた。

 

「違う、ありがとう、でしょう?」

 

 何だか自分もシンジみたいに謝ってしまったな、とヨシュアは反省した。アスカも今のエステルのようにシンジの事を正すのだろう、と思った。

 

「ヨシュアってば色んな事は知ってるけど、肝心な事が分かっていないんだから」

 

 エステルがあきれた顔で深いため息をつくと、ヨシュアは本当にその通りだと自嘲した。そして笑顔でエステルに改めてお礼を言った。

 

「ありがとう、エステル」

「お礼はハーモニカで一曲でいいわよ」

「『星の在り処』でいいかな?」

「もちろん!」

 

 エステルはそう答えて、桟橋の丸太の上に腰掛けてヨシュアがハーモニカで奏でるメロディに聞き入っていた。

 

「……僕の事、何も聞かないんだね」

 

 ハーモニカを吹き終えたヨシュアはそうつぶやいた。

 

「だって、自分から話す気になるまで、あたしの方からは何も聞かないって約束したじゃない」

 

 エステルはあっけらかんとした笑顔でそう答えた。

 

「でもどうして五年も何も聞かないで一緒に暮らせたりするんだい? 得体の知れない人間を、どうして君たちは受け入れてくれるの……?」

 

 ヨシュアは辛そうな瞳で、グッとエステルを見つめながら尋ねた。すると、エステルは穏やかな笑みをたたえてヨシュアを見つめ返した。

 

「そんなの理由なんて必要ないわよ、だってヨシュアは家族なんだし」

 

 キッパリとそう言い切ったエステルに、ヨシュアは驚いて息を飲んだ。

 

「あたしはヨシュアの事、よく知っているつもりよ。面倒見が良くて、寂しがり屋な所も」

 

 そしてエステルは黙って二の句が継げないヨシュアにさらに語り掛ける。

 

「そしてあたしは父さんの性格とかクセとか、料理の好みとか、そういった肌で感じられる部分を知っている。アスカだって、シンジだって、それは同じよ」

 

 エステルは満面の笑みでヨシュアにそう告げた。そしてヨシュアは嬉しそうにクスリと笑った。

 

「全く君には敵わないな。初めて会って、君に跳び蹴りを食らった時からね」

「あはは、幼いがゆえの過ちって事で、赦してね」

 

 照れたエステルはそう言ってごまかし笑いを浮かべる。その頬が赤いのは、夕陽のせいだけではないはずだ。そしてヨシュアは真剣な表情になってエステルに話しかける。 

 

「今回の事件、僕達の手で解決しよう。父さんの行方を突き止めるんだ」

「もちのロンよ!」

 

 エステルも元気にヨシュアの言葉に答えるのだった。

 

 

 

 

 アスカとシンジが二階から降りると、宿の酒場ではシェラザードとオリビエが向かい合わせの席に座ってワインをまだ飲み続けていた。

 

「ほらほら、どんどん飲みなさい」

 

 シェラザードはそう言って、オリビエのグラスにワインをなみなみと注ぐ。

 

「待ってくれたまえ、ペースが早過ぎはしないかい?」

 

 酒に酔った真っ赤な顔でオリビエがシェラザードを止めようとすると、シェラザードは不機嫌な顔になって怒り出した。

 

「ゴルァ、このポンコツ演奏家! あたしの酒が飲めないつーの?」

 

 シェラザードにどやしつけられたオリビエは悲鳴を上げて倒れ込んだ。

 

「まあ、シェラならどんなに飲んでも大丈夫でしょ」

 

 アスカはそう言ってあきれた顔でため息をついて、スタスタと宿の外へと出て行ってしまった。

 

「ボクの心配をしてくれぇぇぇ……」

「ごめんなさい、オリビエさん。もうシェラザードさんを止めるのは無理です」

 

 シンジは申し訳なさそうな顔でオリビエに謝って、アスカを追って宿の外に出るのだった。

 

 

 

 

 二人が宿の外に出ると、暮れなずむ湖畔でエステルが釣りに夢中になっている姿が見えた。そして釣りを終えたエステルがこちらを向いてヨシュアに呼びかける声が聞こえた。

 

「ヨシュア、どこに行ったのか知らない?」

「さあ? 宿の中には居ないと思うけど」

 

 エステルに尋ねられたアスカがそう答えると、エステルは外をぐるりと見まわしヨシュアの姿を見つけたようだ。エステルは釣った魚を宿の主人に渡すと、ヨシュアの元へと近寄って行った。

 アスカとシンジはそんな二人の様子をテラスの椅子に座って眺めていた。わざわざ自分達が二人の話を邪魔しに行く事は無い。ただ静かな湖畔であるため、エステルとヨシュアの話は少し離れたアスカとシンジには丸聞こえだったのだ。

 ヨシュアがハーモニカで奏でる『星の在り処』の調べがアスカとシンジにも聞こえて来る。

 

「夕陽を背負ってハーモニカを吹くなんて、反則よね……」

 

 アスカがヨシュアを見て、感心したようにつぶやくと、シンジの心に嫉妬が燃え上がった。自分も今のヨシュアのようにチェロをアスカの前で弾いてみたいが、それは叶わない願いだ。

 

「ピアノ、弾いてみたらどう? チェロと大して変わらないわよ」

「変わると思うけど……」

 

 そんなシンジの心を見透かしたように、アスカがニヤリと笑ってシンジに声を掛けた。シンジは前にもピアノを弾くように勧められた事がある。アスカにはそう答えたものの、ピアノを始めてみようかなとシンジは思った。

 ヨシュアのハーモニカ演奏が終わり、エステルとヨシュアは再び話を始めた。落ち込むヨシュアと、励ますエステルの会話が二人の所にも漏れ聞こえて来る。エステルの言葉を聞いたアスカとシンジは考え込むような表情になった。

 

「ミサトがさ、一緒に暮らそうとした意味が分かった気がする」

「うん、お互いの事を肌で感じられる距離が家族なんだね」

 

 アスカの言葉に、シンジも深くうなずいて同意した。そして、アスカは少し潤んだ瞳でシンジの事を見つめる。

 

「アタシ、ハーケン門の牢屋にシンジとバラバラに閉じ込められた時、シンジと二度と会えなくなるんじゃないかって思うと悲しくなった」

「うん、家族と離れ離れになるなんて、とても辛い事だよね」

 

 シンジは真剣な表情でアスカの目を見つめ返してそう答えた。しかしアスカは首を軽く横に振って、シンジに呼び掛けるように言った。

 

「アタシはね、シンジにまだ自分の本当の気持ちを伝えてないのよ」

「本当の気持ち?」

 

 シンジは不思議そうな顔をして尋ねる。

 

「好き、って事」

 

 アスカはそう言うと、目を閉じて身を乗り出し、シンジに向かって唇を突き出した。アスカの頬が赤く染まっている様に見えるのは、夕陽のせいではないだろう。恥ずかしさを感じたシンジも目を閉じて接触の瞬間を待った……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、シンジの唇に何かが軽く触れる感触があった。しかし何かがおかしい。初めてアスカとキスした時(ファーストにしてワーストなものだった)感じたものと違う。上唇に固いものが当たっている。アスカの歯が当たっているにしても凄く不自然だ。

 違和感を覚えたシンジが目を開くと、シンジはアスカの人差し指を加えていた。アスカはしてやったりと、いたずらっ子のような笑みを浮かべている。今はこれで良い、冗談交じりでもシンジに自分の想いを伝えられたとアスカは思うのだった。

 

「あははは、シンジってば魚みたい!」

 

 エステルの笑い声を聞いたアスカとシンジは顔が真っ赤になった。二人はいつの間にか桟橋での話を終えて、宿の近くに戻って来ていたのだ。

 

「アンタ達、さっきからずっと見ていたの!?」

「僕達の事を見ていたお返しさ」

 

 ヨシュアは涼しげな笑顔でアスカにそう答えた。お互い様だよ、と肩を叩くエステル。茜色に染まった空は、東の方から暗いグラデーションに変わり始めていた。楽しい休暇の時間はお終い、これから最重要作戦に向けて準備を始めなければ。

 エステル達は、宿の中で飲んでいるであろうシェラザードとオリビエに合流するべく、宿の中へと入って行った。その姿を白いプラグスーツを着た水色の髪の少女と、黒いプラグスーツを着た少年がじっと見ていた事には気が付かなかった。

 

「『葉隠れ』のクオーツは便利だね。気配を完全に消す事が出来るなんて」

「でも、もう残りEPが少ないわ」

 

 銀髪の少年に話し掛けられた水色の髪の少女は無表情でそう答えた。

 

「……彼に会わなくて良いのかい?」

 

 真剣な表情になった銀髪の少年は、水色の髪の少女の目をじっと見つめるとそう尋ねた。

 

「そんな『命令』はされていないわ」

 

 そう言うと水色の髪の少女は悔しそうに下唇を噛んだ。彼のお陰で『命令』に縛られない生き方をする事が出来るようになった。しかし今は『命令』に従わないと命まで取られるかもしれない状況に居る。

 その悔しさは少女の胸をきつく締め付けるのだった……。




この段階ではここまでが限界です、済みません。
FC編の最後では〇〇シーンもあります。(原作微ネタバレ)

 ◆釣り三択クイズ◆ 解答

 釣りのポイントはどうしよう?

〇【西側にある桟橋周辺】
 【南側の日の照った水面】
 【東側の木陰が伸びている付近】

 仕掛けはどうしよう?

〇【ルアー】
 【生き餌】
 【フライ】

「ここからが肝心ね、どうやって釣り上げようかしら」

 【一気に引き抜く】
 【少し待ってから】
〇【じっくり疲れさせてから】
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