アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第十七話 いざ、ルーアンへ! 父カシウスからの手紙

 

「おっと、こいつの頭をぶっ飛ばされたくなかったら武器を降ろすんだな!」 

 

 ドルンはその怪力でアスカの身体をつかんで抱き寄せると、導力砲の砲身をアスカの頭に突き付けた。導力銃ならともかく、導力砲を至近距離で放てば自分自身もただでは済まない。焦点の合っていない目付きと言い、狂気に支配され正気を失っているように見えた。

 直ぐにでも指示に従わなければアスカが危ないと判断したシェラザードとヨシュアとシンジは、持っていた武器を床へと放り投げた。これで油断したドルンがアスカから狙いを外してくれればチャンスがあるとシェラザードは思った。

 ドルンの不意を突いて倒すのは難しいと思われた。導力魔法は詠唱から発動までに時間が掛かる。怪力の持ち主であるドルンをねじ伏せる事も無理だ。頼みの綱はヨシュアが隠し持った短剣をドルンの首元に突き付ける事だが、ヨシュアもエステルが消えた事で冷静さを欠いている。

 真っ青になったアスカは恐怖で声が出ない。下手に騒ぎ立てるとドルンを刺激してしまう危険性はあった。恐怖で歪むアスカの顔はシンジがこの世で一番見たくないものであった。

 

(……助けて、みんな……)

 

 アスカは武装解除をして立ち尽くすシェラザードとヨシュア、シンジの間に視線をさまよわせる。この状態では手出しが出来ないのはアスカも分かっている。特にシンジが自分が死んでしまいそうなほど辛そうな顔をしているのはアスカは心が痛んだ。

 

「キール、ジョゼット、何をぼさっとしてやがる! こいつらを殺っちまえ!」

 

 ドルンが部屋の隅で様子をうかがっていたキールとジョゼットに向かって怒鳴った。キールとジョゼットは驚いた顔になってドルンに向かって抗議した。

 

「ちょっと、ドルン兄! 人質と同じ部屋に閉じ込めるだけで十分だよ!」

「そうだ、殺す事は無い!」

 

 しかしドルンは全く聞き入れる気配は無く、さらに大声を張り上げる。

 

「俺達は顔を見られているんだぜ? 目撃者を消しちまった方が楽でいいじゃねえか!」

 

 キールとジョゼットは悲しそうな顔でドルンを見つめた。カプア一家は盗みはするが殺しはしないが信条だった。真の悪人になれない気の良い奴らが集まる空賊団だったのが……あの黒兜の二人がやって来てからドルンは変わってしまった。

 

「ほら、さっさとしねえとコイツの頭をぶっ飛ばすぞ!」

 

 イラついたドルンが野太い大きな声でキールとジョゼットにシェラザードたちを殺すように促す。ジョゼットは震える手でシンジに向かって導力銃を向ける。シンジが避けた場合、ドルンがアスカに危害を加える可能性が高い。シンジは避ける訳にはいかなかった。

 

(……お願い、シンジを助けて、ママ!)

 

 アスカはシンジが大人しく撃たれても、ドルンが自分を開放する保証がない事に気が付いていた。シンジも自分が撃たれる姿を見れば、アスカが傷つくと分かっていた。

 

(……お願い、アスカを助けて、母さん!)

 

 アスカとシンジが念じると、二人のヘッドセットが光を放ち始めた。今までにない強く長い反応に、シェラザードとヨシュアも驚いた。

 

「手前ら、何かおかしな事を企んでいやがるな!」

 

 興奮したドルンは導力砲のトリガーに指を掛けようとした。しかし、ドルンの導力砲は謎の不可視の力に弾かれてドルンの手から離れ、床に転がり落ちた。絶好のチャンス、ヨシュアがドルンに近づこうとする前に、ドルンの背後から、赤く長い棒が脳天に振り下ろされた!

 

「よくもやってくれたわね!」

 

 ドルンの死角から不意打ちを食らわせたのは今まで姿を消していたエステルだった。エステルの姿を見たヨシュアから涙が一筋流れた。エステルの一撃でドルンの腕の力が弱まると、戒めから解かれたアスカはシンジに思わず抱き付いた。

 

「エステル、今までどこに行ってたのよ?」

「導力砲の爆風で壁に頭を強くぶつけて気絶してたみたい。それで気が付いたらあの大男の背後に居たもんでゴツーンと」

 

 シェラザードが尋ねると、エステルはあっけらかんとした笑顔で答えた。エステルは指で涙をぬぐうヨシュアの姿に気が付くと、あわてて近くに寄った。

 

「ヨシュア、もしかしてあたしの事、心配してくれたの?」

「当たり前だろう、か、家族なんだから」

 

 そう答えるヨシュアの顔は心なしか赤い。いつも冷静なヨシュアにしては珍しい表情だった。シェラザードも二人の姿を温かい目で見守っていた。恐怖から脱したアスカもシンジに抱き付いたままになっている。

 

「痛たたた……何でこんなに頭が痛いんだ?」

 

 エステルの棒の直撃を食らったドルンが不思議そうな顔でそうつぶやいた。恐るべき石頭と言うべきか、後遺症なども無いようだ。

 

「兄貴?」

「ドルン兄?」

 

 キールとジョゼットも穏やかな表情に戻ったドルンを不思議顔で見つめている。

 

「ジョゼット、いつの間にロレントから帰って来ていたんだ?」

「何言っているんだ兄貴、ジョゼットはとっくにロレントから帰って来ていただろう」

 

 訳の分からない発言をするドルンにキールはあきれた顔で問い掛けた。ジョゼットもあわててドルンに質問を浴びせた。

 

「飛行船の人質を殺すって話していたじゃんか!」

「飛行船? 人質? 何の話だ? 俺たちは盗みはするけど、殺しはしねえ。それがカプア一家の掟ってもんよ」

 

 腕組みをして豪快に笑うドルンを、エステル達もポカンとして見つめていた。まるで先程と別人だ。おまけに記憶も無くしているようだった。

 

「それで、こいつらは新入りか?」

 

 キョトン顔でドルンはエステルたちの方を見てキールに尋ねた。キールより先にシェラザードが涼やかな笑顔で答える。

 

「あたし達は遊撃士よ」

 

 シェラザードの言葉を聞いたドルンは驚きの声を上げる。

 

「はぁ!? 何で遊撃士がここに居るんだ?」

「こりゃあ、完全に忘れているみたいね」

 

 エステルはあきれた顔でため息を吐き出した。

 

「忘れていたじゃ済まされませんよ! アスカをひどい目に遭わせておいて!」

 

 シンジは今までにない強い怒りの表情でドルンをにらみつけた。導力銃を握り締め、ドルンの眉間に狙いを定めていた。

 

「おい、そりゃあ何の冗談だ!?」

 

 大男のドルンがシンジの気迫に押されている。今度はシンジが人を殺しかねない勢いだ。危険を察知したキールは発煙筒を床に投げ付けた。真っ白な煙が部屋を満たす。

 

「しまった、何度も同じ手に……!」

 

 シェラザードが悔しそうに声を上げる。煙がのどに入り込み、エステル達は咳込みながら部屋を飛び出した。廊下にはドルンたちの姿はもう見当たらなかった。

 

「きっと空賊艇で逃げるつもりだよ!」

 

 ヨシュアが厳しい顔で警告を発すると、エステル達はあわてて来た道を引き返し空賊艇の所へ向かう。エステル達を足止めしようと、またもや空賊達が立ち塞がる!

 

「どけよ! どけって言ってるだろ!」

 

 ドルンを逃がしたくないシンジは荒っぽい口調で空賊達に導力銃を乱射する。前衛のエステルとアスカより突出するなど、シンジは頭に血が上っていた。ドルンたちを逃がそうと足止めする空賊達との戦いで、シェラザードはシンジに注意する間も無く風魔法エアリアルの詠唱に追われていた。

 

 

 

 

 階段を昇ったエステル達が空賊艇が泊まっていた発着場へ行くと、王国軍の警備飛行艇により制圧されていた。目の前でドルン達は王国軍に連行され、リベール通信の記者であるナイアルとカメラマンのドロシーがその様子を取材していた。

 ドルンたちを連行した王国軍の兵士と入れ替わるように姿を現したのは、ボースの街で出会った青年将校、リシャール大佐だった。リシャール大佐はナイアルのインタビューに応じ、ドロシーの写真撮影にも応じていた。

 

「やあ、君達か」

「リシャール大佐、お会い出来て光栄ですわ」

 

 階段から昇って来たエステル達に気が付くと、リシャール大佐は気さくに声を掛けた。作った上品さであいさつを返すシェラザードを、副官の女士官は相変わらずきつい目でにらみつけている。

 

「我々がこのアジトに突入できたのも、君達が空賊の気を引いてくれたお陰だ」

「それほどでもありませんわ」

 

 リシャール大佐に褒められたシェラザードは謙遜してそう答えた。人質や積み荷の移送などは軍の方で引き受けると話して、リシャール大佐は副官のカノーネ大尉を引き連れてアジトの深部への階段を降りて行ってしまった。

 ナイアルとドロシーもエステル達に目もくれずに後を追いかける。

 

「美味しい所を持って行かれた感じね」

 

 リベール通信の記者とカメラマンに無視されたアスカはつまらなさそうな顔でため息を吐き出した。

 

「遊撃士の本分は縁の下の力持ち、無理して目立つ事は無いわ」

 

 シェラザードはアスカをそう言ってなだめた。先ほどは人質にとられて怖い思いをしたアスカが立ち直って、シンジは安心すると同時に怒りも収まってきた。カシウスの行方も気になる。ボースの遊撃士協会に戻って事件の報告をする事にした。

 

 

 

 

 エステル達は遊撃士協会に戻り、メイベル市長に事件の報告をした。メイベル市長は感謝の言葉を述べる。しかしアスカは未だに軍に空賊逮捕の手柄を持って行かれた事を悔しがっているようだ。

 

 ◆南街区の強盗事件◆  報告済み

 

 【依頼者】メイベル市長

 【報 酬】8000 Mira

 【制 限】緊急依頼

 

 まだ解決していない謎もいくつか残されている。ボートで現れた黒兜の男女の兵士、空賊の首領ドルンの異変、プラグスーツを着た男女二人組の正体。事件にはまだ裏がある。その捜査は王国軍に引き継がれる事になる。

 メイベル市長は報酬は奮発させて頂きました、と言って遊撃士協会を去って行った。ルグラン老人に今回の事件の報告をすると、準遊撃士・5級への昇格が認められ、エステル達にはボース支部の推薦状が渡された。

 

「ルグラン爺さん、本当にいいの?」

「お前達はこんなに大きな事件を解決したんじゃ、その功績を認めないわけにはいかんじゃろう」

 

 驚いたエステルが尋ねると、ルグラン老人は笑顔でそう答えた。順調にランクアップしていく様子に、アスカも笑みが止まらなかった。

 

「カシウスさんが聞いたら喜んでくれそうですね……」

 

 シンジが少し暗い顔でそう言うと、エステル達の表情も曇った。ボースにはカシウスの消息を知るために来たのだ。飛行船から降りた事は分かっても、行方不明だと言う事は変わりない。

 

「全く連絡一つも寄こさないなど、カシウスらしくもない」

 

 ルグラン老人は渋い顔でそうつぶやいた。そんな時、遊撃士協会宛てに郵便物が届いた。郵便物の中にはカシウスがブライト家の四人宛てに書いた手紙が入った封筒が交ざっていた。

 

「これ、父さんの字! あたし達宛てだわ」

 

 エステルが封筒を見て声を上げた。ルグラン老人は二階の休憩室で落ち着いて手紙を読むように勧めた。エステル達は二階へ上がり、四人掛けのテーブルに座った。

 

「何でアンタが付いて来てんのよ!」

 

 アスカがバンッと机を叩いても、オリビエは涼しい顔で「純粋に興味がある」と答えた。手紙の内容次第では席を外してもらうと言う条件で、オリビエも同席を許された。エステルは手紙の封を切った。

 

 『エステル ヨシュア アスカ シンジへ。

  

 そろそろロレントで推薦状を受け取りボースへと行っている頃だろうか?

 

 最初は失敗する事もあるだろうが、一つ一つ確実に依頼をこなせばいい。

 お前達なら失敗から学ぶべきものもあるだろう。

 

 さて、こちらの方だが、厄介な事件を抱えてしまってな。

 どうやら、しばらくの間、国に帰れそうにない。

 

 女王生誕祭が始まる頃くらいまでには帰って来る努力をしよう。

 まあ、今更親の留守を寂しがるような歳でもないだろう。

 

 お前達の事だ、正遊撃士の資格を得るために旅に出ているだろう。

 

 16歳という実り多き季節を悔いなく過ごすといいだろう。

 

 じゃあな。

 

 シェラザードとルグラン爺さんによろしく伝えておいてくれ。

 

                            カシウス・ブライト』

 

「先生らしい文章ね。軽そうだけど、あんた達への思いやりに満ちあふれているわ」

 

 シェラザードがそう言うと、エステル達はしっかりとうなずいた。

 

「女王生誕祭まで後3ヵ月くらいだっけ? その間に正遊撃士になってカシウスのおっさんをギャフンと言わせてやるのよ!」

 

 椅子から立ち上がったアスカは右手を突き上げてそう言い放った。

 

「ギャフンはダメだよ、僕達じゃ逆に叩きのめされちゃうよ」

 

 シンジは日本語のいまいち分かっていないアスカにツッコミを入れた。

 

 

 

 

 カシウスの手紙を読み終わったエステル達は、ロレントに帰るシェラザードを見送るためにボース空港へと向かった。

 

「うーん、本当について行かなくても大丈夫かしら」

「シェラ姉が居たら頼っちゃって修行にならないもん」

 

 エステルは真面目な顔でシェラザードに答えた。

 

「シェラさんが居なかったらロレント支部も持たなくなりますよ」

 

 ヨシュアも穏やかな顔でシェラザードに言った。

 

「ボーイハントの目的は達成したんだから、とっとと帰ったら?」

 

 アスカは腕組みをしながらあきれた顔でぼやいた。

 

「おや、シェラザード君、そうだったのかい?」

 

 オリビエが不思議そうな顔で尋ねると、シェラザードは面倒臭そうな顔で首を回した。シェラザードは表情を穏やかな笑顔へと戻す。

 

「あんた達は最年少の準遊撃士なんだから、背伸びして無茶しないようにね。困った事があったらロレント支部に連絡するのよ。あんた達がどこに居ようと直ぐに駆けつけて行くからね」

「ありがとう、シェラ姉」

 

 エステルは顔を赤くして照れくさそうにお礼を言った。

 

「イイ男が見つかったら、連絡してあげるわよ」

 

 アスカがからかうようにそう言うと、

 

「ボクよりイイ男なんて居るわけ無いさ」

 

 とオリビエが髪をかき上げて言い放った。

 

「どうしてオリビエさんもロレントに?」

 

 シンジが不思議そうな顔で質問すると、オリビエはボースの料理は味わいつくしたので、野菜が絶品と呼ばれるロレントの料理を味わいに行くのだと話した。居酒屋ではシェラザーの飲みに付き合う約束をしているらしい。

 

「ロレントの遊撃士協会にはね、アイナって言うシェラよりも底無しの酒飲みが居るから、気をつけなさいよ」

「えっ、シェラザード君以上だって!?」

 

 アスカの言葉を聞いたオリビエは顔を真っ青にして驚いた。

 

「シェラザード君、ちょっと急用が……」

「空港に来てまで何言ってるの、男ならグダグダ言わない!」

 

 オリビエはシェラザードに引きずられながら定期飛行船に乗ってしまった。

 

「シェラ姉、ロレントのみんなによろしくー!」

 

 二人を乗せた定期飛行船はロレント地方の空へと消えて行った……。

 

 

 

  

 遊撃士協会に戻ったエステル達は、ボース地方での最後の報告を行った。エステルたちは空賊団のアジトで、強盗事件で奪われた住民の指輪を発見していたのだ。

 

 ◆盗まれた指輪◆ 報告済み

 

 【依頼者】ラーナ

 【報 酬】2000 Mira

 【制 限】直接依頼

 

 アスカが空賊のアジトで見つけた黒いノートはやはり犯罪の証拠品だったらしい。王国軍に感謝をされた。

 

 ◆黒いノート◆  報告済み

 

 【依頼者】王国憲兵

 【報 酬】2000 Mira

 【制 限】6級

 

 遊撃士協会の掲示板には新たな依頼が張り出されていた。

 

 ◆荷物の配達◆  進行中

 

 【依頼者】K

 【報 酬】4000 Mira

 【制 限】5級

 

 小包をツァイス地方に居るラッセル博士まで運んでくれる人を探しています。

 《アンテローゼ》でお待ちしております。

 

 

 

 

 エステル達が依頼人のKと待ち合わせをしたのは、高級レストラン《アンテローゼ》だった。銀色の髪をした少年がピアノを弾いている。レストランのウェイターによれば、オリビエの代わりに雇ったのだと言う。本当の名前や素性は明かせないが、エステル達に運んで欲しいものがあると話した。

 エステル達がこれから向かうルーアン地方は、ツァイス地方への通り道だ。素性の知れない人物の依頼を受ける事に一抹の不安はあったが、旅の道れに引き受ける事にした。

 

「中身は精密なオーブメント製品だから、気を付けてね」

 

 爽やかな笑顔を浮かべる依頼人の『少年K』は小包を手渡すと、シンジの手を撫でて握った。照れて顔を赤くするシンジと、ドン引きするアスカ。

 

「アイツはホモね、明らかにシンジを狙った危険人物だわ」

 

 レストランから出たアスカは怒った顔でそう言い放った。

 

「そりゃあ、危険な気がするけど……別の方向よね?」

 

 エステルはそう言って苦笑する。危険人物の荷物は遊撃士の判断で調べる事が出来る。ただ名前が分らない程度では犯罪の根拠とはならない。エステル達は小包の中を確認するのは諦めた。

 シンジは依頼人に違和感を覚えていた。この世界の住民ではないような、自分たちと同じ世界から来たのではないか、この前目撃されたプラグスーツ姿の銀髪の少年は彼ではないかと根拠は無いが、直感が告げていた。

 

 

 

 

 ロレント行の定期飛行船の人気の無い甲板ではオリビエが何者かと連絡を取っていた。

 

「結局、彼に会う事は出来なかった。どうやら一杯食わされたらしい。空賊事件には正体不明の勢力が糸を引いているのは間違いない」

 

 オリビエが持っているのは小型のオーブメント機器のようだった。

 

「そちらの計画は進めておいてくれ。宰相殿に気づかれないように慎重に。じゃあな……親友」

 

 そう言うとオリビエはオーブメント機器を懐にしまった。

 

「小型の通信機器なんて、随分と面白い物を持っているのね」

 

 船室の影に隠れていたシェラザードが姿を現した。オリビエはとぼけようとするが、シェラザードは鋭い目つきでオリビエをにらみつけた。

 

「そんなオーブメントを持っているなんて、ただの旅行者じゃないわね。エレボニア帝国の諜報員って所かしら?」

「フフ、銀閃のシェラザードはボクの事をお見通しのようだね。エステル君達の前では黙っていたのかい?」

 

 オリビエが両手の手のひらを上に向けて肩をすくめてそう言うと、シェラザードは悲しそうな顔をしてつぶやく。

 

「先生の件に加えて、あの子たちに余計な心配の種を増やしたくないのよ」

 

 シェラザードはムチを構えると、オリビエにリベール王国へ来た目的を問い質そうとする。オリビエは顔を赤らめ体をくねらせながら、

 

「優しくしてくれたまえ……」

 

と、とぼけた口調で言うがシェラザードの真剣な眼差しは崩れなかった。オリビエもこれ以上ごまかす事は無理だと判断したのか佇まいを直して本当の目的を話す。《剣聖》カシウス・ブライトに会いに来たと。

 

 

 

 

 小包を受け取ったエステル達は、いよいよルーアン地方へ旅立つ準備をするためにボースマーケットで買い物をした。リベール通信の最新号には王国軍情報部の活躍で空賊が捕えられたと書かれ、リシャール大佐のインタビューも載っていた。遊撃士の活躍もあったと書かれていたが、扱いの小ささにアスカは不満を漏らしていた。

 エステル達は難所と言われるクローネ峠を進んで行くが、準遊撃士・5級に昇格した時に支給された《幻龍》のクオーツのおかげで魔獣の脇をすり抜けて行く事ができた。《幻龍》には気配を気づかれにくくなる効果があるようだ。

 

「まったくシンジってばビクビクしちゃって。魔獣の目の前を通らない限り見つからないんだから、もっとシャキッと歩きなさいよ」

 

 アスカはそう言ってシンジの背筋を伸ばさせる。

 

「ごめん……」

 

 空賊アジトでの勇ましさはどこへ消えたのやら。少しシンジを見直していたアスカはへっぴり腰のシンジを見てため息をもらすのだった。暮れなずむ頃、エステルたちはクローネ峠の関所へとたどり着けた。

 夜の峠越えは危険と判断したヨシュアの意見にエステル達も賛成し、関所の兵士に泊めてもらえないか交渉する事にした。関所の門番をしていた兵士は隊長に断りを入れれば旅行者用の休憩室を使っても良いと答えた。

 険しいクローネ峠を徒歩で越える旅行者は多くないらしく、エステルたちが部屋に入った時は誰の姿も無かった。貸し切りだとはしゃぐエステルたち。関所を守る兵士達が夕食の用意をすると言うので、シンジも料理を手伝った。

 

「空賊団の事件で王国軍とぶつかったけど……一人一人の兵士さんは優しいよね」

 

 エステルは夕食をご馳走してくれると言う兵士の言葉を聞いて笑顔でつぶやいた。

 

「まあ、軍人が気さくなのはリベール王国ならではだと思うけど」

 

 ヨシュアがポツリとつぶやくのを聞いたアスカは、ヨシュアがリベール王国の人間ではないと疑いをさらに深めた。もしかして、帝国の諜報員なのでは、と心の底で怪しんでいないと言ったらウソとなる。

 夕食後、すっかり日が暮れた関所の休憩室で、エステル達はカードゲームを楽しんでいた。そこへ関所を守る王国軍の副長がノックをして入って来た。新たに来客が来たので、相部屋でも構わないか? と言う。

 エステル達は、こんな夜更けに峠を越えるなんて凄い人が居るものだと感心した後、自分たちは無料で泊めてもらってるから別に気にしないと副長に答えるた。副長が言うには、その来客はエステルたちと同じ遊撃士らしい。

 

「ふん、あの時のヒヨッコ遊撃士どもか」

 

 部屋に入って来たのはラヴェンヌ村へ行く途中で出会った、《重剣》のアガットだった。シェラザードの姿が見えない事をアガットに尋ねられると、エステル達はシェラザードはロレントに帰った事を話した。

 

「アタシ達四人は、正遊撃士になるための修行の旅をしているのよ!」

 

 アスカが胸を張ってそう言い放つと、アガットは声を上げて笑い出した。

 

「お前らみたいなガキが正遊撃士になれるわけがねーだろ!」

「あ、あんですってー!?」

 

 エステルは怒ってアガットに言い返した。遊撃士協会のルール上、16歳でも全支部の推薦状を集めれば正遊撃士になれるが、実際になった者は居ない。16歳で準遊撃士になったエステルたちでも珍しいケースだ。

 

「アタシたち、空賊事件での活躍が認められて推薦状も貰ったのよ! 子供扱いしないで欲しいわね!」

 

 アスカもアガットに向かって食って掛かりそうな勢いで怒った。アガットは詰め寄って来たエステルとアスカを鼻で笑った。

 

「シェラザードの手を借りずに、お前らだけでその事件を解決できたのか?」

 

 アガットにそう言われたエステルとアスカは下を向いてしまった。ヨシュアとシンジも反論する事は無かった。

 

「お前らは新米だ、力も経験も足らねえ。とっさに判断する事も出来ねえさ。推薦状を貰ったからと言って浮かれてるんじゃねえぞ」

 

 アガットは吐き捨てるようにそう言うと、重剣を置いて空いているベッドに寝転んでしまった。直ぐに寝息を立て始めたアガットをエステルとアスカは悔しそうににらみつける事しか出来なかった。

 

「アガットさんは、僕達の事を心配してきつく当たっているのかもしれないよ」

「アンタ、何で分かるのよ?」

 

 シンジがおずおずと自分の意見を言うと、アスカは不機嫌そうな顔でシンジに問い掛けた。

 

「だっていつも側で見ているから……ぐえっ!」

「アイツと一緒にするなっ!」

 

 アスカの怒りの一撃が、シンジのみぞおちに食い込んだ。余計な事を言わなければいいのに、口は禍の元、だとヨシュアは思った。明日も峠道を越えなければならないエステル達も眠りに就く事にした。

 

「そうだ、寝ているコイツの顔に落書きしてやるって言うのはどう? そうすればスッキリ眠れそうよ」

「起きた後が大変だって」

 

 ヨシュアはため息をついてアスカを押し留めるのだった……。




 ◆ブレイサー手帳◆

 依頼達成数:32

 獲得BP  :119

 ランク 準遊撃士・5級

 所属 ボース支部  
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