アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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空の軌跡FC・ロレント地方編
第一話 カシウスと二人の出会い、アスカの悪夢(2022/08/31 01:28改稿)


「お願いです! ボク達、連絡を取ってネルフに戻らないといけないんです!」

「アタシ達がエヴァに乗って使徒を倒さないと、サードインパクトが起きて世界が滅亡するのよ!」

 

 5階建ての石造りの塔の屋上。

 アスカとシンジは、姿を現したカシウスという中年の男性を相手に、必死の形相で訴えていた。

 

「世界が滅亡だと!? それは随分と面白い冗談だな、はっはっは」

 

 彼は住んでいる町の子供たちを相手にしているような態度で、真剣に取り合わなかった。

 

 

 

「信じて下さい!」

 

 ネルフもエヴァも全く知らない彼に、シンジは必死に訴える。

 ここは、人の命を奪う魔獣の住処となっている場所。

 脱出してネルフに戻るには、武術の達人と思われるカシウスの助けが必要だった。

 

 

 

 

 

 

 栗色の髪と青い目をした少女アスカ。

 黒い髪と黒い目をした少年シンジ。

 共に14歳でプラグスーツと呼ばれるパイロットスーツのような服を着ていた。

 

 

 

 塔の上から身を乗り出して周囲を見降ろしたアスカは、自分達が第三新東京市から離れた場所に居ると気付いた。

 石造りの建物が並ぶ集落のようなものが見えるだけで、後は緑に覆われた大自然だ。

 シンジは高所恐怖症気味だったので、塔の外周に近づくこともできなかった。

 

 身に着けていた服、プラグスーツ以外に何も持ち物を持っていない二人。

 少し待てば彼らの所属する組織、ネルフからの救援が来ると二人は楽観的に考えていた。

 

 

 

 

 

 

 だがしばらく待っても空を飛ぶ飛行機などの飛翔体すら見当たらない。

 2015年の日本でそのような場所はあるのだろうか、とアスカは思った。

 

「外国のとんでもない田舎に飛ばされたのかもしれないわね」

「えっ、それってワープしたってこと?」

 

 アスカは平凡な中学生であるシンジでも、神隠しやワープといった知識は持ち合わせているかと思った。

 ワープなんて小説などのノンフィクションの世界でしかあり得ないと考えていたが、まさか自分達が体験することになるとは思ってもみなかった。

 

 

 

「こんな所にずっと居るなんて冗談じゃないわ、さっさと行きましょう!」

「どこに?」

「バカっ、電話とか連絡手段のある場所よ!」

 

 緊急事態を飲み込めていないシンジにアスカは苛立った。

 ボケッとしているシンジの手を強引に引っ張り、屋上から塔の内部へと続く階段を降り始めた。

 階段の壁面には青白い電灯のようなものが埋め込まれており、灯りを持っていなくても進むことは出来た。

 

 

 

 しかし塔の5階に足を踏み入れた途端。

 前を歩くアスカと、後ろをついていたシンジは、異形の姿をした怪物に遭遇した。

 

 その怪物は巨大なヤドカリのような姿をしていた。

 怪物は数本の触手を威嚇するようにアスカに向かって振り回して迫ってきた。

 触手によってムチの様に叩かれても、絞められたりしたらただでは済まない。

 命の危険を本能で察したアスカは、シンジの手をつかんで急いで屋上への階段へと引き返した。

 

 

 

「アスカ、屋上は行き止まりだよ!」

「今すぐ絞め殺されるよりはマシでしょ!」

 

 屋上まで怪物が昇って来たら絶体絶命だ。

 しかし後ろに居たシンジは怪物が電灯の光を嫌ってそれ以上追いかけてこないことに気が付いた。

 

「アスカ、急がなくても大丈夫みたいだよ」

「何でよ?」

 

 振り返ったアスカはシンジと同じように、電灯のある場所に怪物が近づいてこないと分かった。

 二人はホッと胸をなでおろした。

 

 

 

 当面の命の危険は無くなったが、塔の屋上に閉じ込められる形になってしまった。

 怪物に襲われずに塔から脱出するには飛び降りるしかない。

 天空の何とかというアニメでもあるまいし、5階建ての建物から怪我一つなく着地するなんて奇跡は起こらない。

 

 

 

 人間は絶望的な状況に置かれると、まず強烈な怒りがこみあげてくるものである。

 アスカはシンジに向かって感情を爆発させた。

 

「こうなったのも、全部バカシンジのせいよ!」

「アスカを助けようとして巻き込まれたんだから、ボクは悪くないよ!」

「ハァ!? 結局アンタはアタシを助けることが出来ずに、一緒に飲み込まれただけじゃないの!」

 

 

 

 ほんの数時間前まで、二人は第三新東京市でエヴァンゲリオンと呼ばれる巨大ロボットに乗っていた。

 特務機関ネルフによって使徒と呼称される人類の敵と戦っていたのだ。

 エヴァンゲリオンは正確にはロボットではなく人造人間。

 使徒は怪獣のような存在であるが、様々な生態を持つ存在だ。

 

 

 

 今回、シンジの乗るエヴァ初号機と、アスカの乗るエヴァ弐号機が戦った使徒の名前はレリエル。

 空中に浮かぶ白と黒の縞模様の使徒レリエルを、二人は迎撃した。

 使徒との戦闘中、弐号機はレリエルの真下に広がった黒い影に足元から沈み込んだ。

 

 空中に浮かぶレリエルの影だと思っていたものは、底なし沼だったのだ。

 飲み込まれて行く弐号機を地上に引き上げようと、初号機が助けに駆け付ける。

 

 

 

 しかし初号機も同じように沈んでいき、二機のエヴァは頭の頂点まで黒い影に飲み込まれた。

 黒い影に飲み込まれた後、エヴァの操縦席から見える外部モニターは真っ黒な闇に覆われた。

 作戦の指揮を執る、ネルフの発令所と通信を試みるも、不可能だった。

 

 しばらく暗黒の世界が続いたと思うと、目を開けていられないぐらいに眩しい光で満たされる。

 光が収まった後、恐る恐る二人が目を開くと、石造りの塔の屋上に立っていたことに気が付いた。 

 乗っていたはずのエヴァの姿は跡形もなく消えていた。

 

 

 こめかみに青筋を立てるほど激しい二人の言い争いはしばらく続いた。

 無益ないさかいを止めたのはお互いのお腹の虫の音だった。

 

 

 

 怒りが収まった後に湧いて出るのは諦めの感情。

 アスカとシンジはにらみ合いを止めると、深いため息をついて壁を背に、もたれかかって床に座る。

 

「ボク達、このまま死んじゃうのかな……」

「アンタねえ、そんなに簡単に諦めてどうするのよ!」

 

 空腹になったのも影響したのか。

 へたり込んで弱音を吐くシンジ。

 檄を飛ばすアスカも、八方塞がりだと頭では分かっていた。

 

 

 

 屋上は安全地帯だが、食料も水も無い。

 飛び降りるにしても、クッションのようなものがなければ足の骨折は確実だ。

 誰かが塔の屋上にやってくるのを待つ?

 怪物の巣に集落の人間が入って来るとは思えない。

 

 

 

 このまま二人とも死んでしまうとなれば、シンジが自分の身を犠牲にしてアスカを助けようとするかもしれない。

 献身的な性格のシンジは、5階から飛び降りるためのクッションになることも、囮となって怪物を引き付ける役目も引き受けるだろう。

 

 シンジが行動を起こす前に、二人とも命を落とさないで済む方法に賭けるか。

 それは二人で怪物の巣である塔の内部を突破して脱出することだ。

 アスカが決意を固めようとした時。

 

 信じられない事に、カツン、カツンと塔の内部から階段を登る足音が二人の耳に届いた。

 

「ネルフの人達が助けに来てくれたんだ!」

「しっ、黙りなさいよ、バカシンジ」

 

 アスカは小声で注意を促すと、シンジの口を手で塞ぎ、ため息を付いた。

 まったくシンジの無警戒には呆れたものだ。

 ここは、ネルフの監視が及んでいるかどうか分からない異国の地。

 登って来た人物がネルフの関係者であるとは限らないのだ。

 

 

 

 ここは物陰に隠れて様子をうかがうのが得策だとアスカは判断した。

 幸い相手は一人のようであるから不意を突けば二人掛かりで勝てるかもしれない。

 二人はエヴァのパイロットとして肉弾戦の訓練を受けていた。

 怪物がひしめくこの塔を一人で踏破できる強者が、そんなに甘い存在ではないという不安は大いにあった。

 

 

 

 困惑するシンジを物陰に引っ張り込む。

 そして塔の内部から屋上に姿を現した男性の風貌を観察する。

 歳は30代後半から40代前半位。

 手には長い棒のような武器を持っている。

 棒術使いか、銃ほどではないが厄介な相手だとアスカは思った。

 

 

 

「こんな所で二人仲良くかくれんぼか……良かったら私も交ぜてくれないか?」

 

 男性の言葉を聞いたアスカは肝を冷やした。

 気配だけではなく人数までピタリと言い当てるなんて、かなりの達人だ!

 

 隠れていることがバレたと判断したアスカは愛想笑いを浮かべて物陰から男性の前に歩み出る。

 怯えたシンジの脇腹を肘で突いて一緒に愛想笑いをしろと合図を送ったが、シンジは直ぐに作り笑いを浮かべられるほど器用ではなかった。

 

 

 

「あの、あなたはどなたですか? どうしてこちらに?」

 

 アスカは精一杯の愛想をふりまいて、男性に話しかけた。

 久し振りに見せる社交的なアスカの姿を見て、シンジは怖さも忘れてアスカの処世術に感心しているようだ。

 

「私はカシウス・ブライト、『遊撃士』だ。この翡翠の塔に空から光の柱が降りて来たという目撃証言があったから調査に来たわけだが……お前さん達、何か知らないか?」

 

 とりあえず、男性と言葉が通じたようで二人はホッとした。

 しかし『遊撃士』とは二人にとって聞き慣れない言葉だった。

 弁護士、税理士、消防士、想像の世界の分を入れるなら武士や錬金術士、までは聞き覚えがある。

 

「遊撃士って何ですか?」

 

 シンジから率直な疑問が口を突いて出た。

 

 

 

 

 

 

 カシウスは偶然出会った子供たちを安心させるために『遊撃士』と名乗った。

 塔の近くにある集落、名前はロレントの街という。

 その街の子供たちが空から光の柱が降りてきたという話を耳にした。

 そして探険ごっこでこの翡翠の塔へと足を踏み入れ、魔獣に追われて屋上で震えていた。

 可能性としてはそんなところだとカシウスは考えていた。

 

「遊撃士って何ですか?」

 

 『遊撃士』は民間人の安全と地域の平和を守る存在であり、世界の子供たちにとっては憧れの的となっている。

 その遊撃士を知らないとは、カシウスは大いに驚いた。

 

 

 

 尋ねてきたシンジと側に居るアスカの服装も、カシウスが見た事のない奇妙な文様をしていた。

 どことなく、カシウスと敵対する『結社』の雰囲気を感じさせる。

 光の柱の降臨という怪奇現象の起きた塔の屋上に現れたこの二人の少年少女はただものではない。

 

「お前さん達は何者だ?」

 

 眼光の鋭さを増してカシウスが尋ねると、アスカの愛想笑いがスッと消える。

 するとアスカの後ろに隠れるようにしてシンジが、アスカをかばうように前に出た。

 

 

 

「ボクはエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジです!」

 

 シンジは勇気を振り絞って、カシウスの問いに答えた。

 その言葉の意味がカシウスに理解できるはずもない。

 今度はカシウスがあっけにとられる番だった。

 気の強そうな少女はシンジの耳を思いっきり引っ張った。

 

「何バカなことを言っているのよ、シンジ!」

「でもアスカ、何者だって尋ねられたから正直に答えないと……」

 

 目の前で繰り広げられる栗色の髪の少女と黒髪の少年の子供染みた喧嘩を見て、カシウスは胸がざわつくのを感じた。

 

 

 

 これはまるで我が家で帰りを待っている私の子供達、エステルとヨシュアを思い起こさせるものではないか。

 自分の子供達に髪の色の組み合わせも、性格も似た少年少女に親近感を覚えたカシウスは一気に緊張を緩めて陽気な調子で声を掛ける。

 

「そうか、お前さん達はシンジとアスカと言うのか!」

 

 カシウスが態度を変えると、アスカは虚を突かれて目を丸くした。

 

「な、何よこのオッサン……」

 

 

 

 カシウスは正体が何であれ、自分の子供達に似たこの二人を救助すると心に決めた。

 それに先ほどのやり取りからも、この二人には自分の身を投げ出してでも相手を守る強い仲間意識のようなものを感じる。

 片方を人質に取れば、もう片方の行動を抑止できるだろうと打算も働いていた。

 

 

 

「お願いです! ボク達、連絡を取ってネルフに戻らないといけないんです!」

「アタシ達がエヴァに乗って使徒を倒さないと、サードインパクトが起きて世界が滅亡するのよ!」

 

 カシウスが敵対的な存在ではないと気が付いたのか、警戒心を解いたシンジとアスカが、必死な表情で頼み込んできた。

 二人の力になると決めたカシウスだが、話の内容が解らない。

 まだ幼さを感じさせる少年少女二人が世界を滅亡から救うために戦っている?

 

「世界が滅亡だと!? それは随分と面白い冗談だな、はっはっは」

「信じて下さい!」

 

 そんなバカな話があるものか、とカシウスは一笑に付したいところではあった。

 だがこの二人の表情は真剣そのもので、冗談を言っているようには到底見えない。

 

 

 

 遊撃士を知らない、奇妙な文様の服装、空から光の柱が降り注いだ後に現れた子供たち。

 空の女神エイドスが起こした奇跡によって、遥かなる時空の彼方から転移してきたと言うのか、レナ?

 七耀教会のシスターであった、亡くなった妻にカシウスは心の中で問い掛けた。

 

「お前さん達が言うネルフだかエヴァと言うのは俺には分からん。この塔を脱出しなければ何も始まらん」

「それは、そうですけど……」

 

 カシウスは笑顔を作って手を差し伸べたが、シンジは表情を曇らせて握手を拒絶した。

 遊撃士を知っていれば直ぐにでも心を開いてくれそうなものだが、どうしたものかとカシウスは溜息をついた。

 二人はネルフという組織に属していると聞いていた、今頃になって私が敵対する組織の人間かどうか怪しみ出したのかもしれないな。

 さて二人の信頼を得るにはどうしたら良いものか……。

 

 

 

「何を悩んでいるのよ! このオッサンがネルフ関係者じゃなくても、この塔から脱出するためなら協力しなくちゃ!」

「まあ、待て」

 

 カシウスは落ち着いた声で、跳ねるように階段に向かおうとしたアスカを引き留めた。

 この思い立ったら直ぐ行動は我が娘、エステルとそっくりだな、と心の中で思いながら。

 

「お前さん達はこの塔に来てから、飲まず食わず、休みも取っていないのだろう? そんな状態で魔獣が潜む塔を突破するのは無謀だ」

「でもアタシ達は急いでいるのよ!」

「落ち着け。世界を救う前に死んでしまっては元も子もないだろう」

 

 

 

 カシウスに説得されたアスカとシンジは、安全地帯である翡翠の塔の屋上で一夜を過ごすことになった。

 手渡された何の味もしないパンとワインで空腹とのどの渇きを癒した。

 満腹感とアルコールは二人に強烈な眠気を催す。

 固い石畳の上にも関わらず、二人は直ぐに眠りに落ちた。

 寝ずの番をしているカシウスは二人のあどけない寝顔を微笑ましいものだと温かい目で見守っていた。

 

「さて、この塔から脱出した後、この二人をどうするか……」

 

 塔から脱出しても、この二人がネルフという組織に戻れる可能性は限りなく低い。

 この王国の情報を知り尽くしているカシウスはネルフという言葉さえ耳にしたことがなかった。

 ロレントの住民たちや、遊撃士協会のネットワークには存在しない情報だ。

 さらに二人がやって来たと思われる光の柱が直ぐにこの場に再び現れる気配もない。

 

 

 

 とりあえず目立つ服装で外をうろつかせるわけにもいかない。

 しばらく自分の家で匿うしかないかと思案していたカシウスの耳に、アスカの悲鳴が突き刺さった。

 

「イヤァァァァ!」

「どうした!?」

「ママ、ママぁ!」

 

 アスカの口から発せられた母親を求める言葉。

 この極限状態で、アスカは悪夢を見てしまったのだろう。

 自分には母親の代わりをすることはできない、それならば……。

 カシウスは幼きエステルを宥めた時と同じく、包み込むようにアスカを抱き締めた。

 

「アスカ、パパが側に居るぞ、安心しなさい」

「パパ……?」

 

 優しくされたアスカは一度は落ち着いてカシウスのハグを受け止めたかのように見えた。

 しかし、一呼吸置いてからアスカは一際大きな叫び声を上げた。

 

「ヤダヤダヤダ! パパのせいでママは! イーヤーッ!」

 

 強い力で抵抗してアスカはカシウスの抱擁から逃れようとする。

 拒絶され、動揺した彼の後頭部を、厳しい表情をしたシンジが殴打した。

 彼は自分がアスカを襲っていると、シンジが誤解していることに気が付いた。

 

 

 

 アスカを救うために、自分に攻撃を仕掛けるとは男気があるじゃないかとカシウスは感じた。

 痛む頭を手で押さえながら、カシウスはシンジに向かって声を掛けた。

 

「アスカは悪夢にうなされて助けを求めている。応えてあげなさい」

「そ、それってボクがアスカを抱くってことですか?」

 

 カシウスの言葉に怒りがスッと覚めたシンジは、激しく動揺しながら聞き返した。

 

「そうだ。俺が父親の代わりになって、アスカを慰めようとしたが、できなかった。シンジ以外の人間にアスカを救うのは無理だ」

 

 

 

 

 

 

 カシウスに言われたシンジは、父親のゲンドウに呼び出されて初号機に乗った時のことを思い出した。

 初号機に乗れる人物は自分の他にいないとシンジは言われた。

 あの時も逃げちゃダメだと自分を奮い立たせた。

 

 今も自分にしか出来ないことをするべき時なんだ……!

 シンジは涙を流し続けるアスカを抱きしめて安心させるように声を掛ける。

 

「シンジ……?」

「アスカ、安心して。ボクが側に居るよ」

「何処にもいかない?」

「もちろん、ずっと側に居るよ」

「ありがと……シンジ……」

 

 

 

 すっかり心が落ち着いたアスカは、再び眠りに就いたようだった。

 目的を果たしたボクは身体を離そうとしたけど、カシウスさんに止められた。

 

「再びアスカが悪夢にうなされるかもしれない。今夜はずっとアスカの側に居てあげるんだ」

「分かりました……あのカシウスさん」

「なんだ?」

「さっきは思い切り頭を殴ってしまってごめんなさい。アスカがカシウスさんに襲われていると思って……」

「はっはっは、遊撃士は普段から鍛えているんだ。あの程度の攻撃、たいした事ないさ」

「遊撃士って凄いんですね……」

 

 

 

 話しているうちに、シンジも再び眠くなって来た。

 床は石畳みだが、今はアスカという最高の抱き枕が側に居るのだ。

 柔らかい感触に心が休まるのはシンジも同じだった。

 

「安心して寝なさい。私が起こしてやる」

 

 眠りに落ちながら、アスカのことを父親のように守ってくれたのだから、カシウスさんは信頼に値する人物だとシンジは思った。

 明日の朝に目が覚めたら、アスカにカシウスさんは優しい人だって何とかして伝えよう。

 

 

 

「キャーーーッ! エッチ! バカ! 信じられない!」

 

 シンジはパニックになったアスカのビンタで目を覚ました。

 アスカが起きた時、胸に顔を埋めて寝ていたらしい。

 さらにタイミングの悪いことに朝立ちもしていたみたいだった。

 

「カシウスさん、起こしてくれるって言ったじゃないですか!」

「この方がスッキリと目が覚めると思ったからな」

 

 カシウスさんはニヤニヤした顔で口を尖らせたシンジに答えた。

 せっかくカシウスさんが信頼できるってアスカに話そうとしたのに。

 

 

 

「シンジ、カシウスさん。……昨日はありがと」

 

 どうやらアスカにも昨夜の記憶が少し残っているみたいだった。

 それなら改めてシンジがアスカを説得する必要はない。

 

 疲れも取れたところでいよいよ出発だ。

 赤くて長い棒のような武器を持ったカシウスさんの背中は頼もしく見えた。

 

「良いか、俺の後ろをピッタリと付いてこい。他の道に迷い込んだら命は無いと思え」

 

 カシウスの警告にシンジはゴクリと唾を飲み込んだ。

 それはアスカも同じだった。

 三人はカシウスを先頭に、魔獣が巣食う塔の内部への階段を降りるのだった。




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