アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第十九話 逃げちゃダメだ! 男の戦い

 

 マノリア村から出てメーヴェ海道を進んだエステル達は、『北・マーシア孤児院』と書かれた看板を見つけた。孤児院の敷地内に入ると三人の子供たちが楽しそうに話していた。そのうちの一人は帽子の少年で、子供達からはクラムと呼ばれていた。

 クラムはエステルからかすめ取った準遊撃士の紋章を誇らしげに他の二人に見せびらかしていたが、エステルの姿を見ると跳び上がった。

 孤児院の庭を舞台にエステルとクラムの追いかけっこが始まり、ため息をついたアスカたちは不思議そうな顔をした子供たちと一緒に見守っていた。

 

「離せよっ、児童虐待で訴えるぞ!」

 

 捕まってエステルに首根っこをつかまれたクラムはジタバタともがくが、子供の力では振り切る事は出来ない。

 

「大人しくあたしの紋章を返しなさいっての!」

 

 抵抗するクラムの身体をつかんでエステルはブンブンと振り回す。さすがにやりすぎだとヨシュアが止めに入る前に、凛とした少女の声が響いた。

 

「ジーク!」

 

 白い鷹の様な鳥が高速で飛来し、エステルの側をかすめた。驚いたエステルはクラムをつかんでいた手の力を緩めてしまう。クラムが逃げて行った先、孤児院の入口の前には、マノリア村で出会った紫色の髪をした制服の少女が、凛とした表情でエステルに鋭い視線を向けて立っていた。

 

「あら? あなたはマノリアでお会いした……」

 

 制服の少女はシンジの姿に気が付くと、不思議そうな顔になった。

 

「助けて、クローゼ姉ちゃん! オイラ、あの姉ちゃんに暴力を振るわれたんだ!」

 

 クラムは制服の少女にしがみついてエステルを指差した。エステルがクラムをつかんで振り回している姿をクローゼも目撃していたからこそ、クローゼはシロハヤブサのジークをけしかけたのだった。

 

「ごめんね、彼女はボクたちの仲間なんだ」

 

 シンジが申し訳なさそうな顔をしてクローゼに声を掛けると、クローゼは安心したかのような笑みを浮かべた。

 

「私、てっきり強盗がやって来たのかと思って、早とちりをしてしまいました」

「こんなかわいい強盗なんて居ないと思うんですけど!」

 

 エステルは不満そうにほおを膨らませた。自分でかわいいと言ってれば世話が無いよ、とアスカはあきれ顔だ。孤児院の子供たちによると、クラムがいたずらをするのは毎度の事らしく、クローゼも事情を察したようだ。

 

「お姉ちゃん、アップルパイまだ?」

「もうちょっとで焼き上がるから、待っててね」

 

 孤児院の子に声を掛けられたクローゼは、優しく微笑んでそう答えた。エステルとクラムはクローゼを挟んで「この悪ガキ!」「暴力オンナ!」と言い合いをしている。ややこしい事態になったとシンジとクローゼが顔を合わせてごまかし笑いを浮かべていると、孤児院の中から穏やかな笑みを浮かべた女性が姿を現した。

 

「テレサ先生!」

 

 クローゼにテレサ先生と呼ばれたエプロン姿の女性は、クラムに向かって優しく語り掛ける。

 

「あなたは本当に何も悪い事はしていないのですね? 女神エイドス様にも誓えますか?」

「ち、誓えるよ!」

 

 クラムは目を泳がせながらも、テレサ院長に向かってそう答えた。テレサ院長はエステルたちの顔を見回した後、地面を指差してクラムに再び尋ねた。

 

「そこにバッジが落ちていますよ。あなたのではないですか?」

「えっ、ズボンのポケットに入れてあるはずなのに……」

 

 そうつぶやいたクラムは口を手で押さえたがもう遅い。見守っていたエステルたちからも驚きの声が上がる。言い逃れが出来なくなったと悟ったクラムは準遊撃士の紋章をエステルに投げ返すと、孤児院の外へと逃げて行ってしまった。クローゼは心配そうな顔でクラムが消えた方を見つめていたが、テレサ院長はお腹が空けば戻ってくると大きく構えていた。

 

「お話は、中でお茶を飲みながら伺わせて頂けないかしら?」

 

 穏やかな笑顔のテレサ院長に誘われたエステルたちは孤児院の中へと入るのだった。

 

 

 

 

 孤児院の中に入ったエステルたちはテーブル席に着き、ハーブティとクローゼが焼いたアップルパイをご馳走になった。エステルも美味しいパイですっかり機嫌を直した。自己紹介をしたエステル達はテレサ院長とクローゼにマノリア村でクラムと出会った事から先程の事までを話した。

 

「あの子は悪い子ではないのですが、いたずら好きで……本当にごめんなさい」

「もういいですよ、紋章も返してもらったし。美味しいお菓子とお茶でチャラって事で」

 

 謝るテレサ院長に、エステルは笑顔でそう答えた。シンジはハーブティに関心を持ったようで製法を尋ねると、テレサ院長は孤児院の庭でハーブを栽培していると答えた。アップルパイもテレサ院長が作ったのかと聞くと、クローゼが作ったのだと話した。シンジが感心したようにクローゼを見つめると、クローゼは照れくさそうに微笑んだ。

 

「私、勘違いをしてしまって、皆さんに失礼な事をしてしまいました……」

「別に、気にしなくていいってば。あたしもあの子に乱暴な事しちゃったし」

 

 また謝ったクローゼに、エステルはそう言って笑いかけた。話題はエステルを驚かせたシロハヤブサの事になった。名前はジークだとクローゼは話した。

 

「シロハヤブサはリベール王国の国鳥だったね、君が飼っているの?」

 

 ヨシュアに聞かれたクローゼは、ペットではなく仲のいい友達だと笑顔で答えた。

 

「アンタ、ジェニス王立の生徒よね、孤児院の子なの?」

 

 今まで鋭い目つきでクローゼをにらみつけるように見ていたアスカが口を挟んだ。ロレントで会ったジョゼットの様に偽学生でないかと疑っている事に気が付いたシンジは、アスカを責める様な目で見た。

 

「いえ、私は学園の寮に住んでいます。あまり遠くないので、つい毎日のように遊びに来てしまうんです。ご迷惑おかけしていると思うのですけど」

 

 クローゼはそう言って弱々しい笑みを浮かべた。

 

「そんな事はありませんよ。あなたが来てくれて、いろいろ助かっていますよ。子供たちも喜んでます」

 

 テレサ院長はクローゼに穏やかな笑顔を向ける。エステル達はクローゼがこの孤児院に足繫く通うのが分かる気がした。テレサ院長には母親の様に包み込んでくれる優しさがある。

 

「でも、学園生活も大切ですよ。まあ、あなたなら大丈夫でしょうけど」

「はい、分かりました」

 

 しっかりと大切な事は言うテレサ院長に、はにかみ笑いを浮かべてクローゼは答えた。

 

「うーん、学園生活って言うのも面白そうね」

 

 エステルはポツリとそうつぶやいた。遊撃士になる前に通っていた教会の日曜学校はその文字通り週に一回しか授業が無かった。

 

「アンタが学校に通っても、どうせ先生の前でグースカ寝ているのがオチね」

「そうなんですか?」

 

 アスカが口を挟むと、クローゼにもその光景が思い浮かんだのか、楽しそうに声を上げて笑った。ジェニス王立学園には入学試験もあると聞いたエステルは、自分には無理だとため息を吐き出した。

 

「遊撃士になる方が大変だと思いますよ」

 

 クローゼはそんなエステルを励ます様に声を掛けた。16歳で準遊撃士の試験に受かり、ロレント支部とボース支部の貰っている事を知ったクローゼは自分の方こそ憧れてしまうとエステルたちを羨望の眼差しで見つめた。

 しばらくの間、ルーアン支部の遊撃士協会に所属する事になるとエステルたちが話すと、テレサ院長はそれならお世話になる事もあるかもしれませんね、子供たちも喜ぶのでまた遊びに来て欲しいと穏やかな笑顔で話した。

 

 

 

 

 すっかり話し込んでしまったエステル達はクローゼと一緒に孤児院を出た。テレサ院長は暖かい母親のような人だと全員の意見が一致した。シロハヤブサのジークが飛んで来て、クローゼの肩に止まる。

 

「クローゼさんは、ジークの言葉が分かるの?」

「話せはしませんけど、何を言いたいのかは分かります」

 

 シンジが尋ねると、クローゼはそう答えた。エステルがジークに近づこうとすると、ジークは飛んで行ってしまった。

 

「あーあ、フラれちゃった」

 

 エステルがガッカリした顔でため息をつくと、クローゼたちは笑った。これからエステル達がルーアン支部の遊撃士協会に行く事を知ったクローゼは、案内役を買って出た。今日は外出許可を貰っているので問題は無いと話した。

 エステル達は孤児院から出た所で、クラムに呼び止められた。クラムはクローゼにウソをついた事、エステルの準遊撃士の紋章を盗ってしまった事を謝った。

 

「許してあげる。あたしも注意力が不足していたのは確かだし」

 

 エステルはクラムに向かってそう言って笑顔を向けた。

 

「まだまだ修行が足りないな、姉ちゃん!」

「むー、やっぱりかわいくない!」

 

 クラムは憎まれ口を叩きながら孤児院の方へと姿を消した。エステルは頬を膨れさせてクラムの消えた方を見つめていた。

 ルーアンの街に向けて海岸沿いの街道を進むエステルたちの耳に男性の悲鳴が聞こえて来た。エステル達は悲鳴のあった砂浜の方へと駆け付けると、男性がサメに足が生えたような魔獣に襲われていた!

 

「クローゼは後ろにさがってて!」

「はい!」

 

 エステルの指示に従ってクローゼは後方へ下がった。必然的にシンジとの距離が近くなる。

 

「ボクが君を守るから」

「お願いします」

 

 アスカはそれが気に入らなかったが、今は魔獣との戦いに集中しなければ、と意識を無理やり前方の魔獣へと向けた。魔獣の動きは鈍く、エステルたちは傷を負う事無く倒すことが出来た。

 襲われて男性はジミーと名乗り、街道から外れた砂浜に居たのは深い理由があるが話せないと言った。アスカに鋭い目でにらまれたジミーはルーアンの街の方へと逃げるように走り去っていた。

 

「全く、自分勝手に街の外に出て危険な目に遭ってれば世話無いわ」

 

 アスカは苛立った顔をしながらため息を吐き出した。ジミーが危険を承知でこの海岸に来たのは何かがここにあるはずだとアスカが勘を働かせながら周囲を見回すと、古い樽のようなものが埋まっているのが見つかった。

樽の中には古びた短剣と海図の切れ端が入っていた。これがジミーの探していた物だと確信したアスカは、ニヤリと笑いを浮かべながら、シンジに大事に持っておくようにと預けた。こういう事には鼻が利くアスカだった。

 

 

 

 

 ルーアンの街に着いたエステル達は風光明媚な街並みに目を輝かせた。海は青く、真っ白な建物との対比は海港都市を感じさせた。クローゼはルーアンの街には様々な見所があるが、一番の場所は《ラングランド大橋》だと話した。巻き上げ装置を使った跳ね橋になっているのだと言う。

 

「跳ね橋か、面白そうだね!」

「そうね」

 

 ワクワクするような顔で声を掛けるエステルに、アスカは素っ気なく答えた。アスカはドイツでは回転する橋など見ているのだ、今更跳ね橋くらい……とやはり世界の溝は埋められない部分があった。

 エステルたちが遊撃士協会へと入ると、受付には人の姿が無かった。不思議そうな顔で立っていると、掲示板を見ていた遊撃士の女性に声を掛けられた。

 

「受付のジャンは二階で客と打ち合わせ中なんだ」

 

 紺色の長い髪を後ろで束ね、胸元が開いた色気を感じさせるその遊撃士の女性はカルナだと名乗ると、遊撃士協会に頼み事があるなら自分が代わりに聞くと話した。

 

「あたしたちも遊撃士なんだけど」

 

 エステルが胸にある遊撃士の紋章を指差すと、カルナは同業者かと声を上げて笑った。

 

「エステルにアスカ、ヨシュアにシンジか、あんたたちロレントから来たのかい」

 

 エステルたちが自己紹介をすると、カルナは感心したようにつぶやいた。さらにロレント支部とボース支部の推薦状を持っている事を話すと、カルナは含み笑いを浮かべてつぶやいた。

 

「ジャンのやつ、有望な新人が来ると知ったら大喜びだね」

 

 エステル達は背筋に寒いものを感じた。転属手続きをしなければ遊撃士としての活動が出来ない。ジャンの話が終わるまでエステルたちは再びルーアンの街の見物をして待つことにした。

 

 

 

 

 ラングランド大橋を渡りルーアンの街の南街区まで足を伸ばしたエステル達は、倉庫が立ち並ぶ区画までやって来た。倉庫の前では赤い布を頭に巻いている若い男たちがたむろしていた。

 

「へへっ、ヒマだったら俺達と遊ばないか、お嬢ちゃんたち」

 

 エステルたちの姿を見た五人の男達は近づいて来た。

 

「何よ、下手なナンパね。アタシたちはアンタ達に付き合っているヒマなんてないの、他を当りなさい!」

 

 アスカが腰に手を当てて断言すると、男達の内の一人がアスカを物色するように見ながら笑みを浮かべる。

 

「その強気の態度、俺の好みのタイプかも」

「ウザッ」

 

 アスカが嫌悪感をあらわにする。リーダー格の別の男がヨシュアとシンジを見て鼻を鳴らす。

 

「そんな女みたいな生っちょっろいガキども何か放って置いて、俺たちと楽しもうぜ」

「何がガキよ!」

 

 バカにされたヨシュアとシンジ当人よりも、アスカやエステルの方が怒りに震えていた。

 

「あんたたちド素人なんか、束になってもヨシュアに勝てないわよ!」

 

 エステルがそう言ってヨシュアを指差すと、男達の視線が集中する。ヨシュアがウンザリとした顔でため息を吐き出すと、それが余裕ぶった態度に見えたようで、男達の表情がさらに険しくなる。男達はヨシュアを取り囲むようににじり寄って来た。

 

「僕の態度が気に入らないなら謝りますけど……彼女たちに手を出したら、手加減、しませんよ」

 

 ヨシュアが眼光鋭く男たちをにらみつけると、男達は驚いて後退りした。しかし人数的には自分達が有利であると気が付いた男達は再びヨシュアに詰め寄った。エステルとアスカをかばうように前に出るヨシュア。

 

「兄貴、俺達も交ぜてくださいよ」

 

 タイミングが悪い事に、市街の方から男達の仲間が五人もやって来てしまった。ヨシュアと対峙する男達と同じく、エステルとアスカとクローゼを嫌らしい笑みを浮かべて舐めまわすように見ている。シンジは身体を震わせながらもクローゼを守ろうと踏ん張った。

 

「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、

逃げちゃダメだ……」

 

 シンジは初めて使徒と戦った時のように自分にそう言い聞かせるのだった。

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