アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第二十二話 再び登場、重剣のアガット!

 

 エステルたちは急いで街道を駆けて行ったが、クラムに追いつく事は出来なかった。ルーアン市街に着いたエステルたちは南街区にある倉庫街へと向かおうとするが、その時、鐘の音が鳴り響いた。

 無情にも目の前で巻き上げられる《ラングランド大橋》に、クローゼは思わず「ああっ」と声を漏らした。この橋は南街区に通じる唯一の通路だ、しかも一度跳ね橋が上がったら三十分は上がったままになる。

 

「クラム君、待って!」

 

 クローゼは南街区の向こうに居るクラムに呼び掛けるが、声は届いていないようだ。どうすればいいのか、と悩むエステルたちだが、名案を思い付いたのはアスカだった。

 

「そうだ、ボートを使えばいいじゃない」

「確かホテルの裏に小船が泊めてあったはずです!」

 

 クローゼの言葉に従い、エステルたちはホテルへと向かった。フロント係の男性は快くボートを使う事を許可してくれた。ホテルの地下から裏口を出たエステルは、桟橋に泊まっているボートに乗っている老人に声を掛ける。

 

「ボートを貸して! 急いで向こう岸に渡りたいの!」

 

 しかし老人は困った顔で、このボートはデュナン公爵の予約が入っているから貸すことは出来ないと答えた。デュナン公爵は釣りを楽しむ予定なのだと言う。

 

「あのカボチャ頭親父、こんな時に邪魔するなんて……!」

 

 アスカは怒りをみなぎらせた顔でつぶやいた。クローゼはすがりつくような顔で老人に頼み込んだ。

 

「お願いです、小さな子供が危険な目に遭うかもしれないんです。ボートを貸してください……」

 

 クローゼの切ない瞳を見た老人は、ボートをエステルたちに貸す事を承諾してボートから降りた。顔を輝かせてお礼を言うエステルたち。ボートの操縦はヨシュアが出来るとの事で、エステルたちはボートに乗り込んだ。

 ヨシュアはボートを倉庫区画の近くへと付けた。シロハヤブサのジークが飛んで来てクローゼの肩に止まる。ジークの鳴き声を聞いたクローゼは、真剣な表情でクラムは街の不良達が集まっている倉庫へと向かったとジークが話していると告げた。

 

 

 

 

 エステルたちより先に倉庫の中へと足を踏み入れたクラムは、不良達に向かって孤児院を放火したのはお前達だろうと叫んでいた。酒盛りをしている十人の不良達はクラムの事を相手にしていなかったが、無視されて怒ったクラムがワインの瓶を蹴り飛ばして割ると不良達の顔色が変わった。

 

「どうやら、痛い目に遭わなければわからない様だな」

 

 割れて先が尖ったワインの瓶を拾い上げ、細い部分を握ってクラムに突き付けた不良達のリーダー格の男はそう言って凄んだ。別の男がクラムを捕まえると、尖ったワインボトルのガラスの先端は凶器となってクラムへと迫った!

 

「止めてください!」

 

 凛とした声と共に倉庫に入って来たのはクローゼとエステルたちだった。突然現れた侵入者に不良達から驚きの声が上がる。しかしすぐに短剣を構えてエステルたちと向き合った。

 

「子供相手に暴力を振るうなんて、恥ずかしくはないんですか!」

 

 静かな怒りを燃やしたクローゼがそう言い放つと、不良達は頭に血が上ったかのように顔を真っ赤にしてクローゼをにらみつける。

 

「クローゼさん、危ない! 後ろにさがって!」

 

 シンジがクローゼに注意を促す様に声を掛けると、クローゼは真剣な顔で首を横に振ってレイピアを構えた。

 

「いいえ、私も皆さんと一緒に戦います。私は剣を、弱い物を守るために習いました。今がその時だと思います」

 

 クローゼの凛とした姿に、取り囲む不良達からも見惚れた声が上がった。しかし、リーダー格の男が一喝すると、不良達は自分の立場を思い出し、武器を構えてエステルたちとにらみ合った。

 

「その子を解放してください。でなければ、実力行使をさせて頂きます!」

 

 不良達の数はエステルたち五人の二倍である十人だが、クローゼは恐れずに言い放った。リーダー格の男が合図を出すと、エステルたちに襲い掛かった。エステルやアスカ、ヨシュアも遊撃士として経験を積んでいる。数人の相手に互角に渡り合っていた。クローゼの剣術もかなりの腕前で、不良の男の攻撃を華麗に受け流していた。

 

「シンジさん、足止めを少しだけお願いできますか」

「うん、分かったよ」

 

 シンジが導力銃による威嚇射撃で不良達の動きを牽制していると、クローゼは導力魔法の詠唱を始めた。クローゼはレイピアだけでなく、戦術オーブメントも持っているのかと驚くエステルたちの目の前で、クローゼが発動した魔法は範囲攻撃魔法、『ダイヤモンドダスト』だった。水属性のLV4、風属性LV2、空属性LV1の条件が整っていないと発動できない上位の魔法に、アスカは驚いた。

 ダイヤモンドダストにより動きを封じられた不良達はエステルたちの攻撃を受けて次々と無力化して行った。

 

「これ以上の戦いは無意味です。お願いですから、その子を放してください」

 

 クローゼが降伏勧告をしても、不良達はクローゼをにらみ続けた。このままではクラムを人質に取られるかもしれない。ヨシュアは戦技・絶影で一気に間合いを詰めようと力を込めた。

 

「そのくらいにしておけ」

 

 倉庫の入口の方から、青年の声が響いた。不良達は驚いて誰だと問い掛けると、姿を現したのはあの『重剣のアガット』だった。

 

「フン、しばらく見ないうちに俺の声まで忘れているとはな」

 

 アガットは不機嫌そうな顔でエステルたちや不良達のいる場所へと近づいて来る。

 

「アガットの兄貴が来てくれたぞ!」

 

 一騎当千の味方を得たかのように不良達の表情が明るくなった。

 

「アンタ、コイツらの仲間なの!?」

 

 アスカは武器である棒を構えてアガットをにらみつける。シンジはショックを受けた顔でアガットの事を見つめる。エステルとヨシュアもアガットに対する警戒心を表に出した。クローゼはアガットに剣を向けるべきなのか迷いの表情を見せている。

 

「兄貴、お仕置きしてやってください!」

「……そうだな」

 

 アガットは不良達のリーダー格の男の言葉に笑みを浮かべてそう答えると、そのリーダー格の男に駆け寄って鉄拳を食らわせた。

 

「ひでぶっ」

 

 その男は倒れ込んで床と熱烈なキスをした。アガットは呆然とする不良達に向かって大声で怒鳴る。

 

「お前ら、女子供に暴力を振るうたあ、タガが緩みすぎじゃねえか」

 

 すかさず別のリーダー格の男がアガットに反論する。

 

「チームを抜けたアンタにそんな事を言われる筋合いは……」

 

 それから先の言葉はアガットの鉄拳で吹っ飛ばされ、後頭部を壁ドンした男は言えなかった。

 

「あいつ、何か言おうとしていたようだな?」

 

 アガットに質問されたさらに別のリーダー格の男は腰を抜かして仰向けになってしまった。

 

「兄貴、勘弁してくれ、ガキは返すからっ!」

 

クラムがクローゼに駆け寄ると、クラムを抱いたクローゼは涙声になりながら声を掛ける。

 

「本当に良かった……もう大丈夫だからね……」

 

 アガットは床に寝転がる不良達を見ながら鼻を鳴らす。

 

「最初からそうしておけば怪我をせずに済んだんだよ」

 

 荒っぽいアガットの鉄拳制裁にエステルたちはため息を漏らした。アガットの話によると、遊撃士協会のジャンから話を聞いて倉庫へとやって来たのだと言う。

 

「ボクたちを心配して来てくれたんですか?」

 

 シンジが嬉しそうな顔でアガットに尋ねると、アガットは橋が上がっていたし、エステルたちが倉庫に居るとは思わなかったと話した。よく見てみると、アガットの身体は濡れていた。『重剣』を背負いながら川を泳いで渡ったのだとすれば物凄い体力だとシンジは思った。橋が降りるまで待てば泳ぐ事も無かったのに、泳いでまで駆け付けてくれるなんて……とシンジは感激するのだった。

 アガットはそんなシンジから視線を逸らす様にクラムに声を掛ける。

 

「一人で乗り込むなんて、なかなか度胸のあるガキじゃないか。だが無茶をして、お袋を心配させるんじゃねえぞ」

 

 アガットはテレサ院長が遊撃士協会を訪れ、受付のジャンに街の倉庫へと向かったクラムやエステルたちの危機を訴えたのだと話した。テレサ院長は、放火した犯人に復讐しても修道院は元には戻らない、クラムたちが無事で居てくれるのが私の望みだと言っていたとアガットが伝えると、クラムは大声を上げて泣くのだった。

 

 

 

 

 エステルたちはアガットの指示に従い、クラムを連れて遊撃士協会へと戻った。アガットは倉庫に残って不良達を締め上げて、放火事件について問い質すのだと言う。

 テレサ院長はクラムを連れてマノリア村まで帰ると話した。マノリア村までの護衛はルーアン支部所属の遊撃士、カルナがする事になった。エステルたちは街の出口まで二人を見送りに行った。

 

「オレ、弱っちいクセに、一人で勝手に乗り込んで人質にとられて、姉ちゃんたちの足を引っ張って……みっともないよな」

 

 クラムは目に涙を浮かべてエステルたちに言った。ヨシュアはクラムを元気付けるように声を掛ける。

 

「みっともなくなんてないさ。大切なものを守るために身体を張って立ち向かうだなんて、大人だって簡単に出来る事じゃないよ」

「そうだよ、ボクもキミの強さに感動したよ」

 

 ヨシュアの言葉に続くように、シンジもクラムに向かってうなずいた。

 

「ヨシュア兄ちゃん、シンジ兄ちゃん……」

 

 ヨシュアとシンジに励まされたクラムは伏せていた顔を上げて、二人の顔を見回した。エステルたちはクラムと放火犯は絶対に捕まえると固い約束を交わした。テレサ院長とクラムは、ジェニス王立学園の学園祭を楽しみにしていると話して、護衛役のカルナと一緒に街道に消えて行った。

 

「ヨシュアさん、シンジさん、先程はありがとうございました」

 

 元気を取り戻したクラムを見てクローゼは励ました二人にお礼を言った。

 

「ボクは本当に思った事を言っただけだよ。ボクはクラム君ほど強くは無いから」

 

 シンジはそう言って顔を曇らせた。単身敵陣に飛び込むだけの勇ましさは自分には無いとシンジは思っているようだ。しかしアスカはシンジが自分を助けるために死地に飛び込み、結果として二人ともこの世界に転移する事になったと知っている。シンジが臆病者ならば黙って穴に吸い込まれるアスカを見ていたはずだ。

 

「アンタは十分強いわよ、シンジ……」

 

 アスカはポツリとそうつぶやいた。

 

 

 

 

 遊撃士協会へとエステルたちが戻ると、ジャンとアガットが話をしていた。アガットの話によれば、絶対とは断言できないが、倉庫に居た不良達は放火の犯人の可能性が低いと言う。

 

「何かあいつらと知り合いっぽいし、かばっているんじゃないでしょうね?」

 

 エステルが怪訝そうにアガットをにらみつけると、ジャンは声を上げて笑った。ジャンはアガットがあの不良達……『レイヴン』の元メンバーだと話した。エステルたちと同じ歳の頃は、今のレイヴンが大人しいと思われるくらい大暴れしていたらしい。とある遊撃士に懲らしめられた後は改心して遊撃士の道を歩み、今では若手遊撃士のエースになっているのだから世の中は不思議だよとジャンはつぶやいた。

 

「こら、余計な事を言うんじゃねえ。昨日の夜、やつらは酒場で飲んだくれてたって目撃証言があった。酔ったやつらに用意周到な放火が出来る訳無いだろ」

 

 アガットの言葉にエステルたちは反論できなかった。火災現場にはレイヴンがやったと証拠品が何一つ残されていなかった。アリバイ証言が出て来た以上、犯人と結論付けるのは無理だろう。

 

「まあ、あいつらの事は俺に任せておけ。放火の犯人捜しもな」

「アンタ、何言ってるのよ!」

 

 そうアガットが言い放つと、アスカは噛み付いた。

 

「お前らは事件から手を引けって事だよ」

「あ、あんですって~っ!? 勝手に首を突っ込んで来たクセに何を戯けた事を言ってんの!」

 

 怒り心頭に発したエステルが叫ぶ。ヨシュアとシンジも納得が行かない表情でアガットを見つめた。

 

「お前らは捜査に私情を挟みすぎなんだよ。予断を持って捜査に臨めば冤罪が生まれる。レイヴンに濡れ衣を着せたのはお前らだろう」

 

 アガットに言われたエステルたちは悔しそうな顔で下を向いた。ダルモア市長の秘書ギルバードの誘導に乗せられた自分たちに非があると認めなければならない。

 

「要するにお前らは遊撃士としての自覚が足りねえのさ」

 

 追い打ちをかけるように放たれるアガットの言葉を、アスカはグッと飲み込んで耐えた。

 

「でも、ボクたちはクラム君と約束したんです、絶対に犯人を見つけるって!」

 

 アガットに向かって食い下がったのはシンジだった。真剣な目で見つめるシンジにアガットは大きくため息を吐き出した後、ジャンに向かって問い掛ける。

 

「正遊撃士と準遊撃士が同じ任務内容を希望した場合、遊撃士協会の規約で優先されるのはどっちだ?」

 

 ジャンはウンザリとした顔で答える。

 

「やれやれ、君も意地悪な事をするね。もちろん、正遊撃士さ」

 

 そのジャンの言葉を聞いて落ち込むシンジを見て、アスカは怒りに満ちた顔でアガットをにらみつけた。

 

「僕達も遊撃士として修業を積んでいます。それなりにお役に立てると思いますよ」

 

 ヨシュアも何とか調査に参加できるようにとアガットに主張した。しかしアガットはその申し出を鼻で突き返した。

 

「フン、ただの調査に人数は要らねえよ」

 

 アガットの言う事は筋が通っていないとヨシュアは思った。犯人が白紙に近い状態になった今、広い範囲での聞き込み調査が必要になる。ヨシュアはボース支部のルグラン老人の話を思い出した。アガットは誰とも組みたがらない、いつも独りで居る。アガットを説得するのは無理なのかとヨシュアは匙を投げた。

 

「これで話は終わりだ」

 

 そう言うと、アガットは遊撃士協会を出て行ってしまった。

 

「アイツ、いったい何様のつもりよ!」

 

 怒りが噴き出したアスカは遊撃士協会のカウンターを蹴っ飛ばそうとして、寸での所で足を止めた。シンジがあんなに頼み込んだのに、最低とも思われる断り方をしたアガットの態度に腹の虫が治まらない。

 

「今回の事件、アガットが追っている事件と関係があるかもしれなくてね。詳しい事は口外できないが、犯人捜しはあいつに任せて欲しい」

 

 真面目な口調になったジャンに頭を下げられたアスカたちは引き下がるしかなかった。これまでの調査結果を報告してエステルたちはマーシア孤児院の調査依頼を完了するのだった。

 

 

 

 

 すっかり落ち込んでしまったエステルたちの様子を見て、クローゼは何かを思い付いたかのようにジャンに質問をする。

 

「あの、遊撃士の方々は魔獣退治以外にも様々な依頼を引き受けてくださるんですよね?」

「その通りだよ。失くした物の捜索から王立学園の学園祭の警備まで引き受けているよ」

 

 ジャンの答えを聞いたクローゼは明るい笑顔になる。

 

「それなら、私たちの学園祭の出し物をエステルさんたちに手伝っては頂けないでしょうか?」

 

 クローゼの提案を聞いたエステルたちは不思議そうな顔でクローゼを見つめた。

 

「毎年、学園祭で私たちは催し物をしています。孤児院の子たちも、とても楽しみにしてくれているんです。エステルさんたちが手伝ってくだされば、もっと素晴らしいものになるかと……」

 

 話を聞いたエステルは元気を取り戻した。お祭りに参加できて、孤児院の子供たちも喜び、BPも貰えるなんて一石三鳥だと能天気に喜んでいる。

 

「ジャンさん、こういう依頼ってアリなんですか?」

「もちろん、OKだよ」

 

 妙な所で律儀なヨシュアが疑問をジャンにぶつけると、ジャンは学園祭は地域の人々の交流として大事なイベント、それを手伝う事は遊撃士の理念に適っていると明るい笑顔で話した。

 落ち込んでいたアスカとシンジもすっかりと元気を取り戻し、『学園祭』という言葉の持つ魔力に囚われているようだ。アスカとシンジも第壱中学校で文化祭を経験したが、やはり胸が高鳴ってしまう。

 エステルたちは掲示板に載っている依頼をこなしてから、ジェニス王立学園へと向かう事になった。

 

 ◆学園祭の手伝い◆

 

 【依頼者】王立学園生徒会

 【報 酬】???? Mira

 【制 限】直接依頼

 

 ★ひょんなことから学園祭の出し物の手伝いをする事になった。

  変わった依頼内容だけど、孤児院の子供たちも楽しみにしている、頑張ろう。

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