アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第二十八話 怪薬《グノーシス》の脅威! 怒りを燃やすクローゼ!

 

 マノリア村へ急ぐエステルたちの前に手配魔獣が立ちはだかる。

 

 ◆メーヴェ海道の手配魔獣②◆

 

 【依頼者】遊撃士協会

 【報 酬】2000 Mira

 【制 限】4級

 

 メーヴェ海道に凶暴な魔獣【ジャバ】が再び出没しています。

 当支部所属遊撃士のすみやかなる退治を望みます。

 

 しかし、怒りに燃えるクローゼのダイヤモンドダストにより魔獣達は壊滅状態になり、十匹も居た魔獣達に苦戦する事も無く蹴散らした。エステルたちがマノリア村に到着すると、マノリア村の人々は強盗犯と放火犯が同一人物なら許せないと怒りに燃えていた。絶対に犯人を捕まえてくれとエステルたちに強く訴えた。

 マノリア村の宿屋では、テレサ院長と遊撃士のカルナがベッドに寝かされていた。不安そうな顔で見守る孤児院の子供たち。エステルたちが部屋に入って来るのに気が付くと、泣きながら飛び付いて来た。

 

「よかった、あんたたちにケガは無いみたいね」

 

 エステルはホッとした笑顔で子供たちを受け止めた。シンジが深刻な顔でテレサ院長とカルナの容体を尋ねると、看病をしていた村の女性は二人とも腕を斬りつけられただけで、傷自体は大したことはないと言う。ヨシュアは恐らく睡眠薬を塗った刃物で切り付けられたのだろうと話した。副作用があるのかどうかまでは判らないようだ。

 

「クラム君、何があったのかボクたちに教えてくれるかな?」

 

 シンジに聞かれたクラムは襲われた時の状況を話し始めた。テレサ院長と子供たちは遊撃士のカルナとメーヴェ海道を歩いていた。すると、覆面を被った男達が現れカルナが応戦したが、男達に囲まれてしまいやられてしまった。百万ミラの入った袋を持ったテレサ院長も襲われ、二人とも倒れてしまったらしい。クラムは袋を取り戻そうとしたが、男に思い切り突き飛ばされてしまったのだと話した。

 

「シンジお兄ちゃん、ヨシュアお兄ちゃん……オイラ、先生を守れなかった……」

 

 泣きじゃくるクラムの頭をシンジは優しくなでた。

 

「気にする事は無いよ。君たちが無事だったら先生は満足していると思うよ。だから……自分を責めちゃダメだ」

 

 ヨシュアは真剣な表情でクラムに訴えかけた。

 

「でも、オイラ……オイラ……」

「クラム君……」

 

 それでも泣き止まないクラムをシンジは抱き締めた。

 

「許せない……どこのどいつの仕業よ!」

 

 アスカは怒りに拳を震わせた。エステルもアスカと同じくらい怒っているようだ。

 

「遊撃士の方が気絶させられているわけですから、犯人達はかなり腕の立つ人間だと言う事はハッキリしています」

 

 クローゼが凛とした表情で言い切った。その表情を見て胸に秘めた怒りの大きさは自分たちよりも大きいのだとエステルは感じた。

 

「さらに重要な点が一つ……これは計画的犯行だと思います。狙いは先生の持っていた募金……孤児院を放火したのも同じ人たちだと考えられます」

 

 エステルたちもクローゼの推理に同意した。クローゼが冷静さを取り戻したのを見て、エステルたちは安堵の息を漏らした。

 

「落ち込んでいる暇はありません、今は一刻も早く犯人の行方を突き止めないと……」

 

 こんなに怒りを燃やすクローゼの姿は初めてだった。エステルたちが困惑してクローゼを見つめていると、部屋にあの『重剣のアガット』が入って来たのだった。

 

「話は遊撃士協会のジャンから聞いたぜ。随分と面倒な事になっているようじゃねえか」

「アンタ、放火の犯人を捜すって大見得きって今まで何をしていたのよ! グズグズしているからカルナさんまでやられちゃったじゃないの!」

 

 アスカは姿を現したアガットに怒りをぶつけた。放火事件の調査から外れるようにアスカたちに言ったのはアガットだった。

 

「俺も判ってる、そう騒ぐな。カルナがやられるなんて、奴らは相当の手練れのようだな。何が起こったのか、俺にも一通りの事情を聞かせてくれ」

 

 真剣な表情で話すアガットに、アスカはそれ以上なじるのを止めて一連の事情を説明した。

 

「俺からも情報がある。《レイヴン》の連中が港の倉庫から姿を消した」

 

 アガットの言葉を聞いたエステルは驚いた顔になる。

 

「やっぱりあいつらがテレサさんを襲ったの!?」

「いや、彼ら程度にカルナさんがやられるとも思えない」

 

 エステルの考えをヨシュアは冷静に否定した。海道で《レイヴン》のメンバーが待ち伏せして二十人全員で一斉に襲い掛かるというのは無理がある。烏合の衆ならばカルナに勝てる道理はない。

 

「俺がルーアンに戻って、睨みを利かせて大人しくしていると思っていたが……今日になって行方をくらますとはな。それで、ジャンから事件の話を聞いたわけだ」

「犯人かどうかはともかく、関連性はありそうですね」

 

 アガットの話を聞いて、ヨシュアは真剣な表情でそう答えた。

 

「だが今は、ここでウダウダと議論している場合じゃねえ。新米ども、さっさと犯行現場の海道に行くぞ」

 

 犯行現場で犯人の手掛かりを見つけるのは調査の基本。エステルたちはアガットの指示に従い、宿屋を出発するのだった。

 

 

 

 

 エステルたちがアガットと一緒に宿屋を出ると、日はすっかり沈んでおり、夜の帷が降りていた。これだけ暗いと街灯の無い海道では手掛かりを探すのは難しいかもしれない。エステルたちが渋い顔をしていると、シロハヤブサの鳴き声が辺りに響いた。

 

「まあジーク、今までどこに行っていたの?」

 

 クローゼは自分の伸ばした腕に止まったジークに話し掛けた。ジークを初めて見たアガットは驚いた顔でジークを見つめた。

 

「クローゼのお友達で、シロハヤブサのジークよ」

「ふん……お友達だと……」

 

 エステルがジークを紹介すると、アガットは惚けた顔でそうつぶやいた。ジークの鳴き声を聞いたクローゼは全てを理解したようにうなずいた。

 

「で、そのお友達がどうしたんだ?」

 

 アガットに尋ねられたクローゼは真剣な顔で答える。

 

「先生たちを襲った犯人を知っているそうです」

「ははは、真面目な顔で面白い冗談を言うんだな」

 

 クローゼの言葉を聞いたアガットは大声で笑い飛ばした。

 

「やるじゃない!」

「うん、お手柄だよ」

 

 アスカとシンジがジークを口々に褒めるのを見て、アガットはあわてた表情になる。

 

「待ちやがれ、お前らそんなバカな話を信じているんじゃないだろうな?」

「僕はクローゼの事を信頼していますし」

「ウソだと思うのならついて来なければいいのよ」

 

 ヨシュアとエステルまでそう言って、飛び立ったジークの後を追いかけて行った。一人残されたアガットは、

 

「こらガキども、ちょっと待て!」

 

 そう言ってエステルたちの後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 ジークの後を追いかけてマノリア間道を進んだエステルたちがたどり着いたのは、バレンヌ灯台だった。バレンヌ灯台はフォクト老人が一人で灯台守をしていたはずだ。こうなると灯台は強盗をした連中に占拠されている可能性が高い。入口の扉は一カ所しかない。エステルたちはそこから踏み込むしかなかった。

 アガットは民間人であるクローゼはここで引き返すように話した。しかしクローゼは誰がテレサ院長たちを襲ったのか自分の目で確かめたいと頑なに譲らなかった。シンジが強くアガットに頼み込んだ結果、アガットはクローゼの同行を認めるのだった。

 エステルたちが灯台の中へと足を踏み入れると、中に居たのは《レイヴン》のメンバーたちだった。予想はしていたが、エステルたちは驚きを隠せなかった。

 

「おい、お前ら! こんな所で何をしてやがる!」

 

 アガットが怒鳴り散らすが、不良達の目は焦点が合わず、何も見ていないようだった。

 

「おい……どうしたんだ、お前ら?」

 

 様子がおかしい事を不審に思ったアガットが不良達近づくと、不良は持っていたナイフをアガットに向かって振り下ろした! 重剣でそのナイフを受け止めたアガットだが、目を丸くしてつぶやいた。

 

「ぐっ、この力は!? ディン、お前……」

 

 ウーーーーッ。

 

 アガットが名前を呼んでも不良の青年は獣のようなうなり声を上げるだけだった。

 

「ふん、ヤバいヤクをキメているのか知らねえが……俺が目を醒まさせてやるぜ!」

 

 アガットはそう叫ぶと不良達へと突撃した。室内に居る不良達の人数は六人、数の上では互角だ。エステルたちもアガットに加勢するために前へと出た。不良達の力は増大していたが動きは直線的であり、エステルたちは大振りで繰り出される攻撃をかわして不良達にカウンター攻撃を加えて無力化をして行った。気絶した不良達を見てエステルたちは一息ついた。

 

「こいつら、ルーアンで戦った時とはケタ違いの力強さと体力じゃない!」

 

 エステルは完全に気を失ってのびている不良を見下ろしてそうぼやいた。まるでゾンビのように何度棒で叩き伏しても這い上がって来たのだ。

 

「様子もおかしかったようですし……どういう事なんでしょうか?」

 

 クローゼも不安そうな顔でつぶやいた。部屋を調べていたヨシュアが潰れた毒々しい色のカプセルのような物を見つけて拾い上げた。かろうじて《グノーシス》と読むことが出来た。この薬の名前だろうか。

 

「どうやら、この薬を使って理性を失わさせて、催眠術か何かで操っていたみたいだ。肉体的な潜在能力も限界まで引き出されている」

「そんな事出来るの!?」

 

 エステルが驚きの声を上げた。技術力が進んだ世界から来たと自負しているシンジとアスカにとっても驚くべき事だった。やはりこの世界は技術後進国だと考えるのは間違いだったようだ。

 

「凄い技術が必要なのは間違いねえ。こいつらが主犯だっていうのはあり得ねえな」

 

 アガットの言葉にエステルたちは同意した。《レイヴン》を操っている真犯人は上の階にいるはずだ。二階に上がると八人の不良達が待ち構えていた。手加減する余裕はなさそうだ。二階の不良達を蹴散らした後、三階に昇ると八人の不良の姿があった。やはりレイヴンのメンバー二十人全員がこの灯台に集められたようだ。

 そしてエステルたちが最上階の手前である五階に差し掛かった頃、上の階から聞き覚えのある声が聞こえて来た……。

 

 

 

 

「君たちは実によくやってくれたよ。これでレイヴンの連中に罪をかぶせれば全ては丸く収まるというものさ」

 

 六階の灯台守の部屋では、気絶させられたフォクト老人の他に、黒装束の男達の姿が四人、さらに……ダルモア市長の秘書ギルバードの姿があった。

 

「我らの仕事ぶり、御満足して頂けたかな?」

 

 黒装束の男に尋ねられたギルバードは大きくうなずいた。

 

「ああ、見事な手際の良さだ。念のために確認しておくが、市長に捜査の手が伸びる証拠は残して居ないだろうな?」

 

 ギルバードに聞かれた黒装束の男は声を上げて笑った。

 

「安心しろ、やつらが正気を取り戻しても、我らの記憶はない。そこで寝ている灯台守も同じだ」

「それは上等。これであの院長も孤児院再建を断念するはず……放火の犯人も、あのクズどもに仕立て上げることが出来る。まさに一石三鳥だな」

 

 ギルバードの高笑いが部屋に響き渡った。

 

「それほど喜んでもらえて何よりだ。しかしそこまでして孤児院を潰す意味が分らんな」

 

 黒装束の男があきれた様子でつぶやくと、ギルバードは得意げに胸を張る。

 

「君たちには特別に教えてあげよう。市長はあの一帯の土地を高級別荘地にして国内外の富豪に売りつけるつもりなのさ。風光明媚な海道沿いにありルーアン市へのアクセスも悪くない」

「なるほど、だが孤児院を潰す必要は無いだろう?」

 

 黒装束の男が尋ねると、ギルバードは声を上げて笑った。

 

「豪華な別荘地の中に、あんな薄汚れた建物があったら景観が損なわれるだろう? さらにガキどもが大声で騒いでいるとあっては……」

「なるほど、別荘地として高く売れなくなるか。しかし買収すればいい話だろう」

 

 もっともな黒装束の男の意見だが、ギルバードは首を横に振る。

 

「あの頑固女は、夫の遺した土地は絶対に売らないと言っていたよ。だがあの連中をルーアンから遠ざけて、その隙に別荘を建ててしまえば手も足も出まい。再建費用もこうして奪ってしまえば、市長の言いなりになるしかないだろうよ、ハハハ!」

 

 ギルバードは今までで一番大きな声で高笑いをしたが、下の階への階段の方を見て顔が凍り付いた。階段の側には怒りを燃やしたクローゼが立っていたからだ。

 

「き、君は……?」

 

 クローゼの姿を見たギルバードは熱気も冷めた驚きの表情になった。

 

「そんなつまらない理由で……先生たちを傷つけて……私たちの家を灰にして……あの子たちにも心の傷を負わせて……!」

 

 剣を構えたクローゼはギルバードを睨みつけた。ギルバードはレイヴンたちに呪詛の言葉を吐く。

 

「どうしてここに……あの役立たずのクズどもめ!」

「アタシたちも居るわよ!」

 

 階段の下からアスカたちも姿を現した。黒装束の男四人とギルバードを合わせても五人。エステルたち六人が物怖じする事は無かった。

 

「それにしても、まさか市長が事件の黒幕だったとはね。あんたを捕まえれば決定的な証拠になるわ!」

 

 エステルが棒を構えてそう言うと、ギルバードは慌てふためいて黒装束の男たちに指示を下す。

 

「お前たち、あいつら全員の口を塞げ! 顔を見られたからにはただで返すわけにはいかない!」

「ギルバード先輩……見損ないました……」

 

 クローゼは怒りの表情でギルバードをにらみつけた。

 

「面倒だが、雇い主の要望とあれば仕方あるまい。相手をしてもらおうか」

 

 黒装束の男たちが武器を構えると、アガットは鼻を鳴らす。

 

「今までちょろちょろと俺の前から逃げ回っていた手前らに重剣の威力をたっぷりと味あわせてやるぜ!」

 

 ギルバードは後ろにさがり、エステルたちと黒装束の男たちは接触した。黒装束の男たちは今までエステルたちが戦ったどんな相手よりも動きが早かった。黒装束の男に斬りつけられたアスカは手が痺れて握っていた棒を落としてしまう。黒装束の男たちの武器には痺れ薬が塗ってあるようだ。

 

「アスカっ!」

 

 シンジが素早くアスカの元に駆け付けて回復魔法を掛けた。クローゼが範囲魔法のダイヤモンドダストを詠唱しようとするが阻まれる。それでもアガットの重剣によりエステルたちは活路を見い出した。

 

「クローゼさん、大丈夫ですか?」

「はい……」

 

 魔法を詠唱していたために狙われていたクローゼの傷をシンジが手製の料理で癒す。エステルたちは何とか武器だけで黒装束の男たちを押しのけた。

 

「そんなバカな!」

 

 黒装束の男たちが後退りすると、ギルバードは驚きの声を上げた。

 

「市長秘書ギルバード、及び黒装束のガキども。遊撃士協会規約に基づき、手前らを逮捕する。無駄な抵抗は止めて大人しくしやがれ」

 

 アガットが重剣を振り上げて降伏勧告をした。ギルバードは悔しそうにうなり声を上げる。

 

「ふん、なかなかやるな……真っ向勝負では遊撃士は手強い。隊長抜きで戦うべきではなかったか」

 

 黒装束の男がつぶやくと、ヨシュアが顔色を変えて尋ねる。

 

「隊長? ひょっとして空賊と交渉していた人ですか?」

「さすが遊撃士協会の犬ども、鼻が利くようだな」

 

 ヨシュアの質問に対して、黒装束の男は否定しなかった。

 

「アンタバカァ!? 何を余裕かましてるのよ、さっさと武器を置いておとなしくしなさい!」

 

 苛立ったアスカが棒を振り上げて再度黒装束の男たちに降伏を迫った。

 

「それは出来ない相談だな」

 

 黒装束の男はそう言うと、無防備で立っていたギルバードの頭に導力銃を突き付けた!

 

「どういうつもりよ!?」

 

 エステルが驚きの声を上げた。ギルバードは恐怖で身体が硬直して動けない。

 

「それ以上我々に近づけば、こいつの頭が吹き飛ぶと言っている」

 

 黒装束の男は冷酷な声で言い放った。

 

「ぼ、僕は君達の雇い主なんだぞ!?」

 

 やっと声を出したギルバードに黒装束の男は冷たい声で告げる。

 

「勘違いしてもらっては困るな。市長たちとは利害関係が一致していたから協力していたに過ぎない。お前がここで死のうが我々の知る事ではない」

「ひぃぃぃぃぃ! 助けてくれ!」

 

 黒装束の男が本気だと知ると、ギルバードは悲鳴を上げた。

 

「いい加減にしろ、そんな三文芝居で逃げられると思うのか!」

 

 アガットが大きな声で言い放つと、黒装束の男はためらいもなく導力銃を撃った!

 

「うわあああっ! 僕の足がああっ!」

 

 黒装束の男が打ち抜いたのはギルバードのすねだった。血が噴き出し、床を赤く染める。

 

「チッ、マジかよ……」

 

 アガットが悔しそうな顔で舌打ちした。

 

「我々は別に、こちらの灯台守の頭を打ち抜いてもいいんだぞ?」

 

 黒装束の男は眠らされているフォクト老人にも銃を向けた。

 

「やめなさい! その人は関係ないでしょう!」

 

 エステルが棒を構えたままそう叫んだ。

 

「それならば、そのまま離れていてもらおうか……そうだな、階段の近くまで下がれ」

 

 黒装束の男の言葉に従い、エステルたちは構えを解いて後ろにさがった。

 

「では、御機嫌よう」

 

 黒装束の男たちは隊列を組んで部屋を出て行った。男達が姿を消したのは階段とは反対側の、灯台の導力ライトが置かれている場所の扉の向こうだった。六階建ての灯台の最上階で行き止まりのはずだった。

 しかしエステルたちが後を追いかけて部屋を出ると、黒装束の男たちは手すりに縛り付けられた脱出用のワイヤーロープを伝って地上へと降りて行ってしまった。

 

「お前ら、あの秘書のバカ野郎の事と、ジャンへの報告は任せたぜ。俺はあいつらを追いかける!」

 

 アガットはそう言うと、黒装束の男たちと同じようにワイヤーロープを伝って降りて行ってしまった。

 

「それなら、あたしも!」

 

 続いてロープに駆け寄ったエステルをアスカが呼び止める。

 

「アンタバカァ!? アガットが言ってたじゃないの、ヘボ秘書達を放って置くわけにはいかないじゃない!」

「そっか、悔しいけどあの連中はアガットに任せるか」

 

 エステルはそうつぶやいて灯台守の部屋へと戻った。エステルたちが居ない間に、テレサ院長が奪われた百万ミラの募金の袋を持ち逃げしようとしていたギルバードも逮捕された。

 クローゼがギルバードの足のケガの治療をするのが辛そうだったので、シンジが代わりに泣き喚くギルバードの足に回復魔法をかけた。そして、ギルバードや不良達をマノリア村の物置小屋に拘禁し終わった頃には、夜が明けていたのだった。

 

 

 

 

 エステルたちがマノリア村に帰った時には、すでに遊撃士のカルナは目を覚ましていた。ギルバードたちの拘禁に手を貸してくれたカルナはこのままマノリア村に残って見張りをしてくれると言う。

 学園祭の朝から、演劇、学園祭の片付け、灯台におけるレイヴンたち、黒装束の男たちとの連戦と、休息をほとんどとっていないエステルたちだったが、士気は下がらなかった。倒すべき《巨悪》はルーアン市に居る。

 怒りに燃えるエステルたちは徹夜明けとは思えないしっかりとした足取りでメーヴェ海道を進んで行く。

 

「ダルモア市長が事件の黒幕だったなんて、親切そうに振舞ってあたしたちを騙していたのね!」

 

 先頭を行くエステルは怒り心頭に発していた。

 

「アタシ、気になるんだけど……今回の件でダルモア市長を逮捕できるの?」

「えっ!?」

 

 アスカの言葉を聞いたエステルは驚いた表情になった。ヨシュアは浮かない顔になって自分の意見を言う。

 

「遊撃士協会は、国家の内政に不干渉と言う規則があるから、現職市長を逮捕するのは難しいと思う」

「ちょっと待って、それって変じゃない!?」

 

 ヨシュアの言葉を聞いたエステルは怒った顔でヨシュアに詰め寄った。

 

「おかしいけど、この規則があるからこそ、遊撃士協会はどんな国にも支部を作る事が出来たんだ」

「だからって……」

 

 ヨシュアの説明を聞いてもエステルは納得のいかない様子だった。

 

「とにかく遊撃士協会に行ってジャンさんに相談してみようよ。ボクたちに思い付かない良い方法を教えてくれるかもしれないよ」

 

 シンジがエステルをなだめるようにそう話した。クローゼは不安そうな顔をしていた。

 

「大丈夫、心配いらないよ。テレサさんならきっと目を覚ますよ」

「はい……そうですね」

 

 シンジが元気付けると、クローゼは穏やかな笑顔を浮かべた。

 

「あの……エステルさんたちは遊撃士協会へ行かれるんですよね? 私、急用を思い出したので先に行っててもらえませんか?」

 

 しばらく海道を歩いていると、ルーアン市に着く直前でクローゼはそう話した。

 

「別に構わないけど……一回学園に戻るのかい?」

 

 ヨシュアは不思議そうな顔でクローゼに尋ねた。クローゼが足を止めたのは学園に通じる林道への分かれ道の前だった。

 

「はい、学園長にも報告しておこうと思いまして」

「ふぅん……?」

 

 アスカはクローゼの表情に怪しさを感じた。ウソをつくのが苦手な人間、シンジをいつも見ているからだ。しかしここでクローゼを責めても始まらない。アスカは黙ってクローゼのウソを見過ごす事にした。

 

「じゃあ、遊撃士協会で待っているからね!」

 

 エステルたちがルーアンの街の方へと姿を消した後、クローゼは生徒手帳にペンで何かを書いた後、そのページを破った。

 

「……ジーク!」

 

 クローゼが呼ぶと、シロハヤブサのジークがどこからともなく飛んできた。クローゼは破ったページをジークに渡してとある人物に届けるように伝えた。

 

 

 

 

 その頃遊撃士協会ではエステルたちがジャンに事件の報告をしていた。ヨシュアが灯台で見つけた怪しげな薬の入ったカプセルもジャンに預けた。

 

「まさか、ダルモア市長が全ての事件の黒幕だったとは思わなかったな……」

 

 ジャンは天を仰ぐように大きなため息をついた。

 

「それでダルモア市長を逮捕することは出来るの?」

 

 エステルに尋ねられたジャンは困った顔で答える。

 

「残念だがそれは無理そうだな。現行犯だったら、市長でも逮捕出来るんだけどね」

「それじゃあ、市長を挑発して自分の身体を触らせればいいのよ。そして『痛いっ!』って演技をして、『公務執行妨害で逮捕~!』ってやつ!」

「アスカ、ドラマの警察じゃないんだから……」

 

 アスカの言葉にシンジは思わずツッコミを入れた。サスペンスドラマで警察官がその様な手で別件逮捕をするシーンは確かにあるが……。

 

「このまま極悪市長を放っておいてもいいってわけ!?」

 

 エステルは怒った顔でジャンに食って掛かった。

 

「あわてないで、遊撃士協会がダメでも……王国軍ならば市長を逮捕出来るよ」

「やったじゃない!」

 

 ジャンの言葉を聞いたアスカは指を鳴らして喜んだ。

 

「四人とも、これから市長邸に向かって、市長に事件の調査結果の報告に行ってくれ。世間話でもいいから出来るだけ時間を稼いでほしい」

「なるほど、その間に王国軍に来てもらうわけですね」

 

 ジャンの提案にヨシュアは納得したようにうなずいた。

 

「レイストン要塞の司令部に応援を依頼してみるよ」

「あたしたちの手で逮捕したかったけど仕方ないか」

 

 エステルは少し不満そうな顔をしながらもそうつぶやいた。話の終わったエステルたちはクローゼを待つ事にした。市長邸に乗り込むときはクローゼも一緒だと約束していたからである。

 

「はぁはぁ……お待たせしました」

 

 ほどなくして息を切らせたクローゼが遊撃士協会へとやって来た。

 

「学園に行って帰って来たにしては、早かったじゃない?」

 

 アスカに指摘されたクローゼはぎくりとした表情になる。

 

「私、足の早さには自信があるんです。体育祭でもリレーの選手になるくらいで……」

 

 そう話すクローゼの目は泳ぎ、いつもにも増して早口なその様子は、アスカにはバレバレだった。ともかく全員揃ったエステルたちは市長邸へと向かうのだった。

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