アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第二十九話 巨悪に鉄槌! アスカ・ザ・ビースト!

 

 遊撃士協会を出たエステルたちは市長邸へとまっしぐらに向かった。

 

「それにしてもでかい屋敷ね。悪事をしているからこんな家に住めるのかしら」

 

 エステルはダルモア市長邸を眺めてそんな事をつぶやいた。

 

「それは違うかと……ダルモア家は元は大貴族ですから、この屋敷も代々の当主に受け継がれたものだと思います」

「まあ、屋敷が悪いわけじゃないわね」

 

 クローゼの説明を聞いてエステルはそうつぶやいた。市長邸の玄関ホールに足を踏み入れると、メイドに市長は接客中なのでお引き取りくださいと対応された。

 

「僕達もデュナン公爵と一緒に市長から招待を受けているんです。お邪魔しても構いませんか?」

 

 ヨシュアがさらりとそう言うと、エステルたちは目を丸くして驚いた。するとメイドはあっさりとエステルたちを市長邸の中へと通した。市長とデュナン公爵は二階の広間に居るらしい。

 

「アンタ、なんであのバカ公爵が来ているって判ったのよ?」

「ああ、アスカの髪がピンと立っていたからだよ」

 

 アスカに尋ねられたヨシュアは笑ってそう答えた。

 

「アタシの髪の毛は妖怪アンテナかっ!」

 

 冗談はさて置き、ダルモア市長は国内外の富豪に別荘地を売りつけようと企んでいたのなら、デュナン公爵は格好の相手だと思ってメイドに鎌をかけたのだとヨシュアは説明した。

 

「もう、市長から招待されているだなんて、口から出まかせ言っちゃってさ」

 

 ヨシュアの悪知恵に感心していたエステルだったが、少しむくれた顔でぼやいた。

 

「ウソじゃないよ。初めて市長に会った時に言われたじゃないか、レイヴンの連中が手を出して来たら知らせてくれってさ」

「ふふ……確かに招待されましたね」

 

 ヨシュアの詭弁を聞いたクローゼは楽しそうに笑った。

 

「それじゃ、堂々と広間に行くわよ!」

「うん」

 

 アスカの言葉にシンジはうなずき、エステルたちは二階へと向かうのだった。

 

 

 

 

 二階の広間の前のドアの側には執事が立っていた。エステルたちが市長の招待を受けていると話すと、執事は疑いもせずに通してくれた。

 広間ではダルモア市長とデュナン公爵がワインを酌み交わしながら商談に花を咲かせていた。

 

「しばらく滞在して、このルーアンは別荘を持つのに絶好の場所だとよく判った」

「ふふ、そうでしょうとも、そうでしょうとも」

 

 顔を赤らめて酔っぱらっているデュナン公爵にダルモア市長はゴマを擦っている。

 

「ルーアンが誇る高級別荘地の中でも格別に素晴らしい場所に閣下の別荘を御造り致します。必ずやお気に召して頂けるかと存じます」

「ふははは、良いだろうミラに糸目はつけん。次期国王に相応しい豪華絢爛な別荘を造るが良い。この屋敷よりも豪勢な物をな」

 

 デュナン公爵に立っていた執事のフィリップは困った顔で諫める。

 

「閣下、女王陛下がこの様な巨額の出費をお許しになるはずがございません」

「黙れ、私は次期国王だぞ! このくらいの買い物は当然だ!」

「公爵閣下の申される通りです。それでは契約書にサインを……」

 

 ダルモア市長は満面の笑みを浮かべて契約書を取り出した。契約書には五千万ミラの金額が書かれている。ダルモア市長はデュナン公爵にペンを渡して名前を書くように促した。

 

「こんにちはー、遊撃士協会のものです」

 

 それに水を差したのは陽気なエステルの声だった。エステルたちが広間に姿を現すと、ダルモア市長は渋い表情になった。デュナン公爵はキョトン顔になる。

 

「んんん? どこかで見たような顔だな……?」

 

 酔っているデュナン公爵はエステルたちの事を完全に認識していないようだった。アスカとデュナン公爵が言い争う事態は回避できそうだ。

 

「おお、皆さんは」

「こんにちは執事さん。今日は市長さんにお話があって来たのよ」

 

 フィリップにアスカは笑顔で声を掛けた。渋い顔をしたダルモア市長がエステルたちに向かって口を開いた。

 

「困るな君たち……今は大切な商談の最中なのだから、出直して来てはくれないか?」

「緊急の話なので、失礼のほどはご容赦ください」

 

 ヨシュアはダルモア市長にうやうやしくお辞儀をした。

 

「実は孤児院の放火事件の犯人が明らかになったんです」

「その件か……わかった、話を聞こう」

 

 シンジの言葉を聞いたダルモア市長は深いため息を吐き出した。

 

「公爵閣下、しばらく席を外させて頂きます」

「別にここで話しても構わないだろう、どんな話なのか私も興味がある」

 

 ダルモア市長がデュナン公爵に伺いを立てると、デュナン公爵はそう話した。

 

「しかし、閣下のお耳を煩わせる訳には……」

「私が聞きたいと言っておるのだ!」

 

 ダルモア市長が口答えをすると、デュナン公爵は声を荒げた。

 

「別に公爵さんに聞かれて困る話でもないでしょ?」

「そうかもしれないが……」

 

 エステルが笑顔でそう言うと、ダルモア市長はそうつぶやいた。

 

「それで犯人は彼らに決まりかね? 残念だよ、いつか彼らを更生させることが出来ると願っていたのだが……叶わなかったか」

 

 ダルモア市長は苦渋に満ちた表情で話した。

 

「市長さん、誰の事を話しているのかしら?」

 

 アスカがそう尋ねると、ダルモア市長は声を上げて笑った。

 

「もちろん、《レイヴン》の連中の事だろうが」

「残念ですが、それは違います。むしろ被害者ですね」

 

 ヨシュアはキッパリと断言すると、ダルモア市長は今までにないほど驚いた表情になった。

 

「なんだと!?」

「今回の事件の犯人、それはダルモア市長、あんたよ!」

 

 エステルはダルモア市長に向かって人差し指を突き付けた。

 

「秘書のギルバードさんはすでに監禁の現行犯で逮捕しました。強盗の共犯で再逮捕されるのも時間の問題でしょう。あなたも実行犯を雇って孤児院放火と、募金の強盗を指示したと言うギルバードさんの証言も取れています」

 

 ヨシュアがダルモア市長に引導を渡し、これでダルモア市長も自分の罪を認めるかに思われた。しかしダルモア市長は観念するどころか逆ギレした。

 

「でたらめを言うんじゃない! 黒装束の連中など知らん!」

「言質取ったわ! アタシたち、犯人が黒装束のヤツラだなんて言ってないわよ!」

 

 アスカがしてやったりとした笑みを浮かべてダルモア市長に指を突き付けた。

 

「ぐぬぬぬぬっ! 知らん、全ては秘書が勝手にやった事だ!」

 

 ついに本性をむき出しにしたダルモア市長は醜悪に顔を歪めて怒鳴り散らした。

 

「往生際の悪いオッサンね、最低っ!」

 

 アスカは口をとがらせてプイっと顔を横に反らした。

 

「高級別荘地を作るために孤児院を潰すなんて、ひどすぎます!」

 

 シンジは怒りに満ちた表情でダルモア市長を睨みつけた。

 

「まだ容疑を否認するつもりですか?」

 

 ヨシュアもシンジに負けず劣らず怒りを感じているようだ。ダルモア市長に降参するように迫った。

 

「くどいぞ君たち、確かに市の行政の一環として別荘地の開発計画がある! どうして犯罪に手を染めてまで強引に行う必要があるのだ!」

 

 ダルモア市長の反論に、エステルたちは何も言う事が出来ずに黙り込んでしまった。

 

「……あなたが大きな借金を抱えているからでしょう?」

「ナイアル!?」

 

 広間に現れたナイアルを見て、エステルは驚きの声を上げた。

 

「どうしてアンタがここに!?」

 

 アスカがナイアルに尋ねると、ナイアルは市長に取材を申し込もうとしていた時、エステルたちが市長邸に入って行く所を目撃し、今までドアの向こうで一部始終を聞いていたのだと話した。

 

「何だね君は!?」

 

 ダルモア市長は不快感を隠さずにそう尋ねた。

 

「初めまして、《リベール通信》の記者、ナイアル・バーンズと申します。最近のルーアン市の財政について調べさせてもらったんですが……ダルモア市長、あなたは市の予算を使い込んでいるみたいですねえ?」

 

 ナイアルに指摘されたダルモア市長はうろたえた。

 

「それは別荘地造成の資金だ……」

「まだ別荘の建築は始まってもいない、そんな理屈は通りませんよ。おかしいと思ったんで、あなたの周辺を調べたんですよ。あなた、共和国方面の株に手を出して大やけどを負ったようですね」

 

 ナイアルが指摘すると、ダルモア市長は悔しそうに歯ぎしりをした。

 

「えっと……株ってなに?」

 

 エステルが間の抜けた質問をした。

 

「会社が発行する株式の価格差を利用してミラを稼ぐ売買取引です。ある会社の株が安い時に買って、高くなったら売るんです」

 

 クローゼがエステルの質問に答えた。

 

「なるほど、市長さんはどのくらい損しちゃったの?」

「俺の記者仲間にも調べてもらった結果……およそ一億ミラらしい」

 

 エステルの質問にナイアルがそう答える。

 

「一億ミラぁ!? アンタウルトラバカァ!?」

 

 アスカがビックリ仰天の声を上げた。

 

「強盗しようとした募金の百倍だよね……」

 

 シンジも驚きあきれ果てた顔でため息を吐き出した。

 

「犯罪に手を染めてもおかしくない金額ですね」

 

 ヨシュアもあきれ顔でそうつぶやいた。

 

「ははは、一億ミラとは、私も金遣いは荒いがお主には完敗だぞ」

 

 デュナン公爵までもがそう言うと、ダルモア市長は真っ赤な顔で歯ぎしりをした。

 

「バカの背比べね」

 

 アスカはウンザリとした顔で言った。

 

「借金を返すために市の予算に手を付けたあんたは後に引けなくなったわけだ。選挙で市長が変わればあんたの悪事は明明白白になるからな。だから市民の御機嫌取りに必死になるわけですなあ」

 

 そう言って煙草をくわえたナイアルはニヤリと笑った。今度こそダルモア市長は観念すると思われたが、しばらく目を閉じて黙り込んでいたダルモア市長は落ち着いた声で言った。

 

「……そんな証拠がどこにある。全ては記者のお前の憶測ではないか! 貴様ら遊撃士もそうだ! 市長の私を逮捕する権限はないはずだ! 私の家から出て行け!」

 

 予想通りの展開に、エステルたちはウンザリとした表情になった。自分の不逮捕特権を知らないほどダルモア市長はバカでは無いらしい。

 

「市長、お伺いしたいのですが……どうして御自分の財産で借金を返さなかったのですか? ダルモア家の資産があれば返す事も出来るはずです。例えば、この屋敷は一億ミラで売れそうですよね?」

 

 クローゼが硬い表情で質問を投げかけると、ダルモア市長は怒った顔で叫ぶ。

 

「バカな事を言うな。この屋敷は先祖から受け継いできたダルモア家の誇りだ! 売ることなど出来ん!」

「あの孤児院も同じです。たくさんの想いが育まれる暖かな場所……誰にも奪う事は許されないはずなのに……どうしてあなたは、あんな酷い事が出来たんですか?」

 

 そのクローゼの言葉を聞いたダルモア市長は激昂して目を剥いて怒鳴った。

 

「あのボロ家とこの屋敷を一緒にするなああっ!」

「あなたは結局、自己中心的なだけ。ルーアン市長としての器はありません!」

 

 クローゼにぴしゃりと言われたダルモア市長は壊れた様に笑い始めた。

 

「どいつもこいつも私を愚弄しおって! こうなれば後のことなど知った事か!」

 

 完全にキレたダルモア市長は広間の奥に仕掛けられたボタンを押す。すると、隠し扉がぽっかりと口を開いた。すると、きつい獣の匂いが室内に漂い、犬型の大型魔獣が四匹、広間に姿を現した。

 

「ま、魔獣!? た、助けてくれー!」

 

 デュナン公爵は素早い逃げ足で広間から出て行った。フィリップがあわてて後を追いかけて姿を消した。

 

「まさか、魔獣を飼っているなんて……」

 

 シンジは驚いた顔でそうつぶやいた。

 

「お前たちを皆殺しにすれば、事件の真相を知る者は居なくなる……ひゃーはっはは!」

「狂ってやがる……!」

 

 狂気に満ちたダルモア市長の顔を見て、ナイアルは後ずさりした。ここでエステルたちを殺せば立場がさらに危うくなることを判断できないほど、ダルモア市長は正気を失っているのだ。

 四匹の魔獣はうなり声を上げながら広間の大テーブルに飛び乗ってエステルたちと距離を詰める。魔獣と戦う事になったのは予想外だが、これで市長を現行犯逮捕できる。

 四匹の大型魔獣との戦いは苦戦を強いられた。武器で叩いても傷つきにくい魔獣と、導力魔法が効きにくい魔獣の二種類の魔獣が居たのだ。しかも民間人のナイアルまで守らなければならない。

 テーブルや燭台などの調度品やカーテンや絨毯をメチャクチャにしながら、エステルたちは奮戦した。ダルモア市長もナイアルも戦闘に巻き込まれないように部屋から出てくれればいいのに、とエステルたちは思った。ダルモア市長に逃げられても困るのだが。

 

「バカな……私の自慢の番犬達が……」

 

 エステルたちが魔獣達を叩き伏せると、ダルモア市長は驚愕してそうつぶやいた。

 

「はぁはぁ……これでアンタを現行犯逮捕出来るってわけね」

 

 息を乱しながらも、アスカは笑みを浮かべてそう言い放った。

 

「ふふふ、これで勝ったと思うなよ?」

 

 追い詰められたはずのダルモア市長は不気味な笑みを浮かべている。

 

「こうなっては仕方ない、秘密兵器を使わせてもらうぞ」

 

 そう言うとダルモア市長は懐から杖を取り出した。

 

「時よ、凍えよ!」

 

 ダルモア市長がそう叫ぶと、エステルたちの身体は石像のように動かなくなった。

 

「強力な導力魔法だ……戦術オーブメントは持っていないと思ったのに」

 

 ヨシュアは顔を歪めながらそうつぶやいた。クロックダウンと言う敵の動きを遅くする導力魔法は存在する。しかし、クローゼはヨシュアの言葉を否定する。

 

「これは多分《古代遺物》の力です!」

「何それ!?」

 

 顔を歪めたままエステルは驚きの声を上げた。

 

「ふふ、クローゼ君は良く勉強しているようだな。これこそ、我がダルモア家の家宝、アーティファクト《封じの宝杖》……杖を持つ者の一定範囲内に居る敵の動きを完全に止める力があるのだよ」

 

 勝ち誇ったような表情でダルモア市長は高笑いした。

 

「こんな強力なアーティファクトが教会に回収されずにいたのか……」

 

 ヨシュアが悔しそうにうめいた。戦術オーブメントとは比べ物にならない。一つの機能しか持たないとは言え、効果は抜群だった。

 

「ふふ、散々私をコケにしたお礼をしてあげよう」

 

 そう言ってダルモア市長は杖を持っている反対の手で導力銃を取り出した。ダルモア市長はひとおもいにエステルたちを殺すつもりは無く、いたぶるつもりだ。

 

「まずはそうだな……この小娘から殺すとするか」

 

 ダルモア市長がエステルの頭に狙いを定めると、エステルの顔は恐怖に凍り付いた。

 

「いいぞ、いいぞ、その顔が見たかった……命乞いでもすれば助けてやらないことも無いぞ?」

 

 愉快そうに話すダルモア市長の表情は醜悪そのものだ。

 

「だ、だれがあんたなんかに命乞いをするものですか……」

 

 気丈にもエステルはダルモア市長にそう答えた。ダルモア市長がニヤリと笑い、エステルに向かって導力銃の引き金を引こうとしたその時。

 

「汚い手でエステルに触るな……もしも……毛ほどでも傷つけてみろ……ありとあらゆる手段を使って、あんたを地獄の底まで追い詰めて、八つ裂きにしてやる……」

「ひぃぃぃぃぃっ!」

 

 冷たく言い放つヨシュアの瞳は、ダルモア市長を怯えさせるほどの迫力だった。

 

「ゆ、指一本動かせないクセになんて気迫だ……」

 

 ヨシュアを気味悪がったダルモア市長は、思わずエステルから狙いを外した。

 

「こうなったら……お前からやってやる!」

 

 ダルモア市長が次に狙いを定めたのはヨシュアだった。先ほどと違いダルモア市長の表情に余裕は無い。

 

(……アタシたち、こんな所で死んじゃうの……? そんなのイヤよ、負けるもんかぁぁぁっ!)

 

「ウォォォォォッ!」

 

 アスカが咆哮を上げると、アスカの頭のヘッドセットが強い光を放ち始めた!

 

「な、何をする気だ!?」

 

 ダルモア市長が驚いてアスカの方を見ると、アスカは獣のように四つん這いになっていた。シンジたちも驚いて豹変したアスカを見つめていた。

 

「バカな、動けるはずがない!」

 

 ダルモア市長はアスカに向かって銃弾を放つが、その銃弾がアスカに届く前にアスカは大きく跳躍し、腕を大きく振り回してダルモア市長の持っている杖を殴った。ボキッと大きな音を立てて《封じの宝杖》は折れた。

 

「身体が……動く?」

 

 エステルは自由になった身体を確かめるようにつぶやいた。

 

「アスカ、大丈夫……?」

「あれ、アタシってば……今、何を?」

 

 シンジが心配してアスカに尋ねると、アスカはポカンとした顔でつぶやいた。アスカのヘッドセットの光はもう止んでいた。

 

「あなたの切り札は無くなった、もう諦めた方がいいんじゃありませんか」

 

 ヨシュアは折れてしまった杖を持って呆然としているダルモア市長に声を掛けた。

 

「誰が観念するものか!」

「キャッ!」

 

 ダルモア市長は近くに居たアスカを突き飛ばすと、魔獣達が飛び出した隠し通路から逃げ出してしまった。エステルたちもあわてて後を追いかけた。

 エステルたちがたどり着いた先は、市長邸の裏手にある船着き場だった。エステルたちの目の前で、ダルモア市長はヨットに乗って逃げて行った。船着き場には他に二隻のボートが止まっていた。

 エステルとヨシュア組、アスカとシンジとクローゼ組に別れてボートに乗り込みダルモア市長のヨットを追いかける事になった。水飛沫を上げて発進する二隻のボート。

 

「こらー、俺を置いて行くな!」

 

 ナイアルの声が虚しく船着き場に響くのだった……。

 

 

 

 

 鐘の鳴る音がルーアンの街に響き渡る。ラングランド大橋が開く音だ。いつもとは違う時間に鳴り響く鐘の音に市民たちは首をかしげながらも橋から退避した。橋が開き始めたと同時にダルモア市長の乗るヨットが猛スピードで橋を通り抜けた!

 エステル組とアスカ組の二隻のボートは並んでヨットを追いかける。それぞれのボートの先頭にエステルとアスカが乗り、ヨシュアとシンジが舵を取っていた。直進するだけならシンジにもボートは動かせる。

 小型である二隻のボートの方がダルモア市長のヨットよりも船体が軽いようだ。少しずつ距離を詰めて行く。

 

「しつこい奴らめ、これでも食らえ!」

 

 ダルモア市長はヨットの上から導力銃をエステルたちに向かって乱射した。波打つ船からの銃撃は照準もぶれて当たる確率はかなり低いはずだった。しかしダルモア市長の撃った銃弾の一発がクローゼの髪をかすめた。

 

「あっ……!」

 

 驚いたクローゼはバランスを崩してボートから落ちそうになる。

 

「危ない、クローゼさん!」

 

 そう叫んだシンジはクローゼを抱き止めようとして……二人でボートから落ちてしまった。

 

「何やってるのよバカシンジ! アンタ、泳げないはずでしょうが!」

 

 アスカはそう叫ぶと、服を脱ぎ捨て下着姿になって水に飛び込んだ。アスカの心に迷いは無かった。なぜならアスカの乗る弐号機が使徒に飲み込まれた時、シンジの乗る初号機は命懸けで助けようとした。アスカはいつかシンジにその恩を返す気で居たからだ。

 

 

 

 

 エステルとヨシュアが乗るボートからもアスカたちが水に飛び込むのは見えた。しかしエステルたちは追撃の手を緩めるわけにはいかなかった。アスカが助けに行ったのだから三人とも無事だと信じて。

 

「よくもやってくれたわね!」

 

 エステルは棒を構えてダルモア市長を睨みつける。弾を撃ち尽くしてしまったダルモア市長からの攻撃は無い。

 

「ヨシュア、あいつのヨットの右舷に付けちゃって!」

「了解!」

 

 エステルはダルモア市長の乗るヨットの右側から飛び移るつもりだった。もうダルモア市長の乗るヨットはエステルの持つ棒が届く距離にある。しかし、ダルモア市長の乗るヨットは速度を上げた。

 

「風が出て来たんだ! まずいな、こうなったらヨットの方が速い!」

「あ、あんですってー!?」

 

 ヨシュアの言葉を聞いたエステルは怒りと驚きの混じった声を上げた。

 

「ははは、女神エイドスは私に微笑みかけてくれたようだな! それではさらばだ!」

 

 ダルモア市長の高笑いが辺りに響き渡る。

 

「まずいな、このまま外国に高飛びされたら雲隠れされかねない……」

「そうよ、高跳びよ!」

 

 ヨシュアが苦い顔をしてつぶやくと、エステルは自分の持っている棒術用の棒(約2m)を見つめて叫んだ。まさか、棒高跳びのように遠くへと飛ぼうと言うのか。そんなバカバカしい事は止めようと思ったヨシュアだが、今はエステルの奇跡に賭けるしかない。

 

「えーーーいっ!」

 

 ボートの上で助走をつけたエステルは舳先に棒を突き立て、正面を行くダルモア市長のヨットへ向かって大きく跳躍したのだった……!

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