アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第三十話 さようならルーアン、さようならクローゼ、また会う日まで

 

 結局の所、エステルは奇跡を起こすことは出来なかった。エステルはダルモア市長のヨットに飛び移る事が出来ずにエステルはルーアンの川の中に沈んでしまった。ダルモア市長のヨットはルーアンの港を出てしまった。ヨシュアの予想通りダルモア市長は王国軍に捕まる前に外国に高飛びするつもりだった。

 

「ふふ、しばらく見つからなければ『彼』が助けてくれる……」

 

 ダルモア市長は笑みを浮かべて空を見上げると、一気に顔が凍り付いた。ヨットの十倍を超える長さの飛行艇が迫って来たのだ!

 

「何だと!?」

 

 巨大飛行艇は旋回し、ダルモア市長の乗るヨットの進路を塞ぐように着水した。その飛行艇は白く美しいカラーリングをしていた。

 

「この飛行艇の紋章は……まさか……」

 

 ダルモア市長は飛行艇に大きく刻まれた紋章に目が釘付けになった。

 

「王室親衛隊の高速巡洋艦《アルセイユ》さ。女神エイドスは貴様に微笑まなかったようだな」

 

 アルセイユの甲板に立った女性士官は笑みを浮かべてダルモア市長に告げた。甲板に立つ士官たちは王室親衛隊の制服に身を包んでいる。その数は総勢七名。ダルモア市長に逃げ場は無かった。

 

「私は王室親衛隊中尉、ユリア・シュバルツ。ルーアン市長、モーリス・ダルモア殿。放火・強盗・横領の罪で逮捕する!」

「こんな事あり得ない、これは悪い夢だ、ウーン」

 

 女性士官がそう言い放つと、ダルモア市長はショックのあまり気絶して倒れ込んでしまった。ヨシュアの乗ったボートと、棒を浮き代わりにして泳いで来たエステルも追いついた。

 

「いったいどうなってるの?」

「ジャンさんが連絡で来てくれた王国軍の人だと思うけど、それにしては早過ぎるような……」

 

 不思議そうな顔をするエステルの問い掛けに、ヨシュアも困惑した顔で答えた。

 

「遊撃士の諸君、大丈夫か?」

「あたしたちの仲間がダルモア市長を追いかけている時にボートから落ちたの!」

 

 自力でヨシュアの乗るボートに這い上がったエステルは、ユリア中尉にそう言うと、ユリア中尉は直ぐに救命ボートを手配し、ダルモア市長の事も自分たちに任せて欲しいと話した。

 

 

 

 

 ダルモア市長を捕えた高速巡洋艦《アルセイユ》は、ルーアン空港へと着陸した。救助されたアスカとシンジとクローゼも、濡れた服を着替えて落ち着いた所でユリア中尉とエステルたちは改めて対面した。

 

「目を覚ました市長を尋問したのだが、どうやら放火や強盗を指示した事も、魔獣を飼っていた事も、君達から逃げ回った事も何も覚えていないらしい」

 

 ユリア中尉の話を聞いたアスカは怒った顔で叫ぶ。

 

「そんなバカな話ってあるの!? あれだけの事をしでかしておいてすっとぼけるなんて!」

「ダルモア市長は借金を抱えて困っている所に、黒装束の男が現れて、『彼』なら助けてくれると思ったと話している。そこから先の記憶が無いそうだ」

 

 ユリア中尉の話を聞いたエステルたちは、空賊の首領の時と同じだと思った。空賊の首領も正気に戻った時は状況を何もつかめていなかった。だからと言ってアスカにした酷い事を綺麗サッパリ許せるはずはない。黒装束の集団が関わっている可能性が高い。

 

「まあ記憶が無いと言っても、証拠はそろっているからな……秘書も一緒に厳罰に処されるのは間違いない。何か判ったら遊撃士協会へ情報を送ろう」

「ありがとうございます」

 

 ユリア中尉の言葉に、ヨシュアはお礼を言った。

 

「ところで中尉さん、そちらの船を見せて頂く事は出来ませんかね?」

 

 いつの間にかエステルたちに交じっていたナイアルがユリア中尉に声を掛けた。ナイアルの話によると、アルセイユはツァイス中央工房が満を持して世に送り出した最新技術を誇る飛行艇なのだと言う。

 しかしユリア中尉はアルセイユは先日配備が終わった所で今は試験飛行中、正式な発表会があるまで取材は控えて欲しいとやんわりと断った。

 

「そ、それなら市長や秘書のコメントだけでも……」

 

 なおも食い下がるナイアルに、ユリア中尉は取り調べの結果はリベール通信にも通達すると話した。ナイアルは深いため息をついて仕方ないと受け入れた。そして急いで記事を書くために空港を走り去り、ホテルへと向かうのだった。

 

「記者根性たくましいと言うか……さすがね……」

 

 エステルは苦笑いをしてナイアルを見送った。

 

「《リベール通信》の発行部数は右肩上がりらしい。彼には偏見に囚われない記事を書いて欲しいものだ」

 

 ユリア中尉はそう言って顔を曇らせた。その表情に気が付いたヨシュアが尋ねる。

 

「どうかしたんですか?」

「いや……何でもない」

 

 ヨシュアに聞かれたユリア中尉は硬い表情のままそう答えた。エステルたちがユリア中尉と話していると、発着場に思わぬ人物が姿を現した。

 

「シュバルツ中尉、お手柄だったようだね」

 

 リシャール大佐とカノーネ大尉が階段を昇ってくると、ユリア中尉は目を見張って敬礼をした。

 

「おや、君達も久しぶりだね。なるほど、遊撃士協会から聞いた新鋭の準遊撃士とは君達の事だったのか」

 

 エステルたちの姿を見たリシャール大佐はそう声を掛けた。

 

「ジャンさんはリシャール大佐に連絡したんですね」

 

 シンジが納得したようにつぶやいた。王国軍の司令部があるレイストン要塞に居たリシャール大佐の所に遊撃士協会のジャンから応援要請があり、リシャール大佐達はルーアンに急行したのだが、すでにアルセイユによりダルモア市長が捕まっていた。

 

「それにしてもおかしいですわね。どうして王室親衛隊の方がルーアンにいらっしゃるのですか?」

「それは、ルーアン市にいらっしゃるデュナン公爵をお迎えに上がるためです」

 

 カノーネ大尉の意地悪な質問にユリア中尉が平然と答えると、カノーネ大尉は悔しそうに顔を歪めた。

 

「ははは、君の負けだなカノーネ大尉。しかし陛下を守る親衛隊が長く王都を開けるのは感心しない。デュナン公爵を連れて早く帰りたまえ。後の捜査は我々が引き継ぐ。市長たちの身柄も引き渡してもらおう」

 

 リシャール大佐がそう言うと、ユリア中尉は敬礼して了承の意を示した。

 

「それでは任務があるので、我々はこれで。制服のお嬢さんもまた会う事があるだろう」

 

 そう言ってリシャール大佐とカノーネ大尉は階段を降りて立ち去って行った。

 

「あたしの気のせいかもしれないけど、リシャール大佐はクローゼの事を知っているの?」

「さ、さあ私は知りません」

 

 エステルに尋ねられたクローゼはしどろもどろになったのをアスカは見逃さなかった。

 

「遊撃士と一緒に居たから、また顔を合わせる機会があると思ったんじゃないかな」

「あはは、そうかもしれませんね」

 

 クローゼはヨシュアの調子に合わせてごまかし笑いを浮かべた。

 

「うーん、そうなのかなあ」

 

 エステルにしては珍しく食い下がっている。アスカと同じ勘のようなものが働いているのだろうか?

 

「私にしてみれば、君達も驚くべき存在だ。君達の若さでここまで活躍するとは、きっと異例の速さで正遊撃士になるのだろうな。親衛隊にもヘッドハンティングしたいほどだ」

「そ、そう? まあアタシたちは英雄カシウスの弟子で天才なのだから当然ね!」

 

 ユリア中尉が笑顔を浮かべて褒めると、アスカは顔を赤くしてそう言った。クローゼを疑う気持ちはどこかに吹き飛んでしまったようだ。

 

「そんなにおだてないでくださいよ。今度も色々な人に助けてもらったから事件を解決できたんだし」

 

 エステルも照れくさそうな顔をしていた。

 

「私も君達が正遊撃士になるのを楽しみにしているよ」

「ユリア中尉、発進の準備が終わりました!」

 

 親衛隊の隊員がユリア中尉にアルセイユの準備が整ったと告げた。

 

「エステル君、ヨシュア君、アスカ君、シンジ君、クローゼ君、機会があったらまた会おう」

 

 ユリア中尉はそう言うと、細い橋を渡り発着場に泊っているアルセイユに乗り込んだ。そしてエステルたちの方を振り返り、アルセイユの甲板に立っている隊員たちに号令を下す。

 

「隊員一同、敬礼!」

 

 隊員がラッパでファンファーレを鳴らしてエステルたちの活躍を祈願する。

 

「王室親衛隊所属艦、《アルセイユ》……テイクオフ!」

 

 アルセイユのエンジンのプロペラが高速回転を始めて、アルセイユは空に向かって飛び立って行った。

 

「ファンファーレを鳴らしながら敬礼するなんて、かっこよかったわね」

 

 エステルはアルセイユが飛び立った方向を見てつぶやいた。

 

「それにしても、ユリアさんってばクローゼが劇で演じた、青い騎士オスカーみたいだったわね」

 

 アスカがまたクローゼをからかうようにそうつぶやいた。

 

「ええ、私もそう思います。偶然とは面白いですね」

「アスカ、さっきからクローゼさんを困らせる質問ばかりするのは止めなよ」

 

 引きつった笑みを浮かべるクローゼを見て、シンジはクローゼに助け舟を出した。

 

「ふん、悪うござんしたね!」

 

 アスカは不機嫌そうな顔でプイっと横を向いた。このまま空港に居続けても仕方ないのでエステルたちは遊撃士協会へと行く事にした。不機嫌なアスカはずんずんと先頭を歩いて行く。

 

「シンジさん……私を助けてくれてありがとうございました」

「ゴメン、僕の方が足を引っ張っちゃって」

 

 後ろの方を歩いていたクローゼが近くに居たシンジにお礼を言うと、シンジは顔を赤くして謝った。

 

「シンジさんは泳げないのに、私を助けるために抱き留めてくれた……本当に嬉しいです」

「パニックになっちゃったんだ。泳げない遊撃士なんてカッコ悪いよね」

 

 しょげた表情でシンジはポツリと力無い様子でそうつぶやいた。

 

「そんな事ありませんよ、シンジさんはかっこよかったです。あの……シンジさん……」

 

 今度はクローゼが顔を赤くする番だった。

 

「アンタたち、何をボヤボヤしてるの! 早く遊撃士協会へ行くわよ!」

 

 クローゼの言葉はアスカの怒鳴り声によって遮られた。クローゼとシンジはあわててアスカたちの後について行くのだった。

 

 

 

 

 遊撃士協会へ戻ったエステルたちはジャンに事件の内容を報告した。王室親衛隊とアルセイユがルーアンにやって来た事にジャンは興奮していた。受付の仕事が無かったら自分も見に行きたかったとぼやいた。

 

「アンタって、真面目そうに見えてミーハーなのね」

 

 アスカが少しあきれたようにため息を吐き出した。

 

「ジャンさんが連絡したのはリシャール大佐だったんでしょう? どうして親衛隊が来たのかな?」

 

 エステルが不思議そうな顔でそうつぶやいた。

 

「軍の連絡系統にも色々あるんだろうね」

 

 ジャンはエステルの疑問に対してそう答えた。王国軍は正規軍、国境警備隊、王室親衛隊、そして新設された情報部に別れていた。

 

「でも、市長が逮捕されてしまって、ルーアン地方の行政はどうなってしまうんでしょうか?」

 

 クローゼが心配そうな顔でそうつぶやいた。ジャンは王都から市長代行が派遣されるだろうと答えた。それから選挙が実施され新しい市長が決まるだろうと話した。

 

「そうだ、孤児院の被害については賠償がされるようだよ」

「本当に良かった……」

 

 ジャンの話を聞いて、クローゼはホッと安心して息をついた。

 

「これもみなさんのおかげです……本当に、感謝しています」

 

 クローゼはそう言ってシンジを見つめていた。

 

「当たり前の事をしただけだよ」

 

 シンジは照れくさそうにそう答えた。

 

「そうよ、クローゼったら水臭いわよ」

 

 エステルも明るい笑顔をクローゼに向けてそう答えた。

 

「それにアガットさんの協力もあったからだよ」

 

 ヨシュアからアガットの名前を聞いたエステルはハッと気が付いた顔でジャンに尋ねる。

 

「ジャンさん、アガットから連絡はあったの?」

 

 エステルに聞かれたジャンは残念そうな顔でアガットは黒装束の連中を捕まえる事は出来なかったらしいと話した。他に黒装束の仲間が居て、伏兵の襲撃にあったようだ。

 

「アガットさん、大丈夫だったんですか!?」

 

 シンジが驚いた顔で尋ねると、ジャンはアガットは一人で撃退し、さらに逃げる黒装束の連中を追ってツァイス地方へと行ったらしい。今はもうルーアン地方には居ないだろうとジャンは話した。

 

「さすがはアガットさんですね」

 

 シンジは感心した様子でつぶやいた。体力のあるアガットにとっては強行軍など日常茶飯事だろうとジャンは言った。エステルたちがボースに居る頃から、アガットは黒装束の連中を追いかけているのだとジャンは話した。

 

「どうやらカシウスさんに頼まれた仕事らしいけどね」

「父さんが!?」

 

 ジャンの話を聞いたエステルは驚きの声を上げた。

 

「《レイヴン》にいたアガットを更生させたのはカシウスさんだからね、アガットはカシウスさんに頭が上がらないのさ」

 

 ジャンは愉快そうな顔でエステルたちに告げた。

 

「アガットはひねくれた性格だから、素直に感謝できずにツンツンしているけどね」

「まるでアスカみたいだ」

 

 思わずシンジがそうつぶやくと、アスカの平手打ちがシンジに直撃した。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「アスカはこうでなくっちゃ……」

 

 心配そうな顔で尋ねるクローゼに痛そうに頬を押さえたシンジはそう言って笑った。

 

「僕たちに対して厳しいのもそうかもしれないね」

「全く、いい迷惑よ」

 

 ヨシュアの言葉を聞いてアスカはそうつぶやいた。

 

「そうだ、君達から預かったカプセルに入った薬のことだけど」

「レイヴンたちが居た灯台に落ちていたあれの事ですね」

 

 ダルモア市長の逮捕についてあらかた話し終えたジャンは話題を変えた。答えたヨシュアは自分が拾った毒々しい赤い色をしたたプセルの事を覚えていた。

 

「この薬の成分を解析するには、ルーアン市のオーブメント工房じゃ無理だ。ツァイスの中央工房にある特別なオーブメント機器じゃないと出来ない。《工房都市》とも言われている通り、博士の資格を持っている人も多いしね」

「なるほど、薬学に詳しい博士も居るってわけね」

 

 ジャンの話を聞いて、アスカは納得したようにうなずいた。

 

「だけどあたしたち、ルーアン支部の所属だからツァイスに行くのは無理じゃない?」

 

 エステルが考え込むような表情でつぶやくと、ジャンは笑顔でカウンターから正遊撃士資格の推薦状を取り出してエステルたちに渡した。

 

「近くこんな日が来るだろうと用意していたのさ」

「いいんですか?」

 

 驚いて尋ねるシンジに、ジャンは空賊事件と同じくこのような大きな事件を解決したのならば功績は十分だと話した。普通の準遊撃士は半年くらいは掛かるのに、スピード出世である。アスカは飛び上がって喜んだ。

 そして学園祭の手伝いもしっかりとこなしたエステルたちには多数の感謝の声が届き、ボーナスBPが加算されてエステルたちは準遊撃士・3級に上昇した。ルーアン支部で二階級特進である。報酬として全状態異常を防ぐグラールロケットと言う貴重な首飾りを貰った。

 

「凄い、学園祭の出演料もくれるなんて」

 

 エステルはダルモア市長の事件解決の報酬以外にもミラが貰えたことに驚いた。

 

「シンジのお姫様は千両役者だったからね」

「からかうのは止めてよ、アスカ」

 

 ニヤリと笑ったアスカに小突かれるとシンジは渋い顔で答えた。エステルたちは水の中に落ちてしまったため、武器や防具などの一部を無くしてしまっていたので、臨時収入は嬉しかった。

 溺れたシンジを助けるために服を脱いで飛び込んだアスカは、流行スポットのルーアンで新しい服を買える事を喜んでいた。シンジはそんなアスカの役に立てた事を心の中で喜ぶのだった。

 

「そう言えば、ツァイスに行くならこのヘッドセットの事も調べてもらえるかもしれないわね」

「うん、何回かヘッドセットが光った事があったけど、今回はアスカの方だけだったね」

 

 アスカのつぶやきに、シンジはうなずいてそう答える。アスカとシンジも、ヘッドセットがただの翻訳機能以外の役割がある事に気が付き始めていた。

 

「ツァイスでも元気でね、君達が一刻も早く正遊撃士になるのを祈っているよ。そうすればもっとジャンジャンバリバリ仕事をしてもらえるからね」

 

 ジャンの言葉に、相変わらずだなとエステルたちは苦笑いした。

 

「みなさんが居なくなると、寂しくなりますね……」

 

 せっかくのエステルたちの門出を悲しい顔で見送るわけにはいかないと、クローゼは無理に笑顔を作ってつぶやいた。

 

「そうだね、ボクたちも寂しいよ」

 

 シンジがそうつぶやくと、クローゼは首を横に振った。

 

「わがまま言ってすみません。エア=レッテンの関所まで御見送りしても良いですか?」

「もちろんよ!」

 

 クローゼの言葉にエステルは笑顔で答えた。エステルたちは今日の所はルーアンのホテルで休む事にした。学園祭の朝から休息をとっていないのだ。ホテルの一般客室に泊ったエステルたちは遊ぶ余裕も無しに泥のように眠るのだった。

 

 

 

 

 エステルたちがルーアンのホテルで寝入っていた夜、アガットは二人の黒装束の連中を追いかけ続けていた。

 

「あんな重くて大きい剣を担ぎながら、どうして我々の動きについて来れるんだ!」

「ふん、お前らとは体力が違うんだよ!」

 

 黒装束の連中の魂の叫びに、アガットは大声で怒鳴った。さらに逃げ回る黒装束の連中に向かってアガットは突進する。岩に乗ったアガットはそこからさらに飛距離を伸ばして跳躍した。

 目の前にアガットに着陸された黒装束の連中は、逃げる事を諦めて武器を構えた。迎撃する事を選んだようだった。

 

「鬼ごっこに飽きて来たところだから、願っても無い事だぜ」

 

 アガットは嬉しそうに笑みを浮かべながら重剣を構えた。

 

「二人同時に斬り掛かれば……!」

 

 黒装束の連中は果敢に突撃するが、アガットの戦技・《フレイムスマッシュ》を食らって大きく後ろに飛ばされ、膝をついてしまった。

 

「手前らが何者で、何を企んでいるか洗いざらい白状してもらおうか……」

 

 アガットがそう言って黒装束の男に詰め寄るとアガットの背後から青年の声が聞こえた。

 

「そうさせるわけにはいかないな」

 

 アガットの背後から現れたのは、赤い顔当ての付いた黒兜を被った黒装束の男と、兜から豊かな黒い髪がはみ出るほどの黒装束の女性だった。

 

「隊長、お手を煩わせて済みません」

 

 黒装束の男が謝ると、赤兜の男はため息を吐き出した。

 

「情けない連中だな、追っ手を撒く事すら出来ないとは」

「なるほど、手前はこいつらより情報を持ってそうだな」

 

 アガットはニヤリとした顔で重剣を構えた。

 

「やれやれ、面倒な事になったものだ。お前たち、ここは俺が殿を務める。サトミ少尉と共に引き揚げろ」

「了解!」

 

 赤兜の男がそう言うと、黒装束の男たちは女性士官と一緒に走り去った。

 

「逃がすか、コラァ!」

 

 黒装束の男たちを追いかけようとしたアガットの太刀を赤兜の男は剣で受け止めた。

 

「ふん、こうなったらお前をとっ捕まえてやるまでだ」

 

 飛びのいて間合いを取ったアガットは重剣を構えてそう言い放った。

 

「それは無理と言うものだ」

 

 赤兜の男が余裕たっぷりにそう言うと、アガットは赤兜の男に向かって斬り掛かった。しかし赤兜の男は左右にジグザグと跳躍してアガットの攻撃をかわす。さらにはアガットの重剣の上に飛び乗って挑発する始末だった。アガットの攻撃はかすりもしないし、赤兜の男が剣で受け止めるまでも無かった。

 

「なかなかやるじゃねえか」

 

 肩で息をしながらアガットはそうつぶやいた。

 

「憎しみに駆られて重き鉄塊を振るうか……お前は、自分と似ているな」

 

 赤兜の男がそう告げると、アガットは驚いた顔になった。

 

「自分の無力さに打ちのめされた事がある……そんな目をしているぞ」

 

 そう赤兜の男に指摘されたアガットは、大きな声を上げながら重剣を振り上げた!

 

「ふざけんなあああっ!」

 

 赤兜の男もアガットに応えるように剣を構える。アガットと赤兜の男は互いに突進し、二人の剣が交差する。二人がすれ違った後、重剣を弾き飛ばされたのはアガットだった。

 

「ふっ、まだ剣に迷いがあるようだな。その迷いが太刀筋を狂わせる。修羅の道に堕ちるのならば人の道を捨てる覚悟が必要だ。人の道を生きるのならば、憎しみや悲しみは忘れ去るがいい。じゃあな……」

 

 そう告げると赤兜の男はぼうぜんと立ち尽くすアガットの前から煙のように姿を消した。

 

「忘れろだと……そんなの無理に決まってるだろうが……」

 

 アガットは身体を震わせながらそうつぶやいた後、思い切り叫んだ。

 

「ふざけんなあああっ!」

 

 アガットの叫び声は、夜の街道に響き渡るのだった……。

 

 

 

 

 ホテルですっかり疲れを取ったエステルたちは次の日の朝、クローゼと待ち合わせをしているラングランド大橋へと向かった。エステルたちが昨日の事件の事を話して時間を潰していると、走って息を切らせたクローゼがやって来た。

 

 ◆《グノーシス》の調査◆

 

 【依頼者】遊撃士協会

 【報 酬】???? Mira

 【制 限】直接依頼

 

 《レイヴン》達を操っていた謎の薬……。

 博士がたくさんいるツァイスならその正体について何か手掛かりが得られるかもしれない。

 

 ◆インターフェイス・ヘッドセットの調査◆

 

 【依頼者】無し

 【報 酬】???? Mira

 【制 限】自己判断

 

 ネルフの技術で造られた、エヴァとシンクロを補助するための装置……。

 工房都市と呼ばれるツァイスなら怪現象を引き起こす仕組みについて何か手掛かりが得られるかもしれない。

 

 遊撃士協会の掲示板には依頼は無かった。ジャンが気を遣ってくれたのかもしれない。エステルたちは心置きなくエア=レッテンの関所へと向かうのだった。アイナ街道ではエステルたちの行く手を遮るものは無く、エステルたちはそれほど時間が掛からずにエア=レッテンの関所へと到着した。

 

「相変わらず、迫力のある滝ね。ルーアンの街って見所が多いから、公爵じゃないけど、住んでみたいかも」

 

 エステルはエア=レッテンの関所を取り囲む切り立った断崖から崩れ落ちる滝を眺めると、感心してつぶやいた。

 

「エステルさんたちが住んでいるロレントの街も素敵な所だと思いますよ」

「あんな田舎町じゃ、ダサい服しか買えないわ」

 

 クローゼがそう言うと、アスカは膨れた顔でぼやいた。

 

「クローゼさんはロレントの街へ行った事があるの?」

 

 シンジの質問に、クローゼはうなずいた。

 

「リベール王国の五大都市すべてに行った事があります。これからみなさんが行くツァイスの街は、個性的な建物がたくさんあって驚かれると思いますよ」

 

 クローゼはそう言って微笑んだ。エステルたちは関所を通過する手続きをするため、建物の中に入る。関所の兵士達とは、デュナン公爵の占拠騒動があった時に顔見知りになっていた。

 エステルたちは一階の入口のカウンターで通行手続をして、クローゼは《カルデア隧道》の手前までの見送りを許可された。

 

「カルデアすいどうって何?」

「ルーアン地方とツァイス地方を結ぶ街道で、長いトンネル道なんですよ」

 

 エステルの質問に、クローゼが答えた。

 

「トンネルの街道か……あまりいい気はしないのよね」

「エステル、アンタお化けが苦手だもんね」

 

 ポツリとつぶやいたエステルに、アスカがニヤリと笑みを浮かべて声を掛けた。関所の建物の二階に上がると、荘厳な滝の姿がさらに間近になり迫力を増す。エステルたちが通行許可証を見せると、門番の兵士はトンネル道の入口の扉を開けてくれた。

 

「……お別れの時ですね。あの、エステルさんたちはこれからツァイスとグランセルの遊撃士協会に行かれるんですよね? もしかしたら、グランセルでまたお会いできるかもしれません」

「そうなの!?」

 

 クローゼの話を聞いたエステルが驚きの声を上げた。

 

「私、一ヵ月後にグランセルで開かれる女王生誕祭に行くつもりなんです。親戚の方が招待してくださったので……」

「その頃にはアタシたちもグランセルに居るはずよ」

 

 アスカは自信たっぷりにクローゼに向かってそう答えた。

 

「でも、ツァイス支部の推薦状がそんなに早くもらえるかな?」

「フン、アタシたちは世界最年少で正遊撃士になるのよ!」

 

 不安そうにつぶやくシンジに、アスカは堂々とそう言い放った。支部の推薦状をもらうには地道な活動を続けているだけでは半年は掛かる。アスカはこれまでのように自分たちが大事件に遭遇して解決できるとでも思っているのだろうか。

 

「私の用事が終わったら、グランセルの遊撃士協会に連絡しますね。そうすればお会いできると思いますから」

 

 クローゼはそう言うと明るい笑顔になった。

 

「みなさん、本当にありがとうございました。エステルさんたちが私にしてくれた事、ずっと覚えていますから……」

「ボクたちもクローゼさんには助けてもらったから、おあいこだよ」

 

 シンジもクローゼの目を見つめ返してそう答えた。

 

「とんでもないです、みなさんは私に勇気をくれました。私は今まで自分の責務から逃げ回っていました。でも、逃げてはいけない事を教えて頂きました。おかげで私、立ち向かうことが出来そうです」

「よくわからないけど……役に立てたのならあたしたちも嬉しいかな」

 

 クローゼの言葉にエステルは困惑しながらも笑顔で答えた。最後にエステルたちはそれぞれクローゼと握手を交わした。

 

「それじゃあ、元気でね、クローゼ!」

「エステルさん、ヨシュアさん、アスカさん、シンジさん、正遊撃士になるための修行の旅、頑張って下さい」

 

 別れのあいさつを交わしたエステルたちはトンネルの中へと姿を消した。エステルたちの姿が消えた後、クローゼは深い深いため息を吐き出した。

 

(……私、最後の最後で勇気が出せませんでした……)

 

 思い悩むクローゼの側に、シロハヤブサのジークが飛んできた。クローゼはジークの鳴き声に対して答える。

 

「そうね、また会えますよね。ありがとう、ジーク」

 

 しばらくカルデア隧道への入口の前に立っていたクローゼは、エア=レッテンの関所から出ようと後ろを振り返ると、そこに立っていた人物を見て驚いた。

 

「ユリアさん……? 王都にデュナン公爵を送り届けに行ったはずじゃ……?」

「ええ、思った以上に時間が掛かってしまいました」

 

 クローゼの言葉にユリア中尉はそう答えた。

 

「今回はご報告があって参上した次第です」

 

 ユリア中尉はそう言ってクローゼに向かって頭を下げた。シロハヤブサのジークが嬉しそうな鳴き声を上げてユリアの周囲を飛び回る。

 

「こらこら、じゃれつくな。お前は護衛の仕事を果たしているのだろうな?」

「ジークにはいつも助けてもらっています」

 

 そう言ってクローゼはニッコリと微笑んだ。

 

「街道外れの紺碧の塔の前にアルセイユを止めてあります。報告はそちらで……」

「分かりました……」

 

 ユリアとクローゼは連れ立ってエア=レッテンの関所を出るのだった……。




 ◆ブレイサー手帳◆

 依頼達成数:48

 獲得BP  :198

 ランク 準遊撃士・3級(※最高ランクは1級)

 所属 ルーアン支部  
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