アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第三十二話 毎度お騒がせ、ラッセル博士! 少年Kの黒のオーブメントの謎

 

 その後エステルたちは流されるままにラッセル博士の装置の実験を手伝う事になり、実験が終わる頃には夕方になってしまっていた。

 

「すまんすまん、お前さんたちをマードックが寄こした助手だと思ってしまってな。いつもの要領でこき使ってしまったわい」

 

 実験が終わった後、ダイニングキッチンのテーブルでくつろいだラッセル博士は笑顔でそう言った。口では悪いと言っているようだが、大して反省はしていないようだ。

 

「全く笑い事じゃないわよ」

 

 アスカは顔を膨れさせてそうつぶやいた。

 

「目玉焼きだけじゃなくて、たくさん料理を作らされたよ……」

 

 葛城家の家事より数倍ハードだとシンジは思った。脳細胞をフル回転させるにはエネルギーが必要だと言われて数人前の料理を作らされた。ヨシュアは足りない食材を街に買いに行かされたりと散々だった。アスカとエステルは何度階段を昇り降りさせられたか分からない。二階の本棚ごと持って来た方が良いと考えたほどだ。

 

「お前たち、なかなか根性があるな。どうじゃ、遊撃士よりも導力学者になってみないか?」

「もう、おじいちゃんてば!」

 

 愉快そうな顔で言うラッセル博士に、ティータは困った顔で声を掛けた。

 

「ごめんなさい、お姉ちゃんたち。わたしも実験に夢中になっちゃった……」

 

 ティータは顔を赤くして恥ずかしそうな顔で謝った。

 

「別にティータが謝る事は無いわよ」

 

 アスカはそう言ってティータに向かって微笑んだ。

 

「はあ……天才博士と言うからどんな人かと思っていたけど、こんなお調子者の爺さんだとはね……」

 

 エステルはあきれた顔でため息を吐き出した。

 

「しかしカシウスの子供たちが訪ねて来るとは驚いたのう」

「博士って父さんの知り合いだったんだ」

 

 ラッセル博士の言葉を聞いたエステルはそうつぶやいた。

 

「あいつが軍にいた頃からの付き合いじゃから二十年以上になるか」

「わたしもカシウスおじさんと会った事がありますよ」

 

 ラッセル博士に続いてティータも笑顔でエステルたちに言った。

 

「そう言えばお前さんたち、ワシに相談があって来たそうじゃな」

 

 ラッセル博士に言われたエステルたちは顔を見合わせた。相談したい事は二つある。先ずは遊撃士協会で依頼されている《グノーシス》についてだ。個人的な相談である《ヘッドセット》については後回しだ。

 エステルたちが《グノーシス》について相談すると、細かい分析をする機械は中央工房にある演算装置《カペル》の方が適しているとラッセル博士は話した。《グノーシス》の分析は後日、中央工房にある《カペル》を使って行う事になった。

 

「それじゃあ、この機械について何か判りませんか?」

 

 シンジは自分の頭から《インターフェイス・ヘッドセット》を外してラッセル博士に渡した。ラッセル博士は興味深そうにヘッドセットを眺めた後、

 

「ようし、早速切断じゃ!」

「分子カッターなら切れるかな、おじいちゃん!」

「止めてええええっ!」

 

 シンジは必死の形相でラッセル博士からヘッドセットを奪い取った。

 

「ケチ」

 

 ラッセル博士は面白くなそうな顔でそうつぶやいた。

 

「あのあの、アスカさんたちの話を聞くと、その《ヘッドセット》と呼ばれる機械は特定の精神波に反応して発動すると思います。そして次元のチャンネルを開いて何者かと交信しているのだと……」

 

 ティータの説明を聞いてアスカは少し考えこむような表情で尋ねる。

 

「それじゃあ、ヘッドセットの発動する効果に違いがあるのはどうして?」

「ふーむ、発せられる精神波の違いによるものだろうな」

 

 アスカの質問に対してラッセル博士はそう答えた。結局ヘッドセットについては強く念じれば何かが起こる程度の事しか分からなかった。これも《カペル》を使って分析するしかなさそうだ。

 

 

 

 

 結局、相談したい事の疑問が完全に晴れずに気落ちするエステルたちに、ラッセル博士は面白い物を見せてやると話した。ラッセル博士が取り出したのは真っ黒なオーブメントだった。

 

「先日、遊撃士協会から預かったものだが、製造番号が刻まれて無いのもそうだが継ぎ目のようなものが全く見当たらんのじゃ。しかもこの外殻はこの工房にあるカッターでは傷一つ付けられんのじゃよ」

 

 エステルたちは驚いて黒いオーブメントを見つめた。

 

「このオーブメントのフレームはとても硬い材質で出来ているようじゃ。切断して中を調べるのは至難の業じゃな」

「とんでもない物だと言う事は判ったわ」

 

 ラッセル博士の言葉を聞いたアスカは目を輝かせてつぶやいた。アスカは俄然黒いオーブメントに興味を持ったようだ。

 

「しかし困った事になりましたね……」

 

 ヨシュアは浮かない表情でそうつぶやいた。

 

「まあ、切断する前に測定装置にかけてみようかの」

 

 ティータは導力波の動きをリアルタイムに測定するための装置だと説明した。

 

「その装置を使うとどうなるわけ?」

 

 エステルが訳が分からないと言った顔で尋ねた。

 

「分かりやすく言うと、この黒いオーブメントがどんな機能を持っているかどうか判るんじゃよ」

「なるほど、重要な手掛かりが得られる可能性が高そうですね」

 

 ラッセル博士の言葉に、ヨシュアは真剣な表情でつぶやいた。

 

「おじいちゃん、実験もいいけどそろそろご飯の時間だよ」

「えー、ワシ実験したい」

 

 ティータの言葉にラッセル博士はそう答えた。三度の飯より実験が好きだとはまさにその事だ。

 

「お姉ちゃんたちも食べて行ってください、あんまり自信は無いですけど」

 

 ティータは顔を赤くしてはにかむような笑顔でそう言うのだった。

 

「ボクも手伝うよ」

 

 料理が趣味の域に達してしまったシンジは助けを申し出た。

 

「それじゃあ、食事の支度が済むまでワシはちょっとだけ実験を……」

「だめーっ! わたしだってやりたいんだもん。抜け駆けは無しなんだからね」

 

 ラッセル博士の言葉に対してティータは怒った。結局シンジが食事の支度をすることになってしまった。

 

「血は争えないってやつね」

 

 アスカはポツリとそうつぶやくのだった。

 

 

 

 

 夕食が終わり、すっかり辺りは夜の帷に包まれたと言うのにラッセル博士は元気に次の実験を始めようとしていた。

 

「お腹がいっぱいになったことだし、さっそく実験再開じゃ。ならばアスカ、例のオーブメントを台の上へ置くんじゃ」

 

 ラッセル博士に言われたアスカは黒いオーブメントを装置の台の上に置いた。

 

「ティータ、準備はどうじゃ?」

「うん、オッケーだよ」

 

 ラッセル博士に聞かれたティータは笑顔で返事をした。

 

「それでは《黒のオーブメント》の導力波測定テストを開始する」

 

 ラッセル博士がそう宣言すると、ティータは目を輝かせた。

 

「ティータってばすっかりやる気満々ね」

 

 アスカは笑みを浮かべてそう言った。

 

「えへへ」

 

 ティータは顔を赤くして笑った。

 

「ティータ、装置を起動してくれ」

「うん」

 

 ラッセル博士にティータは真剣な表情で答えた。

 

「出力を固定、50%……各種測定器の準備開始」

「了解です」

 

 二人の間に、エステルたちは立ち入るスキが無かった。

 

「各種測定器、スタンバイオッケーだよ」

「さてと、中の結晶回路に導力波をぶつけて反応を探るか……いよいよ、この測定装置の真価が問われる時じゃ!」

 

 ラッセル博士がボタンを押すと、黒のオーブメントに向かって緑色の光が照射された。

 

「なるほど、結晶回路に負荷をかけるわけね」

 

 アスカが納得したようにつぶやいた。戦術オーブメントの研究をしているアスカは、他のオーブメントの事も積極的に勉強していた。

 

「ティータ、測定器の反応はどうじゃ?」

「なんだか変な感じだよ……メーターの針がグルグル回っちゃってる」

 

 ラッセル博士に聞かれたティータは不安そうな顔で答えた。すると、測定装置の台の上に置かれた黒のオーブメントが青黒い光を放ち始めた!

 

「何じゃこれは!?」

 

 ラッセル博士は驚きの声を上げた。オーブメントから黒い波動が発せられ、周囲の測定器のランプや部屋の照明が消える。その黒い波動はラッセル家に留まらず、ツァイスの街の中にまで広がった。

 街の民家の明かりやエレベータ、オーブメントの街灯が消え、ツァイスの街は闇に包まれた。真っ暗になった事に驚いた住民たちはあわてて家の外に出る。

 

「おじいちゃん、測定装置を止めてっ!」

「止める訳にはいかん、あと少しで何かが分かりそうなんじゃ」

 

 ティータが悲鳴を上げて訴えかけるが、ラッセル博士は装置を止めようとしなかった。外に様子を見に行ったエステルが研究室へと戻って来た。

 

「街中の明かりが消えちゃってるわよ!」

「ふええっ!?」

 

 エステルの言葉を聞いたティータが泣きそうな顔で悲鳴を上げた。

 

「ぬぬぬ、仕方ない! 実験停止じゃ!」

 

 ラッセル博士が測量装置を止めると、照明は再び灯った。

 

「はううう……」

 

 ティータは深いため息を吐き出した。計器に何の記録も残っていなかったことに、ラッセル博士は失望の声を漏らした。

 

「動き続けていたのは、黒のオーブメントが乗った装置本体だけか……」

 

 ラッセル博士は考え込む仕草でそうつぶやいた。

 

「街の照明は元通りになったみたいよ」

「まだ騒ぎは続いているみたいだけどね」

 

 外を見に行ったアスカとシンジはそう告げた。ラッセル博士は黒のオーブメントが導力停止現象を引き起こしたのだと説明した。

 

「オーブメントの中の導力が動かなくなったっていうことね」

 

 アスカは腕組みをしてそうつぶやいた。

 

「これほど広範囲のオーブメントを停止させるとは、こいつはとんでもない代物じゃな、面白い!」

「面白がっている場合じゃないと思うんだけど……」

 

 喜ぶラッセル博士に、エステルがツッコミを入れた。

 

「はーかーせーっ!」

 

 研究室に聞き覚えのある男性の声が飛び込んで来た。

 

「おお、マードックじゃないか。何の用じゃ?」

「何の用じゃ、ではありません! 発明の度に大騒動を起こして! 街中の灯りを消すなんて何をやったんですか!」

 

 マードック工房長はカンカンに怒ってラッセル博士に詰め寄った。

 

「失礼な、今回はワシの発明とは無関係だぞ。遊撃士協会が寄こした、黒のオーブメントのせいじゃ」

「なるほど、博士の発明品が原因ではないのか……」

 

 ラッセル博士の説明を聞いて、マードック工房長は納得したようにつぶやいたが……。

 

「結局、あんたのせいじゃないかっ!」

 

 マードック工房長はそう叫ぶのだった……。こうしてツァイス市に来た初日は過ぎて行った。エステルたちはラッセル博士の家の二階の部屋に泊めてもらう事になった。

 

 

 

 

 目を覚ましたエステルたちは黒のオーブメントについて語り合った。ラッセル博士は黒のオーブメントをどうするつもりなのか話していると、ティータが階段を元気に上がって来た。

 

「おはよーございます。アスカさん、シンジさん、エステルさん、ヨシュアさん」

「おはよう、ティータ」

 

 朝からティータの顔を見れたアスカはご機嫌のようだ。

 

「ラッセル博士はもう起きているの?」

「おじいちゃん、朝早くに中央工房に行っちゃいました。『絶対にあのオーブメントの秘密を解き明かしてやる~!』って」

 

 シンジに尋ねられたティータはそう答えた。

 

「あれだけ工房長さんに怒られたのに懲りてないのね」

 

 アスカはあきれた顔でため息をついた。

 

「僕たちの依頼は後回しになりそうだね」

「ごめんなさぁい……」

 

 ヨシュアがつぶやくと、ティータは泣きそうな顔で謝った。

 

「おじいちゃんは自分の調べたいもの優先ですから。あっ、スープを火にかけたままだった。すぐに朝ご飯できますから、待っててください!」

 

 ティータはそう言って階段を降りて行った。

 

「はぁ……可愛いわね。お持ち帰りできないかしら」

 

 アスカはティータの去って行った方を見てそうつぶやいた。

 

「アスカってば、口元が緩みっぱなしだよ」

 

 シンジがそう声を掛けると、アスカのローキックがシンジのお腹を直撃した。

 

「アンタはボヤボヤしないでティータを手伝って来なさい!」

 

 アスカがそう怒鳴ると、シンジは逃げるように一階へと降りて行った。

 

 

 

 

 朝食を終えたエステルたちは遊撃士協会へと向かう事にした。ティータはラッセル博士がエステルたちの相談を直ぐに聞けないお詫びとして、エステルたちの仕事をしばらく手伝うと申し出た。

 遊撃士協会でキリカに昨日の動力停止現象について報告した後、改めて掲示板の依頼をチェックするが、新しい依頼は入っていなかった。

 

 ◆臨時司書求む◆

 

 【依頼者】コンスタンツェ

 【報 酬】250 Mira

 【制 限】10級

 

 臨時司書を募集しています。

 中央工房二階・資料室でお待ちしております。

 

 昨日はスルーしていた依頼だが、受けてみる事にした。依頼人に会ってみて内容を聞いてみると、返却期限が切れた貸出本の回収だった。三階の設計室と四階の実験室と医務室を廻って本を回収し終わった。

 

「まあこんな依頼、子供でも出来るわよ」

 

 アスカは得意満面で依頼人のコンスタンツェに言い放ったのだが……コンスタンツェはとんでもない事を言い出した。この依頼はほんの前座で、真打の依頼は別にあるのだと話した。

 その依頼も貸出した本の回収。しかし捜索対象地域はツァイス地方全域なのだと言う。その本を借りた人物は最初から本を隠すつもりだったようで、挑戦状とも取れるメモを残していた。

『山里や 池にたたずむ 石の人 近寄りて見よ さらば得られん』

 

 ◆臨時司書の残業◆

 

 【依頼者】コンスタンツェ

 【報 酬】500 Mira

 【制 限】3級

 

 『エルベキツツキの生態』と言う本の回収をお願いします。

 

 追加依頼を引き受けたエステルたちは、緊急の依頼も無いので中央工房を見て回る事にした。三階の工作室に入ると、ラッセル博士が悔しそうな声を上げていた。

 

「おじいちゃん、ここにいたんだ?」

「おお、ティータ。それにお前さんたちも来たのか」

 

 ティータの姿を見たラッセル博士は笑顔になった。

 

「いったい何をしているの?」

 

エステルが尋ねると、ラッセル博士は机に置かれた黒のオーブメントと、導力で動く丸形のチェーンソーを指して愚痴をこぼした。

 

「見ての通り、黒のオーブメントの外殻を切断しようと頑張っておるんじゃが、回転する刃が接触すると機械が止まってしまってな」

「小規模ですけど、導力停止現象が起きましたね」

 

 ヨシュアが真剣な表情でつぶやいた。ラッセル博士は黒のオーブメントは干渉しようとするオーブメントの機能を停止させてしまうので、機械式の丸ノコギリを止められては切断が出来ないと嘆いた。

 

「人間の力で気合いと根性でぶった切る事は出来ないの?」

「無茶な事言わないでよ」

 

 エステルの言葉に、ヨシュアはため息をついた。

 

「じゃあ、溶鉱炉にぶち込んで溶かしてしまうのはどう?」

「そんな事をしたら中身もタダでは済みませんよ」

 

 乱暴なエステルの提案に、ティータは泣きそうな顔で悲鳴を上げた。

 

「それなら導力以外の動力を使えば良いじゃない」

「アスカ、何を言い出すんだよ。そんなのあるわけないよ」

 

 アスカの言葉を聞いたシンジは眉間にしわを寄せてそう言った。

 

「まったくアンタも勉強不足ね。導力革命が起こる前には何を使っていたのよ。石油や石炭があるじゃない」

 

 アスカがそう言うと、ラッセル博士は目を輝かせた。

 

「ほう、お前さんいい所に目を付けたな。『内燃機関』と言う熱エネルギーで動かす仕組みがあるんじゃ。まあ、導力に比べて非効率だから廃れてしまったわけじゃが……丸ノコを動かすくらいなら出来るはずじゃ」

 

 ラッセル博士はエステルたちに《内燃機関のユニット》と《ガソリン》を持ってくるように頼んだ。場所は中央工房のスーパーコンピュータ《カペル》のデータベースに記録されていると言う。エステルたちはカペルにアクセスするために五階の演算室に行く事にした。

 

 

 

 

 五階の演算室に足を踏み入れたエステルたちは、ワンフロアの部屋を埋め尽くすほどの機械の群れに驚いた。

 

「君達、ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」

 

 エステルたちに気が付いた白衣を着た壮年の男性が声を掛けて来た。

 

「あたしたちラッセル博士に頼まれて調べ物に来たんです」

 

 エステルがそう言うと、白衣の男性は技術主任のトランスと名乗った。エステルたちも遊撃士だと身分を明かした。

 

「しかしラッセル博士の頼みとは、また面倒事ではないだろうね」

 

 トランス主任は渋い顔をしてそうつぶやいた。普段からラッセル博士に迷惑を掛けられているのだろう。

 

「博士が天才なのは認めるよ。この演算器《カペル》も博士が開発したものだからね」

 

 トランス主任の言葉を聞いて、アスカはリツコとラッセル博士、どっちが上なんだろうと考えていた。アスカはリツコがMAGIを開発したのだと勘違いしているのだ。

 

「でもね、あの人の周りにはいつもトラブル続きでね」

 

 トランス主任の愚痴が長くなりそうだと思ったアスカは声を掛ける。

 

「今回は迷惑を掛けないと思うわよ。データベースにアクセスして欲しいだけだから」

 

 アスカの話を聞いたトランス主任はホッと安心したように深いため息を吐き出した。トランス主任はエステルたちにカペルの使用方法を教えた。カペルは世界最高峰の情報処理能力と高度な汎用性を備えているとトランス主任は胸を張ってそう話すのだった。

 トランス主任が熱心に操作方法を教えるが、エステルには最初から最後まで意味不明だったので、アスカが操作する事になった。アスカが操作するとディスプレイに、『ガソリンタンク』はエステルたちがツァイスの街に来た時にベルトコンベアを見た地下のオーブメント工場に、『内燃機関ユニット』はツァイス空港の倉庫に保管されていると判った。

 

 

 

 

 地下のオーブメント工場でガソリンタンクを受け取ったエステルたちは、ツァイス空港へと向かった。シンジはどうして自分ばかり重い物を運ばされるのか口を尖らせていた。空港の係員に話を聞くと、内燃機関ユニットは数日前から王国軍のレイストン要塞に貸し出されているのだと話した。

 

「どうして軍部が内燃機関を必要としているんだろう」

「まったく、タイミングが悪かったわね」

 

 ヨシュアのつぶやきにアスカはそう答えたが、ヨシュアは真剣に考え込むような顔のままだった。

 

「ヨシュア、何をそんなに気にしているの?」

 

 エステルも心配そうな顔でヨシュアに声を掛けた。空港の係員の話によると、そろそろレイストン要塞から《整備艇ライプニッツ号》が戻って来る頃だと言う。それほど経たないうちに、何本もの作業用アームが特徴的な飛行艇、ライプニッツ号が空港へと降り立った。

 

「おう、内燃機関ユニットが欲しいのか? ちょうど良かった、さっき王国軍から返してもらったところだ。重いから数人掛かりで運ぶんだぞ」

 

 ライプニッツ号の責任者、グスタフ整備長はバンダナを巻いた親方と言った風体だった。グスタフ整備長は快く内燃機関ユニットを貸してくれた。三人掛かりで重い内燃機関ユニットを運ぶエステルたちを見て、シンジはガソリンタンクを運んでいて良かったと思うのだった。

 

 

 

 

 エステルたちが重い荷物でヘロヘロになりながら中央工房の三階にある工作室にたどり着くとラッセル博士とティータは工作装置の改造を終えて待っていた。後は内燃機関ユニットを取り付けてガソリンを入れるだけで工作機械は動くらしい。エステルたちがガソリンタンクと内燃機関ユニットを渡すと工作機械に取り付けられた。

 

「これで導力に頼らずに工作機械を動かせるわね」

 

 アスカは感心したようにつぶやいた。

 

「ポチッとな」

 

 ラッセル博士はそう言って工作機械の電源ボタンを押した。ガソリンで動く丸ノコは激しい音を立てて回転する。黒のオーブメントに振れても丸ノコの回転は止まらない。エステルたちは息を飲んで見守った。火花が飛び散り、しばらくしたところで止めてみると……フレームの表面に微かに傷が付いただけだった。

 

「えーっ、たったこれだけ?」

 

 エステルは不満の声を漏らすが、ラッセル博士は根気よく続ければ切断できると上機嫌だ。

 

「博士、ちょっといいですか?」

 

 マードック工房長がそう言って部屋へと入って来た。

 

「何の用だ、ワシは実験で忙しいんじゃ」

 

 ラッセル博士は面倒臭そうにマードック工房長に尋ねた。

 

「先ほど、エルモの温泉旅館から博士に依頼がありましてね。温泉を汲み上げる導力ポンプが故障してしまったので修理して欲しいそうですよ」

「かーっ、せっかくこのオーブメントの正体が明かせると言う時に!」

 

 マードック工房長の話を聞いたラッセル博士は地団駄を踏んで悔しがった。まるで駄々っ子のようだ。

 

「あの、おじいちゃん……わたしが代わりに直しに行ってあげるよ」

「なぬ!? ティータ、お前は本当に良い子じゃな!」

 

 ティータがそう言うと、ラッセル博士は笑顔になった。

 

「しかし街道には魔獣も出ますし、危険ですよ」

 

 マードック工房長が心配そうな顔でそう言った。

 

「でもでも、困っているマオおばあちゃんを助けたいよぅ……」

 

 ティータが泣きそうな顔で懇願すると、アスカがそのティータの手を握った。

 

「それならアタシたちに任せなさい! アタシたちがティータを守ってあげるわよ!」

 

 アスカは堂々と胸を張ってそう宣言した。

 

「……アスカは温泉に入りたいからだろ」

 

 アスカはそうつぶやいたシンジの足を思いっきり踏み付けた。

 

「余計な事言わなければいいのに」

 

 ヨシュアは足を押さえて痛がるシンジを見てため息をついた。

 

「アンタ、アタシの裸を見ようなんて、やらしい事考えているんじゃないでしょうね!」

「そんな事無いよ!」

 

 アスカに指を突き付けられたシンジは、そう答えながらも二年前に見たアスカの裸を思い出した。戦略自衛隊のロボット、トライデントが暴れまわった騒動の時、葛城家のベランダで、アスカの裸を見ていたのだ。あれから二年経った今、アスカの身体は成長してさらに女性らしさを増している。シンジはあわてて鼻を押さえた。

 

「どうやら話はまとまったようだね」

 

 マードック工房長が安心した様子でつぶやいた。

 

「おじいちゃん、マードック工房長さん、行ってきます!」

 

 ティータが元気な笑顔で二人にあいさつをした。

 

「おお、行ってこい」

「気を付けるんだよ」

 

 ラッセル博士とマードック工房長に見送られたエステルたちはエルモ温泉に向かうため、工作室を飛び出したのだった……。

 

 ◆エルモ温泉のポンプ修理◆

 

 【依頼者】紅葉亭

 【報 酬】???? Mira

 【制 限】直接依頼

 

 エルモ村の温泉を汲み上げる導力ポンプが故障してしまったそうだ。

 多忙なラッセル博士の代わりにティータちゃんが修理に行く。

 あたしたちはティータちゃんの護衛だ。

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