アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~ 作:朝陽晴空
1
エルモ温泉に向かう前に遊撃士協会へと向かったエステルたちは、掲示板に張り出された仕事が増えている事に気が付いた。
◆新製品のテスト◆
【依頼者】ティエリ
【報 酬】2000 Mira
【制 限】4級
ストレガー社では新作スニーカーのテスターを募集中です。
中央工房四階・実験室までお越しください。
「ストレガー社の新作スニーカー!?」
エステルは依頼を見て目の色を変えた。エステルはスニーカー集めが趣味でストレガー社の大ファンなのだ。他の遊撃士にこの仕事を取られては一大事、とエステルに引っ張られる形で中央工房四階の実験室へと向かった。
依頼人のティエリによると依頼内容は、スニーカーを履いて歩き回ると言うものだった。それで靴のすり減り具合を見たりするらしい。
「ああ女神エイドス様、あたしにこのような仕事を回してくれて感謝します」
エステルは滅多にしないお祈りまでするほど喜んだ。実験室の中を見回していたシンジは、実験室の一角にある温室で育てられているトマトに興味を持った。
「あの、あそこにあるトマトは?」
「レオ先輩が実験で育てている《にがトマト》だよ。本当はとても甘いトマトを作るつもりが、失敗して苦くなったらしいんだ」
シンジに尋ねられたティエリはそう答えた。ティエリの話を聞いたシンジは《にがトマト》を譲ってもらえないかティエリに頼んだ。ティエリは処分に困っていたところだと言って快く分けてくれた。
「シンジ、そんな苦いトマト貰ってどうするのよ! もしかして、アタシに日頃の復讐をするつもりね!」
アスカはシンジの口を引っ張った。シンジはアスカに口を掴まれてフガフガとしか話せないので理由を説明する事が出来なかった。
「日頃からシンジに酷い事をしている自覚はあるんだ……」
ヨシュアはアスカに聞こえない小さな声でポツリとそうつぶやいた。
◆新食材の調達◆
【依頼者】ベン
【報 酬】1000 Mira
【制 限】4級
居酒屋《フォーゲル》では、珍しい食材を探しています。
ガツンとパンチのある食材を希望します。
アスカから解放されたシンジは《にがトマト》をこの依頼の依頼人に渡すつもりだと説明した。シンジはクーラーボックスを借りて、その中ににがトマトを入れて肩に引っ掛けた。
エステルたちが四階の実験室を出ようとすると、ティエリに同じ四階にある医務室に居るミリアム博士の頼みも聞いて欲しいと言われた。エステルたちが持って来た《グノーシス》の分析はミリアム博士がしてくれているらしい。恩があるミリアム博士の悩みを見過ごすわけには行かなかった。
◆禁煙強化週間◆
【依頼者】ミリアム
【報 酬】2000 Mira
【制 限】直接依頼
何者かが医務室の戸棚から没収されたタバコを盗み出した模様です。
至急犯人を見つけ出してください。
エステルたちが医務室に入ると、白衣を着たミリアム博士は眉間にしわを寄せて戸棚を睨みつけていた。エステルたちは遊撃士だと名乗り、ミリアム博士から事件の詳細を聞いた。目撃者が居る事で事件は簡単に解決するかと思われた。
「ええっ、目撃者って、猫ぉ!?」
ミリアム博士の話を聞いたアスカが驚きの声を上げた。ミリアムによればその猫の名前はアントワーヌと言って、頭の良い猫だからアントワーヌに面通しをすれば犯人は見つかると言う。
エステルたちは猫のアントワーヌを連れて中央工房で犯人捜しをする事になった。エステルたちはまずアントワーヌとの意思疎通を図るため、『猫語日常会話入門』と言う本を読んだ。
【猫語の具体的な用例】
にやぁおお~ん:本当にそうですね。
にやぁ~ご :こちらです。
にやぁ~~お :これがそうです。
にやゃゃあ~ :嬉しいです。
にやゃ~~ご :ちょっと待って。
にゃあ :イライラする。
にゃあ~~ :お腹がすいた。
にゃぁお~~ん:気を付けて。
にゃおん :眠い。疲れた。
にゃおん? :どちら様ですか?
にゃおーん :はい、そうです
にゃお? :どうかしましたか?
にゃーお :やあ、またお会いしましたね。
にゃーご :お久しぶりです。
にゃ~おん :さようなら。
にゃ~お :はい、その通りです。
にゃ~~ご :こんにちは。
ふみゃああ :あくび。
みゃおん? :何ですって?
みゃ~う :お腹がすいた。(幼児語)
みゃ~~ご :ごめんなさい。
エステルたちは第一の容疑者、演算室のトランス主任と会った。トランス主任はタバコの事を聞いても何の反応も示さなかった。一日中演算室に居て医務室へは行っていないと話した。
「アントワーヌにも聞いてみる?」
エステルはそう言ってアントワーヌをトランス主任に近づけた。
「……にゃお?」
これが第一の容疑者、トランス主任の調査結果だった。第二の容疑者は、導力技師のフーゴだった。フーゴは一階のロビーで他の導力技師と打ち合わせをしていた。その打ち合わせは白熱していて、エステルたちの話を聞いてもらう隙が無かった。
「アントワーヌに聞いてみようか」
ヨシュアはそう言ってアントワーヌをフーゴに近づけた。
「……にゃお?」
第二の容疑者、フーゴの調査結果も芳しいものでは無かった。最後の容疑者は、マードック工房長だった。工房長室の前でアントワーヌは鳴き声を上げる。
「にやゃ~~ご」
エステルたちは顔を見合わせて工房長室へ乗り込んだ。エステルたちの姿を見たマードック工房長は机から顔を上げた。
「おや、君達どうしたんだい?」
「にやぁ~~お」
自分に向かって鳴き声を上げるアントワーヌをマードック工房長は不思議そうな顔で見つめた。
「にゃ~お、にやぁ~~お」
「どう考えても犯人だね」
ヨシュアはアントワーヌの鳴き声を聞いてそうつぶやいた。
「マードックさん、あなたは医務室に行きましたね?」
「いやいやいや、行ってないが……」
ヨシュアが確信をもって尋ねても、マードック工房長はしどろもどろにとぼけた。
「医務室から没収されたタバコを持ち出した犯人を捜しているのよ、心当たりは無い?」
「し、知らないな」
アスカが睨みつけながら尋ねてもマードック工房長は無関係を主張した。それならばとエステルたちは工房長室を調べる事にした。
「にやぁ~ご」
アントワーヌは工房長室のさらに奥の部屋に通じるドアの前で鳴いた。
「この奥の部屋なの?」
「にゃ~お」
エステルの質問にアントワーヌはそう答えた。マードック工房長の寝室に足を踏み入れると、ベッドのサイドテーブルには灰皿とタバコが置いてあった。証拠を突き付けられたマードック工房長は自分の罪を認めて謝った。
マードック工房長は十年以上前に禁煙していたが、昨日の導力停止現象事件で市民からの苦情が殺到し、その対応のストレスでタバコが吸いたくなったのだと話した。マードック工房長に同情したミリアム博士は、今回だけは水に流すと事件は解決した。
「ストレスがたまるとタバコが吸いたくなる……か。加持さんも、ミサトも、リツコも吸っていたわね」
「禁煙活動は広まっているみたいだから、ネルフも全面禁煙になる日も来るんじゃないかな」
アスカとシンジはそんな事を話し合うのだった。中央工房の事件を解決したエステルたちはツァイスの街の居酒屋《フォーゲル》の主人に《にがトマト》を渡した。すると、主人はその味に感激し、その場で思い付いた《にがトマトサンド》のレシピを教えてくれた。酒場にはたまたま研究員のレオが食事に来ていたので、にがトマトの栽培を続ける事で話がまとまった。
「フェイ、許してくれっ!」
突然、昼間から酒場で飲んだくれて酔い潰れていた兵士がそう叫んだ。アスカはそんな飲んだくれ男は放って置けと言ったが、シンジはかわいそうだと思って声を掛けてしまった。
兵士の名前はブラムと言い、ツァイス中央工房で働いているフェイと言う女性と付き合っていたのだが、ケンカ別れをしてしまったのだと話した。またフェイとよりを戻したいと思ったブラムは、自分の気持ちを書いた手紙を渡そうと、職場である共和国との国境にあるヴォルフ砦から数時間歩いてツァイスの街までやって来たのだが、フェイに直接会う決心がつかなくて酒場で酔い潰れてしまったと説明した。
声を掛けたシンジたちが遊撃士だと知ったブラムは、フェイに手紙を届けてくれないかと依頼して来た。
「アンタねぇ……手紙だけで気持ちを動かすなんて難しいわよ」
「えっ、そーなの? アスカお姉ちゃん?」
アスカがため息をついてそう言うと、ティータは驚いた顔になった。
「そ、それは困る! 何とかしてくれ!」
「気持ち悪い」
焦ってアスカにすがろうとするブラムの手をアスカは振り払った。
「そうねえ……何かプレゼントは無いの?」
「なるほど、プレゼントか! それは良いアイディアだ!」
アスカの言葉を聞いたブラムは元気を取り戻したかのように明るくなった。エステルたちは近くの雑貨屋でフェイへのプレゼントを選ぶ事にした。
「それで、フェイさんはどんな人なの?」
エステルに尋ねられたブラムは顔を赤くしながら、エステルの質問に答える。
「普段は作業着で男勝りの仕事をこなしているけれど……性格は意外と女の子っぽくて、可愛いものが好きだったりするんだ」
そう話すブラムの顔が赤いのは酔っているせいだけではないようだ。ブラムの言葉を聞いたシンジは真剣そのものの顔でアスカを見つめた。アスカが選んだのは《ふわもこニット帽》だった。ブラムは酒臭いので、とりあえずエステルたちだけで手紙とプレゼントをフェイに渡しに行く事になった。
ツァイス中央工房の地下オーブメント工場にフェイは居た。手紙とプレゼントを見たフェイは遠い目をした後、はにかんだように微笑んだ。
「わざわざ届けてくれてありがとうね。でも、どうせならもっと早く謝りにくればいいのに」
フェイは笑顔でエステルたちにお礼を言うと、遊撃士協会にも報酬を支払うと話した。依頼は成功したのかとシンジがアスカに尋ねると、大成功だとアスカは答えるのだった。居酒屋で待っていたブラムに首尾を伝えて、この依頼は完了となった。
◆復活愛の使者◆
【依頼者】兵士ブラム・作業員フェイ
【報 酬】2000 Mira
【制 限】直接依頼
依頼が終わった後、シンジは雑貨屋を出る前にこっそりと買っていた《ふわもこニット帽》をアスカにプレゼントした。
「……アンタって分かりやすいヤツね」
そうアスカは言いながらも、ワンポイントで赤色の入ったニット帽を気に入ったようだった。寒い所へ行ったら使わせてもらうわと言って、アスカは自分の鞄にしまい込んだ。それからしばらくの間、アスカは鼻歌を歌うほど機嫌が良かった。
2
ツァイスの街中の依頼をこなしたエステルたちは、エルモ温泉を目指してトラット平原道へ足を踏み入れた。
◆トラット平原道の手配魔獣◆
【依頼者】遊撃士協会
【報 酬】1500 Mira
【制 限】3級
トラット平原道に凶悪な魔獣【クロノサイダー】が出没中です。
当支部所属遊撃士のすみやかなる退治を望みます。
八匹の手配魔獣との戦闘ではティータの戦技・スモークカノンが活躍した。目潰しをされた魔獣達はサイのように闇雲に突進するが、エステルたちは悠々と交わせた。
「おーい、君たちも遊撃士か?」
エステルたちが手配魔獣を撃退すると、ヴォルフ砦に向かう街道の方から遊撃士の紋章を付けた男性がやって来た。その遊撃士の話によると、運搬車が故障して立ち往生をしてしまっているらしい。エステルたちは掲示板の依頼を思い出した。
◆運搬車の捜索◆
【依頼者】遊撃士協会
【報 酬】1000 Mira
【制 限】4級
ヴォルフ砦へ向かった運搬車が遅刻しているそうです。
当支部所属の遊撃士が護衛していますが、トラブルに巻き込まれた可能性もあります。
至急、トラット平原道の捜索をお願いします。
この運搬車が掲示板の依頼にあったものに違いない。遊撃士はウォンと名乗り、エステルたちも自己紹介をした。運搬車の運転手はティータと顔見知りのようだ。
「ところで困っているみたいだけど、どうしたの?」
エステルはウォンたちにそう尋ねた。わざわざエステルたちに助けを求めて来たのにはわけがあるのだろう。ツァイスの街を出発してしばらくしたところで、導力運搬車のオーバルエンジンが壊れてしまったのだとウォンは話した。
「オーバルエンジンの故障なら、内部の駆動オーブメントを丸ごと交換しないといけませんね」
ティータが困った顔でそう説明した。応急修理で何とかなるものではないようだ。エステルたちが話していると、魔獣達の群れに取り囲まれているのに気が付いた。運搬車に積まれたオーバルエンジンに使われている七耀石に引かれて集まって来たのだろう。
エステルたちは運搬車を中心として陣形を組んで戦った。魔獣達の顔ぶれは普段から街道に居るものと変わらなかったが、数は十匹以上居た。ティータがスモークカノンで魔獣達の視界を遮り、アスカが魔獣達をスパイラルフレアで焼き尽くす。シンジもエアリアルを使えるようになっていた。
「ふーっ、君たちのおかげで切り抜けることが出来たよ、ありがとう」
魔獣達を倒し終わった後、ウォンは笑顔でエステルたちにお礼を言った。しかし運搬車をこのまま平原の真っただ中に置いておくわけにもいかない。日が暮れれば魔獣達とも戦いづらくなる。
「あたしたち、ツァイスの中央工房に行って新しいパーツをもらって来るわ」
「ええっ、いいのかい?」
「困った時はお互い様よ!」
ウォンに向かってエステルたちは笑顔でウインクした。エステルとヨシュアとティータが駆動オーブメントをツァイスの中央工房に取りに行き、アスカとシンジはここに残ってウォンと一緒に運搬車を魔獣達から守る事になった。
◆運搬車の修理◆
【依頼者】ブルーノ
【報 酬】???? Mira
【制 限】直接依頼
行方不明だった運搬車は故障していた。
運転手のブルーノさんによればエンジンの故障らしい。
修理するためには交換用のパーツが必要だと言う。
中央工房の人に聞けば分りそうだが……。
エステルたちがツァイスに行っている間、アスカとシンジは息を合わせて迫り来る魔獣達を倒していた。倒した魔獣の数は二十を超えていた。
「さすが恋人同士、息がピッタリだね」
「ア、アタシとバカシンジが恋人なワケないじゃない!」
ウォンがそう声を掛けると、アスカとシンジは顔を赤くしながら首を振って否定した。
「そうですよ。ボクとアスカは同僚で、ただの同居人ですよ」
シンジがそう言うと、アスカの胸がズキリと痛んだ。
(……アタシが自分で今まで散々話して来た事なのに、どうしてシンジの口から聞くとツライんだろう……)
「やっほー、お待たせ」
それからしばらくしたところでエステルたちが駆動オーブメントを持って現れた。
「フーッ、やっと魔獣退治から解放されるわね」
アスカは深いため息を吐き出した。シンジの事を変に意識し始めてから連携が乱れて大変だったのだ。二人で同じ魔獣を狙って数を減らす戦術が上手く行っていたが、気持ちが乱れると、標的もバラバラになってしまった。
「それじゃあ、ぱぱっとオーバルエンジンを交換しちゃいますねー」
ティータとブルーノは協力して運搬車を修理した。修理が完了した運搬車は無事に動き出した。
「いやあ、日曜学校に通う歳なのに、ティータちゃんは大したもんだ!」
「えへへ……」
ブルーノに褒められたティータは照れくさそうに笑顔になった。
「じゃあ俺たちはもう行くよ、あんたたちも元気でな!」
運搬車に乗ったブルーノはウォンと共にヴォルフ砦への方へと去って行った。エステルたちが目指すのはエルモ村だ。いろいろ回り道があったが今度こそエルモ村へと向かう事になった。
3
エルモ村に入ったエステルたちは、辺りに漂う刺激的な臭いに顔をしかめた。
「何この、卵を燻したみたいな臭いは……」
「温泉に含まれている硫黄成分の匂いなんですよ」
エステルの言葉に対して、ティータはそう説明した。
「温泉が湧いている所は大抵こういう匂いがするものよ」
アスカはいかにも温泉に通い慣れている感じでそう言った。実際に温泉に入ったのは一回だけだ。
「でも今日はいつもより匂いがちょっと薄いような気がします……。湯気も出ていないようですし……」
「ポンプが故障しているからかもしれないね」
困惑した顔のティータのつぶやきに、ヨシュアはそう言った。ティータによればポンプがある小屋の鍵は旅館の女将が管理しているらしい。エステルたちは旅館へと向かう事にした。
旅館《紅葉亭》の前ではポンプにより温泉が汲み上げられ、観光客達が足湯を楽しめる広場があった。しかしポンプが故障している事によって温泉は冷え切ってしまい、活気も失われていた。
「こんにちは、マオお婆ちゃん」
紅葉亭の中へ入ると、ティータは元気な声であいさつをした。カウンターに立っていた女将のマオ婆さんはティータの顔を見ると笑顔になった。
「ティータ、よく来てくれたね」
マオ婆さんは団子頭をかんざしでまとめた東方風の恰幅の良い老婆だった。
「工房長さんから連絡があってね、楽しみにしていたよ。それで、その子たちは?」
「おばーちゃん、紹介するね。遊撃士のエステルお姉ちゃんと、ヨシュアお兄ちゃん。アスカお姉ちゃんにシンジお兄ちゃんだよ」
ティータは笑顔でエステルたちを紹介した。エステルたちもマオ婆さんに笑顔であいさつをした。
「わざわざティータを送り届けてもらって、済まなかったね。あたしゃ、この『紅葉亭』の女将をしているマオっていう婆さんさ。ラッセルはあたしの幼馴染で、ティータも実の孫みたいに可愛がっているのさね」
マオ婆さんがそう話すと、エステルは感心したようにつぶやいた。
「へえ、そうなんだ」
「えへへ」
ティータが照れくさそうに笑った。そしてティータが導力ポンプの修理をしに来た事を話すと、マオ婆さんはポンプ小屋の鍵を渡してくれた。ポンプ小屋は村の外れの高台にあった。
ティータの説明によれば、導力ポンプは裏山の奥からお湯を汲み取り、旅館の浴槽や広場に送っているらしい。エステルたちは鍵を開けてポンプ装置のある小屋に入った。小屋の中には大きな円形のオーブメント装置があった。これがポンプ装置だろう。
導力革命が起きたばかりでオーブメントが一般的でない40年前、ラッセル博士はオーブメントの素晴らしさを知らしめるために、温泉を汲み上げるこの導力ポンプを造ったらしい。
「博士はこのオーブメント装置に思い入れがありそうね」
アスカは感心したようにつぶやいた。
「そう言う事ならしっかりと修理しないとね」
「はいっ!」
ヨシュアの言葉にティータは笑顔で返事をした。
「まずは機関部の点検から……」
導力ポンプの点検を始めたティータの表情は真剣そのものだった。
「次にスクリューと配管の点検……」
「アタシも手伝うわよ」
「えっとじゃあ、アスカさんはキャビテーションを……」
アスカとティータの二人でオーブメントの修理をする姿は、姉妹のようにエステルたちには見えた。手伝える事は無さそうだと考えたエステルたちは、旅館でティータとアスカの修理作業が終わるまで待つ事にした。
4
エステルたちが旅館に戻ると、マオ婆さんは不思議そうな顔でティータはどうしたのか尋ねた。エステルはティータがアスカと一緒に温泉ポンプの修理を始め、自分たちは邪魔にならないように旅館で待つ事にしたと話すと、マオ婆さんはそれが一番かもしれないねと笑った。
ティータは可愛くて素直ないい子だが、機械いじりに熱中すると周りが見えなくなるところは祖父のラッセル博士と同じだとマオ婆さんは笑った。しかし、同世代の友達が居ない事や、両親が側にいない事で寂しい思いをしていないかマオ婆さんは心配しているのだと話した。だから、アスカが一緒にポンプの修理作業をしていると聞いてマオ婆さんは嬉しいのだと言う。
「あの、ティータのお父さんとお母さんは……?」
シンジがマオ婆さんにそう尋ねた時、村の青年が息を切らせて旅館に駆け込んで来た。
「どうしたんだい、そんなに慌てて?」
「王都から観光に来たあの嬢ちゃん、旅館に帰ってきているかい?」
マオ婆さんに聞かれた青年はそう尋ね返した。
「散歩に出掛けたまま帰って来てないよ」
「やっぱりそうか……まずい事になったなぁ」
マオ婆さんの言葉を聞いた青年は深いため息を吐き出した。
「実はさっき村の出口であの嬢ちゃんを見かけたんだ。景色の良い場所を探して平原を探検するとか言ってさ……」
「平原には魔獣も居るのに危ない事を……」
青年の言葉を聞いたマオ婆さんは深刻な表情になった。アスカが居たら「アンタバカァ!?」と言っていただろう。
「このアンポンタン! 何で引き留めなかったんだい?」
マオ婆さんに叱られた青年はペコペコ謝りながら言い訳をする。
「止めたよ! 止めたけどさ、何か凄いマイペースな娘だったろう? だから本当に村から出るのを諦めたのかって心配になっちゃってさ」
今まで話を聞いていたエステルたちは顔を見合わせた。そしてエステルが青年に声を掛ける。
「あのう、聞きたいんだけど、その人を村の出口で見たのはいつ頃なの?」
「お昼ぐらいだったかな。飯を食いに帰るところだったからね」
エステルの質問に青年はそう答えた。
「急いで探さないと!」
「そうだね」
シンジの言葉にヨシュアがうなずいた。
「あたしたち、遊撃士なのよ。これから平原に行ってその人を連れ戻して来るわ」
エステルは青年にそう声を掛けた。
「そりゃ頼もしい、じゃあよろしくな」
エステルの言葉を聞いた青年は嬉しそうに声を上げた。
「まったく喜んでいる場合じゃないだろう……まあお客さんの安全が最優先だ。あんたたち、済まないけどよろしく頼んだよ」
マオ婆さんはあきれた顔でため息をついた後、真剣な表情でエステルたちに声を掛けた。
「任せてください」
シンジはマオ婆さんにそう答えてエステルたちと共に旅館を出て行くのだった。
※原作ではレイと言う名前の研究員ですが、今作ではレオに変更しました。(綾波レイとの混同を避けるためです)
※原作ではヴォルフ砦で発生する◆復活愛の使者◆の依頼を今作では居酒屋《フォーゲル》に変更しました。