アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第三十四話 碇シンジ・混浴露天風呂・襲撃後・卒倒事件!

 

 アスカとティータが温泉ポンプを修理している間、別行動で村の外に出て行ってしまった女性観光客を探す事になったエステル、ヨシュア、シンジの三人。村の外に広がる平原のどこから探し始めればいいものかと話し合っていた。

 その女性観光客は景色の良い場所を探していた事から、街道から外れた場所も探さないといけないとヨシュアは言った。街道には魔獣除けの導力灯があるが、平原にはたくさんの魔獣が住み着いている。ハードな人探しになると思われた。

 トラット平原に多かったのは羊のような姿をしていたヒツジンと言う魔獣の群れだった。人間のように二足歩行するこの魔獣は、正拳突きや飛び蹴りなど格闘家を思わせる技を使って来た。

 

「ふえ~ん! 来ないでくださーい!」

 

 エステルたちがヒツジンの群れを倒しながら平原を捜索していると、若い女性の悲鳴が広い草原に響き渡った。

 

「女神エイドス様、お父さん、お母さん、ナイアル先輩~! 助けて~っ!」

 

 聞き覚えのある人物の名前に、エステルたちは冷や汗を流した。悲鳴が聞こえた方に駆け付けると、予想通りと言うべきか、魔獣達に取り囲まれて居るのはナイアルとコンビを組んでいたリベール通信の女性カメラマン、ドロシーだった。

 しかし意外だったのはドロシーを取り囲んでいる魔獣だった。この平原では見た事の無い首輪をした番犬のような魔獣。クローネ峠の関所を集団で襲撃して来たあの魔獣だった。

 

「ぴえーん、こんなところで死んじゃうなら食べ放題に行っておけば良かった!」

 

 後悔の声を上げるドロシーの前に、エステルたちが魔獣の包囲を突き破って割り込んだ。

 

「大丈夫ですか、ドロシーさん!」

 

 シンジが真剣な表情でドロシーに声を掛けると、ドロシーはとぼけた顔で答える。

 

「あなたたちは……!? ……誰でしたっけ……?」

 

 ドロシーの言葉を聞いたエステルとシンジは膝から崩れ落ちそうになった。

 

「冗談ですよ、シンジ君」

 

 笑顔でそう言うドロシーにシンジは激しくやる気を削がれた気がした。こういうタイプの女性は苦手だ。女性に振り回されるのには慣れているけれど。

 

「ボクの側を離れないでくださいね」

 

 エステルとヨシュアが前衛に立ち、導力銃を持ったシンジはドロシーの近くに立った。

 

「それじゃあ、ムギュッと

「!?」

 

 ドロシーに後ろから抱き付かれたシンジはパニックになってしまった。柔らかい物が腕に当たっている。アスカが側に居たら直ぐに引き離していたところだろう。ドロシー流のジョークなのだろうが、これはたまらない。

 エステルとヨシュアが戦いを始めると、ドロシーは真剣な顔になってカメラを構えて写真を撮り始めた。フラッシュに驚いた魔獣達の動きが鈍る。その隙を逃さまいとシンジは範囲攻撃魔法のエアリアルを詠唱した。

 範囲攻撃魔法を食らった魔獣達は退却を始め、平原の彼方へと逃げ去って行った。謎の魔獣達の正体を探りたかったが、とりあえずドロシーを保護する事が出来たので遊撃士としての仕事は成功だ。

 

「久しぶりだねぇ、こんなところで会えるとは思わなかったよ。もしかして運命の赤い糸で結ばれているって事かな?」

 

 ツッコミ役のアスカが不在の中、ドロシーはボケまくりだった。

 

「それで、こんな危険な所で何をしていたんですか?」

 

 ボケをスルーしたシンジが尋ねると、ドロシーは立てた人差し指を左右に振って答える。

 

「ちっちっち、そんな事も分からないの? 正解は、写真のネタを探していた、でした!」

 

 クイズにもなっていない。ため息を吐き出したシンジは、安全な村の中で写真のネタを探してくださいとドロシーに頼むのだった。

 

「シンジ君、元気出してください」

「疲れさせたあんたが何言ってるのよ……」

 

 遂にアスカの代わりにエステルがドロシーにツッコミを入れたのだった……。

 

 

 

 

 エステルたちが村に戻った頃にはすっかり夕方となっていた。エステルたちが村の広場へ行くと、湯気が噴き出していた。どうやらポンプの修理が終わったようだ。

 

「これで温泉に入れるね、我が一生に一片の悔いなし、だよ」

「そんな大げさな事言って……」

 

 笑顔で喜びの声を上げるドロシーに、エステルは苦笑いを浮かべた。

 

「ドロシーさんってそんなに温泉が好きなんですか?」

「何と言っても湯上りに飲むフルーツ牛乳が最高なんだよね」

 

 ヨシュアの質問にドロシーは頬を手で押さえてとろけた顔で答えた。

 

「シンジは温泉に入った事があるみたいだけど、そうなの?」

「うーん、ビールを飲んで喜んでいた人は居たけどね」

 

 エステルに尋ねられたシンジはそう答えた。フルーツ牛乳か、それも良いかもしれない。アスカに教えてあげようとシンジは思った。

 

「じゃあ、わたしは温泉に入りに行くから、バイバイ」

 

 ドロシーは笑顔で手を振って旅館の方へ駆けて行った。多分二十歳は超えているのに、なんてマイペースな女の人なんだとエステルたちは思った。

 

「おーい、エステルちゃん、ヨシュアくん、シンジくーん!」

「どうしたんですか?」

 

 突然大声でドロシーに呼ばれたシンジはドロシーの元へと駆け寄った。

 

「今日は助けてくれてありがとうね」

 

 ドロシーの言葉を聞いたシンジは思いっきりズッコケた。

 

「あのタイミングでお礼を言うなんて、ピントがずれてるわね」

 

 エステルがため息をつきながらそう言うと、ヨシュアは笑いながらつぶやいた。

 

「カメラのピントは直ぐに合わせられるのにね」

 

 エステルたち三人はアスカやティータが居るかもしれないポンプ小屋へ向かう事にした。小屋の中ではアスカとティータが難しい顔をして導力ポンプの機器を見つめていた。

 

「アスカ、ポンプの修理は終わったの?」

「うん、少し前に終わったところよ」

 

 シンジが尋ねると、アスカは笑顔になってそう答えた。しかしエステルたちはアスカとティータの直前の表情が気になって聞いてみた。

 

「何か大変な事でもあったの?」

「おじいちゃんの作ったポンプ装置には問題が無かったんですけど、わたしが前に手伝ったスクリュー部分のシャフトの耐久力が足らなかったみたいなんです……」

 

 エステルに尋ねられたティータは泣きそうな顔で答えた。

 

「でも防錆加工を施した新しいパーツと交換したから、今度は大丈夫よ」

 

 アスカはそう言ってティータを励ますと、ティータはアスカに飛び付いた。ともかく、ポンプ装置を直したエステルたちは旅館のマオ婆さんに報告する事にした。

 

 

 

 

 ポンプ装置を直した事と、女性観光客を保護した事でエステルたちにお礼を言ったマオ婆さんは、今日は旅館に泊まるように勧めた。

 

「でも、わたしたちおじいちゃんに泊って来るって話してないし……」

 

 ティータは困った顔でマオ婆さんに答えた。

 

「ああ、ラッセルにはあたしから連絡しておいたよ。そうしたら、作業には明日まで時間が掛かるから泊って良いってさ」

「ラッセル博士ってば、まだあの黒いオーブメントのフレームを切断するのに熱中しているようね」

 

 マオ婆さんの話を聞いたアスカはそうつぶやいた。ティータが潤んだ瞳でアスカを見つめる。

 

「お姉ちゃん……」

「アタシたちもティータの護衛って事で泊って問題ないわよね?」

 

 アスカはエステルたちの方を振り返ってそう尋ねた。遊撃士協会の受付のキリカも緊急を要する依頼は無いと話していた。温泉が元通りになったと言う話が広まれば、閑散としたエルモ村にも観光客が押し寄せて来る。ゆっくりと温泉旅館に泊まれるのは今のうちかもしれない。魅力的な提案にエステルたちも反対はしなかった。

 マオ婆さんはエステルたちに二階の『柚子の間』と言う部屋を用意した。夕食までしばらく時間があるので、その間に温泉に入るようにエステルたちに勧めた。お風呂って寝る前に入るものではないかと不思議そうな顔で尋ねるエステルに、マオ婆さんは一日に何回も温泉に入るのが普通だと笑顔で語った。

 エステルたちは部屋に荷物を置いて早速温泉に入る事にした。エステルたちの泊る部屋は日本で暮らしていたアスカとシンジも驚くほどの純和風な感じで、畳の上に布団を敷いて寝ると言ったものだった。

 アスカとシンジはユニゾンの特訓をする時に、ミサトの部屋で三人で川の字になって寝ていた事がある。トイレに行って寝ぼけたアスカがシンジの布団に潜り込み、シンジが寝ているアスカにキスをしようとした思い出もあった。

 

「アンタ、寝ているアタシに変な事しないでしょうね」

 

 アスカは未だにその事を根に持っているようだった。

 

「アスカが寝ぼけたりしなければね」

 

 シンジも負けじと皮肉めいた口調で言い返した。

 

「ほらほら、二人ともケンカしないで温泉に行こうよ!」

 

 エステルがアスカとシンジの間に割って入ってなだめたのだった。

 

 

 

 

 部屋へ荷物を置いたエステルたちは温泉へと向かう。温泉は旅館の本館から離れた別館にあると言う。本館の裏口から別館を結ぶ渡り廊下に出ると、見事な枯山水の庭があった。しばらくその庭の美しさに見とれていると、別館の方から真っ赤な顔のドロシーがやって来た。

 

「エステルちゃんたちも温泉に入りに来たの? ここのお風呂は広くて良いよ、のーんびりできるし。ちょっとお湯につかりすぎて、頭がクラクラしちゃったよ」

「もしかして、あたしたちと広場の前で別れてからずっーと入っていたの?」

 

 ドロシーの話を聞いて驚いた顔のエステルが尋ねると、ドロシーはうなずいた。

 

「うん、その通りだよ。よく分かったね」

「それだけ真っ赤な顔をしていれば誰でも判るわよ」

 

 アスカがあきれ果てた顔でため息をついた。

 

「のぼせたら大変ですから、気をつけてください」

 

 シンジがドロシーに気遣うように声を掛けるとドロシーは笑って言った。

 

「その時はダイヤモンドダストの魔法をわたしにかけてください」

「いやいやいや、死んじゃいますって!」

 

 シンジはすごい勢いで手と首を横に振ってツッコミを入れた。

 

「そうだ、エステルちゃんたちもこの旅館に泊まるなら一緒にご飯を食べない?」

「じゃあ、あたしたちがお風呂に入り終わるまで待っててくれない?」

「うん、フルーツ牛乳を飲みながら待ってるよ~」

 

 ドロシーはエステルたちと別れて本館の方へ姿を消した。すると枯山水の庭を眺めていたヨシュアが何かに気が付いたように声を上げた。

 

「もしかして、依頼にあった本はここに隠されているのかもしれない」

 

 ◆臨時司書の残業◆

 

 【依頼者】コンスタンツェ

 【報 酬】500 Mira

 【制 限】3級

 

 『エルベキツツキの生態』と言う本の回収をお願いします。

 隠し場所のヒントが書かれたメモが残されていた。

 『山里や 池にたたずむ 石の人 近寄りて見よ さらば得られん』

 

「でもヨシュア、ここには砂ばかりで池なんてないよ?」

「枯山水は砂で水を表現する事があるんだ。これが『池』だとすると、あそこにある石像は『石の人』にならないかな」

 

 エステルの質問に答えたヨシュアは、枯山水の近くにあるお地蔵さんを指差した。

 

「じゃあ、あそこの石像の近くに本が隠されているってわけね!」

 

 そう言ってお地蔵さんに一直線に近寄ろうとしたエステルの腕をアスカが引っ張った。

 

「ちょっと待ちなさい! 枯山水の池を荒らしちゃマオ婆さんに怒られちゃうわよ」

「あっ、そっか」

 

 アスカに指摘されたエステルは頭をかきながら遠回りしてお地蔵さんに近づくと、油紙に包まれた本が隠されていたのを見つけた。その本は『エルベキツツキの生態』と言う本だった。これで依頼を一つ達成できたわけだ。

 エステルたちが温泉のある別館に着くと、当然のことながら男湯と女湯の入口は別れていた。男女別に分かれたエステルたちはそれぞれ脱衣所で服を脱ぎ、タオルを巻いて温泉に入った。この旅館には露天風呂があるようだが、エステルたちはまずは内風呂を堪能した。

 

「温泉って初めて入ったけど、思っていたより気持ちいいわね。病みつきになっちゃうかも」

 

 エステルはすっかり上機嫌になってそうぶつやいた。

 

「あたしもすっかり温泉の虜です。小さい頃から良くおじいちゃんに連れて来てもらってました」

 

 ティータも笑顔でエステルの意見に同意した。

 

「それにしてもアスカってスタイルいいよね。腰だってこんなに細いし」

 

 エステルはそう言うと、アスカの腰に手を回した。

 

「フフン、まあね。でもエステルの体つきも悪くないわよ」

 

 アスカはまんざらでもない様子で答えた。

 

「わ、わたしもいつかお姉ちゃんたちみたいになりたいです!」

 

顔を赤らめたティータはそう言った。

 

「ティータはまだこれからよ。ティータは、アタシみたいな越しの細いスレンダーな体型と、エステルみたいな太ももが健康的なグラマラスバディとどっちになりたいの?」

「えっと……」

 

 ティータが言い淀んでいると、エステルはタオル越しにアスカの胸を揉み始めた。

 

「アスカだって、ここは二年前より大きくなっているわよ」

「胸を揉むんじゃなぁぁぁぁい!」

 

 アスカが大声で叫ぶとティータがあわてて注意する。

 

「お風呂は声が響くから、静かに話さないとお兄ちゃんたちに聞こえちゃいますよ」

「そ、そうね……」

 

 アスカは顔を赤くしてそう言うと、いつまでもじゃれついているエステルを引きはがした。

 

「ところで奥にある扉は何?」

「話していた露天風呂に繋がっているんです。ここよりも広くて、この旅館に泊っているお客さん全員が一緒に入れるくらいなんですよ」

 

 エステルが尋ねると、ティータはそう答えた。

 

「なるほどね……」

 

 エステルは感心したようにつぶやいた。

 

「そう言えば、エステルお姉ちゃんたちはどうして歩いて旅をしているんですか? 飛行船に乗れば早く遊撃士協会に着くと思いますけど……」

 

 ティータは心の中で思っていた疑問をエステルに尋ねた。

 

「それは父さんの教えよ。シェラ姉って言うあたしたちの姉弟子から聞いた話だけど、まず守るべき場所を、守るべき人を、自分の足と目で実際に確かめてみろってね」

「百聞は一見に如かずって事よ」

 

 アスカはエステルの言葉にうなずいた。

 

「カッコイイですね」

 

 ティータが感心したようにつぶやいた。

 

「普段は三枚目ぶっているけど決める時は決めるんだから、あの髭親父が」

 

 アスカはそうぼやきながらも表情は嬉しそうだった。

 

「今頃、どこで何をしているのやら……」

 

 エステルがそう言ってため息を吐き出すと、ティータは気遣う顔で見つめた。

 

「ほらほら、アンタのせいで湿っぽくなったじゃない」

「ごめんごめん、あたしたちは父さんを信じて、自分たちの修行を頑張るんだよね」

 

 アスカに指摘されたエステルはそう言って笑顔を作った。

 

「あ、そうだ。わたしエステルさんたちにもう一つ聞きたい事があったんです」

「何でも聞いていいわよ」

 

 顔を赤くしてモジモジしているティータに、アスカはそう答えた。

 

「あのエステルさんとアスカさんって結婚しているんですか?」

 

ティータの質問を聞いたエステルとアスカは直ぐに返事をしなかった。ティータは期待に満ちた視線でエステルとアスカの言葉を待っている。

 

「アタシの耳がおかしくなったのかしら? 誰と誰が結婚しているだって?」

 

 アスカは不思議そうな顔で尋ね返した。エステルはやっとティータの言葉の意味が理解できたのか大きな声で叫んだ。

 

「どうしてそうなるわけ!?」

「だってだって……名字が同じで、兄妹にしては似ていないからそう思って……」

 

 エステルとアスカから怒るように睨まれたティータは泣きそうなほど困った顔で弁明した。

 

「名字が同じなのはアタシたちがあの髭親父の養子になったからよ!」

 

 アスカが顔を真っ赤にしてティータに向かって叫んだ。エステルも顔を赤らめてモジモジとしている。

 

「えへへ、ごめんなさい」

 

 ティータはごまかし笑いを浮かべて謝った。

 

「まったく、とんだ勘違いしてアタシをドキドキさせないでよ……」

 

 アスカはそう言って深いため息を吐き出した。

 

「あたしたちまだ16歳だよ。結婚なんてまだ先の話よ」

 

 エステルはウンザリとした顔でそう言った。

 

「そーですよね。いくらお互い愛し合っていても、結婚は早いですよね」

 

 ティータがそう言うと、アスカはガックリと肩と落とした。

 

「だから! あたしとヨシュアは兄妹なんだってば!」

「あたしとシンジも恋人じゃなくて同居人!」

「エステルお姉ちゃん、アスカお姉ちゃん、ヨシュアお兄ちゃんとヨシュアお兄ちゃんに聞こえちゃいますよ~」

 

 真っ赤な顔で息を合わせて怒鳴るエステルとアスカに、ティータがあわてた顔でそう叫んだ。

 

「ティータちゃん、あたしたちってその……恋人みたいに見える? らぶらぶとか、いちゃいちゃとか、あつあつとかそう言う感じ」

 

 エステルはティータに赤い顔をしてもじもじしながらそう尋ねた。

 

「そーいう感じはしませんけど、いつも自然体で一緒に居る感じだし、何も言わなくてもお互いの言いたい事を分かりあっている感じだし……」

「それはお互いの息を合わせるように特訓をしたからよ」

 

 ティータの言葉にアスカはそう答えた。アスカとシンジはユニゾン特訓をした事がある。分裂する使徒を倒してからは合体攻撃の息は合っている。

 

「でもそう言うのって、家族や親友でもありそうな事じゃない? だいたいあたしたちそんな雰囲気になった事は無いと思うけど……」

 

 そう言ったエステルの脳裏にヨシュアとの事が思い出される。

 

 

 

~エステルの回想その1 ロレント時計台~

 

「エステル、君が自分の行動を後悔しているのはわかる。だけど君が母さんに助けられたように、今度は君が父さんを助けてあげればいいんだ」

 

 ヨシュアの言葉を聞いたエステルは、嬉しそうに瞳を潤ませてヨシュアに抱き付いた。

 

~エステルの回想その2 ボース川蝉亭~

 

「ありがとう、エステル」

「お礼はハーモニカで一曲でいいわよ」

「『星の在り処』でいいかな?」

「もちろん!」

 

 エステルはそう答えて、桟橋の丸太の上に腰掛けてヨシュアがハーモニカで奏でるメロディに聞き入っていた。

 

~エステルの回想その3 マノリア村展望台~

 

「それなら、お弁当箱を交換しようか?」 

 

 ヨシュアがそう提案すると、エステルはとんでもない事を言い出した。 

 

「手が塞がってて面倒だし、ヨシュアが食べさせてよ。あーん」 

 

 そう言ってエステルはヨシュアに向かって口を大きく開いた。さすがにヨシュアも驚いた顔をしながら、パエリアを掬ったスプーンをエステルの口元に運んだ。

 

「な、何を恥ずかしい事を思い出しているのよ~!」

 

 エステルは身悶えしながらそう叫んだ。

 

(……あたしって言えば、今まであんな恥ずかしい事を平気でしていたなんて……)

 

 「エステルさんってばお顔が真っ赤ですけど……? 湯当たりしたんですか」

 

 ティータが心配そうな顔で尋ねると、アスカは大丈夫だと答えた。恋愛にピュアなエステルは、ヨシュアを意識しすぎてオーバーヒートしているのだと、経験のあるアスカは分かった。相手はシンジではなく、加持さんと言う初恋の人だけど。

 

「何でもないから!」

 

 しどろもどろになったエステルはわざとらしい空元気になって声を上げる。

 

「温泉って本当に元気が出るわね。血の巡りが良くなって、頭も良くなる気がする!」

「それなら円周率を言ってみなさい」

「3.14……えっと、何だっけ?」

 

 アスカに出題されたエステルはそこであっさりと止まった。

 

「えっと、3.141592653589793238462643383279……」

「ティータは偉いわね」

 

 アスカはそう言ってティータの頭を撫でた。

 

「アスカは円周率を言えるの?」

「も、もちろんじゃない!」

 

 アスカは腰に手を当てて、この二年間でCカップにまで成長した胸を張って答えた。

 

「そうだ、露天風呂があったのよね! あたし、外で頭を冷やして来るわ」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 エステルはアスカの制止を振り切って、露天風呂へ通じる扉から出て行ってしまった。

 

「露天風呂って混浴なんですけど……」

 

 ティータは不安そうな顔でつぶやいたのだった。

 

 

 

 

 露天風呂に出たエステルは、深呼吸して高鳴った胸を落ち着けた。

 

(あたし……最近何か変だ……今までヨシュアを意識した事なんて無かったのに……)

 

「悩むなんて、あたしらしくない!」

 

 エステルは元気を出してそう言うと、湯気が立ち昇る温泉へ飛び込んだ。誰かが居れば迷惑が掛かる行為だが、温泉にはエステル一人しかいなかった。

 

「はぁ、良い気持ち。外のお風呂はまた格別よね。こんなに広いなら、水練の練習が出来るわね」

 

 エステルがそうつぶやくと、湯煙の向こうからヨシュアの声が聞こえた。

 

「子供じゃないんだから、泳いだりしないの」

 

 ヨシュアの声を聞いたエステルは身体をギクッと震わせた。

 

「やあエステル、湯加減はどうだい?」

 

 いつの間にかヨシュアが露天風呂に姿を現していたヨシュアを見て、エステルの顔は真っ赤に腫れあがる。

 

「この格好だと、少し照れくさいね」

 

 シンジも後から姿を現した。エステルは驚いた顔で固まってしまった。

 

「きゃあああああああっ!」

 

 エステルの悲鳴が旅館中に響き渡った。

 

 

 

  一騒動が終わった後、エステルたちはマオ婆さんに優しく注意された。物凄い悲鳴だったので、あわてて駆け付けたのだと言う。

 

「まったくエステルってば、旅館の色々な場所に混浴だって書いてあったじゃないの。注意力散漫ね」

 

 アスカはそう言ってため息をついた。この程度の事に気が付かないとは遊撃士にとって恥ずかしい事である。穴があったら入りたいと思うエステルだった。

 

「第一、裸の一つや二つ、見られたって騒ぐことはないよ。わたしだって若い頃はね……」

 

 マオ婆さんはそう言って自分に胸を揉んだ。そのふっくらとしたお腹は大きな胸の成れの果てなのかしら、とエステルたちは思った。エステルたちがお世辞を言っていいものか迷っていると、この露天風呂は家族で入れるように混浴にしているのだとマオ婆さんは話すと旅館の本館へと戻った。

 

「まったく、人の顔を見るなり悲鳴を上げるなんて、思ってもみなかったよ」

 

 ヨシュアは少し悲しそうな顔でそうつぶやいた。

 

「ただ単にビックリしたからよ。ヨシュアと一緒が嫌じゃないからね!」

 

 エステルのモゴモゴと言い訳を続けていると、ヨシュアはそう言って露天風呂から去ろうとした。

 

「別にいいよ、後は女子だけで一緒に入っていなよ」

 

 しかしそのタイミングで思わぬ乱入者が露天風呂に侵入した。ヒツジンの群れがやって来たのだ。ヒツジンの内の一匹は、素早くあっけにとられているアスカのバスタオルを奪い取ってしまった。

 

「きゃあああああああっ!」

 

 バスタオルの拘束から解放されたアスカの胸がプルンと波打って揺れた。アスカの裸体が夕陽に晒された。

 真正面からアスカの裸を上から下へとガン見するシンジにアスカのキックが炸裂した。シンジは卒倒して戦線離脱した。アスカは悲鳴を上げながら予備のバスタオルを取るために脱衣所にダッシュ。エステルもお風呂には武器など持って来ていない。これって詰んだ? しかしヨシュアには奥の手があった。

 

(……あの力を解放するしかないか……戦技・漆黒の牙)

 

 ヨシュアの瞳が氷のように冷たくなると、ヨシュアは目にも止まらず早業で跳躍するとヒツジンたちの急所を斬りつけて行った。血しぶきを上げて動けなくヒツジン達。エステルたちはぼうぜんと人間離れしたヨシュアの動きを見つめていた。

 

(ほら、やっぱりドン引きしている……この力は忌むべき力だ……)

 

 しかしエステルから発せられた言葉は意外なものだった。

 

「ヨシュアってば、武器を隠し持ったまま温泉に入っていたわけ!?

「そっち!?」

 

 ヨシュアは半ば呆れた顔でツッコミを入れた。

 

「……あたしたち、家族なんだからヨシュアが自分で話したいと思うまで聞かないよ」

 

 エステルのその言葉は、温泉と同じく心にしみる温かさだとヨシュアは思うのだった。

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