アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第三十五話 ラッセル博士誘拐事件! 犯人は王室親衛隊!?

 

 ヒツジンの死体で汚れてしまった露天風呂は休業になり、エステルたちもマオ婆さんの掃除を手伝う事になった。

 

「わたし、エステルさんたちが羨ましいです。わたし、兄妹が居ないし、おじいちゃんは優しいけど歳が離れているし、お父さんとお母さんも居ないから」

 

 ティータがそうぶつやくと、アスカは聞き辛そうに尋ねた。

 

「あの……ティータのママとパパは……?」

「導力後進国へ行ってオーブメントの普及に尽力しているみたいです。もう何年も家に帰ってきてないんです」

 

 ティータから想像していた最悪の返答が帰って来なかったアスカは少しほっとした。しかしティータが寂しい思いをしているのは変わりない。

 

「中央工房のおじさんたちも優しくしてくれるんです。でもエステルさんたちを見ていると羨ましいなぁって……」

 

 ティータがそうつぶやくと、アスカは笑顔を浮かべて声を掛ける。

 

「良いアイディアがあるわ。アタシとエステルがティータのお姉さんになればいいのよ!」

「ボクとヨシュアはティータのお兄さんだね」

 

 シンジは穏やかな笑みを浮かべてそう言った。

 

「僕も反対はしないよ、ティータが嫌じゃなければ」

 

 ヨシュアの言葉を聞いたティータは嬉しそうに目を輝かせた。

 

「改めてよろしくね、ティータ」

 

 エステルは笑顔でそう言ってティータに手を差し伸べるのだった。その頃、旅館の本館の食堂ではフルーツ牛乳の空き瓶を山積みにしているドロシーの姿があった。

 

「エステルちゃんたち、遅いなあ……」

 

 風呂掃除を終えたエステルたちは、ドロシーと宿自慢の和食を食べて楽しんだ。食後は六人で人狼ゲームを楽しんだ後、再び温泉に入り、部屋に戻った後は百物語をして眠りに就くのだった。

 

 

 

 

 次の日の朝、エステルたちはマオ婆さんに見送られて旅館を後にした。ティータとエステルたちが仲良くなったのを感じ取ったマオ婆さんは嬉しそうだった。ドロシーはまだ眠っているのでそのまま寝かして置く事にした。

 そろそろラッセル博士の黒のオーブメントの切断も終わっているはず、そうすればヘッドセットの事やグノーシスの事も聞けるかもしれない。エステルたちは急いでツァイス市に戻る事にした。

 

「待って! わたしだけ置いて行くなんて、みんなひどいよ」

 

 息を切らせたドロシーが旅館の方からかけて来た。

 

「アンタ、記事用の写真を撮るからまだここに居るって言ってなかった?」

 

 アスカがそう言うと、ドロシーは考え込むような仕草をした後、

 

「まあいいや、仲間外れは嫌だし」

 

と言って笑顔になった。六人でツァイス市に戻る事になり、賑やかな道中になりそうだ。トラット平原道の途中で、長身のまるでクマのような東方風の服装の大男に出会った。

 

「よう、ちょっと道を聞きたいんだが、エルモっていう温泉地がどこにあるのか知っているか?」

「それならあたしたちが来た方よ」

「ここから街道沿いに行けばいいですよ」

 

 大男の質問にエステルとヨシュアが答えると、大男はお礼を言った。

 

「おや、もしかしてお前さんたち……」 

「アタシたちがどうしたのよ?」

 

 大男が黙ってエステルたちを見つめると、アスカが不思議そうな顔で尋ねた。

 

「いや、何でもない。それじゃあな」

 

 そう言うと大男は去って行った。

 

「ツァイスにはキリカさんやマオ婆さんと言い、東方風の人が多いわね」

「ヴォルフ砦の向こうはカルバード共和国だからね」

 

 エステルのつぶやきにヨシュアはそう答えた。

 

「でもあの大男、ただ者じゃなかったわね」

「鍛え抜かれた身体に無駄のない足の運び、達人の域に達しているかもしれない」

 

 アスカの意見にヨシュアも同意した。

 

 

 

 

 エステルたちがツァイス市に戻ると、街の中が騒がしかった。騒ぎの元は中央工房のようだった。エステルたちが中央工房の前まで来ると、中央工房の中から煙が噴き出しているのが分かった。

 中央工房の中に居る人々は命からがら外へと逃げ出していた。中央工房の前の広場では、マードック工房長が全員無事かどうか確認している。そこにエステルたちが駆け付けた。

 

「いったい何が起きているの!?」

「中央工房の建物内でガスが発生したらしい!」

 

 エステルの質問にマードック工房長はそう答えた。煙は地下から五階まで全体に充満しているらしい。火事ならば消火装置が作動するので、その心配はなさそうだ。しかし煙が出ている原因に全く心当たりがないのだとマードック工房長は話した。

 

「あの、工房長さん、おじいちゃんが居ないみたいですけど!」

 

 ティータは辺りにラッセル博士の姿が見当たらない事に気が付いて尋ねた。

 

「おや、ラッセル博士も一緒に出たものだと……」

 

 マードック工房長は他の職員にラッセル博士の行方を尋ねるが、みな首を横に振るばかり。

 

「と言う事は、まだ建物の中に残っていると言うのか!」

 

 マードック工房長は驚きの声を上げた。

 

「工房長さん、あたしたちがラッセル博士を助けに行くわ!」

「僕たちに任せてください」

 

 エステルとヨシュアは真剣な顔でマードック工房長に告げた。

 

「わたしにも行かせて……!」

 

 ティータが泣きそうな顔でエステルたちに懇願した。

 

「中央工房の事なら詳しいから……お姉ちゃんたちを案内するから……」

 

 ティータは真剣な眼差しでエステルたちを見つめた。

 

「ティータはアタシが守るわ。それで良いわね」

 

 アスカがそう言うと、エステルはうなずいた。

 

「でも、危なかったら外に出るんだよ」

 

 シンジは真剣な顔でティータに言うと、ティータはうなずいた。

 

「えっと、わたしもついて行ってもいいですか?」

「アンタバカァ!? ダメに決まってるじゃないの」

 

 ドロシーがそう言うと、アスカはキッパリと拒絶した。ラッセル博士が居るとしたら、黒のオーブメントの切断作業を行っていた三階の工作室だろうとマードック工房長は話した。

 

 

 

 

 エステルたちが中央工房の中に入ると、覚悟していたよりも息苦しくなかった事に気が付いた。ヨシュアは多分、攪乱用の煙幕ではないかと話した。となると、建物のどこかに発煙筒が置いてあるはずだとヨシュアは言った。

 

「何でそんなものが……」

 

 アスカは考え込むような顔をしてつぶやいた。その理由はヨシュアにも分からないが、発煙筒を止めれば煙は直ぐに消えるだろうとヨシュアは話した。

 

「おじいちゃん、研究に夢中になると周りが見えなくなっちゃうから逃げ遅れたんだと思う」

 

 ティータは困った顔でそう話した。エステルたちは発煙筒を探しながら、ラッセル博士の居ると思われる三階の工作室を目指す事にした。さっそく一階のロビーに発煙筒が一つ落ちていた。ヨシュアが手際良く発煙筒を解体すると、周囲の煙はスッキリと晴れた。

 

「おじいちゃん!」

 

 三階の工作室へと入ると、直ぐにティータはラッセル博士を呼んだ。しかし工作室にはラッセル博士の姿は無く、黒のオーブメントも持ち去られていた。うるさい丸ノコギリの音が部屋に響いているだけだ。

 

「博士が居なくなっているだけじゃなくて、黒のオーブメントも見当たらない。もしかしたら……」

 

 その先はティータに聞かせたくないと思ったヨシュアは言い淀んだ。とりあえずティータが丸ノコを止めていると、見覚えのある人物が部屋の中に入って来た。

 

「ふん、こんなところにいやがったか」

「アガットさん!」

 

 アガットの姿を見たシンジが驚きの声を上げた。

 

「騒ぎを聞きつけて駆け付けてみれば、お前たちがいるとはな。四人合わせて一人前のヒヨッコのくせに無茶が過ぎるんだよ」

「相変わらず腹の立つ言い方ね!」

 

 アガットの言葉を聞いたアスカは思いっきりアガットを睨みつけた。

 

「違うよアスカ、アガットさんはボクたちの事を心配してくれているんだよ、それを素直に言えないだけで……」

 

 シンジはアガットをフォローしているつもりが一言多い。

 

「お姉ちゃんたちのお知り合いですか?」

 

 不思議そうな顔でティータが尋ねた。ヨシュアはアガットを先輩遊撃士だと紹介した。アガットはティータの姿を見つけると、さらに凄い剣幕になって怒鳴る。

 

「おい、どうしてガキをこんなところへ連れてきやがった?」

「わたしがいけないんです、わたしのわがままで……」

 

 ティータは泣きそうな顔でアガットに向かって謝った。

 

「アンタバカァ!? 小さい女の子を脅してどうするのよ!」

 

 アスカがそう言うと、アガットは舌打ちしてティータから離れた。アガットに状況を聞かれたエステルたちはラッセル博士の姿が見当たらない事や黒のオーブメントが持ち去られた事、攪乱用の発煙筒が置かれていた事を話した。

 

「発煙筒か……あの黒装束の連中が絡んでいる可能性は高いな。よし、さっさとその博士を助けに行くぞ!」

 

 アガットの言葉にエステルたちはうなずいた。博士救出の前に、中央工房の中に逃げ遅れた人が残っていないか確認する事にしたエステルたちは、五階の演算室のドアが開け放しになっている事に気が付いた。廊下の先から誰かが話している声が聞こえる。

 

「最後の目的は確保した」

「よし、ならば脱出だ」

 

 廊下の突き当りにはエレベータがある。アガットを先頭にエステルたちが駆け付けると、エレベータの前には気絶したラッセル博士を運び込もうとする三人の黒装束の男たちの姿があった。

 

「手前ら!」

「おじいちゃん!」

 

 アガットとティータが声を上げると、黒装束の男たちもエステルたちに気が付いた。アガットが斬り掛かる前に黒装束の男たちはエレベータに乗り込んでしまった。黒装束の男たちが逃げるのならば恐らく一階からだろうと推測したエステルたちは非常階段を降りて追いかける!

 

「おお君たち、無事だったかね!」

 

 中央工房の正面玄関から出ると、マードック工房長たちがエステルたちの帰還を喜んだ。

 

「王室親衛隊の人たちが出て来たから、何かあったのかと思ったよ」

 

 マードック工房長の言葉を聞いたアガットは顔色を変えた。

 

「黒づくめの連中じゃなかったのか?」

「いや、そんなものは見ておらんよ。エア=レッテンの関所から駆け付けてくれたそうだ」

 

 マードック工房長はアガットの質問にそう答えた。

 

「カッコよかったから写真に撮っちゃった♪」

 

 ドロシーはニコニコ顔でそう言った。王室親衛隊と言えばルーアンでダルモア市長を逮捕したユリア中尉の部隊だ。

 

「その人たち、おじいちゃんを運んでいませんでしたか!?」

 

 ティータが必死の形相で尋ねると、マードック工房長は首を横に振って否定した。まさか今回の誘拐事件には王室親衛隊が絡んでいる?

 エステルたちには到底信じられない事だった。その王室親衛隊の隊員たちは中央工房で起きた事件の犯人を捜査するため街の方へと行ったのだとマードック工房長は話した。

 黒装束の男たちはラッセル博士と言う大きな荷物を抱えているため、目立つ上に素早くは動けないはず。エステルたちはツァイスの街中を探し回ったが、王室親衛隊も博士を誘拐した黒装束の男たちも見つけることが出来なかった。そして遊撃士協会から連絡を受けてヴァレリア湖の湖畔のレイストン要塞から王国軍の部隊が駆け付けて来た。

 

 

 

 

 工房長室で情報部の女性士官カノーネ大尉による事情聴取が行われた。マードック工房長の他に、エステルたちもカノーネ大尉から質問を受けた。話を聞き終えたカノーネ大尉は優しくマードック工房長を気遣うような声を掛けた。

 カノーネ大尉はこの事件をテロ事件だと話した。黒装束の男たちは演算室のスーパーコンピュータ、《カペル》の中枢ユニットまで奪って行ったのだと言った。

 

「なんて事だ……」

 

 マードック工房長はがっくりと肩を落としてそうつぶやいた。

 

「それで、王国軍はこれからどうするんだ?」

 

 アガットに尋ねられたカノーネ大尉は、ツァイス地方から出入りする関所に検問を敷いていると答えた。これで犯人一味がツァイス地方から逃げる事は不可能だとカノーネ大尉は話した。

 

「ずいぶんと手際が良いじゃない」

 

 アスカは感心したようにそうつぶやいた。有事に迅速な対応をするのが情報部だとカノーネ大尉は涼しい顔で言った。

 

「気になる事があるんですが、王室親衛隊が突然現れて、いつの間にか姿を消していた事をどうお考えですか?」

 

 ヨシュアが尋ねると、カノーネ大尉は笑みを浮かべて答える。

 

「王室親衛隊の動きは確かに怪しいですが、ラッセル博士を連れていなかったところをみると、誘拐犯と結びつけるのは早計ですわね。ふふ、共犯として何らかの役目をしていた可能性も否定できませんけど」

 

 そう言ったカノーネ大尉はドロシーの方を向いて、撮影したカメラを証拠品として軍に提出する事を求めた。

 

「身内をかばうわけではありませんが、王室親衛隊がもし犯罪に加担していたとなると、女王陛下の威光にも傷が付きます。この件については王室親衛隊が無実だと判るまで報道は控えてくださいね」

「仕方ありませんね……」

 

 そうつぶやいたドロシーは渋々と愛用のカメラをカノーネ大尉に渡した。

 

「それと申し訳ない話ですが、遊撃士の方々にはこれ以上の調査は控えるようにお願いしますわ」

 

 カノーネ大尉がそう言うと、アガットは真剣な表情で言い返した。

 

「それはできないな。あの黒装束のやつらは俺が前から追っている。軍の捜査の仕方ってのもあるんだろうが、今引き下がるわけには行かねえよ」

 

 アガットの言葉を聞いたカノーネ大尉は深いため息を吐き出した。

 

「止めても無理のようですね。それでは調査を続けてください。何か判ったらレイストン要塞の情報部に連絡してくれるようにお願いします」

「了解した。あんたたちの方も何か判ったら遊撃士協会に連絡してくれ」

 

 カノーネ大尉の言葉にアガットがそう答えると、カノーネ大尉はうなずいた後、御付きの王国軍の兵士と一緒に部屋を出て行った。エステルたちもマードック工房長にあいさつをすると、報告のために遊撃士協会に向かう事にした。

 

 

 

 

 外に出たエステルたちはドロシーと別れた。ドロシーはティータに元気を出すように励まして去って行った。アガットはそんなティータをじっと見つめていた。エステルたちが遊撃士協会に入ると、受付のキリカが良いタイミングで戻って来たと話した。カウンターでキリカと向かい合わせで話していたのはアルバ教授だった。エステルたちに気が付くと笑顔であいさつをした。

 

「アルバ教授は護衛の依頼で来たの?」

 

 アスカが尋ねると、キリカが深刻な表情で答えた。

 

「アルバ教授はラッセル博士誘拐犯の行方を教えてくれたのよ」

 

 キリカの言葉を聞いたエステルたちは驚いた顔になった。

 

「私が《紅蓮の塔》の調査をしているとですね、王国軍の兵士たちが中に入って来たんです。もしかして、私を連れ戻しに来たのかと思って隠れて様子を窺っていたんですが、誘拐とか強奪とか穏やかでない話を始めましてね。気がかりで塔を脱出した後遊撃士協会に通報に来たわけなんです」

 

 アルバ教授の話を聞いたヨシュアは、真剣な顔でアルバ教授に尋ねる。

 

「その兵士たちはどんな服を着ていましたか?」

「この街でたくさん見かけた普通の王国軍の兵士の服装でしたね」

 

 アルバ教授の答えを聞いたアガットは舌打ちした。

 

「ちぃっ、まんまと騙された!」

「どういう事?」

 

 エステルが不思議そうな顔で尋ねた。

 

「僕達が黒装束の男たちを追いかけて一階に着いた時、大きな荷物になるラッセル博士は中央工房の中に隠されていたんだよ。そしてレイストン要塞から王国軍の兵士たちがたくさんやって来て、僕達がカノーネ大尉に事情聴取を受けている間に、兵士に紛れ込んだ犯人の仲間が紅蓮の塔にラッセル博士を運んだんだ」

 

 ヨシュアは自分の推理を話した。ヨシュアの推理が正しければ、ラッセル博士を運んでいる犯人の仲間に《紅蓮の塔》に行く途中の街道で追い付けるかもしれない。

 

「よし、《紅蓮の塔》へ急ぐぞ!」

 

 アガットの言葉にエステルたちはうなずいた。

 

「お姉ちゃん、お願い、わたしも一緒に行きたい!」

 

 ティータがそう言うと、エステルたちは困った顔になった。

 

「こら、このガキ」

 

 アガットがそう言って凄むと、ティータは泣きそうな顔になった。

 

「連れて行けるわけないだろうが」

「でもでも、おじいちゃんがさらわれたのに、わたし、じっとしていられないよ!」

 

 ティータはそれでもアガットに食い下がった。

 

「ハッキリ言うとな……邪魔なんだよ」

 

 アガットにそう言われたティータは涙を流し始めてしまった。

 

「アンタねえ、もうちょっと言い方を考えなさい!」

 

 アスカが怒って抗議するが、さらにアガットは止めの一言を言い放つ。

 

「ガキの面倒なんて見ている余裕なんかねえんだよ」

「ひどい、ひどいよっ……」

 

 ついにティータは大泣きしてしまった。アスカがそんなティータの背中を抱いて優しく話し掛ける。

 

「お姉ちゃんたちが博士を助けてあげるから、待っててね」

「うん……」

 

 アスカが慰めると、ティータは落ち着いたようだった。

 

 

 

 

 紅蓮の塔の前に到着したエステルたちは、異様な静けさを感じていた。普段ならうろついている魔獣達の姿が見えないのだ。これだけでも怪しさを感じる。

 

「博士とあの黒装束のやつらがここに居る可能性が高いわね」

 

 そう言ってアスカは唾をゴクリと飲む。

 

「複数の足跡もあるし、間違いないよ」

 

 用心深く地面を調べていたヨシュアもそうつぶやいた。

 

「何か来るぞ、気を付けろ!」

 

 気配を察したアガットが武器を構えて注意を促した。塔の中から現れたのは、クローネ峠の関所でも、トラット平原でも遭遇した、首輪をした犬型魔獣の群れだった。しかし、十匹程度では今のエステルたちの敵ではない。

 

「試したい導力魔法があるんだ、敵を引き付けて集中させて!」

 

 シンジがそう言うと、エステルたちは上手く魔獣達を誘導した。

 

「エアロストーム!」

 

 シンジが詠唱したのは風属性Lv7、土属性Lv2の組み合わせで発動する風系最上級攻撃魔法のエアロストームだった。かなり強力なクオーツと、戦術オーブメントの配列を工夫しないと繰り出せない魔法だ。以前シェラザードが使っていたエアリアルより範囲も威力も大きい。

 

「アンタ、かなりやるようになったじゃない」

 

 アスカに褒められたシンジは照れくさそうに笑った。消費するEPも大きいので乱発は出来ないが、今回のように魔獣の群れを一網打尽にするのには役に立つ。シンジのお陰で相手の時間稼ぎも失敗に終わったようだ。

 

「何であの魔獣がここに?」

 

 エステルはその理由を考えてみた。

 

 ◆三択クイズ◆

 

 【単なる偶然?】

 【この塔に棲んでいる?】

 【黒装束の連中と関係がある?】

 

 ※遊撃士の資質を問うクイズです。

  正解するとBPが加算されるので挑戦してみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エステルが自分の考えを口にすると、アガットはエステルの意見に同意した。

 

「多分、やつらに訓練された戦闘用の魔獣だろうな。あの黒装束のやつらを調べ始めてから俺は何度もあの魔獣の群れの襲撃を受けた」

「それなら、クローネ峠の関所での襲撃の狙いはアガットさんだったんですか?

 

 アガットの話を聞いたシンジはそう尋ねた。すると、アガットは不機嫌そうな顔になってぼやいた。

 

「お前らの親父に押し付けられた仕事のお陰でいい迷惑だ、バーロー」

「どういう経緯で頼まれたんですか?」

 

 ヨシュアに尋ねられたアガットは、ボースでの空賊事件が起こる少し前にカシウスに頼まれたのだと言う。他に重要な仕事が舞い込んで来たとカシウスは話していたそうだ。

 

「もう今になっちゃあ、この仕事を他の誰にも任せる気はしねえけどな。さあ、おしゃべりはこのくらいにして行くぞ」

 

 エステルたちにはアガットがこの事件に熱を入れている理由は分からなかったが、塔の中に踏み込む事にした。

 

 

 

 

 《紅蓮の塔》の屋上まで登ったエステルたちは、黒装束の男たち六人がラッセル博士を連れて待機しているのを発見した。黒装束の男はエステルたちの姿を見て驚きの声を上げた。

 

「よくもまあアタシたちの捜査をかく乱してくれたわね。でも、誰も来ない場所だと思って油断したのが運の尽きよ!」

 

 アスカは棒を構えて黒装束の男たちにそう言い放った。

 

「あなたたちは袋のネズミだ。大人しく降参してラッセル博士を解放してもらいましょうか」

 

 ヨシュアもそう言って双剣を構えた。

 

「遊撃士協会規約に基づき、手前らを逮捕する」

 

 アガットもそう言って重剣を構えた。

 

「ボクたちから逃げられると思っていたら、甘いですよ」

 

 シンジは導力魔法の詠唱を始める。

 

「ふん、甘く見ているのは貴様たちの方だ」

 

 黒装束の男たちはエステルたちを迎撃した。ここにエステルたちと黒装束の男たちの戦闘が始まった。敵の側にラッセル博士が居るので、エアロストームのような範囲攻撃魔法は使えない。シンジが詠唱したのは『カオスブランド』と言う相手を混乱させてしまう魔法だ。混乱した相手は味方を攻撃するだけでなく、棒立ちのまま何もしない事もあるし、フラフラと真っすぐに歩けない。

 

「ぐぅ……遊撃士どもめ……」

 

 六人の黒装束の男たちは次々と地面に膝をついていた。

 

「だが、こちらには人質が居る」

 

 生き残った黒装束の男はラッセル博士に近づいて導力銃を頭に突き付けた。これでは下手に攻撃が出来ない。

 

「あんたたち、悪あがきが過ぎるわよ!」

 

 そう言ってエステルは怒鳴った。

 

「アンタたちの目的は生きているラッセル博士でしょう? 何をバカな事をしてるのよ!」

 

 アスカがそう言うと、黒装束の男は導力銃をしまってラッセル博士の腕に剣を近づける。

 

「腕の一本くらい、切り落としてやっても良いんだぞ?」

「面倒くせえな、いい加減にしろや!」

 

 アガットが大声で怒鳴る。

 

「王国軍もこの塔へ向かっています。あなたたちに逃げ場は無いですよ」

 

 シンジがそう言うと、黒装束の男は大笑いした。

 

「お前たちは本当に能天気な連中だな……時間は稼がせてもらった」

 

 轟音と共に王国軍の飛行艇が近づいて来た。しかし驚く事に王国軍の飛行艇はエステルたちに向かって機銃を撃って来たのだ。

 

「くそっ、やつらは王国軍の中にまで食い込んでいたのか!」

 

 アガットが悔しそうに舌打ちする。

 

「ふふ、王国軍など恐るるに足らずだ。ここでお前たちを皆殺しにしてやってもいいが、任務の内容には無い。動かなければ命だけは助けてやってもいいぞ」

 

黒装束の男がそう言うと、エステルは顔を真っ赤にして殴りかかろうとしたが、アガットが動こうとしないので思い止まった。これはエステルの直感とも言うべきものだった。

 アガットは敵を攻撃するタイミングを窺っている……敵の言う事に従うとみせて油断させておいて、黒装束の男たちがラッセル博士を飛行艇に運び込んで油断したところを狙うつもりだろう。

 黒装束の男たちが次々と飛行艇に乗り込む。最後の一人がラッセル博士を連れて飛行艇に乗り込むつもりなのだろう。その時を狙って攻撃を仕掛ける。エステルたちは悟られないように身動きせずにその瞬間を待った。

 

「い、いやぁぁぁぁっ!」

 

 少女の悲鳴と共に導力砲の砲弾が飛行艇の側面に当たって爆発した。装甲の厚い飛行艇には表面に焦げ跡をつける事ぐらいしか出来なかった。その爆発はアガットたちの注意を引くのには十分だった。

 

「おじいちゃんを返してーっ!」

 

 そう言ってティータは導力砲を乱射する。照準の定まっていない砲弾は様々な場所に着弾し焦げ跡を作った。

 

「このガキ、何しやがる!」

 

 導力銃を持った黒装束の男がティータに向かって発砲した! そのティータをとっさに抱き留めて庇ったのはアスカだった。銃弾がアスカの腕をかすめた。

 

「子供を撃つなんて、何てバカな事をする!」

 

 別の黒装束の男がそう叫んだ。

 

「すまない。船が落とされると思って、威嚇射撃をした」

 

 銃を撃った黒装束の男が言い訳した。

 

「まあいい、引き揚げるぞ」

 

 エステルたちがぼうぜんとする前で、黒装束の男はラッセル博士を担いで飛行艇に乗せてしまった。

 

「あ、待ちなさい!」

 

 飛び立とうとした飛行艇を見てエステルが声を掛けた。

 

「お、おじいちゃゃゃゃん!」

 

 飛行艇が空の彼方に飛び去った後、ティータの悲鳴が響き渡るのだった……。




 ◆三択クイズ◆ 答え

 【単なる偶然?】
 【この塔に棲んでいる?】
〇【黒装束の連中と関係がある?】
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