アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第三十六話 猛毒に倒れたアスカを救え! シンジは寝ているアスカに妄想!?

 

 ラッセル博士をさらった黒装束の一味の飛行艇が飛び去った後。すっかり夕方になった《紅蓮の塔》の屋上ではエステルたちとアガットが泣きじゃくるティータを前にして立っていた。

 

「ティータ……」

 

 エステルがティータを気遣うように声を掛ける。しかしここでずっと居るわけにもいかない。飛行艇の事をキリカに報告するためにツァイスの遊撃士協会へと戻る事にした。

 

「……おじいちゃん……どうして……」

 

 まだ泣き続けるティータのほおをアガットが叩いた。ティータはぼうぜんとしてアガットを見つめた。

 

「ちょっと、ティータに何するのよ!」

 

 エステルが抗議の声を上げた。

 

「お前は足手まといだから待っていろと言ったはずだぜ。爺さんを助けるタイミングを逃したのはお前が邪魔したせいだ」

 

 アガットがそう冷酷にそう告げると、ティータは泣きそうな顔のまま固まった。

 

「わたし……そんなつもりじゃなかったのに……」

 

 さらにアガットはティータに説教を続ける。

 

「さらに相手を挑発するような事をかまして、命を危険にさらすようなことをしやがって……お前みたいに力も無いのにしゃしゃり出るガキがこの世で一番ムカつくんだよ」

「ごめんなさい……う、うえーん」

 

 ティータは再び泣き始めた。

 

「いくら何でもひど過ぎよ! おじいちゃんがさらわれたティータの気持ちも考えなさいよ!」

 

 エステルはアガットに向かって怒鳴った。

 

「だから言っているんだ! おい、ガキ。お前、泣いているだけでいいのか? 爺さんを助けないでこのまま諦めるのか?」

「ううううっ……」

 

 ティータは泣きながら首を横に振った。

 

「それなら、腑抜けた態度を取らずにしっかりしろ。泣いてもいい、喚いてもいいからまずは自分の足で立ち上がれ」

 

 アガットがティータにそう諭すのを聞いて、シンジは自分の心が打たれる思いがした。自分がエヴァのパイロットの時、どうしてそう言ってくれる人がいなかったのだろう。

 

「自分の事も守れねえやつが、誰かを助けるなんざ出来るわけねえだろ?」

 

 アガットに言われたティータは泣くのを止めた。

 

「そんなんだから、俺は足手まといだと言ったんだ。ガキらしく、ベッドでメソメソ泣いていやがれ。俺は手前が居ない方が楽だからな」

「ティータ……」

 

 すっかり凹んでしまったティータをエステルは慰めるような視線で見つめた。アガットの言う事は正論で悔しいが言い返せない。

 

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。わたし、ひとりで立ち上がってみせるから……」

 

 ティータは涙を拭いてアガットを見つめた。

 

「ふん、少しは根性があるじゃねえか」

 

 アガットは感心したようにつぶやいた。

 

「わたしのせいであの人たちを逃がしちゃって、本当にごめんなさい」

 

 ティータは頭を下げてエステルたちに謝った。

 

「謝る事は無いよ、ティータが無事で本当に良かった」

 

 ヨシュアは笑顔でそう答えた。

 

「ありがとう、お姉ちゃんたち、お兄ちゃんたち」

 

 ティータの顔にも笑顔が戻った。

 

「アガットお兄ちゃん、わたしを励ましてくれてありがとう」

 

 ティータがアガットの事をお兄ちゃんと呼ぶと、アガットにしては珍しく顔を赤くして固まった。

 

「俺は別に励ましてなんかねえ、メソメソしているガキがウザったかっただけだ」

「あんたねえ、お礼は素直に受け取りなさいよ。アスカみたいにツンデレなんだから」

 

 エステルはそう言ってため息を吐き出した。シンジはツンデレと言う言葉をエステルに教えた事があるがちょっと本来の意味とは違うと心の中でツッコミを入れた。

 

「アガットさんはただの照れ隠しだよ」

「そっか、可愛いところあるじゃない♡」

 

ヨシュアとアスカはそう言って微笑んだ。

 

「アスカお姉ちゃんも、危ない所を助けてくれてありがとう」

「アンタが無事で良かったわ」

 

 ティータがお礼を言うとアスカも微笑み返した。

 

「撃たれたところは大丈夫なの?」

「肩をかすっただけみたいだけど、大したことないわ」

 

 シンジが心配そうな顔で尋ねると、アスカは笑顔で答えた。アスカの服の肩の部分が切り裂かれていた。

 

「よし、それじゃあ急いで遊撃士協会へと戻るぞ。考えたくはないが……軍の中にもやつらの協力者がいる事は確かだろう」

 

 アガットは真剣な顔でそう言い放った。

 

「うん……やって来たのは軍の警備艇だったもんね」

 

 エステルも引き締まった表情でそう話した。

 

 

 

 

 《紅蓮の塔》を脱出した直後、アスカが突然倒れた。

 

「どうしたの、アスカ!?」

 

 シンジが真っ青な顔でアスカに声を掛ける。

 

「もしかしてアスカお姉ちゃん、わたしをかばった時に……」

 

 ティータが泣きそうな顔で言った。

 

「アタシは大丈夫、このくらいなら歩けるわ」

 

 アスカは強がって立ち上がろうとすると、アガットが止めた。

 

「もし毒なら、身体を動かすと毒の廻りが早くなる。身体を揺らさないように運ぶんだ」

「僕がアスカを背負います」

 

 シンジはそう言ってアスカを助け起こして背負った。アスカは嫌な態度を見せずにシンジに従った。シンジは背中にアスカの柔らかい感触を感じたが照れている場合では無かった。

 アスカを気遣うように少しゆっくりと、トラット平原道をツァイス市に向かって歩いていると、エルモ村の途中で会った東方風の服装の大男だった。

 

「よお、あの時は道案内してくれてありがとうな」

 

 出会った時は笑顔だった大男だが、アスカの顔色を見ると表情を変えた。

 

「どうしたんだ、その子の顔色は!?」

 

 シンジに背負われたアスカの唇が真っ青になっていた。

 

「やっぱりあの黒装束の男が撃った銃の弾に、何か毒が仕込まれていたんだ」

「こんなの、解毒薬やキュリアの魔法で治っちゃうわよ……」

 

 アスカはそうつぶやくと目を閉じて気を失ってしまった。シンジたちも状態異常を直す導力魔法のキュリアや市販の解毒剤は試している。それも効かないほどアスカの受けた毒は強力なのだ。

 

「瞳孔が拡大しているな……これは植物性の神経毒かもしれん。このままでは危険だな」

 

 大男は医学の知識も持ち合わせているのか、アスカのまぶたを開いて真剣な顔でそうつぶやいた。大男の言葉を聞いたシンジの顔もアスカと同じくらい真っ青になった。

 

「アスカお姉ちゃん……! わたしのせいで……!」

 

 ティータがまた泣きそうな顔になった。

 

「とにかく治療できる場所に運ぶわよ、ティータちゃん、案内して!」

 

 エステルがティータに向かって叫んだ。ティータは中央工房の医務室ならば治療できるかもしれないと話した。

 

「よし、俺がその子を運ぼう。この通り身体は大きい。重い荷物運びなら楽なもんだ」

 

 大男がそう言うと、シンジはその申し出を拒絶した。

 

「アスカは重くなんてありません、ボクが運びます!」

 

 シンジの言葉には、自分以外にアスカを運ばせるものかと言う強い意思があった。

 

「そうか、では護衛は任せてくれ。どうやらお仲間のようだしな。俺はジン・ヴァセック、共和国のギルド所属の正遊撃士だ。よろしくな、リベールの遊撃士さんたち」

 

 大男は笑顔でそう言ってエステルたちに自己紹介をしたのだった。

 

 

 

 

 中央工房のエレベータは復旧していたので、シンジは何とかアスカを四階の医務室のベッドまで運ぶことが出来た。普段から貧乏くじを引かされるように重い荷物を持たされていたシンジだったが、こうして今になって役に立つとは思わなかった。

 医務室の主ミリアム博士によると、応急処置は施したが、かなり特殊な毒物でこの工房にある解毒剤でも毒の進行を遅らせる事しか出来ないようだ。このまま昏睡状態が続けば、アスカは二度と目を覚まさなくなるかもしれないらしい。

 

「お姉ちゃん……」

 

 ティータの涙は既に枯れ果てていた。シンジも沈痛な面持ちでベッドに横たわるアスカを見つめていた。そこへ遊撃士協会へと行っていたエステルとヨシュアがやって来た。キリカや王国軍に報告したから、何か分かった事があれば教えてくれると言う。

 

「あれ、ジンさんとアガットさんは?」

「二人ともキリカさんとは知り合いらしくて、いろいろ話があるみたいだったよ」

 

 シンジが不思議そうな顔で尋ねると、ヨシュアはそう答えた。

 

「やっぱり、正遊撃士だと世界を飛び回っているんだろうね」

 

 シンジは納得したようにそうつぶやいた。

 

「それで、アスカの容体はどうなの?」

 

 エステルが尋ねると、ティータが泣きそうな顔で黙り込む。それでアスカが危険な状態だと察したようだった。

 

「私たちの研究グループで毒の分析を進めているけど、高性能演算機《カペル》が奪われてしまった今では、効率は著しく落ちているわ。……でも、教会のビクセン教区長さんなら未知の毒に対する治療法を知っているかもしれない」

 

 ミリアム博士の言葉を聞いたエステルたちは、ロレントの街の教区長も薬学の研究をしていた事を思い出した。七耀教会は千年の歴史がある。その中には培われた知識もあるかもしれない。エステルたちは七耀教会に向かう事にした。

 

「ボクもついて行くよ!」

「シンジ、あんたはアスカの側に付いていてあげなさい」

 

 一緒に行こうとしたシンジをエステルが止めた。

 

「そうね、私もずっと付きっきりでアスカちゃんを見ているわけには行かないし、そうしてくれると助かるわ。シンジ君がアスカちゃんの手を握ってあげるだけでも、アスカちゃんの助けになるのよ」

 

 ミリアム博士の言う事は科学的ではない。しかし治療不可能だと思われた患者が人の想いによる奇跡によって回復した事例はいくつもある。

 

「あの、わたしは……?」

「付いて来て良いって、アガットさんは言っていたわよ」

 

 思ってもみないエステルの言葉に、ティータは目を丸くした。

 

「自分の手で失敗を取り戻す覚悟があるならね」

「はい、頑張ります!」

 

 ヨシュアの言葉にティータは力一杯そう答えた。エステルたちが出て行き、ミリアム博士も医務室を出ると、医務室はシンジとアスカの二人きりになった。シンジはまだ温もりを持っているアスカの手を優しく握った……。

 

 

 

 

 ツァイスの街へと出たエステルたちは教会が閉まる前にと急いで七耀教会へと行った。夜更けの訪問にビクセン教区長は不思議そうにどうしたのか尋ねた。

 

「あの、アスカお姉ちゃんを助けてあげてください!」

 

 開口一番そう叫んだティータに、ビクセン教区長と側に居たシスターは意味が分らず首をかしげた。

 

「ティータ、落ち着いて」

 

 エステルがティータにそう声を掛けた。代わりにヨシュアがアスカが毒に倒れた経緯と症状について説明した。ヨシュアの話を聞いたビクセン教区長は困った顔になった。神経毒全般に効果のある薬の製法が七耀教会に伝わっているらしいが、在庫も材料も無いのだと言う。

 

「そんなことって……」

 

 ティータが泣き出しそうな顔になった。

 

「その材料はどこへ行けば調達できますか?」

 

 しかしヨシュアは諦めずにビクセン教区長に尋ねた。

 

「ほとんどは街中で手に入るが、一つだけ厄介なものがある。『ゼムリア苔』という古代から生息してる苔だ。この周辺では、カルデア隧道にある鍾乳洞の中に生えているはずだ。以前、遊撃士協会に依頼して探してもらった事がある」

 

 ビクセン教区長の話を聞いたエステルたちは、ルーアンからツァイスに来る時に通ったトンネルの街道の事を思い返した。

 

「じゃあ、さっそく鍾乳洞に行って『ゼムリア苔』を採って来るわよ!」

 

 エステルがそう言うと、ビクセン教区長は遊撃士協会に以前ゼムリア苔を採取した時の記録が残っているから聞いてみると良いと話した。エステルたちはビクセン教区長の助言通り遊撃士協会へと向かう事にした。

 遊撃士協会へと報告に戻ったエステルたちは、中に居たキリカとジンとアガットにアスカの容体の事とビクセン教区長から聞いた『ゼムリア苔』の話を説明した。キリカの話によると、以前にも教会の依頼でゼムリア苔の採取が行われたのだと言う。

 キリカは背後の本棚からファイルを調べて、エステルたちにゼムリア苔は光を放つ特殊な苔で、カルデア鍾乳洞の北西、洞窟湖の近くで採取された事を話した。エステルたちは遊撃士手帳に忘れないようにメモを取る。

 

「ただし、鍾乳洞の魔獣はかなり手強いとの報告を受けているわ。正遊撃士四人で探索したそうよ」

「正遊撃士が四人!?」

 

 キリカの話を聞いたエステルは驚きの声を上げた。

 

「ふん、燃える話じゃねえか」

 

 アガットは不敵な笑みを浮かべてそう言った。

 

「ジン、あなたもついて行きなさい」

「俺もか!?」

 

 キリカに言われたジンは驚いて聞き返した。

 

「あら、最初から付き合うつもりでいたんでしょう?」

「あーっ、分かったぜ。相変わらずだなその性格は!」

 

 キリカが涼しい顔でそう言うと、ジンは頭をかきむしりながらそう答えた。キリカとジンのやり取りを見たエステルたちは苦笑いを浮かべた。

 

「正遊撃士が二人も来ていただけるなんて心強いです」

 

 ヨシュアは笑顔でお礼を言ったが、アガットはジンに向かって火花を飛ばしている。

 

「俺は手前には負けないからな!」

「受けて立とうじゃないか」

 

 ジンは悠然とした態度でアガットの視線を受け止めた。そしてアガットはティータに視線を移す。

 

「今度こそ、無茶はしねえって約束できるか?」

「はいっ!」

 

 ティータはアガットの目を見つめ返してしっかりとそう答えた。

 

「それならいい、それじゃあ行こうぜ」

 

 アガットは無意識のうちにティータの頭を撫でていた。頭を撫でられたティータはとても嬉しそうだった。

 

 

 

 

 エステルたちとミリアム博士が出て行った後、ベッドに横たわるアスカと二人きりになったシンジは初めは純真な気持ちでアスカの手を握って励ましていた。しかし、薄着で寝ているアスカの胸が上下に動く様子を見て、シンジはゴクリと息を飲んだ。

 エルモ村の温泉でほんの数秒だったけど真正面から見てしまったアスカの裸体……美術館の裸婦像に負けないぐらいの腰のくびれは美しかった。いつも胸当てで揺れを抑えている胸も、その時は柔らかそうに揺れていた。

 

「アスカの胸、柔らかそうだな……」

 

 シンジは二年以上前の事、とあるハプニングがあって、床に倒れたレイの胸を鷲掴みにしてしまった事があった。昨日ドロシーに胸を腕に押し付けられた感触も記憶に新しい。

 シンジはアスカの胸を触りたいと思ってしまった。しかしシンジは冷静さを取り戻し、アスカに向かって伸ばした手を引っ込めた。

 

「アスカ、ゴメン。本当に、ゴメン」

 

 シンジは無抵抗のアスカにとんでもない事をしてしまいそうになった罪悪感に駆られて謝り続けた。そうしているうちに、ミリアム博士が医務室へと戻って来た。真剣にアスカに謝り続けるシンジを見て、ミリアム博士は胸を痛めた。

 

「シンジ君、あなたのせいじゃないのよ。悪いのはその銃を撃った黒装束の男でしょう?」

「ありがとうございます……」

 

 ミリアム博士に元気付けられたシンジは申し訳ない気持ちでお礼を言った。

 

「あ、そうだ、シンジ君」

 

 急にミリアム博士に呼ばれたシンジは、アスカにした事がバレたと思ってギクリとした。

 

「研究室に置いてあった《グノーシス》も失くなっていたの」

「あの薬が?」

 

 ミリアム博士の言葉を聞いたシンジは驚きの声を上げた。

 

「演算機《カペル》には《グノーシス》と《黒のオーブメント》のデータが入っていたわ。だから黒装束たちに盗まれたのかもしれないわね」

「なるほど……」

 

 シンジはミリアム博士の言葉に納得したようにうなずいた。黒装束の男たちはどうやって《グノーシス》や《黒のオーブメント》が中央工房にある事を知ったのだろうとシンジの頭に疑問が浮かんだ。

 王国軍や王室親衛隊、中央工房の関係者、遊撃士協会にまでたくさんの黒装束のスパイが送り込まれているのだろうか。それとも、もっと身近に……?

 シンジは頭の中に浮かび上がった恐ろしい考えを首を振って払おうとするのだった。

 

 

 

 

 シンジとミリアム博士が医務室でアスカの看病をする一方で、エステルたちはカルデア鍾乳洞にたどり着いていた。エステルたちには神秘的な場所に思えた。しかし奥の方からは魔獣達の気配が漂って来る。ジンとアガットはどちらが多く魔獣を倒すか闘志を燃やしているようだ。ティータは少し怯えている。

 

「ティータ、怖かったら帰っても良いんだよ」

「ううん、大丈夫。早くアスカお姉ちゃんのために『ゼムリア苔』を探しに行こう?」

 

 エステルに声を掛けられたティータは笑顔でそう答えるのだった。鍾乳洞の中に住み着いていたのは、ペンギンのような姿をした魔獣だった。アスカとシンジが居たならば、ペンペンの事を思い出したかもしれない。しかし性格は獰猛な魔獣、くちばしで突いてきたり、魚を吐き出して遠距離攻撃を仕掛けて来るものまでいた。

 

「青ペングー、赤ペングー、桃ペングー、黄ペングー、緑ペングー、白ペングー、子供ペングー……種類が多すぎて、魔獣図鑑に登録するだけで一苦労だわ」

 

 エステルはそう言ってため息を吐き出した。魔獣図鑑の登録担当はヨシュアなので、実際に苦労するのはヨシュアなのだが。アガットの重剣の威力もかなりのものだが、ジンの格闘術も見劣りしない。ジンの拳の一撃を食らった魔獣は混乱を起こしてしまうほどだった。

 エステルたちは目的の洞窟湖にたどり着くと、光を放つと言うゼムリア苔を探し始めた。苔なのだから一面にもわっと生えているのかと想像していたが、岩にちょろちょろとこびりついているだけだった。

 取りつくしてゼムリア苔を根絶させてはいけない。エステルたちは必要な分だけ採集して洞窟湖を去ろうとした。しかしジンが異様な気配を察してエステルたちに注意を促した。

 

「何よ、アレ!?」

 

 洞窟湖の中から、巨大なペンギン型の魔獣が飛び上がってエステルたちの帰り道を塞いだ。どうやら自分の縄張りを荒らされて怒っているようだ。エステルたちはこれまで鍾乳洞でペンギン型魔獣をたくさん倒して来たのだから言い訳も出来ない。

 

「ふん、どうやらこいつが洞窟湖の主らしいな」

「だったら、どっちがこいつをやれるか勝負と行こうぜ」

 

 ジンとアガットは戦う気満々のようだ。主が声を上げると、鍾乳洞に居たペングー達も集まって来た!

 雑魚と戦うのはエステルとヨシュア、ティータの役目のようだ。ペングーの群れとの戦いでは、ティータのスモークカノンが活躍した。目潰しされたペングーは魚を吐き出してもエステルたちに当てるどころか、他のペングーに当ててしまう。

 ペングー達の主である王様ペングーはとにかくタフだった。ジンやアガットがどんなに攻撃を加えてもへこたれる気配が無い。ジンは全集中……ではなく、特殊な呼吸法を用いて、自分の身体能力を上昇させる《龍神功と言う戦技を使って戦いを続けた。

 群がるペングー達を倒した後は五人がかりで王様ペングーをフルボッコにして、何とかエステルたちは王様ペングーを倒すのだった。倒された王様ペングーは湖へと沈んで行った……。

 

「可愛かったけど、怖かった~」

 

 ティータはそんな感想を述べた。これ以上、鍾乳洞に長居は無用。エステルたちは街の教会へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 エステルたちが教会に駆け付けると、夜も遅いと言うのにビクセン教区長は快く解毒剤を調合してくれた。《アルヴの霊薬》と呼ばれる解毒剤を持って、エステルたちは中央工房の四階の医務室へと駆け付けた。

 

「先生、教区長さんからお薬をもらってきました!」

 

 笑顔でミリアム博士に報告するティータ。

 

「さすがはビクセン教区長ね!」

 

 ミリアム博士も感激した様子でエステルから《アルヴの霊薬》を受け取った。毒を無効化するのではなく、免疫力を高める薬だと聞いたミリアム博士は試してみる価値はあると話した。

 ミリアム博士がアスカに薬を飲ませるとアスカは苦しみ始めた。驚くエステルたちだったが、ミリアム博士によるとこれは薬が効き始めたからなのだと言う。痛みや苦しみを感じるのは身体機能が回復した証拠だと話した。

 教会の薬と似た性質を持つ漢方薬に精通しているジンもその事は解っているようだった。命の危機からは脱したが、丸一日くらいはアスカは苦しむ事になるとミリアム博士は話した。でも、完治はするはずだとミリアム博士は話した。

 夜遅くなったため、エステルたちは交替を取りながらアスカの看病をする事になった。それでもシンジはアスカの事が心配であまり寝付けないようだった。苦しむアスカは大量の汗をかいていた。

 

「ママ……ママ……」

 

 うなされるアスカは何度も母親に呼び掛けていた。その度にアスカの頭に着けられているヘッドセットが淡い光を放つ。それを見たシンジは、ヘッドセットは母親への呼び掛けに反応するのではないかと仮説を考えた。試しに自分もやってみたが、光らない。強い呼び掛けが必要なようだった。

 次の日の朝、王都に行くと言うジンを見送りに、エステルとヨシュアとアガットはツァイス空港に行った。ジンは王都で大事な用事があるのだと話した。その用事が無ければ自分もラッセル博士の誘拐事件の解決に協力したかったと話した。

 

「ごめんな、力になれなくて。それじゃ、機会があったらまた会おう。お前さんも後は頼んだぞ」

「ああ、任せておけ」

 

 ジンはそう言って定期飛行船の甲板へと乗り込んだ。アガットはジンの言葉にそう答えた。

 

「あ、そうだ。ジンさんっていつまでリベールに居るの?」

「はっきりとは分からないが……女王生誕祭の頃まで居ると思うぞ」

 

 エステルの質問にジンはそう答えた。

 

「それなら、また会えるかもしれないわね」

 

 エステルはジンに明るい笑顔を向けてそう言った。

 

「またよろしくお願いします」

 

 そう言ってヨシュアはジンに向かって爽やかな笑みを浮かべた。

 

「おう、よろしくな」

 

 ジンは二人に穏やかな笑顔で応えた。定期飛行船と空港を結ぶ橋が収納され、ジンを乗せた定期飛行船は飛び立って行った。アスカはまだ医務室で入院したままで、シンジとティータが側で看病をしている。エステルとヨシュアだけで遊撃士協会に新たな情報が入っていないか確認しに行く事にした。

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