アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第三十九話 謎のカヤバ博士登場! シンジはアスカにおっぱいダイブ!?

 

 擬装コンテナに隠れてレイストン要塞に侵入しようとしたエステルたち。しかし生体探知妨害器が上手く作動しなかったのか、コンテナに向けられた生体センサーが反応してしまう。怪しんだシード少佐はコンテナを即座に開けるように部下に命じた!

 このままエステルたちが見つかって潜入作戦は失敗に終わってしまうのか。コンテナの扉が開かれて中から姿を現したのは……ツァイス中央工房に住み着いている猫、アントワーヌだった。

 

「にゃーご」

「ああ、しばらくぶりだな」

 

 アントワーヌの鳴き声を聞いたシード少佐はポカンと驚いた顔で答えた。グスタフ整備長は頭をかきながらバツの悪そうな顔でシード少佐に話す。

 

「アントワーヌもシード少佐に会いたがっていると思いましてね、連れて来たんですが、コンテナの中に紛れ込んでしまったようです」

「それにしても、驚いたよ……」

 

 シード少佐は深い深いため息を吐き出した。

 

「みゃ~う」

「そうか、船の中で大人しくしているんだぞ」

 

 アントワーヌがそう鳴き声を上げると、シード少佐は頬を緩めてそう声を掛けた。

 

「にやゃゃあ~」

 

 鳴き声を上げたアントワーヌはライプニッツ号の中へと戻って行った。本当にアントワーヌは賢い猫だとシード少佐は思った。一件落着したところで、シード少佐は部下達に残りのコンテナを調べさせた。全てのコンテナの検査が終わり、《ライプニッツ号》がレイストン要塞を飛び去った後、シード少佐は部下たちに労いの言葉を掛けていた。

 シード少佐は部下達にコンテナの搬入は明日以降にするように指示し、兵舎に戻って休むように告げた。部下達が去って行った後、シード少佐は苦悩した顔で深いため息を吐き出した。自分から望んで今の任務をしているわけではないと言った感じだった。

 

「シード少佐、カノーネ大尉がお呼びです」

「分かった」

 

 男性兵士の言葉を聞いたシード少佐は、嫌そうな表情を浮かべながら発着場を去って行った。シード少佐の靴音が遠ざかり、辺りが静まり返ったのを確認してアガットは隠れていたコンテナから出て周囲を見回した。

 誰も居ない事を確認すると、エステルたちもコンテナの中から外に出た。窮屈なコンテナの中から解放されたエステルたちは大きく伸びをした。隣のコンテナから生体反応が出た時は心臓がのどから飛び出るほど驚いたと話すエステルに対して、アントワーヌをコンテナの中に入れたのはグスタフ整備長の策略だとヨシュアは気が付いていた。

 とりあえず潜入作戦の第一段階が成功したところで、エステルたちは次の行動を起こすためにキリカから渡されたレイストン要塞の地図を確認する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 アガットは地図の右下の飛行船発着場を指差して、現在地を確認した。レイストン要塞の中をしらみつぶしに探している余裕は無い。アガットはエステルたちに、ラッセル博士が捕まっている場所を地図から指し示してみろと言った。

 

 ◆五択クイズ◆

 

 Q.ラッセル博士が監禁されている場所は?

 

 【兵舎】

 

 【司令部】

 

 【研究棟】

 

 【監視塔】

 

 【武器庫】

 

 

 

 ※遊撃士としての洞察力が試されるクイズです。

  正解すればボーナスBPがもらえるので挑戦してみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エステルたち四人は一斉に地図の同じ一点を指差した。アガットは感心したように息を漏らした。どうやら正解できたようだ。

 

「おじいちゃんは、研究棟で何かをさせられているって事ですか!?」

 

 ティータの言葉にアガットはうなずいた。

 

「そんなに時間も無い、まずは研究棟を調べてみるぞ」

「博士を救出した後、どうやって要塞を脱出するんですか?」

 

 シンジが不安そうな顔でアガットに尋ねた。南の正面ゲートから出られるとはとても思えない。潜入する事で頭がいっぱいだったシンジは今となってその事に気が付いて強い不安を覚えたのだ。

 

「軍の警備艇を一隻かっぱらうって言うのはどう?」

 

 エステルが腕まくりをしてそう言うと、ヨシュアは首を横に振る。

 

「僕達には警備艇の操縦なんて出来ないよ」

 

 腕組みをして地図を見て考えていたアガットは、船着場を指差した。

 

「ボートの操縦くらいなら何とかなるだろう。爺さんを助け出したら船を奪ってここから逃げるぞ」

 

 アガットの意見にエステルたちはうなずいて賛成の意を示した。方針が固まったところでエステルたちは研究棟を目指して行動を開始する。巡回する兵士や警備用の魔獣との戦闘は極力避けなければならない。遊撃士は王国軍と対立する立場では無いからだ。

 発着場から出たエステルたちは中庭を通って研究棟へと向かう。潜入作戦で役に立ったのが戦術オーブメントの《鷹目》のクオーツと、《幻朧》のクオーツだった。

 《鷹目》のクオーツは七耀石を主食としている魔獣や、七耀石を使ったオーブメント銃を装備している兵士の居る方向を赤い矢印で示してくれるレーダーだ。

 《幻朧》のクオーツは人が発する臭いや足音を軽減してくれるので敵に見つかりにくくなる。さすがに透明人間にはしてくれないので、相手の視野に入ったらバレる。

 夜が更けた中庭にはエステルたちがこれまでに遭遇した犬型魔獣がうろついていたが、この二つのクオーツの助けもあって魔獣のスキを狙って移動し、見つからずに研究棟の近くまでたどり着くことが出来た。

 

 

 

 

 研究棟の入口の扉の両脇には黒装束の兵士が二人で立っていた。ここで黒装束の兵士と戦えば要塞の中に居る兵士たちが駆け付けて来てしまう。エステルたちは他に研究棟の建物の中に侵入できる経路が無いか探してみる事にした。

 壁伝いに建物の周りを調べると、鉄格子がはめられている窓が見つかった。ここから中に入れないものかとエステルが提案すると、物音を立てずに鉄格子を外すのは難しいとヨシュアは反対した。

 しかし窓から研究室の中の様子を覗き見ることは出来た。研究室の中にはオーブメント機械が乱立しており、部屋の中心には数字やグラフが書かれたレポート用紙が置かれた大きな机。

 そしてその大きな机を挟んで向かい合っている二人の白衣の博士とリシャール大佐とカノーネ大尉。白衣の博士のうち片方は若い日本人男性、もう片方は……エステルたちが救出のターゲットとしているラッセル博士だった。

 

「ラッセル博士、カヤバ博士。この《黒のオーブメント》の制御方法を突き止めてくださりありがとうございます。情報部一同感謝していますよ」

 

 リシャール大佐がそう言うと、ラッセル博士はふてくされた表情で言い返す。

 

「ふん、このカヤバと言う若造が居ればいずれ《黒のオーブメント》は解明出来たじゃろう。なぜワシまで巻き込む必要がある?」

「ラッセル博士、あなたにはこの《黒のオーブメント》の事を口外させるわけにはいかなかった。特にカシウス大佐に《黒のオーブメント》が渡っていたらとんでもない事になっていましたからね」

 

 リシャール大佐の言葉を聞いたラッセル博士は大声で怒鳴る。

 

「お前さんもカシウスの部下だったのじゃろう! その《黒のオーブメント》を使って何を企んでおる!」

「ふふふ、もうカシウス・ブライトが来ても手遅れです。この《福音計画》は止められない」

 

 リシャール大佐はしばらく高笑いをした後、余裕たっぷりの表情でラッセル博士を見つめた。

 

「全てが終わったら、あなたを解放させて差し上げますよ。それまでは大人しくして頂きたい」

「あなたの大切なお孫さんの命が惜しければ、反抗的な態度はとらない事ですわ」

「おのれ小娘、またそうやってワシを脅かしおって!」

 

 ラッセル博士はそう言ってカノーネ大尉をにらみつけた。

 

「ラッセル博士、我々は憂国の士です。この国のための事を思って行動している事をお忘れなく」

 

 リシャール大佐がそう言っても、ラッセル博士の不機嫌そうな顔は直らない。研究室に赤い線の入った兜を被った黒装束の連中の隊長が入って来て、リシャール大佐に報告があると話した。

 王都グランセルで《白き翼》が罠にかかったのだと赤兜の隊長が話すと、リシャール大佐は陰湿な笑みを浮かべた。これでチェックメイトだとリシャール大佐はつぶやいた。

 リシャール大佐はシード少佐を呼ぶと、ラッセル博士とカヤバ博士の身の回り世話を任せると言って、ラッセル博士に挨拶をしてカノーネ大尉と赤兜の隊長と一緒に研究室を出て行った。

 研究室に残ったのはラッセル博士とカヤバ博士、シード少佐の三人。ラッセル博士はあきれた顔でずっと黙っていたカヤバ博士に声を掛ける。

 

「お主、明らかに手を抜いておるな。おかげでワシが要らぬ苦労をさせられる事になっておるわい」

「私は何も持たぬままこの世界へと召喚された身。役目を終えて追い出されては、明日の食事に困り果ててしまいます」

 

 カヤバ博士の答えにラッセル博士は全然納得していない様子だった。シード少佐がラッセル博士に声を掛ける。

 

「何かご入用の際は私に声をお掛けください。博士は今、とある組織に誘拐されている事になっています。それを踏まえた上で承知して頂けるのであれば、お孫さんに手紙を書く事も出来ますよ」

「バッカモーン! 早くワシの前から消えろ!」

 

 シード少佐は頭を下げて研究室から出て行った。

 

 

 

 

 窓の外から一部始終を見聞きしていたエステルたちは、リシャール大佐が一連の事件の黒幕だと知って、少なからずショックを受けていた。さらに黒装束の連中とも繋がりがある事にアガットは腹を立てていた。

 研究棟から出て来たリシャール大佐たちは、停められていた軍の警備艇とは違う形の特殊な小型飛行艇に乗り込んだ。これが黒装束の連中の組織の飛行艇なのだろう。黒装束の連中は研究棟の入口に貼り付いている二人を除いて全員飛行艇に乗り込んで飛び立って行った。

 周囲から人の気配が無くなった今なら入口に居る見張りの兵士を倒して侵入することが出来る。速攻で決着をつける事にしたエステルたちは、建物の死角から見張りの兵士二人に奇襲をかける事にした。

 

「はあ、王都では大規模な作戦があるって言うのに、俺たちはこんなところで博士のお守りかよ」

「そうぼやくな、リシャール大佐の手足となって任務を遂行するのが俺達《特務兵》の使命だぞ」

 

 黒装束の連中二人が話していると、エステルたちが飛び出して突っ込んで来た。

 

「お前は、アガット・クロスナー!」

 

 特務兵の男はアガットを見て驚きの声を上げた。

 

「俺から逃げ回っていた連中だな。ここで年貢の納め時ってやつだ!」

 

 リベール王国最強クラス兵士であろう特務兵も、正遊撃士のアガットも加わったエステルたち六人の敵では無かった。戦技や導力魔法を使うまでも無い。

 

「ざまあみやがれ!」

 

 地面に倒れ伏して気絶した特務兵の二人を見下してアガットはそうつぶやいた。

 

「個人的な恨みがありまくりね」

 

 アスカはバカにしたような視線をアガットに送ってため息を吐き出した。ここからは時間の勝負、エステルたちはラッセル博士の居る研究棟へ突入した。

 

「お、おじいちゃん……」

「ティータ!? 何故ここに!? ワシは夢でもみているのか?」

 

 目の前に現れたティータに、ラッセル博士は心の底から驚いているようだ。

 

「おじいちゃゃゃゃん! よかったぁ……無事でぇ……」

 

 ティータは嬉し涙を流しながらラッセル博士に飛び付いた。すると乾いた拍手の音が部屋に響いた。

 

「いやはや、感動の再会と言ったところかな」

 

 拍手の主はもう一人部屋に居た白衣を着た博士だった。シンジとアスカが近くに寄って見ても、やはり日本人の男性のように見える。

 

「アンタ、何者よ!」

「この世界ではカヤバと名乗っている。生憎とアバター作成の時間が無かったのでね、この姿で存在しているわけさ」

 

 アスカの人差し指を突き付けて詰問すると、カヤバ博士は涼しい顔で白衣のポケットに手を突っ込みながら答えた。

 

「もしかして、ボク達と同じようにこの世界に召喚されたんですか? それなら一緒に逃げましょう!」

「いや、私はここに残る」

 

 シンジの言葉に、カヤバ博士は首を横に振った。

 

「そいつは進んであいつらの研究に協力している変わり者じゃ」

 

 ラッセル博士はそう吐き捨てるように言った。

 

「それなら爺さん、こんなやつは放っておいてとっとと脱出するぜ」

「おう、よろしく頼むぞ、ニワトリ頭」

 

 アガットに声を掛けられたラッセル博士はそう答えた。

 

「何だと、このジジイ!?」

「あうう……アガットさん、ごめんなさい」

 

 ティータが小さな体でアガットを押し留めて謝った。エステルたちは、このまま研究室に置いたままではリシャール大佐たちに悪用されてしまうと、奪われた《カペル》の中枢ユニットを回収した。

 

「これはゲームであっても、遊びではない。アニメじゃない、本当のことさ」

 

 カヤバ博士の謎の言葉に送られて、エステルたちは研究棟を出るのだった。

 

 

 

 

 エステルたちが研究棟の敷地内から出ると、レイストン要塞の中に警報が鳴り響いた。カヤバ博士が通報したのだろうか、それとも気絶していた特務兵が意識を取り戻したのか。

 シード少佐は兵士たちを集め、飛行船発着場と船着場の警戒を強める事を指示した。残る兵士達には侵入者が隠れそうな建物を捜索させた。研究棟にも直ぐに兵士達がやって来るだろう。

 飛行船発着場や船着場から脱出する道は完全に絶たれた。エステルたちは兵士達が巡回する中庭を抜けて新たな脱出ルートを探さなくてはならなくなった。中庭からは犬型魔獣の姿は消えて王国軍兵士が巡回している。徹底的に戦闘を避けなければならなくなった。

 王国軍の兵士たちも考えたもので、《鷹目》のクオーツに反応しないように導力オーブメント製の装備を外していた。エステルたちはなるべく壁沿いを歩き、隠れるために入り込んだ建物は……レイストン要塞の司令部だった。

 

「アンタバカァ!? なんでよりによって敵の中心部の建物に入るのよ!」

「仕方ないだろう、壁沿いに進んで見つけた建物なんだから」

 

 アスカになじられたシンジはそう反論した。しかし灯台下暗しと言うべきか、司令部の建物は人が出払ってしまい、廊下に人の気配は無かった。部屋の扉にも鍵が掛かっていて人の居る様子は無い。

 司令部の廊下の奥には、地下に通じる階段があった。もう引き返す事の出来ないエステルたちは階段を降りて行った。どうやら司令部の地下には牢屋があるようだ。

 

「あーっ、お前はノーテンキ遊撃士!」

 

 エステルたちが入口に近い牢屋の前を通りかかると、あの空賊娘のジョゼットが驚きの声を上げた。同じ牢屋の中にはジョゼットの兄であるキールとドルンたちの姿もあった。

 

「あんたたち、ここに捕まっていたんだ。元気そうで良かった」

「ちっとも良くないよ!」

 

 エステルが笑顔で声を掛けると、ジョゼットは怒鳴り返した。

 

「おい、こいつらはお前らの知り合いか?」

「カプア一家。定期飛行船襲撃事件の犯人達です」

 

 アガットに尋ねられたヨシュアはそう言ってジョゼットたちを紹介した。他の牢屋を見回すと、ルーアン市で捕まったダルモア市長や秘書ギルバードの姿もあった。この辺りの牢屋に居るのはリシャール大佐の情報部が捕まえたとされる犯人達ばかり。情報部の評判を高めるために利用されたとも考えられる。

 地下牢の先は行き止まりで脱出ルートは無さそうだった。地下牢の中に脱出ルートなどあるはずも無い。

 

「邪魔したわね。じゃあ、アンタたちもせいぜい反省しなさいよ」

 

 アスカはそう言って階段をスタスタと昇って行った。エステルたちもジョゼットたちに手を振って後をついて行く。

 

「こらー、俺達も出しやがれー!」

 

 ドルンたちの大声が地下牢に響くのだった。

 

 

 

 

 エステルたちが司令部の外に出ようとすると、王国軍の兵士たちの声が近づいて来るのが分かった。兵士たちは兵舎も武器庫も研究棟も監視塔も調べ終えて、司令部のシード少佐に報告に向かうところらしい。

 そんな袋のネズミとなってしまったエステルたちに声を掛けて来たのはシード少佐だった。

 

「捕まりたくはないだろう? こっちへ来るんだ!」

 

 シード少佐の罠だとも考えられるが、どっちみちここに居ても見つかってしまう。エステルたちはダメで元々でシード少佐の後へとついて行った。シード少佐は廊下の突き当りの部屋へと入った。

 エステルたちも続いて部屋の中へと入る。エステルたちが部屋に入ったのを確認すると、シード少佐は入口のドアの鍵を閉めた。

 

「どういうつもりじゃ、リシャール大佐にワシを監禁するように命令されていたのではないか?」

 

 ラッセル博士がそう尋ねると、シード少佐は頭を下げながら話し始めた。

 

「残念な事に、王国軍の幹部達は大佐の情報部によって弱みを握られて逆らえない状況となっております。私も猫しか愛せない男だと暴露されて欲しくなければ命令に従えとカノーネ大尉から圧力を受けています」

 

 王国軍の実力者であるモルガン将軍も、孫娘の命を人質に取られて国境のハーケン門から動けないで居るとシード少佐は話した。リシャール大佐は情報部を創設すると、王国軍の将校や大きな民間企業の弱みとなる情報を集め、気が付いた時には逆らえない状態にまでなってしまったのだと言う。今、王国軍の実質的トップはリシャール大佐となっているようだ。

 

「アリシア女王はどうしたんだ? 最終的に軍の権力は王家に帰属する事になっているだろう?」

「不可解な事に、女王陛下はリシャール大佐のする事に沈黙を保っておられる」

 

 アガットに尋ねられたシード少佐は悔しさをにじませながらそう言った。

 

「女王陛下の直属の部隊である王室親衛隊も、国家反逆罪で追われている……」

「ええっ、あのユリアさんたちが!?」

 

 シード少佐の話を聞いたエステルは驚きの声を上げた。中央工房のテロ事件の犯人は親衛隊だと公式発表したらしい。多分、没収したドロシーの撮った写真のうち、足元の写っていない親衛隊の服だけが映し出されている写真を《リベール通信》に送ったのだろう。

 

「そんなのおかしいです!」

 

 ティータの怒りの言葉はシード少佐の胸に重く突き刺さったようだ。

 

「上官の命令は絶対だが……間違った上官を止めるのも部下の務めだった。それが出来なかった罪滅ぼしをさせて欲しい」

 

 シード少佐は顔を上げてエステルたちを真剣な表情で見つめた。

 

「それで、騒ぎが治まるまでアタシたちをこの部屋に匿ってくれるって言うの?」

 

 アスカが尋ねると、シード少佐は軽く首を横に振った。

 

「いや、君達にはこの部屋から要塞を脱出して欲しい」

 

 シード少佐はそう言うと、隠し通路のドアを開けた。

 

「ここから要塞の裏にある水路に出られる。ボートも用意してあるから、それで脱出出来るはずだ」

「こんな隠し通路、軍事機密じゃないんですか?」

 

 シンジが尋ねると、シード少佐は乾いた声で笑う。

 

「本来ならば軍法会議ものだが……女神エイドス様は許してくれるだろう」

「まあ、そういうことなら遠慮なく使わせてもらうぜ」

 

 アガットは自分が最初に通路を降りて安全を確認し、次にティータとラッセル博士、最後にエステルたちに降りてくるように指示した。

 

「ありがとう、シードさん」

「例には及ばないよ。カシウス大佐には大きな恩があるからね」

 

 エステルがお礼を言うと、シード少佐はそう答えた。

 

「えーっ、父さんってそんなに偉かったの?」

 

 シード少佐の言葉を聞いたエステルが驚きの声を上げた。

 

「十年前の百日戦役の陰の功労者、カシウス大佐。その子供たちに恩返しが出来て嬉しいよ」

 

 そこまでシード少佐が話すと、兵士達がドアをノックする音が聞こえた。どうやらグズグズしている時間は無さそうだ。エステルたちは素早く隠し通路へと飛び込み、シード少佐は隠し通路の入口を閉じた。

 

 

 

 

「きゃあああああっ!」

 

 隠し通路に飛び込んだエステルたちは悲鳴を上げた。なんと隠し通路は滑り台のようになっていたのだった。エステルとヨシュアは運動神経の良さを生かして素早く身を翻して着地に成功した。

 着地に失敗したシンジは息苦しさを感じた。何かに顔が圧迫されている。

 

「いつまでアタシの胸の上に顔を乗っけているのよ、バカシンジ!」

 

 アスカの平手打ちがシンジに炸裂した。シンジはアスカにおっぱいダイブしてしまったのだ。ツァイス地方に来てからシンジからスケベな事をされるのが多くなった気がするとアスカは思った。アガットたちの姿が見当たらないと言う事は先に行ったのだろう。早く自分たちも追いつかなくては。

 

「遅えぞ、いったい何をやってたんだ!」

「シンジがアタシにスケベな事してたのよ」

 

 アガットに怒鳴られたアスカはしれっとした顔でそう答えた。ティータは顔を真っ赤にしてどんな事をしたのか聞きたがっていたが、そんな暇はない。エステルたちを乗せるとアガットは直ぐにボートを発進させた。

 ボートに乗ったエステルたちは、何とか要塞の正面ゲートの向こう側の岸へと上陸できた。しかし安心しては居られない。しばらくすれば捜索部隊の手がこちらにも伸びて来るだろう。

 ツァイスの街にラッセル博士とティータを連れて戻るわけにも行かない。これからツァイス地方に居る限りラッセル博士とティータへの追跡の手は緩まないだろう。そこでアガットは二手に別れると言う提案をした。

 アガットはこのボートでヴァレリア湖を横断して、ラッセル博士とティータをボース地方で匿うと話した。

 

「ボース地方は俺の生まれ故郷だし、土地勘もある。まあ、馴染のやつらも居るから協力者にも事欠かないしな」

「でも、それならアタシたちも一緒に行った方が……」

 

 ティータの事を実の妹の様に思い始めたアスカにとって、ティータと離れる事は辛い事なのだろう。シンジもアスカに加勢しようと思ったが、先に口を開いたのはヨシュアだった。

 

「逃亡潜伏の基本からすると、一緒に行動する人数が多くなると、それだけ隠れるのが難しくなる。だから七人全員で集まって行動するわけにはいかないんだ」

「アスカの気持ちは分かるけど……ここはアガットの言う通りにしよう?」

 

 エステルにまで説得されたアスカは、目に涙を浮かべていた。

 

「理屈では分かってる、でも納得が行かないのよ!」

「それならば、遊撃士としてワシの依頼を引き受けてはくれないか?」

 

 ラッセル博士がそう言うと、アスカは顔を上げてラッセル博士を見つめた。ラッセル博士の依頼とは、王都に居るアリシア女王に会ってリシャール大佐があの《黒のオーブメント》を使って《導力停止現象》を引き起こし、良くない事を企んでいると伝えて欲しいと言うものだった。

 リシャール大佐が《導力停止現象》を起こす目的については、アリシア女王が事情を知っているのだとラッセル博士は話した。遊撃士の依頼とあっては引き受けないわけにはいかない。アスカはティータと別れる事を受け入れた。

 

「アスカお姉ちゃん、一緒にポンプ装置を修理してくれてありがとう。おじいちゃんを助けてくれてありがとう。本当のお姉ちゃんみたいに仲良くしてくれて、ありがとう」

 

 ティータはそう言ってアスカに向かって泣き付いた。アガットはそんな二人を見てため息を吐き出した。

 

「名残惜しいようだが、そろそろ時間だ。涙なんてまた会った時に取っておけばいいだろう」

 

 アガットとティータとラッセル博士は再びボートへと乗り込み、エステルたちに向かって手を振った。やがてボートは暗い夜の湖へと消えて行った。エステルたちも早くツァイスの街の遊撃士協会へと戻らなければならない。キリカがエステルたちの報告を首を長くして待っているはずだ。

 おそらくキリカはこうなる事を先読みしてツァイス支部の推薦状を用意してくれているだろう。そうすればエステルたちは王都グランセルと行ける。エステルたちはティータとの別れを体験した。

 しかし、それ以上の大きな別れが王都グランセルで待っている事を、エステルたちは知る由も無かった。




 ◆五択クイズ◆ 答え

 Q.ラッセル博士が監禁されている場所は?

 【兵舎】

 【司令部】

〇【研究棟】

 【監視塔】

 【武器庫】



※pixiv転載の際には『アニメじゃない、本当のことさ』を削除(作者用の覚書です)
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