アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~ 作:朝陽晴空
第四十話 ツァイス脱出! いざ王都へ! 関所を突破せよ! かわいい遊撃士アネラスにアスカはジェラシー!?
1
エステルたちが夜のレイストン要塞に潜入していた頃。王室親衛隊の隊長ユリアとクローゼは黒装束の兵士たち……いわゆる特務兵たちから逃げ回って居た。二人は王都郊外にあるエルベ周遊道から何とか抜け出す事が出来たが、他の親衛隊の隊員達とははぐれてしまった。
「ここまで逃げられたのは良いですが、これからどうしましょう?」
「キルシェ街道を進んで、王都の遊撃士協会へと向かってください。今のあなたの姿ならば、気付く者も居ないでしょう」
クローゼが尋ねると、ユリア中尉はそう答えた。そのユリア中尉の言い方に、クローゼは顔色を変える。
「私はここで追っ手を食い止めます、一刻も早く遊撃士協会へ!」
ユリア中尉はクローゼに向かってそう叫んだ。王室親衛隊のみんなは自分を逃がすためにここまで力を尽くしてくれている。自分が特務兵に捕まってしまってはアリシア女王ですらリシャール大佐を止める事が出来なくなってしまう。
決意を固めたクローゼは、シロハヤブサのジークと共に夜の街道に消えて行った。そして今まで逃げて来たエルベ周遊道の方から特務兵と犬型魔獣の一団がやって来る。
「特務兵が六人と……犬共が十匹か。その程度で私を仕留められるとは思うなよ」
ユリア中尉はそうつぶやいて剣を構えた。
「ユリア・シュバルツ、参る!」
そう言ってユリア中尉は追っ手の一団に突っ込んで行った。そしてその頃……街道を走っていたクローゼは振り返る事無く、ただひたすらに駆けていた。激しい雨が降り出し、濡れた身体が容赦無くクローゼの体力を奪う。それでもクローゼは息を切らしながら走っていた。
「シンジさん達もそろそろ王都に来てくれていると良いけど……」
クローゼは再会への期待に胸を膨らませながら、王都への道を急いだ。遊撃士協会で待っていれば、きっとシンジたちが来てくれる。しかしクローゼの淡い期待は闇夜に響く漆黒の飛行艇の轟音によって打ち砕かれた。
「情報部の特務艇……!」
王都への道を塞ぐように着陸した飛行艇を見て、クローゼの表情は引き締まった。夜の街道は人気がほとんどないとは言え、今まで隠密行動に徹していた特務兵が堂々と街道に姿を現すとは、クローゼにとってショックな出来事だった。
飛行艇からは特務兵がぞろぞろと出て来てクローゼを取り囲んだ。逃げようとして背後を振り返ったクローゼは、赤兜の隊長が立ち塞がっている事に気が付いた。平の特務兵ならともかく、この男からは逃げられそうにないとクローゼは悟った。
「やあ、また会ったね、クローゼ君」
飛行艇からリシャール大佐が降りて来て声を掛けた。
「王都の周囲にテロリストが潜伏していると言う情報があってね。夜間に外を出歩いている人には例外なく話を聞く事にしているんだ」
何を白々しい事を言っている、とクローゼはリシャール大佐を睨みつけた。しかしクローゼに出来る抵抗はそこまでだった。クローゼは押し込まれるように飛行艇へと乗せられるのだった……。
2
暗い雨が降りしきる王都グランセル東部にある《エレボニア帝国大使館》。その一室で外を眺めながら、雨雲に隠れて月が見えない事を嘆く金髪の若者が一人。エステルたちがボースで出会ったオリビエだった。
「リベールでも相変わらずやらかしてくれているようだな」
ノックもせずに部屋に入って来た長身の男性は、生真面目な表情でオリビエにそう声を掛けた。
「おお我が友ミュラーよ、わざわざ帝国から駆け付けて来てくれたのかい!」
ミュラーの姿を見たオリビエは笑顔で声を掛けた。
「何を抜け抜けと。貴様が目的を果たした後も帝国に戻らずリベールをフラフラしているからだろうが。迎えに来るのも一苦労だったぞ」
ミュラーがそう言うと、オリビエはさらにおどけた口調になった。
「嫌だ嫌だ、これから面白くなるところなのに帝国になんか帰りたくない!」
オリビエの言葉を聞いたミュラーは深いため息を吐き出した。
「そう言うと思って、俺が直接来たんだ……」
「ボクに会いたくてたまらなかったから来たくせに」
「このまま帝国に帰っても良いんだぞ」
ミュラーは低い声でそう言い放った。
「ああん、そんなつれないことを言わないで。分かった、冗談はこれくらいにしよう」
おどけていたオリビエは真剣な顔になってミュラーを見つめた。
「貴様が会いたがっていた《彼》だが、その消息がつかめた。どうやら帝国の遊撃士協会にいるらしい」
「それじゃあ、入れ違いになってしまったと言う事だね」
オリビエはやれやれと言ったリアクションを取ってつぶやいた。最近、帝国にある遊撃士協会の支部が次々と襲われる事件があり、カシウスはその事件の調査をしているらしいとミュラーは話した。
「遊撃士協会を襲撃とは穏やかな話じゃないな。やはり宰相が絡んでいるのかい?」
「それは判らない。実行犯はどこかの猟兵団らしいと聞いている。いずれにせよ、彼は帝国に居るんだ、帰って来い」
ミュラーがそう言うと、オリビエは困った顔で深いため息を吐き出した。
「この国にも大きな嵐が吹き荒れそうだ、巻き込まれないうちに離れるぞ」
「それは嫌だなあ、ボクが帝国に戻ったらまた入れ違いになりそうじゃないか。それにこれから始まるオペラに参加しない手はあるまい」
「また貴様の悪い癖が出たか……」
オリビエの笑顔を見たミュラーは眉間を指で押さえてため息を吐き出した。
「舞台の主役は不在だが、代役には心当たりがあってね。あの四人には楽しませてもらえそうだよ」
オリビエは窓から雷雨が降りしきる王都の街並みを見てそうつぶやいた。
3
夜を徹して街道を歩いたエステルたちは、夜明け頃にツァイスの街の遊撃士協会へと戻り、待っていたマードック工房長とキリカに、ラッセル博士を救出した事を報告した。マードック工房長は《カペル》の中枢ユニットである演算機も取り戻してくれた事にもお礼を言った。《グノーシス》は消えてしまったが、解析データは《カペル》に残っているはずだ。
「本来ならば、君たちの《ヘッドセット》の分析もしてあげたかったところだが、ラッセル博士が居ないとなるとね……」
「良いんです、ボクたちにも時間がありませんから」
渋い顔をして謝るマードック工房長にシンジはそう言った。ラッセル博士とティータを連れてボース地方に逃げたアガットたちは、無事にボース支部の遊撃士協会へ着いたらしいとルグラン老人から連絡があったとキリカは話した。エステルたちとマードック工房長は一安心だと胸をなでおろした。
「リシャール大佐はあの《黒のオーブメント》を使って王都で何かをするつもりのようね。そしてそれを止められるのはアリシア女王陛下だけだとラッセル博士は話していたみたいね」
「ええ、だからアタシたちが女王様に会って伝えて欲しいってラッセル博士に頼まれたのよ」
キリカの言葉にうなずいたアスカはそう答えた。マードック工房長はキリカとアスカの話に納得した様子だった。
「ラッセル博士は女王陛下とプライベートな親交があった。王国の機密情報を知っているかもしれない」
「そんなわけで、あたしたちは王都に行かなくちゃいけなくなったんだけど……」
エステルが伏し目がちでキリカの顔色をうかがうように尋ねると、キリカはフッと笑みをこぼした。
「みなまで言わなくても良いわ。あなたたちにも要塞侵入について追及の手が及ぶ前にツァイスを離れて王都に向かった方がいいでしょう」
キリカはそう言うとエステルたちにツァイス支部の正遊撃士の推薦状を渡した。前もって用意をしていたのだろう、アスカの推察通りだった。
「これで正遊撃士にまた一歩近づいたね。おめでとう、エステル君、ヨシュア君、アスカ君、シンジ君」
マードック工房長は笑顔でエステルたちに祝福の言葉をかけた。推薦状を貰えて嬉しくないはずはない。しかし、ティータが、ラッセル博士が、アガットが、みなが見守る前で受け取りたかった。
「遠からず中央工房にも査察が入る可能性もあるわね」
「それは大変だ、急いで対策を講じなければ。それでは私はこれで失礼するよ」
キリカの言葉を聞いたマードック工房長はそう言って遊撃士協会を去って行った。エステルたちもゆっくりと街道を歩いて行くわけにはいかない。キリカは王都行きの定期飛行船のチケットも手配してくれていた。
さらにキリカはツァイスでエステルたちが解決した事件の査定もしてくれた。中央工房の異変騒ぎからラッセル博士の救出作戦の報酬もたんまりと受け取った。BPも加算され、準遊撃士・1級は目前。そしてツァイス支部最後の依頼が遊撃士手帳に書き込まれた。
◆アリシア女王への伝言◆
【依頼者】ラッセル博士
【報 酬】???? Mira
【制 限】直接依頼
リシャール大佐はあの《黒のオーブメント》を使って王都で何かしようとしている。
ラッセル博士の代わりにその事を女王陛下に伝えるのが依頼内容だ。
4
ツァイス空港に着いたエステルたちは受付で搭乗手続きを行い、飛行船が到着するのを待った。今まで街道を歩いて王国を廻って来たエステルたちにとって、飛行船に乗るのは初めての体験だった。
「にゃーご」
エステルたちが搭乗口で飛行船を待っていると、アントワーヌがすり寄って来た。
「昨日はありがとう、キミのお陰で助かったよ」
「にやぁおお~ん」
シンジがお礼を言うと、アントワーヌはそう答えた。エステルたちがアントワーヌと話していると、グスタフ整備長がエステルたちの側へとやって来た。
「よお、無事に博士を救出してくれたみたいだな。俺からもお礼を言わせてくれ。博士は俺達技術屋にとっては神のような人だからよ」
「やっぱりアントワーヌをコンテナに入れたのはわざとだったんですか?」
ヨシュアが質問すると、グスタフ整備長は頭をかいて答えた。
「まあ、敵を油断させてやろうと思ってな。それで、お前さんたちは発着場に何の用だい?」
「あたしたち、定期飛行船で王都に行こうと思っているのよ」
グスタフ整備長に尋ねられたエステルがそう答えると、グスタフ整備長は怪訝な顔でつぶやいた。
「おかしいな、もうとっくに定期飛行船が到着していてもおかしくない時間なんだが……」
「おーい、あんたたち! 大変な事になったぞ」
受付のジラールが息を切らせてエステルたちの所へやって来た。ジラールの話によると、女王生誕祭でテロ行為が行われるかもしれないと情報部から通達があり、飛行船も検査体制を強化して定期船の運行時間が大幅に遅れているのだと言う。
最低でも半日は待たされる事になると知らされたエステルたちは飛行船に乗る事を諦め、街道を走って王都へ向かう事にした。受付で搭乗手続きのキャンセルをしたエステルたちは情報部の息のかかった兵士たちに見つかる前に、急いで街を出て王都方面のリッター街道へと出るのだった。
5
リッター街道では情報部の兵士たちに出会う事無く、エステルたちは無事にツァイス地方と王都を結ぶセントハイム門までたどり着くことが出来た。リベール王国建国時からある千年の歴史を誇る城壁は、美しさも持っていた。
「時間があったら、城壁の上に昇ってみたかったわね」
「エステルの事だから、城壁の上を全力疾走してみたいとか?」
エステルの言葉を聞いたヨシュアは、笑いながらそう話した。
「もうそんな子供じゃないもん」
そう言ってエステルは不機嫌そうな顔で口を尖らせた。
「アンタも女心が分かってないのね」
アスカはヨシュアに向かってウンザリとため息をついた。
「……女の子は複雑だね」
シンジはヨシュアの肩に手をかけて励ました。門の前で突っ立っていても仕方が無い、エステルたちは建物の中へと入った。いつもの通り関所の通行手続きをしていると、手続きをしている兵士は冷やかすように声を掛ける。
「若い子って言うのは羨ましいねえ。君達、街道をハイキングしながらダブルデートかい?」
「ふえっ!? デ、デートだなんて……」
エステルは変な声を上げて顔を赤くした。
「あはは、そんなんじゃないですよ。僕達、兄妹なんです」
笑って否定するヨシュアを、エステルはムスッとした顔でにらみつけた。シンジはアスカと恋人同士だと見られて嬉しいのか、顔を赤らめてぼーっとしている。いつもは力いっぱい否定するアスカも、目の前のエステルとヨシュアのやり取りを見て、反論する気持ちも失せたようだ。
「エステル、さっきから苦しそうな顔をしているけど、調子が悪いなら休もうか?」
「うーっ、そんなんじゃないわよ。さっさと王都に行きましょう」
朴念仁のような態度をとるヨシュアに、エステルはイライラしっぱなしだった。
「そうだ、王都では武術大会が開かれるそうだから、是非見に行くと良いよ」
兵士はエステルたちに、武術大会は王都の《王立競技場》で開かれるイベントで、王国中から腕の立つ人間を集めて行われる大会なのだと話した。武術大会を提案したのは王族の人間で、予選会も今日行われるのだと言った。
「へえ、それって面白そう!」
武術大会の話を聞いたエステルは機嫌を直して太陽のような笑顔になった。
「見物より参加してみたいわね、修行の成果も試せるし!」
「アタシたちには他の用事があるのよ、諦めなさい」
人前では話せないが、エステルたちは一刻も早くアリシア女王と会わなければいけないのだ。アスカはそう言ってアスカに釘を刺した。話が終わったエステルたちは関所を通り抜けようとしたのだが、鋭い目つきをした関所の守備隊長に呼び止められた。
「君たちは遊撃士だな?」
「はい、そうですけど」
守備隊長に呼び止められたシンジは不思議そうな顔で答えた。守備隊長によれば、軍の本部から通達があり、テロ行為を行おうとしている者の中には遊撃士に変装して活動いる者も居るとの事だった。
エステルたちの身元が本物の遊撃士だと証明できるまで、取り調べを行うと守備隊長は告げた。
「あ、あんですってー!?」
思わぬ足止めを食らったエステルは大きな声で叫んだ。するとその声を聞きつけたのか、見覚えのある人物が姿を現した。
「エステルさんたち、やっと来てくれたんですか!」
エステルたちに近づいて来たのは、これまでに何度も会っているアルバ教授だった。
「さあ王都へ行きましょうか?」
驚いて固まっているエステルたちを気にせずに、アルバ教授は平然と穏やかな笑顔でエステルたちに声を掛けた。
「そうね、時間も押している事だし早く行きましょう」
アスカがアルバ教授に向かってそう答えると、守備隊長は困惑した表情でアルバ教授の身分を尋ねた。
「私は考古学研究員のアルバと申します。王都にある歴史資料館に勤めています」
「おい、彼の言う事は確かなのかね?」
守備隊長が兵士に尋ねると、アルバ教授が先ほど提示したパスポートは正規のものであり、身分は証明されていると答えた。すると守備隊長は態度を軟化させてアルバ教授に自分の失礼を謝った。
アルバ教授はエステルたちを自分の護衛を依頼した遊撃士だと守備隊長に話した。王都近くでテロリストが潜伏していて危険だから安全のために四人も雇ったという説明は説得力があったようだ。
守備隊長はエステルたちにも謝り、取り調べは回避された。エステルたちは関所の食堂で一休みしてアルバ教授と同席する事にした。
「教授とアスカの演技には驚かされたわ。あたしが約束を忘れちゃったのかと焦っちゃったじゃない」
「アスカが話を合わせたくらい、遊撃士として察しないとだめだよ」
エステルがむくれた顔でそう言うと、ヨシュアは穏やかな笑顔でそう言った。
「そう言うヨシュアだって、察しが悪い事があるくせに」
エステルはぽつりとそう言い返した。
「とてもお困りの様子だったので、差し出がましい事をしてしまいました」
「そんな事はありません、助かりましたよ」
アルバ教授にシンジは笑顔でお礼を言った。
「いえいえ、何度も助けて頂いてますからね。それにしても、軍の方々はテロ事件だとか言って随分と気が立っているようですね」
「そうそう、遊撃士と王国軍は協力関係だって話はどこに行っちゃったんだか」
アスカは腹立たし気にそうつぶやいた。
「私が《紅蓮の塔》で見かけた人達もテロ事件に関係があったそうですし、君たちが解決したんですか?」
「うーん、まだ解決したとは言えなくて……」
シンジは困った顔でそう答えた。
「いえいえ、あなたたちならきっと解決できますよ。なにしろ私は初めてあなたたちに出会った時から凄腕の遊撃士になるのだと思っていますからねえ」
「それは間違いないわ」
アスカがアルバ教授に《準遊撃士・2級》になった事を話すと、アルバ教授は穏やかな笑顔でエステルたちを祝福した。アルバ教授はこれから歩いて王都へ向かうところだったと話した。定期飛行船を使うほどのお金が無いのだと言う。
エステルはそれならば先ほどの仲裁のお礼に、無料で王都までの護衛を引き受けるとアルバ教授に提案した。アルバ教授は街道には魔獣も出るし、テロリストの件もあるのでエステルの申し出を受けたのだった。
6
王都への第一関門であったセントハイム門を突破したエステルたちは、情報部の追っ手に捕まる事無くキルシェ街道へと歩みを進めた。しかしエステルたちが街道を歩いていると、行く手に王国軍の小隊が街道に駐屯しているのが見えた。
下手に避けたりすれば逆に怪しまれる。エステルたちは動揺を隠して堂々と王国軍の兵士達の前を通り過ぎようとした。
「おい、お前達!」
「何ですか?」
四人の中で一番落ち着いているヨシュアがそう答えた。
「エルベ離宮は立ち入り禁止だからな」
兵士はエステルたちにそう言い放った。
「エルベ離宮と言えば……ここから東の方にあるリベール王家の小さな宮殿でしたね。普段は王都の市民達に解放されていると聞きましたが」
アルバ教授がそうつぶやいた。
「あたしたち、そんなところに用はないけど」
「何だ、ただの通行人か。テロリストが潜伏しているって言うのに街道を徒歩で歩くとはのんきなやつらだな」
エステルがそう答えると、兵士はウンザリとした顔でため息を吐き出した。どうやらエステルたちに注意を払っていない様子だった。エステルたちはとりあえず一安心した。
エルベ離宮は王国軍がテロリスト捜索部隊の本部として使っているので、テロリストに間違われたくなかったら近づかない方がいいと親切に教えてくれた。
「近づくなと言われると、近づきたくなるのよね……」
「アスカ、そんな事冗談でも言わないでよ」
アスカのつぶやきを聞いたシンジは心配そうな顔でため息をついた。その後街道を進んだエステルたちは無事に王都グランセルの南街区へとたどり着いた。さすが王都と言うだけあって、街は今まで訪れた都市を全て足したくらいの規模があった。
街の大きさでは第三新東京市には及ばないものの、その上品な街並みはパリを思わせるものがあった。実際にアスカとシンジはパリには行った事は無く、社会の授業で見ただけだが。
アルバ教授は《歴史資料館》と呼ばれる王立の考古学研究所に客員研究員として勤めているのだと話した。今度時間があったら遊びに来てくださいと言ってエステルたちと別れた。
いきなり城に行ってもアリシア女王と面会できるとは思えない。まずは王都の遊撃士協会へ所属変更のあいさつも兼ねて向かう事にした。この広い王都で遊撃士協会を探すのにも一苦労しそうだ。しかし幸運にも遊撃士協会は今エステルたちがいる南街区にあった。
7
エステルたちが遊撃士協会の中に入ると、四人の遊撃士と受付の青年が話し込んでいた。四人の遊撃士の中には、エステルたちが会ったことのあるグラッツとカルナの姿もあった。
「あんたたちは、エステルにヨシュア、アスカにシンジじゃないか」
カルナはエステルたちに気が付くと笑顔で声を掛けて来た。ルーアンの事件で受けた傷はすっかりと治っているようだった。
「君達は確か、シェラザードと一緒に居た新人たちだったよな」
グラッツもそうエステルたちに声を掛けて来たが、あまり顔を合わせる機会が無かったので覚えていない。とりあえず愛想笑いだけはしておいた。
「どうして皆さんが王都に集まっているんですか?」
「それについては私が説明致しましょう」
ヨシュアが尋ねると、受付に居た長い金髪を束ねた青い目の青年が答えた。声を聞かなければ、女性と間違えてしまうほど美しい顔立ちの青年だった。青年はグランセル支部の受付をしているエルナンだと自己紹介をすると、四人の遊撃士たちに早く《王立競技場》へ行くように促した。
「おっと、早く行かないとね。じゃあまた後でね」
カルナはそう言って遊撃士協会を出て行った。四人の遊撃士たちの中の一人に、黄色いリボンを着けた若い女性の遊撃士が居た。
「わたし、アネラス。キミみたいな可愛い物が大好きなんだ」
「えっ?」
突然、笑顔のアネラスに両手を握られたシンジはポカンとした顔になった。
「それじゃあね、新人クンたち!」
あっけにとられるシンジを残して、アネラスも手を振って遊撃士協会を出て行った。アスカはそんなシンジの手をつねった。
「鼻の下を伸ばして、デレデレしちゃってさ」
「別にデレデレなんてしてないよ」
シンジは納得いかない表情でアスカに言い返した。
「彼ら四人は、これから武術大会の予選に出るんです」
「うらやましいな、あたしたちも出たい!」
エルナンの話を聞いたエステルはそう叫んだ。
「そうですね、あなたたちはちょうど四人そろって居るみたいですし、出場出来るかもしれませんね」
「本当!?」
エルナンがそう言うと、エステルは嬉しそうに跳び上がった。しかしまずは所属変更の手続きを済ませなければならない。エルナンはキリカから連絡は受けており、エステルたちの来訪も知っていたと話した。
エステルたちが転属手続きを終えると、エルナンは現在、テロ事件の影響で遊撃士が活動しにくい状況に追いやられていると話した。エルナンはキリカからエステルたちがラッセル博士から依頼を受けている事も聞いていると言った。
王都でのリシャール大佐の人気はかなりのもので、エルナンもキリカの話を聞くまでは、リシャール大佐が王室親衛隊にテロリストの汚名を着せて陰謀を企んでいるなど思いもよらなかったと話した。
「さすが情報部、情報操作はお手の物と言った感じね」
アスカが皮肉めいた口調でそう言った。遊撃士協会の規則では軍の活動に介入する事は禁止されているが、何もせずに傍観している状況ではないとエルナンは言った。
「ラッセル博士の依頼をするにしても、問題はどうしたら女王様に会う事が出来るか何だけど……」
エステルは困った表情でそうつぶやいた。平常時なら遊撃士協会の紹介状があれば女王との面会が出来るが、今の状況ではそれは難しいとエルナンは話した。王室親衛隊がテロリストの濡れ衣を着せられている状況がどれほど深刻な事なのか、エルナンはエステルたちに質問した。
◆三択クイズ◆
Q.王室親衛隊がテロリスト扱いされている深刻な状況の意味は?
【城の警備が手薄になっていて忍び込みやすい】
【アリシア女王様の身に危険が迫っている】
【遊撃士協会の紹介状が握り潰されてしまう】
※遊撃士としての資質を問うクイズです。
正解すればボーナスBPがもらえるので挑戦してみてください。
エステルの答えにエルナンはうなずいた。グランセル城もレイストン要塞と同じようにリシャール大佐に掌握されている可能性が高い。そのような状況では、通常の方法でアリシア女王と面会する事は難しいだろう。
遊撃士協会の紹介状は紙くず同然に握り潰されてしまうのでは、レイストン要塞の時と同じようにグランセル城に忍び込むしか手はないのか。城の地下には水路が巡らされてはいるが、リシャール大佐は侵入者に備えて前にも増して警備を強化しているだろうとエルナンは話した。
「そこで、女王陛下と面会できるかもしれない方法が一つあります。それは、武術大会です」
「武術大会!?」
エルナンの話を聞いたエステルたちは驚きの声を上げた。現在、アリシア女王は王室親衛隊がテロリストと認定された等の理由によって心労が溜まり、体調が思わしくないとの理由で女王宮に籠もりきりになっていると声明が出ているとエルナンは言った。
今ではあのデュナン公爵が政務を代行しているらしいが、実権はリシャール大佐が握っているのだろうとエルナンは話した。アリシア王女もリシャール大佐の手勢によって、女王宮に軟禁されているのかもしれない。そのデュナン公爵が退屈しのぎにと思い付きで始めてしまったのが武術大会だった。
「武術大会の優勝者と準優勝者はグランセル城の晩餐会に招かれる事になっているのです」
「なるほど、僕達が出場して武術大会で決勝戦まで進めば良いんですね」
ヨシュアの言葉に、エルナンはしっかりとうなずいた。
「カルナさん達にラッセル博士の伝言を頼むと言う手もありますが……」
「アタシたちの手で優勝を勝ち取ってやるわよ!」
エルナンの提案に対してアスカは拳を握り締めてそう答えた。エステルたちも反対はしなかった。
「武術大会の予選エントリーはまだ受け付けていると思います。東街区にある《王立競技場》へと行ってください」
エルナンの言葉に従い、エステルたちは遊撃士協会を出て《王立競技場》に向かうのだった。
◆ブレイサー手帳◆
依頼達成数:67
獲得BP :290
ランク 準遊撃士・2級(※ゲームシステムではボーナスBPを稼ぎすぎて1級になってしまいましたが、この作品の中では現状2級のままとさせていただきます)
所属 ツァイス支部
◆三択クイズ◆ 答え
Q.王室親衛隊がテロリスト扱いされている深刻な状況の意味は?
【城の警備が手薄になっていて忍び込みやすい】
【アリシア女王様の身に危険が迫っている】
〇【遊撃士協会の紹介状が握り潰されてしまう】