アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~ 作:朝陽晴空
1
エステルたちは武術大会の予選が行われる《王立競技場》へとたどり着くと、さっそく係員に武術大会に出場したいと話した。受付には間に合ったようで、エステルたち四人はあっさりと参加が認められた。
「厳密な身元調査が行われると思ったけど、拍子抜けね」
アスカは気の抜けた顔でそうつぶやいた。デュナン公爵は武術大会を盛り上げるために腕に自信がある者なら、どんな素性のものでも出場を許可するとお触れを出していたらしい。そのズボラさのお陰でエステルたちは助かったわけだが。
エステルたちに割り当てられた選手控室には、見知った顔は居なかった。カルナ達遊撃士チームとは別の部屋になってしまったらしい。選手控室からでも予選の様子を見る事が出来る。
「あっ、カルナさんたちの試合が始まるみたいよ!」
エステルは場内アナウンスと共に登場したカルナたち四人の姿を見て声を上げた。カルナたち遊撃士チームの相手は、ハーケン門を守る国境警備隊の兵士四人組だった。モルガン将軍配下の兵士達だ、訓練度は低くない。
試合が始まると、エステルたちは先輩遊撃士たちの戦いぶりを見逃すまいと真剣な表情で見つめた。
アネラスと言う若い女性遊撃士はエステルたちと大して実力が変わりないように見えた。胸には準遊撃士の紋章が付いているので数合わせなのかもしれない。でも、ヨシュアによると独特の流派の剣術を身に着けていて、剣の腕を磨けばもっと強くなるだろうと言う事だった。
グラッセは他の正遊撃士の二人と比べて地味で堅実な戦いぶりだった。戦技などは使わないが、仲間を守る盾役となってじわじわと相手を追い詰めて行くタイプのようだった。
カルナは小型の導力砲で煙幕弾を放ち、相手の視界をピンポイントで遮る作戦に出た。優れた精密射撃の技術が無ければ出来ない事だろう。この試合ではカルナの目潰しが一番の活躍だろう。
最後の一人、エルナンから名前を教えてもらった緑色の髪の落ち着いた雰囲気の正遊撃士クルツは、戦技でも導力魔法でもない不思議な《方術》と言う力を使っていた。彼が念じると、仲間の遊撃士たちが物理攻撃を軽減する光る障壁に包まれる。
アスカとシンジはクルツの方術による障壁は、A.T.フィールドと似たようなものなのかもしれないと感じた。今までにもA.T.フィールドのように物理攻撃を完全無効化する魔獣に遭遇したこともある。以前、綾波レイに『A.T.フィールドは心の壁よ』と言われた事があったが、今になればその意味が分った気がした。
さらにクルツは方術で仲間の傷も回復した。エステルたちは方術の幅の広さに驚いた。敵の攻撃の勢いが弱まったところでカルナが導力魔法で一気に勝負をかける。アスカが得意とする火属性の高位魔法・スパイラルフレアだ。
そして今まで実力をあまり発揮していなかったアネラスが、《剣技・八葉滅殺》を使って相手を乱れ斬りにするのを目撃したエステルたちは目を丸くした。こんなに連続した連撃を見るのは、翡翠の塔で出会ったキリトと言う黒衣の剣士以来かもしれない。
負けじとグラッツも高く空中に跳び上がり着地の衝撃で敵を斬りつける《グラッツ・スペシャル》と言う戦技を披露した。こうして遊撃士チームは国境警備隊チームを圧倒して勝利した。
2
遊撃士チームの勝利にホッと胸をなでおろしたエステルたちは次の試合の組み合わせを見て驚いた。なんとジンが一人で出場していたのだ。対して相手のチームは四人。ルーアンの事件で出会った不良達《レイヴン》のチームだった。彼らは薬で操られていたと言う事で、釈放されていた。
ジンは正拳突きだけであっさりとレイヴンたち四人を倒してしまった。観客たちはジンの圧倒的な強さにどよめいた。
「さすがジンさん、何の心配も無かったわね」
試合を見終わったエステルはそうつぶやいた。
「だけど本戦でも一人だったら大変じゃないかな」
シンジは不安そうな顔をしてそうつぶやいた。
「ほら、他人の心配をしている場合じゃないわ、アタシたちの番よ」
アスカに促されたシンジは選手控室を出た。試合会場に姿を現したエステルたちに観客の大歓声が浴びせられる。こんなたくさんの人に注目されるのはシンジにとって恥ずかしい事だった。学園祭でお姫様役をやった経験が無かったら、緊張でガチガチになっていたかもしれない。
相手は賞金目当ての一般市民の力自慢のチームで、エステルたちは苦戦するはずも無かった。遊撃士が民間人にケガをさせてはいけないので手加減するのが大変だった。
予選試合が終わった後、大会主催者であるデュナン公爵は、闘技大会での成績優秀者には賞金とグランセル城で行われる宮中晩餐会への招待を改めて宣言した。
エステルたちは試合を終えたカルナたちに会う事にした。もし自分たちが決勝戦に進めなくても、カルナたちにラッセル博士の依頼を代わりにしてもらう事が出来るからだ。
選手控室にエステルたちが入ると、都合の良い事にカルナたち四人しか部屋には居なかった。エステルたちがカルナたちの試合を見て、勉強になったと話すと、カルナたちは笑顔でお礼を言った。
エステルたちがラッセル博士の依頼の件を話すと、カルナはジンにもラッセル博士の依頼の件を話しておいた方が良いかもしれないと言った。ジンは今でも他の三人のメンバーを募集していて、もし四人そろったら自分たちに勝ち目がないかもしれないとカルナはぼやくように言った。
3
ジンの居場所をエルナンから聞いたエステルたちは、エルベ周遊道へと向かった。王都に来てから、ジンは体を鍛えるためにエルベ周遊道を何周もしてランニングをしているらしい。魔獣も出没するエルベ周遊道で走るのが修行になるようだとエルナンは話した。
襲い掛かる魔獣を倒しながら進んだエステルたちは、女性の悲鳴を聞いた。エステルたちが悲鳴の上がった場所へと駆け付けると、シスターの女性が蜂型の魔獣に襲われていた。
その蜂型の魔獣は猛毒を持っていると魔獣図鑑には記されている、シスターにかすり傷でも負わせることは出来ない。エステルたちは急いでシスターを守るために魔獣達に戦いを挑んだ。
蜂型の魔獣の魔獣の数は六匹。エステルとアスカは棒術で魔獣をシスターに近づけないために薙ぎ払った。飛び回る魔獣に導力銃を当てるのは難しいが、シンジも必死に頑張った。
「大丈夫ですか?」
蜂型の魔獣達を追い払ったシンジはシスターに声を掛けた。毒でも負っていたら大変な事になる。
「あなたたちのお陰で無事です。ありがとうございます」
シスターはそう答えると、王都の大聖堂に勤めるエレンだと名乗った。
「アンタ、何でこんな危険な場所に一人で居るのよ?」
アスカが不思議と言うよりも疑っている表情でエレンに尋ねた。
「薬の調合で使うためのハーブを切らしてしまって、お店でも品切れでしたので植物の多いエルベ周遊道に摘みに来たのです」
「それは大変ですね」
シンジは素直にエレンの勇気ある行動に感動している様子だった。
「でもここは魔獣だらけで危ないわよ。今度からは遊撃士に頼んでね」
「普段はここまで魔獣は多くなかったのですが、つい最近になって増えてしまったみたいで……次からはそう致します」
エステルの言葉に、エレンはそう答えた。エステルたちがエレンと話していると、大音量の羽音が近づいて来るのを感じた。いつの間にか蜂型魔獣の群れがエステルたちを取り囲んでいたのだ。
エステルたちを取り囲んでいる蜂型魔獣の数は先ほどの数倍にも及んだ。シスターを守り切れるかエステルたちの頭に不安がよぎる。
「ようようよう、困っているようだな」
旋風のように蜂型魔獣の群れを吹き飛ばしてエステルたちの前に姿を現したのはジンだった。
「この魔獣は猛毒を持っています、気を付けてください!」
「そうか、それなら出来るだけ俺に引き付けた方が良いって事だな」
ヨシュアの言葉を聞いたジンは、エレンの姿を見て何をするべきか心得たようだ。ジンは魔獣達に向かって大声を出して挑発するような仕草をした。すると魔獣達は一斉にジンの方へと飛び掛かった。
魔獣達の注意が反れたチャンスをエステルたちは見逃さなかった。アスカはスパイラルフレアを、エステルはストーンインパクト、シンジはエアロストーム、ヨシュアはヘル・ゲートと全員で導力魔法を詠唱する。
ジンは蜂型魔獣が次々と繰り出す攻撃を見切って交わしていた。発動のタイミングを合わせたエステルたち四人の導力魔法で蜂型魔獣の群れは一網打尽となった。
「ふう、良い運動になったぜ」
あれだけ激しい動きをしたのに息を乱さないジンの体力にエステルたちは舌を巻いた。エステルたちがジンに話があって会いに来たと話すと、余計な手間をかけさせてしまったなとジンは豪快に笑った。
「でもそのお陰で、こうして人助けも出来たわけだし」
エステルはそう言ってエレンに微笑みかけた。
「危ない所を助けて頂き、本当にありがとうございました」
エレンは深々と頭を下げてお礼を言った。エステルたちの用件は後で話すとして、エレンを街まで送り届けようかと相談していると、特務兵が二人こちらに気が付いて近づいて来た。
「こんな人気の無いところで密談とは、お前たちテロリストの仲間だな?」
「アタシたちがテロリストですって!? アタシたちは遊撃士で、シスターが魔獣に襲われていたから助けたの。アンタたちこそ、フラフラしているなら魔獣掃除の一つでもしなさいよ。シスターが危険な目に遭ったじゃない」
腕組みをしたアスカに何倍も言い返されて、特務兵たちは言葉に詰まった。
「そうだな、お前の言う事は最もだ。シスターは我々が責任を持って街まで送ろう。お前たちもテロリストと間違えられたくなかったらエルベ離宮には近づかない事だな」
そう言って特務兵たちはシスターを連れて去って行った。シスターは何度も振り返ってはエステルたちに頭を下げていた。
「どうやらやり過ごせたみたいね」
エステルはホッとしたようにため息を吐き出した。そういえば特務兵たちは武術大会にも出場していた。こうして昼間から街道を巡回するようになったのは姿を隠す必要が無くなったのだろう。
「因縁をつけられる前に街に戻った方が良さそうだな」
ジンが真剣な表情でそうつぶやいた。
「ごめんね、あたしたちが修行の邪魔をして」
「そのうち俺も特務兵のやつらに目を付けられる事になっていたさ」
謝るエステルにジンはそう答えた。ジンを仲間に加えたエステルたちは、日が沈み始めたエルベ周遊道を抜けて王都へと戻った。
4
王都へ戻ったエステルたちは、遊撃士協会でジンにラッセル博士の依頼の件を話した後、酒場で明日から始まる武術大会の本戦について話していた。
「あたしたちは四人そろって居るからいいけれど、問題はジンさんよね。一人で本戦を戦うのはやっぱり辛いんじゃないかな」
「まあ、一人でどこまでやれるか挑戦してみるのも悪くないさ」
エステルの言葉に、ジンはそう答えた。
「どこかにジンさんの仲間になってくれる人は居ないのかな」
シンジがそうつぶやくと、リュートを鳴らす音が響いた。
「どうやらボクたちの出番のようだね」
エステルたちが声の主の方向を見ると、そこにはオリビエと長身の男性が立っていた。
「オリビエ、アンタ、アタシたちの話を聞いてたの?」
アスカが驚いてオリビエに尋ねると、オリビエは手で髪をかき上げながら答える。
「こんな面白い話、放って置けるわけがないだろう。なあ、我が友よ」
オリビエが隣に立つ長身の男性に声を掛けると、長身の男性は固い表情でミュラーだと名前だけを告げた。
「このボクとミュラーが仲間に加われば、百人力さ。優勝だって夢じゃない」
ジンは無表情でオリビエとミュラーを見つめていたが、エステルに尋ねた。
「……腕の方は確かなのか?」
「ミュラーさんは会ったばかりだから分からないけど、オリビエは導力銃の腕と導力魔法の威力は大したものよ」
エステルがそう答えると、ジンは納得した様子だった。先ほどからジンはオリビエの視線の運び方を観察していたのだと話した。ピンポイントで視線を移すのは導力銃使いにある特徴なのだと言う。
「それで、ボクたちは合格だと言う事なのかな?」
「ああ、よろしく頼むぜ」
オリビエが尋ねると、ジンは笑顔で手を差し出した。
「ヒャッホー、これで宮中晩餐会に行く事が出来る!」
「アンタの目当てはやっぱりそれか」
アスカはウンザリとした顔でため息をつくと、ミュラーも苦虫を嚙み潰したような顔をしている事に気が付いた。オリビエはこのミュラーにも日頃から多大な迷惑を掛けているに違いないとアスカは思った。
「ところで、どうしてオリビエさんは王都に? シェラザードさんとロレントに行ったんじゃなかったんですか?」
「うわわわ……その話は止めてくれ」
シンジが尋ねると、オリビエは頭を抱えてうずくまった。
「分かった、シェラ姉から逃げて来たんでしょう。ロレントにはシェラ姉を超える酒豪のアイナさんも居るしね」
エステルはニヤリと笑ってそうつぶやいた。
「明日の朝になったら、シェラ姉もロレントから来ていたりして」
「それは勘弁してくれえぇぇぇ!」
エステルがさらにからかうと、オリビエは心の底から悲鳴を上げるのだった。
5
酒場で食事を終えたエステルたちは、まだ飲み足りないと言うジンとオリビエを残して、ホテルへと向かう事にした。遊撃士協会の二階で泊まる事を考えていたエステルたちだったが、様々な地方の支部から集まった遊撃士たちで部屋はいっぱいなのだとエルナンは説明した。
「どうして下っ端のあたしたちがホテルの方に泊まるのか、訳がわからないわね」
「何か特別な理由があるのかもしれないね」
エステルの疑問にヨシュアはそう答えた。
「まあいいじゃない、アタシたちはホテルのベッドでぐっすり眠れるんだからさ」
アスカも気になってはいるようだが、開き直って恩恵を享受する事にしたようだ。オリビエから聞いた帝国の遊撃士協会の支部が次々と襲われた事件と何か関係があるのではないかとシンジは思った。
ホテルには四人部屋の空きが無かったのでエステルとアスカ、ヨシュアとシンジに別れて二人部屋に泊る事になった。エステルとアスカは202号室、ヨシュアとシンジは203号室だった。
「あっ、この窓からだと夜の《王立競技場》が見える!」
202号室に入るなりエステルは大はしゃぎで声を上げた。武術大会の間、泊る事になるこの部屋にエステルは満足しているようだった。
「本当ね……」
アスカはエステルに近づいて同じ窓をのぞき込んだ。アスカはエステルの耳元でそっと囁いた。
「アタシたち、姉妹なんだから隠し事はナシよね?」
「何の話?」
アスカに突然尋ねられたエステルは不思議そうな顔で聞き返した。
「エステル……最近アンタ、ヨシュアの事を弟以外の男として意識し始めたんじゃない?」
「ど、どうしてそんな事思うのよ?」
アスカの指摘を受けたエステルは顔を真っ赤にして動揺した。アスカはそんなエステルを見てニヤリと笑う。
「そんなんじゃ、ヨシュアにも気づかれちゃうわよ」
「お願い、心の整理が付いたらヨシュアに話すつもりだから……言わないで」
エステルが懇願すると、アスカはエステルの頭を撫でた。
「大丈夫、そんな野暮な事はしないわよ。上手く行くと良いわね、アタシも応援している」
アスカが手を握り締めると、エステルは晴れやかな笑顔になった。
「安心したら眠くなっちゃった。もう寝ようか」
「明日も試合があるしね。早く寝るのは良い事よ」
エステルとアスカはそう言ってベッドに潜り込んだ。アスカはヨシュアがエステルの気持ちに気が付いていて、わざと無視しているように感じていた。そこにアスカは嫌な予感を覚えてならなかった。
6
次の日の朝、エステルたちは武術大会に備えて街を廻って装備を整えた。試合は正午からだったので、時間的には随分と余裕を持って選手控室へと入ることが出来た。第一試合はジン、オリビエ、ミュラー、そしてシェラザードのチームが出場した。
「シェラ姉、本当に王都に来ちゃったんだ」
冗談で行っていた事が本当になり、エステルは目を丸くして驚いた。オリビエは試合が始まる前から顔色が悪いように見えたが、ジンたちのチームはあっさりと勝利した。
間を置かずして第二試合が開かれた。エステルたちの本戦初戦の対戦相手はなんとカルナたちの遊撃士チームだった。ラッセル博士の依頼の事を考えると当たりたくない相手だったが、こうなれば全力を尽くすのみ。
「後輩だからって、手は抜かないよ。むしろ、厳しく行くからね」
「胸をお借りします」
カルナに対してヨシュアは真剣な表情でそう答えた。
「君達とこんな早くに戦う事になるとはな。これも運命なのか」
クルツは冷静沈着な様子でそうつぶやいた。
『ベテラン遊撃士チームと新人遊撃士チーム、どちらが勝つのでしょうか!』
アナウンスが流れると観客は大いに盛り上がった。この試合の組み合わせはデュナン公爵の仕込みだと思われた。もしかしたら、リシャール大佐が黒幕かもしれない。デュナン公爵の気まぐれで、遊撃士達が大挙して宮中晩餐会に出席する事態を避けたかったのだろうとエステルたちは考えた。
シンジは試合開始と同時にカルナの戦術オーブメントに向かって狙撃をして、カルナの導力魔法を封じた。さらにアスカとエステルは棒術でグラッツとアネラスの武器を強打して叩き落した。ヨシュアもクルツに肉薄して武器を握る手を斬りつける。
「……奇襲攻撃とは、やってくれるじゃないか」
そうつぶやくクルツは冷静な表情を崩さなかった。エステルたちは汚い手だとは思っても、正々堂々とベテラン遊撃士チームと戦っては勝てないと考えていたのだ。白熱した正面切っての試合を期待していた観客席からもブーイングが上がった。
「きゃあっ!」
エステルたちが最初に集中攻撃を加えたのはアネラスだった。のほほんとみえるアネラスだが、その剣技は侮れない。アネラスが膝をついて倒れると、観客席から不満の声が上がる。アネラスはその可愛い外見から一定数のファンがいたようだ。
「グラッツスペシャル!」
ベテラン遊撃士チームも黙ってはいない。グラッセが高く跳び上がり、渾身の一撃をエステルに加えると、エステルもたまらず武器である棒を落とした。シンジが導力魔法を唱えようとすると、再びグラッツスペシャルで妨害された。
しかしカルナの魔法を封じた作戦が功を奏したのか、ベテラン遊撃士チームはグラッツとクルツの武器による攻撃以外に有効な攻撃手段を持たなかった。クルツが方術でサポートに回るが、カルナはほとんど何も出来ないまま膝をついた。
クルツとグラッツは体力もそれなりにあったが、エステルとヨシュアがクルツを、アスカとシンジがグラッツを相手にして二対一に持ち込み倒す事に成功した。試合を観た観客達も最後は両チームの健闘を称えた。
『次は情報部の特殊部隊の登場です! みなさま盛大な拍手を!』
次の第三試合では特務兵たちのチームが出場した。試合では赤い兜を被った隊長の男の剣術と、黒い兜から長い髪がはみ出ている女性隊員の銃の腕前が目立った。まだ二人とも実力を出していない様子だった。エステルたちに手の内を見せまいとする魂胆だろう。試合は特務兵チームの圧勝に終わった。
『本日最後の試合はカプア一家チームと王室親衛隊チームの対戦です!』
そしてこの日最後の第四試合の試合の組み合わせがアナウンスされると場内は大騒ぎになった。犯罪者までもが武術大会に出場するとは誰も予想していなかった、予選試合には無かったサプライズである。
『両チームとも罪を犯した者達ですが、本人たちは深く反省しており、この武術大会を盛り上げたいとの事で、デュナン公爵の特別な取り計らいがございました』
王室親衛隊はテロリストの疑いがあるとの話だったのに、この場ではテロリストと断言してしまっている。それでも観客たちは王室親衛隊のチームを応援していた。しかし試合はドルンの導力砲とキールの煙幕弾、ジョゼットの導力魔法のコンビネーションでカプア一家が勝利した。ユリア中尉の居ない王室親衛隊は不利だった。
7
「ムカつくわね、リシャール大佐のヤツ!」
試合を終えてホテルの部屋へと戻ったアスカはイライラが止まらなかった。武術大会もリシャール大佐の茶番劇として利用されていると感じたエステルたちは大きな怒りを覚えていた。
エステルとアスカが部屋の中でリシャール大佐への不満をぶちまけ合っていると、ヨシュアが部屋のドアをノックした。ヨシュアの話によると、ナイアルから《情報部》の情報を掴んだので、西街区にある《リベール通信本社》まで来て欲しいとの連絡が遊撃士協会からあったようだ。
これから武術大会の試合で特務兵とのチームと対戦する可能性は高い。赤い兜の隊長の情報が何か聞ければと思い、エステルたちはホテルを出てリベール通信社へと向かった。
「おお、連絡が付いたようだな」
リベール通信社の二階の編集部のデスクに座っていたナイアルは、エステルたちの姿を見ると顔を上げた。ナイアルは、最近王国軍の情報規制が厳しくなって、王室親衛隊や中央工房のテロ事件に関する記事が書けないと嘆いた。無難に武術大会を取材する事になったところ、エステルたちが出場しているのに気が付いたのだと話した。
「ドロシーのヤツ、お前たちが勝ったって大喜びしてたぜ。もちろん俺もお前たちを応援している。そこで情報部のやつらの経歴を集めてみたのさ」
あの赤い兜のロランス隊長の事も気になるが、一番知るべきなのはリシャール大佐だと判断したエステルは、まずリシャール大佐の経歴を閲覧した。
『アラン・リシャール』
ルーアン市生まれ。士官学校を首席で卒業した後、カシウス大佐の部隊に配属された。《百日戦役》ではカシウスの反攻作戦を遂行し、大きな戦果を挙げる。カシウス大佐が退任後、軍組織の改革を推し進め、情報部の設立を提案し、初代司令となる。
「エリート街道まっしぐらって感じね。まあ、エースパイロットのアタシほどじゃあないけど」
リシャール大佐の経歴を読んだアスカは胸を張ってそうつぶやいた。
『カノーネ・アマルティア』
王都グランセル生まれ。士官学校を次席で卒業後、リシャール大佐の推薦で情報部に所属。以後、リシャール大佐の副官となる。
「次席だって。いったい誰に負けたのかしらね」
アスカは笑いながらそう言った。カノーネ大尉が聞いたら怒るだろうとシンジは思った。士官学校の話題は禁物だ。意図的に怒らせる場合なら別だが。
『ロランス・ベルガー』
年齢、国籍不明。リシャール大佐が招き入れて情報部の少尉となった。彼の副官であるサトミ軍曹も同じく年齢、国籍不明。
「これって、何も分かっていないのと同じじゃない」
「すまねえな、経歴は全て抹消されていたって事だ」
エステルの言葉に、ナイアルは頭をかきながら答えた。分かった点は、リシャール大佐が勧誘するほど腕の立つ戦士だと言う事だ。
「ありがとうございます、これで少しは敵の姿が見えてきました」
ヨシュアはナイアルに向かって笑顔でお礼を言った。アスカは大した情報では無かったと不満顔を隠さなかった。ナイアルはそんなアスカをなだめるように声を掛ける。
「他にもとっておきの情報があるんだって。例えば、指名手配中のユリア中尉は士官学校でカノーネ大尉と同学年だったらしいぞ」
ナイアルの話を聞いてアスカにピンと来るものがあった。カノーネ大尉を負かせて首席で士官学校を卒業したのはユリア中尉の可能性が高い。
「なるほど、だからあの二人は仲が悪そうだったのね」
アスカは納得した様子でそうつぶやいた。王室親衛隊がテロリストとされている今の状況はカノーネ大尉にとって痛快であるに違いない。
「それと……これは今までの話とは全く関係が無いんだが、お前ら『クローディア姫』の事は知っているか?」
ナイアルに尋ねられたエステルたちはうなずいた。教会の日曜学校でも教えているアリシア女王の孫娘の事である。クローディア姫の両親である王太子夫妻は事故で亡くなってしまっていた。
「その姫殿下の結婚相手をとある人物が決めたらしい」
「結婚相手を勝手に決められるなんて、かわいそうですね」
ナイアルの話を聞いたシンジはそうつぶやいた。
「シンジ、この話の論点はそこじゃない。そのとある人物が問題なんだ」
「ほう、ヨシュアは分かっているみたいだな。それなら、お前さんには分かるかい?」
ヨシュアの言葉を聞いたナイアルは感心した様子でつぶやき、シンジに改めて質問した。
◆三択クイズ◆
Q.クローディア姫の結婚を強引に進めている人物は?
【アリシア女王】
【デュナン公爵】
【リシャール大佐】
※遊撃士としての資質を問うクイズです。
正解するとボーナスBPがもらえるので挑戦してみてください。
シンジは、パッと頭に思い浮かんだ人物が正しいのか悩んだ。人物の名前を挙げる事は出来るが、その理由まで説明できない。しかし、ずっと黙っているわけにもいかず、シンジは口を開いた。
「多分、リシャール大佐だと思います」
「ほう、分かっているじゃないか」
ナイアルの言葉を聞いてシンジはホッと胸をなでおろした。
「でもどうしてリシャール大佐がお姫様の結婚相手まで決めようとするわけ?」
「だからそこが面白いんじゃないか」
エステルの疑問の声にナイアルはニヤリと笑ってそう答えた。
「武術大会で勝って、宮中晩餐会に招待されたらその辺の事情を探って来て欲しいと言う事ですね」
「そう言う事だ」
ヨシュアの言葉を聞いたナイアルは笑みを浮かべた。
「だからアタシたちに色々教えてくれたわけね。何よ、応援しているなんて言ってくれちゃってさ」
アスカはウンザリとした顔でため息を吐き出した。編集部にある導力通信器の呼び出し音が鳴った。応答したナイアルはこれから人に会う約束が出来たと言って階段を降りて行った。
エステルたちも日が暮れないうちに遊撃士協会に行ってエルナンに報告をする事にした。話を聞いたエルナンはロランス少尉について詳しく調べると言った。彼がどこかの傭兵団に所属していたのなら経歴が分かるかもしれないらしい。
さらにエルナンは女王生誕祭の日に、エレボニア帝国の皇子が来る事がクローディア姫の結婚に関係しているかもしれないと話した。クローディア姫は16歳、結婚を急がせるのはリシャール大佐の策略の匂いがするとエルナンは言った。
最後にエルナンはエステルたちに地下水路の扉の鍵を渡した。武術大会の前に、手配魔獣を相手に修行をしてみてはどうかと言う提案だった。武術大会は一日の試合数が少なくなる毎に午後の遅い時間に開始される。早朝に探索してみるのも悪くない。
「おい君達、こんな夜遅くに何をしている?」
遊撃士協会を出たエステルたちは巡回をしている王国軍の兵士に声を掛けられた。兵士の話によると、テロ対策を強化するため今日から夜間の外出を禁止するのだと言う。エステルたちは兵士に従いホテルへと戻るのだった。
◆三択クイズ◆ 答え
Q.クローディア姫の結婚を強引に進めている人物は?
【アリシア女王】
【デュナン公爵】
〇【リシャール大佐】