アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第四十三話 シンジの悪夢再び! アスカとエステルはメイド失格!?

 

 武術大会が終わり、エステルたちは夕暮れ時の《王立競技場》の前に集まって決勝戦を振り返っていた。

 

「凄い戦いだったわね、ジンさんが強いとは知っていたけど、手を合わせてみたら圧倒的だったわ」

「俺もまだ『泰斗流』を極める修行中の身にしか過ぎないさ」

 

 エステルの言葉に、ジンはそう答えた。『泰斗流』は東方の国に伝わる武術の一つで、ツァイス支部のキリカは師匠の娘なのだとジンは頭をかきながら話した。ジンがキリカに頭が上がらないのはその辺の事情もあるのかもしれないとエステルたちは思った。

 

「しばらく見ないうちに、あんたたちも成長したじゃない」

「シェラ姉の導力魔法も、効いたわよ」

 

 シェラザードに声を掛けられたアスカは、腕を押さえながらそう答えた。クラウス市長の護衛で王都に来たシェラザードは急遽ジンとチームを組む事になったが、シェラザードはジンと一緒に仕事をした事もある仲であり、連携に支障は無かったのだと言う。

 

(……シェラ姉はジンとは付き合おうと思ったりしなかったの?)

(あたしがジンと知り合った時には、もうキリカの尻に敷かれていたのよ)

 

 アスカとシェラザードは小声でそんな事を囁き合うのだった。

 

「宮中晩餐会は今晩あるみたいだな。結構夜遅くまでやっているようだから、部屋も用意してくれているそうだぜ」

「フフフ、晩餐会で振舞われるリベールの宮廷料理を想像するだけでよだれが出そうだよ」

 

 ジンがそう言うと、オリビエは口元を手で押さえながらそうつぶやいた。

 

「そうはいかない、貴様の我儘もこれで終わりだ」

 

 厳しい表情をしたミュラーはオリビエの首根っこをガッチリと掴んだ。

 

「やだなぁミュラー君、そんな怖い顔をして、お楽しみはこれからじゃないか。ほら笑って……晩餐会に行っていいかな……? ……いいとも!」

 

 掴まれながらもオリビエはミュラーをなだめようとするが、ミュラーの表情は和らぐ事は無かった。

 

「……いいはずがあるか! もういい、黙れ。さっさと大使館へと戻るぞ」

「ハイ」

 

 オリビエは残念そうな顔でミュラーにそう答えた。ミュラーが来ている制服はエレボニア帝国の物、となるとオリビエはエレボニア帝国でそれなりの地位にある人物だと思われる。

 

「あの……晩餐会に行くぐらい良いんじゃないですか? デュナン公爵から招待も受けてるし」

「シンジクン、ナイスフォロー!」

 

 かわいそうに思ったシンジがそう声を掛けると、オリビエは嬉しそうに親指を立てた。ミュラーはいかつい表情で大きなため息をつきながら話し始める。

 

「考えてもみたまえ、王族や各地の有力者たちが集まる晩餐会にこのお調子者が参加したら、帝国の品位を問われる事にならないか?」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ミュラーの言葉に、その場に居たエステル、ヨシュア、アスカ、シンジ、ジン、シェラザードの全員が下を向いて黙り込んでしまった。

 

「誰かボクを弁護してくれる人はいないんですか?」

 

 オリビエはあわてた様子でエステルたちに問い掛けた。

 

「ごめんなさい、オリビエさん。ボクはミュラーさんの心配は正しいと思います」

 

 シンジの意見に、みんな一致してうなずいた。

 

「帝国と王国の終戦からまだ10年。国際問題を招いてしまってはまずいのだ。分かっただろう」

「あ~れ~!」

 

 ミュラーは叫ぶオリビエを引きずって去って行った。帝国大使館はこの王立競技場と同じ東街区にあるとはいえ、あれも帝国の恥さらしではないかとエステルたちは思った。

 

 

 

 

 オリビエを見送ったエステルたちは、市長の護衛の仕事に戻るシェラザードと別れて、ジンと一緒にグランセル城へと向かう事にした。晩餐会が終わったら、城の中に泊めてもらう予定なので、街で準備を念入りに整えた。

 ジンがデュナン公爵から受け取った招待状を兵士に渡すと、兵士はメイド長からも話は聞いているとの事で、城門を開いた。レイストン要塞と同じく二重構造になっているオーブメント仕掛けの城門が開くと、入口には赤い絨毯が敷かれていた。

 エステルたちがレッドカーペットを歩いて玄関広間へと入ると、今まで見て来た市長邸とは比べ物にならないほど豪華で、伝統と格式のある内装に目を奪われた。シンジとアスカはネルフの司令室など無味乾燥なもののように思えた。

 

「ようこそグランセル城へ。ジン選手御一行様でございますね」

 

 エステルたちを出迎えたのはメイド長と思われる落ち着いた風格のあるメイドの女性。そして情報部の制服を着たカノーネ大尉だった。

 

「私は城内の警備を担当しております、情報部のカノーネ大尉と申します。武術大会でのご活躍、お見事でしたわ」

 

 カノーネ大尉が少し皮肉めいた笑みを浮かべている事に、エステルとアスカはムッとした。自分たち情報部が手加減をしたからだとでも言いたげだ。

 

「そちらこそ、その若さと美しさでエリート部隊の大尉とは優秀でいらっしゃる」

 

 ジンがそう言うと、カノーネ大尉にとっては不意打ちだったのか、顔を赤らめて、

 

「そ、それほどでもありませんわ……」

 

 と答えた。照れ隠しをするように咳払いをしてから、カノーネ大尉はエステルたちに声を掛けた。

 

「お会いするのはツァイスの事件以来でしたわね?」

「どうも、御無沙汰しております」

 

 ヨシュアはそう言ってカノーネ大尉に頭を下げた。もっと緊迫した顔合わせになるところを、ジンの言葉が和らげてくれたのだ。

 

「残念ながらラッセル博士の行方はまだ掴めていないのです。遊撃士協会の方では何か手掛かりはありましたか?」

 

 カノーネ大尉の嫌味たっぷりな質問が来た。エステルは顔を背けて露骨にとぼけているが、それはやりすぎだ。

 

「あの事件は正遊撃士の方にお任せして、僕達は王都に向かう事になったんです」

 

 ヨシュアがカノーネ大尉に各支部の推薦状を集めるための修行の旅をしている事を説明すると、カノーネ大尉は表面上は納得した様子を見せた。

 

「そうですか、あなたたちが正遊撃士になるのを応援させて頂きますわ。まあ優秀な情報部の力をもってすれば、ラッセル博士の行方も掴めるでしょう」

 

 カノーネ大尉は挑発するような言い方で、エステルたちにそう話した。遠回しに遊撃士協会をバカにしているのだ。エステルとアスカは思い切りカノーネ大尉を睨みつけたが、ヨシュアは爽やかな作り笑顔でカノーネ大尉に頭を下げた。

 

「ラッセル博士は僕達の大切な恩人なので、よろしくお願いします」

 

 ヨシュアの演技に今度はカノーネ大尉が顔をしかめる番だった。メイド長がカノーネ大尉に視線を送ると、長話をし過ぎた事に気が付いたカノーネ大尉はエステルたちを今夜泊る部屋へと案内すると話した。

 

「それではヒルダ夫人、余計な事をお話ししてお客様に要らぬ心配をお掛けしない様に」

「心得ております」

 

 カノーネ大尉の言葉にヒルダ夫人はしっかりとした声で答えた。カノーネ大尉が立ち去ると、ジンがため息をついてつぶやいた。

 

「うーん、なかなかいい女だったな」

「アンタ、悪趣味ね」

 

 アスカがあきれた様子でそう言うと、ジンはあのように気が強そうに見える女性は、惚れた男の前ではデレデレして尽くす女になるのだと話した。

 

「そのギャップがたまらないのさ」

「何かそういうの、分かります」

「アンタバカァ!? 何を納得しているのよ!」

 

 神妙な顔でうなずくシンジをアスカは怒鳴った。

 

「改めて申し上げます。女官長をしております、ヒルダでございます」

 

 早くも目的の人物に出会えたエステルたちは、ユリア中尉の紹介状を渡そうと気が逸る。しかしヒルダ夫人は黙ってその動きを手で制止した。ここでは情報部の監視の目が光っているので余計な事はしない方が良いと知らせてくれたのだろう。

 ヒルダ夫人の後をついてエステルたちは玄関広間のカーブした長い階段を昇る。エステルたちの部屋は二階にあるらしい。階段を昇り終えたエステルは、天井のシャンデリアを見て歓声を上げた。

 

「うわぁ、あのシャンデリア、メイベル市長の家にあったやつの何倍も大きくて豪華だわ!」

「いちいち騒がないの。ロレントの田舎者だと笑われるでしょう、恥ずかしい」

 

 アスカはウンザリとした顔でエステルに注意した。ヒルダ夫人は正面の入口は《謁見の間》だと案内した。アリシア女王が訪問客と会う時に使われる部屋だとヒルダ夫人は話した。しかし最近はアリシア女王が体調を崩しているため使われていないとヒルダ夫人は言った。

 

「もう少しで生誕祭なのに、女王陛下の御病気はそんなに重いのか?」

「その質問にはお答えできません」

 

 ジンが尋ねると、ヒルダ夫人はキッパリとそう答えた。エステルたちはアリシア女王の病気の声明は何か訳がありそうだと感じ取った。ヒルダ夫人は左側の廊下に向かって歩き始めた。これ以上話す事は出来ないと言う意思表示なのだろう。

 

「こちらが皆様に使っていただくお部屋になります」

 

広めの部屋の中には豪華なベッドが六つ。有力者たちを迎える事も多いのだろう。テーブルや椅子も高そうなものが揃っていた。

 

「晩餐会が始まるまで、まだ時間がございます。城の中を自由に見学なさって構いませんが、警備を担当する情報部の方の指示で立ち入り禁止となっている区画もございます、お気を付けください」

 

 具体的にどのような場所が立ち入り禁止区域なのかエステルが尋ねると、ヒルダ夫人はアリシア女王の居る女王宮、一階の親衛隊の詰所、地下の宝物庫がそうだと説明した。

 現在、親衛隊の詰所は情報部が拠点としているのだとヒルダ夫人は話した。晩餐会の招待客はすでに全員到着し、部屋にいるのだろうとヒルダ夫人は言った。何かメイドに用事があったら一階のメイド控室にお越しくださるようにお願いしますと話してヒルダ夫人は部屋を出て行った。

 

「それじゃあジンさん、行ってきます」

「おう、俺はこの部屋で待っている。晩餐会の時間までには戻って来いよ」

 

 ヨシュアがそう言うと、事情を知っているジンはそう言ってエステルたちを送り出した。晩餐会に招待されている客の中にはクラウス市長を初めとしてエステルたちの知り合いがいるかもしれない。それにヒルダ夫人ともう一度会って話す必要がある。エステルたちは気合いを入れて城内散策に乗り出した。

 

 

 

 

 エステルたちの部屋の向かいの部屋では、クラウス市長とコリンズ学園長が同室となっていた。クラウス市長の護衛として来ているシェラザードも一緒だ。エステルたちの先輩であるシェラザードが近くの部屋に居る事は心強い。

 学園長は武術大会でエステルたちが優秀な成績だった事を知ればジルたちも喜ぶだろうと話した。クラウス市長と学園長はラッセル博士が誘拐され、アリシア女王が病気の時に晩餐会を開くデュナン公爵の考えが理解できないと話した。

 二人はアリシア女王へのお見舞いと、クローディア姫との面会を望んでいた。クローディア姫は離れた場所で暮らしているが、最近になって王都に帰って来たのだと話した。

 

「そう言えば、クローゼ君には会ったのかね?」

「えっ、王都に来てるの?」

 

 学園長に聞かれたエステルは聞き返した。学園長はクローゼは王都に着いたら遊撃士協会に顔を出すつもりだと話していたと言ったが、テレサ院長のところに立ち寄っているのかもしれないとつぶやいた。

 その後メイベル市長とマードック工房長とも話し、有力者たちの知り合いの話を聞き終わったエステルたちは、三階の空中庭園にあると言う女王宮を偵察する事にした。

 空中庭園に足を踏み入れたエステルたちは、その美しさに息を飲んだ。ヴァレリア湖を一望することが出来て、灯りが点るグランセルの城下町が眼下に広がる。平時ならば観光客がたくさん居るのだろうとエステルたちは思った。

 

「事件が無かったら、ゆっくりと景色を楽しんでみたいけど……残念ね」

 

 アスカはポツリとそうつぶやいた。空中庭園にはアリシア女王が国民たちに話をするための広いバルコニーと、アリシア女王が暮らしている女王宮がある。レッドカーペットが敷かれた先の女王宮の入口には特務兵が二人、見張りに立っていた。

 特務兵を倒して女王宮に突入するなんて作戦が出来るはずがない。エステルたちが遠くから女王宮の入口を眺めていると、ヒルダ夫人が女王宮の中から姿を現した。ヒルダ夫人はエステルたちの姿に気が付くと、女王宮には近づかないようにと再び釘を刺した。

 エステルたちもヒルダ夫人と一緒に二階へと降りた。道連れになったヒルダ夫人は招待客であるエステルたちをアリシア女王に面会させられない非礼を謝った。ヒルダ夫人は廊下で込み入った話は出来ないため、メイドたちの控室に行きましょうとエステルたちを案内した。

 メイド控室に着いたシンジは、ヒルダ夫人にユリア中尉の紹介状を渡した。筆跡を見ただけでヒルダ夫人は本物だと判断した様子だった。

 

「ラッセル博士の伝言を直接女王陛下へに伝えたい……ですか」

「はい、女王様が本当に御病気ならば仕方ないですけど……」

 

 ヒルダ夫人の言葉に、エステルはそう答えた。

 

「女王陛下の体調は問題ありませんが、女王宮の入口は特務兵たちが昼夜を問わず見張りをしている状況です。中に入れるのは女王陛下の身の回りの世話をする、ごく限られた者だけなのです」

「そうなると、女王様に面会するのは難しそうね……」

 

 アスカは腕組みをしてそうつぶやいた。

 

「それならヒルダさんにラッセル博士の伝言を頼むしかないんじゃないかな」

 

 シンジが提案すると、ヨシュアは難しい顔をした。

 

「僕達が直接会って伝えないと細かい所まで分かってくれないかもしれない」

「それならば、私に策があります。準備が必要なので晩餐会の後、またこちらに来ては頂けませんか?」

 

 ヒルダ夫人は真剣な表情でエステルたちにそう話した。どのような作戦なのか分からないが、アリシア女王に会えるとなれば嬉しい事だ。メイドたちの話によると料理も作り終わったのでそろそろ晩餐会も始まる頃だとヒルダ夫人は言った。エステルたちは一旦ジンの待つ自分たちの部屋へと戻る事にした。

 

 

 

 

 エステルたちが部屋に戻ると直ぐに、ヒルダ夫人が晩餐会の準備が出来たとエステルたち呼びに来た。

 

「さあて、たっぷりと食べさせてもらうか!」

「試合の後でとってもお腹が空いちゃった」

 

 ジンとエステルたちの言葉に、ヨシュアはテーブルマナーは守るようにと釘を刺した。

 

「アスカは、テーブルマナーとか分かるの?」

「当たり前じゃない。アタシはドイツではエースパイロットだったのよ。ドイツの首相と食事した事だってあるんだから」

 

 シンジに聞かれたアスカは胸を張ってそう答えた。葛城家の食卓ではフランクに振舞っているアスカからは想像もつかなかった事だけに、シンジは驚いた。もっとも、葛城家にはテーブルマナーを実践するだけの食器も無かったし、ミサトは高級レストランに二人を連れて行ったことも無かった。

 長くて大きなテーブル席の食卓に座ったエステルは不思議そうな顔でヨシュアに尋ねる。

 

「えっと、夕ご飯なのにどうして、ナイフとフォークがたくさんあって、料理がテーブルに置いてないの?」

 

 晩餐会の招待客はほとんどがエステルたちの知り合いだったとはいえ、アスカたちは顔を真っ赤にして俯いた。

 

「アンタバカァ!? コース料理も食べた事無いの? 順番に料理が出て来るのよ」

 

 アスカは小声でエステルにそう説明した。ナイフとフォークは外側から使って行くのよ、とアスカは付け加えた。

 

「後、床に落ちたものは食べたりしたら絶対にダメだからね」

 

 正面に座るメイベル市長はクスクスと笑った。

 

「料理は美味しく頂く事が大事なのですから、そんなに固くならずに。緊張しては料理の味も判らなくなってしまいますわ」

「そうだよね!」

 

 メイベル市長に声を掛けられたエステルは笑顔でそう答えた。料理を美味しく食べるためのテーブルマナーなんだけど、とヨシュアはため息をついた。

 

「ところで、そちらの御仁はナイフとフォークで宜しいのですか? 東方では箸を使って食事をするとお聞きしましたが」

 

 マードック工房長がジンに尋ねると、ジンは外国生活も数多く体験しているので問題は無いと答えた。この中で一番ナイフとフォークに慣れていないのはシンジなのかもしれない。シンジは普段はマイ箸を使って食事している。

 

「それにしても、デュナン公爵閣下はずいぶんと遅いですな。我々全員が揃ったというのに……」

 

 学園長の言葉にクラウス市長もうなずいた。テーブルの上座の席と、その近くのもう一つの席が空いている。上座に座るのはデュナン公爵に間違いない。もう一つの席に座るであろう人物もある程度は予測できた。

 

 ◆三択クイズ◆

 

 Q.晩餐会の最後の空席に座るのは誰?

 

 【アリシア女王】

 【クローディア姫】

 【リシャール大佐】

 

 

 

 ※遊撃士の資質を問うクイズです。

  挑戦してみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくすると、デュナン公爵の執事のフィリップが食堂に姿を現して宣言をした。

 

「大変長らくお待たせいたしました。公爵閣下の御入室でございます」

 

 相変わらずのカボチャヘアーのデュナン公爵は、リシャール大佐を引き連れて姿を現した。

 

「打ち合わせが長引いてしまってな。諸君、待たせてしまって申し訳ない。こちらは噂に名高いリシャール大佐。王国軍情報部の初代司令官だ。テロ事件解決のために日々、力を尽くしてくれているので、感謝の意を示すために晩餐会に招待した」

 

 デュナン公爵はそう言ってリシャール大佐を紹介した。

 

「ご紹介頂きました、王国軍情報部司令のリシャールです。公爵閣下の特別のご配慮で晩餐会に招待していただきました。野暮ったい軍服で失礼ですが、同席をお許し願いたい」

 

 リシャール大佐がしっかりとあいさつをすると、同席に異を唱える者は居なかった。リシャール大佐と同じテーブルで食事をする事になったエステルは緊張で料理の味も判らなくなった……と言う事も無く、しっかりと食欲を発揮するのだった。

 ガサツとズボラに思えたデュナン公爵はやはり食べ方は眉をひそめたくなるほど汚いものだった。ワインを飲むペースも結構早いようで、デュナン公爵は顔を赤くして上機嫌になっていた。

 

「今宵は無礼講だ。酒もたっぷりあるから遠慮なく飲むが良い!」

 

 デュナン公爵がそう言って自分の気前の良さをアピールすると、リシャール大佐が少し慌てた様子で口を挟んだ。

 

「公爵閣下、その前に例の話をしてしまってはいかがでございますか?」

 

リシャール大佐はデュナン公爵が酔っぱらってしまう前に重要な話をするように促した。

 

「この晩餐会に王国を代表するそなた達を招待した訳とは……重大な発表があるからだ」

 

 デュナン公爵が宣言すると、晩餐会の出席者の視線がデュナン公爵に集中した。

 

「恐縮ながら私が代わりに説明致します」

 

 リシャール大佐は落ち着いた口調で話し始めた。

 

「女王陛下が御不調なのは皆様ご存知でしょう。それは王都を騒がせているテロ事件の心労もあっての事です。しかし我々は数日中にテロリストどもを一掃させてみせます。そうすれば女王陛下も快方に向かい、女王生誕祭は例年通り行われる所存です」

「生誕祭は国民が心待ちにしている一大行事、それは素晴らしい事でありますな」

 

 リシャール大佐の話を聞いた学園長はそうつぶやいた。

 

「しかし他にもっと重大な話があるのでしょう?」

「確かにそれだけならば顔を合わせて集まる必要はないでしょうからな」

 

 学園長の言葉にマードック工房長は同意したように言った。リシャール大佐は笑みを浮かべた。

 

「お察しの通りです。女王陛下が回復されるのは先ほどお話しされた通りなのですが、陛下は今回の御不調を機会に、御自身が退位される事を決断されました」

 

 リシャール大佐がそう話すと、食堂の空気は凍り付いた。アリシア女王が退位するなど、耳を疑うような話だ。

 

「それで……王位は、クローディア姫が継がれるのかね?」

 

 一番最初に冷静さを取り戻して尋ねたのは学園長だった。

 

「いえ、王位を継承されるのは、ここにおられるデュナン公爵です」

 

 リシャール大佐がそう言い放つと、食堂に居た招待客の誰もがあごを外しそうなほど驚いた。

 

「アンタバカァ!?」

 

 シンジはあわててアスカの口を押えた。王室侮辱罪で逮捕されても仕方ないほどの暴言だったが、エステルたちは必死に頭を下げて謝り、まだ年の若い遊撃士だという事で何とか許してもらえた。アスカとデュナン公爵はとことん相性が悪いようだ。

 

「今夜は無礼講だと言ったのは私だ、今の無礼は許そう」

 

 デュナン公爵は機嫌が良いのか、アスカの言葉を聞き流したようだった。

 

「私は最初は陛下を励ましていたのだが、陛下は思ったよりも弱気になられてな。女性の身でありながら40年、激動の時代にリベールを治めてくださったのだ。限界を感じる御気持ちも分る。生誕祭を最後にゆっくりと休ませて差し上げたいと、王位継承者としてそう決意したのだよ」

 

 デュナン公爵の言っている事はもっともらしく聞こえるが、リシャール大佐の陰謀によるものであることは間違いない。しかしリシャール大佐の企みを知っているのはエステルたちだけだ。

 

「陛下がそこまでお悩みだったとは、気付けなかったとは私は情けない……」

 

 クラウス市長は苦し気な表情でそうつぶやいた。

 

「ですが、このような宴席で話すのには相応しくない話の内容ですわ。失礼ですが、場を改めてお決めになる事ではないでしょうか」

 

 メイベル市長は困惑した表情でデュナン公爵に向かってそう話した。デュナン公爵の表情が不機嫌なものに変わった。

 

「メイベル市長、閣下の即位に納得が行かないとおっしゃるのですか」

 

 リシャール大佐が冷たい声でメイベル市長に尋ねた。

 

「私は市長が選挙で決まるのと同じように、王位継承にも然るべき手順があるのではないかと言っているのです」

 

 メイベル市長は若いながらもリシャール大佐に呑まれずにしっかりとした口調で言い返した。

 

「そうですな、陛下が不在のまま決めて良い話ではないでしょう」

 

 マードック工房長もデュナン公爵に反対する意見を述べた。デュナン公爵は何も言い返す事は出来なかった。

 

「みなさんの動揺は分かりますが、冷静になって頂きたい。生誕祭では陛下御自身がデュナン公爵に王位継承の儀式を執り行うでしょう」

 

 リシャール大佐は落ち着いた声でそう話した。我儘なデュナン公爵に政務など出来るとはとても思わない。王国の実権を握るのはリシャール大佐になってしまうだろう。それだけは阻止しなければならないと思うエステルたちだった。

 

「問題なのは、王位継承が行われた時に国民が混乱してしまうかもしれない事です。だから前もって王国各地の責任者である皆さんに伝えておきたいと、公爵閣下の御英断です」

 

 リシャール大佐が落ち着いた声で説明すると、デュナン公爵はその通りだと大きくうなずいた。

 

「そして王位継承の隙を狙って、エレボニア帝国が要らぬ野心を抱きかねません。そうならないためにも、我々はデュナン公爵を盛り立てて一致団結するべきなのではないでしょうか」

 

 リシャール大佐の演説を、クラウス市長たちは真剣な表情で聞いていた。

 

「恐怖や不安で人を煽り立てる、たいした扇動者ね」

 

 アスカがそうつぶやくと、リシャール大佐の眉が動いた。これ以上アスカが無礼な発言を続けると、つまみ出されてしまう恐れもある。シンジは気が気では無かった。

 

「気になる事があるのだが、デュナン公爵の他にも同等の王位継承権を持つ方がいらっしゃるはずでは?」

 

 学園長がそう発言すると、デュナン公爵は目に見えて動揺した。しかしリシャール大佐は落ち着き払って答えた。

 

「陛下のお孫さんのクローディア姫の事ですね。しかしクローディア姫はまだ16歳、王位継承には若すぎるという理由もあって、陛下は公爵閣下に王位を譲る事を決断されたようです。先ほど公爵閣下も言われた通り、女性の身に余るほどの重責を姫に背負わせたくはないとお考えなのでしょう」

 

 リシャール大佐が話し終わると、またもやデュナン公爵はその通りだと大きくうなずいた。デュナン公爵がクローディア姫の縁談話も順調に進んでいると話すと、メイベル市長は驚きの声を上げた。

 

「新しい王の誕生と、姫様のご成婚、おめでたい事が二つも続くわけですな」

 

 学園長は感心したようにつぶやいた。

 

「この話は遊撃士協会にも伝えたいと思っていた。遊撃士諸君も帰ったら報告をしてくれたまえ」

 

 リシャール大佐はエステルたちにそう声を掛けるのだった。

 

 

 

 

 波乱に満ちた晩餐会が終わった後、エステルたちは自分の部屋へと戻った。ジンは自分の国の話ではないが、放っては置けないと協力を約束してくれた。エステルたちがヒルダ夫人に呼ばれてメイド控室に行っている間、ジンは談話室でさり気なく噂話を集めると話した。

 エステルたちがメイド控室に行くために一階へと降りようとすると、下から昇って来るリシャール大佐とカノーネ大尉の二人に鉢合わせとなってしまった。なんとかごまかしてやり過ごしたいところだが、リシャール大佐はカシウスの子供であるエステルたちと話がしたいと言い出した。

 

「しかし、デュナン公爵との打ち合わせがあるのでは……」

「カノーネ君はデュナン公爵の所へ行って、私が少し遅れると話しに行ってくれ」

 

 リシャール大佐にそう頼まれたカノーネ大尉は、エステルたちを鬼のような顔で睨みつけて去って行った。エステルたちはメイド控室に用事がある事を悟られるわけにはいかず、リシャール大佐に付き合って談話室へと行く事になってしまった。

 

「私がカシウス大佐と出会ったのは、士官学校を卒業した日の事だ。彼に直接、独立機動部隊に入らないかと声を掛けられてね……それからずっとカシウス大佐が退役するまで公私にわたって面倒を見てくれたんだ」

 

 談話室に着くなり、リシャール大佐はカシウスと会った時の昔話を始めてしまった。

 

「なるほど、そうだったんですか」

 

 エステルは適当に相槌を打った。

 

「『剣聖』とまで呼ばれる剣の腕、森羅万象の戦況に柔軟に対応できる指揮能力、戦術の枠を超えた高度な戦略レベルでの部隊運用。カシウス大佐は私にとっての『英雄』だったよ」

「あの髭親父がねえ……」

 

 リシャール大佐の話を聞いたアスカは肘を付きながらため息を吐き出した。

 

「《百日戦役》の時もカシウス大佐の下で戦ったよ。彼が立てた奇跡のような作戦が成功した時の熱気と興奮は今でも覚えているよ……」

 

 リシャール大佐の『奇跡の作戦』という言葉を聞いて、シンジは空中から落下する使徒をエヴァ三機で受け止めて殲滅した時の事を思い出した。ミサトは成功確率は奇跡的だと言っていた。あの作戦が成功した時の高揚した気持ちは、今でも忘れられない。

 

「あの時、カシウス大佐が王国軍にいなかったら、リベール王国はエレボニア帝国の軍門に下っていただろうと断言できる」

 

 真剣な表情でリシャール大佐はそう言い放った。

 

「今でもカシウス大佐を英雄と慕っている軍人は居るのだよ」

「父さんからそんな話、一言も聞いた事無い」

 

 エステルは不機嫌そうに頬を膨れさせた。

 

「まあ、わざわざ自分の子供に自慢するような話じゃないよ」

 

 ヨシュアはそう言ってエステルをなだめた。

 

「ヨシュアも父さんの今の話、知っていたわけ?」

「リシャール大佐が父さんの部下だって事は知らなかったけど、その他の事は概ね知っていたよ」

 

 エステルが詰問するとヨシュアは涼しい顔でそう答えた。

 

「落ち着きなさいよエステル、アンタが歴史の授業をサボっていただけでしょうが」

 

 アスカがエステルにそう声を掛けた。《百日戦役》について調べれば、カシウス・ブライトの名前は出て来る。エステルは歴史書を読むのが苦手だったのだ。

 

「父さんが帰って来たら、懲らしめてやるんだから!」

 

 エステルがそう言って怒ると、リシャール大佐は穏やかな笑顔で笑った。

 

「すみません、話の途中なのに」

 

 シンジがリシャール大佐に謝ると、リシャール大佐は優しい口調で話し始めた。

 

「カシウス大佐が軍を辞める時、私は慰留したのだが……軍を辞めて君たちの側に居る事で、カシウス大佐は奥さんを亡くされた悲しみから立ち直れたのだと思う」

 

 リシャール大佐はエステルの母親のレナの事も知っていると話した。今のエステルは見かけだけはレナに似た美しさを持っていると話した。性格はカシウス大佐に似ていると言って、大声で笑った。

 

「すっかり話し込んでしまったね。話に付き合ってくれて本当にありがとう。公爵閣下をあまり長く待たせるわけにもいかないから、これで行かせてもらうよ」

 

 そう言ってリシャール大佐はソファーから立ちあがった。

 

「すみません、僕達は話を聞いてばかりで」

 

 ヨシュアがリシャール大佐に謝ると、リシャール大佐は首を横に振った。

 

「いや、君たちと話して踏ん切りがついたよ、ありがとう」

 

 リシャール大佐は真剣な表情でエステルたちにお礼を言った。

 

「それってどういう意味よ?」

 

 アスカが尋ねると、リシャール大佐は柔らかな笑顔を作ってエステルたちに声を掛けた。

 

「また今度、カシウス大佐と一緒に話せる機会があれば良いな。君たちが正遊撃士になれる日を楽しみにしているよ」

 

 リシャール大佐は優し気に話すと、談話室を去って行った。

 

「えっと……今まであたしたちが話していたのは本物のリシャール大佐よね?」

 

 エステルが不思議そうな顔でそうつぶやいた。

 

「エステル、何を言ってるのさ。《怪盗B》が化けた偽者だとでも言いたいの?」

 

 ヨシュアが呆れた顔でそう答えた。

 

「何か……もっと悪人だってイメージがあったから」

「アンタねえ、分かりやすい悪人ってのは雑魚が多いのよ」

 

 エステルの言葉にアスカはため息混じりに話した。

 

「リシャール大佐には自分なりの正義があるのよ。アンタもガンダムを観て勉強をしなさい」

「ガンダム?」

 

 エステルはアスカの言葉に首を傾げた。

 

「とにかくリシャール大佐の計画を止めないといけないのは確かな事だよ」

 

 ヨシュアの言葉にエステルたちはうなずき、ヒルダ夫人の待つメイド控室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 エステルたちがメイド控室に顔を出すと、ヒルダ夫人は随分と遅かったと厳しい表情で話した。ヒルダ夫人は普段からメイドの仕事の時間に厳しいのだろう。

 

「すみません、リシャール大佐に捕まって話をさせられて……」

「こちらの動きを悟られないようにするために断るわけにもいかなかったんです」

 

 シンジとヨシュアが謝りながら釈明をすると、ヒルダ夫人は事情を察したのか、怒りを鎮めたようだ。さっそく女王宮に入るための準備をすると話したヒルダ夫人は、エステルたちをメイドの制服がある奥の部屋に案内した。

 

「あなた方のうち二人には、私と一緒に女王様の世話をするメイドとして女王宮に入って頂きます」

 

 ヒルダ夫人の言葉を聞いたエステルとアスカは、跳び上がって興奮した。

 

「あたしってメイドの制服を着てみたかったのよね」

「メイドの制服ってかわいいわね」

 

 盛り上がるエステルとアスカに向かって、ヒルダ夫人は大きな音で咳払いをした。

 

「残念ですが、あなた方御二人は居酒屋のウェイトレスならまだしも、王城のメイドとしては失格です」

 

 ヒルダ夫人がそう断言すると、エステルとアスカは驚きの声を上げる。

 

「あんですって~!?」

「どういう事よ!?」

 

 抗議をするエステルとアスカに向かって、ヒルダ夫人は理由を上げた。エステルは歩き方が完全に男性的で落ち着きが無く、テーブルマナーや作法も知らない。アスカは、晩餐会の場で公爵を怒鳴りつけるなど言語道断。いくら洞察力の鈍いデュナン公爵でもそろそろアスカの顔を覚えているかもしれない危険もあった。

 

「それじゃあ、女王宮に入る二人って誰の事?」

 

 エステルがヒルダ夫人に尋ねると、ヒルダ夫人はヨシュアとシンジの方に顔を向けた。二人の背中に嫌な汗が流れる。

 

「あなた方なら、王城のメイドとして通用するかもしれません。髪型を変えて化粧をすれば、顔の印象は変わるものでございますし」

「えーっ!?」

 

 シンジの悲鳴にも似た驚きの声が、部屋に響き渡った。確かにルーアンの学園祭での男女逆転劇の経験が活かせるチャンスではあった。エステルとアスカは怒る事を止めてニヤニヤとシンジとヨシュアを見ている。

 シンジとヨシュアにとっての《悪夢》が再び訪れたのだった……。




 ◆三択クイズ◆ 答え

 Q.晩餐会の最後の空席に座るのは誰?

 【アリシア女王】
 【クローディア姫】
〇【リシャール大佐】
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