アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第四十四話 悪酔いデュナン公爵のお持ち帰り!? シンジの危機!?

 

 メイド用の衣装には長い黒髪のヘアピースも用意されていたようで、シンジとヨシュアはヒルダ夫人によってテキパキと可憐なメイドへと変身させられてしまった。ルーアンの学園祭の演劇で女性の立ち振る舞いの指導を受けていたシンジとヨシュアは、直ぐに順応してしまった。

 さらにシンジとヨシュアは料理も掃除も出来るので、本当に就職しても問題無しとヒルダ夫人に太鼓判を押された。落ち込んでしまうシンジとヨシュアを見て、アスカとエステルはお腹を抱えるほど笑っていた。

 

「あなた方も笑っているのではなく、恥ずかしいと思うべきですよ」

 

 ヒルダ夫人にそう言われたエステルとアスカは笑うのを止めて落ち込んだ表情になった。

 

「あたしたちは別に、メイドになりたいわけじゃないもん、ねえアスカ」

 

 そう言ってエステルは頬を膨れさせている。エステルとアスカはこのままメイド控室で待つ事になった。退屈しのぎに他のメイドと話に花を咲かせている。

 

「御二人とも、目を見張るほどお似合いですね。照れを無くせば上流階級の御屋敷のお抱え侍女と言っても通用なさいます」

「シンジ、このままここに就職しちゃえばどう?」

 

 アスカがニヤリと笑ってシンジに声を掛けた。

 

「もうどうでもいいよ……」

 

 シンジは顔を赤くしながらモジモジしながらそう言った。

 

「それではこれから、女王宮へと向かいます」

「はい」

 

 ヒルダ夫人の言葉に、ヨシュアは覚悟を決めて返事をした。

 

「頑張ってね~」

 

 無責任なエステルたちの言葉に送られて、ヨシュアとシンジはメイド控室を出発するのだった。

 

 

 

 

 女王宮を見張る特務兵たちはヒルダ夫人と二人のメイドの姿を見ると用件を尋ねた。ヒルダ夫人はアリシア女王に紅茶とお菓子をお持ちしたと答えた。

 

「おや、そちらのメイドたちは見た事の無い顔ですが?」

 

 特務兵の男がそう尋ねると、ヒルダ夫人は平然と答える。

 

「公爵閣下の命により新たに採用した、メイドの見習いです」

「ふーむ、さすが()()公爵閣下が目を付けるだけあって可憐ですね」

 

 特務兵たちはヒルダ夫人の説明に違和感を覚えることなく納得した様子で二人のメイドを見た。デュナン公爵の女好きは周知の事実で、デュナン公爵が城に来てから辞めてしまうメイドも居たのだ。

 メイドに扮したシンジとヨシュアは黙って頭を下げた。特務兵たちは二人の顔をじっと見つめると、どこかで見覚えのある顔だなとつぶやいた。情報部ではすでにエステルたちの事は調査対象に入っているのかもしれない。

 

「こら、はしたない。年頃の娘の顔をまじまじと見るとは品格に欠ける行為ですよ」

 

 ヒルダ夫人に注意された特務兵たちはあわててメイドたちから視線をそらした。

 

「王国軍のエリート部隊である我々がその様な事は致しません」

「それならばよろしい」

 

 特務兵たちを手玉に取るヒルダ夫人の態度に、シンジとヨシュアは感心してしまった。

 

「それでいつまで入口を塞いでおられるのですか?」

「これはご無礼を致しました!」

 

 ヒルダ夫人にそう言われた特務兵たちはあわてて横へと退いた。ヒルダ夫人は堂々と入口の真ん中を通る。女王宮の玄関広間に無事に入れたヨシュアとシンジは深いため息をついた。ヒルダ夫人の演技には感心させられるばかりだ。

 

「さて、そのままの格好で陛下にお会い致しますか?」

 

 そう尋ねるヒルダ夫人には少しだけからかうような表情が混じっていた。

 

「是非とも、着替えさせてください」

 

 シンジは力いっぱいそう主張するのだった。

 

 

 

 

 シンジとヨシュアは女王宮にある部屋でメイド服から貴族の礼服へと着替えた。アリシア女王に普段着で会うわけにはいかないからだ。

 

「ところでヒルダさん、この部屋はもしかしてクローディア姫のお部屋ですか?」

「その通りで御座います。普段は王城に住んでいらっしゃらないので、ほとんど使われる事はありませんが……」

 

 ヨシュアに尋ねられたヒルダ夫人は寂しそうな表情でそう答えた。

 

「でも、お姫様は王都に戻って来ているという話を聞きましたよ」

 

 シンジがそう言うと、ヒルダ夫人は言葉を詰まらせた。

 

「それはリシャール大佐の流したフェイクニュースですか」

「私の口からは申し上げられません、陛下からお話があるでしょう」

 

 ヨシュアの質問にヒルダ夫人はそう答えた。アリシア女王の部屋は女王宮の二階にあるのだとヒルダ夫人は話した。二階に昇ったヒルダ夫人はアリシア女王の部屋のドアをノックした。

 

「陛下、お話にあったヨシュア殿とシンジ殿をお連れ致しました」

「ご苦労様でした」

 

 部屋の中から凛とした老婦人の声が帰って来た。とても病気だとは思えないしっかりとした張りのある声だった。この声の主が今年60歳を迎えるアリシア女王なのだろう。

 

「どうぞ、お入りになって」

「承知いたしました。私は部屋の前で待たせて頂きます」

 

 アリシア女王のそう答えると、ヒルダ夫人はドアの脇に立ってヨシュアとシンジにそう話した。

 

「失礼します」

 

 ヨシュアとシンジは緊張しながらアリシア女王の部屋へと入った。部屋の中には髪は真っ白に染まっているものの、気品あふれる女性が穏やかな笑顔でヨシュアとシンジを迎え入れた。

 

「ようこそいらっしゃいました。わたしくはアリシア・フォン・アウスレーゼ。リベール王国の第26代国王です」

 

 アリシア女王のドレスは派手な色は使われてはいないが、エメラルドグリーンの宝石があしらわれたイヤリングやペンダント、髪留めで揃えられており、一国の元首としての風格があった。

 

「……ヨシュア・ブライトです。準遊撃士です」

「……シンジ・ブライトです。同じ準遊撃士です」

 

 緊張しながらアリシア女王に自己紹介をすると、アリシア女王は親し気に声を掛けた。

 

「ヨシュアさんと、シンジさんですね。伝え聞く話を聞いてから、あなたたちに会える日をとても心待ちにしていました。さあ、お茶でも飲みながら、ゆっくりとお話をしましょう」

 

 アリシア女王は自らの手で紅茶を淹れてヨシュアとシンジに振舞った。ヨシュアはこの機会を逃すまいと、アリシア女王にラッセル博士の伝言を漏らさず詳細に話した。アリシア女王は口を挟まず真剣にヨシュアの話を聞いていた。

 

「ラッセル博士の危惧する、導力現象を停止させる《黒のオーブメント》をリシャール大佐が手に入れているとは驚きました……」

 

 ヨシュアの話を聞き終えたアリシア女王はそうつぶやいた。

 

「わたくしにはリシャール大佐が導力停止現象を起こそうとしている理由に心当たりがあります。それは王家の秘密に関する事です。リシャール大佐がどうやってその情報を知ったのか不思議でなりません」

 

 アリシア女王は困惑した表情で深いため息を吐き出した。

 

「その王家の秘密と言うのは……?」

 

 ヨシュアが尋ねると、アリシア女王は二人の顔をじっと見つめた。

 

「リシャール大佐の企みを止めて頂けるのであれば、お話しするしかないようですね」

 

 アリシア女王は真剣な表情で王家の秘密を話し始めた。十数年前に王都の地下に巨大な導力反応がラッセル博士の調査により検出されたらしい。それは地下水路よりもさらに深い深度から検出されたようだ。

 ラッセル博士は導力エネルギーが失われていない古代文明の遺跡が眠っているのではないかと話していたとアリシア女王は言った。

 

「古代文明の遺跡って、もしかして……」

「ダルモア市長も《アーティファクト》と呼ばれる古代導力器を持っていたね」

 

 シンジの言葉に、ヨシュアはそう答えた。

 

「塔の頂上にある装置もそうなのかな?」

 

 シンジはそうつぶやいた後、自分とアスカが塔の頂上からこの世界へと召喚された存在だと話すと、アリシア女王は《四輪の塔》の異常現象の話は聞いていると答えた。

 

「でも動いている古代遺跡が王都の地下深くにあるって事は……」

「その古代遺跡の導力を停止させるために《黒のオーブメント》が使われるという事ですね?」

 

 シンジの言葉を受けて、ヨシュアはアリシア女王に確認するように尋ねた。

 

「ええ、その通りですがその遺跡が何のために地下深くに造られたものなのかは、王家の伝承にもはっきりとは伝えられていないのです。ラッセル博士の調査でも遺跡の謎を解明するには至りませんでした……。リシャール大佐が遺跡の目的が分かっているとしたら、わたくしには不思議でなりません」

 

 アリシア女王の話を聞いたシンジとヨシュアは落胆の色を隠せなかった。

 

「とにかく、良くない事が引き起こされようとしているには確かなようですね」

 

 ヨシュアは真剣な表情でそうつぶやいた。

 

「リシャールさんは良い人そうなのに、何でそんな事をするんだろう。みんなを不幸に巻き込もうとするのなら、遊撃士として何とかリシャールさんを止めないといけないね!」

 

 シンジは強い意志を秘めた顔で、そう言い放った。そんなシンジとヨシュアの様子を見て、アリシア女王は嬉しそうに微笑んだ。

 

「やはりカシウスさんのお子さんたちね」

 

 アリシア女王はカシウスは亡くなった王太子の友人であり、王国を救った英雄として面識があると話した。あふれ出る才能を隠すように敢えて三枚目を演じるところが彼の優れた人柄だとアリシア女王は言った。

 カシウスが退役した後も、遊撃士としての依頼をする事があったのだとアリシア女王は話した。アリシア女王はカシウスの活躍について伝えるのは自分の役目かもしれないと言って、少し長い昔話に付き合ってはくれないかと尋ねると、シンジとヨシュアはうなずいた。二人の了解を得たアリシア女王は話を始めた……。

 

「十年前の春、エレボニア帝国の南部の、リベール王国との国境に近い小さな村が焼き討ちに遭い、滅ぼされてしまいました。最初は野盗の仕業かと思われましたが、リベール王国軍が関与している証拠が見つかると、帝国はリベールに突如侵攻を始めたのです。《百日戦役》と呼ばれる事になる両国にとって大きな不幸な出来事でした」

 

 アリシア女王はそこまで話すと紅茶を一口飲んだ。

 

「帝国軍はあっという間にハーケン門を突破し、王国は王都を残して全土を帝国に占領されてしまいました。帝国軍は王国軍の三倍だったという話です。同盟関係にあったカルバード共和国からの援軍も帝国に蹴散らされ、王都陥落も目前でした」

 

 ここからどうやって王国軍は逆転を果たしたのか、シンジは聞き逃さまいと神経を集中させた。

 

「しかしその時です……予想もつかない形で戦局が動きました。レイストン要塞を発進した王国軍の警備飛行艇が、王国の各地方を結ぶ関所を奪還し、陸路で侵攻していた帝国軍の補給路を断ちました。そして補給を断たれて士気の大きく低下した帝国軍は王国軍に降伏して行ったのです」

 

 補給路を断たれた帝国軍は大きな混乱に陥った事はヨシュアにも想像が出来た。

 

「この作戦を立案したのが、カシウス・ブライト大佐、あなたたちのお父様でした。帝国軍の捕虜を無傷で返すという事を条件に、帝国と王国の間では講和条約が結ばれました」

 

 アリシア女王はそこまで話すと、しばらく言葉を詰まらせた。少し話し辛い事なのだろう。

 

「ですがカシウス大佐はこの戦いで奥様を失ってしまったのです。エステルさんのお母様です。ロレントの時計塔は、カシウス大佐の作戦によって追い詰められた帝国軍の戦車に乗っていた兵士によって砲撃されたのです。……自分の作戦のせいで奥様を死なせてしまった。最愛の娘を独りにしてしまった。その自責の念からカシウス大佐は軍を辞めたのです」

 

 アリシア女王の話を聞いたシンジとヨシュアは胸が締め付けられる思いがした。エステルの母親が死んだ事件にそのような事情があったとは、とても自分たちの口からエステルに伝えにくいものだった。

 

「カシウスさんに奥様の死の責任はありません。全ては帝国の侵攻を防げなかったこの無力な女王のせいなのです。エステルさんに、お母様を守る事が出来なくてごめんなさいと伝えてください……」

 

 悲痛な表情でそう謝るアリシア女王にヨシュアは声を掛けた。

 

「女王様はこの国の平和を守るために尽力なされている、だから女王様に非はありませんとエステルもきっと言うと思います」

「ありがとう。きっとエステルさんもアスカさんも、あなたたちと同じように優しい子なのでしょうね」

 

 ヨシュアの言葉を聞いたアリシア女王はハンカチで目に浮かんだ涙を拭った。

 

「それではこれでラッセル博士の依頼は終わりという事にさせてください」

 

 アリシア女王がそう言うと、シンジとヨシュアは驚いた顔でアリシア女王を見つめた。

 

「これ以上、あなたたちを危険な目に遭わせたくは無いのです」

「でもボクたちはユリアさんから女王様の力になるように依頼を受けました」

 

 アリシア女王の言葉に、シンジは強い意思をたぎらせた瞳でそう答えた。

 

「あなたたちはロレントのお家に帰って、カシウスさんの帰りを待つのです」

 

 そう告げるアリシア女王の意思も固いものだった。

 

「しかし父カシウスと陛下が守り続けて来た平和が崩れようとしているのを、黙って見ているわけには参りません!」

「ボクたちも遊撃士として王国の様々な場所を旅してきました。違う世界からやって来たボクたちにみんな色々優しくしてくれました。ボクはそんなみんなを守りたいんです!」

 

 ヨシュアとシンジがそう訴えかけると、アリシア女王の心を打ったようだ。

 

「分かりました。それならばわたくしから遊撃士協会に改めて依頼したい事があります」

 

 アリシア女王の言葉を聞いたヨシュアとシンジの顔が明るくなった。

 

「わたくしからの依頼は、情報部によって監禁されている人々の救出です。わたくしの孫娘であるクローディアも囚われているのです」

 

 アリシア女王の話を聞いたシンジとヨシュアは、王都に帰って来ているはずのクローディア姫が、女王宮の自分の部屋に居なかった訳を理解した。ヒルダ夫人は言葉を濁していたが、クローディア姫はリシャール大佐に捕まっていたのだ。

 

「リシャール大佐がクーデターを起こしたそもそもの原因は、わたくしが次期国王としてクローディアを指名しようとした事です。デュナン公爵は我が甥ですが、甘やかされて育ったためか、王としての資質に欠けていると判断しました。対して孫娘はまだ未熟ですが、その才能には光るものがあると思いました。王国の未来のために、わたくしはクローディアを次期国王にすると決心したのです」

 

 シンジとヨシュアはクローディア姫とは会ったことも無いが、デュナン公爵を見る限りアリシア女王の決断は正しいと思った。

 

「しかしどのような時代でも女性が権力者になる事に反抗心を生む風潮はあるものです。それにも増して、王国は帝国から侵略を受けて間もない。乱世を切り抜けるには女性君主では心許ない、再び帝国の侵略を受ける事になるかもしれない。そうリシャール大佐が考えるのも無理はないでしょう」

「でも、どうして女王様がクローディア姫を次期国王にしようとした事をリシャール大佐は知ったのでしょう?」

 

 アリシア女王の話を聞いたヨシュアは不思議そうな顔でそう尋ねた。いくら情報部だからと言ってそこまでの情報を掴めるものなのか疑問に思った。

 

「それは分かりませんが、リシャール大佐がデュナン公爵を担ぎ上げてクーデターを決行したのは確かです。公爵を傀儡にして、リベール王国を強大な軍事国家にするのが目的なのでしょう」

 

 アリシア女王の話を聞き終わったヨシュアとシンジはリシャール大佐の企みが見えてきた気がした。軍事費の拡張、大量破壊兵器の開発、徴兵制の拡大、傭兵団を雇入れたりする事だ。

 

「リシャール大佐がクーデターを起こしたのは、純粋な愛国心からだとは思いますが、わたくしは軍事力だけが平和を守っているとは思えないのです。他国と協調する外交努力や技術交流、経済的な繋がりも国を守る事だと考えています」

 

 そう主張するアリシア女王の意見にシンジとヨシュアは賛成の意味も込めてうなずいた。

 

「しかしリシャール大佐はわたくしの考えを女々しい理想論だと否定しました。そしてクローディアを人質にわたくしに退位を迫ったのです。多くの者たちが家族を人質に取られてリシャール大佐に逆らえないでいます。モルガン将軍もその一人です。わたくしは一国の主としてテロリストに屈するわけには参りません。ですが、クローディアはわたくしにとって可愛いただ一人の孫娘。見捨てるわけにはいかないのです」

 

 そう話したアリシア女王が苦しい表情をすると、シンジとヨシュアはアリシア女王をしっかりと見つめて強い口調で言った。

 

「依頼の件、承知しました」

「クローディア姫様たちはボクたちが助け出してみせます」

 

 ヨシュアとシンジの言葉を聞いたアリシア女王は嬉しそうに微笑んだ。

 

「ありがとう、ヨシュアさん、シンジさん。エステルさんとアスカさんにもよろしくお伝えください。わたくしも大佐の脅しに屈しないように頑張ってみようと思います」

 

 アリシア女王は逃げずに《黒のオーブメント》の事もリシャール大佐に問い質すと決意を話して、ヨシュアとシンジと別れるのだった。

 

 

 

 

 ヨシュアとシンジはクローディア姫の部屋で再びメイドの制服に着替え、ヒルダ夫人と女王宮を出た。もう時刻は夜の11時を回っている。エステルとアスカは待ちくたびれているだろう。

 女王宮を出たところで、シンジとヨシュアは特務兵に呼び止められた。もしかして怪しまれたのかと警戒する二人。

 

「お嬢さんたちのお名前を聞いてなかったな、教えてくれるかな?」

 

 ◆三択クイズ◆

 

Q.名前はなんて答えよう?

 

 【ユイ】

 【アスカ】

 【シェラザード】

 

 

 

 ※遊撃士としての資質が問われるクイズです。

  正解するとボーナスBPがもらえるので挑戦してみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユイ……です」

 

 シンジはとっさに自分の母親の名前を答えてしまった。以前、副司令の冬月からユイ君にそっくりだと言われた事があっての事かもしれない。

 

「そちらのお嬢さんは?」

「カリンと申します」

 

 ヨシュアもためらう事無くそう答えた。二人とも迷わずに名前を答えたので、特務兵に怪しまれる事は無かったようだ。

 

「どうだ君たち、今度一緒に食事にでも……」

「こらっ、メイドに下心を抱くなんて、以ての外です!」

 

 ヒルダ夫人に叱られた特務兵たちは、それ以上何も言って来る事は無かった。こうしてシンジとヨシュアは無事にアスカとエステルの待つメイド控室に戻る事が出来そうだったのだが、今度は談話室から出て来た酔っぱらったデュナン公爵と鉢合わせになってしまった。

 

「うん、見た事の無いメイドだが?」

「こちらは最近城に入りました見習いメイドのユイとカリンと申します」

 

 デュナン公爵の質問に、ヒルダ夫人はそう二人を紹介した。

 

「ほほう、二人ともかなりの上玉だが、その初々しさがたまらないぞ」

 

 体を舐めまわすように見て来るデュナン公爵に、シンジは背筋に寒いものが走った。

 

「ユイとやらに枕の伽を命じる!」

 

 デュナン公爵に大声で言われたシンジは意味が分らずポカンとした顔になった。

 

「公爵閣下の悪い癖が出ましたな……」

 

 執事のフィリップは眉間にしわを寄せてため息を吐き出した。

 

「枕の伽って何?」

「それは……言いにくい事なんだけど……」

 

 シンジに聞かれたヨシュアは困った表情になった。

 

「閣下、お戯れはそのくらいで……」

「次期国王に逆らうというのか!」

 

 ヒルダ夫人も次期国王と言う伝家の宝刀をデュナン公爵に振り回されては止めようがない。

 

「さてユイとやら、私の部屋に来るが良い。飲み直そうではないか」

 

 デュナン公爵に手を引かれたシンジは逆らうことも出来ず、周囲に助けを求めても逆らう事の出来る者は居ない。デュナン公爵にシンジがメイドに化けていたと騒がれると後々面倒な事になる。

 ヒルダ夫人はヨシュアに、メイド控室に居るアスカを急いで連れてくるように頼んだ。一階から階段を駆け上がって来たアスカは鬼のような形相でデュナン公爵の部屋のドアを蹴り開けて、シンジにお酌をさせていたデュナン公爵を鉄拳制裁で気絶させたのだった。

 こうしてシンジの危機はアスカによって救われた。厳密にはシンジは遊撃士であり民間人であるか微妙な所であるが、軍人でも国家公務員でも無いので、規約で危険に脅かされた時に助けるべき民間人と解釈してもらえる事になった。

 

「多分、公爵閣下は明日の朝になれば全て忘れていると思います。申し訳ございませんでした」

 

 フィリップはそう言ってシンジに向かって頭を下げて謝った。

 

「まったくあの男はどうしようもない。国王になったら破滅ですわね」

 

 ヒルダ夫人はため息をついてつい本音を漏らした。

 

「それで、何でこんなに帰りが遅くなったのよ。アタシもエステルも待ちくたびれたわよ!」

「それは戻ってから話すよ」

 

 シンジはウンザリとした顔をしながらアスカにそう答えるのだった。

 

 

 

 

 メイド控室に戻ったヨシュアとシンジは、アリシア女王からの新しい依頼についてエステルとアスカに話した。他にもアリシア女王と話した事はあったのだが、今は時間が無いし、話すべきではないと判断した。特にエステルの母親の死については……。

 エステルたちが二階の自分の部屋へ戻ろうと階段を昇ると、謁見の間の方からカノーネ大尉が現れて声を掛けた。

 

「子供は夜更かししないものよ」

「すいません、城の中が珍しくて色々見学していました」

 

 カノーネ大尉の言葉に、ヨシュアはそう言って謝った。

 

「それではあなたたちは先ほどまで、どこを見学していたのかしら?」

 

 カノーネ大尉は意地の悪い質問をエステルたちに浴びせた。

 

 ◆五択クイズ◆

 

 Q.どこに居たと答えよう?

 

 【厨房】

 【メイド控室】

 【女王宮】

 【談話室】

 【地下宝物庫】

 

 

 

 ※遊撃士の資質を問うクイズです。

  正解するとボーナスBPがもらえるので挑戦してみてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、正直に答えるとはよろしい事ですわね」

 

 カノーネ大尉はエステルたちの動きを監視していたのだ。ウソをついたら危ないところだった。

 

「あなたたちが何度もメイド控室に出入りしていると報告を受けているの。あんな場所を何度も見学するなんておかしいと思わないかしら?」

「それは……」

 

 カノーネ大尉の意地悪な質問にシンジは言葉に詰まった。

 

「メイド控室に何の用があったのか、正直に話してみなさい」

 

 カノーネ大尉に問い詰められたシンジは顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「それはボクたちがまた、演劇でメイドの演技をする事になったからです!」

 

 シンジは来年もルーアンの学園祭で《白い花のマドリガル》に出演する約束をしたと説明した。

 

「カノーネ大尉も学園祭にいらしてましたよね?」

「そうね、あなたのメイド姿も思い出したわ」

 

 ヨシュアの質問にカノーネ大尉はそう答えた。

 

「勉強熱心なのは結構ですけど、遅くまでメイドたちに迷惑を掛けないようにするべきね」

「はい、ボクたちも部屋に戻ります」

 

 苦しい言い訳だったが、カノーネ大尉はそれ以上追及する事無く去って行った。もしかして来年もシンジとヨシュアに女装させると言うカノーネ大尉の加虐心を刺激させて満足したのかもしれない。

 部屋に戻ると、ジンはエステルたちにアリシア女王との面会は上手く行ったのかと聞いて来た。あらたにアリシア女王からクローディア姫を含む人々の救出を依頼されたと話すと、ジンも協力すると話した。

 遥か東方のカルバード共和国からやって来て、エステルたちに協力する理由とは、カシウスからの手紙を受け取ったからだとジンは話した。カシウスからジンへの手紙には、自分は依頼で帝国に行く事になったが、留守中にリベール王国で何か事件が起きたらエステルたちの力になって欲しいと書かれていた。

 

「父さんの行方を知っていたなら、あたしたちに教えてくれても良かったのに」

「それについては悪かったと思っている」

 

 エステルが顔をむくれさせると、ジンは素直に謝った。準S級遊撃士のジンが協力してくれるなら、クローディア姫救出作戦はきっと上手く行くと信じて、エステルたちは眠りに就くのだった。




 ◆三択クイズ◆ 答え

Q.名前はなんて答えよう?

〇【ユイ】
 【アスカ】
 【シェラザード】

 ◆五択クイズ◆ 答え

 Q.どこに居たと答えよう?

 【厨房】
〇【メイド控室】
 【女王宮】
 【談話室】
 【地下宝物庫】


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