アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~ 作:朝陽晴空
1
「ごめんなさい、取り乱してしまって」
シンジから身体を離したクローディア姫……エステルたちの前ではクローゼと名乗っていた白いドレスの少女は顔を赤くしながら謝った。クローゼは王都でクローディア姫の姿でいる時は、長い髪のヘアピースを着けているのだと話した。
「ええっと、何て呼べば良いのかな?」
「クローゼと呼んで頂いて構いません。私もその方が嬉しいですから」
エステルに尋ねられたクローゼはそう答えた。
「それで、何でいきなりシンジに抱き付いたのよ?」
一国の王女相手にも態度を変える事の無いアスカが怪訝そうな顔でクローゼに尋ねた。
「それは……助けに来て頂いた事が嬉しくて、つい……」
「ふーん、まあそう言う事にしておいてあげるわ」
クローゼの言葉に、アスカは不機嫌そうな顔のままそう答えて怒りを収めた。今は言い争っている場合ではないとアスカも分かっている。
「それにしても、クローゼがこの国の御姫様だったなんて、驚いたわ」
「本当は女王生誕祭の時に、エステルさんたちに打ち明けるつもりだったんですけど……」
エステルの言葉に、クローゼは申し訳なさそうにそう話した。
「でもどうして、身元を隠して学園に……? 命を狙われていたの?」
「それもありましたが、私は王女としてではなく、一人の国民の目線で、自分が治める国の人々の姿を見てみたかったんです……」
シンジの質問にクローゼはそう答えたが、アスカはその理由は格好をつけた建前だと見抜いていた。自分が王女として生まれていたら、束縛された生活から抜け出したいと思うはず。幼い頃からエヴァのパイロットとして宿命づけられた自分も、今振り返ってそう思うのだ。
「いやあ、ルーアンの市長邸での事件でお会いしたのに、クローディア姫様だとは気が付きませんでしたよ」
「ダルモア市長やデュナン小父様も気が付かなかったのですから、変装の効果はあったようですね」
ナイアルが声を掛けると、クローゼは微笑んでそう答えた。
「あっ、そうだ、こんな話をしている場合じゃなかった」
エステルは気が付いたようにクローゼに、アリシア女王から救出作戦の依頼を受けた事を話した。エステルの話を聞いたクローゼは真剣な表情になる。
「エステルさん、ヨシュアさん、アスカさん、シンジさん、助けてくれてありがとうございました」
「クローゼが捕まって居ると聞いたら、依頼が無くても助けに来たけどね」
クローゼが改めてお礼を言うと、エステルはそう答えた。エステルの言葉を聞いたクローゼは嬉しそうな笑顔になった。
「御祖母様にもお礼を言わなくてはなりませんね。御自分の身を顧みずに依頼をしてくださったのですから」
クローゼはそう言うと、表情を再び引き締めた。クローゼの無事をアリシア女王に報せれば、アリシア女王はリシャール大佐の脅迫に屈する事は無い。しかし情報部が人質を失ったなると、アリシア女王自身の身に危険が及ぶ可能性が出て来た。
「今度は私から御祖母様の救出を依頼させてください」
「分かりました」
クローゼの言葉にヨシュアはそううなずいた。
「お前たち、そこまでだ!」
その時、部屋に子供を人質に取った特務兵が姿を現した。特務兵は導力銃を教会の日曜学校に通う年頃の少女に突き付けている。
「リアンヌちゃん……!」
クローゼは少女の顔を見て息を飲んだ。リアンヌと言う少女はモルガン将軍の孫娘で、紋章の間とは違う場所に監禁されていたのだとクローゼは話した。
「単なる脅しではないぞ……我ら情報部員、リシャール大佐のためなら鬼にもなれる!」
特務兵は大声でそう宣言をした。エステルたちが近づこうとすると、特務兵はためらいも無くリアンヌの頭に導力銃を押し当てた。
「アンタはリシャール大佐の命令なら何でも聞く人形なの? いえ、人形より性質が悪いわ」
アスカはそう言いながら、目の前のクズ男をかつての知り合いの少女を比較してしまった自分を恥じた。コイツは人間の皮を被ったクズだ。
「その子の代わりに、私が人質になります」
クローゼはそう言って、一歩前へと歩み出た。
「その手には乗らない。リシャール大佐は王族は決して手にかけてはならないと言われた。この娘とは違ってな。命の重さが違うのだよ」
特務兵の言葉を聞いたエステルたちは怒りを燃やした。
「こんな腐ったヤツがエリート部隊にいるなんて、信じられないわね」
「フン、何と言われようとも、我々には正義がある」
アスカが呆れた顔でそう言うと特務兵は、誇らしげにそう言い放った。
「子供の命を奪ってまで貫く正義に、何の意味があるのさ!」
シンジは特務兵に向かってそう叫んだ。しかし特務兵は気にしていない様子だった。
「そろそろ応援の部隊がやって来る時間だ。親衛隊も遊撃士も、ここで一網打尽だ!」
「それは無いわね。エルベ離宮周辺に居た特務兵たちはあたし達の作戦によって壊滅しちゃったから」
特務兵の言葉に、部屋に入って来たシェラザードがそう答えた。リシャール大佐が陣頭指揮を執っているのならば、陽動作戦や奇襲作戦も見抜けただろう。しかし中隊長や警備隊長などの無能な連中たちが上に立っていては、烏合の衆以下だ。
「くそう、こうなったらヤケクソだ! このガキも道連れにしてやる!」
目が血走った特務兵は導力銃を撃とうとした。しかしその時、アスカのヘッドセットが光ると、アスカの人差し指から細い赤い光線が発せられて特務兵の腕を貫いた!
(……やっと分かって来た気がする、ヘッドセットの意味!)
アスカは心の中でそうつぶやいた。腕を押さえてうめき声を上げる特務兵からリアンヌは逃げ出し、シェラザードによりその特務兵は両手を後ろに縛り上げられた。シンジは渋々ながら回復魔法をその特務兵にかけて腕の出血を止めた。
泣き声を上げるリアンヌをシェラザードがあやした。要撃組のシェラザードが姿を現したと言う事は、彼女の言う通りエルベ離宮に布陣された情報部隊は完全に制圧されたのだろう。
「ボクの活躍もあった事も忘れてはいけないよ」
シェラザードに続いて部屋に入って来たのはオリビエだった。シェラザードと組んで戦っていたようだ。
「早くロレントに帰ってアイナと一緒にまた三人で飲みたいものね」
「それは勘弁してください」
シェラザードがニッコリとした笑顔でそう言うと、オリビエはウンザリとした顔でそう言った。
「懐かしいわ、ボースに居た頃の事を思い出すわね」
エステルはそう言って笑った。そしてエステルたちはクローディア姫を自分たちの友人だと紹介した。
「初めまして。クローディア・フォン・アウスレーゼです。助けに来てくださってありがとうございました」
落ち着いた口調で、クローゼはお礼を言った。
「お気になさらず。遊撃士としての当然の務めですわ」
シェラザードはかしこまった口調でそう答えた。
「美しい姫君を救うのは紳士として当然の事です」
「ふふっ、面白い人ですね」
オリビエの言葉を聞いたクローゼが微笑むのを見たシンジは、胸に穏やかでない感情が沸き起こったのを感じた。
「クローゼ、無事だったか!」
そう言って部屋に駆け込んで来たのはユリア中尉とシロハヤブサのジークだった。ジークは嬉しそうにクローゼの周りを飛び回る。
「ユリアさん、ジーク……こうしてまた会うことが出来て嬉しいです」
クローゼは笑顔でユリア中尉とジークに声を掛けた。
「殿下が無事で良かったです……」
ユリア中尉が心の底からクローゼの無事を喜んでいる事はエステルたちにも感じられた。しばらくして親衛隊や遊撃士たちも全員紋章の間へと合流した。疲れ果てた人質を休ませながら、エステルたちは次の作戦に備えるのだった。
2
すっかり夜も明けて、紋章の間ではクローゼを中心に状況の確認が行われた。ユリア中尉の話によれば、エルベ離宮に居た特務兵は残らず拘束したが、グランセル城にはかなりの数の特務兵が残っていると言う。
各地の王国軍も情報部の指揮下にあり、エステルたちがクローディア姫を人質にとってクーデターを起こそうとしていると言ったデマが流布されているとの事だ。今は王国軍の中だけに話が留まっているが、市民達に遊撃士がクーデターを起こしたと噂が流れれば、遊撃士協会の信用問題となってしまう。
「あたしたちとクローゼが一緒に居るのがマズイって事?」
話を聞いたエステルはそう尋ねると、シェラザードはうなずいた。
「クローディア姫殿下は王室親衛隊に任せて、あたしたちはエルベ離宮から離れた方が良いかもしれないわ」
「帝国か共和国の大使館に助けを求めると言う手もあるんじゃないかな。そうすれば王国軍も簡単に手出しは出来ない」
話を聞いていたオリビエが口を挟んだ。
「国境を突破して亡命すると言う手もあるぞ。事件が解決するまでの時間は稼げるだろう」
ジンもそう言ってクローゼに提案をした。
「このエルベ離宮は籠城には適していない。どこでお守りするべきか……」
ユリア中尉もそうつぶやいて思案に暮れた顔になった。議題の中心はクローゼをどうするべきかになっているようだった。そんなユリア中尉たちを見たクローゼは息を大きく吸い込んでから話し始めた。
「あの、私がエステルさんたちにお願いした依頼の内容を変える事は出来るでしょうか?」
クローゼはエステルたちにグランセル城に居るアリシア女王の救出を依頼した。その依頼をどうしようと言うのか。エステルたちの頭に疑問符が浮かんだ。
「私の王城解放と、御祖母様救出の為の戦いを手伝っては頂けないでしょうか」
クローゼの宣言を聞いたユリア中尉たちは困惑した表情になった。クローゼが先頭に立って戦うと言うのだ。ユリア中尉はクローゼの言葉に驚いている様子だった。
「逃げずに立ち向かうと言う道を選んだ姫さんの決意は尊重したいところだが……」
ジンは頭をかきながらそうつぶやいた。
「逃げてはいけない時がある事を、大切な人に教えてもらいました」
クローゼはそう言ってシンジに視線を送った。シンジはルーアンの倉庫街で不良達に囲まれた時、念仏のように『逃げちゃダメだ』を唱えて自分に言い聞かせていた。それをクローゼも聞いていたのだろう。
「ここに居る全員の戦力を合わせても、グランセル城を正面から攻略するのは無理よ」
シェラザードは深いため息をついてそう断言した。
「奇襲作戦を行うにしても、侵入ルートを探らないと……」
ヨシュアも否定的な表情でそうつぶやいた。
「グランセル城への侵入ルートならば、私に心当たりがあります」
クローゼはそう言って、胸元から地図を取り出した。
「これは王都の地下水路の構造を記した地図です。王城地下に通じる隠された地下水路の事も書かれています」
この地図はアリシア女王に託されたものだとクローゼは話した。
「でも、デュナン公爵もこの地図のコピーを持っていたりするんじゃないの? 特務兵たちが隠し水路で待ち伏せていたら、それこそ一巻の終わりよ」
アスカは腕組みをしながらクローゼにそう尋ねた。クローゼはアスカに対して説明を続けた。
「御祖母様は、地図はこの一枚しか存在しないと言われました。自分は隠し通路の事は暗記しているから私にこの地図を託すと。もしデュナン公爵がこの地図を見ていたとしても……」
「あのバカ公爵の事だから、覚えているはずも無いし、書き写すと言う知恵も回らないって事ね」
クローゼとアスカの話を聞いていたエステルたちは、この地図を使った潜入作戦は成功するのではないかと思い始めた……。
3
その頃、グランセル城の守備をリシャール大佐から命じられたカノーネ大尉は、謁見の間で特務兵たちを怒鳴りつけていた。
「《エルベ離宮》との連絡が付かないとは、どういう事ですの!?」
整列する特務兵たちはその理由を答えられるはずも無く、黙り込んでいた。
「ユリア中尉率いる王室親衛隊と遊撃士たちの混成部隊によって落とされたそうだ」
謁見の間に入って来たロランス少尉がカノーネ大尉にそう告げた。
「ほらほら、そんなに怒っていると顔にシワが出来ちゃうわよ」
ロランス少尉の後に続いてやって来たサトミ軍曹がカノーネに声を掛けた。
「まったく頼りにならない連中ね! ロランス少尉、あなたは指揮を執らずにどこで油を売っていたの!」
ロランス少尉がエルベ離宮に居れば、ユリア中尉たちに攻略されることも無かった。
「リシャール大佐に火急の用があると呼び出されてしまってね。もう済んでしまった事をとやかく言っても仕方が無いだろう。これ以上の失態を犯さないように頑張るのだな」
「何を他人事みたいに言っているのですか!」
カノーネ大尉はロランス少尉に向かってそう怒鳴ると、城門を完全に封鎖し猫一匹通さないように特務兵たちに命じた。そして、エルベ離宮に居るテロリストを鎮圧するために各地方の王国軍を向かわせるように伝えた。
「イエス・マム!」
特務兵たちはそう言って謁見の間を出て行った。
「ほら、あなたたちも守備に就きなさい! 今の総責任者は私で御座いましてよ!」
「了解した……」
ロランス少尉とサトミ軍曹はゆっくりとした足取りで謁見の間を後にした。
「リシャール大佐の留守は、わたくしが守りますわよ!」
謁見の間の玉座を見つめて、カノーネ大尉はそうつぶやくのだった。
4
陽が高く上がったその頃、エルベ離宮ではユリア中尉によるグランセル城解放とアリシア女王救出作戦の説明が行われていた。
最初にヨシュア、シンジ、オリビエ、ジンの四人のチームが地下水路からグランセル城の地下へと潜入して、親衛隊の詰所にある城門開閉装置を制圧。
次に開いた城門から、市街地に待機していた親衛隊全員と、カルナたち遊撃士四人のチームが城内へと侵入。特務兵たちの戦力を城内一階へと集中させる。
最後に城内に特務兵の戦力が集中したのを確認した後、ユリア中尉が運転する情報部の特務艇に乗り、エステル、アスカ、クローゼ、シェラザードと合わせて五人のチームが空中庭園に着陸して女王宮に突入してアリシア女王を救出する三段構えの作戦だった。
「作戦開始の合図は正午を告げる礼拝堂の鐘の音、諸君は急いで待機位置に着いてくれ!」
「イエス・マム!」
王室親衛隊はユリア中尉の号令にそう答えて部屋を出て行った。ヨシュアたちは早く王都の地下水路に向かわないと作戦開始時刻に間に合わない。
「ヨシュア、やられたりしないでね。例の約束の事もあるんだし」
「うん、エステル、元気な姿でグランセル城で会おう」
エステルとヨシュアは力強い瞳で見つめ合った。
「シンジさん、地下水路には未知の魔獣が居るかもしれません、気を付けてください」
「ありがとう、クローゼさん」
シンジはクローゼに対してそう答えた。そして腕組みをしていて黙っているアスカに声を掛けた。
「今夜の晩御飯、ハンバーグで良いかな?」
「……チーズハンバーグが食べたい」
シンジに対してアスカはそう答えるのだった。
「若いって良いわねえ……」
シェラザードはそんなエステルたちを見てため息をついた。
「何を言っているんだい、キミだってまだ若いじゃないか」
オリビエはそう言ってシェラザードに向かってウインクするのだった。
5
どのチームよりも早く王都にたどり着いたヨシュア、シンジ、オリビエ、ジンのチームは特務兵が街を巡回している事に気が付いた。それだけ相手もエルベ離宮を落とされて警戒を強めているのだろう。
地下水路の入口へと向かう前に、ヨシュアたちはエルナンに依頼の報告をする事にした。するとエルナンは準備資金も必要だろうと話して、アリシア女王の依頼に関しては達成済みとして報酬のお金を渡してくれた。
そして新しくクローゼの依頼が正式に遊撃士協会に受理された。
◆女王陛下救出大作戦◆
【依頼者】クローディア姫
【報 酬】???? Mira
【制 限】直接依頼
クローディア姫からアリシア女王の救出を依頼された。
正面から攻略するのは無理であるため、三つのチームに別れて攻略する。
また長期戦の予感がしたシンジは東街区にある《エーデル百貨店》で食材を買い込み、回復薬も十分に用意してから地下水路の入口へと向かうのだった。
地下水路に入ったヨシュアたちはクローゼから預かった地図を広げて秘密の隠し通路の場所を確認した。ヨシュアたちが城門を開けてからがこの作戦の真の開始の合図だ。迷っていてはそれだけ相手に時間を与える事になる。
王家の地図に書かれた隠し通路がある壁は、普通のレンガの壁にしか見えなかった。四人で撫でまわすように壁を触ると、レンガの一個が凹み、それがスイッチとなって壁がスライドし、隠し通路が姿を現した。さすが王家の隠し通路だと感心する他無かった。
ヨシュアたちは城のある北区画の地下水路を進み、ついに水路の終点と思われる小さな部屋にたどり着いた。壁にあるボタンを押せばグランセル城の中へと入れるのだろう。
作戦開始を告げる正午の鐘が鳴るまで、ヨシュアたちは待つ事にした。
「それで、ヨシュア君とシンジ君は彼女たちとどこまで行っているんだい? ちなみにボクとシェラザード君はロレントのホテルで熱い一夜を過ごしたよ」
オリビエは突然、そんな事を言い出した。
「オリビエさん、こんな時に何を言い出すんですか」
「嫌だなあ、過度の緊張をほぐすためのサービストークじゃないか」
上目遣いで睨みつけるシンジに、オリビエは笑ってそう言った。
「俺も是非とも聞いてみたいねえ」
「ジンさんの方はキリカさんとどうなんですか?」
悪乗りして来たジンに、シンジが聞き返した。
「アイツには何度も寝技を食らった事はあるが、色っぽい話はナシだ」
ジンはため息をつきながらそう答えた。
「ほらほら、次はシンジ君の番だよ、さあ、話したまえ!」
「そりゃあ……キスくらいはした事ありますけど」
目を輝かせて聞いてくるオリビエに対して、シンジはそうつぶやいた。
「それで、ヨシュア君の方はどうなのかな?」
「僕とエステルは……そんな関係じゃありませんよ」
オリビエに聞かれたヨシュアはそう答えた。それには触れてはならない雰囲気を感じさせた。
「意外だなあ、シンジ君の方が一歩リードか、ハハハ……」
オリビエの乾いた笑いが小部屋に響いた。それから作戦開始の正午までヨシュアたちは話す事は無かった。
6
王都前のキルシェ街道では親衛隊とカルナ、クルツ、グラッツ、アネラスの正遊撃士四人組が待機した。街の中で特務兵が巡回しているのに気が付いたカルナたちは待機場所を街の外へと変更したのだ。
正午の鐘と同時に街へと突入し、グランセル城へと向かう。ヨシュアたちとのタイミングがズレれば作戦は台無しになる。それでもカルナたちはヨシュアたちが城門を開いてくれる事を信じていた。
そしてエルベ周遊道ではユリア中尉とエステル、アスカ、クローゼ、シェラザードの五人が、情報部の特務艇に乗り込もうとしていた。エルベ離宮を攻略する作戦の時に、特務兵が乗り捨てたものを鹵獲したのだ。
「ユリア中尉、点検は完了しました。問題無く動かせるはずです。ですが、かなりスピードが出るので操縦の際はお気を付けください」
特務艇の中から姿を現したのは中央工房の導力技師だった。王都で王室親衛隊の旗艦《アルセイユ》の整備をしていたが、情報部の策略によりアルセイユはグランセル空港に拘束。関所が閉鎖されてツァイスの中央工房に帰れずに途方に暮れていたところをユリア中尉に声を掛けられたのだと言う。
「それにしても、《黒のオーブメント》と言い、この高性能な飛行艇と言い、情報部はどこから手に入れたのかしらね」
シェラザードは考え込むような表情でそうつぶやいた。情報部のバックには技術力の高いオーブメント工房が付いているのかもしれない。しかし今はそれを詮索している時間は無い。この特務艇は作戦成功のための重要な道具なのだ。
エステルたちが特務艇に乗り込むと、ユリア中尉はエンジンを起動させた。正午の鐘を合図に、エステルたちはヨシュアたちとカルナたちの作戦の成功を信じて特務艇を発進させなければならない。
そしてリベール通信のナイアルとドロシーコンビは、エステルたちのアリシア女王救出作戦の記事を書くために、良い写真が撮れる場所を探していた。特務艇からならば大迫力の写真が撮れるのだが、さすがにそれは危険だとユリア中尉に拒否された。
事件が解決した暁には、王室親衛隊の冤罪を晴らし、遊撃士たちの活躍を報せるスクープ記事を書かなければならない。『ペンは剣よりも強し』とのことわざ通り、ナイアルたちも戦っているのだ。
王都の街中に正午を報せる鐘の音が鳴り響いた。これは女王救出作戦の開始の合図でもある。まずはヨシュアたちがグランセル城の地下へと姿を現し、一階にある親衛隊の詰所へと向かった!
「バカな、侵入者だと!?」
突然地下から現れたヨシュアたちの姿に、特務兵は驚きの声を上げた。親衛隊の詰所には特務兵が六人、犬型魔獣が四匹が守りを固めていた。時間を掛けて戦っている暇はない。
ヨシュアは奥義《漆黒の牙》をためらいも無く使い、特務兵たちを切り伏せた。初めてヨシュアの奥義を見たオリビエは何か思うところがあるような表情をしたが、先ほどの事もあってか、ヨシュアの隠された一面に触れるのは止めたようだ。
城門が開けば、城を守る特務兵たちは親衛隊の詰所に敵が居る事に気が付き、押し寄せて来るだろう。ヨシュアを守るのはシンジとオリビエとジンの出番だ。三人は気合いを入れて敵を待ち受けた。
「どういう事だ?」
突然開き始めた城門に、門番をしていた特務兵たちの二人は驚いて振り返った。城門は完全に封鎖すると聞いていたからだ。さらに市街地の方から突撃して来る王室親衛隊と遊撃士たちの混成部隊が現れ、二人はパニックになった。
「なぜ城門が開くのです、まさか情報部の中に裏切り者が!?」
空中庭園から城門が開くのを目撃したカノーネ大尉は、侵入者が居るとは露ほどにも思わず、疑心暗鬼に陥った。
「大尉殿、我々はいかが致しましょう!?」
「決まっているでしょう、第一小隊を残して、全戦力で玄関広間で敵を迎撃しなさい!」
特務兵に命令を仰がれたカノーネ大尉は、厳しい表情でそう言い放った。三階の空中庭園に居た特務兵のほとんどが一階へと降りて行く。
「くっ、私とした事が何たる失態。リシャール大佐が戻られる前に何としてもせん滅せねば……」
カノーネ大尉は悔しそうな顔でそうつぶやくのだった。