アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~ 作:朝陽晴空
1
「うーん、このカードの示す意味は……よく分からないわね」
ロレントの街にある、遊撃士協会の2階の部屋で、褐色系の肌が特徴の、スタイルの良い、胸元を大きく露出させた踊り子のような服を着た女性が腕組みをして思案顔になる。
彼女の名前は、シェラザード・ハーヴェイ。その髪の色から《銀閃》の異名を持つ、ロレント地方では名が通っている新鋭の遊撃士だ。6年ほど前にカシウスに師事し、エステルの姉弟子に当たる。
シェラザードはタロット占いにも精通していて、今もテーブルにカードを並べていたのだが、占いの結果は彼女にも読み解く事が出来ないものだった。
「やっほー、シェラ姉!」
「おはようございます」
「おはよう、シェラ」
「おはようございます、シェラザードさん」
挨拶をしながら遊撃士協会の1階から登って来たのは、エステルとヨシュア、アスカとシンジだ。四人は16歳になってから本格的にシェラザードの直接指導を受けていた。大酒飲みで二人の仲をからかう所は、アスカとシンジが元居た世界の保護者役の女性に似ていた。懐かしさも覚えた二人は、シェラザードを姉の様に慕っていた。
今日は四人の遊撃士試験が実施される日。特にエステルとアスカは大張り切りで遊撃士協会へと向かった。四人は二年前から遊撃士を目指すと口外していたため、街ですれ違う人々の話題は今日の講習の最後に行われる遊撃士試験の事だった。
「シェラ姉、何を占っていたの?」
「ちょっとした事よ」
テーブルに広げられていたタロットカードを見て、エステルが尋ねると、シェラザードは少し慌てた様子でタロットカードをしまう。その様子を見て、アスカはニヤリと笑いを浮かべる。
「さては、また恋愛運を占っていたわね?」
アスカの指摘に、シェラザードは頭を搔いた。地元ロレントでは《銀閃》として有名になりつつある美女に言い寄る男性も居ない事もないが、交際を始めたと言う浮いた噂は無い。
「恋人探しより先に、大酒飲みを直した方が良いんじゃないですか?」
「アスカもシンジも、うるさいわね」
すっかりこの世界に馴染んだシンジは、率直にものを言うヨシュアに匹敵するツッコミ役になっていた。前の世界では気弱な面を見せる事が多かったシンジだが、これが本来の彼の性格なのかもしれない。
少し不機嫌そうな顔をしたシェラザードは、四人に席に着くように促す。テーブルにはテキストが置かれていて、書類が苦手なエステルは顔をしかめた。内容を読むとそれはテスト用紙では無く、遊撃士として必要な知識が書かれた本のようだ。
「さて、試験を始める前に最後のおさらいをするわよ。テキストの一ページ目を開きなさい」
四人の目の前に立ったシェラザードは教師のように授業を始める。活字を見ると眠くなるエステルは必死にこらえる。居眠りをしようものなら、シェラザードのお説教が延々と続くからだ。最前列で居眠りをしても笑って許してくれた、優しい日曜学校の神父とは違う。最前列で居眠りをするエステルの大胆振りにもあきれるが。
まず最初のページに書かれていたのは遊撃士協会に関する事だった。遊撃士の使命とは地域の平和と民間人の保護であり、遊撃士協会が設立されたのは約50年前、国家権力への不干渉、準遊撃士資格認定試験は16歳以上である事などが書かれていた。
そして、《導力革命》についての授業も続く。50年前、導力学者エプスタインによってもたらされた技術革命であり、石炭エネルギーを過去のものとした。大量生産が可能で様々な分野にも応用できる汎用導力器《オーブメント》が開発され、博士の直弟子の一人であるラッセル博士はリベール王国にオーブメント技術を広めた。
《オーブメント》は《導力》により動く機械ユニットで、照明・暖房・通信・兵器・魔法・飛行船など様々な技術に応用されて大陸中に広まっている。《導力》の発生源となる宝石のような物《クオーツ》は《七曜石(セプチウム)》を結晶化したもので、鉱山から採れるほか、魔獣を倒す事でも入手でき、セプチウムの破片は通貨として流通している。
最後はリベール王国の歴史について学ぶ。エレボニア帝国がリベール王国に侵攻した《百日戦役》の部分になると、エステルの事情を知るシェラザードの声も震える。エステルの母親であるレナ・ブライトはこの百日戦役に巻き込まれて命を落とした。百日戦役を終戦に導いたのが、七曜教会と遊撃士協会の仲裁だった。
「うーん、机に向かうのは疲れるわね」
授業が終わると、アスカは思い切り伸びをした。前の世界では大学に行くほどの才女である彼女も、座学は窮屈なものだった。エステルもホッとした様子で大きく深呼吸をした。
「エステルはよく最後まで眠らずに頑張ったね、偉い偉い」
「ムッカー! あたしはそこまでひどくないわよ!」
穏やかな笑顔のヨシュアにそう言われたエステルは、ふくれっ面でそう答えた。前の席で繰り広げられる二人のやり取りには目もくれず、アスカとシンジはテキストのテストに出そうな単語に鉛筆で印を付け、暗記作業に入っていた。中学校で日常的にテストを受けていた二人には習慣付いた行動だ。普段から勉強しろ、と言えなくもないが。
「さあ、それじゃあ場所を移動して試験を始めるわよ」
「えっ、試験ってペーパーテストじゃないんですか?」
シェラザードの言葉を聞いたシンジはアスカと同時に驚いて顔を上げた。元居た世界では資格試験はペーパーテストが必須であるのは常識だった。運転免許でさえもそうだった。だから暗記をしようと必死だった。
「やったよ、ヨシュア!」
「はいはい、良かったね」
苦手なペーパーテストから逃れられたと知ったエステルは、身体全体で喜びを表現する。蹴り倒された椅子は、涼しい顔をしたヨシュアが元に戻した。逆にペーパーテストの対策に追われていたアスカとシンジは顔を見合わせてため息を吐き出した。実技試験とはどのようなものか、二人には不安がこみ上げて来た。
シェラザードに先導されて四人は遊撃士協会の1階に降りた。遊撃士協会の1階のカウンターにはアイナと言う受付の女性が立っていた。アイナは雑務をこなすだけでなく、遊撃士のスケジュール調整も行っている。シェラザードとは個人的にも親しい。
「アイナ、例の物を渡してあげて」
「分かったわ」
シェラザードに言われたアイナが引出しから取り出したのは、四冊の手帳だった。エステルは白、ヨシュアは黒、アスカは赤、シンジは青だった。遊撃士手帳の冒頭には、遊撃士協会の規約、そして名前と準遊撃士としてのランク、活動履歴を書く欄があったが、ほとんどのページは白紙で占められている。
「ちぇーっ、アタシ達はまだ9級か」
アスカは準遊撃士・9級と書かれたページを見てため息をもらした。試験に合格してもいきなり正遊撃士になれるわけではない。まず見習いの身分である準遊撃士となる。準遊撃士には1級から9級までにランク分けされている。依頼をこなしていけば8級、7級とランクが上昇して行く。
「遊撃士手帳には受けた依頼の内容だけでなく、どのような過程でその依頼を解決したのかも詳しく書くのよ。依頼主やアイナに報告するためにね」
「受けた依頼の報告や評価、報酬の受け渡しは私がするからよろしくね」
シェラザードの説明の後、アイナが笑顔で四人に語り掛ける。四人の遊撃士としての評価はアイナにかかっている。穏やかな笑顔を浮かべるアイナだが、甘やかしてくれるとは思えない。
「何か面倒ね、ヨシュアに任せた!」
「シンジ、後で写させて」
「こらっ、二人とも!」
エステルとアスカにシェラザードの叱責が飛ぶ。他にも魔獣手帳、レシピ手帳、生物手帳、オーブメント手帳が渡され、魔獣の記録はヨシュアが、料理のレシピ集めはシンジ、各地の生態調査(と言っても昆虫採集や釣りがメイン)はエステルが、戦術オーブメントの研究はアスカが担当する事になった。
「遊撃士の依頼は依頼人から直接受ける事があるけど、掲示板に張り出された依頼内容を見て引き受けるのが通常の形ね。掲示板で依頼を確認して来なさい」
シェラザードに言われて四人は遊撃士協会の1階にある掲示板へと向かった。隣町まで物を運ぶ依頼、危険な魔獣退治、などの依頼に交じって、試験と思われる依頼があった。
◆実地研修・宝物の回収◆ 進行中
【依頼者】シェラザード
【報 酬】500 Mira
【制 限】なし
地下水路を捜索し、宝箱に納められているものを回収して来ること。
詳しくはシェラザードまで。
内容を手帳に記録した四人はシェラザードの所に戻る。地下水路の捜索は魔獣と戦う事になる。今まで魔獣から逃げてばかりだったアスカとシンジは身体が震えた。この日に備えて訓練は積んだが、実戦は初めてだ。
「次はメルダース工房で《戦術オーブメント》の使い方を教えるわ」
「頑張ってね」
そう言ったシェラザードに続いて四人はアイナに見送られて遊撃士協会を出る。いよいよ自分達にも翡翠の塔でカシウスが魔獣相手に使っていた《導力魔法》が使えるようになる。興奮が高まるのも無理はなかった。
「さあ、メルダース工房に着いたわよ。営業時間中に頼んでいるのだから、さっさと進めるわ」
「やあシンジ、導力銃の調子はどうだい?」
「おかげさまで、故障もありません」
シンジは自分のメイン武器である導力銃のメンテナンスでメルダース工房には顔を出していて、メルダースの弟子であるフライディとも親しくなっていた。
「戦術オーブメントの使い方のコツさえつかめば、きっとうまく使いこなせるよ」
「フフン、きっといつかアタシは誰もが驚くような導力魔法を編み出してやるんだから」
アスカは早くも戦術オーブメントの研究に意欲を燃やしているようだ。戦術オーブメントには6個のクオーツをはめる穴、スロットがあり、その組み合わせによって攻撃魔法から回復魔法、筋力や敏捷性を高める魔法や、姿を消してしまう魔法まである。
「四人で話し合って、それぞれが中心とするオーブメントを決めなさい。でも、最低一人は回復役になった方が良いわね」
クオーツには火・水・風・土の4属性と時・空・幻の3属性の計7属性が存在する。水のクオーツを1個組み込めば、ティアと言う小回復できる導力魔法が使える。
エステルのスロットはどの属性のクオーツも使える万能型だったため、土のクオーツを、ヨシュアのスロットは時属性固定だったので、時のクオーツ、アスカは火属性、シンジは水属性を選んだ。
「どうして、ヨシュアの戦術オーブメントだけ違うのよ? それに7個スロットがあるし」
ヨシュアが持っている特殊なオーブメントにアスカは不思議そうに尋ねた。聞かれたシェラザードは少し困った顔で言いにくそうに答える。
「ヨシュアの持っているオーブメントは、前から持っていたものなのよ」
「アタシ達のオーブメントより技術が高そうだし……アンタ何者!?」
疑り深いアスカの視線がヨシュアを射抜いた。ヨシュアはその理由を告げる事が出来ずに黙り込んでいた。そんなヨシュアをかばったのはエステルだった。
「アスカ、ヨシュアにだって言いたくない事はあるよ。でも、それでも構わないじゃない。だって、もうヨシュアはあたし達の家族なんだから」
家族なのだから隠し事はしない、という考え方もあるが、エステルの包容力はその上を行った。素性は何であれ、心を許した存在には変わりないと言うエステルの言葉にアスカは心を打たれた。
「ごめんヨシュア、余計な詮索をしちゃって」
「ううん、アスカがこのオーブメント興味を持つ事は当たり前だよ。きっとそのうちに7つスロットがあるオーブメントも世間に出回るようになるよ」
アスカが素直に謝ると、ヨシュアも笑顔に戻ってそう答えた。険悪なムードが解消されてシェラザードも安堵の息をついた。戦術オーブメントの準備も整ったところでいよいよ試験の開始となる。
2
ロレントの街の外れ、教会の裏の路地に地下水路の入口はあった。街の子供達が入り込んでしまわないように、入口には南京錠が掛けられている。準遊撃士資格試験にこの地下水路が使われるのは慣例のようで、鍵は遊撃士協会が管理していた。
「さて、これから地下水路に潜ってもらうわけだけど、これを渡しておくわね」
シェラザードから四人に渡されたのは傷を回復させるティアの薬の小瓶5個。照準を合わせた敵の能力を解析するバトルスコープ(この作品では非消耗品扱い)、そして釣り竿だった。
「わーい、あたしの竿より良い釣り竿だ!」
釣り竿を渡されたエステルは少年のようにはしゃぐ。生態調査も重要だがエステルに釣り竿を渡すと嫌な予感がするとシンジは思っていた。時間を忘れて釣りに没頭するなんて事にならなければいいけど、と思っていると、ヨシュアに肩をつかまれる。その時は任せろ、と言っているようだ。
「私はここで待っているわ。地下水路の奥にある箱から依頼の品物を取って来るのが試験の内容よ。そんなに危険ではないけど、魔獣が住み着いているから気を付けて行きなさい。戦術オーブメントのEPが減ったら、地下水路の中に回復装置があるから使いなさい」
「了解!」
元気良く返事をしたエステルは、シェラザードが開錠した入口を先頭でずんずんとハシゴを降りて行く。その次はアスカが素早く入口の側に移動する。
「アンタ達男共は後よ!」
「何でだよ!」
「スカートを履いているからに決まってるじゃない、バカシンジ!」
ヨシュアはシンジに同情するような視線を向け、シェラザードは相変わらずアスカの尻に敷かれてのね、とニヤニヤと見つめた。そしてアスカに続いてシンジもハシゴを降りる。最後尾で背後を油断なく見張るのはヨシュアの役割だ。
「うっぷ、凄い臭いね」
地下水路は流れ込む下水や魔獣達の生活臭などが漂い、居心地の良い場所では無かった。水路の水面にはゴミが浮いている。こんな所で魚が釣れるとは思えないが、エステルが釣り糸を垂らすと、釣れたのはアスカとシンジも見慣れたザリガニだった。
「獲物、ゲット!」
「ちょっと、そのザリガニ持ち帰る気?」
「生態調査よ、それに魚の餌にもなるしね」
笑顔のエステルに押し切られ、道具袋にザリガニさんをINする事になった。アスカも従わせてしまうとは、一番強いのはエステルではないかとシンジは考えた。最初会った時は明るい少女だと思っていたが、エステルの奇天烈振りには何回も驚かされた。
「この先に魔獣が居るみたいだよ」
気配を探っていたヨシュアがそう言うと、エステル達にも緊張が走った。進もうとした石畳の通路の先に、小型の魔獣が動いている影が見える。嗅覚か視覚か、あるいは聴覚か。四人を見つければ襲ってくるだろう。ヨシュアがバトルスコープを向けると魔獣の詳細データが表示された。
◆ダーティーラッチュウ◆
【属性有効率】
地 100%
水 100%
火 100%
風 100%
「へえ、名前や戦術オーブメントの効果まで表示されるなんて便利な物ね」
小型ディスプレイにデータが表示されると、アスカは感心したように呟いた。今回は遭遇前にバトルスコープを使えたから良かったが、混戦状態では残り三人で敵と戦う事になる。魔獣の解析を終えた四人は小型魔獣に攻撃を仕掛ける。
シンジが導力銃で小型魔獣を撃ち、アスカとエステルが棒でボッコボコに叩く。3対1と言う数の暴力で、ヨシュアが双剣を抜くまでも無く魔獣は息絶えた。戦闘の物音を聞きつけて他の魔獣がやって来ないかヨシュアは探ったが、魔獣の気配が無いと分かると警戒を緩めた。
「魔獣の骨ゲット!」
エステルは倒した魔獣の死体を解体し、折れていない骨を取り出していた。この世界で生きて行くために必要な事だと思いつつも、まだアスカとシンジが慣れるまで時間はかかりそうだった。シンジが担当する料理のレシピには魔獣の骨や肉、卵や目玉まで使うものがあるらしい。
雑貨屋のリノンが教えてくれた、新鮮ミルク、挽きたて小麦粉、メイプルシュガーで作るメイプルクッキーで許してくれないかな、と思うシンジだった。魔獣素材を使った料理を手伝った事はあるが、まだ死体を解体して食材を調達した事はない。
途中で武器攻撃が当たらない羽虫の集合体である魔獣を導力魔法で倒したり、魔獣に引っかかれた傷を治したりしながら、四人は地下水路の行き止まりに置かれた、いかにも宝箱です、と言った感じの箱を開けた。
するとその中には、4つの手のひらに乗るくらいの小さな箱が入っていた。その箱の他には何も入っていない。へそ曲がりな所があるアスカは、罠が仕掛けられていないか念入りに調査するが、その様子もない。
「何かあっけないわね」
アスカの言葉にエステルとシンジも同感のようで、緩んだ空気が流れる。
「この箱の中、気になるから開けちゃって良いかな?」
「エステルだけ試験に不合格になりたければいいけど」
「どうして!?」
ヨシュアの言葉を聞いたエステルは慌てて箱を開けようとした手を引っ込める。アスカは怒った顔で腰を少し曲げてエステルに人差し指を突き出す。
「アンタバカァ!? この箱は依頼した人の物なのよ、勝手に開けたらそれこそ遊撃士失格よ!」
「なるほど、ありがとうヨシュア、アスカ」
試験失格を免れたエステルは胸に手を当てて安心したように息を吐き出した。
「でも運んでいるものが違法な物とか、危ないものだったらどうするんだろう?」
「その時も、遊撃士協会で指示されるまで開けない方が良いね」
シンジの疑問にヨシュアはそう答えた。
目的は達成したも同然、地下水路の魔獣はあらかた退治して帰り道を阻む者は居ない。四人は悠然と地下水路の入口まで戻り、シェラザードの待つ地上へと顔を出した。もちろん、ハシゴを登る順番はヨシュアとシンジが先だったから、アスカとエステルのスカートの中身がのぞかれる事は無かった。
「どうやら、無事に目的の物を回収できたようね……開けた形跡も無し」
(あ、危なかった~!)
シェラザードが四つの小箱を念入りに確認するのを見て、エステルは心の中で安堵の息をついた。それは他の三人も同じだ、エステルだけ再補習となるのは阻止したいところだ。
「さあ、遊撃士協会に戻るわよ」
「えっ、試験はこれで終わりじゃないの?」
シェラザードが遊撃士協会に向かって歩き出すと、エステルは疑問の声を上げる。
「最後に報告の義務があるのよ」
「もう少しだから頑張ろう」
ヨシュアに励まされ、四人は地下水路を踏破した疲れも忘れて遊撃士協会に向かった。
「お帰りなさい」
四人が遊撃士協会にたどり着くと、受付カウンターでアイナが笑顔で出迎えた。遊撃士手帳をアイナに渡し、地下水路での成果を報告する。エステルは得意顔で道具袋からザリガニを取り出したが、アイナは取り乱す事なく穏やかな笑顔を崩さなかった。その様子からアスカとシンジは、アイナからただの受付嬢ではない胆力を感じるのだった。
「はい、これで報告は完了ね」
アイナは四人の遊撃士手帳にスラスラと今回の依頼の評価を書き込んで行く。そして手帳を返すと同時に四人が持ち帰った小箱も渡した。
「みんな、もう箱を開けていいわよ」
シェラザードがそう言うと、箱を開けたくてうずうずしていたエステルは、嬉しそうに箱を開ける。そして箱の中身を見ると、さらに喜びを爆発させた。四つの箱の中に入っていたのは、円い盾に籠手があしらわれた準遊撃士の紋章バッジだった。四人は感激した様子でその紋章を胸に着ける。
「エステル・ブライト、ヨシュア・ブライト、アスカ・ブライト、シンジ・ブライト、本日12:00をもって準遊撃士に任命する」
「僕が……遊撃士に……」
そうシェラザードが告げると、ヨシュアはぼうぜんとした表情でつぶやいた。そんなヨシュアの肩をエステルがポンと叩いて声を掛ける。
「もうちょっと喜びなさい!」
「どんな風に?」
「ひゃほーーーーっ!」
奇声を上げながらぴょんぴょん飛び回るエステルに、その場に居た皆は困ったものだと、苦笑した。
「さてと、じゃあ私は溜まっていた依頼を片付けに行くから」
「忙しいのにボク達に付き合ってくれて、ありがとうございました」
「別にいいのよ、可愛い姉弟のためだもの」
頭を下げて感謝するシンジに、シェラザードはウィンクをして出て行った。お昼になったので、四人はアイナと一緒に街のレストランでランチを取る事になった。
3
「おや、アイナさん。昼間から珍しいですね」
ロレントの街の居酒屋《アーベント》。バーテンダーのフォークナーはアイナの姿を見ると不思議そうに声を掛けた。
「今日はこの子達が遊撃士になったお祝いにランチに来たのよ」
「そうですか、それなら祝い酒、と言うわけにはいきませんね。と言ってもアイナさんじゃいくら飲んでも酔わない気がしますけど」
エステルの話によると、アイナは大酒飲みのシェラザードが酔いつぶれるほど飲んでも、顔一つ変えずに同じ量を飲んでいたらしい。そんな武勇伝を聞くと、アスカとシンジはロレント支部の受付は笑顔に合わず評価は厳しいのではないかと思った。
「エステル、それにアスカも、胸に遊撃士のバッジを付けてるって事は遊撃士になれたんだね、おめでとう~」
席に着いた五人の元へやって来たのは、エステルの幼馴染であり、アスカの友達となったエリッサ。この店で料理を運ぶウェイトレスをしている。ぽわぽわとした感じで、ヨシュアの見立てでは純真で騙されやすい子だそうだ。
「まだ見習いなんだけどね」
「アタシは直ぐに正遊撃士になってやるわ!」
照れながら答えたエステル。天井を人差し指で突き刺してアスカは堂々と宣言した。
「アスカってば凄い気合いね~、それで注文は何にする~?」
「今日のシェフお勧めの一品をお願いします」
レシピ手帳担当のシンジがすかさず注文する。その瞳は真剣そのものだ。この世界に来てから、S-DATで音楽を聴く事も、チェロを弾く事も出来なくなったシンジは余った時間を料理に費やしていた。
「シンジくんってば、そのうち、ロレントで一番のシェフになっちゃうんじゃない?お父さんも褒めてたよ」
そしてシンジはヨシュアが武器屋でバイトをしていたように、この居酒屋でアルバイトする事もあった。アスカはシンジの近くに居たいためにウェイトレスをしていた時期もあったが、酔った客にパンチを食わらせ……その後はお察しください。
「大変、大変なの!」
和やかなランチを楽しんでいる時に血相を変えて店に飛び込んで来たのは、8歳くらいの少女、ユニだった。いつも同じ歳の男の子、ルックとパットと街中を駆けまわって遊んでいるはずだが……。
「どうしたの、ユニちゃん」
アイナが落ち着かせようと穏やかに声を掛けると、ユニは堰を切ったように泣き出した。
「ルックとパットが、翡翠の塔へ探検に行くって……わたし、止めたのに……!」
「翡翠の塔って魔獣の巣になっている所じゃない!」
ユニの言葉を聞いたアスカは顔色を変えた。
2年前、アスカとシンジは翡翠の塔の屋上に不時着し、カシウスに助けられなかったら生きては帰って来れなかったであろう危険な場所。そんな場所に子供達だけで行ったら……。
「エステル、カシウスさんは家に居るかしら?」
「多分、居ると思うけど」
アイナに尋ねられたエステルはそう答えた。多分カシウスにルックとパットの保護を依頼するつもりだと察したアスカは、それに待ったをかけた。
「アタシ達で追いかけるわ!」
「アスカ!?」
アスカの言葉にシンジは息を飲んだ。あの翡翠の塔で遭遇した魔獣達の群れに、今の自分達で勝てるとは限らない。地下水路とは比べ物にならないくらいの魔獣が居るだろう。
「そうだね、今追いかければ、翡翠の塔に着く前に連れ戻せるかもしれない」
ヨシュアもアスカの意見に賛成のようだった。遊撃士協会のメンバーとしてもそれが最良だと判断したアイナは真剣な表情でエステル達に話す。
「分かりました。遊撃士協会として依頼します、あの子達を保護してください」
「了解!」
元気いっぱいに返事をしたエステルに続いて、他の三人も店を出て行った。
四人は子供達が翡翠の塔に着く前に連れ戻す事が出来るのか、アスカとシンジは翡翠の塔の恐怖を克服することが出来るのか、遊撃士としての最初の仕事が今、始まった。
◆子供達の保護◆ 進行中
【依頼者】遊撃士協会
【報 酬】??? Mira
【制 限】緊急要請
子供達が翡翠の塔に遊びに行ってしまったらしい。
あそこは魔獣の巣になっていて危険だ、早く連れ戻さないと。
空の軌跡は街の人ひとりひとりに生活感がありますので、それも表現出来たら良いと思います。