アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第四十九話 念願の正遊撃士! アスカのエッチなお礼!?

 

 古代遺跡の最深部の封印区画と呼ばれる部屋で、守護者《トロイメライ》と呼称される大型人型兵器と死闘を繰り広げたエステルたち。一度は大型人型兵器を倒す事に成功したエステルたちだが、動かなくなったと思った大型人型兵器が再び立ち上がったのだ。

 床に座り込むほど体力を使い果たしていたエステルたちは戦う事が出来なかった。助けようとしたリシャール大佐も大型人型兵器の直撃を受けて床に倒れてしまった。絶体絶命のピンチを迎えてしまったエステルたち。

 

「済まなかった……君たちをこんな計画に巻き込んだ上に、助けることも出来ないなんて……」

 

 床に仰向けに倒れたまま、リシャール大佐はエステルたちにそう告げた。しかしその時、部屋に飛び込んで来た人影が、大型人型兵器を一撃で殴り倒した。

 

「どんな時も最後まで諦めるな、勝機を見い出せ。そう教えたはずだ」

 

 そう言って姿を現したのはカシウス・ブライトだった。

 

「さあ、お前たち。動けるのならば最後の力でこいつを再起不能になるまでバラバラにしてしまえ!」

 

 カシウスの号令でエステルたちはヨロヨロと立ち上がった。

 

「天に召します女神の力よ、皆の傷を癒したまえ……奥義《リヒトクライス》!」

 

 クローゼの最大級の回復魔法で、エステルたちの負った細かい傷も回復し、元気を取り戻した。

 

「ありがとう、クローゼ。行くわよっ! 奥義《桜花無双撃》っ!」

 

 エステルが無数の打撃を横になった大型人型兵器の胴体に叩きつけた。胴体には亀裂が刻まれ、バラバラに引き裂かれた。

 

「次は僕の番だ、奥義《幻影奇襲》っ!」

 

 ヨシュアが大型人型兵器の残骸の辺りを飛び回り、大きな破片を斬りつけて小さなものにして行く。

 

「ボクだってやってやる! 奥義《ハウリングバレット》!」

 

 シンジの持つ導力銃から強力なエネルギー弾が発射され、大型人型兵器の中心に大爆発を起こした。

 

「アタシが決めるっ! 奥義《太極輪》っ!」

 

 アスカは大型人型兵器の残骸の周囲を素早く駆け回り、その回転力で上昇気流の竜巻の柱を巻き起こす。吸い込まれた破片は文字通り粉々となった。

 

「はぁはぁ……こうなったらもう復活なんて出来ないわよね」

 

 肩で大きく息をしながら、アスカは砂利の塊となってしまった大型人型兵器の成れの果てを眺めてそうつぶやいた。

 

「ただいま帰ったぞ。エステル、アスカ、ヨシュア、シンジ。たった数ヵ月なのにずいぶん久しぶりに感じるな」

 

 カシウスはそう言ってエステルたちに微笑みかけた。エステルはまだ目の前にカシウスが居るのが信じられないと言った顔で目をぱちくりさせている。

 

「修行の成果、見せてもらったぞ。まだまだ詰めは甘いようだがな」

「父さんってば、何でこんなところに居るの!?」

「細かい事はどうでもいいじゃないか」

 

 エステルの疑問はカシウスに笑い飛ばされてしまった。

 

「父さんも相変わらずだね」

「ヨシュア、お前も見ないうちに背が伸びたみたいだな」

「そんなにすぐには伸びないよ」

 

 ヨシュアは笑ってカシウスにそう答えた。

 

「アスカとシンジも、前よりも仲良くなったようだな。どうだ、胸を触らせるくらいまでは行ったのか?」

「アンタバカァ!? 何でアタシがシンジに胸を触らせなくちゃいけないのよ!」

 

 アスカは怒った顔でカシウスに言い返しながらも、口元は嬉しそうにほころんでいる。

 

「シンジもアスカのお守りは大変だっただろう。とんだじゃじゃ馬娘だからな」

「でも、ボクもそれと同じくらいアスカに助けられたから、お相子だよ」

 

 カシウスの言葉に、シンジは明るい笑顔でそう答えた。

 

「じゃじゃ馬娘ってところを否定しなさいよ!」

 

 アスカが腕組みをして口を尖らせてそう言うと、エステルたちから笑いが起こった。

 

「クローディア殿下も、囚われていたと聞きましたがお元気そうで何よりです」

「はい。シンジさんたちが助けてくれましたから。そう言えば、今年の学園祭はエステルさんたちと劇をやったんです。来年もやるって約束したので、カシウスさんも見に来てくださいね」

 

 カシウスの言葉に対するクローゼの話を聞いて、シンジとヨシュアは顔が青くなった。あれはカノーネ大尉の追及を逃れるための方便だったはずだ。いつの間にクローゼにその話が伝わってしまっていたのか。

 

「どうやら、全て終わったようじゃの」

 

 後発隊に居たラッセル博士たちが部屋へと入って来た。

 

「先生が行った後、機械仕掛けの怪物の群れに囲まれたんです。何とか切り抜けてここまで来れましたが、もう終わっているなんて、さすが先生ですね」

 

 シェラザードは感心した様子でそうつぶやいた。実際に敵を粉々に砕いたのはエステルたちなのだが、これがカシウスの名声の成せる事か。

 

「色々と問題は残ったが、これにて一件落着だな」

「そうだ、お城の方はどうなったの? 王国軍の大部隊が迫っているって聞いたけど」

 

 平然と落ち着いているカシウスに、エステルは心配そうな顔で尋ねた。

 

「その点は心配ない。お前たちがモルガン将軍の孫娘を救出したおかげで、将軍の弱みは無くなった。王国軍はモルガン将軍の一喝で引き揚げて行ったよ」

 

 カシウスは笑ってエステルの質問にそう答えた。

 

「司令部のレイストン要塞の方はシード少佐に情報部の動きを押さえてもらったから、軍の騒ぎの方は沈静化するだろう」

「さすがカシウス大佐……ここに来る前に手を打っていたわけですね……」

 

 リシャール大佐はそう言って乾いた声で笑った。

 

「今回の一件でお前も目が覚めただろう」

「モルガン将軍は家族を人質にして逆らえないようにしていた……シード少佐は弱みを握っていた……どちらも、あなたに掛かれば枷などないわけですか……」

 

 カシウスに声を掛けられたリシャール大佐は落胆した表情でため息をついた。シード少佐のあの件は果たして弱みなのかは別問題として、英雄カシウスの登場で王国軍が情報部の呪縛から解放されたのは事実だ。

 

「しかしリシャール、俺一人の力で全てがこなせたわけじゃない。お前たちが居なかったら10年前の戦争だって何とか出来なかったはずだ」

 

 そうカシウスはリシャールを諭すように声を掛けた。

 

「私はあなたが軍を去ってから、不安で仕方がありませんでした……再度、侵略を受けるような事があったら、リベール王国はお終いだと……ですから、私は《伝説のアーティファクト》を手に入れようと思ったのです。カシウス少佐、あなたが軍に居てさえくれれば、私もこの様な事はしませんでした……」

 

 リシャール大佐の独白を、カシウスは真剣な表情で聞いていた。カシウスはリシャール大佐に歩み寄ると、思い切りリシャール大佐を殴り飛ばした!

 

「貴様は、俺にいつまでも甘えている気か! 自分の足で立って、自分の足で歩け! 俺はお前が居たから安心して軍を辞める事が出来たのだ!」

 

リシャール大佐は驚いた顔で立ち上がる事もせずに顔だけ上げてカシウスを見つめた。

 

「俺は英雄ではない……本当に大切なものを守れずに、現実から逃げてしまった矮小な男だ」

「父さん……」

 

 エステルが悲しそうな顔をしてそうつぶやいた。

 

「シンジが良い事を言っていた、逃げてはいけないと。俺も逃げるのを止めてここに来た。だからリシャール、お前も逃げるのを止めるんだ。罪を償って、自分がすべきことを考えると良い」

 

 こうして情報部によるクーデター事件は幕を閉じた。王国軍はモルガン将軍とシード少佐により落ち着きを取り戻し、情報部の将校と協力者は王国各地で逮捕されて行った。それから一週間後……アリシア女王の60歳の誕生日を祝う女王生誕祭が無事行われたのだった。

 

 

 

 

 王都の入口には『アリシア女王、60歳の誕生日おめでとうございます!』と書かれた垂れ幕が掛けられている。至る所に派手な万国旗が吊り下げられ、王都全体がお祭りムードに包まれている。

 抜けるような青い空を飛び回る白い鳩たちも、平和の到来を祝っているかのようだった。子供たちは楽しそうに通りを駆け回り、街道を歩く人々の表情は明るい。王城の前ではたくさんの市民が集まり、アリシア女王の声明を待っていた。

 空中庭園のバルコニーには王室親衛隊が列をなしてラッパを奏でる中、アリシア女王とクローディア姫、ユリア中尉とモルガン将軍、シード少佐が姿を現した。

 そして遊撃士協会の二階の部屋では、カシウスやカルナたち遊撃士の仲間が見守る目の前で、エルナンが今回の事件の報酬を手渡した。受け取ったBPからエステルたちは《準遊撃士・1級》に昇格した。

 

「やったわ、1級よ! あたしたち、準遊撃士のトップになっちゃった!」

「まあ、アタシたちの活躍なら当然の事ね」

 

 跳び上がって喜ぶエステルに比べて、アスカは落ち着いた態度を示したが、心の中は喜びが湧き上がっているだろう。

 

「さて、さらにエステルさんたちには追加報酬があります。今回の働きにより、遊撃士協会グランセル支部は正遊撃士の推薦状を送りたいと思います」

 

 エルナンはそう言って、正遊撃士の推薦状をエステル、アスカ、ヨシュア、シンジに手渡した。

 

「えっ、あたしたち、グランセル支部に来たばかりなのに、いいの?」

「これだけの大事件の解決に貢献したのですから、当然の事です」

 

 困惑するエステルに、エルナンは笑顔でそう答えた。5つの支部の推薦状が揃ったと言う事は、すなわちエステルたちは正遊撃士として正式に認められたことを意味する。

 

「それではカシウスさん、お願いします」

 

 エルナンに促されたカシウスは、真剣な表情でエステルたち四人の前に立った。

 

「エステル・ブライト。アスカ・ブライト。ヨシュア・ブライト。並びにシンジ・ブライト。以下四名を正遊撃士として認定する。各地方支部の推薦状を提出せよ」

 

 カシウスは合計20枚にもなる書類をエステルたちから受け取った。

 

「ロレント支部、ボース支部、ルーアン支部、ツァイス支部、グランセル支部、全ての支部の書類を確認した。最終ランクは準遊撃士1級。まさか、半年足らずで1級まで行くとは思わなかったぞ」

 

 カシウスはそう言うと、ニヤリと笑った。

 

「アンタの時はどうだったのよ?」

 

 あくまでカシウスと張り合うつもりだったアスカはそう尋ねた。

 

「俺か? 俺は最初からS級遊撃士だったぞ」

「そんなのインチキ!」

 

 アスカが肩を怒らせて怒鳴ると、周囲からは笑い声が上がった。

 

「女神エイドスの名と遊撃士協会総長の名代として、四名を正遊撃士として任命する。四名とも、正遊撃士の紋章を受け取るがいい」

 

 エステル、アスカ、ヨシュア、シンジの四人はカシウスから盾と籠手が重なった正遊撃士の紋章を受け取った。見守っていたシェラザードたち正遊撃士から拍手が上がる。

 

「本当に、お姉さんは嬉しいわ」

 

 ロレントで直接指導に当たっていたシェラザードは、目尻に溜まった涙を拭いながらそう言った。

 

「まあ、今回だけは誉めといてやるよ」

 

 アガットは少し顔を赤くしながら祝福の言葉を述べた。

 

「アガットさん……みんな、ありがとうございます」

 

 シンジは嬉しそうな笑顔でお礼を言った。

 

「僕達が正遊撃士になれたのも、皆さんが支えてくれたからです」

 

 ヨシュアもとびきり明るい笑顔でお礼を言った。

 

「遊撃士としてはこれからが本番だ。ランクも一番下のG級からとなる。初心を忘れないようにな」

 

 カシウスは真剣な表情でエステルたちに声を掛けた。

 

「もちろん!」

 

 エステルはカシウスに向かってそう答えた。

 

「おめでたい話の後に、残念なお知らせで恐縮なのですが、皆さんにお話があります」

 

 エルナンがそう言うと、その場に居合わせた遊撃士たちは怪訝そうな顔になった。

 

「本日を持ちまして、カシウス・ブライトさんは遊撃士を辞める事になりました」

「あんですって~!?」

「アンタバカァ!?」

 

 エステルとアスカが揃って叫ぶと、カシウスは苦笑いをしながら耳を手で押さえた。

 

「えっと……無職になるって事ですか?」

「いや、今回の事件でリベール王国軍はガタガタになってしまった。またモルガン将軍の下で軍の立て直しを手伝う事にしたよ」

 

 シンジの質問にカシウスはため息をつきながらそう答えた。王国軍のエリート部隊である情報部がクーデターで逮捕されてしまったのだ。王国軍の混乱は大きいものだろう。

 

「アスカとシンジも、もう俺が側に付いて居なくても大丈夫だろう?」

 

 カシウスの言葉にアスカとシンジはしっかりとうなずいた。アスカとシンジはこの世界に来てからたくさんの仲間や頼れる人々が出来た。カシウスの保護が必要な子供ではなくなったのだ。

 

「正直あたしたちの仲間から先生が抜けるのは痛いけど……いつまでも先生に頼って

ばかりじゃ、あたしたちも一人前になれないってことよ」

 

 シェラザードは強い決意を秘めた瞳できっぱりとそう言い放った。リシャール大佐にもその決意があったのならクーデター事件など起こさずに済んだのかもしれない。

 

「これからは俺たち若手だけでも何とかなるってオッサンに見せつけてやろうじゃないか」

 

 腕組みをしたアガットがそうシェラザードたちに呼び掛けた。

 

「そうよ、だからアタシたちに安心して任せなさい!」

「Gランクのヒヨッコが何を言ってる」

 

 アスカとアガットのやり取りで、また室内は笑い声に包まれた。

 

「この四人は見ての通り新米だ。お前たちの手でビシバシと鍛えてやってくれ」

 

 カシウスはシェラザードたちにそう声を掛けた。

 

「はは、これからはもっと厳しくしごかれそうだね」

 

 ヨシュアはそう言って笑い声を上げた。

 

 

 

 

 遊撃士協会を出たエステル、アスカ、ヨシュア、シンジはこれから城へ向かうというカシウスを見送りに行った。

 

「父さんってば、生誕祭の王都見物に付き合ってくれる暇もないなんて……」

 

 エステルもまだ父親に甘えたい年頃、直ぐに城に戻るというカシウスに残念そうな顔でそうぼやいた。

 

「軍議の予定があってな。リシャールは出頭したが、まだ抵抗して逃げている特務兵たちも居る。カノーネ大尉の所在も不明だ。さらに混乱を狙って空賊団の脱走を情報部が手引きしたらしい。生誕祭で事件が起きないように、警備の強化が必要なんだ」

「まったく、シンジに助けてもらった恩も忘れて、あの女は……」

 

 カシウスの話を聞いたアスカは、苛立たし気にそうつぶやいた。

 

「一番の問題は、あの地下遺跡が機能を停止して封印が解かれた事で、何が起こるかと言う事だ。《伝説のアーティファクト》とは何なのか……今だにその詳細は分かっていない」

「うん、それが気にかかる事よね」

 

 エステルは真剣な表情でカシウスにそう答えた。

 

「リシャール大佐の記憶も何者かに操作されたようだし……」

「空賊団の首領や、ダルモア市長やレイヴンと同じように、まったく思い出せない部分があるそうだ」

 

 ヨシュアの言葉を聞いてカシウスはそう言った。

 

「しかしあの《黒のオーブメント》をリシャール大佐に渡した人物は判明した。ロランス少尉だ」

 

 カシウスの話によると、ロランス少尉が情報部に入った時に《黒のオーブメント》を渡されたのだと話した。しかし《黒のオーブメント》は一度エステルたちに依頼をした銀髪の『少年K』によって情報部から奪われている。その『少年K』の正体は一切不明だった。

 

「ロランス少尉の正体は徹底的に調べる必要があるな」

 

 カシウスは真剣な表情でそうつぶやいた。話しているうちにエステルたちはついに城の前まで来てしまった。

 

「まあ、それは俺たち王国軍の仕事だ。お前たちは生誕祭を楽しんで来い。休息をとる事も遊撃士にとって大切な事だぞ」

「分かりました」

 

 カシウスの言葉にシンジはそう答えた。

 

「それじゃあ、めいっぱい楽しんじゃおう!」

 

 エステルの号令の下、四人は生誕祭で賑わう王都へと向かう事になった。

 

 

 

 

「それで、最初に行く場所が“ここ”って……」

 

 真っ先に遊撃士協会へと向かったアスカに、エステルはあきれた顔でため息を吐き出した。

 

「遊撃士協会に何か依頼が入っているかもしれないじゃない。アタシは早く遊撃士ランクを上げたいの!」

 

 アスカに先導される形で、エステルたちは遊撃士協会の中へと入った。

 

「おや皆さん、警備の方は王国軍の方でしてくれるので、仕事はほとんどありませんよ。ダブルデートを楽しんで来てください」

 

 受付のエルナンに言われたエステルとアスカは顔をゆでだこのように真っ赤にする。それでもエステルたちが掲示板を確認すると、一つの依頼があった。

 

 ◆帝国大使館の依頼◆

 

 【依頼者】ミュラー

 【報 酬】100 Mira

 【制 限】G級

 

 大至急、王都のどこかにいると思われる

 お調子者の自称演奏家を帝国大使館に連行してください。

 

「……正遊撃士になって記念すべき最初の依頼がコレとはね……」

 

 アスカは青筋を立てて眉をヒクヒクさせながら真新しい遊撃士手帳に依頼内容を書き留めた。この程度の依頼、ロレントの準遊撃士だった自分にさえできる。

 

「まあまあ、ミュラーさんは忙しいみたいだから手伝ってあげようよ」

 

 シンジはそう言ってアスカをなだめた。探すまでも無くオリビエは南街区の大通りで路上ライブをやっていた。

 

「やあキミたちも、ボクの演奏を聴きに来てくれたのかい?」

 

 エステルたちの姿に気が付いたオリビエは演奏の手を止めてそう声を掛けた。

 

「アタシたちよりももっとアンタの演奏を聴きたいって言う大ファンの所へ連れて行ってあげるわ!」

「えっ、ちょっと、何をするんだい」

 

 アスカはそう言うと、オリビエの服の首根っこを引っ張り、シンジとヨシュアは済まなそうな顔で謝ってから両腕を掴んでオリビエを引きずった。周囲の人は何事かとざわついたが、エステルたちの胸にある遊撃士の紋章を見ると、オリビエの方が悪いのかと理解した。

 

「こ、ここは帝国大使館じゃないか!? せ、せっかくミュラーの目を盗んで抜け出して来たのに、酷いじゃないか」

 

 東街区にある帝国大使館の前に来ると、オリビエはジタバタと暴れ出した。しかしエステルたち四人掛かりで抑え込まれてはかなわない。

 

「依頼遂行、ご苦労だった。今度は絶対に目を離さないようにして、君たちに迷惑をかけないようにする」

 

 ミュラーにオリビエを引き渡して、エステルたちは生誕祭の見物を再開する事にした。

 

 

 

 

 女王生誕祭を見て回ったエステルたちは、街の至る所で知り合いと楽しく話した。ホテルでは城を抜け出したクローゼが、学園からやって来たハンスとジルと会っていた。酒場ではジンとアガットが来年の武術大会では手合わせをしようと語り合い、百貨店ではシェラザードとカルナやアネラスたちがアクセサリを物色していた。

 礼拝堂ではユリア中尉がシスターとして潜伏していた間のお礼を大司教に言っていた。カレーの美味しいコーヒーショップではラッセル博士とティータがくつろいでいた。ティータはアガットをアイスクリーム屋に誘ったが、断られてしまったのだという。

 リベール通信社に顔を出すと、クーデターの顛末について書いた《リベール通信特別号》は大好評で、ナイアルとドロシーは賞を受賞できるかもしれないと話していた。遊撃士協会の意向でエステルたちの名前は載せられなかったと聞くと、アスカは少し残念がった。

 城の謁見の間ではアリシア女王とモルガン将軍とカシウスが顔を合わせていた。場違いな場所に来てしまったエステルたちはあわてて出ようとするが、モルガン将軍に呼び止められて孫娘を助けてくれた事についてお礼を言われた。これで遊撃士嫌いが少しでも直ってくれればいいと思うエステルたちだった。

 

「ふう、色々な所を歩き回って疲れちゃった。一休みしようよ」

 

 エステルの提案で、四人は東街区にある広場のベンチで休憩する事にした。自然とエステルとヨシュア、アスカとシンジに別れて座った。これではマノリア村の展望台と同じ事が起こると気が付いたアスカだが、嬉しそうに話しているエステルとヨシュアの姿を見ると席替えをするとは言えなかった。

 

「そうだエステル、アスカから聞いたんだけど、クーデター事件が落ち着いたら僕に大事な話があるんだって?」

 

 唐突にヨシュアにそう言われたエステルは、顔を真っ赤にして向かいの席に座るアスカをにらみつけた。アスカはニヤケ顔でエステルを見つめ返した。

 

(……もう、アスカってば、余計な事をして!)

 

「そ、その話はまた後で……そうだ、こう暑いとアイスクリームでも食べたくならない?」

 

 エステルがそう提案すると、アスカたちは少し離れた場所にあるアイスクリーム屋の屋台の方を眺めた。遠目からでも分かるほど、行列が出来ていた。

 

「えーっ、あんなに長い行列が出来てるわよ。アタシ、待つのって嫌なのよね」

「そんな事言わずに、行こう!」

 

 さっきの仕返しとばかりにエステルはアスカの腕を強引に引っ張ってアイスクリーム屋の方へと姿を消した。それを見つめるヨシュアとシンジは、眩しいものでも見るかのように目を細めて微笑んでいた。

 

「あれ、どうしたのアスカ?」

 

 直ぐに戻って来たアスカに、シンジは不思議そうな顔で尋ねた。

 

「シンジに話があって戻って来たのよ」

「ボクに話って?」

「ここではちょっと……」

 

 アスカは困った顔で、ヨシュアの方をチラッと見た。

 

「いいよ、行っておいで。僕はここで待っているから」

「ありがと」

 

 アスカはヨシュアにお礼を言うと、シンジの手を引いて、人気の無い物陰へと行った。

 

「それでアスカ、ヨシュアにも聞かれたくない内緒の話って何なの?」

「アタシたちが正遊撃士になれたのも、色々な人に助けてもらったからだと思ってる」

「うん、その通りだと思うよ」

 

 アスカの言葉にシンジはうなずいた。

 

「でもね、アタシは思ったの。一番お礼を言わなくちゃいけないのはシンジかな……って。だからアタシに恩返しをさせて欲しいのよ」

「アスカにそう言われるだけで嬉しいよ」

 

 シンジは顔を赤くしてそう答えた。今のアスカはいつもより色っぽい気がする。

 

「それで……シンジがしたいって言うなら……アタシのお、おっぱいを触っても良いのよ」

「お、おっぱい!?」

 

 シンジは思わず声が裏返ってしまった。

 

「バ、バカっ、大声出さないでよ。アタシだって、は、恥ずかしいんだから……」

 

 アスカは顔を赤くしてそう言った。シンジはそうっとアスカの胸に手を伸ばそうとすると、アスカはそれを押し留めた。

 

「服の上からじゃなくて、直接……ね。だから今夜、《ホテル・ローエンバウム》の201号室に部屋をとってあるから、待ってて」

 

 アスカはそう言うと、アイスクリーム屋の屋台の方へと走って姿を消してしまった。シンジは胸のドキドキがしばらく収まらなかった。今まで、服越しにアスカの胸の感触を味わった事はあるが……。

 

「おや、シンジ君じゃないですか。ヨシュア君と一緒だったんですね」

 

 シンジがベンチへと戻ると、ヨシュアがアルバ教授と話していた。

 

「君たちが正遊撃士になれたお祝いに何が良いのか、ヨシュア君に聞いていたんですよ。ほら、武術大会で君たちのチームに賭けていたおかげで、私の財布も膨らみましたからね」

 

 アルバ教授はホクホク顔でシンジに話し掛けた。

 

「あれ、でも最後の試合はボクたちは負けてしまいましたよ」

「はっはっは、そこは勝負師の勘、相手のチームに賭けましたよ。元金が大きかっただけに儲かりましたよ」

 

 シンジの質問にアルバ教授はそう答えた。

 

「あれ、アルバ教授じゃない?」

 

 アイスクリームを二個ずつ持ったエステルとアスカが広場へと戻って来た。

 

「何か頭のネジが外れたくらい嬉しそうな顔をしてるけど?」

「ははは、そう見えますか。実はこの前の武術大会の決勝戦の賭博で10万ミラほど稼げたんですよ!」

 

 アスカの質問にアルバ教授は弾んだ声でそう答えた。

 

「10万ミラって……賞金より多いじゃない」

 

 エステルは驚きの声を上げた。

 

「じゃあ次からは調査に行くときは遊撃士を雇いなさいよ」

「はい、これからもよろしくお願いします」

 

 アルバ教授はアスカに向かって笑顔でそう答えると、弾んだ足取りで去って行った。

 

「そうだ、アタシたち今夜はお城に泊めさせてもらう事になっているのよね?」

「うん、父さんと僕とシンジが同じ部屋で、エステルとアスカとシェラザードさんが同じ部屋だからね」

 

 アイスクリームを食べながら、アスカの質問にヨシュアはそう答えた。もっと生誕祭を見て回りたかったが、アイスクリーム屋の行列に並んでいる間に日が傾いていた。

 エステルたちは遅くならないうちに城へと向かう事にした。城へ向かう道中、アスカはエステルにそっと耳打ちをする。

 

「お城の空中庭園なんか、告白するには絶好の場所だと思うわよ。せいぜい頑張りなさい」

「……うん」

 

 アスカにそう答えるエステルの顔は夕陽に照らされて真っ赤に染まっていた……。

 

 

 

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