アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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予告編から本格的に書き換えました。


空の軌跡SC・序章
第五十一話 乙女達の特訓!(2022/10/30 0:09公開)


 

 あの悪夢のような出来事の後、すっかり落胆して泣き腫らしたアスカとエステル。

 疲れ果てた彼女達は、カシウスとシェラザードに支えられてグランセル城の部屋へと戻った。

 シンジが寝るはずだったアスカの隣のベッドにはカシウスが、ヨシュアが寝るはずだったエステルの隣のベッドにはシェラザードが入り、うなされるアスカとエステルを朝まで見守っていた。

 カシウスは泣きながら眠るアスカを見て、アスカとシンジの2人と翡翠の塔で出会った夜の事を思い出した。

 あの時もアスカは眠りながら死んだ母親への寝言を言っていた。

 二度とアスカを悲しませるような事をしないと誓った自分が油断したせいで、娘に悲しい思いをさせてしまった事をカシウスは後悔していた。

 カシウスはヨシュアから彼が所属していた組織について聞いていた。

 身喰らう蛇、ウロボロス。

 リベール王国で数々の事件を引き起こし、リシャール大佐のクーデターを扇動し、シンジを巨大戦艦で誘拐したのはおそらく彼らの仕業だ。

 ヨシュアが単身姿を消してしまった事からも、それは間違いない。

 

「パパ……」

「アスカ、目を覚ましたか」

 

 翌日の昼近くになって、ようやくアスカは目を覚ました。

 

「アタシ、ひどい夢を見たの。シンジが遠くへ行ってしまった夢……」

「残念ながら、現実に起きたことだ」

 

 カシウスがそう告げると、アスカの青い瞳から涙があふれた。

 昨日の夜あれだけ泣いたのに、まだ枯れる事はない。

 そんなアスカを、カシウスは胸に抱いた。

 

「お前を慰めてやりたいが、ここで泣いていてもシンジは救われない、分かっているな?」

「うん……」

 

 そうカシウスが声を掛けると、アスカは身体を離して手で涙を拭った。

 歯を食いしばって必死に涙をこらえている。

 

「シンジをさらった奴らについて、お前とエステルに話がある。まずはエステル達と合流するぞ」

 

 カシウスの言葉にうなずいたアスカは部屋を出る。

 廊下ではすでにエステルとシェラザードがソファに腰掛けて二人を待っていた。

 

「アスカ……」

「アタシ達4人は念願の正遊撃士になれたのに……どうしてこんな事になっちゃったのよ」

 

 エステルと顔を合わせると、アスカはそう嘆いた。

 今日は大手を振ってロレントに帰る、そんな素晴らしい日になるはずだったのに。

 シェラザードの話によれば、目覚めたエステルも昨日の夜の出来事は夢であって欲しいと現実逃避を続け、シェラザードの平手打ちにより正気を取り戻したらしい。

 

「廊下でする立ち話では無いな。場所を移すぞ」

 

 4人はカシウスに先導される形で、空中庭園へ続く階段を昇った。

 テラスで向き合う形になったエステルは、カシウスに質問を浴びせる。

 

「父さん、どうしてそんなにのんきに構えているの!? 直ぐにヨシュアを捜し出して、シンジを助けに行かないと!」

「まあ待て。ヨシュアが本気で姿を消したら、見つけるのは無理だ。5年前、俺があいつの気配に全く気が付かずに不意打ちを受けたほどだからな。それに奴らは、すぐにシンジに危害を加えるような真似はしないだろう」

 

 カシウスの答えを聞いたアスカは、今までにないほど怒った顔でカシウスに詰め寄った。

 

「今までエステルに遠慮して聞けなかったけど……ヨシュアって何者よ!?」

 

 しばらくの間、カシウスは黙り込んでいたが、やがて重い口を開いた。

 

「……『見喰らう蛇』と自称する秘密結社がある。世界を裏から動かそうとする連中だ。ヨシュアはその結社の一員らしい。遊撃士協会が調べてはいるが、その実態は謎に包まれている。国民達に不安を与えないように、存在を隠されている。彼らの目的は不明だが、シンジはそのために奴らに捕まったのだろう」

「あの巨大な戦艦の事?」

 

 シンジを乗せたまま、遥か彼方へと飛び去った巨大な赤い戦艦の姿を思い浮かべて、アスカはそうつぶやいた。

 カシウスは無言でうなずいた後、さらに話を続ける。

 

「そしてヨシュアも、結社の一員として活動を続けていたらしい」

 

 そのカシウスの言葉を聞いたエステルとアスカは血相を変えた。

 

「ちょっと、それってどういう事!?」

「ヨシュアが書置きを残していた。それによると、あいつはこの5年間、遊撃士協会の動向やアスカやシンジ達に関する情報を結社に流し続けていたようだ。どうやら無意識のうちに結社に定期連絡する催眠術を掛けられていたらしい。あいつは自分のせいで家族に迷惑を掛けた時……特に結社が関わってきた場合……俺達の前から姿を消すと誓っていた。それがあいつの譲れない一線だったんだろう」

「父さん、分かってたんだ……ヨシュアがいつか居なくなっちゃうかもしれないって……」

 

 カシウスの答えを聞いたエステルは膝を折って崩れ落ちた。

 隣にいたアスカが倒れそうになる彼女の身体を支える。

 そのアスカもショックで全身がガクガクと震えていた。

 

「女の立場から言わせてもらえば、カシウス先生もヨシュアも、男として最低です」

 

 それまで黙って話を聞いていたシェラザードが、厳しい目つきで言い放った。

 

「底の知れない連中だ、出来ればお前達には関わって欲しくなかった。しかしシンジが連中の手に落ちたとなれば、そうも言ってられん。だが、今のお前達には手に余る相手だ。新米の遊撃士では歯が立たないだろう」

「じゃあアタシ達は諦めろって言うの!?」

 

 アスカは今にもカシウスに噛みつきそうな勢いだ。

 そんなアスカをなだめて、カシウスはアスカの両肩に手を置いた。

 

「父親としてはお前達に危険な道を歩ませたくないが……女として、遊撃士として、お前達の信じる道を進むが良い」

「父さん……」

「パパ……」

 

 エステルとアスカはそう言ってカシウスに近づいた。

 2人の頭を抱き寄せるカシウス。

 

「エステル、アスカ……俺の息子たち……ヨシュアとシンジの事を頼んだぞ」

「うん……またあの家でみんなで一緒に暮らすためにも……」

「絶対にヨシュアを連れ戻して、シンジも助け出すから……!」

 

 

 

 

 それから数ヵ月の間。

 エステルとアスカの2人は、リベール王国の国外にあるレマン自治州の遊撃士協会の訓練場に居た。

 

「いくわよ、アスカ!」

「かかって来なさい、エステル!」

 

 エステルとアスカ、2人の武器である赤く長い棒がぶつかり合って火花を散らす。

 力任せに振り下ろされたエステルの攻撃を、アスカは真っ向から受け止める。

 

「相変わらず、手が痺れるほどの馬鹿力ね……」

「力が通じないのならば、速さで勝負!」

 

 棒を振り回すのを止めたエステルは、高速で突きを繰り出す攻撃方法へと変えた。

 アスカは自分の身体の前で棒を回転させてエステルの突き出された棒を弾く。

 攻撃を防がれたエステルは、飛び退いてアスカとの間合いを取る。

 これからは我慢比べ、体力が先に尽きた方が負けだ。

 2人は全身汗だくになりながらお互いの隙を突こうとにらみ合いを続けた。

 

「ほらほら2人とも、そろそろ朝食の時間よ」

 

 割って入るように姿を現したのは、2人の姉代わりでもあるシェラザードだった。

 エステル達が朝練をしている傍らで、彼女は3人分の朝食を作っていた。

 

「えっ、もうそんな時間?」

「もうちょっとで今日の夕食当番を賭けた勝負が決まりそうだったのに」

 

 驚いた顔でつぶやくエステルに対して、アスカは不満げに口をとがらせた。

 

「今日は演習があるんだから、しっかりと食べてスタミナを付けなさい。一段とハードなんだから」

 

 シェラザードがそう言うと、2人とも「ゲッ」と言う表情になった。

 この数ヶ月の間、彼女のしごきを受けてきたのだ。

 演習ともなれば、さらに厳しいものになると想像できる。

 

「ふーっ、美味しかった! シェラ姉がこんなに料理が上手いとは思わなかったわ」

「お酒のツマミを作っているうちに自然とね。アスカはどうしてわたしが料理下手だと思ったのかしら?」

「えーっと、それは……なんとなく」

 

 シェラザードにそう答えるアスカの頭に、元保護者の女性の顔が思い浮かぶ。

 今となってはレトルト食品を頬張っていた彼女の姿が懐かしい。

 自分とシンジがこの世界に来てから数年が経つ。

 彼女は今頃何をしているのか、自分達の事をたまには思い出してくれているのか。

 しばらくの間、アスカは過去に思いを馳せた。

 

「それにしても、シェラ姉が訓練教官として付き合ってくれるとは思わなかったわ」

「ふふ、あんた達はわたしの可愛い妹弟子だしね。先生が伝えきれなかった事を教えたいと思ったのよ」

 

 エステルのつぶやきに対して、シェラザードは笑みを浮かべて答える。

 カシウスはエステルとアスカをもう止めるつもりはないと告げた。

 しかし今の2人の実力では、結社に立ち向かうには力不足だと話した。

 そこでカシウスは2人に遊撃士協会の訓練場に行くことを勧めた。

 訓練場には遺跡探索技術、レンジャー技術、サバイバル技術、対テロ技術などの実戦レベルの訓練が行える本格的な施設がある。

 エステルとアスカは2つ返事で訓練場に行くことを決めた。

 今までヨシュアとシンジに頼りきりだった部分があると感じていたからだった。

 料理に関しても、手伝ってもらっていた部分があった。

 この訓練場の宿舎で交代で自炊生活をするようになって、アスカとエステルの料理技術は向上した。

 

「わたしが正遊撃士になったお祝いに、王都で買ってあげた服はどう?」

「ちょっとスカートだと、まだ落ち着かないかな」

 

 シェラザードに尋ねられたエステルは少し顔を赤らめて、スカートのすそを指でつまむ。

 今までエステルはアスカに勧められても、遊撃士として活動する時はスパッツをずっとはいていたのだ。

 

「エステルはもうちょっと、女の子らしい服装をするべきよ」

「アスカの言う通り、素材は良いんだからね」

 

 再会した時、可愛くなったエステルの服装を見ればヨシュアはきっと喜ぶと丸め込まれて、ついにエステルはスカートをはく決意をしたのだった。

 

「でもヨシュアってば、あたしの下着を見ても平然として洗濯していたし……」

「なんならリボンも着けてみたら?」

「リ、リボン!? さすがにそこまでは……アスカの方こそどうなのよ」

「アタシはこのヘッドセットを着けていないと誰とも話せないし」

 

 アスカはそう言って、入浴時以外は肌身離さず身に着けている赤いインターフェイス・ヘッドセットを触った。

 結局、リベール王国随一の技術力を誇るツァイス中央工房のラッセル博士でもヘッドセットの謎は完全に解明できなかった。

 どうやら精神波のようなものを送受信していることだけは何とか分かったぐらいである。

 

「……あたし達、この数ヵ月の訓練で成長できたよね?」

「当たり前よ、シェラ姉のしごきにずっと耐えてきたんだから!」

「ふふ、その成果は今日の演習で見せてもらうわよ」

 

 楽しい朝食の時間は終わり、エステルとアスカは自分達の部屋に戻って演習の準備を整える事になった。

 演習とは言え、実戦と同じく何が起こるか分からない。

 持っていた練習用の武器をしまうと、今までの旅で愛用していた装備を取り出した。

 

「ヨシュア……」

 

 エステルは荷物からヨシュアのハーモニカを取り出すと、しっかりと握り締めた。

 アスカも頭のヘッドセットを撫でているだろう。

 お互いに離れてしまった恋人達との絆を示す、象徴的な物だ。

 2人は準備を終えると、時間に遅れないように部屋を出て、シェラザードの待つ玄関へと向かうのだった。

 

 

 

 

 シェラザードが用意した演習の内容は『遺跡探索』だった。

 エステル達が泊っている宿舎の西にある『バルスタール水道』。

 遺跡を改築して作られた訓練施設。

 古代の仕掛けも修復され、魔獣達の巣となっている。

 2人はシェラザードに先導されて、バルタザール水道の中に足を踏み入れた。

 

「へぇ、結構広い地下水道なのね」

 

 辺りを見回したアスカは感心した様子でつぶやいた。 

 

「あなた達が準遊撃士になるためにテストを受けた、ロレントの地下水道とは比べ物にならない広さよ」

 

 思わずそう口に出してしまったシェラザードだが、エステルとアスカが表情を曇らせるのを見て、しまったと手で口を押えた。

 

「ごめんなさいね、あなた達」

「ううん、これはヨシュアとシンジを取り戻すための訓練なんだもの、頑張らなくっちゃ!」

 

 謝るシェラザードに対して、エステルは首を横に振った。

 

「さて、それなら気持ちを切り替えて、今回の演習内容を説明するわよ。目標は、遺跡の最奥にあるアーティファクトの回収」

「えっ、この遺跡にそんなものがあるの!?」

 

 驚いてシェラザードに聞き返すエステルの姿を見て、アスカはため息を漏らす。

 

「アンタバカァ!? あったとしても、とっくの昔に回収されているわよ。もうここは遊撃士協会の訓練施設になっているんだから」

「それもそうか」

「はぁ、今度はアタシがヨシュアやシンジのようなツッコミ役に回らないといけなくなりそうね」

 

 そう言ってアスカは再びのため息をもらした。

 

「アスカの言う通り、水路の最奥にはダミーを置いておいたわ。遊撃士協会のシンボルが付いているから分かるはずよ。それを回収して宿舎に居るわたしのところに報告にくること。分かったわね」

「ふん、そんなの楽勝に決まってるじゃない!」

「わたしの演習がそんなに甘い物だと思う?」

 

 腰に手を当てて自信たっぷりに言い放つアスカに対して、シェラザードは含み笑いをする。

 さらにシェラザードは『バトルスコープ』をエステルに渡し、この地下水道に生息する魔獣の生態調査を行うように命じた。

 

「えーっ、魔獣なんて退治しちゃえばいいじゃん、面倒くさい」

「待ちなさいエステル。このサブクエストはボーナスBPの匂いがするわ」

 

 不満を漏らすエステルに、眼光を鋭くしたアスカはそう告げた。

 魔獣の生態調査をするということは、不意を打って先手必勝で息の根を止める、という戦法が使えなくなるということだ。

 『バトルスコープ』は魔獣の死骸に向かって使っても効果が無い。

 シェラザードの演習の洗礼が早速やってきたと、アスカは笑みを浮かべた彼女をにらみつけた。

 今まで魔獣図鑑の登録はヨシュア、料理レシピの研究はシンジに任せきりだった。

 訓練の途中で腹ごしらえをするための食事も、アスカとエステルの手で作らなければならない。

 

「それじゃあ、いってらっしゃい♪」

 

 シェラザードに見送られて、2人はバルタザール水道の奥に向かって足を踏み入れた。

 

 

 

 通路を進むとほどなくして、エステルとアスカは4匹の魔獣の一団と遭遇した。

 

「ちょっと~、いきなり4匹の魔獣と戦うなんて聞いてないよ!」

 

 今までヨシュアとシンジを含めた4人パーティで戦うことが多かったエステルは悲鳴を上げた。

 しかも『バトルスコープ』を使って分析をしてから倒さないといけない。

 うっかり力加減を間違えて止めを刺してはいけないので、2人はやる気満々の魔獣達の攻撃を受けながら戦わなければならなかった。

 

「んもう、アタシの肌に傷を付けるなんて! 痕が残ったらどうするつもりよ!」

 

 多数の魔獣達の爪や牙による攻撃を全て避けきれるはずがない。

 体を張って守ってくれていたヨシュアとシンジの有難みを、エステルとアスカは改めて実感した。

 

「なんか、アスカに回復魔法を使ってもらうと変な感じがする」

「アタシも同じよ」

 

 戦いが終わったエステルとアスカは、お互いの傷を回復魔法で癒していた。

 自分自身に回復魔法を使っても効果はあるのだが、見えにくい場所にある傷は見落としてしまう可能性がある。

 だから2人とも回復魔法を使えるようにしたのは都合が良かった。

 

「毎回この調子だと、先が思いやられるわね」

 

 アスカとエステルは、立ちはだかる魔獣をサクッと蹴散らして進むつもりだったが、気配を殺して物音を抑え、隠密行動をとる必要が出てきた。

 物陰からこっそり『バトルスコープ』を使えば、魔獣には気付かれない。

 この演習は遺跡探索だけではなく、レンジャー技術の訓練も兼ねているのだと2人は思い知らされた。

 

「ふう、待ちくたびれたわ」

 

 迷路のような地下水路を抜け、最奥にたどり着いた2人を待っていたのは、シェラザードだった。

 

「シェ、シェラ姉!?」

 

 ポカンと口を開けながら、シェラザードに駆け寄るエステル。

 アスカも目を丸くしながらエステルに続く。

 

「宿舎に帰ったんじゃなかったの!?」

「あなた達の反対側にもルートがあったのよ。わたしは魔獣の生態調査をする必要はなかったから、サクサクッと進むことができたけどね」

 

 アスカに尋ねられたシェラザードは涼しい笑顔でそう答えた。

 この水路に生息する魔獣達は、エステルとアスカの2人パーティでも苦戦するほど。

 それをたった1人で突破してしまうのだから、シェラザードの実力は相当のものだ。

 

「それで、どうしてシェラ姉がここに居るの?」

「わたしはこの遺跡のアーティファクトを狙って現れた女盗賊の役を演じに来たの。さあ、わたしを倒さないとアーティファクトは手に入らないわよ!」

 

 エステルの質問にシェラザードはそう答えると、ムチを構えて戦闘態勢へと入った。

 

「やるしかないのね……!」

「アタシ達だってこの数ヵ月の訓練で実力を付けた。シェラ姉にだって負けないわよ!」

 

 2人も応えるように棒を向ける。

 遺跡の最奥の大部屋で、エステル・アスカチームとシェラザードの戦いが始まった。

 シェラザードはムチの使い手だが、脅威になるのは強力な風属性の攻撃魔法だ。

 特に彼女の魔法、エアロストームを喰らえば、エステルとアスカはまとめて竜巻に吹き飛ばされるだろう。

 だからエステルとアスカは、シェラザードの魔法の詠唱を妨害することに全力を尽くした。

 アスカも強力な火属性の攻撃魔法を使うことが出来るが、それはシンジの威嚇射撃によるサポートガードがあっての事だ。

 2人は棒術だけで、シェラザードを倒さなければならなくなったが、シェラザードの身のこなしは軽く、棒を振り回しても突いても避けられてしまう。

 このままでは長い棒を振り回して自分達の体力の方が尽きてしまう。

 そう考えたアスカは作戦を変える事にした。

 

「エステル、30秒だけシェラ姉の相手をしてくれる?」

「うん、分かった!」

 

 エステルの返事を聞いたアスカは魔法の詠唱を始めた。

 しかしそれは得意とする火属性の攻撃魔法ではない。

 

「クロックアップ!」

 

 アスカとエステルの身体が光に包まれる。

 彼女が唱えたのは、素早さを上げる時属性の補助魔法だったのだ。

 

「くっ、素早さを上げるとは、考えたわね」

 

 ついにエステルの棒での攻撃の一撃がシェラザードに当たった。

 ガードが間に合い直撃とはならなかったものの、シェラザードには確実にダメージを与えた。

 このまま攻撃を当て続ければダメージが蓄積して彼女の動きも鈍って行くだろう。

 エステルとアスカにも勝ち筋が見えてきた。

 

「こうなったら、ええいっ!」

「あっ!」

 

 シェラザードは部屋に置かれていたダミーのアーティファクトを拾い上げると、一目散に逃げだした。

 

「こらっ! 待ちなさい!」

「待てと言われて立ち止まる女盗賊は居ないわよ♪」

 

 エステルとアスカは慌ててシェラザードを追いかけるが、演習のためのフル装備を身に付けた2人の方が重量的に不利。

 クロックアップの魔法の効果も切れて、遺跡の出口で2人は完全にシェラザードの姿を見失ってしまった。

 いや、実際にはシェラザードは宿舎でエステル達の帰りを待っているのだろうが、彼女は遺跡にやってきた盗賊役だ。

 本物の盗賊ならばとうに逃げてしまったと判定されるだろう。

 つまり今日の演習は不合格だということだ。

 

 

 

 

 肩を落として帰ってきたエステルとアスカは、笑顔を浮かべたシェラザードに出迎えられた。

 彼女は、自分が逃げ帰ることになるとは想定外だった、演習は失敗したがその点は誇って良いと2人を慰めた。

 明日からはサバイバル技術を高めるために、宿舎の南にあるサンクトロワの森で訓練を行うと話した。

 ハードな一日を終えた2人だが、シェラザードが夕食当番を肩代わりすることはなかった。

 

「そういえば朝の訓練で、どちらが夕食当番をするか決めるって話だったけど……」

「……一緒に作ろっか」

 

 もう2人は訓練場で自主練習をする気力も体力も残っていなかった。

 夕食を待つシェラザードはテーブル席で上機嫌にワインを飲んでいる。

 そして3人で食卓を囲んで談笑した後、明日に備えて部屋で寝ることになった。

 エステルとアスカは2階にある自分達の部屋へと戻ったが、シェラザードはまだ1階のダイニングに残ってワインを飲んでいた。

 

「ここでの訓練も最終段階か。あの子達に教えることもいよいよなくなってきたわね……」

 

 シェラザードは妹弟子であるエステルとアスカの成長をとても喜んでいた。

 2人掛かりとはいえ、あのまま逃げずに戦いを続けていたら、膝を折って敗北宣言をしたのは自分の方だ。

 それが彼女にとってたまらなく嬉しかった。

 しかし夜の静寂は、窓ガラスが割れる音によって破られた!

 

「仕事終わりのビールが美味しいって気持ち、あたしにも良く分かるわ。でも飲み過ぎは良くないわよ♪」

「あんた、確か結社の!?」

「覚えててくれて嬉しいわ」

 

 女性兵士の乱入者に続いて、ぞろぞろと武装した連中が入ってきた。

 なぜ、結社の部隊が遊撃士協会の訓練所を襲うのか。

 その理由がシェラザードには直ぐには思い付かなかったが、とある可能性に思い至った。

 

「あんた達、アスカまで誘拐するつもり!?」

 

 結社は異世界からやってきたシンジをさらっていった。

 それならば、アスカも同様に狙われるリスクがあるということではないか。

 何としてでもこの包囲網を突破してアスカ達を逃がさななければならない。

 

「ちょっち、あなたに暴れられると困るのよね」

 

 乱入者達のリーダーと思われる、結社の女性兵士はビンを床に叩きつけて割った。

 たちまち室内に、煙のような霧が立ち込める。

 霧を吸い込んだシェラザードはガックリと膝を折った。

 

「これは……眠りの霧? まさか、姉さんの……」

 

 シェラザードはそうつぶやくと、完全に意識を失った。

 

「はい、その娘は丁重に扱ってね。大事な人質なんだから」

「はっ、サトミ軍曹」

 

 武装集団の兵士達はシェラザードを抱えると、宿舎から出て行った。

 

「さぁて、これからがメインイベントね」

 

 彼女はそうつぶやくと、ゆっくりとエステルとアスカの部屋のある2階へ続く階段を昇るのだった……。




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