アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~ 作:朝陽晴空
1
「カボチャ泥棒、観念して奪ったカボチャを返しなさい!」
「なんだお前は!? そんなフリフリのリボンの服を着て何者だ!」
「アタシはアスカ・ブライト! 正遊撃士よ!」
アスカはそう言うと、胸の谷間から正遊撃士の紋章を取り出して、野菜泥棒達に叩きつけた。
正遊撃士は軍の兵士よりも強いともっぱらの評判である。
泥棒達は青い顔をしてたじろいだ。
しかし圧倒的な人数の多さが泥棒達を勇気づける。
アスカは成長したとはいえ弱冠17歳の乙女。
野菜泥棒達のアジトに単身乗り込むという無謀な行為をしていた。
「てめえみたいな小娘が正遊撃士なんて有り得ねえ! その正遊撃士の紋章も偽物か何かだろ?」
「遊撃士ごっこ遊びは終わりだよ、お嬢ちゃん」
「なんなら、試してみる?」
野菜泥棒達の挑発に対して、アスカも同じもので返した。
そのアスカの不遜な態度を見た野菜泥棒達は武器を構える。
「手前ら、やっちまえ!」
5人の男達がアスカに向かって飛び掛かる。
アスカは赤く長い槍を持ったまま平然と待ち構えていた。
彼女は男達を一網打尽に出来る間合いを待っていたのだ。
「今よ! 秘技、『太極輪』!」
アスカは持っていた赤く長い槍を自分の身体を中心とした円状に振り回した。
彼女に迫っていた5人の男達は直撃を受けて後ろに大きく跳ね飛ばされる。
「魔法が使えなくたってね! アタシにはカシウス・ブライト直伝の棒術があるのよ!」
堂々とアスカがカシウス・ブライトの名前を出して名乗りをあげると、野菜泥棒達の動揺はさらに激しくなった。
カシウス・ブライトといえば大陸最強の男として有名である。
名前を聞くだけで悪党達は蜘蛛の子を散らすように逃げるものだった。
野菜泥棒達の中には、アジトである倉庫から外へ逃げ出そうとする者も居た。
「あれ……?」
アスカが突然間抜けな声を出す。
武器として持っていた赤い槍『ロンギヌス』がぽっきりと折れてしまったのだ。
元々はハロウィンのコスプレアイテムとして持っていた単なる木の棒。
5人の男達を弾き飛ばした衝撃に耐えられなかった。
「あはは……」
彼女は誤魔化し笑いを浮かべるがもう遅い。
「勇ましい遊撃士のお嬢ちゃんよ、どうやら形勢逆転のようだぜ」
野菜泥棒の男がにやけた笑いを浮かべてアスカに話す。
アスカも遊撃士として格闘術の類は身に付けてはいるが、大人数で一気に詰め寄られてはどうしようもない。
「くっ、シンジ達のいう通り、準備を整えてからやって来るべきだったわね」
今更ながらアスカはハロウィンのコスプレ衣装のまま、犯人のアジトへと踏み込んだ自分の未熟さを呪った。
正遊撃士の紋章は、肌身離さず持っていただけだ。
持っていたロンギヌスの槍(コスプレ用)が折れてしまった今、アスカは丸腰だ。
「助けてシンジ……」
男達の包囲はじりじりと狭まって行った……。
2
どうしてアスカが野菜泥棒を追いかけることになったのか。
時間を遡って説明することにしよう。
リベール王国一周の修行の旅を終え、国を揺るがす大事件を解決した功績が認められたアスカとシンジ、エステルとヨシュアは正遊撃士となった。
見習いとは違い、正遊撃士は自由に所属先を決めることが出来る。
アスカ達は自分達の家のあるロレント支部に籍を置いていた。
「あーあ、またワクワクするような事件が起きないかしら」
「アスカ、物騒なことを言わないでよ。今日もロレントの街では大きな事件も起きなかった。平和が一番だよ」
ブライト家のダイニングで、アスカは退屈そうに欠伸をしていた。
今日の食事当番はヨシュア。
シンジの双子の兄のような存在である。
綺麗な黒髪といい、女装させたら似合いそうなところまでそっくりだ。
彼はキッチンで料理をしていた。
「ねえ、ヨシュア~、お腹が空いた~ご飯まだなの?」
「まったく、エステルってば、色気より食い気よね」
アスカの隣の席でテーブルに突っ伏しているのは、アスカの姉のような存在であるエステル。
同じ赤みがかった栗毛の少女は、太陽のような明るい笑顔がアスカにそっくりだった。
4人はロレントの街の郊外にあるブライト家で、家族として暮らしていた。
ロレントの街は田舎都市と呼ばれるほどの穏やかな街。
林業や農業が主な産業だと言えばお分かりいただけるだろうか。
そんな街で大事件など起こるはずも無く……アスカはヒマを持て余している。
「お待たせ、カボチャのパイだよ」
「わーい!」
ヨシュアがキッチンからパイの乗った皿を持って来た。
お腹を減らしていたエステルは歓声を上げてパイへとかぶりつく。
対照的にアスカはじっとパイを見つめたまま動かなかった。
「どうしたのアスカ? かぼちゃは嫌いだったっけ?」
「違う! もうアタシは好き嫌いするほど子供じゃないわよ!」
シンジが心配そうな顔で尋ねると、アスカは首を大きく振って否定した。
そして意味ありげな笑みを浮かべる。
あれは何かを企んでいる時の顔だとシンジとヨシュアには分かる。
「楽しみが無いのならば、新しく作ればいいのよ!」
「えっ?」
「シンジ、あんたもハロウィンぐらい知って居るでしょ?」
「うん、まあTVで見たことはあるけど」
「家でハロウィンパーティーをやりましょ!」
「えーっ」
乗り気ではないシンジは露骨に嫌な顔をした。
こうなれば外堀を埋めるべきだと判断したアスカは矛先をエステルに変えた。
「エステル、ハロウィンパーティーをやればお菓子が食べ放題よ」
「本当!? やるやる!」
アスカに声を掛けらたエステルは身を乗り出すほどの勢いだ。
「エステルは見事にお菓子に釣られたね」
「……そうだね」
同情したヨシュアがシンジの肩に手を置くと、彼は大きなため息を吐き出すのだった。
3
翌日、遊撃士の仕事をこなしたアスカ達はパーゼル農園へと向かった。
パーゼル農園はエステルの幼馴染であるティオの両親が運営する農家。
アスカ達はハロウィン用のかぼちゃを調達するために来たのだ。
「何それ、面白そうじゃない。私にもやらせて」
アスカからハロウィンの話を聞いた彼女は目を輝かせる。
もはやブライト家の中だけのパーティだけではなくなり始めていた。
『お菓子をくれないとイタズラするぞ』
街の子供たちの間でハロウィンが流行り始めると、大人達も興味を持ち始めた。
ロレントの街は娯楽の少ない田舎町。
アスカがハロウィンのコスプレのことを話し始めると、お菓子に関心のない年齢の大人達までもが参加するようになり、クラウス市長の耳にも入るようになった。
「えっ、ハロウィンのイベントをロレントの町興しに!?」
市長邸に呼び出しを受けたシンジ達はクラウス市長の提案に驚いた。
「ふふーん、全てアタシの計算通りね」
「そこまで考えていなかったような気がするけど」
シンジがツッコミを入れると、アスカは「文句あるの?」と言いたげににらみ返した。
これは商売になるぞ、と目聡い商人たちはかぼちゃの確保に奔走することになるだろう。
アスカもお菓子を貰うためだけにイベントを企画した訳ではない。
本命はやっぱりコスプレにあった。
自分はどんな服を着ようか。
シンジにはどんな服を着せてやろうか。
そう考えただけでワクワクしてくる。
4
そしてやって来たハロウィンの当日。
アスカはシェラザードの用意した魔女のような黒いドレスを着てコスプレに参加。
「アスカちゃんの服、リボンがたくさんついていて可愛いね」
ロレントの街の酒場『アーベント』の酒場娘、フレッサがアスカのコスプレを称賛する。
「そういうアンタはいつもと変わらないウェイトレスの格好ね」
「これはね~ルーアンの街のウェイトレスのコスプレなんだよ」
それではコスプレの意味がほとんど無いとは思うのだが……。
「天然なんだから気にしちゃダメよ」
「そうね」
ティオの言葉にアスカは同意する。
ロレントの街の住民のほとんどがコスプレを楽しんでいる。
街の中を歩いていると、アスカ達は先輩遊撃士のシェラザードとばったり顔を合わせた。
「どうアスカ? あたしの作った服は気に入った?」
「シェラ姉、お酒臭い。昼間から飲んでいるの?」
シェラザードはアスカ達にとっては7歳年の離れた姉のような存在だ。
特にアスカとシンジにはミサトを思い出させる。
酔うと二人のことをしつこくからかってくるところが似ていた。
「大丈夫、あたしにとってお酒は水みたいな物だから」
確かに彼女は大酒豪だ。
一緒に飲んだ相手が酔い潰れてもケロッとしていることが多い。
しかし今日のシェラザードは顔が赤らんで足元もフラフラするほど飲んでいるようだ。
「シェラザードさん、アイナさんと一緒に飲んでいましたね?」
「ピンポーン!」
アイナとはシェラザードの友人で、遊撃士協会ロレント支部の受付嬢。
どんなにお酒を飲んでも酔い潰れることはなく、居酒屋の酒蔵を空にしてしまった伝説まである。
するとそのウワサのアイナが、息を切らしてアスカ達の元へとやってきた。
「大変よ! パーゼル農園が強盗団に襲われたらしいの――!」
5
直ぐにでも現場に急行したいところだったが、アスカ達はコスプレ中のため愛用している武器も、魔法が使えるようになる道具、戦術オーブメントも家に置いてきていた。
エステルに至っては、スポーツ少女のコスプレで、体育着にブルマといった超軽装だった。
「よくもアタシのハロウィンを台無しにしてくれたわね!」
頭に血が上ってしまったアスカは、シンジ達の制止も耳に入っていない様子でパーゼル農園の方へと駆けて行ってしまった。
止めるはずの先輩遊撃士シェラザードは少し酔った状態。
エステル達は冷静なって自分の家へと武器を取りに行くことにした。
「僕たちが行くまで、無事でいてよ――アスカ」
シンジは祈りながら家路への道を急いだ。
エステル達がすっかりかぼちゃ畑を荒らされてしまったパーゼル農園に到着すると、すでにアスカの姿はなかった。
「ティオ、アスカは何処にいったの!?」
「強盗団を退治してやるってあっちの方に」
エステルに尋ねられたティオが指差した方を見ると、多数の靴跡とリアカーの軌跡という分かりやすい痕跡が残っていた。
これではアスカは容易く強盗団のアジトを突き止めることが出来てしまう。
「アスカが僕達の到着を待っていてくれるといいけど……」
「彼女の性格的に、難しいところだね。特にハロウィンをぶち壊しにされて腹を立てているだろうし」
シンジのポジティブな考えを否定して、ヨシュアはネガティブな考えを話した。
「見えた! あの倉庫が多分強盗団のアジトよ!」
倉庫の周りにアスカの姿は見当たらない。
ということはすでにアスカは踏み込んでしまっている。
一刻の猶予もならない。
アスカに加勢するためにエステル達もアジトへと踏み込んだ。
6
強盗団の男達に追い詰められたアスカは覚悟をした。
きっとこの男達にシンジのお嫁になれない身体にされてしまうと。
しかし信じられないことに、アスカの愛用している武器である赤い棒が倉庫の入り口から飛来してきたのだ。
それをしっかりと受け止めるアスカ。
「秘技、『太極輪』~!!」
アスカに迫っていた男達は大きく跳ね飛ばされた。
彼女の貞操の危機は脱したのだ。
「アスカ、間に合って良かった!」
「シンジ! みんなも!」
シンジ達が倉庫の中へと飛び込んでくると、強盗団の男達は烏合の衆。
裏口から逃げることしか考えてなかった。
それを察知したヨシュアは氷魔法で裏口をドアごと凍らせる。
「さあ、観念してお縄につきなさい!」
エステルが正遊撃士の紋章を突き付けると、強盗団は大人しくなり、後から来た王国軍の兵士達に連行された。
強盗団はかぼちゃの値段が上がったことを聞きつけて売りさばくために集まったごろつき達だった。
「アスカ、僕の言いたいことは分かってるよね」
「アタシが悪うございました」
「こんなことをしていたら、正遊撃士の紋章を没収されてしまうかもしれないよ。だいたいアスカはいつも……」
シンジのお説教が長くなりそうだと察したアスカは、自分の唇でシンジの口を抑え込んだ。
要するに強引なキスだ。
「ぷはぁっ、こんなことで僕を誤魔化せるとでも……」
シンジが口を離すと、アスカはもう一度シンジにキスを仕掛ける。
その後はアスカのキスの連続攻撃だった。
「ロレントは今日も平和だね」
「そうね」
ヨシュアの言葉に、エステルも呆れた顔で答えるのだった。
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