アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~   作:朝陽晴空

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第六話 ヨシュアの悲しい誓い、シンジの苦悩

 

 家に帰った四人は、夕食の準備をする前にカシウスに今日の成果を報告する事にした。カシウスは一階にある自分の部屋で机に向かい書類仕事をしていた。四人はカシウスの部屋に入る事はあまりない。ヨシュアの部屋よりも多い本棚に納められた蔵書の山、金庫には機密文書と貴重な酒と釣り竿が入っているらしい。

 

「四人とも、よく頑張ったな。父さんは嬉しいぞ」

 

 四人の報告を聞いたカシウスは、満足そうな笑みを浮かべていた。遊撃士の初仕事の内容はカシウスの目から見ても合格点のようだ。それよりも五人の関心は翡翠の塔で圧倒的な強さを見せたキリトの事だった。16連撃を使いこなせる剣士など、リベール王国はおろか、未だかつて大陸に居なかったとカシウスは断言した。

 

「カシウスさんでもキリトの事は分からないんだ」

「国内で起きた異変ならば遊撃士協会のネットワークがあるから大抵俺の耳に入るんだが、そのキリトが召喚された場所は遠く離れた辺境の地かもしれんな」

 

 シンジの言葉にカシウスはそう答えたが、アスカはカシウスの言い方に引っかかるものがあった。召喚? 普通は降臨や来訪などと言うのではないか、召喚とは何者かの意思で呼び寄せる事を意味する言葉だ。使徒に飲み込まれたのは全くの偶然、この世界に飛ばされたのも偶然、それが重なっただけではないか。

 

「俺は光の柱の異変は、人為的なもの、各地のゼムリア古代文明の遺物によって能動的に引き起こされたものだと考えている」

 

 カシウスの話によれば、アスカとシンジが現れた翡翠の塔もゼムリア古代文明の遺跡の一つであり、屋上には用途が解明されていない遺物があるのだと言う。リベール王国には翡翠の塔の他にも三本の塔があり、まとめて四輪の塔と呼ばれている。

 

「まあ小難しい話は後にして、そろそろ飯の準備を始めてくれ」

 

 カシウスの言葉で、すっかり話し込んでしまったと気が付いた四人は夕飯の準備に取り掛かろうと部屋を出ようとする。その時、エステルが気が付いたように道具袋から手紙を取り出してカシウスに差し出す。

 

「そうだ、父さん宛の手紙をアイナさんから受け取っていたんだ」

「後、リベール通信もね」

 

 エステルとヨシュアから受け取ったカシウスは真剣な眼差しで目を通している。邪魔をしては悪いと思った四人は部屋から出て行った。静かになった部屋でカシウスは

手紙を開いた。外国から届いたその手紙は、エレボニア帝国の遊撃士協会から助けを求めるものだった。

 最初の事件から、わずか二日間のうちに六ヶ所の帝国にある遊撃士協会が襲撃を受けたと記されていた。帝国の遊撃士協会は機能不全に陥り、立て直しと襲撃犯の究明に力を貸して欲しいと書かれていた。

 手紙を読んだカシウスはどうしたものかと考えた。外国に行くと言う事は、エステル達と長く離れる事を意味する。エステルとヨシュアはともかく、アスカとシンジはここに来てまだ二年、いや、もう二年も経ったのか。

 この二年の間、アスカとシンジは身体を鍛え、魔獣とも渡り合えるほどにたくましくなった。エステルとヨシュア、ロレントの街の人々とも打ち解け、この世界にもなじんで来た。もう、俺が付きっ切りで守っていなくても大丈夫だろう、とカシウスは思い至った。

 

「えーっ!? しばらく外国に行くって?」

 

 夕食の席でカシウスが話を切り出すと、アスカはテーブルに手をついて身を乗り出した。今日の夕食はエステルが初挑戦したオムライス。ふわっと仕上げることが出来たとエステルも満足気だ。娘の成長を喜ぶカシウスをアスカは冷やかし、いつもの楽しげな夕食になると思われたのだが……。

 

「あの外国から来た手紙に関係があるんですか?」

 

 シンジは不安そうな表情でカシウスに尋ねた。シンジは強くなったが、人を傷つく事を嫌がる性質があった。しかし優しく依頼人に寄り添う性格は遊撃士に向いているとカシウスは思っていた。ひたむきに努力するアスカの姿勢も遊撃士として大切なものだ。アスカは向上心を持って周囲の先達から学ぼうとしている。

 

「ああ、調査やらで二ヵ月くらい留守にするが、今のお前達なら大丈夫だろう」

 

 カシウスは安心した口調でそう答えた。今度顔を合わせる時はどれだけ四人は成長しているのかと楽しみにしていた。男子三日会わざれば刮目してみよ、と言う言葉もある。

 

「父さん、ロレント支部から依頼を受けていたんじゃないの?」

「ああ、その事なんだが……お前達、いくつか俺の代わりにやってみないか?」

 

 ヨシュアの言葉にカシウスはそう四人に提案した。

 カシウスはこの二年間、遠出をせずにロレント地方周辺の依頼だけに絞って受けていた。アスカとシンジの成長をそばで見守りたい気持ちもあったが、懸念していたのは、異世界から来た二人が何者かに命を狙われている可能性についても考え、周囲に目を光らせていたのだ。しかしこの二年間、そのような気配は感じられなかった。

 

「もちろん、難しい依頼はシェラザードに任せる事にするが」

「カシウス・ブライトの名代として恥じない仕事をするわ!」

 

 もう既にアスカはやる気満々の様子だ。遊撃士の功績をあげる絶好の機会、他の三人も反対する事はなかった。明日、遊撃士協会でアイナから依頼の内容の説明があると聞き、四人の胸は高鳴った。英気を養うために夕食はしっかりと食べた。

 

 

 

 

「……父さん」

「……ヨシュアか」

 

 賑やかな夕食が終わった後、カシウスは一階のバルコニーの椅子に座って夜空に浮かぶ月を眺めながらワインを飲んでいた。家の中からスッと姿を現したヨシュアに、カシウスはそのまま顔の向きを変えずに声を掛ける。辺りは虫の声以外聞こえない静かなものだった。

 

「シンジとアスカが来て二年、もうすっかりお前とエステルは打ち解けたようだな」

「僕はあなたが二人と仲良くするように命令したから従ったまでだ」

 

 そう話すヨシュアの瞳には冷たいものが宿っていた。カシウスと出会った頃の、感情を殺した人形のような目。アスカやシンジには、見せた事の無い表情だ。普段人と接する時の優しげで柔らかなヨシュアの表情からは想像もつかないだろう。

 今ここに居るヨシュアは隠された本性をさらけ出していると考えたカシウスは、近づいて来たヨシュアに、いつものおどけた表情ではなく、真剣な眼差しでヨシュアに尋ねた。

 

「俺がしばらく離れる前に改めて聞いておきたいんだが、あの時の誓いを撤回するつもりはないか?」

「無いよ」

「……そうか」

 

 迷いも無く即答したヨシュアにカシウスは残念そうな顔をしてつぶやいた。五年間時を過ごせばその決意は少しでも揺らぐと期待していたのだが、ヨシュアの意思は固いものがあった。

 

「もし僕が居る事で、あなた達に迷惑を掛けるようなら立ち去る。それが、僕が僕で居られるための約束だから」

「今回の帝国遊撃士協会連続襲撃事件、奴らが糸を引いていると結論を出すにはまだ早いぞ」

 

 エステルとアスカ、シンジが寝静まった夜更けにヨシュアが外に出て来た理由を察したカシウスはそう言って釘を刺した。事件を表面的に捉えず、背後関係まで推測するからこそカシウスはS級遊撃士なのだ。

 

「俺が例の事件の調査を終えるまで、踏み留まってはくれないか。俺も人の親だ、エステルの事は可愛い。あいつがあんな性格になってしまったのも、妻が死んだ悲しみを忘れようとして仕事に没頭し、エステルを家で独りにしてしまった俺に責任がある」

「確かにエステルは人の話は聞かないし、有無を言わさず強引な所がある。でも彼女の善意には邪な所が無い。太陽のような彼女のおかげで僕の心にも光が戻った。だからこそ、彼女を汚してはならない。大事な物ならば、手の届かない場所に置けばいい、それが僕が僕を許すための一線だから、ごめんなさい」

 

 ヨシュアの返事を聞いて、カシウスは大きなため息を吐き出した。このままヨシュアが姿を消してしまえば、エステルの動揺は計り知れない。今はアスカとシンジと言う妹と弟が居るが、カシウスは後ろ髪を引かれる思いで旅立たなければならない。

 

「でもまだ父さんの言う通り、帝国遊撃士協会連続襲撃事件が奴らの計画とは限らないし、僕が関係している確証はない。僕の早とちりだったみたいだ」

 

 柔らかい表情を取り戻したヨシュアがそう言うと、カシウスは心の底から安心したように息を吐き出した。とりあえず、ヨシュアを引き留める事は出来たようだ。

 

「でも、エステルはもともと強い子だから、大丈夫だと思うよ」

「遊撃士としてはまだまだだ。四人そろって一人前と言う所だな」

 

 自分が小さい頃、勇者が四人パーティを組んで魔王を倒すおとぎ話を聞いた事がある。まるでそれみたいだな、とヨシュアは苦笑した。

 話は終わった、と家の中に戻ろうとするヨシュアの背中に向かってカシウスは声を掛ける。

 

「この5年間、俺達は家族として過ごして来た。それは、消えない事実だ。これから何があっても、俺とエステル、アスカとシンジはお前の家族だ」

「ありがとう、父さん」

 

 ヨシュアが家の中に入ると、エステルとアスカの寝息が聞こえて来る。すっかりと二人は寝入ってしまい、カシウスとの話を聞かれてはいない様子だった。誰の気配も感じなかったので、腹を割って話したわけなのだが。

 

「ねえヨシュア、エステルを悲しませるような事はしない方が良いと思うよ」

 

 自分の部屋に帰った時、シンジにそう声を掛けられたヨシュアは心底驚いた。二階の部屋の窓は閉じていたのを確認したはずだ。そしてもし三人が目を覚ましても聞こえないような抑えた声でカシウスと話したはずだ。

 

「シンジ、僕達の話を聞いていたのか?」

 

 シンジは照れくさそうな顔をしながらトリックの種明かしをするマジシャンの様に自分の頭を指差した。それはこの世界に来た時から肌身離さず身に着けているインターフェイス・ヘッドセットだった。アスカは外している事もあるのだが、付けているのが当たり前となったシンジは付けたまま寝てしまう事も多い。

 

「僕の付けているインターフェイス・ヘッドセットって遠くの話まで拾えちゃうみたいなんだよね」

 

 確か脳波を発信・受信する器械だと聞いていたが、遠く離れた人間の声まで拾ってしまうとは厄介なものだ。もしかして、人の思念や記憶まで読み取ってしまうものなのか、とヨシュアは警戒を強めた。

 

「安心して、ヨシュアの心の中で考えている事までは分からないよ」

 

 それもそうかとヨシュアは納得した。他人の言葉に隠された思念まで読み取れるようになっては、人間不信となり人と関わる事を避けるように生きて行くしかない。他人のためを思って掛けた言葉にも、自分の主観やエゴが混じっているのが人間だ。

 

「さっき聞いた話は絶対にエステル達にもらすな、聞かなかった事にするんだ」

 

 凍り付かせるような瞳でヨシュアはシンジに告げた。その目はシンジが初めてヨシュアと会った時、エステルと話すシンジをにらみつけていたヨシュアの眼光より鋭いものがあった。優しそうなシンジが自分の意志を曲げなかった時があるように、穏やかに見えるヨシュアも自分の意志を貫き時がある、やはり自分とヨシュアは似ている所があると感じたシンジは、ヨシュアの気持ちを無視し続ける事は出来なかった。

 

「……分かったよ、誰にも言わない」

「ありがとう」

 

 誰にも話せない重い秘密を抱える事になったシンジは、寝付けない夜を過ごした。あのエステルの笑顔が曇る所を見たくない。出来れば三人掛かりでも引き留めたいが、ヨシュアとの約束を破ってしまえば、ヨシュアは二度と心を開いてくれないだろう。自分はウソを突き通すのは上手くない。勘の良いアスカにバレなければいいけど、と思うシンジだった。

 

 

 

 

 そして次の日の朝、ロレントの街にある空港で、帝国に向かうため飛行船に乗ろうとするカシウスを、シェラザードと一緒にエステル達は見送りに来た。街の人気者であるカシウスの事だ、ロレントの街の人々も駆けつけていた。エステルとヨシュアと親しくしていた武器屋の夫婦はもちろん、市長までカシウスの旅立ちを見守っていた。

 

「シェラザード、後は頼んだ。あまり甘やかすんじゃないぞ」

「お任せ下さい、四人ともビシバシと手加減無しで鍛えますから」

「ひえっ」

 

 シェラザードが鞭を構えてカシウスの言葉に答えると、エステルは震え上がった。講習を受けたのは16歳になってからの半年間だったが、最年少で遊撃士試験に受かりたいとアスカの希望を聞き入れて、カシウスより厳しい訓練や座学が待っていたのだった。やっとシェラザードから逃れられたと思ったのに、とエステルは思った。

 

「シンジ、アスカを守ってやれよ」

「うん」

 

 カシウスの言葉にシンジは真剣な眼差しでうなづいた。そんな二人の間にアスカが割って入る。

 

「アタシがシンジを守るのよ。アンタは遠距離でアタシのサポートをするの」

 

 アスカが胸を張ってそう言い放つと、周りに居た街の人達からも笑い声が上がる。シンジがアスカの尻に敷かれている事は、周知の事実のようだ。クルーセが面白がって話を広めたに違いない。

 

「それは頼もしいな」

 

 カシウスはそう言ってわしゃわしゃとアスカの頭を撫でる。子供扱いされたアスカは照れくさそうにカシウスの腕をはねのけた。背伸びをしているアスカだが、カシウスに褒めてもらいたいために、成果を大げさに話す節がある。

 

「むーっ、アンタが帰って来た頃には正遊撃士になってビックリさせてやるんだから!」

「ハハハ、楽しみにしているぞ」

 

 アスカがそう言うと、カシウスは愉快そうに笑った。正遊撃士になるにはリベール王国の遊撃士協会の各支部の推薦状をもらう必要がある。まだ準遊撃士としての初仕事を昨日こなしたばかりなのに、大口を叩くとは、おかしくて仕方ない。

 

「そうだ、お土産忘れないでね!」

 

 空気を読まないエステルが笑顔でそう言うと、カシウスや周囲の街の人々は一斉にあきれたようにため息をつく。これからカシウスは帝国で起きている大事件に挑むのだ。呑気にお土産など買っている余裕などない。

 

「あのなあエステル、父さんは遊びに行くんじゃないんだぞ」

「だって、いつもフラフラ遊び歩いてはお土産を買って来てくれるじゃない」

 

 エステルは頬を膨れさせてそう呟いた。これはカシウスの教育が悪い。エステルが幼い頃に母親のレナが亡くなり、ヨシュアが来るまで家で独りぼっちだったエステルを憐れんで、カシウスは必ずお土産を持って帰っていたのだ(そのうちの一つがヨシュアだった)。

 

「分かった、良い子にしてろよ」

「やった!」

 

 ため息交じりにカシウスがそう言うと、エステルは手を打って喜んだ。

 そしてカシウスは最後にヨシュアと意味ありげな視線を交わした。

 その張り詰めたような雰囲気に、アスカは何か胸騒ぎのようなものを感じたが、何も言う事は出来なかった。二人の間には割って入る事の出来ない壁のようなものを感じていたのだ。

 

「王都方面行き定期飛行船、《リンデ号》、間もなく発進いたします」

 

 飛行船の発車を告げる汽笛がならされ、飛行船と乗り場を結ぶ橋が飛行船のクルーによって取り外される。カシウスはエステル達に手を振って客室の中へと姿を消した。大きな音を立てて、カシウスを乗せた飛行船は東の空に軌跡を描いて飛び立っていったのだった。

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