アスカとシンジは、空の軌跡の世界で本当の幸せを見つけた ~アスカ・ブライト!~ 作:朝陽晴空
1
パーゼル農園で一夜を過ごした四人は、ティオ達に見送られて朝のミルヒ街道を通りロレントの街へ戻った。たった一夜の出来事だったが、四人の絆は大いに深まったようだ。英気を養った四人は遊撃士協会で次の依頼を受けようと張り切っていた。
「その前に、メルダース工房に寄ってみない? 魔獣もたくさん倒してセプチウムも溜まった事だしさ」
アスカの提案により、四人はメルダース工房へと向かった。新しい依頼を受ける前に、戦術オーブメントの強化をする事にしたのだ。しかし、強化に必要な要求セプチウムは多く、シンジのスロットを解放して、駆動1のクオーツを装着するだけに留まった。これでシンジは少しだけ早く導力魔法を発動することが出来る。
「君達、ちょうどいい所に来てくれたよ。実は急ぎの仕事があってね」
戦術オーブメントを改造したメルダース工房の若き技師、フライディはミルヒ街道にある導力灯の交換を四人に依頼した。四人は快くその依頼を引き受けた。もっと早く遊撃士協会に頼むつもりが、忘れてしまっていたのだと言う。
フライディはエステルに交換用のオーブメント灯を渡して、交換すべき導力灯の場所を告げた。ミルヒ街道のロレント側から数えて6番目の導力灯。そして整備用のパネルを開くには、6桁の開場コードを打ち込む必要がある。そのコードは544818。
「ええっと、もう一回コードの番号を言ってくれる?」
「遊撃士手帳にメモすれば良いと思うよ」
「そ、そうね」
シンジに指摘されたエステルは、遊撃士手帳に依頼内容を書き留めた。
◆街道灯の交換◆ 進行中
【依頼者】フライディ
【報 酬】600 Mira
【制 限】直接依頼
★交換するのはミルヒ街道のロレント側から数えて6番目にある街道灯。
★整備パネルの開錠コードは544818。
「もう既に街道灯が故障してしまっている場合があるから、魔獣には気を付けてね」
「あたし達が護衛するから楽勝よ!」
心配するフライディにエステルは自信満々にそう答えた。すでに修理する役目は他の三人に譲ってしまったようだ。オーブメント灯はセプチウムから造られている。魔獣除けの機能が壊れてしまえば、逆に魔獣を寄せ付ける事になってしまうのだ。そうなるとまたパーゼル農園からミルヒ街道を通ってロレントの街に野菜を配達するティオの両親達が危ない。四人は急いでミルヒ街道に舞い戻るのだった。
2
※ここから先には記憶力を試すクイズのために行間が離れます。自分も遊撃士になったつもりで挑戦してみてください。
ミルヒ街道に出た四人は、街道の両脇に配備された街道灯を一つ一つ数えて行く。この街道の魔獣達はもう四人の敵ではない様だ。交換する街道灯は……
◆三択クイズ◆
ロレントから数えて5番目
ロレントから数えて6番目
ロレントから数えて7番目
確か、ロレントから数えて6番目の街道灯だったはずだ。四人は早速オーブメント灯の交換に取り掛かろうとしたが、魔獣達が周囲から押し寄せて来るのが見えた。オーブメント灯は既に故障していたのだ。四人は魔獣を食い止めながらオーブメント灯の交換作業をしなければならなくなった。
「じゃあシンジ、オーブメントの交換は任せたわよ!」
「ええっ、ボクが!?」
アスカに指名されたシンジは驚きの声を上げる。自分は機械の修理や数字の暗記などは得意ではない。てっきり戦術オーブメントの研究を個人的にしているアスカがやってくれるのだと思って気を抜いていたのだ。
「敵に囲まれた状況では、君が適任なんだよ」
ヨシュアにそうまで言われては仕方がない。エステルとアスカは棒術で複数の魔獣と渡り合う事が出来るし、双剣を使うヨシュアは接近戦に長けている。この中では遠距離武器を装備するシンジが適任だった。
「捉えたっ!」
ヨシュアは直線状に敵を薙ぎ払う戦技、絶影を使って三匹の魔獣を一度に倒した。この技は敵の動きを鈍らせる効果もある。包囲戦においては有益なものだった。別の方面で戦っているエステルとアスカも旋風輪の戦技を使い、自分を中心に周りの魔獣を薙ぎ払った。
「シンジ、そっちの調子はどう?」
「これから開錠コードを入力するところ!」
アスカに尋ねられたシンジは大きな声で叫んだ。シンジは必死に開錠コードを思い出そうとする。アスカ任せで、自分の遊撃士手帳に番号を書いていなかったのは痛恨の極みだった。
◆三択クイズ◆
開錠コードの番号は?
545818
554818
544818
「5・4・4・8・1・8だ!」
シンジが番号を入力すると、街道灯のカバーが開いた。そしてオーブメント灯を交換すると、押し寄せて来た魔獣は波が引くように去って行った。魔獣除けのオーブメント灯の効果が表れたようだ。
「シンジ、お疲れ!」
エステルに声を掛けられたシンジは笑顔で応えた。番号を間違えていたらまたアスカにバカシンジと罵られるところだった。最近はバカシンジと呼ばれる回数は以前よりもかなり減ったが、失敗した時のアスカのツッコミは辛辣だった。
「あっけなく終わったわね」
アスカは退屈そうに伸びをして魔獣が去った方角を見やった。手際よくオーブメント灯を交換したシンジを褒めるのが筋なのだろうが、アスカはまだシンジを甘やかすまでには行かないようだ。
「おや、君達は息子を助けてくれた遊撃士じゃないか」
オーブメント灯の修理を終えた四人が街に戻ろうとした時、兵士の一団とすれ違った。その先頭を歩いていた隊長が四人に気が付いて声を掛けた。その隊長は翡翠の塔で助けた子供達の一人であるルックの父親、アストンだった。
アストン隊長は四人がルックを助けたお礼を改めて述べた後、遊撃士として関所の兵士の戦闘訓練に参加してくれないかと依頼をして来た。勝敗は気にせず、ただ模擬戦闘の相手をしてくれれば良いと言う話だったが……。
「もちろん、やるからには負けないわよ!」
アスカは勝つ気満々の様だった。確かにアスカは負けん気が強い。付き合わされるシンジはたまったものではないが、アスカのその姿勢は見習うべきだと思った。
◆兵士訓練◆
【依頼者】アストン隊長
【報 酬】500 Mira
【制 限】直接依頼
依頼を引き受けた四人と守備隊の模擬戦闘は街道から少し外れた開けた場所で行われた。魔獣との戦いの後の連戦となったが、弱音を吐くわけにはいかない。四人と向かい合う守備隊の兵士達は、相手が新米の見習い遊撃士だと知ると態度が大きくなった。四人の事を見くびっているのだろう。
「全員、構え! ……始め!」
アストン隊長の合図と共に模擬戦闘が始まった。兵士達はライフルに銃剣を装備していた。銃剣は弾を発砲するだけでなく、銃身を使った槍の様な攻撃も出来る武器で、兵士達は一斉にペイント弾を放ち、四人の視力を潰す戦法に出た。
四人は腕で目を守るようにガードし、ペイント弾の嵐をしのいだ。銃の欠点は連射が出来ない事である。エステルとアスカの突撃に兵士達は銃剣で立ち向かおうとするが、繰り出される棒術の多段攻撃を兵士達は受け止めるのに精一杯だった。それを助けて二対一に持ち込もうとする兵士達にはシンジの導力銃の攻撃とヨシュアの双剣
が襲い掛かった。
四人対四人の闘いの均衡が破ったのはエステルだった。彼女の力一杯振り回した棒が兵士の銃剣を弾き飛ばしたのだ。
「全く何て力だ、君みたいな野生児にはとても敵わないよ」
「野生児ですって~!?」
エステルに力負けした兵士がそう言うと、エステルは顔を真っ赤にして怒った。確かに11歳にして街の外まで虫取りに行ってしまうその行動は野生児と言われても仕方が無い。自分の目の前の兵士を打ち倒したエステルは他の兵士と剣戟を繰り広げるアスカに加勢し、模擬戦闘は数の上で有利になったエステル達の勝利で終わった。
「さすがカシウスさんの指導を受けただけの事はある。若いのにここまでやるとは大したものだ」
「フフン、ざっとこんなもんよ!」
アストン隊長に褒められて、アスカは自信満々に胸を張った。手加減有りの模擬戦闘とは言え、兵士に勝てたのは四人にとって大きな自信になったようだ。アストン隊長と手を振って別れた四人は、今度こそロレントの街に戻るのだった。
3
メルダース工房に戻った四人が依頼人のフライディにオーブメント灯が故障していた事を報告すると、危険な事に巻き込んでしまったお詫びとして《妨害2》のクオーツを貰った。このクオーツは導力魔法の詠唱を妨害する効果がある。アスカは嬉々として《妨害2》のクオーツを自分の戦術オーブメントにセットした。
そして遊撃士協会でパーゼル農園での出来事をアイナに報告した四人は、BPが既定のポイントを超え、準遊撃士8級へ昇格した事を知らされた。魔獣を逃がした事については、ペナルティを課されなかった。依頼人であるパーゼル農園の家族の気持ちを尊重する事も正義の貫き方の一つであるとアイナは話した。
「一流の遊撃士になるとね、国家間の争いに巻き込まれることもあるのよ。その時要求されるのは状況判断能力と調停力ね。でも一番大切なのは、自分なりの正義を見つける事なの。正義はその人によって違うから、星の数ほどあるわ」
「はぁーっ、遊撃士って奥が深いのね」
アイナの言葉を聞いたエステルは、感心した様子でため息を付いた。シンジは自分にとっての正義とは何だろうと考えてみた。今のところ自分達四人の正義は一致している様に思える。しかしシンジはヨシュアがカシウスと話していた夜の事を思い出した。いつか自分とヨシュアの正義が違える時が来るのかもしれない。そんな嫌な予感が頭を離れなかった。
「それじゃ、次の仕事を説明するわね」
「ドンと来なさい!」
遊撃士ランクが上昇し、喜び満面のアスカは胸を叩いてアイナに答えた。
「今度も魔獣退治の依頼?」
エステルは身体を動かす仕事が好きなようだ。しかし、アイナはエステルの言葉に首を横に振る。今回の依頼人はロレント市長、クラウス。物品輸送の依頼だと言う。
市長からの依頼という大任を受けてしまって良いのかと戸惑う四人だったが、アイナの話によると簡単な依頼だから問題は無いらしい。詳しくは市長本人から説明があると言われた四人は、掲示板に新しい依頼が張り出されていないか確認してから市長邸に向かう事にした。
◆クラウス市長の依頼◆
【依頼者】ロレント市長・クラウス
【報 酬】1,500 Mira
【制 限】直接依頼
★依頼の詳細については直接クラウス市長に聞く事。
◆キノコ狩り◆
【依頼者】オーヴィット商会
【報 酬】700 Mira
【制 限】8級以上
★ホタル茸と言う珍しいキノコを探しています。ホタル茸はセプチウムの豊富な土壌にしか生えないキノコで、この周辺ではマルガ山道にあると思われます。なるべく早くお願いします。
遊撃士ランクが上がったため、受けられる依頼の数も増えたようだった。自分達よりもランクの高いシェラザードはもっと難しい依頼を受けているのだろう。彼女に追いつく日を夢見ながら、四人は遊撃士協会を後にするのだった。
4
ロレント市長の家は、街の東、礼拝堂の先にあった。素朴な田舎町と言われるロレントの街を体現するかのように、市長クラウス邸は、ごく普通の木造二階建ての一軒家だった。広さを取ってみても、四人が暮らすブライト家とそう変わりはない。贅沢をせず、質素な生活で市民目線で市政を行うクラウス市長は温厚な性格の好々爺(優しくて気のいい老人)で、市民達からも親しまれていた。
「おお、よく来てくれたね」
「こんにちは、市長さん!」
新米遊撃士の四人を自ら玄関で出迎えてくれたクラウス、エステルは元気に挨拶をする。カシウスが引き受けた依頼を断った事を詫びると、クラウス市長は別に気にしていない、と穏やかな笑顔で答えた。
依頼の内容とは、ロレントの街の北方に位置するマルガ鉱山で採掘されたセプチウムの結晶を市長邸まで届けて欲しいとの事だった。マルガ鉱山では、翠耀石(エメスラス)の結晶が採掘されていたが、先日大きな結晶が掘り出されたらしい。宝石の運搬とは、魔獣退治とは別の意味で緊張する仕事だ。
「この紹介状を見せれば、鉱山の中へ入れるはずだ」
「任せといて!」
市長から紹介状を受け取ったアスカは、胸を張って堂々と言い放った。紹介状が盗まれては一大事、シンジはアスカから紹介状を渡され、自分の鞄の中へしまい込んだ。
「皆さん、お昼はいかがですか?」
市長と話していた四人は、市長婦人のミレーヌから声を掛けられた。パーゼル農園から野菜が届くようになったので、是非料理を振舞いたいのだと言う。最初は遠慮していたエステル達だったが、エステルのお腹の虫が盛大に音を立てると、大きな笑いが起こり、市長邸で昼食をご馳走になるのだった。
5
お腹も満タンになり、マルガ山道へ歩みを進めた四人は、市長の依頼とは別に、遊撃士協会の掲示板に書かれていた依頼をこなす事にした。マルガ山道に自生しているホタル茸の捜索だ。たくさん採集すればそれだけ評価が上がるだろう……そんな浅はかな考えにとらわれたアスカは率先してホタル茸の在りそうな場所を探した。
「やった、収穫!」
草むらに顔を突っ込んだエステルが大ぶりのホタル茸を掘り起こした。その嗅覚はまさに野生児、犬並みだった。ホタル茸はその名前の通り、淡いエメラルドグリーンの光を放っていた。
「まるでセプチウムみたいね」
アスカが光り輝くホタル茸を見て、そんな感想を呟いた。そのアスカのつぶやきを聞いたシンジの脳裏に嫌な予感がよぎる。
「早くそれを袋にしまって!」
シンジが声を上げた時は既に手遅れ、ホタル茸に引き付けられた魔獣達の群れが四人を襲うのだった。
「あのオーヴィット商会とか言う依頼者、ホタル茸が魔獣を呼び寄せるなんて一言も書いていなかったじゃないの!」
一度寄って来た魔獣達は撃退したものの、ひょこひょこと散発的に現れる魔獣に手を焼かれる事態になって、アスカは怒りをあらわにした。もう街に引き返す時間的余裕は無い。半ば自棄になりながら四人はマルガ鉱山を目指すのだった。
マルガ鉱山に到着した四人は入口で見張りをしていた鉱員に市長の紹介状を見せて鉱山の中へと入った。セプチウムの結晶を持つガートン鉱員長は地下に居るらしい。四人はトロッコとエレベーターを乗り継いで鉱山の地下へと入った。
鉱山の地下は横穴が入り乱れ、迷路のようになっていた。四人は何度も行き止まりに当たりながらも、最深部に居るガートン鉱員長の所へたどり着いた。ガートン鉱員長は市長の紹介状を確かめると、自分の服の懐からセプチウムの結晶を取り出した。
「凄いわね、こんな大きなセプチウムの結晶、初めて見るわ」
アスカはあんぐりと口を開けて感心した。そんなアスカの表情を見たガートン鉱員長は得意げにセプチウムの結晶を四人に突き出した。
「これだけ大きいと、宝石としての価値はかなりのものになる。間違い無く市長さんに届けてくれよ」
セプチウムの結晶を手渡されたエステルもその輝きに見惚れていた。そしてシンジの鞄から特大のホタル茸を取り出し、両手に光る物を持ったエステルは嬉しそうに飛び回ってはしゃいだ。
「見て見て、妖精さんの双子が飛んでいるみたい!」
「エステル、嬉しいのは分かるけど、宝石を落として割ったりしたら大変だよ」
「ちぇっ、つれないの」
エステルは口をとがらせてセプチウムの結晶とホタル茸をシンジに渡した。当のシンジはどうして重要な物を二つとも持たされるんだろう、ボクってそんな役回り?と少し納得のいかない顔をしていたが、陣形では真ん中で護られるように位置しているのだから仕方ない。
四人がガートン鉱員長と話を終えた後、大きな揺れが鉱山全体を襲った。
「なに今の、地震?」
「いや、鉱山のどこかで崩落が起きたみたいだ。被害状況を確認しないとな」
アスカの質問に、ガートン鉱員長は厳しい表情でそう答えた。周囲を警戒していたヨシュアが注意を促す声を上げる。カニのような姿をした魔獣の群れが迫って来たのだ。
固い甲羅を持つ魔獣との戦闘は、苦戦を強いられた。そんな中で活躍を見せたのは《駆動1》のクオーツを装備したシンジの導力魔法だった。少し早めに詠唱できるシンジは他の三人が魔獣の攻撃を食い止めている間に、導力魔法で効果的なダメージを与えていた。
「鉱員長さん、鉱山に魔獣は出るんですか?」
「いいや、今までこんな奥に魔獣が出る事は無かった。……今の崩落で坑道が魔獣の巣と繋がったかもしれんな」
ヨシュアの質問に、ガートン鉱員長は考え込んだ表情でそう答えた。自分達の居るところに魔獣が出現したと言う事は、他の鉱員も襲われている可能性がある。四人は遊撃士として、他の鉱員の救出を志願するのだった。
「こ、こっちに来るんじゃねえ、俺は筋が多いから食べても美味くないぞ!」
「俺は脂肪が多くてブヨブヨだから、食べたら身体に良くないよ!」
怯える鉱員達の声が坑道の奥から聞こえる。四人とガートン鉱員長は急いでその声のする方に駆けつける。すると二人の鉱員が魔獣によって行き止まりに追い詰められていた。何とかギリギリ間に合ったようだ。
「た、助かった~!」
「あ、ありがとう~!」
「お前ら、俺達の側を離れるんじゃねえぞ」
救出された鉱員二人はエステル達に感謝の言葉を述べてガストン鉱員長の側に付く。護る対象が三人に増えたエステル達は緊張感を増して坑道の捜索を続ける。
「おお、女神エイドスよ、俺達を救ってくれ」
「バカっ、神頼みしている暇があったら逃げるんだよ」
声が響く方へ行くとまたもや二人の鉱員が行き止まりに追い詰められていた。魔獣の背後から躍り出たエステル達は、魔獣達が鉱員達を襲わないように挑発的に戦いを挑んでいた。連戦に次ぐ連戦で、頼みの綱のシンジのEPが尽きかけていた。時間経過でEPは自然回復するとは言え、短時間で回復するものではないのだ。
「よし、これで地下に居た鉱員は全員助け出したはずだ」
ガートン鉱員長の言葉に頷いたエステル達は地上へ続くエレベーターの方へ向かおうとした。しかしそこへ別の鉱員の悲鳴が響き渡った!
「ひいい~っ、こんな事になるなんて聞いてないっすよ!」
「まだ鉱員が居たのか!?」
驚くガートン鉱員長だったが、助けを求める声を放って置くわけにはいかない。エステル達はさらに多くの魔獣に囲まれた鉱員を救うために突撃した。腰を抜かしている鉱員の前で獅子奮迅の戦いを見せるエステル達。シンジのEPは空になったのでアスカ達も敵の攻撃を食らいながら導力魔法を唱えるしかなかった。
「おや、お前さんは昨日入った見習いじゃないか。どうしてこんな地下で掘っているんだ?」
ガートン鉱員長は助けられた鉱員の顔を見ると不思議そうな顔で尋ねた。
「せ、先輩方の仕事を見ていて自分も頑張りたいなと思ったんですよ! じゃ、じゃあ俺はこれで……」
そう言うと、その鉱員は脱兎のように逃げ出して行ってしまった。
「よっぽど怖かったのね」
「そうだね……」
アスカの言葉に、シンジも同意した。もし魔獣の群れに襲われた時、自分は逃げずにアスカを守れるだろうか、とシンジは自分に問い掛け、そうなるためには強くならないといけないと思うのだった。
地上へと戻ったエステル達は、鉱員達とお互いの無事を喜び合った。見習い鉱員の姿が見えない事をガートン鉱員長は不思議がったが、あれだけ怖い体験をしたのだから無理もない、と鉱員達も結論付けた。
「君達には余計な仕事までさせてしまったね」
「いえいえ、魔獣退治も遊撃士の仕事ですから!」
ガートン鉱員長の言葉にエステルは元気良く答える。退屈な輸送の仕事が面白くなったとでも言うかのようなエステルに、アスカ達は深いため息を付くのだった。
「ところでシンジ、宝石は無事?」
「うん、皆が守ってくれたから、魔獣が近づいて来ることも無かったよ」
アスカが尋ねると、シンジは笑顔で答えた。するとアスカはニヤリと笑いを浮かべた。
「それじゃあ帰り道も頑張りなさい」
「そんなぁ、誰か代わってよ」
シンジの試練はまだまだ続く。街への帰り道でもシンジの持つホタル茸と翠耀石の結晶に魔獣が引き寄せられ、シンジは今までにないほど疲れた長い一日となるのだった。
6
街に戻ったエステル達は遊撃士協会へと行き物騒なキノコ、ホタル茸をアイナに引き渡した。魔獣を寄せ付ける危険なものだと知っていたのかとアスカが尋ねると、アイナはそっぽを向いてとぼける仕草をした。どうやら一杯食わされたらしい。アイナの話によると、ホタル茸は珍味として重宝されているとか。報告してとりあえずBPは貰えたのでアスカ達は文句もそこそこに遊撃士協会を発ち、市長邸へと向かった。
エステル達が市長の部屋へと入ると、先客が居た。ジェニス王立学園の制服を着た青み掛かったショートカットの少女だった。前に居た世界の”あの少女”を想起させるその風貌にアスカの表情がかすかに歪む。しかしその少女の瞳の色は自分達が持って来た翠耀石のような緑色だった。
「えっと、あたし達、お邪魔だったかな?」
「いや、そんな事はない、君達にも紹介しよう。ジェニス王立学園の生徒であるジョゼット君だ」
エステルが遠慮がちにそう言うと、椅子に座って制服姿の少女と向き合っていたクラウス市長は笑顔で答えた。
「よろしくお願い致しますわ。お初にお目にかかります。ジョゼット・ハールと申します」
そう言ってジョゼットは制服のスカートの端を持ち上げ、涼やかな笑顔で挨拶をする。
「あたしはエステル、よろしく、ジョゼットさん!」
エステルは元気一杯の笑顔で答え、
「ヨシュアです、よろしく」
ヨシュアは落ち着いた表情で、
「シンジです、よろしくお願いします」
シンジは少し顔を赤らめて、
「アタシは、アスカよ」
アスカは少し固い表情でジョゼットに答えた。
「この四人は若いながらも、遊撃士なのだよ」
クラウス市長がそう言うと、ジョゼットは目を輝かせてシンジを見つめた。
「あの、いかなる権力にも屈しない、平和を愛する自由騎士様ですか!?」
そして感極まった表情でシンジの両手を握る。驚いたシンジはその手を振り払う事も出来ずに固まってしまった。
「感激ですわ、わたくしと年も変わらないのに遊撃士をしておられるなんて!」
アスカの視線に気が付いたジョゼットは照れたように顔を赤くしてシンジの手を離す。しかしアスカから見れば、魂胆が見え見えの演技だった。
「ああっ、ごめんなさい、わたくし失礼な事を!」
「別に、気にしてないよ」
シンジも顔を赤くしてそう呟いた。遊撃士としてみっともない所を市長に見せる訳にもいかず、アスカはグッとこらえていた。
「ところでジョゼットさん、えっと、ジョゼットと呼んでいい?」
「ええ、構いませんわ」
エステルの言葉に、ジョゼットは穏やかな笑顔で答えた。
「ジョゼットは何で市長さんの所に?」
エステルの質問にジョゼットは自由研究でロレントの街の歴史を調べているのだと答えた。その調査の一環で市長に話を聞いていたのだと言う。
「そうだ、せっかくの機会だからジョゼット君に例の宝石を見せてあげなさい」
クラウス市長にそう言われたシンジは、自分の鞄から翠耀石を取り出した。光を放つ宝石を見て、ジョゼットは目を輝かせた。
「まあ、何て素晴らしい宝石なんでしょう」
「うむ、ロレント市民全員の感謝の意を示すのに相応しい贈り物だ」
宝石を見たクラウス市長は満面の笑みを湛えてそう言った。市長の話によると、この宝石は女王生誕祭でリベール王国のトップ、アリシア女王に贈るつもりなのだと言う。
「どうしよう、あたし達、女王陛下への贈り物を運んじゃったよ!」
「アンタはそんな大事な物を振り回していたけどね」
アスカがエステルにツッコミを入れると、市長の部屋は笑いの渦に包まれた。宝石を受け取った市長は大事そうに金庫へとしまって安堵の息を吐き出した。
「では今日はこれで失礼致しますわ。大変貴重なものを見せてくださってありがとうございました」
そう言ってジョゼットは可憐にお辞儀をして市長の部屋を出ようとする。そのタイミングに合わせてエステル達も市長の部屋を退出した。一緒に市長の部屋を出た五人は市長邸の前で話をした。ジョゼットの話によれば、彼女は明日の定期船でジェニス王立学園へ帰るらしい。
「あーあ、残念だったな。せっかくお友達になれると思ったのに」
エステルはガッカリした表情でため息を吐き出した。
「それはわたくしも同じですわ。それでは御機嫌よう」
ジョゼットは会釈をすると、街の方へと去って行った。エステルはジョゼットが去って行った方を眺めて感心したようにため息を付く。
「いやぁ、本当に良い子だったわね。育ちの良いお嬢様って感じだけど、それを鼻に掛けていないし……」
「アンタバカァ!? すっかり騙されちゃってさ」
アスカはカンカンに怒った表情でエステルとシンジをにらみつけた。怒りの矛先はシンジに対しての方がより激しいようだ。
「やっぱりアンタは優等生タイプが好みなんだ。ファーストと楽しそうに話していたもんね」
「別に綾波とは関係ないだろう!」
言い争いを始めてしまったアスカとシンジを、エステルとヨシュアはあきれた表情で見つめてため息をついた。