住民が寝静まった真夜中、街中をコソコソと動く影があった。ひっそりと動き誰にもバレずとある大きな民家へと侵入を果たした。その影の正体とは、
「こんな、夜中に何の用だ。ロジャー」
「分かってんだろ?」
ロジャーである。真夜中に侵入した家とはアイスバーグが住んでいる部屋だった。夜中にも関わらず明かりが灯っている部屋の窓からロジャーは侵入していった。寝もせず仕事をしていたアイスバーグは、仕事用紙からは目を離さず、入ってきたロジャーに話しかけた。
「それならもう、断っただろ。それに、もう一度頼むってんなら何故こんな時間なんだ……」
「昼間にお前んとこ行ったさ。でもそん時は、お前の部下から門前払いを受けたのさ」
1度、アイスバーグに断られてからというものロジャーは何度もアイスバーグに船の整備を頼むために会いに行った。しかし、アイスバーグに頼むどころか会う事すらかなわない始末だった。アイスバーグの仕事場に行こうとすれば、その前に必ずと言っていいほどアイスバーグの部下達がロジャーの前に立ち、門前払いをしてきた。無理矢理にでも通ろうとしていたロジャーだったが、船の整備を依頼する立場として何よりトムの弟子の部下がアイスバーグを思って行動しているのだ。その気持ちをロジャーは無碍にはできず帰るしか無かった。しかし、どうしてもアイスバーグ以外の奴にトムの船の整備を任せたくなかったロジャーは何とかアイスバーグに会おうとしていた。
「それで、こんな夜中の1時に来たってのか」
「そんな所だ」
「で、言ったと思うが俺は受ける気は無い」
話を戻そうとアイスバーグは仕事用紙から目を離し、入ってきたロジャーにようやく目を向けた。
「そこなんだよなぁ〜。俺も色々考えたんだが結局のところ分からなかった。なんでお前はそんなに受けたくねぇんだよ」
頭を抱えながらそう言うロジャーにアイスバーグは青筋が薄らと浮き出てくる。
「理由は2つだ。1つ、俺はオーロ・ジャクソン号が嫌いな事。2つ、ロジャー、お前が嫌いだって事だ。」
「……え?お前、俺の事嫌いだったのかよ……」
ロジャーは思いもよらなかった理由にガックリと肩を落とした。
「あぁ。元々、トムさんが死んだ原因はてめぇだからな」
アイスバーグは心に秘めていた憎悪を顕にしながらロジャーへと言い放った。それをロジャーは睨みつけてくるアイスバーグに笑って返す。
「フッ、ワッハハハハハハ!」
「何がおかしい!」
「いや、なに。トムの事を思い出して笑ってたのさ。アイツはいつもドーンと構えてて気のいい奴だったからなぁ〜」
「お前は、何を言っている?」
「昔を懐かしんでいたんだよ。楽しかったなぁ〜。特に俺のトムと飲む酒は格別に美味かった!」
「だから……、何を言っているんだ!何故、てめぇはトムさんが死んだ事を笑っていられるんだ!」
ずっとヘラヘラしているロジャーにアイスバーグは頭の青筋が表にくっきりと出るほどに怒っていた。死んだ人を弔い、思いやってやる事もしないロジャーにアイスバーグは更に口激しようとし、ロジャーはそれを遮るようにあっけらかんと言い放った。
「ん?俺は別にトムが死んだ事に笑っちゃいねぇぞ。俺はアイツとの楽しい思い出を笑ってたんだ」
「……」
「ひとつ聞くが、死ぬその瞬間までトムは己の人生を後悔してたか?」
「……」
「してねぇだろ。アイツは自分のした事に一切の後悔なんざしてねぇんだよ。それは、てめぇがよく分かってる筈だ」
「あぁ!そうさ!トムさんは政府に連れてかれるその瞬間まで笑ってた」
強く握りしめるアイスバーグの手には一筋の血が流れていた。
「ならよ、俺がトムを悲しむ事なんて出来ねぇよ。悲しんだらアイツの人生を否定する事になっちまうからな」
そう笑って返すロジャーにアイスバーグは何も言えなかった。否、言いたくなかった。トムの事をロジャー以上に思っているアイスバーグだからこそ、嫌いなロジャーの言葉であってもそうであると心の内で肯定していた。
「……」
「だがな、トムの死を悲しむ事とは別によ、俺ァ物凄く怒ってんだ。俺の友達に手を出したんだ。アイツらにはそれ相応の事をしてやる」
そう言ったロジャーの顔は初めて海賊の顔らしい残忍な顔をしていた。さっきまで笑っていた雰囲気は何処へやら、拳を強く握りしめ、薄く笑うロジャーの怒気は、傍から見てもくっきりと分かるようにふつふつと表に湧いて出てきていた。
「アイツら……」
「世界政府の奴らさ!言ったろ?マリージョアに行くって」
「本当なのか?!」
ニヤッとロジャーが笑うとそれが答えとばかりに、それ以上は何も言わなかった。静寂な空気が部屋を支配するなか、ロジャーはゆっくりと入ってきた窓へと近づいた。
「俺はもう、お前の所には行かねぇ。けど、ずっと待ってやる!気持ちの整理がついたら俺ん所に来い!何日でも何ヶ月でも待ってやる」
そう言うと、話は終わったとばかりにロジャーは家を出ていこうとする。ハッとなったアイスバーグが何かをロジャーに言おうとしていたが喉に言葉がつっかかって出てこなかった。
「……」
「あと、オーロ・ジャクソン号嫌いって言ったよな?それこそ、有り得ねぇだろ。ワッハハハハハハ!」
ロジャーはアイスバーグに背を向け笑って、夜の闇へと消えていった。出ていったロジャーを呆然と見ていたアイスバーグは自然と自分が立っていた事に気づき、椅子へぐったりしながら座った。
ロジャーがアイスバーグの家に侵入してから約1ヶ月が過ぎた。ロジャーはもうアイスバーグに1度もあっておらず、船の隠し扉がある港で待っていた。その間、暇になったロジャーは金髪坊主のサボや衰えて体が鈍っていたレイリーやギャバンを鍛えながら暇を持て余していた。
「ロジャーさん……、グェッ!!」
「なんだ?」
ロジャーはダウンして寝ていたサボの上に座ると、いつからか気絶から解けたサボが話しかけてきた。
「本当に行かなくていいんですか?もう1ヶ月ですよ?」
「心配すんなって!必ず来る」
「……本当に来ますかねぇ〜」
「まぁ、アイスバーグが来るまで時間はあんだ。その間にもっと鍛えてやるからよ!」
そう、キラキラした目をサボに向けるとサボの顔と目が死んでいった。この1ヶ月、ロジャーに遊び半分で鍛えられたサボの実力は前より格段に上がっていた。最初の方は海賊王が直々に師事してくれる事にサボは楽しみと期待を抱いていたがそれは1週間の内に呆気なく無くなった。毎日やってくる地獄に憂鬱にしていたが、ある日その鍛錬にレイリー達も一緒にやると言い出してサボは仲間ができたようで嬉しかった。これで自分の鍛錬する時間が減って少しは楽になるだろうとその時、サボは思っていた。しかし、サボの目の端で死体のように横たわっているレイリー達を見て、''そんな事はなかったな…''とその日の内に現実を見せられた。
「……、早くアイスバーグさん来ねぇかなぁ〜」
そう言って空に希望の光を捧げるサボに、ロジャーが不意に頭をコンコンと叩いた。
「どうやら、その心配は無用のようだぜ?」
サボがロジャーの目線を辿ると此方にやってくる3人の影に気づいた。歩いてくる影がくっきりとしてきて、ようやくサボもそれが誰か分かった。歩いてきた人物とはアイスバーグとココロさんだった。しかし、もう1人の大柄な男にサボは見覚えがなく頭に?を浮かべていた。
「来たか!」
「嫌々だがな!」
「んがががっ!素直じゃないれぇ〜」
「おい、馬鹿バーグ!コイツが例のアイツか?」
すると、黙っていたフランキーがアイスバーグに確認をとった。ここに来る前にアイスバーグはフランキーの方へと寄っていたのだ。あのアイスバーグが態々、自分に頼みにきたと知ったフランキーは目ん玉が飛び出る程に驚いていた。
「そうだ」
「話には聞いてたが、まさかほんとうに……」
ロジャーが生き返ったと来る途中で知らされたフランキーだったが、実際に見るとその覇気と見覚えのある姿に驚きが隠せなかった。
「紹介が遅れたな。コイツの名はフランキー、俺と同じトムさんの弟子だ」
「あぁ覚えているさ。あの時のちっこい子だろ。でよ早速、やってくれんだろう?」
そうフランキーを見るロジャーの視線は暖かく、その視線を受けるフランキーは身体中が鉄で出来ている筈なのに何処かむず痒かった。
「あぁ、やってやる。ただし、」
「……」
「やるのは俺じゃない!俺達、トムズワーカーがその依頼を引き受ける!」
「フッ、ワッハハハハ!!!!!最高だぜ!」
そう言うと、ロジャー達は船の方へと向かった。
「オーロ・ジャクソン!!流石トムさんの船だ!スーパーな造りに最高のデザインだぜー!!!」
「そうだろ?ワッハハハハハハ!!」
船大工として成長したフランキーは久しく見るオーロ・ジャクソン号に興奮が隠せなかった。子供の時には分からなかった船の部分が今のフランキーには良く理解でき、自分の師匠であるトムの船大工としての実力に再び強い尊敬の念を抱いた。
「すげぇ船だ。とても20年も放置してたとは思えねぇ……。この木の造りに腐り防止用の技、それだけじゃねぇ!この船にあるものは、一つ取ったら全てが瓦解する程の考えられた部品配置……、とても丁寧で精密な船だ。まさに奇跡の船だ!整備するだけでも手が震えてきやがる…!」
先に船に入ったアイスバーグは、船の整備をするため一通り船を診ていた。20年経ったこの船のどれが欠けて、どれを修理すべきかといった様々な事を確認する為だ。しかし、心配するのも烏滸がましい程に船にこれといった損傷か見受けられない。それどころか新品と言っていいほどに綺麗だった。唯一、直すべき所があるとするなら帆の布や縄といった消耗品だった。
「アイスバーグ!どれ位でなおる?」
「これなら1週間もあればすぐだ!」
「そうか!なら、俺達は食糧、衣類、ベッドや食器やらを街から買ってくる。トムズワーカー、その船頼んだぞ!」
「あぁ!」
「俺達にスーパー任せとけっ!!」
街へと出ていったロジャーを送った2人は再び船へと視線を移す。船に体を向けた2人の体はプルプルと震えており、これからこの船の整備をする事を考えると興奮が抑えきれずにいた。そんな2人の昔のような景色をみて、ココロの目に少し涙が溜まっていた。
「さぁ、行くぞフランキー!」
「スーパーに楽しみだ!!」
その時、ココロは背を向けて船へと向かう2人の背中をトムが押してるように見えた。
「懐かしいらねぇ〜」
街のとある路地裏にて秘密裏に話しているシルクハットの男がいた。その男の用意周到さの性もあって周りに話しが漏れるような事は一切ない。
「こちら、ルッチ」
『何の用だ……。手短に話せ』
「この、ウォーターセブンに例の男がやってきた」
そうルッチが思い浮かべるのは、先日突如としてやってきた1人の男。CP9のスパイとしてウォーターセブンの船大工に偽装して潜入捜査を行っていたルッチだったが突如やってきたその男に、今迄のような表立った行動が起こせなかった。今迄なら少し派手な事をしようが長年積み重ねてきた信頼が今のルッチにはある。
『それは、本当か!?』
「カリファが直接見たので間違い無いでしょう」
しかし、ルッチが表立って行動が出来ない原因はやって来たその男にある。酒場で働いているルッチの仲間、ブルーノの正体がバレた件もルッチの耳にはまだ新しい。
『そうか……。なら間違っても、アイツには手を出すな!』
「もとより、そのつもりです。こちらにも任務がありますから…。それに、遠くから見ても分かる程に俺と奴の間の差は信じがたい程に広がっていますので……」
ブルーノの正体がバレた事で1度CP9でその男を暗殺しようと企んだ事があった。1度、尾行し奴をおってみるも隙などさらさらなく暗殺どころか気配を消すのでさえ大変だった。そして、奴を追っていく内に嫌でも奴との実力差をルッチは感じとっていた。潜入しているCP9の中で1番の実力をもつルッチだからこそ感じとれた事であり、直ぐに撤退という正しい判断が出来たのだ。
『お前にそこまで言わせられるか……』
「ブルーノの正体を知った奴がまた呑気にブルーノの酒場に行くような男だ。腹ただしい事この上ないが手を出すのは悪手の他でも無いからな」
『そうか。引き続き任務の方は頼んだぞ』
「おぉ!!これが海賊船オーロ・ジャクソン号!!」
「前までは帆がなかったからな。それに、今はロジャー海賊団の海賊旗もある」
そう興奮して声を出すのはサボだ。整備する前のオーロ・ジャクソン号には腐っていた帆の布や海賊旗がなかった。しかし、整備が終わり帆や縄、ロジャー海賊団の海賊旗が新しく張られると20年前に活躍したあの海賊船オーロ・ジャクソン号が再びこの現世へと姿を現した。
「お前ら、船のことありがとな!」
頭を下げて感謝するロジャーの返答にフランキーが変なポーズをとって応えた。
「良いってことよ!むしろ、こんなスーパーな船の手伝いが出来たんだ。お礼を言いたいのは俺の方さ!」
「そうか!」
船を褒められ素直に嬉しがるロジャーにアイスバーグが近づいてきた。
「これで、俺達の仕事は終わりだ」
「あぁ、ホントに助かった!それで、金の方なんだが……」
ロジャーがそう言うとレイリーが宝箱の様なものを持って此方へとやって来る。その中には海賊時代に貯めていたお金であり、前から船代の為に取っておいていたのだ。
「いらん。ココロさんとフランキーもそれでいいだろう?」
「あぁ、スーパーにいらん!」
「んがががっ!問題ないらねぇ」
「お前ら!!」
感極まって3人に抱きつこうとしたロジャーをアイスバーグが手をかざして止めようとしたが力の強いロジャーに適うはずもなく抱きつかれてしまった。顔は嫌そうにしながらも、その口元は緩んでいた。
「その代わり、俺からお願いがある」
「なんだ?」
「俺の分まで、世界政府の奴らをぶっ飛ばしてきて欲しい!」
それに対する答えをロジャーは既に持っていた。力強く言い放つロジャーの次の言葉を聞いてアイスバーグは心から笑った。
「ワッハハハハハハ!!任せろ!」
トムズワーカーと別れをすましたロジャー達は船へと乗り込んだ。久しぶりに踏み込むその足音は''プニッ''だった。そう、船の出口が海の底にある為、海底の水圧に耐えられるようレイリーがコーティングしてくれたのだ。船を囲むシャボン玉がだんだん大きくなると、船の先端にロジャーが立ち後ろの3人に声を張り上げる。
「野郎共!」
「「「……」」」
「イカリを上げろ!帆を張れ!出航だぁ〜!!行くぞ、マリージョア!!」
「「「おぉぉ!!!!」」」
ロジャー海賊団のドクロが書かれた船が今、世界をぶち壊しに出航する!まさに、政府にとっての大後悔時代!
高い評価や感想の数々、本当にありがとうございます。いよいよですね、ロジャー達がマリージョアで暴れるのは!