第5話
燦々と照り輝く日差しで目が痛くなる程鮮やかな空と海。何処までも青く潮が大河のように風をつたってのんびりと鼻翼をくすぐる昼下がり。
「今日は、良い天気だなァ〜。」
デッキチェアで体をのばしながら、ロジャーが暢気に呟く。寝ているデッキチェアの近くには、フルーツジュースが置いてあるローテーブルがあり、如何にのんびりしているかが分かる。
「そうだなァ〜。こういう時はのんびりするのが1番だ。」
何気ない呟きをはいたロジャーに応えたのは、同じく隣で横になっているギャバンだ。いつも掛けているサングラスを外しロジャーと同様日光浴を楽しんでいる。
「お前ら、少しのんびりしすぎやしないか?」
こう言うのは、自分の得物の剣をデッキで座りながら手入れしているレイリーだ。ロジャー海賊団は、他の海賊団よりも自由でのびのびしている。これはロジャーが船長という事に起因していて、戦闘の時は鬼のように鬼迫迫るロジャーだが、基本はどんな事も楽しむ陽気な性格でよく笑う。そんな陽気なロジャーにつられて他の船員もよく笑いロジャー海賊団は、毎日楽しい雰囲気となっている。別段レイリーは、その事に不満はない。むしろ良いとさえ思っていたりする。
ただ、あまりにも弛緩した雰囲気になりすぎると
「とか言いつつ、ちゃっかりお前も横にドリンク置いてあるじゃねェか。」
「水分補給は、必要さ。」
「何言ってんだか·····。」
たとえ、いくらか歳をとろうが最後の航海以来となるロジャーとの2度目の航海が楽しみじゃない訳が無い。口では注意を促すような事を言っているが、ギャバンと同じでこんな軽口を船上で久々にたたけあえる事が楽しくてしょうがなく、話す2人の雰囲気は長年旅をしてきた仲間の信頼さを感じさせる。尚、その間ロジャーは1人でグゥグゥと寝息をたてながら気持ち良さそうに眠っていて、2人と同じ位、いやそれ以上に信頼しているかが寝顔を見ればありありと分かる。
3人は、海軍との抗争を終えたあと幾つかの島を巡って旅した。そこでは、食料や飲水、航海に必要な物品を拵えた。その際には、一切面倒事は起こしていない。たとえ問題を起こして海軍が来ようと勝てる自信はロジャー達には大いにある。だが、態々海軍が来るような事を毎度毎度起こしていては島人に迷惑をかけるのは勿論のこと出航が遅れてしまう。第一、ロジャーは生粋のバトルジャンキーだがそこまで戦闘に固執していない。やられたらやり返すが向こうが何も干渉しないのならば基本的には無視というのが以前からのロジャー達のやり方だ。もし、面倒事をロジャーが起こすというのならば、それ相応の理由があってヤルので仲間達ら何も疑わず一緒に戦う。なぜなら、そういう時はきまって、自分の事じゃなく誰かの為にやっていると理解しているから。
剣の手入れを終えたレイリーが次の島を指しているログから航路を確認するために船のデッキへと登る。この海ではずっとログを確認しておかないと直ぐに迷ってしまい次の島へと辿り着けないからだ。
「おい、あれ溺れてないか?」
ログが指している方向へ目を向けたレイリーは、船の前方で溺れている人影を見つける。バタバタと手を動かして此方に知らせているのを遠目からでも理解したレイリーは真っ直ぐにその方向へと船を進める。
「おーい、大丈夫か〜?」
ロジャーとは違って起きていたギャバンもレイリーの後ろに続き船に付属していた救命浮き輪を溺れている人に向かってなげ、それを掴んだのを確認したギャバンがそれを引き上げる。
「ゴホッゴホッ·····。」
「平気かい?」
「はい·····。助けてくれてありがとう。」
そこに居たのは小さな歳の頃が6歳くらい女の子だった。
「おう!別にいいぞ!とりあえずココアでも入れといたから飲んで暖まれ嬢ちゃん。」
そう応えたのは、何時の間にか起きて傍に寄ってきたロジャーだ。その手にはさっき入れたであろう湯気がたっているココアが握りしめられている。
「お前、いつのまに·····。」
「あっありがとうございます·····。」
「それで、嬢ちゃんはなんでこんな所で溺れてたんだ?」
ギャバンが少女に溺れていた原因を問いかける。海軍かもしくはCPの手先では無いかと疑っているからだ。面倒事を起こしていないとはいえ、海軍達がこんなにも音沙汰無しなのは変だと思ったからだ。
「それが·····、父ちゃんと漁をするために出かけたんだけどその帰りに外を泳いでるイルカに目を奪われちゃって·····。」
少女は、恥ずかしそうに頬っぺを赤くしながら溺れた原因を話す。
「それで落っこっちまったと·····。」
なんともごく普通の理由で落ちた事にギャバンは肩透かしをくらう。その後ろを見ればロジャーとレイリーの肩が震えている事がわかる。
「アハハ·····。」
父とはぐれた事かまたは、恥ずかしい事をしてしまって苦笑しながら少女は、俯いてしまう。
「ワッハッハッハ!安心しろ嬢ちゃん。俺もそういう時あるから!」
''いや、それはなおせよ!''というツッコミが両サイドからとんでくるがそれを華麗にスルーするして、少女の恥ずかしい体験談をロジャーがフォローした。本人にフォローするという気は合ったのかと問えば十中八九無いと言いきれるだろう。なぜなら昔からこういった人柄で自分の弱い部分を人にプライドなくさらけ出せるのがロジャーのいい所であり人に好かれる部分なのだから。
「大人なのに?」
「大人でもだ!ワッハッハッハ!」
豪快に笑ったロジャーに俯いていた顔を上げた少女がロジャーにつられて笑い始める。その表情には、さっきまでの恥ずかしさはどこえやら年相応に無邪気に笑っている。
「このバカはほっといて、島は何処だい?送ってあげるよ。」
「えっ!?いいの?!」
確認のために本能でロジャーがこの船の船長だと確信した少女がロジャーに詰め寄る。
「おう!いいぞ!」
それを笑顔で応えるロジャー。その隣では提案をしたレイリーとギャバンも笑って頷いてくれている。
「それで名前はなんてんだ?」
「私は、リルだよ!」
無邪気に笑って答えるその笑顔はロジャー達を一瞬にしてメロメロにした。昔旅した仲間の1人、おでんが子持ちでその子供と旅したことを思い出したからである。その時もロジャー達はむさ苦しい男だらけで見習いのシャンクスやバギーとは違う癒してくれる存在にメロメロになっていた。
「そうか!リルっつうのか!それでリルの所は、なんて島なんだ?」
「ハノン島って名前だよ!」
「それなら2つ次の島だな。」
顎髭を撫でながらレイリーがそう答える。それには、ログを確認して大して時間もかけずにたどり着けるだろうという意味もこめられている。
「それ、本当かレイリー。」
「あぁ。ただ、1つ島を経由するがな。」
「よし!じゃあリル。寄り道する事になるけど冒険に行くぞ!」
リルの脇から手を入れて自分の肩へと持っていき、次の島の方角へと笑顔で指を指す。
「冒険!!楽しそう!!!」
6歳の子供と言ったら男女違わず冒険には心をくすぐられる。絵本を読んだり、大人から聞いたりと未知な事を知る事が子供には楽しくてしょうがなく、リルも例外ではない。ロジャーと同じようにこれからする冒険にワクワクしてロジャーに負けず劣らずの笑顔で海へと指を指した。
「ワッハッハッハ!それじゃあ、リル。行くぞー!」
「おー!」
リルを含めたロジャー達4人は、とある島へと上陸した。その大きな島は人1人住んでいる様子がなく木々が生い茂っていた。
「わー、でっかい木だー!」
浜辺にて船の錨を降ろし、さっそく探索へと出かける。この島でのログが貯まるのはだいたい1、2日なのでそれまでの食料や住みばを確保する為だ。冒険を船中からずっと楽しみにしていたリルは誰よりも早く駆け出して島を探検した。
ザザザ
駆け出していたリルの横の葉っぱが揺れ動き、中から巨大な猛獣が出てくる。全長およそ8m。見た目はティラノサウルスのように体が筋肉と脂肪で覆われており6歳の子供では到底立ち向かえない猛獣だ。それと至近距離で目と目が逢う。
「··········ッ!!ギャァァァァ!!!」
悲鳴を聞きつけたロジャーがリルの所へ向かって走ってくる。
ドドン!
後ろを向き逃げようとしていたリルが振り向いた瞬間に背後から大きな破裂音が響き渡る。その音は、ロジャーが距離約50m、それをわずか1秒もかからない速さでやってきて猛獣の頭へと力いっぱい拳を叩きつけた音だ。
「ん?おー、これは随分でかい食料じゃねぇか!良くやったぞ、リル。」
自分の脚を抱きしめてくるリルの頭をよしよしと撫でる。ロジャーの体には外傷はなく汗ひとつかいていない。たとえ、どれだけ大きな猛獣かろうが自分よりは弱いと確信している自身への絶対的な自信、そして何より一時的とはいえ、仲間となったリルを怪我させたくない一心で猛獣を一撃で仕留めた。
「えっ?怪獣さん、やっつけたの?」
目を点にしながら目の前を横たわってる猛獣に目を向ける。その猛獣の顔には拳で作られた跡があり息をしていなかった。
「おう!もう平気だぞ!」
「すっげぇぇー!!」
自分が女の子と忘れる位の言葉遣いで目をキラキラと輝かせながら叫ぶ。それには、はじめて見る強さに驚きよりもカッコ良さが勝ったからだ。それもそうだろう。こんな大きな猛獣なんて普通に生活していたら見ることはない。ましてやそれを一撃で倒す程の人など信じられない思いだ。
「さぁ、ここはあぶねェから浜にきて飯くうか!レイリーとギャバンが準備してくれてるぞ。」
「うんっ!」
「うおっ!でっかいお肉!」
葉のお皿で差し出されたそのお肉は、先程の襲ってきた猛獣のお肉だ。お肉から香ばしい匂いが辺りを漂って胃袋を揺する。
「ほら、ガブッといけガブッと。」
肉をかぶりついた所からたくさんの肉汁が溢れ出てきてさらに食欲を加速させる。肉の隅々にまで染みたソースが柔らかいお肉と混ざりあいその美味しさが体中を駆け回る。
「うまい!」
「ワッハッハッハ!!そうだろうそうだろう!」
「そんなに急がないで、ゆっくり食べなさい。まだあるから。」
真ん中を火で囲む食事は、船上での食事よりも美味しく賑やかなものだった。酒で酔っ払ったロジャーが服を脱ぎ捨てて踊りだし、それにギャバンも続けて踊り出した。その時のリルは大笑いしていた。家族で囲む食事もいいがこうやって誰かとする食事もいいなと心に思って。
食後、リルとレイリーは食後の運動がてらに浜辺を散歩していた。
「冒険、楽しかったー!」
「そうか。」
今日、起こった出来事の一つ一つを楽しく語るリル。それを笑顔で相槌をうち、その様はさながら歳の離れた親子のようだった。
「今日ね、こんなデッカイ怪獣に襲われたんだけどね!」
身振り手振りで自分を襲ってきた猛獣を伝える。
「それをね!1発でやっつけちゃったの!」
「それはすごい。」
そう語るリルの顔はキラキラしていた。
「私も仲間が欲しい·····。」
夜空を覗き込みながから、リルはふと呟く。今まで体験してこなかった事を仲間と危険を乗り越えていく。中途半端ではないしっかりとした気持ちだった。
「何言ってるんだ。もう、リルは私達の仲間だろう?助けて欲しかったら何時でも言うといい。私たちは直ぐに駆けつけるよ。」
「う·····、うん!!」
目の端に仲間と言われた事に光の粒が煌めくがそれをレイリーは見て見ぬふりをした。
「フフ(やはり、仲間というのはいいものだな。)」
仲間がどれだけいいものかレイリーは知っている。そしてその大切さも。ほんの少しの冒険だったがいい思いをさせて良かったとしみじみと思った。
それからロジャー達はその島を出航した。ログがたまりリルの島への航路がわかったからだ。この1週間の間でロジャー達とリルの間には強い絆が生まれた。途中、大きな嵐に見舞われたがロジャー達のためになにかしようと帆をはろうとしたり。ご飯を作ってあげたり。また、再び海に落ちてしまったり。1週間とは思えない波乱万丈な航海で絆を育んだ4人は色々な事を経てリルの島へとたどり着いた。
「ここが·····。」
「綺麗な街でしょ?」
街に背を向けながらそう言う。青を基調とした家々で道路がレンガ造りのいわゆる、西洋のような街並みだ。道歩く人達が常に笑顔で生活している。まるで取り繕っているかの様にさえ感じさせる雰囲気だ。
「こっちが私の家よ!」
リルを先頭に4人はリルの家へと歩き出す。ギャバンとリルが2人で話している後ろでロジャーとレイリーがヒソヒソとリルに聞かれないように話していた。
「ここって、アイツらが来る所だよな。」
「あぁ。大方、親が''天竜人''を見させないようにしているのだろう。今向かっている家の方向だって街からそうとう離れた位置にありそうだ。」
顔が険しくなる。以前からロジャーは、天竜人が大っ嫌いだった。その事でガープと意気投合下まででもある。人を傷付けることを厭わない、そんな巫山戯た連中。しかし、ロジャーは1度も彼等とやりあったことは無い。なぜならケンカを売る程の奴らでもないし、する価値すらないからだ。
「ここだよ〜!」
「お·····、ここか!」
ロジャー達が辿り着いた家は丘の上にある一軒家だった。程よい風が吹き身を暖めてくれる。長閑な雰囲気を感じさせる。
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