元!海賊王の航海   作:りむっち

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第6話

「ただいまー!!」

そう声を大きく出しながら玄関のドアをいきよいよく開け放ち、中へと入っていく。ほんの数日の間だけだが、リルのようなまだ幼い女の子ではほんの少しでも家族と離れてしまうと恋しくなってしまう。それに、体験してきた冒険を早く会って語りたいという気持ちもあり、家のリビングへと駆け出していく。

「お父さん!」

あたりを見回してテーブルの上で突っ伏している父の方へと抱きつきにいく。

「リ、リルなのか!!良かった!ほんとうに良かった。」

焦点が定まらない目で、抱きついてきたリルを確認すると精一杯の力で抱きしめ返す。その目には滝のような涙を流していた。荒れた様相の部屋と所々に蜘蛛の巣が張ってある所を見るに、随分と憔悴していたのが分かる。

「アハハ、大袈裟だよ。」

「良かったな、リル!親父にあえてよ。」

目の前で再開を喜ぶ二人にロジャーも嬉しくなり、声を上げて喜んでいた。

「うん!」

リルの後ろで喜ぶ大男とその両隣りに立っている男達を涙で視界が狭まった目でとらえたリルの父親は、恐る恐るとたずねだす。

「えっと、どちら様でしょうか?」

「この人達は、私をここまで届けてくれた命の恩人だよ。」

「それは!本当に本当にありがとう。私に残されたたった1人の家族なんだ。感謝してもしきれない。」

涙目でそう語るリルの父親は本当に嬉しそうだった。娘を抱く手が震えているのも突然やって来た娘の実感を今になって深く噛み締めているのが分かる。しかし、そう語る父親の雰囲気は安堵とは他に奥底に絶望がまみれていた。見聞色の覇気を極限まで鍛えぬかれている3人だからこそ感じられたものであり、並の人ならば感じさせない面持ちだった。リル自身は勿論のこと、父親自身もその心の闇を抱えている事には気づけていない。

「そうか。」

そう語るロジャーの顔は笑顔だった。何に絶望しているのかロジャーには知らない。ただ、娘との再会を喜べるのなら今はその気持ちに気づけていなくとも、今の幸せを実感して欲しいと思うロジャーだった。

 

「そうだ、自己紹介が遅れたね。私はご覧の通り、リルの父親のロイスだ。改めて、リルをここまで無事に届けてきてくれて本当にありがとう。」

ロイスは娘の頭に手を置き、先程迄とは違ったいっそう明るい表情に彩られながら自己紹介をする。

「気にすんな!」

「船長命令でやった事さ。」

「何より、我々も好きでやった事だしな。」

上から順にロジャー、ギャバン、レイリーが朗らかに返答する。こういった事は海賊時代の頃にはよくあった事でロジャーの気まぐれや優しさに触れていた2人はこういった事が慣れっこだった。また、2人自身が優しい性格だという事もあり、当然のことのように行動していたのだから2人の言が身に染みて感じたロイスは感慨無量の思いであった。

「何から何までだ。どうだ、お腹空いていないかい?良かったら食べて行くと言い。それに今日の泊まり場所は決まっているかい?決まっていないのならついでに泊まっていくといい。」

「いや、それは悪い気が……」

「気にする事はないよ。その方がリルも嬉しいことだろう?」

「うん、食べてってよ!」

「冒険話とやらも聞きながらね。」

リルの言葉に付け加えるように父のロイスが晩御飯へと誘う。それは、恩人に何かを返したいと思う気持ちと同時にリルの顔に陰りが見えたからだ。何となくだがここに留まるのを良しとしない人達なのだろうと3人を見ながら父ロイスは思った。ならば、この優しい人達にもう少しだけ荷に預かりたいと思い、その気持ちと共にロジャーへと目線を送る。

「そうか?じゃあ、遠慮なく邪魔するぜ。」

それを感じ取れないロジャーではなく、隣で俯いて了承を得られるか不安気なリルに向かって素直に了承をした。

「なら、手伝える事があったら言ってくれ。これでもこいつらの飯を作ってきたのは俺だからな。」

「何、心配要らないさ。そのお気持ちだけでも貰っておくよ。」

「しかしなぁ〜」

断られて難色を示すギャバンにレイリーが最もと言える、最善案を提案する。

「見たところ食材があまり無いように見える。私とギャバンで食材を買いに行って来よう。」

「そうなのか?いや、そうみたいだな…。」

ロジャーが頭をコテンと傾けたが部屋の現状を今一度見渡して納得した。この有様なら、食材はおろかその器具まで準備されていない事を。

「誘っていおいて申し訳ないのだが、見ての通りこの有様だ。」

トホホと息を吐き残念な顔をさらす。リルが戻り冷静な頭になったからこそ、この部屋の現状に顔から火が出る思いとなった。

「そうか、ならレイリー、ギャバンと食材の買い出しをたのむ。その間に俺とリル、リルの親父さんで家の片付けをしとく。幸い、時間は日が真上に登ったところだ。夕食までには間に合うだろうよ。」

自分で誘っておきながら、手伝って貰う事に更に恥ずかしくなるロイスだった。しかし、こんな醜態を晒している私を何一つ悪い気を持たずに接してくれる人達に今まで悔いてきた心や恥ずかしい心が優しさという感情でいっぱいいっぱいとなる。

 

・・・この人達は人の弱い部分、脆い部分を肯定し一緒に歩み寄ってくれる人達なんだな。リルが凄く懐いているのがその証拠と言っていい。

 

「お願いしてもいいかい?」

「おう!」

終始笑顔でこちらに接してくれるロジャーやレイリー、ギャバンを見て少しでも役に立とうと強がりを見せてい心が自然に解けていくのが自分でも分かるとロイスは感じた。これは自分自身からの一方的な信頼かも知れないがこの心から信頼しようと思える気持ちは間違いないと断言出来る。なぜなら……

「いや、口にするまでもないか。」

「どうした?」

「いや、なんでもないさ。」

そう言って、5人は夕食の準備を元気よく始めたのだった。ロジャーの指示通りロジャー、リル、ロイスが家の掃除をする。レイリー、ギャバンが夕食の為の買出しを。

 

担当分けした、レイリーとギャバンは来た道を戻って市場へと来ていた。食材はなんでもいいと言っていたので、バランスよく肉、魚、野菜と買っていくつもりであった。

「魚に関しては任せてくれ。活きのいいやつ買ってきてやる。」

「なら、私がお肉と野菜を買ってこよう。今日は豪勢といきたいからね」

「あー、明日には帰っちまうしな。」

「リルにロジャーはああ言っていたが私達が居ては何か巻き込まれそうな気がしてね。」

「違ぇねぇな。」

晴天の青空の元、2人は呑気に会話をし食材を買うために整備が整っている綺麗な大通りを歩いていた。ただ、2人には気がかりとも思える事があった。行きと同じで人通りは多い、ただ明らかに海から此方に向かってくる人達の方の比率が多い事にだ。また、それに拍車をかけたのが向かって来る人達が次々に自らの家だと思える家へと入っていき少しづつだが人波が減ってきている事。それを不思議に思っていると突如街の中心から大きな鐘の音が響き渡る。身体の奥からズシンと響くような音で街全体か、或いは島全体に何かを知らせる程の音。それをもって街の人達の歩みは一段と速くなったと2人は感じた。

「一体何が……。」

「あれは……。」

まるで何かから逃げてくるように...

 

その頃、ロジャー達は家の掃除をしていた。所々に蜘蛛の巣がはってあるのを剥がし、何日か洗っていないお皿や洗濯物を洗う。その他にも汚くなっていた廊下、埃だらけの椅子、テーブルなど片っ端から綺麗にしていった。それはまるで海賊時代に鬼と呼ばれていたロジャーが今度は掃除の鬼と化していた程に。何故、これ程までにロジャーが頑張るのかと言うと、その根源はリルにあった。先程、ロジャーはリルの父ロイスに泊まっていくと伝えていた。それはリルを喜ばせている吉報のような感じがするが、あくまで別れを先延ばしにしているに過ぎない。明日には発つ予定のロジャーからしてみれば最後にリルに出来る事といえば掃除くらいなのだ。掃除の鬼と化すのは仕方の無い事かもしれない。

「よっこらせと。」

そんな風に、リルが洗い終わった服が多く積み重なって入っている洗濯籠を小さな手で庭にある物干し竿へと、不安定ながらも一生懸命に運ぶ姿を皿洗いしながら柔らかい眼差しで見つめる。

「最初に比べたら結構きれいになったじゃねぇか!」

ある程度掃除が進み、最初に来た時とは比べものにならない程に綺麗になった部屋を見てロジャーがそう口にする。蜘蛛の巣は既に取り払われ、元の綺麗な木面が映る廊下、埃がついてる椅子、テーブルも綺麗となり、庭に目を向ければ風にたなびく洗濯物。

「疲れただろう、お茶でもいれたから休むといい。リルもオレンジジュースだ。」

「おっ、サンキュー!」

「わーい!オレンジジュースだ!!」

掃除が一段落済み、3人は優雅な休憩を満喫していた。特にリルなんかは、氷しか残っていないコップを傍に置き外から差して来る陽に照らされながら昼寝を堪能していた。しかし、その穏やかな一時を過ごしている時間を壊すように突如、耳を劈くような鐘の音が轟く。今、ロジャー達が過ごしているこの家は街の中心から離れた位置におり、ふっくらとした大きな饅頭のような柔らかい形のした緑丘の中心に建っている。鐘の音がなったとしても到底、ここまでの大きさとはならないハズで、何かあったと考えるのが妥当だろうとリルの横で寝そべっていたロジャーは上半身を起こして、そう察しをつけた。

「それにしても長ぇし、デケェな。」

遠くで鳴り響く鐘の音を聞きながらそんな事を呟いていると、バンッ!という音と共に扉が開け放たれた。現れたのは、ハァハァと肩で息をしているロイスだった。

「おい、どうした突然に...」

ロジャーが続きの言葉を言う前にロイスは見た事もない剣幕でロジャーの傍へ直ぐに寄り、肩を強く掴んだ。

「ハァハァ、まずは落ち着いて聞いてくれ。ただ、ここにはリルも居る。少し場所を変えさせてくれ。」

長年、住んでいる土地か何なのか大きな鐘の音が鳴ろうとも一向に目を覚まさないリルを置き、2人はリルに話が聞こえないような場所へと移る。そもそも鐘の音が今も鳴り響いている状況で近くにいたとしても、聞こえはしないのではとロジャーは思ったが余程、リルには聞かしたくない話なのだと少し悲しそうな顔を浮かべた。

「で、なにかあったのか?」

「単刀直入に言おう、君の仲間が危ない!」

今も尚、顔を震わせながら答えるロイスの言には実感が凄くこもっていた。

「危ないだ?」

「あぁそうだ。今も続いてるこの鐘の音はアイツらが来たと言う合図なのだ。」

「アイツら?」

「アイツらはこの世の海、偉大なる航路(グランドライン)を前半と後半に分ける赤い土の大陸(レッドライン)の上に住み、800年前に世界政府をつくったと言われている20人の王の末裔。彼らの中を流れている血こそが彼らをこの世の王、いや、神たらしめている存在なのだ。この世の人々はその人達を世界貴族、天竜人という!」

「天竜人・・・。」

「君も聞いた事があるだろう。世界貴族とは名ばかりの巫山戯た連中だ。気分次第で人を銃で撃ち殺せる。それも簡単にだ!何もしていない、皆と同じように膝まづき粗相ひとつやらかしていない人をだ!俺はアイツらを許さない。だが、反抗したところで海軍が味方するのは天竜人の方だ。間違っているよ……、何もかも……。」

「知ってるよ。俺も同じくアイツらが嫌いでね。」

蘇るのは遠い日の思い出、まだ海賊をはじめてルーキーの頃に起こった出来事。街を歩き噂の天竜人を見かけた時だ。その時は、天竜人がなんなのかも知らず只只、自分の目の前の人達を奴隷扱いし、いとも容易く命を奪った畜生ども。その時のロジャーはまさに鬼のような形相をし、切りかかろうとしていた。ロジャーの隣に比較的冷静だった相棒のレイリーが止めなければ歯止めが聞かなかっただろう。今でもロジャーは思い出すだけで胸のムカムカが止まらなかった。

「んで、それと俺の仲間が危ないってどういう事よ?」

天竜人の話を聞いても一向に仲間が危ない事になる想像がつかないロジャー。

・・・もしかしたら、近くにいる海軍の事を言ってのんか?ってか、その前に俺らが海賊って事も言ってねぇし・・・。

「聞いていただろう!君の仲間2人は年の功がなかなかいっていると見受けられる。もし、銃で撃たれた日には私が殺したようなものだ!アイツらは本当に気まぐれで、今鳴っている鐘の音は天竜人が来たことを知らせる鐘。現に、鐘がなる日にちは、不定期なのだ。」

・・・天竜人の事だったのかよ。レイリーとギャバンがアイツらに殺されるなんて天地がひっくり返っても有り得ねぇな。

「仲間の事は別に心配する必要ねぇよ。それよりも、その鐘バレねぇのか?」

「いやダメだ、今すぐにでも連れ戻しに行かないといけない。君達は私達の恩人なのだ。君達に何かあれば私はもうリルに顔向け出来ないし、何より1度失えばその悲しさは胸が破裂する程のことだ!だから、私は迎えに行ってくる。君はここで、リルが街に行かないのを見張っててほしい。あと、アイツらは鐘の音を自分達が歓迎されてると思っている。そして、私達市民はそれを利用する事で多少だが、妻や子、おじいさん、おばあさんを少しでも助けられるとね。」

そういうと、ロイスはロジャーから背を向けて街の方へ走り出そうとする。だが、ロジャーは最後に一言だけロイスに言葉を送った。

「リルを見ることは構わねぇけどよ。俺の仲間よりもお前自身を大事にした方がいいぞ。お前がいなくなればリルは1人ぼっちになっちまうぞ。」

それはロジャーの心からの心配だった。これは何もリルの心配だけじゃない。ロイスに向かっての心配が6割だった。何か今のロイスには焦っているように見えたからだ。誰かと重ねているように・・・。

「ああ、ありがとう。」

首から上だけをロジャーに向けそう口にする。言い終わるとロイスは街へと全力疾走した。


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