綺麗に整備されたその街の道には、家に入っていった人達をのぞいて両端に並んでいた。これから真ん中を通る人達の邪魔とならないよう、そして万が一も殺される事がないように。その中には、レイリーとギャバンが買い合わせた食材を持ちながら立っていた。大方、やってくる人達の姿を2人は容易に想像できた。それを証明するかのように、遠くに居るはずなのに自分達を誇張するためか、或いは身分が上で何をしても良いという価値観を持ち合わせそれを当然だと言わんばかりに、大声で身分とは程遠い、下品な会話が聞こえてくる。
「相変わらず、ここは汚いところだえ。下民も街並みも全てが汚いえ。」
大柄な男の奴隷の上に乗り、物理的にも見下しながら歩いているのは頭にシャボン玉をつけたような被り物を被った男の天竜人だった。
「まぁ、そういうでないアマス。ここには、新たなペットを探しに来てるアマス。」
そして、同じく奴隷の上に乗っているのは男の天竜人の母にあたる女性の天竜人だ。
「そうだえ、お母様。でも、なんか並んでるの男ばっかで若い女がいないえ。」
男が周りを見渡して見えたものは、若者の男か老齢の男女しかおらず、女性がいたとしても天竜人がペットにしようとしている若い女性はいない。それを不思議に思ったのか直ぐ傍にいる母に尋ねる。
「本当アマスね。そこの!」
息子に言われ、周囲を見渡すと確かに若い女性が少ないと思った。そこで後ろに着いてきた海兵を顎をしゃくるようにして、周りを指し示した。
「ハッ!」
「この街の若い女を全てだすアマス!」
「え、全て?全てでございますか?」
「そうアマス、早く動くアマス!のろまでグズには要はないアマスよ!」
「分かりました!」
当てられた海兵は、否とは言えず顔中に汗を垂らしながら命令の通りに動き始めた。それが正義だと言わんばかりに他の海兵も天竜人へのある一定の警備の人数は除き街中に散開した。
「はぁ〜。めんどくせぇなぁ〜。」
それを少し遠目で見ながら、ケツを掻き、欠伸をしてそんな事を言うのは最近、大将へと昇格した悪魔の実
「ちょっと!そんな事言わないで下さいよぉ!天竜人様が近くにいらっしゃるんですよ?!」
中将の頃からの慣れ親しんだ部下から叱責が飛んでくるがそれをハイハイと言うだけで右耳から左耳へと聞き流していた。この青キジという男は、基本的に面倒くさがり屋である。海兵としてのモットーがだらけきった正義と掲げてるだけに、それを体現するかのように言われた仕事の5割も仕事をしない。元々生まれついての面倒くさがり屋だがそれに拍車をかけたのが一時期ガープの部下だった事だろう。あのガープの部下になればその厳しさより強くなれる。しかし、この男は大将になれるだけの力量をもち合わせているのでその厳しさをものともしない。そのおかげでガープのお気に入りにもなった。そのせいか、ガープの横にはいつもクザンがいた。自由奔放で我儘なガープの横にいれば、元々の性格も相まってだんだんとダメ人間へと成長していく事は想像にかたくない。
「分かってるよ。だけどな、俺はただサカズキの野郎に擦り付けれなかった事を悔やんでんのよ。」
「何にも分かってないじゃないですか!」
また飛んでくる叱責をどこ吹く風か口笛を吹きながら天竜人の後へと歩いていった。
「おいおい、アイツ、大将ってよばれてなかったか?」
耳を澄まして聞いていたギャバンがあのアフロでやる気が無さそうな奴が大将だった事に驚きを隠せず横にいるレイリーに話しかけた。
「大将が変わったとは新聞で書かれてたとはいえ、此処に来ていたとはな。」
それを聞いたレイリーも驚きが隠せなかった。ただレイリーが驚いていたのは怠気のクザンにじゃなく、大将という高い地位を持った海軍の兵士が居ることにだった。
「それ程、あの天竜人が上の地位の奴等って事かよ。」
「一介の天竜人なら、中将か少将で十分だからな。若しくはただの我儘かどっちかだろう。」
嫌味たらしく言ったギャバンを肯定するかのようにレイリーは言う。レイリーはシャボンディ諸島に住んでいるため天竜人を嫌という程、目の当たりにしている。下に降りてくる天竜人の中には先程の様に大将を引き連れて降りてくる天竜人は居らず大抵、中将クラスの海兵か少将の海兵5人程で守られている。天竜人同士に地位があるのは当然の様に考えつく。海賊、海軍、革命軍、王国、商人といった組織には必ずと言っていいほど上下関係が存在するのだから上の地位であろうとそれに際限はない。しかし、日頃から見ている天竜人を考えればただの我儘とも思えてしまう。何故なら、''天竜人だから''と言う理由で済まされる程にそういう振る舞いを昔からして来たからだ。
「我儘って、彼奴らは我儘の権化じゃねぇか」
「それを言うならうちの船長もだがね。」
「ちげえねぇ。」
身近な人に重ねたのか、そう言って2人は海軍にバレないように笑いあった。ちなみに、レイリーはこう考えているが海軍大将が天竜人に着くようなキッカケになったのはロジャーのせいだ。突如復活したロジャーを危惧した海軍が今までは中将や少将で足りていた護衛を、ロジャーの存在を認知した五老星が万が一の為にと大将を護衛につけたのだ。ただ、護衛つけたとはいえ大将達にロジャーの相手が務まるとは、はなから思っていない。あくまで天竜人が逃げるまでの時間稼ぎとして置いたに過ぎないのだ。しかし、なぜ急に大将が護衛に着くのか天竜人達は知らずにいた。ロジャー復活を知っているのは五老星や海軍上層部のみで天竜人や他の市民、海賊には秘匿にされているからだ。そんな事は露知らず、護衛の厚みが増した事に天竜人達は喜んでいた。
━━五老星達の会話
「まぁ、大将を護衛につけたと言ってもそうそうロジャーの奴に遭遇はせんやろう。」
「島の数は数えきれない程存在するからな。」
「其れこそ、遭遇する確率なんぞ何百万分の1といった確率だろうしな。」
「大将がいるのだ、遭遇したとしても此方から彼奴の怒りの琴線に触れなければ問題はなかろうて。」
「とにかく、今は気楽にすれば良い。」
「「「「そうじゃな。」」」」
「お待たせ致しました、天竜人様!此方に並んでいる若い娘たちがこの島にいる全ての若い女性にございます。」
若い海兵が言った通り、天竜人の前に並んでいた女性達は18から35歳までで若い女性特有の可愛さや歳が少し上の女性達は、大人の色気が溢れ出していた。間違いなくそこには、見る人が2度見する程の美女達が数多く並んでいた。
「時間をかけすぎアマスよ!」
30分の時間をかけて集められた女性達。この島はそこまで大きく無いとはいえ、30分という時間は充分な程に迅速だった。
「も、申し訳ございません!」
ただ、謝る事しか出来なくなりそこに居た海兵達は跪き、怒りが収まるのを待つしかなかった。しかし、そこで1人の海兵が息子と言われた天竜人が何も言わない事に首を傾げた。恐る恐ると顔をあげ窺ってみると当の本人は俯いて体をプルプルと揺らしていた。海兵は、歓喜によるものか、はたまた何か機嫌を損ねたのかと顔を青くした。その答えをこれから答えるように俯いていた顔をバッといきよいよくあげ、怒声を響き渡せた。
「な、な、なんだえこれは!!」
「ひ、ヒィッ!」
「わちしが命令したのは、若い女と言ったえ!」
「え、、」
そこに並んでる若い女性がたくさん居るだろ?と多くの海兵は頭の中でそう思った。それは、海兵に限らず集めさせられ心ここに在らずといった女性達や諦観している女性、顔を青くする女性などそこに集められた女性、全員が思った。集められた美人達は、街の評判が良い人達ばかりなので皆が?を頭の上に浮かべている。例にもれず最初から居た若い男性や年老いた男性にレイリー、ギャバンでさえ含まれている。
「なんだえこれは!わちしは、、」
天竜人が並んでいる女性達を指さしながら続けるその言葉にそれ以外の人々は静かに待ち、誰かがゴクンッと喉を鳴らし音がやけに大きく響き渡った。そして語られる言葉.....
「10歳を越えた女は全員、年増だえ!!!」
「「「「…………」」」」
海兵全てを怒鳴り散らすようにその言葉を言い放った。固唾を呑んで見守っていた周りはそれになんの反応も示さず静まり返っていた。その静まり返った空気を一言で表すなら、唖然と表すだろう。しかし、そのなかで母親だけは息子の性癖を知っているのか堂々としていた。いや違う、放心して虚無的な目をしていた。
「え、あの、え?もう一度申しても貰ってもよろしいでしょうか?」
聞き間違えたのでは無いかと、無礼を承知で聞いた海兵がいた。そして、それはその場にいる人々の総意でもある。
「2度はないえ!とっととそこに並んでいるババア共をわちしの視界からどけるえ!」
「………」
「そして、早くわちしの要望にそった幼児を連れてくるえ!それに、わちしは幼い子供であればそれでいいのだえ!そこに男も女も関係ないえ!」
「は、ハイッ!(聞き間違え、じゃ、ない、のかッ!?)」
もう何も言うまいと海兵は、次の行動に移った。そして、その行動をしている海兵達を含め、街の人々、レイリー、ギャバンが頬っぺを限界まで膨らませて笑いを耐えていた。その体は小刻みに震え何とか耐えようとしていた。ある人は皮膚をつねり、またある人は奥歯を噛み締め、無礼と分かりながらも後ろを向き笑うのを我慢した。
「おいおい、マジか!」
そして、大将青キジも笑うのを堪えていた。人の性癖は人それぞれなので兎や角言うわけもない。ただ、その息子と言われる天竜人は極悪面で厳つい顔をしていた。髭を不精にはやし、目つきが鋭い。とても子供に好かれるような顔では無い。挙句の果て、顔全体を覆うシャボン玉のようなもので守っているため情報が一向にかんけつしない。最初会った時でさえ、青キジは笑いを堪えていたのに、新たにロリコンという情報まで増えたのだ。これは、笑う。本当に笑う。ただ、青キジや海兵達が笑いを堪えることができたのは、偏にその人が天竜人だった事だろう。そう義務づけることで耐える事に成功したのだ。だが、それは直ぐに瓦解する事になる。
「ブフッ!ワハハハハハハハハハハ!!!」
大声で、それも地面に体を寝かせ平仮名のくの字のように曲げて大笑いする男がいた。何を隠そうロジャーだ。やはり心配になったのかリルの父親の後を寝ているリルを起こし一緒に追いかけたのだ。そして、父親に追いつき3人揃って先程の会話をレイリーとギャバンが並んでる列の逆側で聞いていたのだ。それをしぎりに所々で噴き出す音が聞こえた。だが相手は天竜人、これはマズいと民衆は噴き出すだけで次々に足を天竜人から遠ざけていた。自分が断罪されるのでは無いかと恐れているからだ。
「何がおかしいえ!」
しかし、それに構う事無く当人の天竜人はロジャーだけを睨めつける。
「その顔で幼児が好きとはな!ワハハハハ!!」
睨めつけられたロジャーはどこ吹く風かと立ち上がり、思った事を素直に口にだした。
「だまるえ!んっ?おい、足元に隠れている可愛い幼女は誰だえ?」
やはり、侮辱されたのかと憤った天竜人がロジャーを怒鳴った。しかし、ロジャーの足元で震えている可愛い幼女を見つけ直ぐに興味はそちらに向いた。
「ん?リルの事か?」
足元で震えているリルの頭に手をおきロジャーは確認した。
「ほぉ〜、リルというのかえ。そいつを直ぐに此方に渡せば今の無礼を許してやる事も構わんえ?どうするえ?」
「渡すって、どうするつもりだ?」
上から目線の言葉に少し語尾を強めに言い放ち、威嚇の体勢をロジャーはとった。仁王立ちして、隙がどこにも無い。
「なに、簡単な事え。死ぬ程愛でてやるつもりえ。」
そう言う天竜人の目は、一般的にいる天竜人の様ないやらしい目を向けて居らず、その目は孫の目を見るような優しい目つきだった。
「いや、そん……」
「(あれ?コイツそんな悪い奴じゃ無いんじゃ…)」
言っている言葉だけを聞けば幼児を手に掛ける危険人物だがその言葉とは裏腹に、リルを見る目や震えているリルを落ち着かせようと体をアワアワさせているのを見てロジャーは気づいた。
「(コイツ、天竜人の癖に普通に良い奴じゃね?特別変なことしようって気が全くしねぇし。悪いことしたなぁ…。)」
そう思ったロジャーは先程笑った事とリルを奪い取ってどうする気かと疑いの目を向けた事に謝罪しようとした。人は見かけによらず、身分によらず。そう思ったロジャーは、威圧した雰囲気を収め真剣な表情になった。ロジャーが謝りの言葉を紡ごうとした瞬間、別の所から発せられる声で遮られた。
「おいおい、何でこんな所にお前さんが居るんだよ…。」
そう言い放った青キジは、先程の笑いを堪えた顔ではなくロジャーを牽制する様な顔つきをしていた。その顔は少し青い。
「ん?誰だか知らねぇが、俺ァそこの天竜人様に用があるんだ。(謝るっていう用がな)」
「それは聞けない相談だ。おい、テメェら!さっさと此処から離れて天竜人様を連れて逃げろ!早くだ!」
血気迫る青キジの仕草に他の海兵はたじろいだ。命令される言葉を理解するのに一時の時間が必要な位に。
「え、?」
「早くしろッ!!」
其れを相手が見逃す訳がないと青キジは知っている。だから青キジと中将5人中2人を中に、中将3人と他の海兵、天竜人の間に大きく分厚い氷の壁を作った。
「天竜人様!此方に!」
ロジャーを見た事がある中将が青キジの言った命令に素早く反応した。大将の青キジでさえ勝てる見込みが無い事を誰よりも知っているからだ。犠牲な少ない方がいい。
「わちしは、リルに用が……。」
「急ぎましょう。ここは危ないです!」
殿を務めた青キジに涙しながら天竜人の2人を船まで走らせた。幸い海岸までは遠くもなく邪魔も入らなかったため天竜人と海兵達は恙無く出航できた。
「なぁおい!ちょっと待てって!」
「おいおい、ここから先には行かせねぇ。」
氷の壁を背に青キジがロジャーの正面を陣取った。
「だからよぉ!」
何かロジャーが言う前に新たな声が両隣から聞こえてきた。
「なんだロジャー、喧嘩か?」
「斧持ってきてねぇから拳で勘弁だぜ。」
「これは………。ホントに不味くなったなぁ。厄日だこりゃ。」
顔に汗をたらしまくる青キジ。
「いや、だからよぉぉ!」
まだ何かを言うロジャーをおき、戦いの火蓋は切って落とされる。
天竜人は嫌いな筈なのに愛着が湧いてしまった……。