「(こっちの人数は3人、でもってアッチも3人か。)」
青キジは、これから始まる戦いに冷や汗が止まらなかった。海軍側には、大将の青キジ、中将2人がいて、一見人数だけで見れば相対する数が同じで互角のように映るだろう。しかしこの内、戦闘経験豊富な中将は1人しか居らずもう1人は少将から上がってきたばかりの青二才である。とても望めるような戦力では無い。これが、一般的な億超賞金首の相手だったならば、問題は無かった。むしろ過剰戦力ともいえる程だ。しかし、ひとたび相手がロジャー達相手ならば心許ない。いや、心許なさすぎると青キジは思っている。センゴク元帥から聞いた話によるとあの海軍の英雄と言われているガープがロジャー相手に簡単にあしらわれたと聞いていた。自分が尊敬してる上司であり、自分が大将になったからと言ってガープに勝てるかと言われればハッキリとNoと答える。それ程までに強い上司のガープでさえロジャーには簡単にあしらわれているのだ。
「なぁ」
海軍側に緊迫した空気が流れるなか、駆け出そうとしていたレイリーとギャバンを宥めたロジャーが場を落ち着かせるように青キジへと話かけた。
「なんだ?(ここから海岸までは5分もかからない。走っていくなら更に時間は短縮され、その時間は約3分といったところか。)」
下手に戦うよりもロジャーとの会話に耳を傾けて、天竜人が逃げ切れるよう時間稼ぎをした方が得だと青キジは瞬時に思った。話すように青キジは見せて、ロジャーの一挙手一投足を見逃さぬようにと何時でも反応出来るよう全神経を研ぎ澄ませた。
「俺ァよ、只あの天竜人に挨拶(謝意)の一言を言ってやりてぇだけなんだ。」
これはロジャーからの本心だった。ただ、ごめんの一言を言いたい。それだけの事だ。
「へぇ、挨拶ねぇ。なら後で俺が言っといてやるから、ここは手を引いてもらえねぇか?」
一縷の望みをかけて、青キジとしては手を引いてくれる様にロジャーへと頼んだ。もしそれで手を引いてくれるならば余計な心配はせずに済む。だが、ロジャーが言い放った挨拶という言葉に青キジの眉毛はピクリと上がった。ロジャー達の後ろで少女の父親と思われる男に抱かれている少女。ロジャーとどんな関係かは知らないが、部下の伝手から聞いた話によるとあの天竜人がその少女に話しかけたと聞いた。それがロジャーのどんな琴線かは知らないが十中八九怒りの琴線に触れたのだと青キジは瞬時に悟った。だって天竜人なのだ。失礼な事をする事に関しては他の追随を許さない。だから、ロジャーの言ったようにそれが天竜人に対する''挨拶''なんだろう。
「嫌だ!俺が自分の口から言いてぇんだ。それが過ちを犯した奴(ロジャーの非礼)が相手に行う礼儀(バカにした天竜人に対する礼儀)ってもんだろう。」
「礼儀ねぇ。じゃあやっぱり此処を通す事は絶対にさせん!おめぇら!海軍としての意地を見せつけるぞ!」
やはりかと、交渉が決裂した事に落胆は禁じ得ない。しかし、元からさして期待出来るような事じゃないので直ぐに気持ちを切り替えた。僅かに震えている部下に、自身も鼓舞するかのように言い聞かせ命令を下した。
「「ハイッ!」」
「はぁ~。」
拳を構えて臨戦態勢になる海軍を前にロジャーはため息をこぼした。そんなロジャーに、ギャバンが打開策ともいえなくもない案を話しかけた。
「とりあえず、街への被害は最小限にしてやるぞ。」
「それしかねぇか。リルの街だ、ギャバンの言った通りあまり暴れないようにしとけよ。」
ギャバンは戦う事で起こり得る被害を最小限にするような努力をロジャー海賊団の頃から行っていた。若い頃と年老いた今でもそれは同じで、根が優しく周りを良く配慮する。ロジャーの場合もギャバンとよく似ている。親しい人の住んでいる島であれば多少は配慮する。しかし、レイリーは違う。それが仲の良い相手だろうが無かろうが配慮して戦う事は一切ない。昔からそうだった。レイリーの若い頃?と聞かれたら女と戦闘大好きなヤンチャだったとロジャー海賊団の誰もがそう答えるだろう。ただ、傍から見ればロジャーという変人が居たせいでロジャー海賊団以外からはロジャーの奇行を注意する''常識人''としてレイリーは見える。それは海軍も例に漏れずレイリーの事をロジャー海賊団の中ではまだマシと認知されているほどだ。しかし、レイリーと対峙した事がある者がそれを聞けば、そんな訳ないだろうと鼻で笑っている。対峙した際のレイリーはロジャーに負けず劣らずの鬼だ。なまじ全部の覇気を使えるだけに洗練された全ての覇気を戦う時には常時発動し纏っている。それに加えロジャーに負けず劣らずの戦闘狂。はっきりいって手が付けられない。年老いた事で多少丸くなったように思えるがロジャーと再度出会ったからだろうか、昔に戻りつつあるのだ。あのバレットとも張り合える頃の戦闘狂に。
「といっても、もう既に青キジ君が私達の周りに氷の壁を作った後だがな。」
そうやって、息を吐き、小馬鹿にしたように呟くレイリーにロジャーとギャバンは目を合わせて、小さな溜息をはいた。
「俺が真ん中やるから、あと頼むぞ。」
ロジャーが両隣の2人へと指示をだし、手を氷で纏っている青キジの方へと静かに歩き出す。
「「了解!船長(キャプテン)!」」
青キジとロジャーは、氷の壁で覆われた地面のど真ん中に向かい合っていた。片や厳しい表情で、もう片方が涼し気な表情で立っていた。まだ、戦いは始まっておらず互いに攻撃もしていない。しかし、何故厳しい表情をした青キジがいるのかと問われればそれは、偏にロジャーからとめどなく溢れでる圧に押されているからだ。そんな緊迫した空気の中で先に動いたのは、気力を振り絞った青キジだった。
「''
青キジの全身から作り出されるそのアイス塊は、巨大なキジの形に変わっていきロジャーへと向かっていく。その温度、約マイナス150度。興味本位で指一つだけでも触ってしまえば凍傷になり、その指が操作不能へと変わっていく。指の表面をはじめ、肉、血へと氷が浸透していき骨すらも凍らせていく。その威力は途轍もなく、青キジが今まで出してきた技よりも力強いものだった。ロジャーを相手にしているからか何時も以上に力を振り絞り技が1段階強化されていたのだ。
「おもしれぇ技だ。だが、」
そう口にしながら鞘から愛剣の''エース''をぬく。足を1歩踏み出し、刀身に覇王と武装色の覇気を纏わせ目前に迫ってくる只、デカい氷塊へと縦に剣を振るい黒い斬撃を放つ。
「''
静かな声で呟かれ、繰り出される黒い斬撃。迫り来る、キジの形をした氷塊をプリンをスプーンでとったかのように軽く、嘴の真ん中からキジの胴体、尻尾にかけて真っ二つに斬り裂いた。しかし、それだけでは押し留まらず奥で技を放った青キジの方へと威力の留まることの無い斬撃が、向かっていった。
「ちと、力不足だな。」
「マジかよッ!」
青キジは逃げきれないとすぐさま判断し、態と体を真っ二つに分けてみせた。ロギア系能力者だから出来た事であり、既の所で回避して見せた。
「はぁはぁ……。」
再び体をくっつかせ、額に大量の汗が流れる。青キジ愛用のアイマスクは自身の前の地面に落ちていて、真っ二つに切られている。それを目で見た青キジは驚いていた。アイマスクが切られたことにでは無い。斬撃が通ったあとの地面を見て驚いていたのだ。鉛筆で地面を書いたかのように、幅1cm代の線が浮き出ているのだ。それはロジャーが放った斬撃の後である。何故、そこに青キジが驚いたのか。とても簡単な事である。その線を除いた他の地面が今まで通り綺麗なままだったのだ。
「これは、ないでしょう……。」
ただ1つの斬撃だけであったならば、その威力ゆえ周りにも強い影響を与える。あの世界最強の大剣豪とも噂される鷹の目の斬撃でさえ、その強い斬撃に当たる部分は勿論のこと、近くにいる物も少なからずダメージが蓄積される。この場合、もし鷹の目が斬撃を放っていたのならば他の地面に少なからずヒビや切れ目があっても可笑しくないのだ。しかし、ロジャーの繰り出した斬撃は違っていた。斬撃の周りの地面には台風の目の中に居ると錯覚されるような、静かで風1つ届かないくらいに綺麗だった。これこそが斬撃の極地と言わんばかりに静かな斬撃だった。
「避けたか。まっ、当たってたとしても手加減してたからそれ程ダメージは蓄積されねぇよ。」
ロジャーは、剣を肩に担ぎながらそう、おどけて言ってみせた。
「なんだと!?あれで手加減していたというのか…?」
言われたら言葉を体が、精神が信じられないとばかりに青キジの目ん玉が開かれる。
「おい、ロジャー。まだ、終わってねぇのか?」
「疲れたのなら交代してあげてもいいぞ。」
上からギャバン、レイリーとゆったり歩きながら、青キジと対峙しているロジャーに話しかけた。それぞれの後ろにはボロボロになった中将達がいて、ちょっとした攻防を青キジとロジャーがしていた間に2人の戦いは呆気なく終わっていた。
「「す、スミ、マ、セン……。」」
それぞれ、時間稼ぎをしようとしていた中将達が粘り、体力が尽きる限界まで強く耐えていたが力の差が離れすぎているためか直ぐに終わった。体中に傷や血が流れており、青キジに謝りの言葉を最後に2人は、白目になって気絶してしまった。
「本気で不味い、状況になってしまった。」
名前の通りに青くなった顔でそうぼやく青キジをほっぽり、ロジャーは何ともなしに2人へ話しかけた。
「なんだ、もう終わったのか。終わったんだったら、先に彼奴らの所にいって止めてきてくれねぇか?」
壁の向こうを指でさしながらレイリーとギャバンに言う。
「出来るだけ早く終わらせてこいよ。」
「では、行くかギャバン。」
それを当然だとばかりに了承し、ギャバンとレイリーが背を向けて海岸へと歩き出そうとした。ただ、周りが氷壁で囲まれているためロジャーが剣で壁を壊し、道を作ろうとする。壁の高さが思いのほかある為、そうしないと出れない為だ。幾ら、分厚かろうがロジャーの剣ならばいとも容易く壊せる。それをレイリーとギャバンの2人が分かっていたのか真ん中を開ける。そこへ、ロジャーが剣を振るおうと構えると青キジが3人の前へと割って入ってきた。手を地面におき、体から尋常じゃない程の冷気を纏っている。
「あと少しなんだ!最後にとっておきのぶち込んでやる!」
口から冷たい息を放ち、顔、腕、足といった体の部分が氷へと変わっていく。見るからに途轍もない技を今から放つと言わんばかりに青キジが構えている。
「「「なんだ?」」」
それに少し警戒したロジャー達が構えると、青キジが大声でコレから行うであろう技名を言い放った。
「''
言葉の通り、周りを凍土と化そうと手だけでなく青キジの全身から氷の冷気を放出し地面、果てや周りの酸素分子や窒素、二酸化炭素を無理やり結合させる勢いで気体から氷という固体へと昇華させ、この場全てを満遍なく凍らせようとする。しかし、それは起こらなかった。何故か!
水ではないと周りを凍らせられないから?
否ッ!
地面を凍らせることが出来ないから?
否ッ!
ただ1つ。ロジャーが青キジの技名を聞きそれに一言、ただ一言の言葉を次に言った事が要因である。
「愛す、園児?何をするかと思えば、この期に及んでお前もロリ…」
放たれる技をゴクリと唾を飲み込んで待っていたのに、手をつきカッコイイ体勢で言い放たれた言葉はまさかの、自分はぺドフィリア宣言。ドン引きである。ロジャーだけではない。レイリーやギャバンも顔を引き攣らせて、ドン引きしていた。特に警戒していたギャバンは肩透かしもいい所で、レイリーなんかはドン引きの他に少し肩が震えていた。
「ちがーう!」
青キジは、手を地面からいきよいよく離しドン引きしている3人に思いっきりツッコミをした。とんだ勘違いである。3人を止めるため死に物狂いで技を放とうとしていた。その時に、エイジのイの部分がンだかイだか分からない位に混じった声なのは青キジも認める所だ。そこは百歩譲って良いとしよう。良くはないが。しかし、アイスを何故、ロジャーは愛すと訳すのか。もし、そう訳されてしまえばとんでもない文章へと変わる。市民を守る正義の兵士から一気に真逆の、市民を攻る性義の兵士と移り変わってしまう。
「エイジだ!イだ!ンじゃねぇ!!」
「いや、いいって。あの天竜人もそうなんだから、別に隠すこたァねぇよ。」
すかさず、相手が敵であろうとロジャーはフォローをした。今さっき、同じ様な事で相手を傷つけたばかりのロジャーは、笑うことは無く菩薩のような顔つきで微笑んでみせた。同じ轍を踏むほどロジャーは馬鹿でもアホでもないから。
「い、いや!だからッ!」
「分かった分かった、もう分かったから。そうだな、お前は普通だ!これでいいか?」
ロジャーは心得てるとばかりに青キジの言いたい事をすぐさま理解し、相手に合わせた。あの、自由奔放で鬼と言われたロジャーが相手を気遣い、あまつさえ敵であろうと優しく扱った。
「おまえ、絶ッ対ッ、分かってねぇよなァ!」
なんという皮肉、海賊王が海軍大将を気遣う。文面だけ見れば誰もが信じ難いとばかりに鼻で笑うだろう。しかし、事実でありバカにされてると青キジは思ったが、ロジャーの顔を見ればバカにしている様子もなく本当にそうであると信じている顔だ。もう何を言っても通じないだろう。そう青キジは悟った。年上のおじいさんが孫の我儘を聞き入れるかの如く、幾ら変な理屈を並べようともそうだなと肯定される。それが例え本当の事だとしても、ロジャーから見ればそれは虚勢を貼ったようにしかうつらないだろう。青キジはもう諦めた。そしてこんな押し問答をしている間に、街の中央にそびえ立っている高い時計塔を見れば既に戦いが始まってから5分がとおに過ぎていた。守るべき天竜人は既に出航し安全圏に居るだろう。ロジャー達がいくら頑張ろうともう見えない所まで船が進んでいるのだから。
「まぁいい。そうこうしている間に、守るべき天竜人様は出航し安全圏にいる筈だ。」
「なにィ!」
青キジが言った言葉に驚いたロジャーが大声で驚いてみせた。
「時計を見ろ。もう5分はすぎている。幾ら頑張ろうともう間に合わないさ。」
「だが、こんなに早く船が進むかね?」
レイリーが現実を俯瞰し、風や大気の動きを省みながらハッタリではないかと青キジを疑う。伊達にコーティング屋をしている訳ではなくそういったところが優れているからこその言である。
「そこはほら。俺の能力さ。」
氷を見せながら青キジはおどけて言って見せた。もうするべき事は終わった。ここに捕まえないといけない犯罪者がいるが自分の実力じゃあ到底かなわない。だから、もうやることは無くなったし戦う必要すらも消えた。
「なんだとぉ!!!」
レイリーの言葉を聞き若干嬉しそうにしていた表情が一転、ロジャーの顔は悲痛な事になり、絶叫が街に響き渡った。
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