「よっこら、せっと。んじゃまあ、俺はそこで倒れてる2人を抱えて帰るからもう追ってこんでくれや。お前らとやるのは、はっきり言って体がもたん。」
伸びて、白目剥いている中将2人を肩に担いだ青キジはいそいそと帰る準備を始めた。此処で長居をする程青キジの肝っ玉はデカくない。だらける事をモットーにしているだけあって、ロジャー達の相手は元から相手取りたくも無いし、加えて、今回たまたまロジャーを相手にする事になったが、ロジャーと相対する事で自分がロジャーを相手に戦える程強くも無いことを良く実感したのだ。自分も同僚のボルサリーノと同じ様に、どこか
「はぁ〜〜〜。(落ち込むなんて柄じゃねぇんだがなぁ〜。だからといって大将が強くねぇと部下に示しつかんでしょうに。)」
ロジャー達に背を向けて、海岸へと歩いていく。歩いていく中でとても長いため息が青キジの口から吐き出された。相当落ち込んで居るのが傍から見ても分かる位に少し、どんやりしていた。ただ、醸し出されているどんやりとした雰囲気とは別に、青キジの目は何かを強く決意した凛々しい目をしていた。それはロジャーに負けて、元帥室でロジャーに勝つ事を決意したガープと同じ様な目付きで、青キジが何だかんだでガープに似た、心情が芽生えた瞬間であった。
取り残された3人は海岸へと歩いていった青キジを見ながら呆然としていた。
「さて、どうする?ロジャー。」
ニヤリと笑うレイリーがキョトンとしているロジャーに問いかける。決定権は船長であるロジャーが持っており、船長の指示であればどんな事でもレイリーやギャバンは聞く。ロジャーは直ぐに顔を正し、話し掛けられた所で次に起こす行動の考えを既に巡らせていたのか、決定事項とばかりに己の考えを語ろうとする。
「さっきから、後ろで聞いていれば………。」
しかし、そこに待ったがかけられた。それは、そばにいたレイリーでもギャバンでも無く、ロジャー達の後ろでリルを両手でおんぶした状態で立っていた、リルの父親ロイスだった。肩がプルプル震えており、顔が俯いている。そして、バッと顔をあげたと思うと、リルを抱えているにも関わらずロジャーを掴みかかってくる勢いで尋ねてきた。その目は、恐ろしさ怖さよりも目の前で存在する筈のない事を見て、幻を見たかのようだった。
「あなたの名前がロジャーって本当ですか?!それに、お隣のおふた方の名前がレイリーとギャバンだなんて。」
ロジャーという名前は、この世で生を受けている者なら必ず1度は耳にする。この世で唯一、
「言ってなかったか?俺の名前はロジャー。ゴール・D・ロジャー。」
ロジャーと聞いてロイスは、目ん玉が飛び出るくらいに驚愕した。だが続けられた言葉を聞いて、頭に?が浮かんだ。D?ゴールドでは無いのか?と思ったのだ。からかわれたのかと感じて、ついていい冗談と良くない冗談があると、咎めようとした時に決定的な言葉が続けられた。
「''海賊王''だ。」
海賊王……。この一言を言っていいのはこの世でただ1人。ロジャー本人だけだ。それを目指して、海賊王と口にする人は何万といるが海賊王だと断言出来るのはロジャー本人だけだろう。隣でそれを聞いていた2人もロジャーと同じくニヤリとしていた為本当の事なのだとロイスは、否が応でも思えた。
「…………。えぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
本の少しの間を経て、ロイスは人生で1番の声量を出したと言っても過言では無いほどに、今度こそ目ん玉を飛び出させて驚いていた。リルは何が起こっているか分からずキョトンとしている。
「と、とりあえず、家に来ませんか?ここだと騒がられますし。」
ロイスは、先程から爆音でロイスの体中に激しく響き渡る心臓の鼓動をできる限り鎮め、落ち着ける環境を自分と共にロジャーへと提供する。幸い、今この場所には、大将の青キジが壁を張ったおかげで市民達はこれから起こるであろう出来事に恐怖か、もしくは面倒事に関わりたくないという気持ちであった為かロジャー達を除いて他に居ない。それ以外にも天竜人といった存在が居たのも大きな影響を与えている。しかし、天竜人やロジャーと青キジが行った戦闘が終わった今、家に入った人や逃げ帰った人々が戻ってくるのも時間の問題だ。
「おう!」
ロジャーは、ロイスの提案を笑顔で了承した。ちょうど話し合いたい事がギャバンにもあったのかロジャーの言葉の次に、ギャバンもまた文句無しと言ってロジャーに続き了承をした。レイリーは言わずもがなである。それを聞いたロイスは、ひとまず安心かと一息ついてから家に向かう道へと体を反転させてから歩き出した。
ある程度の道を進み丘の上に所在する家へと向かうロジャー達。その間でこれといった問題はなく、歩いている途中で父ロイスの腕に抱えられたリルが降りてロジャーと手を繋いで歩いていた。それにロイスは嫌な顔もせずに受け入れているのを見るに、ロジャーが海賊王だと知ったからといって態度を変える気がないのがロジャーにはわかったし、偏見もなく受け入れてくれるロイスにロジャーはとても好感を抱いた。そして街並みを歩き、ちょうど周りの家が無くなり一本道となる街の切れ目の所でロジャーは歩いている方向とは別の方へと体を向けた。リルの手は既に離れており、その手はギャバンが握っている。ロジャーが前に、それに続きギャバンとリル、ロイス、1番後ろにレイリーといった順番で何処から敵が襲って来ても万全の体制だった。止まったロジャー達にロイスは疑問を生じ問いかけようとすると、ロジャーがそれを遮るように周りの家の外壁へと声を荒らげながら言い放った。
「そこにいんのは誰だ!」
声を荒らげたロジャーだったが、それに反して特にこれといった反応は起こらなかった。しかし、ロジャーには人の気配を感じる覇気である見聞色を習得している為、そこに人が居ないように偽っても何処に誰かが居るかロジャーには寸分たがわず理解できている。頭をガシガシとかいたロジャーが警告の声を再びだした。
「右の家に2人、左に3人。おら、出てこい。」
ギクッと言うような声が右の家から聞こえてきた。それに対し左はやはり反応は無かったが息を飲んでいるような気配が伺えた。
「今なら、なんもしねぇから。出てきな。」
少し覇王の覇気を出しながらそう言えば、ようやく観念したのか隠れていた5人がとぼとぼと歩きながら出てきた。右から出てきた1人はゴーグルのような物がついているシルクハットを被り紳士然とした男、もう1人は女性で同じくゴーグルのついた帽子を被っているショートヘアの女性だった。反対の左からは、右から出てきた2人を大きく上回る身長の魚人で黒帯の道着を着ていた。。その身長はロジャー達と同じ位で目線が平行といって良いくらいだ。残りのもう2人は、灰色のコートを頭まで羽織っていて、出て来た全員が同じく仲間だと言う事は誰の目から見ても理解できた。
「滅茶苦茶、気配消すの頑張ったのになんで分かったんだよ……。」
「覇気の範囲外に居たと思うのに……。」
「凄い腕だな。」
自分の位置がバレてブータれる男と自分との力量差を感じ全力で警戒している女性、素直にその力に魅了される魚人と怯えている男2人。
「それで、なんの用だ。」
先に切り出したのは、ロジャーだった。もし戦うのであれば2人を守る必要が出てくるため力を抑える必要が出てくる。ただ、勝つだけならばロジャーにとっては赤子の手をひねる位に簡単だった。しかし、リル親子を守る為にはギリギリ影響が出ないくらいにセーブし、守りを主体とした戦い方をしなければならない。少々手こずるかなと思ったロジャーだったが、その心配は杞憂に終わった。
「いやいや、そういう事をしに来たんじゃねえんだ。ただ話し合いをしようと思って来ただけなんだ。」
戦闘態勢に移ろうとしていたロジャーに急いで訂正を加える、シルクハットの男。顔には汗を滴らせていて、緊張したような面持ちだった。それはシルクハットの男に限らず他の4人も同じで、顔には汗を滴らせている。
「なんだ、そうか〜。ならついてこいよ。俺達もする所だったんだ。」
違うと分かればロジャーに戦闘の意思はなく、あっけらかんとした感じで応えた。剣の柄にそえていた手を離し両手を後頭部に乗せながら、ロジャーは簡単に、相対している5人に背をむけ歩きだした。
「いや、いきなり信じてくれって言っ……。えぇぇぇぇぇ!!俺の言った事、信じてくれんのか!?」
何とか信じてもらおうと頭を捻り出しながら言葉にした男だったが、簡単に信じてくれるロジャーに驚きが隠せなかった。その証拠に手をバンザイしながら、大袈裟に驚いている。ショートヘアの女性や道着を着た魚人、顔が薄らぼんやりとしか見えない男2人も目を見開いて驚いている。
「えっ?それだけなの?!」
たまらず、5人の内で女性かつ1番警戒心が高かった者が動揺しながらロジャーに確認をとった。様々な修羅場をくぐってきたのだろう、自分達から戦闘の意思はないと伝えたのにも関わらず、やはりまだロジャーの言葉を信じ切れないでいた。
「だって、お前ら敵じゃねぇんだろう?」
何馬鹿なことを言ってるんだと言わんばかり、ロジャーは呆れたようにそう返した。
「えぇ。話し合いに来ただけで戦う気は無いわ。」
「なら、良いじゃねぇか。ほら、着いてこいよ。すまねえが、ロイスもそれでいいか?勿論、安全面の方は心配しなくていいからよ。」
顔だけを背に向けてそう言うと、続けてロイスに謝りを入れるような姿勢をロジャーはとった。
「別にかまわないが、その、大丈夫なのか……?」
すると、ロイスはチラッと怪しげな5人の方へ目を向けた。ロジャーが警戒はしないで良いと言ったが、ロイスにはそれを真に受ける程キモはすわっていない。ロイスの言い放った言葉に強い警戒心が伴っていると感じたロジャーは更に安心させるような一言で何とか場をおさめた。それにプラスして完全な信頼よりも相手に多少警戒しているという感情を出した方が両方に得策だとロジャーは思った。ロイスの方には安心が芽生え、5人の方に多少の牽制が入れられるだろう。
「もし、お前らがこの親子に指1本でも手出してみろ。俺は地獄の底まで追い掛けてぶっ飛ばしに行くからな。」
言っている言葉は、とても綺麗とは言えなく安心出来るとは思えない。しかし今のロイスにとっては、ただの綺麗事よりも荒々しくも多少暴力的であろうと守ってくれるという現れをしっかりと聞けただけで、先程よりも安心感が湧いた。
「ええ、分かったわ。」
5人の方になんとも言えない緊張感がわたった。先程の緊張感がなく、のほほんとした雰囲気よりも、こういった多少の警戒心を出される空気の方が5人は慣れている。あまり人を信用しない質なのだろうか5人にとっては多少、周りの空気が吸いやすくなっているようだった。しかし、しばらく経つとロジャーが醸し出したその緊張感は良くも悪くも彼等に影響を与えた。1人はその緊張感に苦手意識を持ち始めたのか先程のような軽い感じを望むような者と、これ位の気迫を常に持って接して欲しいと思うような人達に別れている。そんな奇妙な空気感が漂うなかで、ロジャー一行に怪しげな5人を足した一行は家までの残りの道のりを無言で歩いていった。
「さてと、んじゃあ何処から話すとするかねぇ〜。」
家に着き、四角のテーブルを間に挟んでそれぞれロジャー、ロイス、シルクハットの男、帽子を脱いだ女性4人が座った。ロジャーとロイスは隣同士で反対側に見知らぬ男と女性が座っている状態だ。ロジャー達の後ろにはレイリー、ギャバンとリルがおり、手を出すようなものなら間にいるロジャーを越えなければならない位置となる。その中でロジャーが1番に話を切り出した。
「とりあえず、聞きてぇんだが。あんたら、一体何もんだ?」
目の前に座るシルクハットの目を鋭く見る。その後に隣の女性に目線が移ると、後ろの3人も同じように見て、最後に最初の男へと目線を一巡した。
「それを話すには、最初に一つだけアンタに確認を取らせて欲しい。」
少々、攻めたような質問で強気に出た事にロジャーは驚いていた。萎縮しない男の態度を気に入ったのか口をニヤリとさせながら言葉を続ける。
「へぇ〜。んじゃあ、ロイスも確認と思って聞いてくれよな。俺の名はロジャー。ゴール・D・ロジャーで海賊王だ。もちろん、これは嘘偽りなんかじゃあねぇ。生き返ったとでも思ってくれ。それに、アンタらもその確認がとりたかったんだろう?」
ロジャーが目線をレイリーとギャバンの方へ向き、レイリーとギャバンがロジャーの意図が伝わったとばかりに大袈裟に頷いた。
「(あの、噂って本当なのね。)」
「(こればっかりは俺も信じらんねぇぜ。あの人が冗談半分に言うくらいだったから気楽に来たってのに。)」
5人は、再び顔に大量の汗を滴らせた。先程まで確信半分だった感情が今を持ってようやく体と理性が同一し、相手があの海賊王だという認識に至った。たまらず、それをしっかりと聞いた5人の顔は青色となり、それでも何とか振り絞ったシルクハットの男が口をあけた。
「ああ、遅くなってすまなかった。俺達は革命軍。俺の名はサボ、革命軍参謀総長だ。」
その男は、被っていたシルクハットを脱ぎ目の傷と現れた金髪の髪を顕にしながら自分の正体を明かした。