「っう………!」
頭痛と共に目を覚ました俺は、ギルドの長椅子でユウナに膝枕という状態だった。
軽く頭を押さえながら起き上がる。
「もうちょっと寝てても良かったのに…」
残念そうなユウナの顔を横に当たりを見渡すと既に皆目覚めていた。
「ナイトメアは…?」
俺の質問にソニアが暗い顔をして答える。
「私たちが着いた時にはご主人様が地面で寝ていて、誰の姿もありませんでした」
「お兄様が殺されなかったのが本当に幸いでしたね」
確かに……ゴーストを操っていて相手を眠らせたのに殺さないとは、逃げることが最優先だったって事か…。
「それで、ナイトメアの正体は分かったの?」
「いやそれが、やっぱり仮面を付けてて顔は見えなかったよ」
さて、どうしたもんか…。
対処しなければならないのはナイトメアの操るゴーストとベルの音だ。
どうにかしてこれを防がないと…。
…………大金はたいてやるしかないか。
本当に金がかかる討伐とかやだなー。
「わ、私達は手伝えない…よ…」
皆の方を向くと震え、怯えた顔をしていた。
「もうあんな悪夢はごめんだ…悪いが手伝えない」
「もうマサトが…皆がひどい目に合うところなんて…見たく…ない!」
「お兄様は平気なのですか?」
いや、一応俺も悪夢を見たんだけど…。
「俺のパソコンのデータが全消去されるっていう悪夢を…」
なんかしょうもなかった。
確かに一大事だし悪夢だけど、今の俺には関係ないからなー。
ユウナ以外はぱそこん?と首をかしげていた。
「っていうか、そんな心配いらないよ。俺に心当たりがあるから」
目覚めてから一時間後
この街からさほど遠くない場所にある研究所に、足を運ぶのは二度目だ。
「いらっしゃ…おや?あんたか、こんな時間に。今度は何をしようってんだい?」
前と変わらずボサボサの髪の毛に白衣と眼鏡、そんな女性にナイトメアとゴーストについて相談してみた。
それならいいものがあると言って奥から一見普通の耳栓とポーションを持ってきた。
「このポーションは飲むと三十分間ホートン(幽霊のような実体のないもの)に近寄られなくなるというこの研究所で珍しく成功したポーションさ!」
おお、そりゃすごい!……今珍しいって言った?
「こっちの耳栓はつけると音が何にも聞こえなくなるんだ。何故かというと、この耳栓が自分の周りの空気の振動を抑えるからさ。でももし持ってるベルが特別なやつだったらむりかもなー」
何にも聞こえなくなるって事は指示が出せないって事か。
まあ方法はこれしかないからしょうがないが。
「っていうことで数千万払ってきたから」
「おま……また大金を…!金の使い方が荒いぞ。そんなんじゃ五億なんてすぐだ………すぐ…か?」
「別にいいだろ、他人《ひと》の為に使ってるんだから」
あとはナイトメアの居場所だが。
「居場所なら分かるぜ。この街からそう遠くないところにある廃墟屋敷にいるらしい。ここ最近の目撃情報からルイが絞った場所だ」
それはありがたい。俺は財布から五百ベクタほどを取り出しルイに渡す。
ナイトメアは昼に攻めるのと夜に攻めるのはどちらが効果的なのだろうか?
夜に攻めればバレにくいがベルを鳴らされたら意味がなく、目覚めにくいという欠点がありゴーストにも有利だ。
昼に攻めれば目覚めやすいがバレやすく操られているゴーストは暗い屋敷の中なので行動できるだろう。
「夕方に攻めるのは……」
その言葉を聞いたユウナが少しムッとした後、本当に元ゲームプレイヤ―?と聞いてきた。
「夕方は逢魔時《おうまがどき》って言って、読んで字の如く『何やら妖怪、幽霊など怪しいものに出会いそうな時間』、『著しく不吉な時間』を表していて、昼間の妖怪が出難い時間からいよいよ彼らの本領発揮といった時間となることを表し、昔から他界と現実を繋ぐ時間の境目って伝われてきてるから、この時刻に魔物や妖怪がうごめき始めて災いが起きるって言われてきてるのよ!」
「ってことはホートン系が一番強い時ってことか。黄昏時《たそがれどき》しか知らなかったなー。じゃあ夕方は無しだな」
ゲーム内で夕方にホートン系モンスターがよく出てきたのはそれが理由か。
こういうことはユウナ詳しいなー。
「ゴーストはポーションで無効化できるけど、俺たちの最優先はナイトメアだ。攻撃があたらなかったら元も子もないから、昼になったら行くぞ」
「被害が増える前に今日行っちまうってわけか。皆、準備しろ!」
「「「「「お───‼」」」」」
時刻は正午、廃墟となっている屋敷に冒険者たちが入る。
意外にも日の光が入ってくるため中は明るかった。
「これじゃあゴーストは活動できないな。ナイトメアを探すぞ」
「探す必要なんかないよ」
声の方を見ると階段の上に仮面を付けた人が立っていた。声からすると男だろう。
「さあ、僕の前で眠れ!」
そう言って勢いよくベルを振るが音は聞こえない。
「何にも聞こえないなー。耳栓っていいなあ」
「僕のベルは神器だぞ⁉何故たかが耳栓に防がれる⁉」
そこからしばらくナイトメアがベルを振るも全く効果はない。
作戦はしっかり立ててあるので、俺は複数の冒険者に合図を送る。
「『 』!」
合図を受けた冒険者はバインドの魔法を唱えるはずが発動しない。
どういう事だ?
何かに気づいたソニアが訴えかけてくるが何も聞こえない。
何が言いたい?何も聞こえない!耳栓を外したら………!
…ふと思った。この世界の魔法はどのように発動するのか、と。
スキルと同じで頭で考えただけで発動するのか…?
俺は周りがやっているのを見よう見まねで真似をしていて、声を出していた。
もしもこの世界の魔法が声に反応するものだとしたら………⁉
自分の周りの空気の振動を抑えられたら魔法は発動しない。
俺は、前にルイが言っていた言葉を思い出した。
『メリットだけを聞けば凄くよさそうなものばかりだけど、ちゃんとデメリットも訊いておかないとヤバいことになるからな』
この耳栓のデメリットは………!
魔法が使えなくなることか‼
その瞬間、冒険者たちが次々に倒れていく。
「ハハハハハハ‼効果が出てきたみたいだな!」
おかしい…さっきまで防げたいたのに皆寝始める。
………まさか⁉
デメリットはもう一つあって、効果が短いって事か…!
それに気づいた瞬間、俺の意識も遠のいた。
数時間後、目が覚めるとナイトメアは何かを小声で言っていた。
「起きたか。今回は悪夢を見せないでやった。何故ならその悪夢を現実で起こすんだからな」
現実…?
傾いた太陽の光が屋敷に差し込み辺りをオレンジに染めた。
「……時間だ。逢魔時のな」
ナイトメアの足元にある魔法陣から赤い光が複数出現した。
その光は雄たけびを上げながら鎌を持った実態へと変化した。
「さあ、悪夢の始まりだ‼お前の持っていた妙なポーションは捨てておいたぞ」
そう言ってナイトメアは奥の部屋に向かっていった。
「このゴーストは実態があるし見える。マサト達は行け!どうせ俺らじゃナイトメアを倒せない!ゴーストは足止めしておくから行け‼」
「…分かった。頼んだぞ」
俺達四人は階段を駆け上がりナイトメアを追いかける。
目の前に一体のゴーストが現れ行く手を阻《はば》むがラフィネが片手を前に出す。
「『スパラグモス』!」
ゴーストを消滅させ奥の部屋に走った。
「さっさと寝てろ!」
ベルを鳴らそうとしているところを疾風迅雷で懐に飛び込みナイトメアを押し倒す。
その隙に手から離れたベルをラフィネが音が鳴らないようキャッチする。
「おとなしく刑務所に行きな」
「うるさい!僕が負けるはずないんだ!お前が速くなければ……!くそっ………僕が魔法を使えない訳ないだろ!一人だけでも、一生分の悪夢をくれてやるさ‼」
こいつ…まだ何かする気か!気絶させるしか…………。
「『サンダ…』」
「『ナイトメア』ッ‼」
放たれた魔法は黒いモヤで、ちょうど目の前にいたユウナを覆った。その瞬間…。
「いや…やめて…!この世界の人は優しいの…汚さないでっ…!いや…いや…やめてマサト…やめて‼」
ユウナはその場に倒れこんだ。
ナイトメアに何をしたのか訊こうとしたが俺の魔法で気絶していた。
ナイトメアが気絶したことによりゴーストたちは消滅した。
皆無事に街に帰ってこれ、ナイトメアは刑務所に引き渡し、俺は屋敷に戻りユウナをベットに寝かせる。
「ん……あ…え」
ユウナに大したダメージは無く、すぐに目覚めた。
「大丈夫か?」
「いやっ‼」
顔を覗き込むと突き飛ばされた。
「私はマサトに必要ないんでしょ?そうやって結局私のことイジメて…!」
「何言ってんだよ?何のことだ?」
ナイトメアという魔法は闇属性の上級魔法。トラウマができ、悪夢と現実の違いが分からなくなるそう。
「あっち行って……一人にして。この関係を終わらせないだけありがたいと思いな」
ナイトメアの作り出した俺たちの悪夢はこれからなのかもしれない。
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