「あっち行って……一人にして。この関係を終わらせないだけありがたいと思いな」
唐突にそんなことを言われ、俺たちはその場に固まった。
「ユウナさん、どうしたんですか?相手はお兄様ですよ?」
ラフィネの言葉にユウナは苦虫を嚙み潰したような顔をして続ける。
「そうよ、マサトだからよ。さっさと部屋から出て行って」
どうすることもできない俺はラフィネと共に部屋を出た。
ユウナの事はしばらくはいろいろ詳しいソニアに任せよう。
「お兄様、あまり気を落とさないでください。あれはナイトメアの魔法でそうなってしまっているだけですから…」
「ああ、分かってるよ。ありがとう…でもこのままにしておけないだろ……」
魔法を解く方法を聞き出すため、俺とラフィネは王都にある最重要留置所に向かった。
最重要留置所とは死刑にするには惜しく、人々に大きな害を与えるものが収容されている場所だ。そこにナイトメアは囚われている。
「失礼、冒険者カードの提示をお願いします」
言われるがまま無言でカードを渡すと、受け取った二人の兵士はみるみる顔を青ざめさせた。
「大変失礼いたしました‼まさか王女様とは知らず…!」
「ニートスピーダー様にもとんだご無礼を…」
おい、そろそろその呼び方止めない?自分で言ってておかしいって気づけよ。
「ナイトメアに会いたいんだが」
怒りを抑えつつ兵に従いナイトメアと一枚のガラスを挟んで対面する。
「よう、久しぶり……でもないか」
ナイトメアは仮面を外していて、その姿は人間だった。
「お前のおかげで俺はまずい飯食らいだよ…。で、何が知りたい?」
こいつ、なんで俺たちが────
「何かを知りたがってるか分かるんだって?今はそんなことどうでもいいんだろ?」
「……っ!仲間にかけた魔法の解き方を教えろ」
そう言うとナイトメアは顔をすくめて口を開いた。
「…さあね?あれは魔王からもらった魔法だから解くことはできないんだよ。自分の力で心を開かせるしかない」
こいつも魔王軍の関係者か……。
すると一人の兵士が俺の耳元でささやいた。
「最近なぜか魔王軍の動きが減ってきているのです。このまま情報を引き出してはくれませんか?」
俺は無言でうなずきもう一度ナイトメアに向き直る。
「じゃあこのまま魔王軍について話してもらおうか」
「…このまま情報を聞き出せと言われたか。まあいい、どのみち終わる人生だ。僕が世界を変えられるチャンスだしね。教えてあげるよ」
ナイトメアは情報を引き出せるだけ引き出したら死刑にされるのだろうか?
今までどんなことをやって来たかは知らないけど、いろいろ思うことがある。
「今、魔王軍は驚いてるのさ。一ヵ月も経たないうちに幹部が二人もやられ、一人には逃げられたと来たもんだ。魔王軍は血眼《ちまなこ》になって新たなバグりを探してるけど、そんなに早く生まれないからね…。魔王軍は領地で修行とバグ探しだからここ最近の動きが少ないのさ」
幹部討伐にバグ探しか……。
もう俺たちが幹部を倒しているのは魔王にバレてるんだろうか。そうなると魔王軍から集中的に狙われることになる。
バレてないといいけど、相手にはエティオンがいるしなあ。
あいつの頭はバグり並みだ。
そしてソニアについても大事《おおごと》になりつつある。
いや、魔王軍にとっては最初から大事か…。
「魔王本体の能力については、強力な魔法をほかの者に与え使わせることができることしか知らない。残りの幹部については……二人がバグりで残りが変な特性がついてる。俺が知ってるのはこれくらいかな」
エティオンともう一人バグりが……てか変な特性ってなんだよ。
情報を得た俺たちは屋敷へと戻った。
「ユウナさん、あなたは今ナイトメアの呪いにかけられているんです。だからご主人様が悪いことをした夢を見たんですよ」
ソニアの説明にユウナは納得せず反論を続ける。
「私だってマサトがそんなことやるなんて信じたくなかった!でも事実なんだからしょうがないじゃない!」
ユウナはナイトメアの夢を現実と思い込みマサトを拒絶した。
すると扉が開きマサトが入って来た。
「…何の用?さっき出てって言ったはずだけど」
「ソニア、少しだけ二人にしてくれ」
返事をするとっソニアは部屋を出て行った。
「ユウナ、信じてくれ…俺は何もやってない。ソニアからも聞いただろ?あれはナイトメアの見せた夢だって」
マサトが相手になったことにより、ユウナは激しく反論した。
「謝るのならともかく、そもそも無かったことにするとか最低!あれが夢?それ本気で言ってんの⁉」
ユウナは激高し、マサトのことを突き飛ばした。
「いって……。……思い出してみろよ、一年前の事を。相合傘をしたり、一緒に映画を見に行ったりしただろ。俺にはユウナを必要だって言った!」
その言葉に少し押し黙るが、それでもユウナは信用しない。
「…私もあの時は嬉しかった…楽しかったよ。でもそれはただの幻、マサトは結局周りと同じで、皮を被った化け物だった」
自分で言っていることに気持ちが高ぶっていくユウナ。
このまま本当にごめんと謝った方が良いのかもしれないし早いかもしれないけど、俺はやっていない罪を被る気はないし前科を持つつもりもない。
勢いに乗せられやっていないことをやってしまったと罪を被るのは得策ではない。
「私……マサトなんか……!……大っ…嫌いっ‼」
その言葉と共にバタンと勢いよく扉が開き、ラフィネが入って来た。
ラフィネは涙を流しながら、ユウナの頬をひっぱたいた。
ユウナは何が起こったのか理解できずに叩かれた場所を押さえた。
ラフィネはユウナに向かって泣きながら叫んだ。
「どうしてっ…!どうしてお兄様の事を信じてあげられないんですか…!ユウナさんはお兄様の彼氏さんで……好きな人の事を…信じてあげてくださいよ……!」
その言葉を聞いたユウナも涙を流して反撃する。
「もう…私はマサトの事は好きじゃない!…聞いてなかったの⁉私はマサトの事は大っ嫌いなの‼」
「……大っ嫌いならっ…どうして涙なんか流すんですか…。お兄様はユウナさんの事が好きで!……信じ切っている…私の思いはっ……まだお兄様はユウナさんのことが好きなんですよ‼なのに…なんでっ…えっ…っ…」
俺もユウナも黙ったままだ。ソニアは先ほどから扉の前で立っている。
「……じゃあ、お兄様は私がもらいますからね!…私だって
「………やだっ!マサトはあげない!……私だってマサトが…好き…だから‼」
ユウナがそう叫んだ瞬間、眩い光があたりに広がり、目を開けるとユウナはその場に眠っていた。
「良かった…です。魔法は解けたみたいですね。それじゃあ私は部屋に戻りますので」
そう言ってラフィネは部屋を出たが、俺は追いかける。
「ユウナには明日説明しよう」
時刻は十一時を回ったところ、もう寝る時間だ。
ラフィネが自分の部屋に入るにつれ、俺も後に続く。
「お兄様?どうしたのですか?」
「……ありがとう」
そう言いながらラフィネをハグする。
「お、お兄様、どうしたのですか」
「……ラフィネが俺の事を好いてくれるのは嬉しい、けどごめん。俺に二股は出来ないからさ…」
そう言うとラフィネは悲しそうな顔をしながら。
「分かってます…。私もそんなお兄様が大好きですから…私はお兄様の事が好きな
「あのさ……今日一緒に寝てもいい?」
そんな俺の要求を、快く受け入れてくれた。
月明りしか光がない暗い部屋の中、今回はラフィネの部屋での添い寝だ。
「言っておかなきゃって思ったけど…この前ラフィネはメインはとっておいてあげるって言ってくれたけど実はもう」
「知ってますよ?お兄様たちはこの世界に来る前から知り合いだったのですよね?気づいてますよ」
俺が言い終わる前にそんなことを……え⁉
「ラフィネ、俺たちが…」
「その話はまた今度です。私にとってのお兄様は変わりませんから」
またもや俺が言い終わる前にそんなことを言ってくれた。
今まで我慢していたものが俺の目から溢れた。
「ごめん…俺はっ…!…ずっと怖かったんだ…!でも…強がらないと、俺のせいで…皆が…。しかも…!俺を好いてくれる人がいるのにっ…それに応えることもできない…!」
ラフィネはうんうんと頷きながら俺を慰めてくれた。
「お兄様……大好き…です」
「……俺もだよ」
そして俺は決めた。
「…ラフィネ、これは遊びじゃないし簡単に振りまいてるわけじゃない。ロリコンじゃないし、俺が本気で大好きだからだ。そしてもう…二度と俺はラフィネにしないと思う」
「お兄様…?一体何を──!」
俺は目を閉じてラフィネの唇に自分の唇を重ねた。
その時間は一瞬だったが、どんどん体が赤くなるのが分かる。
ラフィネは驚いた顔をして両手で口を押さえ、またもや目から涙が…。
「ご、ごめん!勝手にこんなことして!」
「ふふっ…違いますよ、嬉しいんです。私のファーストキスがお兄様で。確かに…もう二度とないかもしれないので────」
ラフィネは涙を拭いもせず目を閉じ、俺と唇を合わせた。
その時間は長いようにも短いようにも思えた。
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