「ほら、これで涙でもふけ」
「す、すみません。」
そう渡された手拭いを受け取り涙を拭き取る、そしてその渡した人物の方を見る。そこには少し困りった顔をした瀬戸が落ち着かない様子でこちらを見ていた。
「お前が泣くなんて珍しいな。」
「は、はい。情けない所を見せてすみません。」
「何かあったのか?」
「…あれ?」
そう言えば何故泣いてたんだ?その疑問に思考を巡らすが何故か靄がかかっているようでわからない。特に泣く理由もなかったのに何故なのだろうか?
「どうする、今日は休むすか?」
「いえ大丈夫です。お騒がせしました。」
縁側から立ちそう謝罪する、瀬戸の方は気にするなと言いそれを聞いた矢吹は彼から離れた。すると庭では待っていたかのように岩神が近づいて来た。
「どうしたんだ矢坊、お前が泣きだす何て珍しいじゃないか。」
「いえ自分でもよくわからないんです。ただ何故か悲しくて…」
「無理すんなよ、お前は少し頑固なところがあるからな。倒れる前には休み取れよ。」
「は、はい。わかりました。」
自分の体には何も起こってないのに皆には心配をかけてしまった。いつもの調子に戻らないと、確か今日は特に周回は無かった筈だ。なら今日は少しゆっくり見回ろう。屯所にはさっき岩神がいた庭がありここではよく隊長の同士がよく訓練している。隊士はここから本所の隣にある訓練場で隊長の稽古を受ける。ちなみに自分もその隊長の一人である。
「よお夜船。」
「水卜さん。」
そう少し本所の方を見ていると矢吹に声をかける人がいた。
「どうよ調子は、最近頑張り過ぎて心配されてるみたいだけど。」
「自分はまだ大丈夫ですよ。体調も問題ないですしちゃんと休みもとってます。」
「お、言ったな?なら今日は飲みに付き合え、お前の行きつけの店に一回行ってみたいんだよ。」
「おじさんの所ですか?別に構いませんけど…わかりました。空けておきますね。」
そう聞くと水卜の方はわかりやすいリアクションをして喜んでいる。矢吹の方も苦笑しているが少し嬉しい気持ちもあった。その後二人で少し話別れ入口の広場に出る。するとそこには瀬戸と見知った顔の二人組がいた。
「矢吹丁度よかった、彼女たちがまた聞きたい事があるそうだ。」
その女性とは瀬戸の前にいる人たちの事だろう。二人とも蝶の髪留めがしてあり片方は量の羽柄のような羽織を着ておりもう片方は隊服の上に白い羽織を着ている。二人とも同じような黒い隊服を着ておりその内の一人がこちらに声をかけてきた。
「矢吹君こんにちは」
「こんにちはカナエさん、お元気で何よりです。今日も同じ件でしょうか?」
「そうなのよ、また矢吹君の所で鬼の事件があったらしいいのよ。また情報共有してくれる?」
「そんな事しなくても鬼殺隊の情報だけで十分ですよ。」
そう白い方の女性が遮る、その女性の方はこちらに冷たい目線を向けていた。そこで矢吹は疑問を感じていた。蝶の羽織を着ている人は何故か懐かしい感じがするのだがもう片方の女性の方では少し違う懐かしさを感じていた。こうやって喋るのが何故か懐かしい、いや彼女とはよく喋っている筈なのに不思議な懐かしさがあった。
「…なあしのぶ。」
「な、何ですか?」
その不思議を確かめるために少し接近する。そして彼女の頭上に手を置いてこう言った。
「背縮んだか?」
ブチ
そんな擬音が似合いそうな顔とともにしのぶから蹴りが放たれる。その蹴りは綺麗に矢吹の股間に迫るがそれをギリギリで避けた。
「危ないだろうが!しのぶ、いきなり何なんだ!?」
「それはこっちの台詞です!いきなり私のことを馬鹿にしだすとか何なんですか!?」
「別にそんなのではない、ただ何となくそう思っただけだ。」
「意味がわかりませんが!?」
何故か自分でもよくわからない疑問を口にした矢吹、何故か矢吹もその事を不思議そうに頭を捻っている。しのぶの方は何故そんな事を言われたのかわからずただ彼に向けて怒っている。そしてそれを温かい目で見守っているカナエと瀬戸がいた。
「まあいいです、ともかく情報提供をお願いします。」
詳細を聞いてみると今矢吹が担当している事件でもあった。被害者は34歳男性、24歳男性、26歳女性が夜の街。住宅街の歩道で消えたようだ。三人とも接点が無い事から関係者を襲っていると言う訳ではない、職業がらと言う訳でもなかった。矢吹自身その消えた場所に赴き調べた、特に何も変わっておらず至って普通の歩道であったがその近くの周辺で異様な物があったのを発見した。
「比較的若い人の死体は見つからなかった。だが昨日34歳の男性の死体が見つかった。事件現場から南西24丈(72m)先で見つけた。」
「どうやって見つけたんですか?」
「ここ住宅街周辺で謎の血痕が見つかった、よく見なければ見つけられないような物だったがそれを調べながら見つけたのだ。」
木の枝に少しついた血痕、裏路地のゴミ袋の近くにあった血痕、そして住宅内にあった草むらについていた血痕などを発見した。そのついていた場所はバラバラだったが矢吹はその血痕がついていた場所と事件現場を照らし合わせながら捜索したのだ。この捜索で他の場所の血痕も見つけ出し死体を見つけたのだ。
「血痕があった場所から次に見つかった血痕の場所、そして死体があった場所、その一つずつを中心として円を作る。そしてすべての円が重なったのがここだ…」
矢吹が指した場所はごく最近で空き家になった家だ。その家の事を矢吹は隣に住んでいる人やその知り合い関係を調べて行くとつい最近何故かその家の主人が言えから出て来なくなったらしい。ただ隣に住んでいる人が夜にその問題の家から人が出るところをみかけたと言う証言を得ていた。
「相変わらずすごいわね~。まだこの事件が起こって一週間も経ってないのに…」
「恐縮です。」
「こいつの捜査の腕は確かだからな、これぐらいはまだ朝飯前か?」
「恐らくこれは鬼の仕業だ、鬼にされたのは恐らく事件が起こる14日前。鬼にされてまだ人の襲い方を知らないため状況証拠が残ったようだ。隠れて食べていたようだが逆にそれがあだになったようだ。」
「どうしてこれがまだなれたての鬼の仕業だとわかった?」
「一つ目は選ばれた対象です。特殊な鬼などは同じ対象もしくは特殊な人間を襲い続ける傾向がありますが今回は違います。このため特殊な鬼と言う線は薄れました。
そして二つ目に最初に襲われた人から次に襲うまでの期間が短すぎます。自分と同じ質量の人間を食べる訳ですから一日で食べきれる量じゃありません。例え食べられるにしても事を起こせば何かしらの証拠は残ります。もし襲う数が一つだったらもう少し時間が掛かっていましたが相手が人を襲い過ぎて証拠を残し過ぎたためこんな早い期間で見つかる事ができました。
そして三つ目、これは至極単純です。襲う場所を固定している何て単純すぎるからです。これじゃ見つけてくれと言っているようなものです。」
もし相手が連続で人を襲わず二週間かそれ以上の期間を空け狩りを続けていたらその間に状況証拠等が雨や時間経過によるもので消え、事情調査等の証拠もおぼろげになり見つけるのが困難だったかもしれない。この事からまだ外敵をしらないただの鬼と言う事がわかった。
(いや流石にそんな所見つける奴の方がいないだろ…)
いくら証拠が残ったとは言え文字通り草根をかき分け探す事を実行している人間がいるとは思わないだろう。相変わらずの捜査力に思わず引いてしまう瀬戸、同じ立場に立った時にこんなのが相手だったら最悪と言う他ない。とはそう思っていると矢吹が少し不思議に思ったのかこちらを向いた(そして少しびっくりした。)
「局長、何か気になる所でも?」
「い、いや何も…」
「と言う訳でこんな所かな、何か質問は?」
「私は特にないわ、しのぶは?」
「私も特にありません。ご協力感謝します。」
「んじゃ後はカナエさんたちに任せます。矢吹は鬼を倒した後の事故処理の準備をしてくれるか?」
「またですか、犯人のいない事件の理由作るの大変なんですよ。まあいいですけど…」
「それじゃ私たちは今から鬼を倒すための準備をしますのでここで失礼します。ご協力ありがとうございました。」
そう鬼殺隊の二人は礼を言い残しその場を後にしようとする。そしてそんな彼女たちを見送る矢吹達、そして瀬戸は矢吹の方に顔を向けると矢吹は少し嫌そうな顔をしていた。
「…何故でしょうね、人を助けるために情報提供をしているのに…何故か人殺しの手伝いをしている感じがする。」
「…まあ鬼とは言え元は人だからな…そう思うのは仕方ない。」
鬼になったと言え元は人、その名残が形となって表れている。人は法と言うものを引き同族との殺し合いを抑制した。昔の時代は力が時代であったが今はそれを抑える時代になっている、そのせいか人殺しが普通だった人がいつの間にか人殺しを恐れる生き物になりつつある。それが良い事なのか悪い事なのかはわからない。それは鬼のようにどうしようもない悪の人間がいるためだ。死刑などが存在するのはそんな人間を殺すためだ。
だが鬼は人にとって悪い生き物であるが元の人の事を考えてしまえば同情してしまう。決して悪い人ではない人物が鬼にされている事を考えれば決して気持ちがいい事ではない。矢吹がこの事にあまり乗る気じゃないのはそのためだ。
「これは仕方ない事さ、鬼を殺さないと被害が増える。だから彼らが動くのさ、彼らも人を守るために戦っている。俺たちは法を乱さないために人を抑制する。少し受け方が違うだよ。」
「そうしないとやっていけない、と言うのもありますが…」
「あまり固く考えすぎると駄目だぞ、お前はいつもそうやって難しく考えちまうからな。
これは確かに屁理屈ではあるが別に悪い事ではないんだ。」
「…そうですね。少し考えすぎました。」
人は自分のため、鬼も自分のために戦っている。そして人として鬼は敵であり倒すべき者である。それが例え元人間であっても倒さなくてはいけない。何故矢吹がこうも客観的に見過ぎる癖があるのはまだ人を殺めた事がないからだ。
瀬戸組は基本的に普通の警察機関と同じだが他の組と違って制服が和服の着物でありそして彼らは剣術を習っている。本来廃刀令が行われたこの世で刀を所持するのは禁止されているが隊長各の人間は自身の刀を所持している。とは言え見回りの時や随時腰に差している訳ではなく家の方で飾っているだけである。そして彼らの持つ警棒も多少変わっており警棒が普通のより少し長く鍔がついている。彼らが刀の所持を許されているのは瀬戸が廃刀令を取り締まる人間でありそして刀を持つための免許の試験を行う人であるためであり政府の方から特別に許されているためである。
そして瀬戸たちは人を殺めた事がある、矢吹以外の隊長も同義である。瀬戸たちも殺したくてやったわけではない。自分の命を守るため仕方なくやっただけだ、だから瀬戸たちは鬼の気持ちが何となくわかるのだ。彼らとは手段が違うがけどそう言っておかないとやっていけない、自分を守るためにやるのは当然であり何も間違いではない。
だが矢吹は少し純粋過ぎる、一度うやった悪意について自分を攻めすぎる事があるのだ。人を殺める事を嫌い、怖がる。そして悪事を正し更生させる。そして矢吹は相手の立場になって考えすぎる事がある。客観的に見過ぎる事もある。だからこんなに澄んでいるのだろう。だからこんな言葉が出て来たのだろう。
「ほら今日はどうせおじさんの所で飲むんだろ?あいつら連れてくるからよ。」
「…いいですよ、おじさんも喜びそうですし。」
だからこうして彼らがそんな矢吹を支えているのだ。まだ世の中をよく知らない若者に、幸せに生きてほしいから。
「…何処だ?」
ある少年がいた、手に尖った何かを持ち何かを探すように瀬戸組の本所を回っている。手を前に出しまるで壁を探している。
「見つけた!」
そして少年は壁を見つけてしまった、少年はその尖ったものを壁に刺してしまった。
そして少年は見た。
「な、何なんだこれ?」
そこは地獄のような景色だった。
辺り一面血飛沫によって変わり果てた場所だった。
床には隊士の死体が転がっている。
夜の光が不気味に照らす。
そしてその奥には誰かがいる。
「だ、誰?」
怯えた少年は声を漏らす。
そしてその奥から黒服が出てくる。
手に血塗られた武器を持っている。
「ひぃ!」
少年は逃げ出す。
だがその前に少年の背中から血飛沫が出る。
また一つ転がるだろう。
最後の部分が矢吹が変わった原因です。あまりわかりやすく書き過ぎると誰がわかったのかわかっちゃうため少し雑に書いております。詳しい過去話は別で書きます。