警棒と刀がぶつかりあう、矢吹の連撃がしのびに襲い掛かる。とは言え致命傷は狙わず一時的に動かなくするのが目的なため刀を持っている手と足を狙ってきている。つまり懐にはあまり入られないので防御は容易であった。しかし次の手が早いため気は抜けない。異形の方はそれを黙って見ていた。鬼の方は鬼殺隊がいるためあまり動けないと言うのが本音だろう、だがそれでも矢吹にとっては都合がよかった。警棒で来た刃を受け止める、何故かわからないが相手の方は手を抜いている。だが強い。
(油断はできん。)
鍔迫り合いから攻めに応じる、上段、下から攻める。だがしのぶはそれを避けてみせた。
(やはり警棒じゃしっくりこんな…)
なるべく刀身に近づけてみせたがやはり扱いずらい、流派とは刀を持つことによって成立する。例え棒であろうが何であろうが持てば流派は使えるだろう。だが流派を最大限に発揮させるにはやはり刀を持つ必要がある、刀によって生まれた流派とはそう言うものだ。
上段切り、両手から放たれたそれは銀色の軌跡を作った。まるで三日月、それはただの警棒による反射だが脅威であった。しのぶはそれを後ろに飛ぶことによってやり過ごすがその後に突きが放たれる。それを自身の刀で軌道をずらしそのまま懐に入り横に一閃しようとする。だがそれを矢吹は刀が加速しきる前に脚で止めた。
「っ!?」
(やはり力は弱い!)
そのまま止めた腕を土台にし兜割りを放つ、狙うは肩、しのぶはそれを受け止めたが片手で持った刀なためか押し負けた。だがしのぶは土台にされている方の肩の力を抜き姿勢を崩した。そのため矢吹の兜割りは崩されそのまま肩を内に入れ空振りさせた。警棒は床に激突、木の板に凹みを作りしのぶは後方に下がっり体勢を整える。
(殺気はあるが人を殺すほどじゃない、それに…俺を殺す気はなさそうだ。)
手応えが感じなさすぎる、恐らく後ろにいる標的を殺す気なのだろが…よくわからない。何故私を殺さない?そうした方が早い筈だ、もしかして人殺しに抵抗がある?いやあいつの反応を見る限りそうとは思えない。けど俺に刃を向ける事に抵抗があるように見える。好んでやっている訳じゃない?だがやらねばならないと言う気概は感じる。一種の使命感、矢吹はそれを感じていた。
たった数分でこの洞察力、しのぶが刃を向ける事に抵抗を感じているためその数分での分析を終えられたのだ。一度距離を空けにらみ合う。
「…わからん。」
「なにが?」
「私を殺す気はないのに後ろにいる奴は殺す気がある。あいつを殺す理由を知りたい、友人か?それとも親か?誰かに彼に殺されたからか?」
だが矢吹はそれは違うと感じたが一応の確認だ。
「いえ違います。親は随分と前に死にました。」
「では何故狙う?」
「それをあなたに話す必要はありません。」
そう冷たい返答をされる、余程の事情かそれともただ話せないだけか…だが引かぬわけにはいかない。
(それにしても遅すぎる、岩神さんたちは何してるんだ!)
もうそろそろ来てもいい筈なのに…とは言え本来の巡回経路じゃないから来るのが遅いと言うのもあるがあまり時間が掛かり過ぎると後ろの異人が殺される。こちらは完全に防御に回るしかない、にして相手の方は攻めだ、居合と突きが使えれば簡単に済む話だがそれをすると彼女が死ぬ。それに後ろの奴だっていつ逃げたすかもわからない。これ以上時間を掛ける訳にはいかない。
(利き手の肩を外す、それしかない。)
防御だけでは攻めは受け流せない、攻めを含めて防御と呼ぶ。綺麗に外せば後遺症は残らない、後で先生に見せればいい。
姿勢を低くそして構える、右足は前、左足は後ろに。体は相手から見て横に向け左手は顔の少し後ろ上で手は開き、その開いた手に警棒の柄を当てる。自身が持つ流派、先生から基礎として死ぬほど教えられた流派の心得を体に表す。それを見ていたしのぶはその威圧に押され自身の唾を飲む。
(やはり、ただ者ではない。)
あの時の初対面の時の鋭い眼光、そしてただならぬ気配、普通の人ではないと言うのはわかっていたがあの構えを見てはっきりした。ただの人ではない、瞳の奥に隠された殺気がなによりの証拠だ。手を抜いたらやられる、深く呼吸をする。体が熱くなり五感が研ぎ澄まされる。
お互いの気配が変わり、異人がそのぶつかり合う気におされ萎縮してしまう。何だこいつらは、ホントに人間か?方や鬼殺隊だからこそわかる、だがもう片方は何だ?さっきの歩術と言いこの構えといい何だこいつは、本当にこの時代に生きた人間か?異人の目にはとてもではないがそうは見えなかった。もっと別の時代の、自分はその時代に生きたことはないが乱世に生まれた人物と言った方がまだ納得がいく。こいつが鬼殺隊だったらと思うと…
「…大人しくしとこう。」
異人が今まで大人しくしていたのはこのためだ、ほぼ死人であるにもかかわらず生き物としての本能が恐怖に怯えその場からうごけなかったのだ。だが逃げ出すタイミングを計っているとも言える。目の前で行われている剣技のぶつかり合いを眺めていた。
矢吹の警棒としのぶの刀がぶつかり火花を散らす、お互いに殺す気がないとは言えとてもではないが近づく気にもなれない。しのぶの方も早いと言うのに矢吹はそれを上回っていた。しのぶの刺突が放たれるがそれを最小限の動きだけで避けてみせた。返しに警棒を振るうがしのぶは刀で防いで見せる。そしてまた鍔迫り合いが起ころうとした瞬間、警棒を器用に使い刀をすり抜けさせた。
「!?」
それがわかった時にはもう遅かった、そのまま体を間合いの中に入れ柄で喉を突く。喉に痛みが走り呼吸が止まる、一瞬の硬直、矢吹はそれを逃さなかった。そのまま上段の兜割りをしのぶの肩目掛けて放った。矢吹も殺す気はない、そのため負傷を狙ったものだったがそのためかしのぶは後方に飛び何とか退けた。
「っ!」
急いで呼吸を行い息を整える、まさか鍔迫り合いから抜けられるとは思わなかった。力を抜く感覚、急に刀が軽くなったと思ったら喉元に一撃入れられていた。しのぶ自身も油断していた訳ではなかった。ただ矢吹の技がそれを上回っていたと言うだけだ。
「避けたか、だが次はこうはいかんぞ。」
そう静かにこちらを見ていた矢吹がそう告げる、ただの警棒が刀よりも恐ろしく見える。だがしのぶはそれでも引かず接敵する。
(こんなことしている暇はないんですがね…)
そうも言っていられない、相手がそれをさせてはくれない上に実力もほぼ互角であった。ただの警察だったと思っていたが予想以上に強い。しかも人なので全力を出す訳にはいかない。
「女の子には優しくするものですよ。」
「それはか弱い女性での場合だ、お前はそんな女性ではないだろ。」
「酷い言いようですね、これでも体は弱い方なんですよ。」
「ほお、その割には反応が良かったが?」
しかも人なので全力を出す訳にはいかない。ならば…大きく呼吸をする。そして矢吹目掛けて駆けだす。
(来る!)
矢吹はそれを見て構える、しのぶはそれに構わずそのまま向かってくると矢吹の視界が変わった。しのぶの姿が無数の蝶に変わる。虹色にも見えるその羽根の彩りに思わず見とれてしまう。その時、ある言葉が横切る。
『戦場での油断は死を意味する、覚えておけ。』
三年前の師の言葉を思い出す、その時矢吹は警棒を腰の帯に入れる。視覚は相変わらず無数の蝶がこちらに向かって来る。ならその中心に恐らくあの女はいる。警棒を体の後ろに隠す、腰を落とし目は蝶を捉える。そして蝶がこちらの間合いに入った瞬間、居合を放った。
「っ!?」
思わず集中が乱れた。気づいた時には既に直ぐ横、こちらは真っ直ぐに飛翔しているので避ける事は出来なかった。だがその居合は別の刀によって防がれた。
「なに?」
刀には似つかわしい桜色の刀身、四方に大きく花のように開いた鍔、そしてその持ち主の方に顔を向けた。そこにはしのぶの姉であるカナエが両手で矢吹の居合を受け止めていた。
「しのぶ、あなたは鬼を。」
「っ!は、はい!」
「ま、待て!」
矢吹の静止の声を聞かずしのぶはその場から飛翔し異人に向かう、異人の方はこちらに脅威が来たのを見てその場から逃げ出した。しのぶも構わずその異人を追うため追跡した。矢吹はそれを止めようと後を追おうとするがカナエに止められる。
「待て、殺すな!」
「あなたの気持ちはよくわかります、ですが…あの人は殺さなければなりません。」
「何故!?どんな人間にだって悪行はあろう、だがそれは本人が自覚しないといけないことだ!自分の罪に向き合いそれを認めることで初めてその人間は死を受け入れられる!あいつはまだそれが出来ていない!怖いだけで終わらせる人生など可哀想だとは思わんのか!?」
いずれ死ぬ、例え捕まえたとしても死ぬだろう。だが野放しにする訳にもいかない、自分に出来ること何てただその人の死の恐怖を和らげるだけだ。何があったのか、どうしてこんなことをしたのか、その人間の胸に貯めた物を話せばその人だって多少は楽になれるだろう。それが矢吹が出来る唯一の救いだと…
「…あなたが思っている程、あの人の症状は甘くないのです。」
「症状、やはり患っているのか…なら尚更…」
「治すことも…できないんです。」
そう悲痛の声とともに苦しそうな顔を浮かべていた、それは長年それに耐えていたような…そんな風に見えた。矢吹はその顔を見て何とも言えなくなり黙ってしまう。だが黙って見てみぬふりをする訳にはいかない。
「だが、黙って見過ごすことはできない!」
そう警棒を構えそのままカナエに向かって突っ込む。カナエはただ刀を抜かずその場で動かずにいた。時間はかけてられない、相手を気絶させるだけか抜けられるだけの時間が稼げればいい。歩術を使い相手を惑わす、だがカナエはその歩術に惑わされず矢吹の道を塞いだ。
(やはりただ者ではない!)
やはり初めて見たあの違和感は当たっていた、やはりこの女性も普通の人ではない。あまり時間はかけられないと言うのに…矢吹に焦りが生まれた、武器が警棒と言うのも相まって使いずらいのもある。形状はなるべく近づけたがそれでも本当の刀より扱いずらい。あの鉄の重みがあってこその流派なのだ。
「どけ!どかないと…」
「どうするんです。」
そうカナエの後ろから声が聞こえた、そこにはあの異人を追っていたしのぶがいた。何故ここにいる、そう思った。だがそんなことは頭のいい矢吹なら直ぐに察しがついていた。しのぶが帰ってきたという事は…
「胡蝶しのぶ、あいつは、あいつはどうした!」
そう怒声が飛ぶ、最初に疑問が出てきたのはしのぶが下げていた刀に血がついていなかったからだ。矢吹の心から出た微かの希望だったがしのぶの呆れ顔がそれを物語っていた。
「もちろん殺しました、元からそのつもりでしたので…」
その答えを聞いた途端、矢吹の頭の地が昇って行く。別にその答えが気に入らなかった訳じゃない。その発言をまるで気にしていないような顔をして発言したのが気に障ったのだ。目に血が走りそして手に力が入る。持っていた警棒は手と一緒に震えている。
「っ!」
脚に力を入れその場から前に向かって走り出す、それを真正面から見ていたカナエは予測していない加速に驚き反応が遅れてしまった。逆刃を矢吹に向かって振り下ろすがそれは空を切った。矢吹はこの二人の仲で一番強いと思ったのがカナエだった。そしてカナエも例え不意を突かれたとは言えその目はしっかりと矢吹の肩を捉えていた。にも関わらずまるで残像を切ったかのように矢吹はそのまま通り過ぎていった。
■■流・偽人
そのまま矢吹の歩術によって作り出された残像、カナエが切ったのはそれだった。矢吹はそのまましのぶの元目掛けて走り続ける。しのぶは矢吹の速さに対処するためにその場で構えるしかなかった、そしてしのぶの間合いに入った瞬間突きを放った。矢吹はそれを上段切りで叩き落としそのまま袈裟切りを脇腹目掛けて振るう。だがしのぶはそれを横に呼び回避した。
「っ!」
腕に痺れが残っている、何て威力だ。しかも刀を上げた動作が見えなかった。
「考えごととはな…」
「っ!」
すると矢吹がその隙をついてしのぶの前に立っていた。しのぶは思わず突きを放つが矢吹は歩術を使いしのぶの後ろに立ちそのまましのぶ目掛けて兜割りを放った。だがそれは横から入った刀によって止められた。
「矢坊、お前何してる!」
「岩神さん!?」
それを止めたのは岩神だった、岩神だけではない。カナエの後ろには瀬戸、水卜がいた。
「矢吹、どうしたんだ!」
「おいおいどうしたんだあいつ、あんな顔初めて見たぞ…」
水卜は驚いていた、今まで矢吹は隊の人には怒りの顔を見せたことがなかった。瀬戸や岩神は最初の頃から知っているのでそこまで驚きはしないが久しぶりに見たその顔に思わず驚いていた。
「岩神さん、どいて。」
「どかん、その顔をして放っておいたあるか?」
「だけど…そいつは許せない。」
「話を聞け、いいかそいつらの事をさっき詳しい奴から聞いた。だから説明させる時間を寄こせ。」
その言葉を聞き矢吹の頭が冷えて行く、どういうことだ?何故岩神さんが止める?瀬戸さんも水卜さんも何故こいつを庇う。意味がわからない、どうしてなんだ。今まで俺の頭に血が上った時はあった、だが明らかに人殺しをしている奴の時は止めたことがなかった。何故だ、何故止める。
「矢吹…」
「…局長。」
「お前の気持ちはわかるが落ち着くんだ。」
「……承知しました。」
―――瀬戸組 本部
矢吹は屯所に戻りその場で事情を聞いていた、あの場にいた全員が一つの部屋に集まっておりしのぶたちは部屋の端におり矢吹は机を間に挟んで瀬戸と話し合っておりその様子を直ぐ隣で岩神たちが見守っていた。
「鬼殺隊、人を食べる鬼…」
「そういうこと、俺たちも聞いた時は嘘だと思ったんだが…本当のようだ。」
矢吹は瀬戸から告げられた言葉を聞き耳を疑った。と言うよりかは今聞いた言葉が常識外れ過ぎて理解が追いつかなかった。聞いてみるとあの異人もその鬼だったらしい。様子はおかしいし体も異常だったが鬼だったら言われたら納得もいく、だがホントにそんなことありえるのか?血を吸う死人など聞いたことがない。まるでおとぎ話に出る妖怪、もののけの類、理解が追いつかなかったが何となくは把握できた。
「…それじゃ…あいつは…」
「…死んだよ。」
「殺したんでしょ、あいつが。」
そう指で当人を指す、そう刺されたしのぶはそっぽを向く。岩神はそれを見てため息をついた。
「矢坊…そんなに怒んな。彼女たちも彼女たちなりの理由があるんだよ。」
「理解はできます…ですがそれでも…」
「まあそこまで素直じゃないよな…」
矢吹はいやに法を守る傾向とそして人がどんな奴であろうが守る姿勢がある。そのため法の外で生きる鬼殺隊のことを受け入れられないでいた。瀬戸と岩神はその性格がわかっていたためどう話せばよいか少し迷っていた。どう言おうがあの矢吹が受け入れるとは思わないからだ。
「…まあ正直俺もどうかとは思うけどね。」
「水卜…」
「だからと言って見過ごす訳にはいかないからなぁ。嫌味みたいでごめんね?」
「…いえ、普通の反応ですから。」
今まで静観していた水卜も意見を出した、矢吹も水卜も敵意はないがそれでも少し嫌悪感がある。部屋の空気が悪くなっていく。
「そもそもどうして局長たちは受け入れられるので?」
正直こんな話普通の人間なら頭を傾げるだろう、矢吹がこの事を知ったのはついさっき、水卜の反応を見るに矢吹より先に聞かされた程度だろう。鬼を殺すためにある組織に加わっています何て信じられるどうのこうのの話ではなくまず疑ってかかる方が先だろうに瀬戸や岩神はどうにも疑いもせず落ち着き過ぎている。瀬戸はそれを聞かれて少し頬を掻きながら答えた。
「…実は前から知ってはいた。ある人から聞かされていてな、最初は耳疑ったが現場を見せられた。」
「いつから?」
「ん~一か月前か?」
「…岩神さんも?」
「せや、まあ最初はお前と同じでとっ捕まえようしたんやがな。」
「んじゃ矢吹がこの二人の逮捕を見逃すように言ったのも…」
「この二人が鬼殺隊だからだ。」
「何で話してくれなかったんですか?」
「矢吹が素直に話して納得すると言うのなら話したんだがね…納得させるには現場を見せた方がいいと思ってな。」
百聞は一見に如かず、人の口から聞くよりは一回見た方が早い。むしろ矢吹の性格を熟知している二人にとっては聞かせるよりも見せた方がいいと思い今回の巡回を許したのだ。
「…あの異人の遺体は?」
「…首を落とされたら本来は炭になって死ぬのだけれど、今回はしのぶがやったから残っている筈です。」
「…局長。」
「いつものな、いいよ。言うと思って止めてあるから。」
そう言うと矢吹はその場から立ち上がり局長と岩神、水卜に一礼する。そして部屋の隅にいるしのぶたちの前に立つと袖に手を入れ腹の前に出した。
「…わがままを聞いて下さり感謝します。」
そう一礼をしそのまま部屋を出て行った、それを見ていた瀬戸が大きく呼吸を行う。矢吹との会話で緊張したのだろ前の机にだらしなく倒れていた。
「ホントに胃がいてぇ、怖いよあいつ…」
「けどあいつにしては早く納得したんじゃないか?」
「あれでも客観的に見過ぎる所があるからね、人助けと言う視点納得したんじゃない?」
「そうですかね~今回は仕方なく下がったような感じがしますけど…」
「やっぱり?」
「あの…」
「ん?どうしました?」
「あの子、何をしにいったのかしら?」
それを聞いた三人は少し顔を見合わせたが瀬戸がその答えを出した。
「…遺体の埋葬だよ。」
「埋葬…」
「あいつが逮捕した人間が死んだとき、善悪問わずお墓を作って埋めてるんだよ。」
「犯罪者の墓なんて誰も作ろうとせんからな、それに作った所で誰もお参りに行かん。警察いう立場上あまりでかい墓は建てられんが誰も来ない土地の方で遺体は埋めて埋葬しとる。本人は遺体放棄なんて自傷しとるがな。」
「何故そのようなことを?」
「…わからん、理由を話してはくれん。俺はおろか瀬戸にも話さんのだ。」
「多分、あいつの育った場所が影響しているのかもな…」
「おい瀬戸。」
岩神の声に当てられ思わずあっと間抜けな声を出した。それに喰いついたのはしのぶとカナエ、そして水卜だった。
「わりぃ、理由は聞かないでくれ。」
「…お前のその軽い口はどうにかせにゃならんな。」
(矢吹の育った場所?そういやあいつの出生聞いた事ないな。)
水卜が入ったのは瀬戸が組を設立した後だ、それに矢吹が入ったのは大分後だ。矢吹は昔から飛びぬけた実力があったらしい。そして隊長になったのはその一年後だ。隊にいた時見かけなかったので気にならなかったが今思えばそこまで飛びぬけた奴なのに今まで気づかなかったのは少し違和感がある。異様な技、そして瀬戸の流派ではない別の流派、今思えばどうして矢吹がここに来たのかは聞いていなかった。
「…ちなみにあの人に技を教えたのは誰ですか?」
「…俺たちじゃない、それだけしか言えない。」
「そういうこった。さてそろそろいい時間帯だ。一応事故処理は俺らと合同でいいんだな?」
「はい、ご協力に感謝します。」
こうして一件の事件は終わった、だがこの件によって矢吹は鬼殺隊と深く関わっていくことになる。
「少し予定外のことがありましたが何とかなりましたね…ねぇさん?」
しのぶたちは事故処理の後家に帰路を歩いていた、しのぶは少し予想外のことについての話題を姉に持ちかけるがその姉の方は何やら浮かない顔をしていた。その顔を見て心配したしのぶがカナエに声をかける。
「…ねぇしのぶ、あの矢吹っていう子、不思議な感じがしない?」
「…?何がですか?」
「前に瀬戸さんたちと対峙した時、正直そこまで強くはなかったわ。けど普通の人なんかは相手にならないぐらいの実力はある。ならその組にいるあの子もそれぐらいの実力の筈、けどあの子は恐らく瀬戸さんよりも強いわ。」
カナエの浮かない顔は矢吹の実力にあった、カナエは鬼殺隊の上位に位置する柱に数えられる程の実力者。例え手加減していようが瀬戸位の実力なら何も問題なく対処できるほどの力を持っている。矢吹と対峙したあの時、カナエは動揺していながらも油断はしていなかった。手加減はしていたがそれでも矢吹はカナエを一度とは言え出し抜いたのだ。そしてしのぶも押されていた。明らかに警察に入っている人物にしては以上過ぎる力だ。
「…確か組の長が口を滑らせましたね、確か育った場所が問題だと…」
「えぇ、そしてその場所なんだけど一つだけ…心当たりがあるの。」
「それは…なんですか?」
いつにもまして真剣な顔をするカナエ、そしてそのカナエがあることを切り出した。
「しのぶ、修羅の一家って、知っているかしら?」
見てわかる通りしのぶと矢吹の距離はかなりギクシャクしてます。とは言え今の所一方的に矢吹が嫌っているだけでしのぶの態度あれだけ敵意向けられてたら無理もないです。