「カナエ、柱就任おめでとう。」
「勿体ないお言葉、これもお館様のおかげでこざいます。それで…私を呼び出した理由とは?」
今回カナエが呼び出された理由については心当たりがなかった、柱着任式については昨日やった筈だ。鬼狩りについても鴉を通して伝えられる筈、産屋敷の方は相も変わらない表情をしながら静かに告げた。
「君も柱になった以上この事は早めに伝えておかないと思ってね。今回呼び出したのはそのためなんだ。」
「その伝えたいこととは?」
「…君は修羅の一家と言うのを知っているかな?」
「いえ、存じません。」
修羅の一家、人殺しを生業としている組織。使用する武器も日本刀とまるで昔の侍のように人を切っている。人数も不明、誰が統括しているのもわからない。幽霊のようには現れて仕事を行っては蜃気楼のように消えていく、そのため人殺しと言うことしかわからない。今の時代では存在すら知っている人間が限られているほど影が薄い組織だ。
「その修羅の一家は少し私たちとは因縁があってね、先代の柱の中にはその一家に殺された者もいる。」
「殺された…なぜ我々を狙うのですか?」
「…わからない、亡くなったとは言っても本当に殺されたのかもわからない。だけど先代柱の中には明らかに日本刀で切られた痕があったそうだ。そしてその傷をつけられるのは現状その修羅の一家だけだそうだ。私も先代から聞いただけでよく知らないのだけどね。」
「カナエ、もしその修羅の一家と接触した時は逃げなさい。いいね。」
そう念を押された、その顔からは産屋敷には珍しく顔にシワが寄っており笑顔が崩れていた。
「修羅の一家…あいつが?」
「もしもの話…けど私は何となくそう思うわ。」
(確かにねぇさんを一瞬とは言え出し抜いた…)
警察とは思えない動き、それにカナエの言う通り明らかに普通の人間ではないのは確かだ。もしカナエの言う通りの人間だった場合少し話を聞く必要がある。
「なら本人に直接聞けばいいでしょう。知っているのなら良し、知らないと言うのであればそれでいいじゃないですか。」
「…そうねぇ、けど何だか会いずらいわ…」
カナエ本人としては彼に罪悪感を感じていた。鬼をあまり殺したくないと言う思いは同じだからだ。心の中ではやりたくないと言う考えだが鬼殺隊としてそのような事をする訳にもいかず、そして被害を出す訳にもいかないので鬼を切っている。戦闘では迷いは出さない、だがあまりの迫真の声で思わず迷いが出てしまった。
「しのぶ、あの子は正直よ。」
「…わかってますよ。」
今回は鬼狩りの仕事はない、二人は瀬戸組の屯所に向かうことにした。
瀬戸組の屯所は街の中央にある、昔の刀の流派を受け継ぐ組で組織構造も古臭い。特に目立つのが鍔付きの警棒だ、棒の長さも多少長く刀に近い形になっている。これは今の時代には刀を持つことができない、そのためこのようないびつな物を使っている訳で周りからも不気味に思われていた。だが瀬戸と組の人柄によってその印象は既に無く逆に頼れる存在となっていた。
「どうして刀にこだわるのかしら?」
「彼が武士の家系だから…ですかね。」
瀬戸は元武士の家系、天皇の家系を支えてきた家としてかなりの力を持っていたが時代が変わっていく事によっての意識が変わっていき衰退、そして次期当主である瀬戸家は政治から降ろされた。そして瀬戸 恭司は街に警察署を作りそこで活動をしていった。その道中様々な人と出会い人脈を作っていき少しずつではあるが街の縁の下の力持ちと言われている。
「私たちと似たような人たちなのね。」
「そうでしょうか?」
組織自体はそれほどの規模ではないとは言え名は広がっている。だがそもそも組織内での意識が古いので警察で上と言う訳ではない。とは言え実力は確かで警護の任務を任せられる時がある。かと言って下請けが多くしかも厄介事を任せられる時がある。その時に一番動くのが矢吹だそうだ。
「あの人隊の中でも勘が鋭いらしくてね、この前も私の居酒屋でスリがあった時直ぐに見つけてくれたのよ。」
「そうなんですか。」
「瀬戸さんは人が良くて周りの住民からも人気なんだけどあの人局長だから忙しくてね、矢吹君の場合はよく下町まで見に行く時もあるからここら辺じゃ慕われてるよ。」
「なるほど、ありがとうございました。」
「あの子に用があるのかい?」
「え、えぇそうですが…」
「なら屯所にいるよ、あの子確か今日は訓練指導の日だからって隊員さんも言ってたからね。」
「教えて頂きありがとうございます。今度お暇の時食事をしに来ますね。」
そうしのぶたちは立ち去った、屯所までの道のりは前行ったときに覚えている。にしても事前に軽く調べはしていたから知っていたが随分慕われているようだ。見た時から気づいていたが異様に強い正義感は誰にでも接しきたようだ。彼の情報力の強さもここからきているのだろう。
「私たちの任務に割って入って来たのもそうなのでしょうね。」
「鬼殺隊の情報を掴むくらいだからですからね、すごいわ。」
「前回の件で横やりは入れてくることはないと思いますが性格上見過ごすと言うのはしないと思います。」
「…まるで私たちが悪者みたいだわ。」
「彼は少なくともそうは思っていませんよ。渋々納得してもらったようですから…」
「…何だかんだ言って彼のこと認めてるんだ。」
「…姉さんと似ていますから…」
人を殺したくはない、なるべくなら助けたい。ねぇさんと一緒だ、無理な事を例え戯言と言われようともやろうとする人だ。真面目過ぎる人だ。
屯所には無事に着いた、ここ周辺は警察による治安維持がされているため何の問題なかった。屯所は屋根が瓦で覆われており建物自体も木造で近代化が進んでいる今としては少し浮いており寺のような印象がある。そして隊員たちも上に青い羽織を着ている。昔の新選組のような浅葱色の羽織を思わせるような色だがこれは瀬戸が好きな色だと言うことでこの色のようだ。そして腰にある鍔付きの警棒など異色があるが瀬戸直々の流派の強さか警察としての実力は折り紙付きだ。門の前には門番が二人おり声をかけようと近づいた。
「何用で参ったので?」
「ここの夜船さんに用があって来ました。」
「わかりました、少々お待ち下さい。」
そういうと門番の一人は奥に入って行く、そして数分後戻ってきた。
「今しがた了承を得ました、部屋にご案内しますので私について来てください。」
「わかりました。」
そして二人は門番の一人に付いて行く、中は人が歩く歩道とその歩道を挟むように周りには砂利が敷き詰められている。その砂利の上では隊員たちがおり話をしたり訓練をしていた。その中には前に見た岩神もおりこちらは隊員と雑談をしている。そして屯所の客間に案内された。
「こちらでお待ちください、直ぐに呼んでまいりますので…」
そう言うとそそくさと離れて行った、しのぶたちは部屋に敷かれた座布団の上に座り待つことにした。
「お待たせした。」
だがそんなに時間が経たないうちに矢吹が来た、これはまあ客間の近くで待機していたのでそこまでかからずにすんだ。そしてしのぶたちにお茶を出す。
「粗茶ですがどうぞ。」
「わぁ~ありがとうね。」
そうカナエが出された茶を見つめる、綺麗に濃い緑がありとても粗茶には見えない。矢吹の方はその言葉に一礼をし向かいの座布団に座った。
「それで?今回はどのような件で?」
細められた目から警戒が見られる、矢吹からしたらこちらに来た理由などわからないからだ。局長に会うというのはわかる、だが個人でこちらに来たのは何故だ。その疑問を聞くためにも大人しく返答を待つことにした。
「…単刀直入に聞きます、あなたは修羅の一家の者ですか?」
その言葉を出した瞬間、矢吹の目が大きく開かれた。それと同時に彼女たちがここに来た理由がある程度判明した。しのぶたちも矢吹の反応を見て何か知っていると言うのがわかりどう答えるのかじっと待っている。
「…その名前を何処で?」
「ある人から聞きました、そして私の姉が貴方と対峙してそう思ったと…」
「…悪いことは言わない。あそこと関わるのはやめておけ。」
警告、矢吹の口から出たのはそれだった。それはその存在を知っているからこそ言えること、何も知らなければ逆に最初の方でこちらに同じ質問をしている筈だ。それがわかった途端しのぶが切り出した。
「それは何故?」
「深掘りしようものなら殺される、名前だけで済ませた方がいい。」
「…あなたは何故それを知っているのですか?」
「言ったでしょう、これ以上は知らない方がいい。」
そう振り向かずそのまま告げた、矢吹本人にとってはあまり振られたくない話題だ。そしてこれはしのぶのためでもある。とは言え反応からして知っているのは確かだ、鬼殺隊の今後のためにもその情報は持ち帰っておきたい。何とかして話してもらいたいが…
「話はそれだけか?ならもう行ってくれ、これから巡回だ。」
「待ってください。」
「…まだ何か?」
「知らないのであれば仕方ありませんが知っているのであれば別です、教えてもらいましょうか。」
「ちょっとしのぶ…」
カナエが止めるがしのぶはそれでもかまわず彼に聞く、矢吹の方はただ背を向けており沈黙していた。言いにくいのか、それとも言いたくないのかそれはわからないししのぶにとっては関係なかった。と言うよりかは当然の行為だろう、名前以外何もしらないのは後のためにもよくはない。そのためある程度は回収する必要がある。
「最初にも言ったが君たちのためを思って言っている。あそこには関わらない方がいい。」
「危険だからですか?」
「いいや違う、死ぬからだ。」
その言葉を聞き思わず間が生まれる、それは殺されると言うことだろう。実際に歴代の柱を殺害したであろう人たちなためだろう。彼なりの配慮なのだろうがしのぶには関係なかった。
「別にすべて話せと言う訳ではありません、ただ少し話してもらいたいだけなんです。」
「それを開示した瞬間明日にでも私たちはいなくなる。名前だけ知っていればいい。」
「私たちがあなたの安全を保障すると言っても?」
「あなたたちでは逆立ちしても勝てんよ。」
そうはっきり告げられた、思わず呆気にとられるがそれは構成員の実力を知っているということだ。思っていたより詳しいようだ。
「鬼狩りと言う点でならあなた方の方が得意でしょう、だが人殺しというのであれば私たちはあの人たちの足元にも及ばない。」
「そのことは言っちゃっていいの?」
「これぐらいなら知っていても大丈夫でしょう、問題なのは名を知ること、それだけ言っておきましょう。」
「ではあなたは知っているのですね?」
その答えに返答はなかった。だが何となくわかる、恐らく知っている。そしてその名を知っているのにここにいる。と言うことは…
「あなたはそこに所属しているのですね。」
「……」
「だから死んでいない、それにあの技はそこで習ったものなのでは?」
ただ背を向けているだけで何も喋らない、しのぶの方は返答を待ちカナエの方はオロオロしている。知りたいが無理強いをする訳にはいかない、だが知らない訳にもいかない。そのためしのぶの事を止める訳にもいかなかったのだ。二人の視線が矢吹の背中をじっと見つめている。
「…私は違うさ。」
そう言うとそのまま逃げるように部屋を出て行った、そしてその後に他の隊員が来て出口まで案内された。しのぶの方は険しい顔をしておりカナエの方は一度屯所の方に振り返るが直ぐに戻しそのまま立ち去った。
その日の夜
矢吹は屯所の方で事務処理をしていた、筆を走らせただ黙々と前の紙に作業を進めて行く。だがその顔は少し曇っていた。それはしのぶが放った言葉が矢吹の中に残っているからだ。修羅の一家、自分にとっては複雑な場所だ。自身の師、そして当主たち、今でも殺しの仕事をしているのだろう。
「…知っているのに止めないとはな。」
いや止めないんじゃない、ただ止められないだけだ。私がこうして生きていられるのもただあの人たちの仕事を邪魔していないだけだ。厳密に言えばそれを察知することもできない、私が探った所で後の祭りになるだけだろう。あの人たちの技は異常だ、まるで霞のように掴めず、そして隼のように一瞬で仕留める。どうやって止められない。
無理なのだ、彼らを止めることなど。この世の中で勝てる人間などいない。
「…にしても何故一家の事を…」
余程の事がなければ名も聞けない筈だ、ましてや痕跡などほぼ残さない人たちだ。仕事を依頼する人だってかなり少ない、しのぶと言う女性は誰かから聞いたと言ったが…知りたがっている所を見ると恐らく被害者だろう。とは言え個々で聞いているようには見えなかった、鬼殺隊と言う組織にとって障害となるので情報が欲しかったのだろう。
「あまり固執しなければいいが…」
こちらから喋らなければいいだけの話だ、それに恐らく情報源など自分ぐらいしかいないだろう。彼女たちはあまり上層部の人と関わり合いはなさそうだ。それに鬼殺隊はこちら側の方には疎い、あまり有用な情報など得られないから大丈夫だろう。
「…だが何処で霞の噂を聞くかもわからん。一応見てほうがいいかもしれんな…」
あちらを離れてもうずいぶんと立つ、どれほど情報が拡散しているのかわからない。それに昔と違い今ではほぼ技術が進み情報交換も恐ろしいほど進んでいる。もしかしたら一般の方で噂が大きくなっているかもしれない。そうなってくると彼らの目につくかもしれない。いったん筆を置き席を立つ、そして横に視線を向けると一つの止まり木があった。そこには大きな鷹が止まっていた。60㎝ほどの大きさの鷹が羽根の毛繕いをしていた。翼を広げればその二倍以上の大きさに見えるだろう。その鷹に近づきそのまま頭を撫でる、鷹の方も気持ちよさそうにその手にすり寄る。
「すまないな、あまり働かせちゃ駄目なんだが…」
キューと言う鷹とは思えない可愛らしい声で鳴く、この子はあそこからついて来た。世話をしていたらいつの間にか懐いてしまいついてきてしまった。あそこにしかいない品種だが特別に許された。
「明日少し働いてくれるか。」
顎を撫でるとこちらを見ながらキューと言う可愛らしい声で返事をした。矢吹もそれを見て笑みを浮かべながら撫で続けた。
暗い廊下木の板で作られた廊下をゆっくりと歩いて行く、軋む音を耳にしながらある部屋を目指していく。黒く長い髪は手入れされていないのか少し荒くなっている。だが着物の方はよく手入れされているのかシワ一つない山伏を着ていた。そしてある部屋の前に止まるとその戸を開いた。
「よお大将ってあら?もしかして仕事帰りだった?」
そう声をかけた先には上等な羽織を着た人物が刀の手入れをしていた。綺麗に後ろに髪を纏めておりその少し長い前髪から覗かせた眼光は鋭くまるで獣のようだ。その細く尖れた眼光がその山伏の人物に向けられた。
「勝手に部屋に入るな、何回言わせる気だ?」
「いいじゃないか、少ない同僚なんだからそれぐらい許してよ。」
「なら少しは気を利かせろ。」
「つめてぇな相変わらず…ちょっと今日機嫌悪い?」
顎に手を当て前かがみでそう告げられた、それが癇に障ったのかその眼光がさらに鋭くなった。
「おおこわ、もしかして元弟子の事と何か関係あるの?」
ふと動きが止まる、それを見て山伏の男はやはりとにやけた。
「…何故知っている?」
「やっぱりな、夜船の奴が鬼狩りとひと悶着あったそうだ。」
「潜りから聞いた。あの馬鹿弟子め、大人しく犬の仕事をしていればよいものの。よりにもよって鴉の横やりをしおって…」
まるで子供を叱るように伏し目で呟いた。だが直ぐに隣から聞こえる苦笑に思わず目が鋭くなる。
「まあいっちょ前に正義感強い子だったからな~、まあお前の仕込みのせいで嗅ぎつけたんじゃないか?」
ニヤニヤしながらその人物の失敗を突きつける。矢吹の師であるこの人物は彼の才能を見て自身の技を教えた。次期候補であるため技の教育は必須だった。暗躍、消歩、剣技、そして情報収集力、自身でも驚くほど吸収力だった。だがその精神だけはどうにもならなかった。
「勿体ないよな~、良い腕だったのに…」
「もうすでに追い出し後だ、今更どうこう言っても無駄だ。それよりもあいつが口を滑らせたら不味いな。」
こちらの所在を知られるのは不味い、仕事に差し支える。ただえさえ人殺しと言う今では異質になりつつある仕事なので日の目を浴びる訳にはいかない。
「あの子がそんな簡単に喋るか?そんな事したら俺たちが来るの知ってるだろ?」
「まあしないだろうな、だが絶対とは限らん。ここを追い出して随分立つ、子供だった分心境が変わっているかもしれん。」
彼らは異常者だ、そのためかなり幼い時に追い出したので一般の日常で過ごして変わっていると考えるのは至極当然だった。彼らは非日常で過ごしてはいるが一般の常識は捨ててはいなかった。これは相手を分析するためにまず相手の立場になって考えた方が予想がしやすい。大したことがない人間はそんな物は必要ないが大きな仕事を引き受けた際の心理戦は必要だった。真向から仕掛けてくるのなら負けはしないが今どきの人間の場合撤退することが多いため行動予想は必須能力でもある。今の矢吹状況はよくわかっていない、そのためもしかしたら口を滑らせる可能性があった。
「もう少し信じてやれよ。お前の一番弟子だろ?」
「もう弟子ではない…ただの子供だ。」
そう言うといつの間にか手入れが終わった刀を鞘に戻し刀掛けに置く、そして山伏の男の方に振り向いた。
「明日、俺が見る。必要であれば…流す口を無くせばいいだけだ。」
そう狼のように尖った瞳は山伏の男を睨む、男はそれに対してため息を吐いていた。
何やら主人公はいわくつきの模様、そのためその事については矢吹は消極的です(と言うか関りたくない。)。