「はぁ」
日が昇り風も心地いい昼に縁側で炭次郎は悩んでいた、ため息を吐き暗い顔を浮かべ縁側に座りながら外の景色を眺めている、塀の白い壁ではなく上にある青空を見ながら自分の悩みを吐き出した。
「あれから数日、夜船さんとギクシャクしたままだ、誘っても断られるし見つけようとしても何故か見つからないし…嫌われる事はしてない筈なんだが」
炭次郎が悩んでいるのは矢吹の事であった、あれから親交を深めようと話しかけたり食事に誘ったりしているのだがそのことごとくを矢吹は断っているのだ。それが炭次郎に以外と効いているようでその事でしょげているようだ。
「どうしましたか?」
「あ、おばあさん」
そう後ろから声を掛けてきたのはここの女将さんだった、近くにあった戸を開けられ部屋の中で正座をして座っていおり炭次郎の方は縁側から立ち上がって女将の方に振替って一礼をする。
「おはようございます」
「はいおはようございます、今日はどうなされましたか?」
「実は夜船さんを探しているのですが…見かけていませんか?」
それでも夜船を探しているのが炭次郎らしいが昼間だけはどうしても見つからないのだ、お得意の鼻を使っても何処に行ったのかわからず宿の中を探しているのだが遭遇する事がないのだ。
「夜船様ならよく外にお出かけになられます」
「外にですか?」
「はい、ここから離れた所に藤の花に囲まれた少し広く開けた場所があります。昼間はよくそこにお出かけになります。」
「そうなんですか!ありがとうございます!」
大きく一礼で返しそのまま振り返って走り出した、女将さんの方はそれを見届けると戸を閉め立ち上がり廊下の方に消えていった
いつもの服装に着替え森の中を歩いていく、別の藤の花の匂いを頼りにしながら木々の中を抜けていくと綺麗な色をした木が見えてきた
「見えた!あれだ」
藤の花の木々を抜け中に入っていくと古く腐り落ちた家が見えその横に数本の普通の木が生えている、緑の葉を咲かせそれがたまに落ちていく光景の中に静かに立つ隊服を着ていない中には隊服と同じ黒、上には灰色の着物を着た矢吹が静かに立ち尽くしていた、腰にある刀の鞘を軽く握りただ前を見つめ続けている
「……」
炭次郎はその様子を見て何故か近づけなかった、ただ矢吹は何かを待っているのは感じた、そして木から散った葉が風に煽られながらそれが矢吹の方に落ちていく。それが矢吹の直ぐ後ろに落ちようとした時矢吹が動いた。振り返り様に抜かれたその刀は音を置き去りにし炭次郎が認識したころには既に切った後の構えで終わっており落ちて来た葉の方は綺麗に二つに分かれて落ちていった
「…ん?」
矢吹は静かに息を吐き残心を解くとようやっと炭次郎の方に気づくと何故か顔が引きつった、その炭次郎の方はと言うと目をキラキラさせながら矢吹方に熱い視線を送っていた
「すごいです今の技!!まったく見えませんでした!!」
「あ、あぁ…」
何故か賞賛の声を浴びせられそれに驚き少し引いてしまう、恐らく純粋にすごいと言う感じからきた言葉なおだろうが熱意が強くこういうのには慣れていないため押されてしまう
「今のはどういう技なのでしょうか?」
「居合術だが…」
「居合…鱗滝さんから聞いた事はありますがここまで早いとは思いませんでした」
「そ、そうか…」
矢吹の方は取り敢えず刀を収め向かって来る炭次郎の方を向く、数歩前にいる炭次郎の方は早速聞いてきた
「今の何の修行ですか?」
「…見ての通り居合の鍛錬だ、自然に落ちて来た葉を居合で切り落とす。私の主軸は居合だからな」
「そうなんですか…自分もやってみてもいいですか?」
「別に聞かんでもいいだろう…好きにやるといい」
矢吹はその場を離れ炭次郎は鞘から刀を抜き構える、そして大きく深呼吸をし落ちてくる葉を待ち構える。そして目の前に落ちて来た葉に向かって刀を振るうが葉は刀に当たらず刀に煽られて宙を舞った、その後も何回か同じような事を繰り返したが葉を切る所か当たりもせずただ刀を勢いよく振っていただけだった
「当たらない…難しいな」
少し息切れをしながら心を落ち着かせていく、さっき見た矢吹の動きから考えると恐らく速さが足りないのっだろうが今のが自分の最高速度だ
(なら…)
大きく息を吸い構えを取る、そして前に落ちていく葉に向けて呼吸の技を繰り出す
(水の呼吸 壱ノ型 水面斬り!)
まずは壱ノ型である水面斬りを放った、刀に水流が発生しそれが前にある葉に向かって振られる。だがその刀は刃に当たらず葉を撫でるように通り過ぎた
(足りない…速さがどうしても足りない、雫波紋突きならいけるけどそれじゃ駄目だ)
突きではなく斬る事が大事なんだ、突きなら確かに空気の流れが少なく刺す事はできるだろうがこれは鬼の前では主力には使えない、威力があり尚且つ速度がある刀を振るう必要がある。どうすれば…
「…力が入り過ぎだ」
「え?」
思考を巡らしていると家に背を預けている矢吹が声を掛けてきた、そして家から離れ炭次郎の方に向かって行き数歩前で止まった。
「…葉のような空気の抵抗を受けるような物を切る場合は腕力より瞬発力が求められる、あまり考えすぎると変に力が入るぞ」
葉や紙のような物を空中で切るとなると物体を振った際に出る空気の流れに乗って煽られる前に”それを超える速度で刀を振るう”必要がある、そうなると善逸なら可能であろうが工夫で攻める炭次郎にとっては少し難しい
「帯刀をしていない状態でそれをするにはまず焦らず落ち着く事だ、心を落ち着かせ周囲に目を配る、そして目標が入ったら余計な事は考えるな、それを切る事だけを考えろ」
「切る事だけ…」
「そうだ、余計な事は考えず目の前に入った物体にだけを見ろ、余計な考えや疑問は体の脱力を乱す…」
ボクサー等は相手の弱点に最速の拳を入れると言う事で対峙している時は余計な力は入れずチャンスを伺う、この時に力を抜いておくのは最初から力を入れてパンチの動作に移る時力を入れて筋肉を固定しているため出だしが遅いのだ。格闘技で基本的に筋肉に力を入れる時は対象に攻撃が当たる瞬間だけ、それは剣術にも言える事で力を入れる時は刀が対象に当たる時が最も隙が少ない
「なるほど…ありがとうございます!」
それを聞いた炭次郎は言われた通り全身から力を抜いていき神経を研ぎ澄ませる、目に入るのは綺麗な自然の光景であり耳に入るのは風に煽られ鳴る葉の擦れる音とその風の音だ。そのまま集中した状態で力を抜いていき脱力を作る…後は待つだけだ
(余計な事を考えず…)
今できる最高のリラックス状態、はたから見るとまるで前に人がいるかのように静かに対峙をする剣士に見えた。
ただひたすら待つ、静かに待ち機会を伺う
まだだ
まだ
今
その時には既に刀は振るう動作に移っており余計な事は考えていなかった、ただ目の前に落ちて来た葉を視界に入った瞬間疑問を浮かべずただ葉に向けて振り終えた
「っはぁっ!!」
それを終えた瞬間汗が滝のように出てきた、肩で息をして熱くもなっていないのに何故か汗が出てくるやつを手で拭き取る。
「…惜しかったな」
そう声をかけた矢吹の視界には肩で息をする炭次郎に切れていない葉が地面に落ちていた、それを確認した炭次郎はその場に腰を落ち着けため息を吐いた
「駄目だったか~」
「いや…初めにしては悪くなかった、ただ振るう最中に余計な事を考えてしまったな」
「そうですか…でも次は斬ってみせます!!」
「今日はもう休め、お前かなり神経研ぎ澄まで過ぎて疲れ果てているだろう、あまりやり過ぎると疲労で倒れるぞ」
むしろ聞いてできたのが矢吹にとっては驚きだった、聞きかじりでできた技で未完成だったとはいえ”葉は刀に触れていた”ので素質はある、ただまだ緊張が見られたので以外と速度が無かったのはそれが原因だろう
「にしてもすごいな夜船さんは、汗一つかかないでやるなんて」
「一発撃って疲れてはもともこうもないからな、なれれば何とかなる」
「鱗滝さん教えてもらった水の呼吸もいいですが矢吹さんの居合の速さもすごかったです、これは居合の呼吸と言うのですか?」
「そんな名前ではない」
その直ぐに来た返答からは何故か圧を感じた、炭次郎はそれに驚き口ごもってしまい矢吹の方は内心しまったと後悔しておりその後悔の念を誤魔化すように背中を向けられた
「少し休んでから帰るといい、夜遅くまではいないように」
そう言い終えた矢吹はその場から姿を消し何処かへ行ってしまった、炭次郎の方はさっきよりも深いため息を吐きながらその場に寝っ転がる、今日も青空が綺麗ないい天気だった
あの後宿に戻った炭次郎は自分の部屋に戻った後夕食が来るまで部屋で休んでいた、部屋の壁に体を預けていると禰豆子が元気のない事を気に掛けたのか炭次郎の頭を撫で始めた、それを見ていた伊之助や善逸の方もそれを気にしているのか二人で話し合っている
「どうしたんだ?樺次郎の奴は?」
「何でもあの強面の上司と何かあったようだよ、物好きだよね~あんな怖い人と話す何て僕じゃできないよ」
「何だと!?あの真っ黒野郎に会ったのか!?何でそれを言わなかった!?」
すると突然伊之助が突然善逸に掴みかかり善逸はそれに驚いている
「あの野郎は何処だ!!」
「知らないよそんな事!ていうか会って何するんだよお前!!」
「決まってんだろ!!戦うんだ!」
「だから隊士同士の対立はご法度だって言ってんじゃん!!また怒られるよ!?」
「んなの知るか!!俺の股間を蹴ったみたいにあの野郎の股間を思いっきり蹴り飛ばしてやるだけだ!!」
「だから御法度だって言ってるだろ!?お前ホントに人の話を聞かないよな!?」
「こらやめないか伊之助!!また傷が開くぞ!!」
謎の喧嘩が始まりそれに気づいた炭次郎が止めに入った、伊之助はあれ以降矢吹を探しており余程蹴られたのが効いたのか暇さえあれば宿の中を探し回っている、矢吹が宿の中にいないのはこれが原因だろう、そういうやり取りをしていると部屋の戸が開かれた
「お食事をお持ちしました」
「お"!待ちくたびれたぜ!!」
それを聞いた伊之助は飛び上がりさっきのが嘘のように台の前で大人しくしている、善逸の場合呆れ果て炭次郎の方は苦笑いを浮かべながら自分の台に向かった
「あそうだおばあさん、夜船さんは…」
「そちらでしたら自分の部屋で食事をとっております、お声をかけましょうか?」
「あ、いえ大丈夫です」
「そうですか、ではごゆっくり…」
そう言い終えると戸は閉められ女将は退出していき食事をしながらの雑談が始まる、伊之助は相駆らわず素手で掴み上げ食べており味が上手いのか手当たり次第に口の中に放り込んでいく、善逸の方はさっきの炭次郎の方が気になったのか声を掛けて来た
「んで、何だったたの?」
「え?何が?」
「あの上司と何話したのって聞いてんの」
「話したと言うか、技のご指導を受けていたんだ」
「…え?会ってそんなに経ってないのに?」
炭次郎はそれに小さく頷いた、善逸の方は驚いているのか箸が少し止まっていた
「お前度胸あるよな、あの人結構俺らと距離取ってるのに」
「自分から探して見つけたんだ、そしたら自分の呼吸の鍛錬していたから途中で一緒にやってたんだけど…何か言葉選び間違えちゃって」
「何言ったんだよ」
「それが…呼吸の名前を聞いた途端に臭いが変わったんだ」
途中まではそんな臭いはしなかったが呼吸の名前を出した途端に一瞬だけ怒った臭いがした、何故それで怒ったのかは知らないがそれが気に障ったのは間違いないだろう
「随分神経質な人だな、余程自分の事聞かれたくないんだな」
「多分知られたくない事があるんじゃないかな、その中に呼吸があったとか…」
「名前ぐらい別にいいと思うけどな」
人によって聞かれたい事の幅が違う、炭次郎のように心が広い人間の場合あまり気にはしないだろうが自分の領域に入られたくない人の場合だとそれに少しでも入ると不愉快になる人間がいる
「まあ技を教えてくれてるから悪い人じゃないだろうけどきっと自尊心が高い人なんだろうな」
「…そうなのかな」
確かに自尊心が高い人間で人との関りはあまりしない人間なんだろうがあの時指摘していた時はそんな感じはしなかった、優しさと悲しい匂いがして顔の方も少し笑みが浮かんでいた、炭次郎はそれが頭から離れられず善逸との会話を続けた
「……」
矢吹は部屋の中で食事を終えた後また縁側で夜空を眺めていた、今日は雲が多く月が見にくいがそれでもちらりと見える星を見るために眠くなるまで眺め続ける、目は寂しそうに弱く細めため息を漏らし一度下を向いた
「……」
そして手に持ってある小刀をいじりながら見ているとその目がさらに弱くなった、柄の方に『活人』と書かれておりその鞘の方は黒の背景に大きな青い花が書かれておりその周りにはそれから散った花びらが舞っていた。静かに小刀を収め縁側から立ち上がりそのまま部屋の中に入っていく、そして部屋に掛けてあった自身の着物に入れ自身も次の仕事のため今日は寝る事にした
と言う風にこの作品の主人公はかなりめんどくさい人です。ちなみに彼の技が居合なのはちょっと訳があります。