起きろ
何処となく声が聞こえて来た。
起きろ
また聞こえて来た。けど何故か眠たいからまだ寝ていたい。
「いつまで寝てんだ!さっさと起きねぇか!」
その声に釣られようやっと意識が覚醒した。まず最初に見えたのは一面に敷き詰められた砂利と縁側の一部が見える。体を動かすどに砂利が擦れる音と石の感触が体に伝わってくる。
「鬼を連れた鬼殺隊員っつうから派手な奴を期待したんだが…地味な野郎だなおい。」
「うむ!これから!この少年の裁判を行うと!なるほど!」
そして声がする後ろの方に振替ってみるとそこには変わった臭いがした人たちがいた。
「な、何だこのっ!?」
「馬鹿口を挟むな!誰の前にいると思ってんだ!柱の前だぞ!!」
その声を聞いて目の前に立っている六人に目を見る、一番大柄な人は額には横に大きな傷跡があり「南無阿弥陀仏」と書かれた羽織を着ており、もう一人の大柄の人は上には何も羽織っていないが他の隊服と違って半袖で腕が出ており体につけている装飾品の事もあって少し派手な印象が強い。そして真ん中に立っている人は髪の方がまるで炎のような髪をしておりその左右には桃色髪の人と長髪の男が立っている。そしてその男の隣には妹を殺そうとした女性がおり全員こちらを見下ろしていた。
(何だ?柱って誰だ?…と言うかここは何処なんだ?)
「ここは鬼殺隊の本部です。あなたは今から裁判を受けるのですよ。…竈門炭次郎君。」
そう少し優しい笑顔のままそう告げられた。竈門の方は何がなにやらわかっておらず混乱していた。
「裁判を受ける前にまず、あなたがした罪に置いての説明をして…」
「裁判の必要などないだろう!」
「…ん?」
そう炎のような髪をした男が横から割って入って来た、彼の名は煉獄杏十郎。炎柱と呼ばれる鬼殺隊最強の柱の一人だ。
「鬼をかばうなど明らかな隊律違反!我らのみで対処可能!鬼もろとも斬首する!」
そうまったく表情が変わっていない状態で大声そう言われる。
「なら俺が派手に首を切ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。」
そう呼応したのは音柱 宇随 天元が物騒な返事を返した。
(えぇ~、こんな可愛い子を殺してしまう何て…胸が痛むわ、苦しいわ。)
そう心の中で呟く桃色髪の女性恋柱 甘露寺 蜜璃が頬を染めながら告げた。
「あぁ、なんというみすぼらしい子供だ、可哀そうに…生まれてきたこと自体がかわいそうだ。」
そう手を合わせながら涙を流す大柄な男は岩柱 悲鳴嶼 行冥がそう呟いた。
(なんだっけあの雲の形…何ていうんだっけ?)
そうまるで興味なさそうに雲を見つめるのは 霞柱 時透 無一郎が雲の形を見ながら心の中で思い出そうとしていた。
(禰豆子は?禰豆子は何処に?)
「おい、柱が話をしているのにどこを見ている?この御方たちは、鬼殺隊の中でも最も位の高い9名の剣士だぞ。」
そう竈門を抑えている隠がそう忠告する。だが竈門の方はそちらには眼中になく妹の方を探していた。
「禰豆子、禰豆子は何処だ!?善逸…伊之助…村田さん!」
そう周りに声を掛けるが何処にも四人の姿は見えなかった、代わりにその声を遮る声が現れる。
「そんなことより冨岡はどうするのかね?拘束をしていないさまに俺は頭痛がしてくるんだが…胡蝶めの話によると隊律違反は冨岡も同じだろう?どう処分する?どう責任をとらせる?どんな目に合わせてやろうか?…なんとか言ったらどうだ冨岡?」
そう指を差した方向には冨岡がおり何も喋らずただ立っているだけであった。
「まあいいじゃないですか、大人しく着いて来てくれましたし、処罰は後で考えましょう。」
そう言ったしのぶは冨岡から視線を変え竈門に移した。
「それより私は坊やの方から話を聞きたいですよ。鬼殺隊員なのに何故鬼を連れて任務を行っているのか、もちろんこの行為は隊律違反です。そのことは知っていますよね?」
「っ」
炭次郎はその言葉に何も言いだす事ができなかった。
「何故鬼殺隊員でありながら鬼を連れているのですか?ゆっくりで大丈夫ですので話してください。」
炭次郎はその事について説明をしたかったが何故か咳が出て喋りづらい、するとしのぶは持っていた瓢箪の蓋を開け炭次郎に飲ませた。そのおかげか体が軽くなった炭次郎はこれまでの経緯の説明を行う、家族が殺されたこと、そして何故連れているのかと言うのを。
「くだらない妄言を吐き散らかすな、そもそも身内ならかばって当たり前だ。俺は信用しない。」
「あぁ鬼に取りつかれているのだ。早くこの哀れな子供を殺して解き放ってあげよう。」
「そんな、妹が鬼になったのは二年以上前のことで、その間禰豆子は人を食ったりしていない!!」
「だからそれが信用できないと言っている、そもそも人を食っていないからと言ってこれからも食わないとは言えない。」
炭次郎の方も反論したがまともに取り計らっては貰えなかった。
(どうすれば、どうすれば信じてもらえるんだ。)
「おいおい、なんだかおもしろい事になってるなぁ。」
するとまた新しい声が聞こえて来た、そちらの方に振り向くとそこには全身が傷だらけの男がいた。白い羽織の背中には大きく殺と言う字が刻まれておりその目も相まってか威圧を感じさせる見た目をしている。だが炭次郎にはそれは目に入らずその男が持っている箱に目が行っていた。
「鬼を連れた馬鹿隊員てのはそいつかい?…一体全体どういうつもりだぁ?」
そう目をぎらつかせながらその男風柱 不死川 実弥は炭次郎の方を睨みつけた。そしてその後ろから遅れたように隠の隊士と暗部の馬場が出てくる。
「不死川様それ危ないですから下ろしてください!中に鬼がいるんですよ!?」
「大丈夫だ、どうせ出て来れねぇ。」
これは明らかに挑発だ、胡蝶の方も思う所があったのか不死川に注意を入れるがそれを彼は流した。
「鬼が隊員として戦えるだぁ?…そんなのなぁ、一生ありえねぇんだよ馬鹿がぁ!!」
すると彼は自分の刀を抜きそれを手に持っている箱目掛けて刺す。中にいる禰豆子では避ける手段も無くそのまま受ける事しかできずそのまま血濡れの刀が箱を貫いた。それを見た炭次郎は我慢できなかったのだろう。急いで立ち上がり不死川の方を睨みつける。
「俺の妹を傷つける奴は、たとえ柱だろうと許さない!!!」
そう炭次郎は不死川向けて突っ込んでいく、不死川の方も刀を構えて待ち受けるがそれを冨岡が止めに入った。
「よせ!もうすぐお館様がいらっしゃるぞ!!」
「っ!」
その言葉を聞いて驚いて隙ができたのだろうか不死川の動きが止まった。炭次郎が突っ込んできて慌てて刀を振るうも避けられ上空に飛ばれる。炭次郎の方は頭を思いっきりさげ不死川目掛けて頭を振り下ろした。だがその攻撃は横から入られた誰かに止められた。
「!?」
炭次郎はそのまま何をされたのかわからず地面に叩きつけられその周りを数人の隊士で囲まれた。顔は黒い布で隠してあるのでわからないが押さえつけてある方は素顔をさらしていた。
「よせよせ刀なんか抜くな、こんな状態じゃどうにもできねぇよ。」
押さえつけている不破はそう周りにいる隊士に指示を出し刀を収めさせる。そしてそのまま拘束した状態で炭次郎を立たせ不死川の方を向いた。
「不死川様、もうすぐお館様がいらっしゃいます。どうかここは落ち着いてください。馬場、箱を」
そう不死川は舌打ちをしながらも刀を収め箱を渡し柱たちの方に向かった。
「「お館様の、お成りです。」」
そういつの間にかいた二人の子供たちがそう告げた。するとその後ろで開いてある襖の奥から二人の人物が出て来た。一人は顔にやけどのような者を負った人物とそのもう一人は矢吹だった。
「夜船さん!!」
「よせ。」
「で、でも…」
「いいから地面に膝をついて頭を下げろ。さもないと頭叩き割られるぞ。」
炭次郎の方は何がなにやらで落ち着かず軽いパニックを起こしていたが取り敢えずその指示に従い渋々頭を下げる。
「おはよう皆、今日はとてもいい天気だね。空は青いのかな…顔ぶれが変わらずに半年の柱合会議を迎えられた事、うれしく思うよ。」
「お館様のおかれましてもご壮健で何よりです。ますますのご多幸を切に申し上げます。…畏れながら、柱合会議の前にこの竈門炭次郎なる鬼を連れた隊士についてご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか?」
(理性も知性もなさそうだったのに、すごいきちんと喋りだしたぞ!?)
まるでさっきの事が嘘のような言葉遣いに炭次郎は驚いていた、そしてそのお館様と呼ばれた人物が口を開く。
「その事についてはすまなかった、炭次郎と禰豆子については私が容認していた。それを皆にも認めて欲しいと思っている。」
それを聞いた柱たちは表情が固まるが直ぐに立ち直りその事は了承しなかった。それを聞いたお館こと産屋敷は隣にいる白髪の子供に手紙を取り出させそれを一部抜粋だが柱に読み聞かせた。
”炭次郎が鬼の妹と共にあることをどうかお許しください。
禰豆子は強靭な精神力で、人としての理性を保っています。
飢餓状態である事にも関わらず人は食わず、そのまま二年の歳月が経過いたしました。
にわかには信じ難い状況ですが紛れもない事実です。その事につきましては暗部の矢吹殿が確認をしている筈です。
もし禰豆子が人に襲い掛かった場合は竈門炭次郎および鱗滝佐近次 冨岡義勇が腹を切っておわび致します。”
「矢吹、どうだい?禰豆子は人を襲っていたかい?」
「…鱗滝様が住んでおられた近辺で不可解な事件は起こってはいません。それについては私の方で調査済みです。そして人を襲わないのも事実です。それとは逆に鬼であるのに人を守っていました。禰豆子が守ったとされる人物に関しましては私の方で確認ずみですのでご不安があればお申し付けください。会わせる事もできますので直接確認を行う事もできます。」
「ありがとう矢吹…どうかな。聞いての通り禰豆子は人を襲っていないと言う証明は出来ている。矢吹の情報はいつも正確な事は皆もよく知っている筈だよ。」
産屋敷が矢吹を監視役に任せたのはその性格とその口から語られる信憑性の高さだった。柱であれば首を縦には振らず即刻殺していたであろうが矢吹は鬼に対してそこまで執着がないので鬼殺隊の中では客観的に見る事ができる人物であった。そのため禰豆子は殺さず様子を見させ人を襲わせない所を見せ確証を取らせた。そして次にあげられるのは彼の情報の信憑性の高さ、大抵暗部が行った情報収集は的確だ、その近辺で何が起こり何があってどんな人物がいたのか、天気は何だったのか、工事などはなかったか、過去に何があったのか、細かい情報を収集、整理し伝える。その情報が間違っていた事など一つもなく何よりそれらの事は柱にも伝えられる時があるため情報の正確さについては彼らもよく知っていた。そのため彼らもその情報が嘘とは言えなかった。
(お館様が俺に任せたのはこう言う糸があったのか…)
隊の中では浮いているがそれでも他の隊士より情報の信憑性は高い、それに俺の性格上鬼を殺すのに躊躇はした事はないしわざわざ考えた事もない。危険と判断した場合目立った理由が無ければ直ぐ殺すそんな自分が鬼を殺さず監視していたとはいえ殺さなかった、その理由が人を襲わなかったからと言われれば何も言えんか…上手い手だ。そう矢吹は産屋敷相手に舌を巻いた。
「鬼である禰豆子が二年以上も人を襲っていないと言う事は事実であり、その禰豆子のために三人の命が掛けられている。これを否定するのなら、否定する側もそれ以上の物出さなければならない。しかもそれだけじゃない…この炭次郎は鬼舞辻と遭遇をしている。」
それを聞いた柱全員が炭次郎の方を向き矢吹や不破たちも目を見開き炭次郎に視線が集まった。
(うぇ?まじ?)
(あんの馬鹿何故俺に言わなかった!?)
不破は驚き矢吹の方は大きなため息を吐きながら顔を手で覆った。矢吹の方は珠世と会っているので鬼舞辻の事は知っていたがその前にまさか鬼舞辻と炭次郎があっているなど思いもしなかったのであろう。柱の方は動いてはいないがその場で炭次郎に質問攻めを行っていた。すると産屋敷が人差し指を立て自分の口の前に出す、するとさっきまで落ち着かなかった柱たちが急に黙り元に戻った。
「どうやら鬼舞辻は炭次郎に追ってを向けているようなんだ、その理由は単なる口封じかもしれないが、私は初めて鬼舞辻が見せた尻尾を離したくない。恐らく禰豆子の方にも鬼舞辻にとって予想外の事が起きていると思うんだ。…わかってくれるかな?」
産屋敷にどころか鬼殺隊ができてから初めて掴んだ確信に迫る一歩だ、それに矢吹の方でも禰豆子が人を食わないと言う鬼としての以上事態が何故起こっているのかもわからないし追手の事も矢吹は疑問に思っていた。
(それらについての確証は得たい…だが。)
チラリと不死川の方を向くと見るからに納得できていない、そして口を開く。
「わかりませんお館様、人間は生かしてもいいですが鬼は駄目です。これまで俺たち鬼殺隊がどれだけの思いで戦いどれだけの者が犠牲となっていったのか……承知できない。」
すると急に不死川が立ち上がった、それを見た不破は炭次郎を隠すようにし矢吹の方も産屋敷から離れ屋敷からは出ていないが炭次郎の近くで止まる。そして不死川はその場で消えると端にいた馬場から箱を取り上げそのまま自分の腕を切り裂いた。
「うぇ?あれ!?」
(いつのまに!)
「お館様!証明しますよ俺が!鬼と言う者の醜さを!」
そう言うと箱を地面に叩きつけその上に足を乗せる、そして自分の腕を前に出しその箱に血を垂らす。
「おい鬼、飯の時間だぞ。」
炭次郎の方は動きたいが後ろに手を縛られているせいで動く事ができない。矢吹たちの方も静観をしている。
「無理をすることはない。お前の本性を出せばいい、そしたらここでたた斬ってやる。」
「禰豆子!!!」
箱の中から何かを引っかく音が聞こえてくる。どうやら人は襲わないと言っても鬼としての本能を抑えたかは別のようだ。
「不死川、日向では駄目だ。日陰じゃなければ鬼は出てこないぞ。」
「お館様…失礼つかまつる。」
それを聞いた不死川は屋敷の部屋に入りその場で箱を投げ捨てた、そしてそれに近づくとまた刀で箱ごと禰豆子を刺し始める。
「やめっ!?」
炭次郎の方がそれを見て立ち上がろうとした途端伊黒が炭次郎の背中に肘打ちを入れそのまま力を入れ続け止めた。炭次郎の方はそのせいで息が苦しいのか動けないでいる。そしてそのまま刺し続けると不死川がその箱を開けた。するとそこから禰豆子が涎を垂らしながら出て来た。それを見た不破が動き産屋敷の前に立ち部屋の上から暗部の隊士が出て禰豆子を囲み刀を抜いた
「待て」
それを見た矢吹が止めに掛かると暗部の動きが止まった、そして矢吹は産屋敷の方から離れるとゆっくりと禰豆子の方に近づいていく、禰豆子の少し後ろに立ち自身の刀に手を掛ける。
(うわぁわかりやすいほど食いたいって言う顔してる。しかも手から血が出る程握ってるし…矢吹の言う事は信じたいけど大丈夫なのかこれ?)
とは言え矢吹の方もその最悪のパターンを考えているのだろう、そのために自分の居合のエリアに入れているのだ。不破はそれを見て禰豆子が襲い掛かった瞬間切ると言う事はわかっていた。
(不測の事態とは言えやっぱり鬼を入れちゃ駄目だったかね)
矢吹の報告では禰豆子が食わないと言う報告はあったがそれでも食いたいと言う感情があるのならその話があやふやになる。不破としてもここでは大人しくしてもらいたいが鬼と言う存在がよくわからないので嫌な考えだけがよぎってしまう。そんな中何かが切れる音が聞こえた。
「?」
その方向を向くと炭次郎がこちらに走ってくる、どうやら手を結んでいた縄は無理矢理ちぎり伊黒の方も冨岡が相手をしているようだ。
「禰豆子!!」
縁側の方に辿り着きそこに手を掛けそう叫ぶ、兄として妹の命が脅かされているのは怖いのだろう。もはや失いたくない。だけど今の傷だらけの自分じゃ守る事ができない。だから
「夜船さん!禰豆子は本当に人を守ってくれていたんです!!もし禰豆子がいなかったら死んでいた人もいました!自分も死んでいました!!それだけじゃない、禰豆子は…禰豆子はたった一人の家族なんです!!」
あの沼の鬼の時禰豆子がいなかったら?あの下弦の鬼の時禰豆子が助けてくれてなかったら?もし禰豆子が…死んでいたら?感謝の念嫌な予感が頭を通るがそれでも続けた。
「禰豆子の事を信じてあげてください!!お願いします!!」
今は言う事しかできない、見る事しかできないがそれでも何もしないよりはマシだ。あの人は俺もあまり知らない、けど優しい人なのは知っている。止められるとしたらあの人しかいない。禰豆子があの傷だらけの人を襲わなければ問題はない筈だ。
「……」
矢吹は静かに構えながら目の前の存在を見下ろす、年は恐らく14歳、まだ元気で遊びまわり周りに元気を与える子供の筈だ。それが鬼となり今目の前にいる。そしてその兄の声が頭の中で響いていく。別に他人なのだしもはや化け物なのだ殺してもいいだろ。そのための許可は貰っている。不測の事態に備え自分が、そして不破が立っているのだ。前の自分だったら怪しいと思っていたら切っていた筈だ。
(何故だ、切る事をためらっている。)
まだ襲っていないから?違う、鬼を殺すのが今になって怖くなったから?それも違う。可哀想だから?まだ子供の身で鬼にされ不遇な人生に対して憐れみを感じたためか?その考えに行き着くと頭の中で一瞬何かが通った。
『子供は宝だろうが』
(…なるほどなぁ。)
俺がこいつを切りにくいのは恐らく人として見てしまっているのだ、炭次郎たちと比べれば雀の涙ほどの時間であろう、だが人となりは知っている。何をしてきたのかも知っている。その禰豆子が人を守る姿が、兄の隣にいる姿がどうしても幼い人の子供にしか見えないのだ。
『矢吹にいちゃん!あそぼー!』
(…これでは切れんな。)
昔の記憶が蘇りそのせいか切る気が失せてしまった。構えを解きそのまま様子を見届ける。何故だか放って置いてもこの子は襲わない気がしたのだ。すると予想通り禰豆子が不死川の腕から顔を反らした。不死川は驚き炭次郎の方はそれを見てほっとしていた。
「…もう確認はいいでしょう。」
そして矢吹は禰豆子に近づき布を取り出すと禰豆子の着物に着いた血の部分に押し当て頭の上に手を置き軽く撫でる。それを見ていた不破と馬場たち暗部は驚いているのか口を開きポカンとした表情でそれを見ていた。
「…もういいから入ってなさい。」
「うぅ?」
何故そうしたくなったのかわからない、あの時と重ねてしまったのだろうか。だが子供が傷ついているのを見るのは少し嫌だった。禰豆子の方はそれが気持ちいいのか嬉しそうに撫でられている。
「…どうしたのかな?」
「鬼の女の子がそっぽ向きました。」
「不死川様に三度刺されていましたが目の前に血まみれの腕を出しても我慢して、噛まなかったです。」
「ではこれで、禰豆子が人を襲わないことの証明ができたね。」
(これで人安心だろう。)
そして矢吹は手で合図し囲んでいる暗部を下がらせた。不破の方は最初の姿勢から動いておらず馬場の方は不破の隣で産屋敷に頭を下げている。産屋敷の方は炭次郎の方に助言をやっているようだ。
(後は炭次郎次第、俺の役目もこれで終わりか…)
炭次郎と禰豆子の証明は終わった、後は炭次郎たちがその信頼を勝ち取れば大丈夫だろう。任された時最初はめんどくさかったが何故か今少し寂しく感じる。
「はい、連れて行ってくださーい!」
そう手を叩く軽い音が聞こえると同時に部屋の戸が開き隠の隊士が出てきて禰豆子に近づいて行く。禰豆子の方は隠の隠を興味深そうに見ている。矢吹はそれを見てその場を離れようとしたが誰かに着物の裾を引っ張られた。
「うぅ~。」
そちらの方を向くと禰豆子が目を弱そうに震えさせ小さく名残惜しそうな声を上げ矢吹の方を見ていた。どうやら離れるのが嫌ならしく裾を引っ張って止めているようだ。矢吹の方はそれが予想外のようでそれに困っていた。隠の方もどうしたらいいのかわからずその場で止まっておりそれを見ていた産屋敷が助け船を出す。
「矢吹、連れて行ってあげなさい。」
禰豆子が矢吹から離れない以上彼が連れて行くしかない。矢吹は仕方なく頷き取り敢えず彼女に箱に戻るように言うと案外素直に言う事を聞き箱の中に入っていった。そして箱を持ちながら炭次郎を担いでいる隠と一緒に胡蝶邸に向かう事になった。
相変わらず一癖も二癖もある連中だな柱の人たち、矢吹の方も色々あるけどね。