よう相棒。まだ走れるか?   作:藤沢計路

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Report「赤い台風の記録」

ROSSO "RED TYPHOON " MILLENNIUM ― AN UMA MUSUME THAT LIVES BY PRIDE

JAPAN UMA MUSUME TRAINING SCHOOLS AND COLLEGES / 2nd GROUP / 52nd TEAM

 

 ――ロッソミレニアム。トレセン学園第2グループ第52チーム所属。通称"赤い台風"。短距離、マイルのみならず、中距離にも適性を持つ気高きスプリンター。彼女の編み出したツバメ返しで、数々の勝利をもぎ取ってきた。現在はチームメイトたちと切磋琢磨し、打倒ガルムに向けてトレーニングを続けている。

 

 

「あのころの私は誇りに満ちていた。トレセン学園生徒としての威信をかけ、勝利の栄光をこの手に掴むために。……もっとも、それは嫉妬と羨望で出来た歪なものだったがね。奴と、スズカに敗れてようやくその事に気付かされたんだ」

 

 トレセン学園の一角にあるトレーナー室。学術書や資料などが押し込まれた本棚が所狭しと並べられ、古めかしい執務机や賞状などが額縁に収められている。窓から夕陽が差し込み、ハトの群れがそれを遮るように飛び去っていく。それを横目に見ながら、ロッソミレニアムはインタビュアーに語りかけた。取材内容である小倉大賞典から日は浅いが、当時を懐かしむように、そして悔やむように、赤い髪のウマ娘は自嘲的な笑みを浮かべる。

 

「学園最強のチーム、リギルは私にとって拠り所だった。崇拝していたといってもいい。汚すことの許されない、トレセン学園ウマ娘たちにとっての聖域。だからそこに属していたメンバーが私的な理由で脱退したと知った時、私は怒りを覚えた。生徒会長をはじめ、エアグルーヴさんも顔には出さないが動揺していたのが分かったし、何より私を破ってリギル入りしたはずのスズカまでもがあっさりその席を手放した。身勝手だとは分かっていても、決して許すことができなかった」

 

 その話を聞いて、インタビュアーはある話を思い出した。レース前、彼女がチームガルムに対して挑発行為を行い、トレーナーに宣戦布告をはたしたと。思い切って問いかけると、ミレニアムは驚いたような顔をしてインタビュアーを見つめた。

 

「よく知ってるね。まさにその通りだ。当時は奴の存在もあまり知られておらず、あらぬ噂が飛び交っていたような状態だ。私も深く考えず、奴を元凶と決めつけた。尊敬しているスズカたちを憎むより、そちらのほうが都合がよかったからね。誇りも名誉も捨て、チームを抜けた野良犬風情に負けるわけがない。当時はそう息巻いていたんだ」

 

 出会った時から礼節と気品に溢れ、紳士然としていた彼女のものとは思えない本音を聞かされ、思わずインタビュアーがたじろぐ。それを見てミレニアムが苦笑いを浮かべた。

 

「今思うと滑稽に思えるよ。そんな傲慢で抜き去れるほど、ガルムの脚はヤワではなかった。何が違ったのか? まぁどうであろうと、奴のおかげで私も随分違う人生を歩むことになった」

 

 溜息を吐きながらミレニアムが再び窓の外に目を向ける。

 

「あなたは考えたことがあるか? レースとは何か? そこに携わる者一人一人がそれを成しているのだ。だから私はひたすらに打ち込んできた。スズカに勝つための走法を編み出し、リギルのメンバーに認められるほどの実力をつけ、トレセン学園の名誉となるべくターフを踏み続けた。それが私の使命だと感じたからだ。……だから分からなかった。ガルムの連中は自分たちのことしか頭にない。そんな相手になぜ私は負けたのだ? 使命を背負わねば、速く走れるとでもいうのか」

 

 そこでミレニアムは言葉を切る。悔しさと絶望が入り混じったかのような声色に、インタビュアーはレースの負の面を垣間見た。力をぶつけ合い、切磋琢磨し、負けても次に向かって前に進む。ウマ娘のそんな姿を見るのも、観客からしてみれば楽しみのひとつだった。だがその裏で実力差が重くのしかかり、潰されてしまうウマ娘も一定数存在する。誰かが光り輝くほど、その影もまた濃さを増す。

 取材を止めようか? ミレニアムの姿を見ていられなくなったインタビュアーが声をかけようとした直後、ミレニアムが口を開いた。

 

「そう、レースに負けた直後、ずっとそのことが私の頭の中を巡っていた。いつの間にか傍らにはエアグルーヴさんが立っていた。彼女は何も言わず、私をとある場所へと連れて行った。そこは奴と、スズカの記者会見の場だった。何故私をこんなところに? そう抗議しようとした矢先、奴は一瞬私のほうを見て、記者団に対して言い放ったんだ」

 

 ――あなた方から見れば、我々トレーナーやウマ娘の代わりなどいくらでもいる。だから我々は生き残るために全力を尽くしている。レースで叶えたい夢のために、その夢を支えるために、我々の背中を見て夢を持った人々のために。それはどこにいても、どのチームにいても変わらない。自分のために、自分ができることをする。走り、サポートし、戦い続ける。それがレースに携わるトレーナーとウマ娘の誇りであり、使命なのです。

 

「確か、あなたもその場にいたんだったな。素晴らしい! などと絶叫していたのでよく覚えているよ。だがそれも気にならないくらい、私は奴の言葉に感銘を受けてしまっていたんだ。そうだ。元はと言えば私も自分のために走っていたのではないか? リギルのためと言いながら、それは自分の弱さから目を逸らすための方便になっていたのではないか? 自分に尽くすことではじめて、他者に尽くすことができるようになる。だから自らのために成すべきを成す。そのことに気付かされたんだ」

 

 噛みしめるように、刻み込むようにミレニアムは話し続ける。

 

「我に返った時、いてもたってもいられなくなり、私はその場で頭を下げた。これまでの非礼の詫びと言葉への感謝と、色々なものがごちゃ混ぜになってよく覚えていなかったが、奴が頷いていたのは確認できたし、傍らのスズカも笑ってこちらを見つめ返してくれた。そのおかげか、今の私は彼女の友となることができた。無論ライバルであることは変わりない。次は正々堂々、私が私であることの誇りにかけてレースに勝つと、自分と彼女たちに誓ったんだ」

 

 ミレニアムの顔に先ほどまでの影は見当たらない。どこか晴れ晴れとした表情で遠くの空を見つめている。

 

「奴は、円卓の鬼神とは一体何者なのだろうな? 奴からはトレーナーになって数年どころではない。それ以上の貫禄と重みを感じた。まるで歴戦の傭兵のような、そんな存在を見ているような錯覚に陥ったよ」

 

 素晴らしい! そう叫びたい衝動を抑え込み、インタビュアー、乙名史悦子は神妙に頷いた。

 

 




いつも読んでくださる方々、感想を書いてくださる方々、誠にありがとうございます。

冒頭部分の所属を示す英語は雰囲気で書いたので、意味を成していないかもしれません。
書いていて疑問に思いましたが、トレセン学園には一体いくつのチームがあるのでしょうか? 在籍しているトレーナーの数以上は存在しないと思うので、チームに入れずにあぶれてしまうウマ娘がいる可能性もあります。そのあたりの事情をシリウスシンボリのイベントと合わせて考えてみると、色々と興味深い展開が思いつくかもしれません。

今後の話ですが、チームガルムの新メンバーについて悩みだしてしまったため、更新が滞る可能性があります。当初はブライアンと名勝負を繰り広げたあの子一人にする予定でしたが、同世代だとダブルジェットや3幕からなるロマン的オペラもいるので捨てがたい。うまくエスコンと絡められるかどうかなどを考えながら、マイペースで進めていきたいと思います。
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