よう相棒。まだ走れるか?   作:藤沢計路

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JUGGERNAUT「戦力補強選抜計画4101」-2

 彼女との再会はすぐに叶うこととなった。翌日の放課後、ブライアンに連れられた彼女がトレーナー室の応接ソファに座り、室内を興味深そうに見回している。サイファーやブライアンだけでなく、鬼神が興味を抱いたウマ娘をひと目見ようと、スズカやヒシアマも部屋に集まってきていた。

 

「急に呼びたててしまってすまないな。取り敢えずこれでも飲みながら、ゆっくり話を聞かせてくれないか?」

 

「えー! これキャラメルマキアートじゃん! もしかして見た目が子供っぽいって思ったから? これでもレディの端くれなんですけどー!」

 

「そういうものかな? 俺は一応大人だが、こういう甘い飲み物は結構好きだぞ。それにこれは俺の友人から教えてもらった特別なレシピで作ってある。味は保証するよ」

 

「ふーん。じゃあ、いただきまーす。……うわ、何これ―!? 甘いのにコーヒーの味もしっかりする! すごーい♪ こんなの初めて飲んだー!」

 

「喜んでもらえて何よりだよ。流石はホットマキアート・マンハッタンブレンドだ」

 

 上機嫌になった彼女がカップのホットマキアートを飲み干していく。天真爛漫な仕草にサイファーが微笑みながら、心中で黒い青鹿毛のウマ娘に感謝を捧げる。

 

「さて、お互い自己紹介がまだだったな。もう知っているとは思うが、俺はチームガルムのトレーナーだ。近しい人間からはサイファーと呼ばれている」

 

「うん、知ってるよ! 学園じゃ有名人だもんね。リギルから独立して、直後にスズカさんがバビューンって覚醒して! このあいだの小倉大賞典ではミレニアムさんに圧勝してた。あの走り方、すっごいキラキラしてたよね! マヤ、感動しちゃった!」

 

「マヤ? それが君の名かい?」

 

「そうだよ! アタシの名前はマヤノトップガン! ちょっと長いからマヤかマヤノって呼んでいいよ」

 

「……そうか、トップガン。そう来たか」

 

 小柄な体躯、栗色の長髪の両サイドを結わえ、右耳の黒い髪飾りが可愛らしく揺れる。海軍戦闘機隊アカデミー最優秀者に与えられる称号を持つ彼女の名前を聞き、サイファーは一瞬郷愁の念にかられる。

 

「じゃあマヤノちゃん、さっそくだが」

 

「ぶー! ちゃん付けだと子供っぽいからヤダ!」

 

「……じゃあマヤノ。昨日の覗き見の件はおそらくブライアンに咎められたと思うから、俺から言うことは何もない。今後注意してくれればそれでいい」

 

「あ、アイ・コピー……。すいませんでした」

 

 サイファーの言葉の直後、ブライアンからキツい視線を受けたマヤノが委縮しながら彼に謝罪する。それに頷きで応え、サイファーがマヤノを安心させるように笑みを浮かべる。

 

「君をここに招いたのは他でもない。何故ブライアンにアタックをかけていたのか? それが知りたいんだ」

 

「それは勿論、マヤもキラキラしたいからだよ! チームガルムのみんなみたいに!」

 

「キラキラ? 活躍していた、ということか?」

 

「そうだよ! リギルの時もそうだったけど、レースに出る度にみんな速くなっていって、誰よりも輝いてて。特に去年の有馬のブライアンさんたちの走り、今までみたどんなレースよりも違って見えたんだ! まるでターフの上を飛び回る戦闘機みたいでカッコよかった。だから私もガルムに入ればあんな風に速く飛べるって思ったの」

 

「でもそれはガルムじゃなくて、リギルだからできたことかもしれないだろ?」

 

「それはないよ。この前のスズカさんが見せた動き。あれって戦闘機のコブラ機動でしょ? しかもトレーナーさんは戦闘機のパイロットだったみたいだし。だからあんな風に走れるようになるんだなって、マヤわかっちゃたんだー」

 

 マヤノの言葉を聞き、ガルムのウマ娘たちの目が驚きで見開かれる。サイファーは動じず、冷静に質問を続ける。

 

「どうして俺が戦闘機のパイロットだと思ったんだい? スズカの走りは確かにコブラ機動から着想を得たが、もしかしたら単なるマニアなだけかもしれないぞ? 普段からフライトジャケットを羽織っているしな」

 

「それもないかなって。だって見た目だけじゃなくて、体付きもそうだもん。アタシのパパもパイロットだから似てるなって思ったけど、前に連れて行ってもらった航空ショーで見た時の軍人さんのほうがトレーナーさんに近かったから。でも一番確かだって思ったのは、さっきマヤの名前を言った時かな。トップガンって聞いた時、トレーナーさん表情が一瞬変わったでしょ? だから思い入れがあるんだなって感じたんだ」

 

 侮れない。サイファーの目つきが鋭くなる。

 

「……なるほどな。君のお父さんも戦闘機のパイロットなのかい?」

 

「違うよ。民間のパイロットだけど、やっぱり戦闘機もカッコいいよね! マヤ、憧れちゃうな♪」

 

 マヤノの無邪気な仕草に毒気を抜かれそうになるが、サイファーは彼女の観察眼に驚嘆していた。鋭いだけでなく瞬時に状況を分析し、彼の正体を捕捉してみせた。そんな彼女に敬意を表し、サイファーは彼女と真正面から向き合う。

 

「君の推察通り、確かに俺は戦闘機乗りだった。でも今はただのトレーナーだし、そのことであまり周囲にも騒がれたくない。だからそのことは、今は君の胸の中だけに留めておいてほしい。分かるね?」

 

「ラジャー! マヤ、ただ知りたかっただけだし、言い触らすつもりもないよ。でも、できればその時のお話を聞かせてほしいなぁって。何に乗ってたとか、どこで飛んでたかとか!」

 

「そうだな。君のことをもう少し教えてくれたら、話してあげられるかもしれないな」

 

「えっ。トレーナーさん、もしかしてマヤに興味津々なの! 中々隅におけませんなぁー。でもこんな素敵なレディが目の前にいたら、みんなメロメロになっちゃうよね♪」

 

 そう言ってマヤノが蠱惑的な表情でサイファーを見つめる。そんな仕草もできるか。サイファーが感心したようにマヤノを見つめ返すと、それが気に入らないひとりのウマ娘が舌打ちを漏らした。

 

「おい、トレーナー。いつまでそのガキとじゃれあっているつもりだ? さっさと本題に入ったらいいだろ。まさかロリコンというわけでもあるまいし」

 

「おやおや? ブライアン、まさかそんなチビッ子に嫉妬してるのかい? 天下の怪物様がトレ公に構ってもらえないからって、ずいぶん可愛らしいじゃないか?」

 

「……そういうアマさんは、この前トレーナーに差し入れるカレーの味付けで悩んだ挙句、私にどうすればいいのかと泣きついてきたよな。トレーナーに嫌われたくないからといってあそこまで取り乱すとは、ずいぶんゾッコンなようじゃないか?」

 

「ピェ!? おいアンタ、それはトレ公の前では絶対言うなって釘差したばっかじゃないか! 今この場でアタシとタイマン張ろうっていうのかい!」

 

「ちょ、二人とも少し落ち着いて」

 

 にやけ面でブライアンをからかったヒシアマが思わぬカウンターを食らい、一触即発の事態に陥りそうになるのをスズカが慌てて止めに入る。溜息を吐きながらそれを見つめるサイファーに、マヤノがカップをすすりながら声をかけた。

 

「うわぁ。このチームって結構にぎやかなんだね。マヤもこのチームに入ったら、毎日楽しく過ごせそう」

 

「それは、どうだろうな。改めて確認させてもらいたいんだが、ブライアンをマークしていたのは、やはりガルムに入りたかったからということでいいんだね?」

 

「うん。ブライアンさんならトレーナーさんと会わせてくれるかもしれないって思ったから。トレーナーさんってばこの前の選抜レースも来てなかったし、新人のスカウト活動もしてないんでしょ? だから我慢できなくなって、こっちからアプローチかけちゃった」

 

「なるほどな。事情は分かった。そのことに関しては申し訳ないと思っている。チームとしてはブライアンたちの強化を優先したかったし、立ち上げ直後でいきなりリギルのような大所帯にしたくもなかったしな。そのあたりに関して配慮が足りなかったのは俺のミスだ」

 

「でもそれってブライアンさんが阪神大賞典の出走をケガで回避したからでしょ? ブライアンさんのことを大事に思っているからこそ、他のことに手が回せなかったんだ。トレーナーさんって本当に優しいんだね。マヤ感激しちゃった!」

 

「……」

 

 本当にこの少女にはどこまでわかってしまうのか? 屈託のない笑みを浮かべるマヤノに度肝を抜かれながら、サイファーは担当ウマ娘たちに目を向ける。いつの間にかアームレスリングを始めたブライアンとヒシアマ、それをオロオロと見つめるスズカ。サイファーのこの世界における存在理由であり、一蓮托生のパートナーたち。そこに栗毛の彼女が加わればどうなるか? その光景をサイファーは見てみたくなっていた。

 

「君の気持ちは分かった。それでも、タダでこのチームに入れてやるわけにはいかない。実際、俺に声をかけてきた何人かのウマ娘たちのチーム入りも断ってしまっているからな。今更君だけを特別扱いすることはできないんだ」

 

「えっー!? いくら何でもそれはあんまりだよ! ウマ娘にだって入りたいチームを選ぶ権利くらいあるんだよ? そんな風に断られたら、誰だって納得できないと思いますけどー!」

 

 期待を裏切られた失望と怒りのまま、マヤノが不機嫌そうに頬を膨らませる。それをサイファーが手で制し、傍らのファイルから一枚の紙を取り出す。

 

「現状、チームガルムとしてスカウトはできない。次の選抜テストもまだ先だ。だが、チーム合同での特別トライアルなら話は別だ。そこで実力を示し、課題をクリアすれば、君を堂々とガルムの一員とすることができる。実戦で確かめさせてもらうぞ、マヤノトップガン。君がエースに足る存在なのか」

 

 そう言ってサイファーがテーブル上でロールさせた紙、理事長、生徒会承認済みの判が押された計画書をマヤノの前に置く。――戦力補強選抜計画4101。未来のエースが挑むべき関門の名がそこに記されていた。

 

 




いつもお読みくださる方々、感想を書いてくださる方々、誤字報告を送ってくださる方々、誠にありがとうございます。

エスコン側の世界のオリジナル展開でベルカのダブル変態との話を考えていたのですが、彼らがいつ頃からアグレッサーとして暗躍していたのかが分からないので、下手にサイファーと接触させると時代の矛盾が発生してしまいそうで怖い。

折角のエスコンとのクロス作品なので、そのあたりの小話も巧く物語に絡めていけたらな、と考えております。
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