よう相棒。まだ走れるか?   作:藤沢計路

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アプリ三周年で発表された新キャラがあまりに強烈だったため、思わず書いてしまいました。時系列としては未来のIFの話となります。


番外編:InFinity
El Dorado「Orfevre」


 この世界における最強のウマ娘とは何者だろうか?

 二ホンの三冠ウマ娘たち、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアンのいずれかか? あるいはトリプルティアラを戴冠したメジロラモーヌか? 無数の星たちの中で輝き続ける英傑たち。見る者によって、瞳に映る存在は幾多にも分かれる。

 だが、この世界における最強のトレーナーは何者か? と問われれば、誰もがみな彼の名を口にする。畏怖と敬意の狭間で生きたひとりの男。レースの歴史が大きく変わるたび、ターフにその姿を現した。

 ――そう、彼の名は……。

 

 

 

「円卓の鬼神。貴様には余のトレーナーとして傍に仕える栄誉をくれてやる。有難く思うがよい」

「…………は?」

 

 黄金色の栗毛を持つウマ娘の言葉に、サイファーは呆気に取られていた。

 プロジェクトL'Arc。二ホンのウマ娘によるフランス凱旋門賞の攻略。その一員として幾度となく勝利に貢献し、今年のレースでも成果を挙げてトレセン学園に帰還した。その直後に校門で彼にかけられた第一声がそれだった。出迎えに来てくれた見知った顔たちを押しのけ、彼の前に現れた彼女の姿をサングラスごしに観察する。

 

「威厳と自信、輝くような毛並み……。そうか、君があのオルフェーヴルか」

「左様。余こそがこのトレセン学園最強のウマ娘。覇道を征く絶対強者の王である。しかと目に焼きつけるがよい」

「なるほど。噂に違わぬ、プライドに満ちたウマ娘だな」

 

 腕を組みながら宣言する金細工に、サイファーは合点がいったように首肯する。担当ウマ娘と共に渡欧し、調整に励んでいた時も、彼女の評判は二ホンのトレーナー仲間から聞かされていた。天上天下唯我独尊。入学時から圧倒的な実力とカリスマを発揮し、彼女を信奉して傅く生徒も存在する。

 荒々しく輝かしい。その様相を見た人々は彼女をこう形容する。――"暴君"と。

 

「それで? その王様とやらが、何故わざわざ俺を従えようとするんだ? 俺の記憶が正しければ君はすでにデビュー済み。トレーナーと契約はしていないようだが、大層な活躍ぶりだそうじゃないか? そんなご高名な御仁が、いちトレーナーごときに割く時間などないように思えるんだが?」

「ほう? 余を前にして戯言ととは、話通り肝が据わっているのだな。今余の前に立つ、いちトレーナーの功績は誰もが知るところだと記憶しているが。クラシック三冠。トリプルティアラ。凱旋門連覇。それだけでなく四階級制覇をも成し遂げた。それほどの逸材を見逃すほど、余は愚かではない」

「買い被り過ぎだな。俺の仕事はウマ娘を勝たせることだ。ただ職務を遂行しただけだし、さっき君があげた功績も、組んだウマ娘が強かったから達成できた。その結果に過ぎない。誰でも、と言うつもりはないが、俺以外にも優秀なトレーナーは在籍している。ただ箔を付けたいだけなら、他所を当たってくれ」

「貴様! 我らの王に向かって無礼だぞ!」

 

 サイファーの物言いに、オルフェーヴルのまわりに侍っていた信者たちが抗議の声をあげる。

 

「……静まれ、たわけ共が。余と奴との対話を邪魔するでない」

 

 オルフェーヴルの一喝が彼女たちの怒りを静め、サイファーの方に向き直って口角をつり上げる。

 

「なるほど、面白い。貴様、余を栄誉に飢えた二流と評するか?」

「いや、間違いなく一流、最強を名乗るに相応しい逸材だ。体付きがデビューしたてとは思えない程しっかりしている。磨けば、君の言う覇道を切り拓くこともできるだろう」

「よく分かっているではないか。流石、鬼神と呼ばれるだけのことはある。だからこそ、余には貴様のような存在が必要なのだ。完全無欠である余を唯一殺しうる、その力がな」

 

 オルフェーヴルの瞳がサイファーを見据える。増長も誇張もない、宝石のように純粋な意思が伝わってくる。その意図をはかりかねながら、サイファーも誠意をもって彼女に応える。

 

「……正直に言わせてもらえば、俺は王を支えるより、王を仕留める刺客を育てるほうにやりがいを感じるんだ。トレーナーになる前も、なった後も。相手を完膚なきまでに叩き伏せる。俺の今までやってきた仕事は、覇道と言うより破壊と言ったほうが正しいかもな」

 

 ベルカ戦争。彼が傭兵として存在していた、元いた世界での戦い。蒼い翼のF-15C、イーグルを駆って敵の防空兵器である超高層レーザー兵器、"王の剣"、エクスキャリバーを粉砕し、アヴァロンダム要塞、"王の谷"に潜む核ミサイルサイロを根こそぎ喰らい尽くした。

 はからずも遠い過去となった出来事を思い返し、内心で郷愁に焦がれる。もう還ることは叶わない。割り切ったつもりでも、ふとしたきっかけで記憶が蘇ってしまう。

 

「ふむ。王を殺す、か。それは貴様が戦ってきた者たち、シンボリルドルフやテイエムオペラオーのことを言っているのか? 確かに、貴様とガルムのウマ娘たちの脚は奴等の威光を遮る剣のように鋭く、研磨されていた」

「懐かしいな。そう言われると、俺は王という存在に所縁があるのかもしれん」

 

 彼の過去を知る由もない、オルフェーヴルの言葉にサイファーが思わず微笑む。皇帝に覇王。彼女たちとの勝負もまた、トレーナーとしての鬼神を形作った軌跡の一部だった。ターフと言う名の円卓での戦い。彼の強さ、翼を受け継いだ怪物と一等星がそれぞれとしのぎを削り、レースの歴史に蹄跡を刻んだ。

 

「つまり、余とも由縁があるということだ、円卓の鬼神。王をも喰らう魔犬。絶対の強さにも綻びがあることを貴様は知っている。だからこそ我が覇道に潜む万が一、億が一の敗北も嗅ぎ分けることができる。クラシック三冠、凱旋門、それらを我が手中に取り戻す。そのための強さを示すためにも、余は貴様を手懐けねばならんのだ」

 

 その言葉にサイファーが意外そうな顔を浮かべ、周囲のウマ娘たちの一部も驚いたように目を見開く。オルフェーヴルは自分に絶対の自信を持っている。相応の実力が備わっているのも、自他と共に認める事実だった。その彼女が素直に敗北の可能性を認め、他者に助力を求めている。

 面白い。初対面では、己の力に酔いしれていると感じていた。彼女の評価を改める。太陽のようにまぶしく、堂々と輝く。そんな暴君の在り様に興味を持ち始めていた。それでも一時の感情で即決するほど、彼の矜持は軽いものではない。

 

「君の言い分は理解した。だが、ひとつだけ言わせてもらうとすれば、絶対の勝者なんて存在しない。例え俺や君が最強だったとしても、相手が格上だろうと格下だろうと、いつだって負ける可能性はある。万が一、億が一の格率以上にだ」

「ほう? 最強の者が勝つとは限らないと言うのか?」

「そうだ。レースには、円卓には、上座も下座もない。条件は皆同じ。学年も所属も関係ない。交戦規定はただひとつ」

 

 ――勝利に向かって走れ。

 

 幾度となく口にしてきた言葉を、目前の金細工にぶつける。エリアB7R。戦闘機乗りたちの舞台。そこでのルールと経験が、サイファーが率いるウマ娘たちのレースにも継承されている。

 

「っ!? ……そうか。それが円卓の鬼神の、ガルムの番犬たちの強さの源か。確かに重く、余の心にもよく響いた。先ほどの言葉、胸に刻ませてもらうとしよう」

 

 積み重ねられた軌跡。飛行機雲のように長く、儚いものだからこそ、飛び走ってきた者たちの記憶に残り続ける。サイファーが目にしてきた光景、その一部をオルフェーヴルも確かに感じ取った。

 

「随分話し込んでしまったな。後ろの連中も待ちくたびれてるようだ。理事長にも会いにいかなきゃならないし、今日のところはこれで勘弁してくれ」

「うむ。ならば早く行くがよい。余の話は済んだ。貴様の答えは後で聞かせてもらおう。……それと、凱旋門賞での活躍、見事であった。貴様が在ってこその勝利、誇るがよい」

「それはあいつに言ってやってくれ。あいつが頑張ったから、俺たちはあそこにスミレの花を咲かせることができたんだ。……じゃあな、暴君。近いうちにまた会おう」

 

 サイファーが目配せした先、ニット帽を被ったウマ娘がバツが悪そうに舌打ちした。それを彼女の傍にいたマスク付きのウマ娘と、ウェーブがかかったボブカットのウマ娘がからかい、様子を見ていた黒い鹿毛のロングヘアーのウマ娘も笑みを浮かべる。サイファーも彼女たちの輪に加わり、それに乗じて他のウマ娘たちも彼の元に向かった。

 この世界でトレーナー、英雄として再誕した円卓の鬼神、サイファー。またひとり、歴史に名を刻むウマ娘が彼と交わろうとしている。

 

 

 

 それを赤い耳飾りのウマ娘が静かに見つめていた。

 

 

 




最後に出てきた彼女の話も、機会があれば書く所存です。
ウマ娘の世界でヴィルシーナとどのような物語を刻むのか、今から楽しみです。
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